2021年7月1日木曜日

売買チェック 4~6月

 ■4月
・ココナラ 買い増し
やや割高感があったが、長期でみれば問題ないと思った。

・ジモティー 買い増し
「ジモティー」を使ってみたらエクスロー決済がデフォルトになっており、これは伸びそうだと思った。その後ジモティーのIRを見ると大型のストックオプションを発行していたのでいけそうだと思った。

■5月
・ココナラ 全売却 損益-16%
ココナラが手数料を5%引き下げ、手数料引き下げ競争が始まったと思ったから。ココナラの出品者は他のスキルシェア・プラットフォームにも出品できるので、フリマサイトで起きているような展開になるのではないかと思った。手数料は最終的に0%~5%くらいまで落ちるのかもしれない。ココナラはビザスクのような高度なマッチングシステムを構築しないかぎりはあまり稼げないのかもしれない。ただココナラはメルカリのように商売上手なところもありそうなので当面は順調に成長していけそうでもある。

今回の売買の失敗は4月決算を見逃していたこと。この会社は3月に上場しており、その直後に決算はないだろうと勝手に思い込んでいた。この決算を見ていたらもっと早くに判断できたので次からは気をつけたい。

・日経レバ 全売却 損益+1%
市場平均を買っても株価3倍は目指せないと思ったから。

・ジモティー 買い増し
株価が2000円を割り込んでいたから。ストックオプション行使価額の2210円以下にはお得感があった。

「巣ごもり」後の業績やIDFA規制の影響には不透明感があるが、地元マッチングの潜在市場は大きく、長期でみれば問題なさそうだと思った。

・ステムリム 買い増し
塩野義の決算資料から表皮水疱症薬の承認申請がほぼ確定していることがわかったから。7月末までに新規契約の見込みもあり、株価の下げ余地は小さいと思った。

Muse細胞の脳梗塞治験(第2相)で良好な結果が出たときにも買い増しをした。Muse細胞とレダセムチドのコンセプトは似ており、レダセムチドの脳梗塞治験でも良好な結果を期待できそうだと思った。
*Muse細胞とレダセムチドの脳梗塞治験では投与するタイミングが異なるので競合しない。

・イントラスト 新規買い
今期の業績予想や中期計画がよかったから。今後しばらく医療保障事業の伸びは期待できそうにないが、家賃保証事業が業績を牽引していけそうだとわかった。会社の計画はやや強気にみえるが、業績拡大基調なのは間違いなく、チャート的にも下値不安は小さかった。

■6月
売買なし。

持ち株チェック

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
5/20の日経に「米フラリーによると、米国では最新のOSを搭載したiPhoneなどの所有者のうち、外部企業がIDFAを活用することを承認した人の割合は6%にとどまる」とあった。IDFA規制の影響は当初の想定以上に大きくなりそうだと思った。

スマホをAndroidからiPhoneに変えてみた。iPhoneではデフォルトでアプリからのトラッキングをブロックする設定になっているので、今後はIDFAを取得できなくなっていくのかもしれない。そうなると広告単価の下落は避けられそうにない。

ただ純広告(緩いターゲティング広告)は表示できるので、広告単価の下落は限定的になりそうでもある。どちらにしても広告単価は今期が底になりそうなので、来期からはアクセス数の増加と共に業績も順調に伸びていきそう。

*グーグルはクロームのプライバシー保護機能(クッキー規制など)を制限する時期を22年初めから23年後半に延期した。これは欧米の競争当局が個人情報の保護策は市場支配力の強化につながると懸念しているのと、広告業界などから不満の声が上がっているのが理由(6/26日経)。Androidスマホではもうしばらくクッキー情報を利用できそう。このような理屈はそのままiPhoneにも当てはまるので、アップルでも規制を少し緩める方向に動くのかもしれない。

来期に関しては「巣ごもり」が解消され、投稿数(アクセス数)が伸び悩む可能性もある。それでも経済の回復に伴い広告単価は上がると思うので、業績はそれほど心配しなくてもよさそう。長期で考えれば全国の津々浦々にジモティーネットワークが張り巡らされていくと思うので、まだまだ成長できるのではないかと思う。このシナリオを重視していきたい。

第一四半期決算では不動産カテゴリの有料オプションの利用が増えていた。不動産カテゴリの投稿件数は平均60万件を超えてきており、今後投稿がさらに増えれば、(閲覧を増やす)有料オプションの利用も増えていきそう。米クレイグスリストは求人カテゴリの有料オプションで莫大な収益を上げているので、ジモティーでも有料オプションで稼げるようになってくれればと思う。

ただ求人カテゴリ分野に関してはリクルートという競合がいるので、クレイグスリストのような展開は期待できないかもしれない。リクルートはこの分野に巨費を投じており、将来的にはAIによる自動化などで転職活動を1クリックで完結させる方向のようなので(6/5日経)、ジモティーは太刀打ちできそうにない。ただ両社のユーザー層は若干異なっているようなので棲み分けはできるかもしれない。

