2019年11月1日金曜日

売買チェック

・シンクロ・フード。持ち株の1割を売却。損益-42%。
業績が頭打ちだと思ったから。

持ち株チェック

保有比率の高い順に見ていく。

■弁護士ドットコム
基本シナリオ:法律分野をITで変革し最強のプラットフォーマーに
10月に三井住友とSMBCクラウドサインを設立し、クラウドサインのテレビCMを開始。これでクラウドサインの信用度と知名度が高まり、いよいよ契約のパラダイムシフトが本格化しそう。10/31の日経に中国の電子契約について「大企業を中心に利用者数が爆発的に増えたことで、電子契約システムは各業界の基幹インフラになりつつある。」とあったが、クラウドサインもこの基幹インフラとやらになってくれればと思う。今後3年の予想売上高成長率は年率35%程度。現在の企業価値は将来の予想利益などを勘案すると800~1300億円(株価3600~5800円)くらいか。2030年の予想時価総額は1兆円。

■シンクロ・フード
基本シナリオ:市場独占型プラットフォーマーではないので利益成長は厳しそう
全国求人情報協会によると、9月の飲食店スタッフなどのサービスの求人広告掲載件数は前年同月に比べて19.5%増になるとあったが(11/1日経)、シンクロの掲載件数増加率は1.5%になり、市場成長率を大きく下回っていることがわかった。これはシンクロの求人プラットフォームが市場独占型ではなく、ネットワーク効果がうまく働かないためかもしれない。今はインディードのような無料の求人広告サービスもあるのでシンクロの求人サービスは頭打ちになりそうだと思った。ちなみにインディードの求人広告掲載件数の増加率(東京と大阪のみ)は前年同月比27%だった。

それと先々月にブログで「この会社は投資家に対して気の利かない対応をするが、顧客に対しても気の利かない対応をするのではないか」みたいなことを書いたが、『カイシャの評判』に元社員の口コミがあり、「どんなモチベーションで働いているのかは不明だが「顧客ファースト」の精神がある人間には絶対に向いていない」とあった。やはりここら辺にも問題があるように思った。今後3年の予想売上高成長率は年率5~15%。営業利益成長率は年率-5~5%。今後1年の予想平均株価は400~600円。

業績に最もインパクトのある求人広告掲載数を記録していく。関東 2380(2339)
関西 747(685)  東海 336(307)  九州 98(107)  北海道・東北 72(144) 総計 3633(3582)
市場独占型の求人プラットフォーマー・インディードの掲載数も記録していく。東京都の飲食店 99197(79902) 大阪府の飲食店 40077(29653)
*( )内は前年同月

■ペプチドリーム
基本シナリオ:ペプチド創薬で最強のプラットフォーマーに
10/13日の日経にブリストル・マイヤーズがPDPSで開発している薬についての記事があった。記事によると、この薬は高額薬オプジーボを低額薬に代替するだけでなく、副作用を低減したり、経口薬にできる可能性もあるという。この薬はまだ臨床試験の第1層が終了した段階だが、もし上記3つの条件をクリアできれば、臨床試験のファストトラック(優先審査)が適用され、上市のタイミングが早まるかもしれない。*ファストトラックでは第3層の臨床試験が省かれる。
今後3年の売上高成長率は年率20%程度。現在の企業価値は将来の予想利益などを勘案すると6000~8000億円(株価4800~6500円)くらいか。2030年の予想時価総額は5兆円。

■朝日ネット
基本シナリオ:ストックビジネスで地味に成長&株主還元
朝日ネットの回線を使用している会員数のIRがあったが、前四半期からほぼ横ばい。今後の成長ドライバーはIOT回線や外部企業への回線貸し出しになりそうだが、そこらへんの数字も公表してほしいと思った。今後3年の予想売上高成長率は年率6%程度でEPS成長率は年率15%程度。2019年の予想平均株価は650円(変動率±20%)。

■厳選ジャパン(投資信託)
基本シナリオ:ビッグチェンジ銘柄投資でテンバガー達成
上位10銘柄にエデュラボが初登場。しかし今日、懸念していた大学入試共通試験の民間英語試験の延期が決まり(11/1日経)、エデュラボはストップ安に。新たな英語試験は24年度から導入するとのことで(民間試験を使うかは不明)、エデュラボの成長ドライバーが1つなくなってしまった。しかしこれで不透明感が払拭され来期の見通しが立てやすくなったので、11月の本決算資料を見ながら新たな成長ストーリーを考えていこうと思う。エデュラボの今期の業績は民間英語試験がない状態でも急拡大しているので成長力はまだあるように思う。この投信の今年の予想基準価額は11000円(変動率20%)。

■パーク24
基本シナリオ:最強のカーシェア・プラットフォーマーに。海外の「空港」駐車場事業は効率化しにくいので期待薄。
この会社は今後も着実に成長していくとは思うが、業績の伸びが物足りないと感じ始めた。今のような難しい地合いでは持っていて安心感があるが、もう少し勢いが欲しいと思った。チャート的にはゴールデンクロスを形成し上がりそうな雰囲気。しかし上値には売り玉が大量に残っているので需給的には上がりにくそう。今後3年の売上高成長率は年率5%で利益成長率も5%程度。2019年の予想平均株価は2400円(変動率20%)。

■今後の計画
日経レバETFは、日経平均が23500円になったら売却する。
シンクロフードは毎月1割ずつ売却していく。600円になったら全て売却する。
朝日ネット、パーク24は考え中。
弁護士ドットコム、ペプチドリーム、厳選ジャパンは長期で保有する。

1ドルが110円になったらドルを売る。
日経平均が24000円になったら日経インバースETFを買う。
市場が大幅調整したら優良銘柄を買う。

今後は「日本円」が強そうなので、基本的には現金ポジションを増やす方向でいく。

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:1.3%~2.3%の間で推移

長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今後は両者とも低下傾向になる。米国の2018年の経済成長率は2.9%、2019年は(予)2.4%、2020年は(予)2.1%で、インフレ率は2018年が2.4%、2019年は(予)1.82%、2020年は(予)2.27%になる。貿易戦争が激化した場合、経済成長率は下振れし、物価には上昇圧力がかかる。
*数値はIMF予想

・金融政策↑
インフレ率が2%を下回り始めているので、FRBは7月に金融緩和に転じた。現在の政策金利は1.50~1.75%だが、政策金利の先行指標である米2年物国債利回りは1.52%なので、利下げはいったん打ち止めになりそう。今回の利下げは、景気後退に陥ってからの利下げではなく、将来の景気減速に備えた予防的な利下げなので、景気浮揚効果により長期金利には上昇圧力がかかる。

FRBは10月から短期金融市場の資金不足(短期金利の急上昇)を解消するため、短期国債を月6兆5千億円のペースで買うことに決めた。これは長期国債などの資産を購入する量的緩和とは異なるが、市場に出回る資金量が増えるため、長期金利にも若干低下圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争が一時停戦に向かいそうなのでリスクオンになりつつある。

