2019年6月1日土曜日

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (米国国債4倍ベア7)
基本シナリオ:2019年は2.2%~3.0%の間で推移

長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今後は両者とも低下傾向になる。米国の2018年の経済成長率は2.9%、2019年は(予)2.5%、2020年は(予)1.8%で、インフレ率は2018年が2.4%、2019年は(予)2.0%、2020年は(予)2.7%になる。今後、米中貿易摩擦が激化すれば経済成長率は下振れする。
*数値はIMF予想

・金融政策↓
景気後退懸念や金融市場の混乱などから、FRBは金融引き締めをいったん終了することに決めた。

4/17の日経記事によると、FRBが利上げを止めたのは期待インフレ率が0%台になってしまった日本のようにならないためだという。期待インフレ率は一度0%台まで落ちてしまうと現状では再度引き上げる方法がないらしい。この流れでいくとFRBはこの先インフレが多少上振れしても金利引き上げを見送る可能性が高い。

・リスクオン、オフ↓
景気後退懸念や米中貿易摩擦は落ち着きつつあったが、米中通商交渉がこじれ始めたので再び景気後退懸念が出てきた。足下ではリスクオフになり“安全資産”である米国債が買われ始めている。

・トランプ大統領の介入↓
低金利好きのトランプ大統領はFRBへの口先介入のみならず、FRBへ緩和派の人間を送り込もうとするなどして金融緩和圧力をかけ続けている。これは短期的には金利に低下圧力がかかるが、中長期では金融市場に歪み(バブル)が生じ金利上昇圧力がかかる。

・財政赤字の拡大↑
米政府は財政支出を拡大しており、今後も年金や医療、福祉などの社会保障費が税収の伸びを上回る勢いで増加していくので、長期的に財政赤字の拡大は続く。2018年の米国の財政赤字は100兆円を超えており、この水準は当面続く見込み。

・米国債の人気低下↑
米10年国債の利回りは先進国の中では相対的に高いので海外から買われやすいが、足下では為替ヘッジコスト(2.9%)が米長期金利(2.18%)を上回っているので、海外からの米国債の購入は減少している。双子の赤字(貿易赤字や財政赤字)の拡大も人気低下の理由になる。
*ヘッジコストとは外貨の短期金利と円の短期金利の差から生じるコスト

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。

投機筋の持ち高
1月を底にそこから売りが積み上がりつつある。短中期筋は金利は上昇しないとみている。

・チャート↑
週足や月足の移動平均線で見ると今が底に見える。


■WTI原油 (WTI原油価格連動型上場投信)
基本シナリオ:45ドルから70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦は60ドル、ロシアは40ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。

・トランプ大統領の介入↓
トランプ大統領は低インフレ(低金利)と株高を切望しているので、原油価格の上がりにくい政策をとる。トランプ大統領の介入ラインはおそらく65ドルあたりになる。

・供給→
OPECとロシアが協調減産してるので足下で供給は締まりつつある。しかし4月に入りロシアがシェア低下を気にして減産はやめると言い始めた。

米国はイラン産原油の禁輸措置を決めた後、その不足分をOPECに増産要請しており、サウジなどはその要請に応じる構えだが、原油価格の急落を避けるため増産ペースは穏やかなものになりそう。

長期的には新規の油田開発が原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより停滞気味なので将来の供給不安は残る。
*現在ESG(環境、社会、企業統治)の観点を考慮しない企業は評価しないという流れになってきている。地球温暖化につながる化石燃料は環境リスクが高く、3月には世界最大の政府系ファンド・ノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外すという方針を示している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
米国は1月にベネズエラ国営石油会社への制裁を決定した。ベネズエラの産油量は投資不足などもあり著しく低下している。
米国は5月からイラン産原油を全面禁輸することを決定した。イランは対抗措置として原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を閉鎖すると警告していたが、5月に入りさっそく通過するタンカーなどへの妨害工作を始めた。
リビアで内戦が激化している。生産設備の被害や輸送の寸断で一気に生産量が落ちる可能性がある。

・リスクオン、オフ↓
原油は株式と同じリスク資産なのでリスクオフ時に売られやすいが、今は米中通商交渉決裂によりリスクオフに傾きつつある。

・需要↓
足下では世界経済が持ち直しつつあったので需要は堅調に推移しそうだったのだが、米中通商交渉決裂により需要が下振れる可能性が高くなってきた。

中長期的には景気後退や温暖化対策(クリーンエネルギーへのシフト)など需要を抑制する要因もあるが、長期的には人口増や世界経済の成長に伴い原油消費量は増加基調になる。国際エネルギー機関(IEA)によると石油需要は2040年まで拡大を続ける見通し。

投機筋の持ち高
買い越しは1月を底に増加傾向だったが4月あたりから減少傾向。短中期筋はまだ上がるとみている。

・為替→
原油はドル建て取引なのでドル高になると新興国の需要が鈍る。しかしドルはほぼ頭打ちの状態。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、円高が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまる。硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかると言われている。