「ジモティー」を初めて利用してみた。「売ります・あげます」カテゴリに出品すると投稿後20分で商談が成立した。これは使えそうだと思ったが、その後、ジモティー名物?のドタキャンをくらってしまった。気を取り直して再出品をするもアクセスが急減して放置状態になってしまった。しばらくして、なんとか取引相手が見つかったが、「今から取りにいっていいですか」と急な問い合わせから始まり、取引終了後にはフィードバックがないなど、少し後味の悪いものになってしまった。取引はこの1回だけなのでなんともいえないが、もしこのようなユーザーが多数を占めているとしたら、広告単価は上がりにくそうだと思った。

「ジモティー」のシステムにも問題を感じた。気になったのは3点。まず1つ目は無料出品がデフォルトになっていないこと。自社の利益につながるエスクロー決済がデフォルトになっており、0円出品をしようとしてもすんなりできなかった。ジモティーは本当にリサイクルやエコロジーを重視しているのかと疑問に感じた。

2つ目が商談中や商談後に投稿内容を編集し、その編集箇所が明示されないこと。編集すると更新日時は表示されるが、どこを編集したのかわからないので、後々トラブルが発生する可能性がある。内容の編集は追記形式にすべきと思った。それと投稿時にプレビューがないのも問題。プレビュー機能を付けるだけで投稿後の編集がかなり減るのではないかと思った。

3つ目が写真の画質が荒いこと。鮮明な画像をアップできないのでトラブルが起こる可能性がある。もっとマシな画像圧縮ソフトを使うなり、サーバーを増強するなりした方がよいと思った。
*この3点はジモティーに報告済み。

これら以外でも、アプリのユーザーレビューを見ていると、ごく初歩的な問題点が多数指摘されている。ジモティーの開発力は少し弱いのかもしれない。少なくともメルカリやヤフオクのような水準には達していないのは確か。ジモティーはZホールディングスあたりに買収されて開発力を高めた方がよいのではないかと思った(買収されて上場維持が最高のパターン)。

<訂正>
4月に書いたブログに「米クレイグスリストの月間投稿数8千万件」と書いたが、3000万件の誤り。wikiにあった8千万件という数字はおそらくディスカッションフォーラム(掲示板)の投稿数(7千5百万件)になる。それとこの情報はネタ元のアドレスバーから2009年のものっぽい。次からは一次情報の確認を怠らないようにしたい。

「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数
・売ります・あげます 7月15日 893080 →10月 945116 →1月 1013333 →4月 1096141 →7月 1178114
・メンバー募集 67116 →69364 →71879 →74732 →77377
・助け合い 25300 →26203 →27226 →28662 →30099
・不動産 466478 →511537 →518859 →402393 →553245
・アルバイト 43710 →44585 →46999 →61359 →58679
・正社員 13703 →14002 →15335 →17574 →17149
・イベント              →31575 →32906
・中古車               →43199 →45112
・教室・スクール           →18364 →18958
・地元のお店             →13453 →14113
・里親募集              →7628 →7997
*投稿件数は削除されたものもあるので実際の投稿件数はもっと多い。

主力カテゴリの「売ります・あげます」の投稿数は1~3月が82808件、3~6月が82003件。例年は3~6月の方が多いのだが、今年はわずかに減っている。これは第1四半期(1~3月)に「広告宣伝の戦略を検証するため」にCMを打たなかったのが影響しているのかもしれない。前第2四半期の投稿数は第1四半期よりも多かったので、第2四半期の投稿数は前年同期比で下ブレそう。ただ他のカテゴリは順調に伸びているようなので同程度にとどまる可能性もある。

第二四半期の売上高は、第一四半期よりページビュー微減で、広告単価が微減~横ばいと想定すると3億5千~3億8千万円くらいになりそう。第1四半期からの累計では7億5千~7億8千万円くらいになりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は200億円(株価3300円、PSR13倍)くらい。2030年の予想売上・利益は現在の10倍くらい。

■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
間葉系幹細胞が炎症を抑える仕組みが解明された(4/19日経)。間葉系幹細胞は炎症が起きている血管の細胞にくっつき、炎症のエネルギー源であるブドウ糖を奪い取って炎症を抑えるという。間葉系幹細胞には他に、Muse細胞の治験で示唆されたように、再生不可能とされる脳神経を再生させる可能性もある。

レダセムチドは骨髄から間葉系幹細胞を引き出すので、この間葉系幹細胞にはおそらくMuse細胞が含まれている。となると、レダセムチドの急性脳梗塞治験では、脳梗塞の炎症を抑えつつ、脳神経を再生させる可能性がある。もしこれが実現したら画期的な薬になる。

4/13日経にガンの光免疫療法の記事が載っていた。そこには「画期的な新薬はまず治療が難しい患者を対象とし、実績を積み上げて適用を広げることが多い」とあった。ステムリムの薬剤もこのパターンで適用が広がっていってくれればと思った。

ステムリムの表皮水疱症の薬剤がなかなか承認されない理由がなんとなくわかってきた。それは日本の承認機関(PMDA)に「ゼロリスク」の考え方が根底にあるからではないかと思う。日本でコロナワクチンの承認が米欧の3倍以上遅れたのは、PMDAに公衆衛生を守るために犠牲を受け入れる考え方が浸透しておらず、過去の薬害(健康被害や損害賠償)から慎重になっていたためのようで(5/22日経)、この理屈がレダセムチドの承認にも当てはまるのではないかと思う。