・財政赤字の拡大↑
米政府は財政支出を拡大しており、今後も年金や医療、福祉などの社会保障費が税収の伸びを上回って増加していきそうなので、長期的に財政赤字の拡大は続きそう。2018年の米国の財政赤字額は100兆円を超えており、この水準は当面続く見込み。

・米国債の人気低下↑
米10年国債の利回りは先進国の中では相対的に高いので海外から買われやすいが、足下では為替ヘッジコスト(2.2%?)が米長期金利(1.68%)を上回っているので、海外からの米国債の購入は減少しつつある。双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)の拡大も人気低下の要因になる。
*ヘッジコストとは外貨の短期金利と運用国通貨の短期金利の差から生じるコスト

・トランプ大統領の介入↓
低金利好きのトランプ大統領はFRBへの口先介入のみならず、FRBへ緩和派の人間を送り込むなどして金融緩和圧力をかけ続けている。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れも減少している。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率が長期的に低下傾向にある。

投機筋の持ち高
足下では売り越しが減少傾向にあるので、投機筋は長期金利が上昇するとみている。

・チャート→
いったん底打ち。Wボトムを形成しそう。上値は2.3%あたりになりそう。


■WTI原油 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:45ドル~70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦は60ドル、ロシアは45ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。

・トランプ大統領の介入↓
トランプ大統領は低インフレ(低金利)と株高を切望しているので、原油価格の上がりにくい政策をとる。トランプ大統領の介入ラインはおそらく65ドルあたりになる。

・需要↓
原油の需要予測はIMFの世界経済成長率予想などをもとにつくられるが、その予想成長率は好不況の分かれ目である3.0%まで低下している。

WTI原油先物価格は米ISM製造業景況指数と連動しやすいが、同指数は10年ぶりの水準まで落ち込んでいる。

中長期的には景気後退や温暖化対策(再生エネルギーへのシフト)、脱プラスチック運動など需要を抑制する要因もあるが、人口増や世界経済の成長に伴い原油消費量は増加基調になる。IEA(国際エネルギー機関)によると石油需要は2040年まで拡大を続ける見通し。

・供給↑
イランやベネズエラの供給が減り、OPECとロシアが協調減産してるので足下で供給はしまりつつある。OPECは世界景気後退を懸念して少なくとも2020年3月末までは協調減産を続けることを決めている。

長期的には原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより、新規の油田開発が停滞気味なので、将来の供給不安は残る。
*現在ESG(環境、社会、企業統治)の観点を考慮しない企業は評価しないという流れになってきている。地球温暖化につながる化石燃料は環境リスクが高く、2019年3月には世界最大の政府系ファンド・ノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外すという方針を示している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
米国は2019年1月にベネズエラ国営石油会社への制裁を決定した。ベネズエラの産油量は投資不足などもあり著しく低下している。

リビアで内戦が激化している。生産設備の被害や輸送の寸断で一気に生産量が落ちる可能性がある。

米国は5月にイラン産原油を全面禁輸することに決めた。イランは対抗措置として原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡(世界の石油タンカーの2割が通過)を閉鎖すると警告していたが、5月に入りさっそく通過するタンカーなどへの攻撃を始めた。その後もゴタゴタが続いており、9月にはサウジの石油施設が新イラン武装組織フーシから大規模な攻撃を受けた。サウジの供給減少分は備蓄分や他国の増産で補えるようだが、今後しばらくは原油価格にリスクプレミアムが上乗せされそう。*サウジはすでに生産量は回復したと主張しているが、コアな石油処理施設を破壊されているので嘘っぽい。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。地合いは若干リスクオンに傾きつつあるが、中東情勢の緊迫がリスクオフ要因になる。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

投機筋の持ち高
買い越しポジションは横ばい傾向。投機筋は今くらいの水準で落ち着くとみている。

・為替↑
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかるが、ドルはほぼ頭打ちの状態なので、今後は原油価格に徐々に上昇圧力が加わってきそう。ドル安になると新興国の輸入が増えやすくなるのでこれもまた上昇圧力になる。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、ドル安(円高)が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまる。硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかると言われている。

・チャート→
短期では横ばい。中期では三角持ち合いを形成して上がりそう。長期では下降トレンド。


■ドル円 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:100円~110円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、今は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融引き締めから緩和に転じつつあるので、徐々に円高圧力が高まりそう。

ただドル円相場と相関が高い日米長期金利差は、米国の「予防的利下げ」による景気浮揚効果により米長期金利が上昇し、拡大している(円安要因)。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争がいったん落ち着きそうなので、リスクオンに傾きつつある。

*リスクオフになった場合のドル円の基本的な動きついて。まず条件反射的に円が買われる。そこからさらに不透明感が強まればキャリー取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こる。本格的なリスクオフまで発展すると対外資産の引き上げ(投資撤退)と、その思惑による円買いが起こる。
 *キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り高利通貨を買って金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ足下では円以外のユーロやドルも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。
 *日本が持つ対外純資産は世界最大の340兆円になるが、そのうち資産の引き上げが起こりやすい証券投資の割合は3割程度(100兆円)になる。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。
2018年の対外直接投資は15兆円程度と高水準だったが、日本企業の海外M&Aに1年半先行する世界製造業PMI(購買担当者景気指数)は2017年12月にピークアウトしているので、日本企業による海外M&Aもいったんピークアウトしそう。米中貿易戦争による貿易環境の不透明感も対外投資減速の一因になる。
*今年1月~6月の海外直接投資額は13兆6千億円。
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、為替差損回避(ヘッジ)付きでも高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。国内の超低金利は当面続きそうなので、今後も対外証券を積み増していく可能性が高い。
*足下では世界的な金利低下により外債の利回りも下がっているので外債購入が減りつつある。

日本の対外証券投資は年によってばらつきがあるが、平均すると年10兆円程度の買い越しになる。今後は異次元緩和前の比較的高い利回りで購入した国内債権の償還が始まるが、戻ってきたお金は国内債への再投資ではなく、外債に回る可能性が高い。2019年の償還額は47兆円になる。
*今年1月~9月の海外証券投資は18兆円超。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている(円高圧力)。
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。

・経常収支→
まずは貿易収支について
中期的には、輸入額の4分の1(20兆円)を占める原油・天然ガス価格がやや高止まりしているので貿易収支が徐々に悪化していきそう。長期的にも、スマホや医薬品などの輸入が増加傾向で、生産の海外移転などにより輸出の伸びが鈍化傾向なので貿易収支は悪化していきそう。2018年の貿易黒字額は1兆円になる。
*貿易ではドル決済が圧倒的に多いため、実需では年間7兆円くらいのドル不足が発生すると言われている(7兆円くらいの円売り圧力がある)。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは半分(10兆円)程度しか発生しない。

