2021年1月1日金曜日

売買チェック

■12月
売買なし。

■11月
・ジモティー 買い増し
問題のなさそうな決算の後に大きく売られていたから。

 ■10月
・ステムリム 買い増し
株価800円(時価総額450億円)以下は割安感があったから。

しかし、足下では株価640円(時価総額370億円)まで下落している(笑)。この下落は半年前の大規模な信用買いの決済売りが主因だとは思うが、治験開始などのIRに株価が無反応だったのは誤算。株価は”ほぼ”既出の情報には反応しないことがわかった。

<2年チャート>
半年前の大商い時に激増した信用買いの決済期限(1月8日頃)が迫っている。株価は1月半ば頃には底打ちしそうだが、900円台にある壁を突破するのはしばらく先になりそう。

持ち株チェック

 保有比率の高い順に見ていく。

■弁護士ドットコム
基本シナリオ:法律分野をITで変革し最強のプラットフォーマーに
電子契約市場は混戦模様だが、詳しく調べてみるとクラウドサインは優位性を保てそうなことがわかった(詳細は「GMOグローバルサイン」に)。ただ、住友商事やビットフライヤーなどが手がける不動産の総合契約プラットフォーム(10/28日経)のような特定領域に特化した契約プラットフォームが増えると少し厄介になりそう。

弁護士ドットコム事業の方は成長が多少鈍化しているが、弁護士業務のデジタル変革を支援する事業をコンスタントに立ち上げているので特に問題なさそう。

<1年チャート> 株価は200日線と累積売買高線に支えられてそろそろ下げ止まりそう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の「期待相場」は終わったようなので、今後の「業績相場」に期待したい。

今後3年の予想売上高成長率は年率30%程度。現在妥当だと思う時価総額は2000億円(株価9000円、PSR40倍)くらい。2030年の予想売上高は、売上高成長率が年25%の場合は400億円、年35%の場合は860億円。2030年の予想時価総額は4000~8000億円。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
第2四半期決算はパッとしない業績だったが、にもかかわらず、その後株価は大きく上昇した。第3四半期決算は第2四半期決算とほぼ同じ内容だったが、今回は大きく下落した。投資家がいかに気まぐれかということがよくわかった(笑)。

「ジモティー」のアクセス数・ユーザ数はは順調に増えており、プラットフォームの価値(利便性)は順調に高まっているようなので、事業の方は特に問題なさそう。

決算資料に「得意領域だけでも現状の取り扱い量の約51倍もの拡大余地がある」とあったので今後に期待したい。

<1年チャート> 三尊天井(五尊天井?)が完成しており、いったん天井を打った感じ。今後1~2年の業績はパッとしなさそうなので株価はしばらくボックス圏(2200~3200)で推移するかもしれない。

「ジモティー」の主要カテゴリーの件数
・売ります・あげます 7月 893080 →10月 945116 →1月 1013333
・メンバー募集 67116 →69364 →71879
・助け合い 25300 →26203 →27226
・不動産 466478 →511537 →518859
・アルバイト 43710 →44585 →46999
・正社員 13703 →14002 →15335

今後3年の予想売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は280億円(株価4800円、PSR20倍)くらい。2030年の予想利益は現在の10倍くらい。

■ペプチドリーム
基本シナリオ:最強のペプチド創薬プラットフォームに
ヤンセンファーマとPDPSの非独占的ライセンス契約を締結した。これでライセンス契約は9社になった。この契約はPDPSの使用料だけでなく、相手企業がそれを使って独自で開発した新薬の収益の一部も定期的に受領できるものなのでとてもおいしい契約になる。ただ新薬が出るまで開発状況が開示されないのが、もどかしいところ。

武田薬品と神経疾患領域におけるPDC(ペプチド薬複合体)創薬に関する独占的ライセンス契約を結んだ。薬剤にペプチド(や抗体)を合体させ患部に薬剤を正確に届ける”ペプチド(抗体)・ミサイル療法”は副作用が少なく、効果が高いので今後普及が拡大していきそう。第一三共はエンハーツというADC(抗体薬複合体)で企業評価を高め、時価総額で武田薬品を抜いている。武田もPDCで画期的な薬剤を開発して企業評価を高めてくれればと思う。

・・ペプチドリームはプロの評価が極めて高い。ステムリムもこうなってくれれば安泰なのにと思う。

薬価引き下げに積極的なバイデンさんが米大統領になり、米国では薬価引き下げ圧力がかかり始めた。日本では医療費抑制のために毎年薬価が引き下げられている(12月17日経)。このような状況では製造コストの安いペプチド薬への期待が今後ますます高まりそう。