ステムリムには今期10億円程度の新規契約がありそうだが、残り1ヶ月を切った時点でまだない。契約は遅延、もしくは流れた可能性もある。下方修正に備えたい。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~10%程度。業績が急拡大するのは早くて3年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は0~500億円くらい。

■ペプチドリーム
基本シナリオ:最強のペプチド創薬プラットフォームに
3月の創業社長の退社に続き、5月にはIRのトップまで辞めてしまった。2人とも円満退社のようだが、辞める理由がやや弱いので、あまりよい兆候とはいえない。ペプチドリームの基本シナリオに問題が生じたわけではないが、しばらくエキサイティングな展開はお預けになりそう。新薬の上市は当分先になりそうなので、業績が今後急拡大する展開は考えづらい。株価は当分横ばいが続きそう。有望な小型株があればシフトしていこうと思う。

IR担当者だった岩田俊幸氏は今後新たな会社でIR部門を立ち上げる予定という。岩田氏はバイオ分野に精通しているので、岩田氏が次に行く会社には注目したい。

今後3年の予想売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は7000億円(株価5500円、PSR65倍)くらい。2030年の予想売上・利益は現在の5倍くらい。

■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
決算説明で医療費用保証「スマホス」についての新たな情報があった。スマホスを導入した病院で患者に「保証会社が集金する」と伝えると、アナウンスメント効果で未収金が大幅に減ったという。病院がスマホスを更新するときは前年の未収金額をベースに保証料を決めるので、未収金が減れば保証料も減る。となると、スマホスの利益率は今後低下していく可能性が高い。スマホスの現在の利益率は15%程度あるようだが、最終的には10%程度まで落ちるのかもしれない。

一目均衡表(週足)では厚い雲があり上値が重そう。次かその次あたりの決算で業績の進捗が順調と確認できればこの雲を抜けそう。
<2年チャート>

今後3年の予想売上高成長率は年15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は200億円(株価900円、PSR4倍)。2030年の予想売上・利益は現在の4倍くらい。

■今後の計画
ポートフォリオはほぼ完成。今後しばらくはこの布陣でいく。市場が荒れてVIX指数が40超、騰落レシオが70以下になったら買い増す。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやインフォマートなど

■気になっている会社 (時価総額500億円以下の会社。上場年の古い順に記載)
・ビジョナリーホールディングス
2019年にエムスリーが30億円出資して筆頭株主になった会社。エムスリーと共同出資で作る次世代型のメガネ屋「センスエイド」が成長の牽引役になりそう。投資するタイミングは2023年頃になりそう。

■観察中の会社
・パークシャテクノロジー
基本シナリオ:最強のAIベンダーに
豊富な手元資金を生かして買収攻勢に出ているもよう。5月にはローコード、ノーコードの開発ツールを1000社以上に提供するアシリレラと、企業向けFAQ・SaaSプロダクトを600社以上に提供するオウケイウェイブのソリューション事業を買収した。両社のユーザーにパークシャのAIアルゴリズムモジュールを提供し、シェア拡大と新たな価値向上を目指すという。

ここで使った金額は約120億円で、現金はあと約100億円残っているので、買収はもう少し続きそう。今回の買収で売上30億円、営業利益10億円くらいが業績に上乗せされる。

ただ、ローコード、ノーコードの開発ツールや自動応答システムは激戦区なので、先行きには不透明感も漂う。この会社は頭脳(アルゴリズム)に強みがあるので生き残れるのではないかと思う。

投資回収期は2023年頃からになりそうなので、それまではしばらく様子見。

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:1.5%~2.5%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↑
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今年の経済成長率は去年からの反動に加え、ワクチン普及による景気回復や大型経済対策などにより+6.0~7.5%(3/7日経)、インフレ率は+2.0~3.0%に上振れする見込み。ただ、来期以降はそれらも落ち着きそう。

・金融政策→
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げており、それを2023年末まで続ける予定だったが、6月の会議(FOMC)でそれを前倒しする可能性を示唆した。「すべてはデータ次第」ということだが、経済は順調に回復していきそうなので、利上げは22年頃から始まるかもしれない。ただし、そのペースは非常に穏やかなものになりそう。

*市場はFRBの緩和縮小により長期のインフレや経済成長が抑制されると考え、FOMC後に長期金利は下落している。

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020年はコロナの影響によりそれが330兆円まで拡大している(日経)。今年はトリプルブルー(青色をシンボルカラーとする民主党が、大統領、上下両院で多数を占める)により民主党の大規模な財政政策が議会を通りやすくなっており、財政赤字は400兆円規模になる見込み。米国債の供給過剰や通貨の信認低下により、長期金利には強い上昇圧力がかかる。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
ワクチン摂取がそこそこ順調に進んでおり、政府・中銀が大規模な経済対策をしているので全体的にリスクオン気味。

・利回り上昇による米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高くなっており、一方で、米国のゼロ金利政策による米短期金利の低下でドルの為替ヘッジコストが大幅に下がっているので、米国債は海外勢の投資需要が強くなっている。金余りで運用難に陥っている日欧の年金基金や生保などは多く、米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するといわれている。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化の影響で住宅ローンなどの借り入れなども減っている。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は長期的な低下傾向にある。

米10年債先物は(やや)売り越しに転換。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート→
<10年チャート>
長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。


■WTI原油 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:50ドル~90ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動するが、今年の成長率は+5.5%程度なので、原油も同程度増える見込み。