・投機筋の持ち高→(「円 投機的ネットポジション」で検索)
足下では売りと買いがほぼ均衡している。投機筋は今くらいの水準で落ち着くとみている。
*円を買い持ちした場合、スワップポイント(金利差収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションは短命で終わることが多い。

・日米の経済成長力↑
資金は景気の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などの資産価格を押し上げるが、基本的には日本経済よりも米国経済のほうが景気が強いのでドルが買われやすい。米経済にも減速感が漂い始めたが、デジタル革命の牽引役は米国なので、今後も米ドルが買われやすい状況は続きそう。

購買力平価
ドル円の購買力平価は95円程度なので、円の下限は75円、上限は115円程度になる。米国の方が慢性的にインフレ率が高いので、購買力平価は長期的な円高傾向にあるが、米国のインフレ率は年々低下して日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

・米財政赤字の拡大↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、この水準は今後もしばらく続きそう。近い将来、米国債を消化するために大量のドルが発行される可能性が高い。

・米経常赤字の拡大↓
米国では経常赤字が10年ぶりの水準まで悪化しており、貿易赤字を解消するため、または不足する資金を海外から調達するために、プラザ合意のようなドル高是正策をする可能性がある。

・日本の財政赤字の拡大↑
日本の累積財政赤字はGDP比200%を超えており、今後も社会保障費の増大により財政赤字は拡大していく可能性が高いので、円離れがすすみそう。日本も米国同様、日本国債を消化するために大量の円が発行される可能性が高い。

・チャート→
短期では上昇トレンド。中期・長期では下降トレンド。


■日経平均 (保有資産:日経レバETF)
今後1年の予想レンジ:19000~24000円で推移
日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需給↑
日銀が日本株を買いまくっているので日本株は下がりにくい。日銀の買越額は年間6兆円規模になるが、他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(詳細は「長期計画チェック」)、残りの売り玉はすべて日銀が吸収してくれそう。

 <2019年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行、金融政策により3~6兆円の買い越し。現状は3兆8千億円の買い越し。
 事業法人、自社株買いにより3~4兆円の買い越し。現状は3兆5千億円の買い越し。
 海外投資家、世界景気後退懸念により2~4兆円の売り越し。現状は2兆3千億円の売り越し。
 個人投資家、相続に伴う換金売りで1~3兆円の売り越し。現状は2兆6千億円の売り越し。

・EPS(1株利益)→
日経平均株価は基本的にEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まるが、2018年のEPSは-3%、2019年は(予)0%、2020年も(予)0%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気→
日本企業は海外で6割を稼いでいるので、海外景気の影響を大きく受けるが、IMFは2019年の世界経済成長率を3.0%、2020年を3.4%と予想しているので、日本企業の業績もそこそこ堅調に推移しそう。

・失業率↓
失業率が最低水準まで低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率は最低水準(2.4%)にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫される。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
米中貿易戦争激化によりリスク選好度は低下傾向。日経平均のPERは基本的に11~16くらいの間で推移するが、現在のPERは12.97になる。貿易戦争によるリスクオフやEPS下振れ懸念があるので、このくらいの水準が妥当なのかもしれない。

・金余り↑
市場にお金があふれると資産価格は上昇するが、今後も金融緩和は続きそうなので株価は下落しにくそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは8%超で配当利回りは2%超と、日本国債の利回り-0.1%より高いので、株式に資金が流れやすい。

投機筋の持ち高
売り越しは微増。投機筋は今後日本株が少し下がるとみている。

裁定売り残高の方は、買い残高と逆転し、高水準の1兆3000億円まで積み上がっているが、9/6につけたピークの2兆円からは減少傾向にある。投機筋は日本株が下がるとみていたがそれを若干調整している。
*裁定残高について。平時は売り残高よりも買い残高が多いのが普通。裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」の水準になる。現在の裁定買い残は5700億円と売られすぎの水準。

・チャート→
短期では上昇トレンド。中期・長期では横ばい、もしくは上昇トレンド。
需給的には23000円を超えると戻り売りが減り、上がりやすくなる。

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■ファンダメンタルズ
<EPS成長率>
・世界株式の2018年のEPS増加率は15%、2019年は8%。
・米国株式の2018年のEPS増加率は22%、2019年は0%。
・欧州株式の2018年のEPS増加率は5%、2019年は3%。
・日本株式の2018年のEPS増加率は-3%、2019年は0%。
参照:9/7日経9/8日経など
→問題なし

<経済成長率>
・世界の2018年の成長率は3.7%、2019年は3.0%、2020年は3.4%。
・米国の2018年の成長率は2.9%、2019年は2.4%、2020年は2.1%。
・中国の2018年の成長率は6.6%、2019年は6.1%、2020年は5.8%。
・ユーロ圏の2018年の成長率は2.2%、2019年は1.3%?、2020年は1.5%?。
・日本の2018年の成長率は1.1%、2019年は0.9%、2020年は0.5%。
*IMFの予想。参照:10/16日経など
*IMFは5四半期期連続で下方修正している。IMFは7月に「貿易政策が解決しなければさらに下振れする」と言っている。
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。

2017年頃から世界同時成長が起きており、このような状態は通常2,3年続くという。ただしこのような世界同時成長は景気サイクルの終盤に見られる特徴的な現象とも言われている。米ピムコは2019年に世界経済の同時減速が始まると予想している。

世界同時成長は海外で6割を稼ぐ日本企業には追い風になるが、その反面、海外の景気後退期は日本企業にとって強い向かい風になる。このような経済構造に円高効果が加わり、日本株は米国株の1.5倍くらい下落する。
→問題なし

<インフレ>
・米国の予想インフレ率は2018年度が2.4%、2019年は1.82%、2020年は2.27%
・欧州の予想インフレ率は2018年度が1.5%、2019年は1.2%?、2020年は1.5%?
・日本の予想インフレ率は2018年度が0.98%、2019年は0.99%、2020年は1.30%
*IMFの予想。参照:世界経済のネタ帳

中央銀行の責務の1つは「物価に安定」になるが、中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行うことになる。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性が高い。
→問題なし

<金利>
・米国の2年金利は1.52%で10年金利は1.69%。
・日本の2年金利は-0.26%で10年金利は-0.18%。
*米国の2年金利が10年金利を上回ると平均18ヶ月後に景気後退に陥るといわれるが、2019年8月にその2つが逆転した。現在は逆転が解消され金利差は0.17%。
*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)が-0.13%まで低下しているので、米株には割安感が出ている。
→問題なし