・チャート→
基本シナリオ通り(45~70ドル)の振れ幅になりそう。


■ドル円 (FXでドル買い)
基本シナリオ:2019年は102円から112円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、今は購買力平価(96円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融引き締めから緩和に転じつつあるので、徐々に円高圧力が高まりそう。

・リスクオン、オフ↓
景気後退懸念や海外の政治情勢が落ち着きつつあったが、米中通商交渉決裂でリスクオフに転じつつある。足下ではキャリー取引の巻き戻しも起きているもよう。今後本格的なリスクオフになれば海外からの対外資産の引き上げ(投資撤退など)も起こりうる。日本の対外純資産は世界最大の340兆円になる。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り高利通貨を買って金利差で収益を得る取引が盛んになる。

投機筋の持ち高
リスクオフで円売りポジションは4月の9万枚から5万枚まで縮小している。

・日本の投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、為替差損回避(ヘッジ)付きでも高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。国内の超低金利は当面続きそうなので、今後も対外証券を積み増していく可能性が高い。

日本の対外証券投資は年によってばらつきがあるが、平均すると年10兆円程度の買い越しになる。2019年はすでに8兆円超を買い越している。今後は異次元緩和前の比較的高い利回りで購入した債権の償還が始まるが、戻ってきたお金は国内債への再投資ではなく、外債に回る可能性が高い。2019年の償還額は40兆円超になる。
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度。

・経常収支→
短中期的には輸入額の4分の1(20兆円)を占める原油・天然ガス価格がやや高止まりしているので貿易収支が徐々に悪化していきそう。長期的にもスマホや医薬品などの輸入が増加傾向で、生産の海外移転などにより輸出の伸びが鈍化傾向なので貿易収支は悪化していきそう。2018年の貿易黒字額は1兆円程度になる。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは10兆円程度しか生まれない。

・日本企業の対外直接投資→
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。ただ2018年の対外直接投資は15兆円程度と高水準だったが、日本企業の海外M&Aに1年半先行する世界PMI(購買担当者景気指数)は2017年12月にピークアウトしているので、日本企業による海外M&Aもいったんピークアウトしそう。
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度。

・日米の経済成長力↑
資金は景気の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などの資産価格を押し上げるが、今は日本経済よりも米国経済のほうが勢いがある。

・購買力平価↓
ドル円の購買力平価は96円程度なので、円の下限は75円、上限は120円程度になる。米国の方が慢性的にインフレ率が高いので、購買力平価は長期的な円高傾向にあるが、米国のインフレ率は年々低下して日本のインフレ率との差が縮まってきており、ドル円の購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

・米財政赤字の拡大↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、それが50兆円の経常赤字と相まってドル離れが進みそう。近い将来、米国債を消化するために大量のドルが発行される可能性が高い。

・日本の財政赤字の拡大↑
日本の累積財政赤字はDGP比200%を超えており、今後も社会保障費の増大により財政赤字は拡大していくので、円離れがすすみそう。日本も米国同様、日本国債を消化するために大量の円が発行される可能性が高い。

・チャート→
どっちつかずの三角持ち合い。足下では収斂しており、じきに円高方向に大きく振れそう。中長期の移動平均線では112円あたりが天井になる。


■日経平均 (日経レバETF)
基本シナリオ:2019年は19000から24000のボックス圏で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・EPS(1株利益)→
日経平均株価は基本的にEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まるが、2018年のEPSは-3%、2019年は(予)0%、2020年も(予)0%になる。
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EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気↓
日本企業は海外で6割を稼ぐわけだが、海外が景気後退に陥りそうなので、日本企業の業績も下振れしていきそう。

・失業率↓
失業率が最低水準まで低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫される。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回の引き締めは穏やかなのでほとんど影響なさそう。
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・PER(人気度、リスク選好度)→
米中通商交渉決裂により再びリスクオフに。日経平均のPERは基本的に11~16くらいの間で推移するが、現在のPERは11.82になる。

・金余り↑
市場にお金があふれると資産価格は上昇するが、足下では金融政策が緩和気味になりつつある。

投機筋の持ち高
売り越しはやや増加傾向。短中期筋は日本株が下がるとみている。

・2019年の主な投資主体の売買動向→
 日本銀行:(予)金融政策により3~6兆円の買い越し 現状は1兆9千億円の買い越し
 事業法人:(予)自社株買いにより3~4兆円の買い越し 現状は1兆2千億円の買い越し
 海外投資家:(予)世界の景気後退を懸念して1~3 兆円の売り越し 現状は1兆円の売り越し
 個人投資家:(予)相続に伴う換金売りで1~3兆円の売り越し 現状は1兆3千億円の売り越し

・利回り↑
日本株式の益回りは8%と日本国債の利回り0%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・チャート→
24000円でダブルトップを形成しており、19000円で累積売買高のピークが来ているので、当面この範囲内で動きそう。

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