ただ長期では、コロナで職場や学校のリモート化が進んだので、コロナ前の需要が完全に戻ることはなさそう。

また地球温暖化への懸念から、環境リスクの高い石油は今後敬遠される可能性が高い。英BPは新興国、途上国の成長などを考慮した「標準シナリオ」では2030年頃まで石油需要は増加を続けるとしているが、コロナや温暖化対策を考慮した「急速シナリオ」では「すでにピークを打った可能性がある」としている。日経

・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる(参照参照)。原油価格はこの範囲内で納まる可能性が高い。

・供給↑
OPECプラスは協調減産を解除しつつあるが需要増に対応しきれておらず供給は締まりつつある。米シェールオイルの生産回復も鈍いまま。米企業は脱炭素の潮流を受けて油田開発をしにくくなっている。

長期では石油開発停滞により供給が不足する可能性が高い。再生エネルギーは成長途上のため、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が順調に進まない可能性が高い。油田開発停止に伴う需給切迫が続けば原油価格が100ドルを超える可能性もある。

・リスクオン、オフ↑
全体的にリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環として原油に資金が流れている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

ただ、6月18日のイラン大統領選で反米保守強硬派のライシ氏が勝利した。核合意の再建交渉はいったん休止するようなので、原油の禁輸措置が早期に解除される可能性は低そう。

・米政府の介入→
米石油産業は1000万人の雇用を生む巨大産業だが、バイデン新大統領は連邦政府所有地での新規採掘・フラッキングの禁止、米国沖合の新たな油ガス田開発禁止、化石燃料に対する補助金廃止、燃費基準の再強化などの公約を掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。

・チャート
<10年チャート>
上昇トレンドに転換したように見える。


■ドル円 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:100円~115円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(92円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では最大限の緩和をしている。

FRBの総資産は2019年末には400兆円程度だったが、それが21年末には955兆円に増える見込み。一方、日銀の総資産は2019年末の610兆円程度から、21年末には780兆円と小幅な伸びに留まる見通し(3/20日経)。総資産の対GDP比の拡大幅は米国の方が大きいので、その分、米ドルの減価率が高くなる。

足元でFRBは緩和縮小に軸足を移し始めている。これは通貨価値の下落を抑制する作用があるが、金利上昇を促す側面もある。

・日米の長期金利差↑
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差が拡大傾向にある。米長期金利の上昇は今後も続く見込みで、米ドルの上昇圧力は増していきそう。足元ではキャリー取引も増えているもよう。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
日本と米国はコロナ対策でともに巨額の財政出動をしているが、米ドルは基軸通貨なので、今後、より思い切った財政政策をとることができる。IMFの試算では、今年の米国の財政出動は名目GDPの28%程度、日本は15.6%程度になる。3/12日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われるが、デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすくなっている。

・リスクオン、オフ↑
リスクオン気味。

・ドル需給↓
コロナショックにより、一時期ドル需要が急激に高まったが、FRBがドルを大量供給して、現在では落ち着いている。現在、世の中に出回るドルの量は歴史的な水準まで膨れ上がっており、そのさなかに米国は巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後は大幅なドル安になっている。参照

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。2020年の買越額は20兆円になる。日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。
*国内勢が外債を買うとき、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い(円高圧力)。海外勢は2019年1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている。ただ足元ではFRBのゼロ金利政策で日米金利差が縮小し、海外投資家が円を買う際に受け取れる上乗せ金利(ベーシススワップ)が減少しているので、日本国債への投資は減っている。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は増えている。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、2020年はコロナ禍で対外直接投資は例年の半分以下まで減っている。日経
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・米経常赤字の拡大→
経常赤字の拡大は外貨の需要を高めるので強力なドル安圧力になる。米経常赤字はコロナ禍で急拡大している。6/24日経

ただ、中長期では民間部門の貯蓄が増加傾向であり、コロナが落ち着けば貿易収支も均衡していきそうなので、経常赤字の拡大は一時的なものになりそう。日経

*米国の政府債務や経常赤字の状況から算出する4月時点の理論上の為替レートは1ドル94円になる。4/18日経

・日本の経常収支→
まずは貿易収支について。
輸入額の4分の1を占める石油・天然ガスの価格が上昇しており、生産の現地化や電子機器(スマホなど)・医薬品の輸入が増加しているので、貿易黒字は減少傾向にある。資源価格は”スーパーサイクル”に入り今後上昇していくという見方もあるので、貿易収支は赤字に転落する可能性もある。2019年の貿易黒字は5000億円、2020年は6700億円になる。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるので円買いは半分(10兆円)程度しか発生しない。
*ただし景気後退期では企業は手元資金を確保するため再投資を減らし本国に送金するので円高圧力が若干増す。過去の例ではだいたい3~4兆円の送金需要が発生している。ロイター
*2020年の経常収支は17兆7千億円(前年比14%減)になる。2/9日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低そう。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただこれと同じことは米国にも言える。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月の終わり頃から売り持ちに転換。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