<債務>
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる。GDP成長率に比べ、債務残高の拡大ペースの方が速いので行き詰まるのは時間の問題になる。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
*米企業の債務残高は2011年のGDP比65%から2019年には過去最高の73%まで上昇している。一方で米家計の債務残高は2007年のGDP比97%から76%まで低下している。5/23日経
  *今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かすだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。政府債務においては、今のように国債金利が名目GDP成長率を下回っている状態だと、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できる(日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。*2018年の日本の財政赤字は対GDP比で3.21%。参考:10/7日経10/8日経
 *足下ではレバレッジド・ローンと呼ばれる高リスクの貸し出しが増えている。
 *先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる。7/19ダイヤモンド
*中国の企業・家計債務は危険水準に達しているが、2018年に習政権は経済の筆頭課題に金融危機封じ込めを据えていたので(2018年中盤から景気重視に転換)、しばらくは心配しなくてもよさそう。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は、可処分所得に対する家計債務比率が日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、今後深刻な消費不振に陥る可能性が高い(7/28日経)。ただ8月16日に中国政府が「2019年と2020年の個人の可処分所得を押し上げる政策を実施する」といっているので、当面は大丈夫そう。
*新興国は米国の金融引き締めなどで通貨安・高インフレ・高金利になり、債務圧縮局面に入りつつあったが、米国が金融緩和に転じ、新興国のインフレ率は中銀のターゲット内に収まっているので足下では落ち着いている。
→問題あり

<金融政策>
・米国は7月に金融緩和に転じた。
・欧州も9月に金融緩和に転じた。
・新興国も米金融緩和を受け緩和に転じつつある。
・日本は金融緩和を継続しているが限界に近づきつつある。日銀によると2020年4月頃までは現状の緩和水準を維持し、その後も長期で緩和を続けるとのこと。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率がさらに落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作るという一面もある。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*米国ではトランプ大統領がFRBに金融緩和圧力をかけているが、これを続けているとジョンソン大統領やレーガン大統領のときの二の舞になる可能性がある。ジョンソン大統領のときはニクソンショック、レーガン大統領のときはプラザ合意というドルショックが起きている。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。10/7の日経によると財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できるという。このような投資に該当するものは出生率向上策や気候変動への取り組みなどになる。ただし、今のような完全雇用の状況では労働力不足でこのような需要喚起策は打てない。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ないように思う。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかなさそう。
→問題なし

<政治>
・日本は安定。19年の消費税引き上げは株式市場の鬼門になると思っていたが、政府の大盤振る舞い(支援給付金、軽減税率、教育無償化、補正予算)や携帯料金引き下げなどにより、消費増税の負担を相殺・超過しそうなので問題なさそう。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・香港ではデモが続いているが、これはもしかすると中国民主化への序章になるかもしれない。ウイグル自治区では中国の思想を植え付ける100万人規模の再教育施設があるようだし、中国の監視・信用格付け社会では社会的弱者の不満が高まっているようなので、中国に経済ショックのような大きな打撃が加われば、一気に民主化の機運が高まっていく可能性がある。
・英国のEU離脱問題は相変わらずの泥沼状態。(離脱関連のニュースは見る気がしないので詳細は不明)。
・英国のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっているもよう。しかし失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
→問題あり

<その他の景気後退シグナル>
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はまだ上昇トレンドが続いている。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は47.8と2ヶ月連続の50割れ。同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える可能性が高まると言われる。一方で今の経済成長の牽引役である米ISM非製造業指数は52.6と適温圏内。
・失業率が最低水準まで低下すると企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになるが、米国の失業率は歴史的に低い水準(3.5%)にある。米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われているが、現在はまだ低下している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、今がまさにその状態。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は景気がピークアウトするかどうかの分岐点にある。
・世界景気を半年先取りするOECD景気先行指数は低下が続いており、節目の100を下回っているが、この指数よりさらに先行性のあるOECD中国景気先行指数や中国製造業PMIは下げ止まりつつある。*とはいえ、中国製造業PMIは6ヶ月連続で50割れしているが。・・中国ではデフォルトが増え始めるのかもしれない。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは「問題なし」の水準で落ち着いている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれるが、今はまだ「長短金利の逆転」だけ。
・起こり得ない衝撃的な事象の発生を織り込むSKEW指数(ブラックスワン指数)は130まで急上昇している。
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多いが、今は「4,利上げ打ち止めを好感した反発」局面に入りつつあるので、いったん上がりそう。
→問題なし

■テクニカル
・チャート
先進国株はもう一段上がりそうな感じ。
→問題なし

・ディストリビューション・デー(機関投資家の売り抜け日)
日経平均 1日
NYダウ 5日
ナスダック 4日
→問題なし

・騰落レシオ
日経平均 119
NYダウ 113
ナスダック ?
→問題なし

・信用評価損益率
ー11.64 %
→問題なし

■まとめ
問題なし10件、問題あり2件、中期的な危険度:40%、1年以内に米国が景気後退に陥る確率:55%、1年以内に中国の債務バブルが破裂する確率:10%、投資判断:様子見
*景気後退とはGDPが2四半期連続でマイナス成長になること。

金融相場(業績停滞 × 金融緩和)がしばらく続きそう。

長期計画チェック

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

現時点の予想では2020~2021年頃に景気後退期に入るとみている。ただ今回の景気拡大期は低成長・低金利の中で浅く長いものだったので、景気後退期も浅く長いものになりそう。・・もしくは、今後はデジタル革命と低金利が続きそうなので、浅い景気後退期の後に穏やかな景気拡大期が長期で続く、という展開になるかもしれない。

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過去の景気後退に共通するパターン:米国の長短金利が逆転した後(もしくは利上げ停止後)、1,2年してから日本株が50%超下落。

2018年12月に長短金利が逆転し、利上げも停止されたので、今後1,2年以内に景気後退に陥る可能性が高くなってきた。ただ今回の利上げ停止ポイントは過去の水準(5%超)と比べてだいぶ低く(2.5%)なりそうなので、景気後退は比較的穏やかなものになるかもしれない。
*政策金利2.5%とは、景気をふかしも冷やしもしない中立金利(2.75%)よりも低く、実質政策金利(名目政策金利-インフレ率)も0.5%と低いため、かなり緩和的な水準になる。
*今回の長短金利の逆転は従来のものとは成立パターンが異なる。過去のパターンは高インフレによって押し上げられた短期金利が長期金利を上抜いているが、今回は低インフレ下でFRBの利上げ停止によって下がった長期金利が短期金利を下抜いている。
*今回はFRBが量的緩和をして長期国債をたくさん買っているので、長期金利の水準は元から低かった。

上記以外にも景気後退や株価下落を穏やかにする要因がいくつかあるので、それらを列記していく。
・世界中でデジタル革命が進行中なので経済成長が持続しやすい。
・リーマンショックの記憶がまだ残っているため、皆慎重になっている。
・バブルは借金をして資産を買いまくることによって生じるが、今回そのような現象はあまり見られない。・・と言われていたが実際は超低金利が長期にわたり続いているので、順調にバブル(GDP成長率 < 債務増加率)は醸成されていたもよう。ただ、その速度は比較的穏やか。
・今のような低成長、低インフレの状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(債務バブルが破裂しにくい)。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機(信用収縮)は起こりにくい。
 *金融危機(信用収縮)、つまりクレジットの消失が起こらなければ、金余りの状態が続く。*クレジットとは世の中に流通する大半のお金のこと(参照)。
 *中国の不動産にはバブルの兆候がある。ただし中国政府の需要抑制策により、日本のバブル期ほどの過熱感はない。
 *中国で最も大きなバブルはシャドーバンキング商品(銀行理財商品、委託融資、信託商品)への投資になる。これらの投資は過熱感が強く、2017年末の残高は1000兆円とGDP比8割の規模になる。
 *バブル崩壊の仕組み。景気後退や金利上昇などにより株式や不動産などが売られはじめると、資産価格が上昇することを前提として資産を買っているバブル系投資家が資産の投げ売りを始め、資金の逆回転が起こる。