・チャート
横ばい気味。ボックス圏で推移しそう。
<10年チャート>


■日経平均 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(2/16日経)、日本株もその例にもれない。中銀の総資産の増加は今年いっぱい続く見通し。来年以降はそれほど増えることもなさそうだが、減ることもなさそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約4.7%、配当利回りは約1.8%と、日本長期国債の利回り0.06%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
下がったときは日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2020年の主な投資主体の予想売買動向と現状>
 日本銀行(予)金融政策により0~2兆円の買い越し。現状は8000億円の買い越し。
 事業法人(予)自社株買いにより0~1兆円の買い越し。現状はプラマイゼロ。
 海外投資家(予)景気回復・経済対策期待で2~3兆円の買い越し。現状は1兆5千億円の買い越し。
 個人投資家(予)相続に伴う換金売りと個人投資家の流入で0~1兆円の買い越し。現状は6000億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2021年の予想EPSは+20~30%になる。
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EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は狭いレンジ内で動きそうなので大きな影響はなさそう。

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。2021年は世界景気が回復しそうなので企業業績も上向きそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響で上昇傾向にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫されやすくなる。足元では減価償却費はほぼ横ばい。資源価格は上昇している。

・金融政策↑
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化するが、現在は金融緩和をしているのでほとんど影響ない。
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・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは14倍程度。標準値に収まっている。

投機筋の持ち高
買い残は7800億円で、裁定売り残高は2100億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。12/30日経

・チャート↑
青天モードに入っているので上値は軽そう。
<10年チャート>

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2020年のEPS増減率は-30~-10%、2021年は35%。
・米国株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は36%。2022年は12%。
・欧州株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は35%。
・日本株式の2020年のEPS増減率は-8%、2021年は35%。
*参照:3/12日経5/29日経など
*今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化で設備投資や人件費が減少しているので、企業の利益は増えやすくなっている。

■経済成長率
・世界の2020年の成長率は-3.5%、2021年は6.0%。
・米国の2020年の成長率は-3.4%、2021年は6.4%。
・中国の2020年の成長率は2.3%、2021年は8.4%。
・ユーロ圏の2020年の成長率は-7.2%、2021年は4.4%。
・日本の2020年の成長率は-5.1%、2021年は3.3%。
*数値はIMF予想。1/27日経4/7日経
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標のGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるため、金銭的な数値には反映されにくい。

コロナ禍ではGDPが大幅に落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えたとの試算もある。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えた。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が上がっていれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。5/8日経

*経済の持続的な成長には健全なリスクテイクが必要になるが、今回のコロナのようなテールリスク(確率は低いが起きれば影響が大きいリスク)が実際に起きてしまうと、人々は恐怖を植え付けられ、リスクを取らなくなってしまう。そのため今後の経済は伸び悩む可能性がある(1/5日経)。ただ足元ではコロナ前を上回るほどに起業が増えているようなので、リスクを取らなくなるのは今回被害を受けた一部の業種にとどまるのかもしれない。6/27日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2020年が1.3%、2021年は2.5~3.5%。
・欧州の予想インフレ率は2020年が0.3%、2021年は1.5~2.5%。
・日本の予想インフレ率は2020年が0.2%、2021年は0.5%。
*参照:4/9日経
*参照:米PCEユーロHICP日本CPI
米10年物価連動債利回りから算出される現在の米国の予想インフレ率は約2.3%になる。
*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手側は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。『FREE』の著者クリス・アンダーソンは「モノ中心の経済はインフレ志向になるが、情報中心の経済はデフレ志向になる」と言っている。*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起こると価格がゼロに近づいていく。
*コロナ禍ではデジタルサービスの普及が加速しているので、インフレが起こりにくい土壌ができつつある。
*経済のデジタルシフトは「人」の代替ともいえるものなので、デジタルシフトが起こると人の賃金が上がりにくくなる。所得の増えない経済では支出が増えず、インフレが起こりにくくなる。なお、米国の2020年の生産性はデジタルシフト(業務自動化)により2.6%成長しているが、雇用は3%超減少している。2/23日経
*先進国では高齢化が進んでおり消費(支出)は減少傾向にある。
*現在のように失業率が高い状況では需要が停滞し、インフレが起こりにくくなる。インフレが本格化するのは雇用が切迫し、賃金に上昇圧力がかかってからになる。
*米国ではイノベーションの恩恵がアイデアや資本の出し手に集中するため、所得配分は富裕層に偏りやすい。富裕層は消費性向が少ないため、総需要は供給量に比べて少なくなる。平均的な労働者の賃金上昇が限られるため、金融緩和を続けてもインフレ率は上昇せず、資産価格ばかりが上昇しやすい。
*インフレは需要が供給を上回るときに起こるが、需要はコロナ以前から全体的に停滞気味。一方で供給基盤は安定しているので需要が供給を上回りにくくなっている。ただ米国においては足元で需要が急激に増加しており、一方で供給基盤が一部破壊されているので、インフレリスクが高まっている 2/27日経
*コロナの影響で企業倒産が相次いだ場合は、コロナ収束後に供給が追いつかず、インフレが発生しやすくなる。

*原油など商品価格の停滞もインフレ停滞の要因になる。かつての景気拡大局面では商品価格も大きく上昇していたが、2020年までの景気拡大局面では成長率が穏やかなため商品価格の上昇も穏やかだった。また経済のサービス化に伴い財への需要が弱くなっており、環境保護や省資源化が求められていたこともあり、それらも価格上昇を抑制していた。ただ、足元ではインフレ対策(金余り対策)などにより商品価格が上昇し始めている

*中央銀行の最大の責務は「物価の安定」になる。中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行う。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性は高い。ただ、今はデジタル経済や商品価格の停滞、少子高齢化、グローバリゼーションなどで構造的にインフレが起こりにくくなっているので、中銀のインフレ目標には無理があるようにも見える。
*FRBはインフレ政策を強化しているが、その副作用で金融バブルが醸成されつつある。今後、金融バブルが崩壊した場合は金融システムや経済が大きなダメージを受け、それがインフレ低下につながる恐れもある。
*コロナ対策で世界中の中銀が通貨を大量に供給しているが、これは通貨価値を下落させるのでインフレ圧力になる。
*社会がデジタル化するとあらゆる動きがデータで把握できるようになり、データに基づいた的確な政策を実施できるようになる。2025~2030年頃にはインフレに代わる新たな”経済の体温計”が生まれるかもしれない。

■金利
・米国の2年金利は0.25%で10年金利は1.45%。30年金利は2.08%。
・日本の2年金利は-0.11%で10年金利は0.06%。

*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスになると銀行などに資金を預けても実質的に目減りするため、株式や商品、不動産などに資金が流れやすくなる。現在、G20の約半分の国で実質長期金利がマイナスになっている。
*投資家は企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー(現金収支)を割り引いて企業価値を算出する。金利が上昇すると割り引く分が多くなり、(将来のキャッシュフローの創出期待が大きい)グロース企業の理論価値は下がりやすくなる。
*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.5%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*景気拡大期の「良い金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では株式市場への影響は長期金利よりも政策金利の(引き上げの)影響の方が大きい。1/16ヴェリタス
*景気拡大期終盤の金利上昇では、資金の流れが借り入れから返済に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇を機に起きている。
*低金利が続く環境では企業の資金調達が容易になるので株式上場は減っていく。またM&AやLBOが増えるので上場企業数も減っていく。ロイター

■債務
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる(2019年)。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向(2019年)。
 *GDPは債務返済能力の代理変数になる。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
・コロナにより政府債務は急膨張している。IMFは「21年の先進国の政府債務はGDP比125%と過去最大になる。新興国の政府債務も21年にはGDP比で65%と過去最大になる。国別では日本が突出し、19年の238%から21年には264%になる」と言っている。参照参照
・米政府が抱える債務残高は22年度末の32兆ドル強から31年度末には44兆ドル強に膨らみ、対GDP比率は130~140%になる見通し。6/5ヴェリタス

*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる(2019/7/19ダイヤモンド)。債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回った状態が続くと、どこかで必ず逆回転が起こる。
*米企業はコロナによる経済低迷で借り入れを増やしており、2020年7月には負債総額が過去最高のGDP比83%まで上昇している。一方、企業の債務返済能力は歴史的水準まで低下しており、格付けを下げられる企業が急増している。格付けがジャンク債まで低下するとFRBの支援措置を受けられなくなり、破綻する可能性が高まる。参照参照
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(貯蓄余剰になると、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので金利が上がりにくくなる)。
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*債務の質は劣化しており、2019年には米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
*2020年、20221年は低格付け債(ジャンク債)の発行が過去最高ペースになっている。2/21日経4/11日経
*信用格付けの低い企業は米シェール企業などエネルギー企業に多い。米ムーディーズは2020年6月にWTI価格が40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内にデフォルトすると予想していたが(日経)、現在の原油価格は70ドル超で推移しているのでデフォルトは避けられそう。
*米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。5/10日経
*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨らみやすい。政府債務においても、今のように国債金利がGDP成長率を下回っている状態では、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できるのでこちらも債務が膨らみやすくなる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。参照
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている(参照)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中で財政支出を減らすと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。*財政赤字が拡大すると公共サービスなどの政府機能が落ちていく。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで高まっているので、中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性がある。参照
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費(政府債務)が膨らんでいく可能性が高い。参照
*新興国や資源国の債務も膨張している。このまま景気停滞が続いた場合はデフォルトリスクが高まる(参照)。足元で進んでいるドル高はドル建て債務の返済負担を重くするので、それもまたデフォルトリスクを高める。

■金融政策、財政政策
・コロナ対策で先進国の中銀は金融緩和をしている。一方でメキシコやブラジル、ロシアなどの新興国は経済が疲弊しているにもかかわらず、インフレ対策で金融引き締めに動いている。
・カナダや英国、ノルウェー、ニュージーランド、アイスランドの中銀は景気回復により緩和縮小・利上げに動き始めている。しかし、”世界の中央銀行”である米中銀(FRB)が緩和縮小に動いてないタイミングでそれをやると自国通貨高になるので、縮小ペースは穏やかなものになりそう。5/31日経6/16日経
・日米欧は金融緩和が限界に達しつつある。スウェーデン中銀はマイナス金利だと家計債務の膨張が止まらないなどの理由で2020年1月に政策金利を0%に引き上げている。