・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。
・中国は独裁体制のため、不況に陥るとすべての批判が指導部に降りかかる構造になっている。そのため指導部はなんとしても不況を起こさないようにする。
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。
・トランプ大統領の再選には株価の維持もしくは上昇が最低条件になるので、株価が下がりにくい政策を採る。
・先進国のインフレ率は慢性的に2%を下回りつつあるので、今後も長期で金融緩和が続きそう。
・先進国の中銀はインフレターゲットを2%に設定しているが、現在のようなインフレが起こりにくい環境でインフレ2%を達成・維持するには株高のような資産価格の維持・上昇が不可欠になる。そのため中銀は株式市場に優しい政策をとらざるを得ない。
・中銀が量的緩和をして国債などの資産を大量に買っているので資産価格は下がりにくい(金利は上がりにくい)。中銀が資産売却を進めれば資産価格は下がるが、今のところそれを進める気配はない。足下では資産購入を再開しそうな雰囲気すら漂っている。
・金融緩和により過剰な金余りが続いている。米メリルリンチによると2019年2月の機関投資家の現金保有比率は2009年1月以降で最も高い水準になる。
・先進国では株式以上に債券が割高なので、株式に優位性がでやすい。
・日本株に限れば、日銀のバックアップがあるので下がりにくい。
 *ただし日銀のバックアップがあるからこそ投資家が売ってくる可能性もある。1995年に為替が1ドル80円を突破したとき、日銀が「もうこれ以上無理だ」とドル買い介入をやめたら底打ちしたという。市場参加者はドルを売る相手がいなくなり、買い戻しを始めたらしい。2016年の半ばから日銀は日本株を年間6兆円ベースで買い始めているが、2016年に個人と海外が6兆9千億円、2017年に5兆1千億円、2018年に6兆円、2019年に入りすでに4兆9千億円を売り越している。ちなみにこの期間の日銀以外の主な買い手は事業法人と信託銀行になる。16年は6兆円、17年は2兆円、18年は4兆8千億円、19年は3兆5千億円を買い越している。
・日本株の売り玉が少なくなっている。海外勢はアベノミクスが始まった2012年から日本株を買い始めており、累積買越額が一時20兆円くらいまで膨らんだが、足下では6兆5千億円くらいまで縮小している。個人投資家はこの間一貫して売り越しており、その額は約30兆円に上る。反対にアベノミクス以降に一貫して買い越しているのは日銀と事業法人になり、その累計額は40兆超になる。この両者は景気後退期には売り圧力になりにくい。
 *08/22の日経によると、12年11月以降の海外勢の買い越し額は株価上昇を加味して試算すると、8月現在で16兆円になるという。

以上を総合すると、次の景気後退や株価の下落は比較的穏やかに進む可能性が高い。

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景気後退シナリオ2:インフレが過熱し景気後退に陥る
景気後退に至るのお馴染みのパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→インフレ過熱→金融引き締め→債務圧縮→景気後退になるが、今回は失業率が低下してもインフレが過熱しないので、景気後退に陥りにくい。足下ではFRBがインフレを起こそうと再び金融緩和を始めている。
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景気後退シナリオ3:米長期金利上昇による景気後退
今後、米長期金利は需給要因(財政悪化など)により長期的に上昇していく可能性がある。長期金利が上昇すると株式や不動産が売られ、借り入れが減り景気後退に陥る。景気後退に陥ると通常なら長期金利も低下するが、今回は需給要因により長期金利は下がりにくい。新興国では米金利上昇とそれに伴うドル高により、通貨安、インフレ、金利高が起こり景気後退に陥る。中国ではこれらに加え、過剰債務や貿易戦争、労働人口のピークアウトなどにより景気後退に陥る。日本や欧州は、これらの国々のあおりを受けて、景気後退に陥る。
*FRBが長期金利のコントロールについて触れ出したので、このシナリオはなくなりそう。ただ米国の長期国債は規模が大きく、国内投資家が9割を保有する日本国債と違って国内投資家が6割しか保有していないので、日本のように長期金利をうまくコントロールできない可能性もある。
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景気後退シナリオ4:マイナス金利により金融機関が破綻し景気後退に陥る
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。ただ現時点では中銀が民間の金融機関を気にかけながら金融政策を行っているので、比較的穏やかな統廃合で済みそう。
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景気後退シナリオ5:中国のバブル崩壊による景気後退
中国の企業債務は積み上がっているが、その7割以上は実物投資ではなく、リスクの高い金融資産(シャドーバンキング商品)への投資に回っている。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して、連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。そうなると企業は債務返済で手一杯になり、新たな投資ができなくなる。そのようにして不況に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムとも言われているので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性がある。これらの政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。
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景気後退シナリオ6:ウォーレン氏が米大統領に選出され景気後退
ウォーレン氏は反大企業的、トランプ氏以上に対中強硬的(国内産業保護主義)なので、ウォーレン氏が米大統領に選ばれた場合は景気後退に陥る可能性がある。ただ米国で選挙に行く有権者の大半は中道・保守派なので、急進左派のウォーレン氏が選出される可能性は低い。米国で過去に急進左派で大統領になった人はいない。
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景気後退シナリオ7:上記の景気後退シナリオ複数が同時に起こる
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景気後退シナリオ8:各国中銀がインフレ政策をやめる
先進国の中銀はインフレターゲットを2%に設定しているが、経済成長率が2%を下回り、インフレが起こりにくい経済・社会構造でそのような政策を続けるのはもともと無理がある。日本においてはインフレ目標達成のために、日本銀行が日本株を最も買っているが、これはあまりにも不自然。そのためどこかでインフレ政策を転換する必要が出てくる。インフレ政策を転換すれば資産価格は下落するが、今のところインフレ政策よりもマシな政策はなさそうなので、インフレ政策が限界にくるまで(おそらく10年以内)この政策は続きそう。足下ではFRBが平均インフレ目標政策などを検討するなど、インフレ政策を強化する方向で動いている。
*平均インフレ目標政策とは、インフレ目標を下回る期間が長引けば、その後上回ることを許容し平均で目標達成を図る手法。
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■今後の計画
低金利とデジタル革命により穏やかな経済成長が続いていきそうなので、基本的には持ち株ホールドの方向でいく。ただし景気後退が起こる可能性も少なからずあるので、株を買うのはいったん控える(どうでもいいような理由で暴落した優良株は買う)。

景気後退期に入り円が90円くらいまで上昇、もしくは日経平均が17000円くらいになったら、米欧通貨や外国株、日本株を買っていく。おそらく今回が最後の円高局面になると思うので、海外資産の比率を高めにしていく。
*日経平均が18000円以下になると日銀が保有するETFが簿価割れを起こし、円の信認が揺らぎ始め(円安圧力がかかり始め)、日本株が反発しやすくなる。
*日銀の日本株買いにより市場のエネルギーが減少しているので(出来高が減っているので)、次の上げ相場では日本株は上がりにくいかもしれない。

次の円高時に仕込みたい外国株
・(米)VISAや(米)マスターカード。両社はフィンテック企業のボス的存在で、電子マネーは結局ここらへんが中核になりそう。
・(米)P&G。経営体制は盤石で、”奇跡の化粧水”SK-IIが世界的にヒットしそう。10/23の日経によるとSK-IIは世界でヒットし始めているもよう。市場はでかいのでまだまだ伸びそう。
・(米)ボーイング。大型航空機はボーイングとエアバスの寡占状態で参入障壁は非常に高い。長期的な需要も旺盛。足下では新型機737MAXの墜落により受注が落ち込んでいるようだが、エアバスの生産も全然追いついてないようなので乗り換えられる心配はそれほどない。
・NASDAQ100ETF。第4次産業革命の中核ETF。
・アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信(為替ヘッジなし)。腕利き米国人が運用する趣味の良さそうなファンド。
・米国株式長期厳選ファンド。奥野一成氏が運用するビジネスモデルが堅固な企業に投資する永久保有系ファンド。積み立てオンリーなのがやや難。
・インド株のETF。インドは2040年まで人口ボーナス期が続く。
・インドネシア株のETF。インドネシアは2030年まで人口ボーナス期が続く。
・銅。銅をたくさん使う電気自動車などにより銅の需要は長期的に右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などにより供給が追いつかなくなる可能性がある。銅の採算ラインは1トン5500ドル程度になる。
・原油。原油価格が40ドル以下になると産油国や米企業が採算割れを起こすので、40ドル以下になったら買い。新規の油田開発も停滞気味のようなので長期的な供給不安もある。

■次回の上げ相場について
次の景気拡大期は、中銀に金融緩和をする力があまり残されてなさそうなので、今回のような資産インフレはあまり期待できそうにない。とはいえ中銀が2%のインフレ目標にこだわり続ける限りは資産インフレがどうしても必要になってくるので、また新たな金融緩和策を考案して資産市場を盛り上げてくれるのではないかとも思っている。おそらく次の金融政策は現在日銀が行っているような財政ファイナンス、もしくはMMTのような財政主導の金融緩和策が主流になるのではないかと思う。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

*ソフトバンクグループの”一流”投資家・孫正義氏はウィーワークの創業者と短時間会談しただけで投資を決め、その結果失敗している。このことからも事前によく調べることは大事だと思った。ちなみにだが、孫氏は投資先の選択で「何よりも創業者で判断する」と語っているが、孫氏が投資するウィーワークやウーバーテクノロジーズの創業者はすでに“クビ”にされている。となると、この時点ですでにこれらの投資は失敗したと言えるのかもしれない。

■10倍株候補
<10倍株候補の条件は>
 ・上場4年以内の若い会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

(今のところ候補はなし)

■優良銘柄(株価が急落したときに買いたい銘柄)
<優良銘柄の条件は>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル

・エムスリー。医療分野で独占的なプラットフォームを築いている。足下ではクラウドカルテ事業に投資しているようだが、この領域で覇権を握れば、MR事業や臨床試験マッチング事業との相乗効果により、さらに大きく成長できそう。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。

・リクルート。市場独占型プラットフォームを多数保有している。問題はこの会社の収益の過半が求人広告や人材派遣によるものであること。景気後退期にはその影響を強く受けやすい。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。

・カカクコム。価格比較の分野で独占的なポジションを築いている。「価格ドットコム」「食べログ」だけでなく、新規メディア事業の「求人ボックス」や「スマイティ」も好調のよう。目下の問題は厚労省が飲食店情報サイトの実態調査を始めており、「食べログ」もなんらかの影響を受けそうなことになるが、飲食店の口コミはすでにグーグルに流れ始めており、競合のぐるなびも似たような状況なので、大きな影響はなさそう。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。

・LINE。独占的なチャットプラットフォームを有している。6800万人のアクティブユーザーを抱え、足下ではヤマト運輸、エムスリー、弁護士ドットコムなど他企業との連携が加速している。問題はLINEペイの見通しがそれほど良くないことなど。ソフトバンクに買収されるという噂もある。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。

・インフォマート。企業間取引の基幹ITインフラを構築している。問題は将来の市場規模がどのくらいなのかまだよくわからないこと。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。

・GMOペイメントゲートウェイ。決済代行プラットフォームで半独占的なポジションを構築している。問題はこの会社のことをまだよく知らないこと。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。

・ベネフィット・ワン。大企業向けの福利厚生代行サービスなど優良ストックビジネスを手がける。問題は業績の伸びがやや穏やかなこと。足下ではM&Aなどで成長が加速している?2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。

・リログループ。中小企業向けの福利厚生代行サービスなど優良ストックビジネスを手がける。問題は業績の伸びがやや穏やかなこと。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。

・メニコン。コンタクトレンズのサブスクサービスを手がける。サブスク会員は順調に増加しているもよう。問題は国内市場の伸びが限られること。2030年の予想利益は現在の2倍くらいか。

■観察中の銘柄
・メディアドゥ
基本シナリオ:最強の電子書籍取次プラットフォーマーに
この会社の一番の成長ドライバーはLINEマンガになるが、アプリのレビューをみると「読み込みが遅い」「フリーズする」というクレームが目立っている。しかし先日の決算説明資料にLINEマンガのサーバーを今冬までにクラウドに移行するとあったので、この問題も解消しそう。今後注目するポイントはLINEマンガの伸びと、電子書籍流通シェア(*2018年は34%)の2点。10/30にLINEの第3四半期決算があったが第3四半期のLINEマンガの伸び率は前年同期比26%増だったが、第2四半期比では微減だった。・・微妙な数字。今後3年の売上高成長率は年率20%、営業利益成長率は年率25%。今後1年の予想平均株価は3800円(変動率±25%)。2030年の予想利益は現在の0~6倍くらいか。

・エデュラボ
基本シナリオ:教育改革の波に乗って業績拡大
大学入試共通試験の民間英語試験がいったん取りやめになったので、決算資料を見ながら新たな成長ストーリーを考えていく。

メモ。今年のトーマツ成長企業ランキングの2位はAI insideだったが、この会社は光学式文字読み取り装置を開発する会社で、前年比972%の急成長をしている(10/23の日経)。この会社の技術はエデュラボ・DEEP READの強力なライバルになりそう。