*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止、資産価格の上昇になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率が落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレ率も落ちていく。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい土壌を作っていることになる。
*金融緩和が長引くほどリスク投資は膨らみ、金融正常化の際に市場の混乱が大きくなる。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*主要中銀の量的緩和(資産購入)は2019年は40兆円ほどだったが、2020年はコロナショックにより1000兆円まで拡大している(12/31日経)。大規模な資産購入は今年いっぱい続く見込み。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。2019/10/7の日経には財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できる、とある。このような投資に該当するものは出生率向上策や気候変動への取り組みなどになる。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げることができない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上がる、という悪循環に陥ってしまう。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ない。
*先進国の金融政策はほぼ限界に達しているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかない。
*今回のコロナを機に先進国はMMTのような政策に移行したように見える。
*現在行っているMMTのような政策はインフレが生じる前にコロナを制圧できるかが重要になる。それができない場合は深刻な景気後退が避けられなくなる。
*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援をすることが必要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになる。しかし、これをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。参照

■政治
・日本の政治は比較的安定。ただコロナ対策で国民の支持を得られず内閣支持率は低迷気味。足元ではワクチン接種が順調に進んでいるようなので今後支持率は回復していくかもしれない。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国では独裁体制や監視体制が強化されつつあるが、この調子でいくと小説『1984』の世界が現実のものとなるかもしれない。
・英国はEUから「合意ありの離脱」をしたが、EUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のEU離脱時のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは弱まっている。ただ失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
・EUの対コロナの財政政策では、北欧の財政健全国と南欧の重債務国が対立している。財務状態の異なる国々が単一の財政政策をすることにもともと無理があるので、今回のコロナを機にEU解体機運が高まる可能性がある。
*コロナ危機は、コロナ前からくすぶってきた格差問題をさらに悪化させる可能性が高い。今回のコロナショックは中小企業や非正規労働者などの「経済弱者」を直撃しているが、一方で、大規模な金融緩和による資産価格の上昇で株式などの資産を保有する「経済強者」は富を一段と拡大させている。格差問題が深刻化すると、国民の不満がつもり、政治の分断が起きて、社会が不安定になりやすくなる。
*富裕層の支出性向は低く、富が循環しないため、格差が拡大すると経済の潜在成長率が押し下げられる。加えて、オートメーション化で中間層が消失すると、金融緩和、財政拡大、イノベーションが続いても、経済は上向かず物価も上がらなくなる。
*現在、政府や家計の債務は富裕層の貯蓄で手当されている。その債務は膨らみ続けており、それに伴い富裕層の貯蓄も膨らみ続けている。格差の拡大はこのような経路でも起きている。この流れを止める唯一の方法は、政府が富裕層から巨額の税金を徴収して、それを一般市民に再分配することになる。日経

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はコロナにより一時大きく落ち込んだが、足下ではコロナ前を大きく上回っている。
・世界景気の先行指標である世界新車販売台数は2018年、2019年と2年連続で減少していたが、足元ではやや回復しているもよう。*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数もコロナにより一時大きく落ち込んだが、その後、急回復している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数もしかり。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える)。
米国の失業率はコロナショックで4月に戦後最悪レベルの14.7%まで上昇していたが、足下では5.8%まで改善している。ただこの失業率には「理由不明の休職者」は含まれていない。実際の失業率は8%前後に達するともいわれている。3/4ダイヤモンド6/15日経
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るといわれる。
*失業率が最低水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標になるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、2018年、2019年はまさにその状態だった。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は最高値圏で推移している。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは一時大きく落ち込んだが、現在は節目の50を超えて安定的に推移している。*PMIは生産や受注が前月と比べて増えたかどうかを調べるものなので、節目の50を超えたからといって必ずしも経済が全面的に回復したということを意味しない。
・マクロ経済の不透明感を表す経済政策不確実性指数は一時急上昇していたが、現在では落ち着いている。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りはコロナショックで一時大きく下落したが、FRBが低格付け債を買い入れることを決めてから持ち直している。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は「物価上昇」のみ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるといわれる。参照
・米株式市場の証拠金債務(信用取引の買い残高)は米GDP比4%(90兆円超)と過去最高水準にある。過去1年では7割増加している。1930年以降は増加率が6割を超えたところから株式相場が調整することが多かった。今後、金利上昇を起点に逆回転が始まる可能性がある。5/1日経
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は2の段階。

■その他指標
・日米の騰落レシオは98、115と問題のない水準。
・日本株の信用評価損益率は8.19%と問題のない水準。
・チャート 全体的に上昇チャート

長期計画チェック

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
今年はコロナワクチンの普及により景気が徐々に回復していきそう。ただ今回のコロナ禍では債務がさらに積み上がっているので、景気回復の速度は穏やかなものになりそう。2019年のEPSを回復するのは2024年頃になるかもしれない。

ワクチン以外に景気回復を促す要因がいくつかあるので、それらを一通り書いていく。
・イノベーションは経済成長の最も基本的な原動力になるが、今は世界中でイノベーション(デジタル革命など)が起きている。*経済成長の原動力は他に「労働力の増加」と「実物資本(耐久生産財)の増加」がある。
・ネット社会では情報を集めやすく、人が繋がりやすいので、イノベーション(新結合)が起こりやすい。現在はそこにビッグデータとAIが加わっているのでイノベーションが加速している。*AIは一見無関係に見えるもの同士の関連性(新結合)を見つけるのが得意。
・バブルは借金をして資産を買いまくることにより生じるが、今回そのような現象はあまりみられない。現在起きている「金融バブル」は中銀が民間銀行から資金を借り入れて通貨を発行(供給)し、その通貨で国債などの資産を買い入れることにより生じているので破裂しにくい。(日米欧の中銀の総資産は2100兆円を突破し、リーマンショック前の4倍以上に膨らんでいる。日経)。中銀が資金を引き揚げればバブルは破裂するが、中銀はインフレ政策にこだわっているので、資金を引き揚げる可能性は低い。
 *足元では従来型のバブルも醸成されているもよう。2021年4月末時点での米機関投資家や個人の信用取引口座の借入残高は過去最高の92兆円まで膨らんでいる(5/24日経)。日本の株式市場でも信用買いの残高は積み上がっている。5/22ヴェリタス
・社債市場はバブル気味だが、今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では金利が上がりにくく、バブル(高債務)の状態が維持されやすい。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機が起こりにくい。コロナの影響でデフォルト連鎖が起きても金融機関は7%超の自己資本比率を維持できる見通し。参照
・中国の不動産市場にはバブルの兆しがあるが、中国政府の需要抑制策により日本のバブル期ほどの過熱感はない。ただし、シャドーバンキング商品(銀行理財商品、委託融資、信託商品)への投資は過熱感が強く、2017年末の残高は1000兆円とGDP比8割の規模まで膨らんでいる。
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国有企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。たとえ削減できなくても、国有企業の債務は政府債務であり、政府債務は基本的には返済不要なので、債務バブルが破裂する可能性は低い。
・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。

景気後退シナリオもいくつかあるのでそれらも一通り書いていく。
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景気後退シナリオ1:災害や紛争で景気後退
日本ではいずれ必ず南海トラフ地震が起こるといわれており、中東では紛争などの地政学リスクが高まっている。こうした問題が実際に起きると景気には強い下押し圧力がかかる。しかしこのような状況になると必ず政府や中銀が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば経済はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれている。

しかし、今回のコロナのように問題が大きく、長引きそうな場合は、そのまま景気後退に陥ることもある。ただ、そこでも政府や中銀が大規模な支援策を講じるので、景気は反発しやすくなる。歴史的に見ると今回のようなパンデミックは株式市場には追い風で、社会構造・経済構造の転換や金融緩和などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。ロイター

日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生し深刻な景気後退(財政破綻)に陥る可能性が高い(参照)。2つが同時に起きる可能性はそれほど高くはないが、政府は首都直下型地震、南海トラフ地震いずれについても30年以内に起きる確率を70%としている。1/22日経
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景気後退シナリオ2:インフレが過熱し景気後退
景気循環の従来のパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→景気拡大→インフレ過熱→金融引き締め(金利上昇)→債務圧縮→景気後退になる。足元では米国でインフレが進んでいるが、インフレは構造的に継続しにくくなっているので、金融引き締めは穏やかなものですみそう。
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景気後退シナリオ3:中国の債務バブル崩壊で景気後退
中国の企業債務は積み上がっており、その7割以上は実物投資ではなく、リスクの高い金融資産(シャドーバンキング商品)への投資に回っている。景気下振れなどでいったんデフォルトが起きると急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。景気後退に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムともいわれるので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性がある。これらの政治的混乱が相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。
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景気後退シナリオ4:マイナス金利により金融機関が破綻し景気後退
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。しかし現時点では中銀が民間金融機関に配慮しながら金融政策を行っているので、穏やかな統廃合で済みそう。
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景気後退シナリオ5:中銀のインフレ政策が限界に達して景気後退
先進国の中銀はこれまで金融緩和で市場を支えてきたが、その金融緩和が限界に達しつつある。今後市場は支えを失い、大崩れする可能性がある。ただ、中銀の通貨供給能力は健在なので、今後は財政をファイナンスする形で市場を支えていけそう。
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株価下落シナリオ1:米政府の格差是正政策により株価下落
バイデン政権は格差是正を政策の柱に掲げており、企業や富裕層への増税機運が高まっている。法人税が引き上げられれば企業利益を押し下げ、キャピタルゲイン税が倍(40%)に引き上げられれば増税前の利益確定売りは避けられない。ただそれらの増税はコロナ後になりそうなので、当面は問題なさそう。

米政府は「小さな政府」から「大きな政府」に転換して、政府主導の成長戦略を描いている。大規模な公共投資はその代表例で、もしそれが実行されれば金利は上昇局面に入り、金融資産には下押し圧力がかかる。寡占大企業への規制が強化されれば(6/30日経)、株式市場には下押し圧力がかかる。

■今後の計画
円が90円台まで上昇したら、株価3倍以上を狙える海外株などを買っていく。ただ馴染みのある海外企業はすべて巨大なので株価の大幅上昇は見込みにくい。無理して買わないようにする。

よさそうな米国株は、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、フェイスブック、ツイッター、セールスフォース、ドキュサイン、ファイバーインターナショナル。

よさそうな新興国株は、インド株のETF、東京海上インドオーナーズ株式オープン。インドは人口ボーナスで2050年頃までは成長しそう。ただ、高成長国はインフレ率も高いので株価が上昇しても為替差損で思ったほど利益にならないかもしれない。
*GDP成長率とインフレ率は基本的に同程度になる。

よさそうな商品は銅。グリーン革命で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足になりそう。6/7日経

日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフランやスイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。 

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。しかし生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかしそのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した債権を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなるとインフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は大暴落する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
5/3日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。