・パークシャテクノロジー
基本シナリオ:先端の深層学習知見を産業に落とし込んで業績拡大
パークシャ発の契約書分析サービスを手がけるモンテスキューが、長島・大野・常松法律事務所と資本業務提携した。同法律事務所はパークシャとも協業を始めるようで、業界データを持つ企業との連携が順調にすすんでいるもよう。現在の妥当な企業価値は参入障壁の低さなどを考慮すると600億円(株価2000円)くらいか。投資を考えるタイミングは2022年頃から。

■気になっている銘柄
・ブシロード
米国に新日本プロレスの子会社を設立したり、日本最大の女子プロ団体・スターダムを買収したりして、ますます伸びそうな雰囲気になってきた。しかし10/8の日経でハロルド・ジョージ・メイ氏の存在が明るみになってしまい株価がさらに上昇。調べる気がなくなってしまった。株価が調整することがあればその時に調べたい。

・パラマウントベッド
介護用ベッドの最大手。マットレスに睡眠計測センサーや臭気センサーを取り付けて、介護現場の負担を軽減している。IOTベッドの販売台数は前期比5割の伸びで、高齢化が進む中国にも進出している。ただ、参入障壁が低くフロー型ビジネスモデルなのでいまいち調べる気が起こらない。

月1社ずつ調べていく予定だったが、調べたい会社がなくなってしまったので、上場4年以内の会社の中から良さそうな会社をピックアップしていく。11月は2016年のIPO企業を調べる予定。・・もしくは上記の優良銘柄の決算説明資料を読んで大筋を理解していく。

ハウスドゥ

■見つけた経緯など
保有投信「厳選ジャパン」の上位10銘柄にあった。
少し調べてみると、フランチャイズ店舗が急増しており、なにか大きな変化が起きているのではないかと思った。ストック型ビジネスに移行しているのもよいと思った。

■どんな会社か
仲介や賃貸などの従来の不動産サービスに加えて、新規の不動産サービスを多数手がける会社。

具体的に手がける事業は、売上が伸びている順に、ハウス・リースバック事業、フランチャイズ事業、不動産金融事業、不動産売買事業、不動産賃貸事業、リフォーム事業になる。上位3事業はストック型収益事業で年率10%超の成長が続いており、下位3事業はフロー型収益事業で成長率は横ばいとなっている。上記以外にも事業継承(M&A)や海外フランチャイズ事業など新規事業を次々と立ち上げている。

2019年6月期の売上高は315億円、営業利益は31億円になり、今後3年の会社計画は、売上、利益ともに年率10%超の成長になる。利益構成はストック型事業が7割を占め、その比率は増加傾向にある。

■成長ストーリー
「国内最大の不動産サービス・プラットフォームで課題解決」が基本シナリオ。

日本では人口減や高齢化が進んでおり、空き家率は増加トレンドなので、今後の不動産市場のテーマは「つくる」から「活用、処分」に変わる。ハウスドゥはこのシフトが円滑に進むようなサービスを開発し、高齢社の資金不足や空き家の増加などの課題を解決していくことを基本戦略としている。

これらのサービスを普及させる土台となるのがフランチャイズ店舗になる。ハウスドゥは顧客のあらゆる不動産ニーズにワンストップで応えられるフランチャイズ店舗を全国に展開しており、現在618店ある。2025年までに国内1000店にすることを目標としており、手厚いサポート体勢や定額制(10万円)のフランチャイズ料金などにより、足下でも順調に加盟店が増えている。

ハウスドゥが手がけるサービスの中で今最も勢いがあるのがハウス・リースバック事業になる。2013年にハウスドゥが開発したこのサービスは、持ち家を不動産会社に売り、同時にその不動産会社と賃貸契約を結んで住み続ける方法で、売主は生活環境を変えずにまとまった資金を得られるという特徴がある。このサービスには自宅を資金化して相続問題を緩和したり、不動産ストックを流動化して空き家を増えにくくするというメリットもある。2019年6月期の業績は売上、利益ともに前期比150%程度の伸びで、営業利益は20億円と業績の柱に育っている。

この事業の収益構造は、物件買い取り時に事務手数料(仕入れ額の3%)が入り、毎月仕入れ額の8%程度の家賃収入を得る。また期末には物件を一部売却して仕入れ額の15%程度のキャピタルゲインが入る。リースバック事業の基本的なビジネスモデルは、買い取った物件を保有して継続的に賃料を得ることになるが、買い取り件数が増えていくと銀行からの借り入れが増え、自己資本が低下するという問題が発生する。銀行には自己資本の低い会社には融資できないという自主ルールがあるので、ここでリースバック事業の成長は頭打ちになってしまう。ハウスドゥはこの問題に対処するために増資をしたり(2018年に60億円を調達)、買い取った物件を自らが組成するファンドで売却したりしている。なおファンドの物件管理はハウスドゥが担っており、ここでも1%程度の物件管理手数料を得ている。ファンドの利回りは年4~5%程度あり、今のところは機関投資家などに順調に売れているという。

リースバック事業には、査定、販売、金融サービスなどのノウハウが必要になるが、それらをすべて備えている不動産業者は少なく、競合は生まれにくい。ただこの事業には、後に触れるような問題などもあり、今後は様子を見ながら無理のない範囲で成長させていくという。2019年6月期の仕入れ件数は550件になるが、今後の目標は2020年が820件、2021年が960件、2020年が1080件になる。

ハウスドゥが今最も力を入れているのが不動産金融事業になる。今行っている主な金融事業は不動産担保ローンやリバースモーゲージ保証事業になる。不動産担保ローンは従来からあるお馴染みのサービスになるが、ハウスドゥはセカンドハウスの購入など金融機関が手がけにくく、毀損の確率の低いもののみに融資しているという。2016年からこの事業を始め、現在の累計融資額は81億円になる。2022年の目標は190億円になる。

リバースモーゲージ保証事業は2017年に開始。リバースモーゲージとは、自宅に住みながら自宅を担保に金融機関から融資を受けられるサービスで、毎月の返済は金利のみになる。元金の返済は借入人の死亡時に持ち家を売却して返済に充てる。このサービスには住宅の資産価値を生前に使い切れるというメリットがあり、空き家解消の一助にもなる。ただこれまで金融機関は物件の査定や処分を不動産業者に委託し、その際25%程度のマージンを取られており、これがこのサービスの普及を阻んできた。

そこでハウスドゥは物件の査定、管理、処分を引き受ける(保証する)リバースモーゲージ保証事業を開発。この事業では従来のマージンが発生しないので、足下でリバースモーゲージは急速に普及しつつある。この事業の収益構造は契約時に事務手数料、調査料が入り、その後は利用者が金融機関に支払う利息の一部を保証料として継続的に受け取る。この事業は銀行からの借り入れを必用としないので自己資本が痛むこともない(ただし担保割れが起きた場合は自己資本がダメージを受ける)。

ハウスドゥは現在金融機関10社と提携している。実績が積み上がれば提携が加速度的に進むとみており、今期末の累計保証残高は前期比2.6倍の68億円を見込んでいる。2021年は156億円、2022年は306億円の累計保証残高を目標としている。
*金融機関にとって不動産融資は重要な融資先の一つになるが、2018年にスルガ銀行やTATERUの不正融資が発覚し融資案件の審査が厳格化され、融資先が減っている。リバースモーゲージはその穴を埋める新たな融資先になりそうなので、このサービスが普及する素地は整いつつある。

金融事業では他に「ハウスドゥ!バンク構想」というものもある。これはハウスドゥのスマホアプリから、不動産査定を簡単に行えるサービスで、ハウスドゥがその物件の担保保証を行い、銀行や一般投資家が金利や融資額を入札する仕組みになっている。これは近々始める予定だという。将来的には金融事業単体で上場させる計画もあるという。

上記以外にも新規事業が次々と立ち上がっている。2018年には空き家、空き室をレンタルするサービス「タイムルームクラウド」がスタート。今後は米エアビーアンドビーなどと提携して、ハウスドゥが管理する物件を民泊としても利用できるようするという。また、これとは別の形でレオパレスのようなマンスリー型の賃貸サービスも始める予定だという。

事業継承(M&A)も2018年に開始。全国に後継者がいない不動産事業者は多く、ハウスドゥは自社との親和性の高い企業を買収していく計画。2018年には埼玉の小山建設グループを27億円で買収。今後も全国の優良企業を積極的に引き継いでいくという。

2019年には海外のフランチャイズ展開に着手。まずはタイで現地企業との合弁会社を設立。アジア圏にはハウスドゥのようなワンストップ型の不動産会社がほとんどないので、伸びしろは大きいという。長期的な目標として海外5万店を掲げている。

■問題点
・フランチャイズ店舗が急速に増えているが、この調子でいくと人材の育成が追いつかず、なんらかのひずみが出る恐れがある。ビジネスモデル的にはスルガ銀行やTATERUのような不正融資は起こりにくそうだが、フランチャイズ店の7割が異業種出身の素人なので、予期せぬ問題が生じる可能性がある。ただ加盟店に対しては各種研修(物件管理、顧客管理、IT戦略、モチベーションアッププログラムなど)やITシステムを提供し、売上よりも顧客重視を徹底しているようなので、今のところは特に問題なさそう。

・ハウス・リースバック事業は売る側にとってあまりお得感がない。住みながら家を売るというコンセプトはよいと思うが、自宅を資金化する方法には他に売却、賃貸、リバースモーゲージがあり、これらと比べると金銭面のメリットが少ない。10/20の日経ヴェリタスでこれらの方法が比較されていたが、同一条件の場合、金融資産の寿命は売却で22年、賃貸で16年、リバースモーゲージで15年、リースバックで10年だった。ちなみに自宅を資金化しない場合は8年と、リースバックとほとんど変わらなかった。そもそもリースバックは市場価格の7割で買い取られ、年間賃料は買い取り価格の8%程度なので、その時点でお得感がない。このサービスは80歳以上の高齢社やすぐに越す予定のある人にしか向かないのではないだろうか。長期的に見るとこのサービスは廃れていく可能性がある。

ただ現在の問い合わせ件数は急増しており、2019年6月期は13000件と前期比50%超伸びている。ハウスドゥによると今期も同程度の伸びが期待できるとのこと。
*問い合わせ件数に対するハウスドゥの成約率は5%程度で、圧倒的な買い手市場となっている。ただハウスドゥが購入している物件は都市部の優良物件のみとなっており、空き家解消にはほとんど役立ってないという問題もある。

・欧米のようにリバースモーゲージが普及しにくい。先進国でリバースモーゲージが普及してないのは日本だけになるが(市場規模は米国の1%以下)、それは先ほどの担保保証の問題だけでなく、中古住宅市場の大きさの問題もある。日本の住宅市場に占める中古住宅のシェアは15%と米国の80%と比べてかなり低い。日本で中古住宅市場が活性化しないのは、木造住宅の法定耐用年数が22年に設定されており、築20年を超えると“無価値”になってしまうため。ここらへんが変わらない限りは中古住宅市場が活性化されず、ひいてはリバースモーゲージが普及しにくい。

・リバースモーゲージの最大のリスクは担保価値の下落になるが、深刻な不況に陥った場合や、借入人の長命化が進んだ場合は、担保割れが起こる可能性がある。極端な例になるが、米国では2008年にサブプライムローンバブルが破裂した後、ウェルズファーゴやバンカメなどの民間業者が提供していたリバースモーゲージが市場から姿を消している。ハウスドゥはもちろんここらへんのリスクを考慮して担保保証をしているとは思うが、一応テールリスクとして書いておく。
*米国では現在、ほぼ全てのリバースモーゲージの担保保証を公的機関がしているが、日本でも2017年から公的機関(住宅金融支援機構)が同様の保証を提供しはじめている。おそらくここがハウスドゥの競合になる。(ハウスドゥはここから着想を得てリバースモーゲージ保証事業を開発したのかもしれない)。両者を比較した場合、全国に販売網を持っているハウスドゥの方が融資額を高めに設定できそうなので、ハウスドゥの方が若干優位かもしれない。

・社長の力が大きすぎる。ハウスドゥの成長は社長の洞察力、先見性、経営手腕によるところが大きいと思うが、その分、なんらかの理由で社長が抜けた場合、会社が傾く恐れがある。

・決算が第4四半期に集中する。業績へのインパクトが大きいリースバックの物件売却は、賃料収入をできる限り得るために末期に集中させているが、末期集中型の決算の場合、業績未達リスクが懸念され株価が不安定になりやすい。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★★
・参入障壁は高いか。★★★★。ハウスドゥが提供するサービスは必ずしも真似ができないというわけではないが、総合力の点でハウスドゥに分がありそう。
・ストック型ビジネスか。★★★★。利益の7割超がストック型で、今後もその割合は増えていく。
・時流に乗っているか。★★★★。国内不動産市場は成熟しているが、ハウスドゥは不動産市場が現在抱える課題に対処することを主業にしているので、その意味では時流には乗っている。

■チャート
上昇トレンドで特に問題は見当たらない。
<5年チャート>

■まとめ
このご時世に不動産フランチャイズ店舗が増えていることに違和感があったが、やはり裏では大きな変化が起きていた。ハウスドゥが展開する新規の不動産サービスは時流に乗っており、競合もそれほど多くはなさそうなので、今後も順調に成長していきそう。株価は2015年の上場からすでに6倍程度上昇しているが、時価総額的にあと6倍くらいは成長できるのではないかと思う。まだわからないことも多いので、しばらくは様子を見ようと思うが、時価総額300億(株価1550円)くらいまで落ちることがあれば少し買っておきたい。