ペプチドリームは富士通、みずほキャピタル、竹中工務店、キシダ化学と5社で感染症医薬開発に特化した会社・ペプチエイドを設立した。今はmRNAワクチンといった、あらゆる感染症に対して短期間で対応可能な予防薬が開発されているが、ペプチエイドでは感染症に罹患した後の治療薬を開発するようなので、これはこれで存在意義がありそう。

今後3年の売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は5000億円(株価4000円、PER100倍)くらい。2030年の予想利益は、売上高成長率が年率20%なら300億円、年率30%なら700億円。2030年の予想時価総額は2兆~5兆円。

■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬が再生医療の主役に
『週刊エコノミスト2020年10月20日号』に国内で行われている脳梗塞治験についての記事があった。ステムリムの競合薬がいつくか載っていたので、それらについて調べてみた。

・ティムスのSMTP化合物。米バイオジェンに総額360億円で導出した低分子薬。血栓除去作用と抗炎症作用が期待されている。適応時間は発症後12時間まで。治験は現在、第Ⅱ相が終了し、結果は21年の半ば頃にわかる予定。

・ヘリオスのマルチステム。英アサシス社から導入した細胞治療薬。厚労省から「先駆け審査指定制度」対象品目の指定を受けている。骨髄由来の間葉系幹細胞から製造する。脾臓からの炎症性細胞の動員・放出を抑制する作用と、抗炎症性細胞の動員・放出を活性化する作用が期待されている。適応時間は発症後36時間まで。治験は現在、後期第Ⅱ相、第Ⅲ相が終了し、結果は21年前半にもわかる予定。

・JCRの細胞治療薬。歯髄由来の幹細胞から製造する。詳細な作用機序や適応時間は不明。治験は現在、第Ⅱ相が行われており、結果は21年の後半頃にわかる予定。

・生命科学インスティチュートのミューズ細胞。骨髄などに含まれる間葉系幹細胞からミューズ細胞を抽出し、それを培養して製造する。ミューズ細胞は脳や心臓、皮膚などの細胞に変化する能力があり、損傷箇所に移動して修復させる効果が期待されている。適応時間は発症後4週間まで。治験は現在、第Ⅱ相が終了しており、安全性と有効性が確認されている(詳細は不明)。

・ステムリムのレダセムチド。塩野義に導出したペプチド薬。骨髄にある間葉系幹細胞を損傷箇所に誘導する(そして修復させる)効果が期待されている。生体内にある核タンパクの一部(HMGB1断片ペプチド)を化学合成して作ったものなので安全性は高く、製造コストは安い。適応時間は発症後24時間まで。治験は現在、第Ⅱ相が行われており、結果は22年の前半頃にわかる予定。

こう見ていくと、ステムリムの治験は他よりも結果が出るのが少し遅れるが、薬剤の安全性、コスト、有効性の面でそこそこ優位なポジションにいるようにみえる。ステムリムの薬剤は幹細胞を誘導するだけなので、他の薬剤と競合しない(併用できる)可能性もある。

12/9の日経に急性期脳梗塞の治療法の1つ「血栓回収療法」についての記事があった。この療法はカテーテルを使って血栓を吸引したり絡め取ったりする方法で、症状によっては発症後24時間まで対応できるという。この治療法では血栓溶解剤「t-PA療法」では対応できない太い血管の血栓も除去できるという。ただこの治療法は難易度が高いので専門医でないとできないという問題がある。ステムリムの薬剤は適応時間でバッティングしているが、治療のしやすさというところに商機がありそう。また血栓回収療法は成功した場合でも後遺症が残ることが少なからずあるようなので、ステムリムの薬剤を併用するという道もあるのかもしれない。

ステムリムの第1四半期決算書には、導出先の塩野義から「(脳梗塞治験の)契約に関わる対価として今後最大で11億9千万円を受領する予定」とあるが、これはティムスのSMTP化合物の導出額(360億円)と比べ見劣りする。塩野義のこの治験に対する期待値はあまり大きくないのかもしれない。

上記を勘案すると、ステムリムの脳梗塞治験はたいして期待できないのかもしれない。

肝硬変の治験が始まった。IR資料には「レダセムチドは肝硬変モデルマウスに対して高い抗炎症、線維化改善効果が確認されており、有効な治療法のなかった線維化を伴う慢性肝疾患・肝硬変の患者に対し、新たな治療の選択肢になり得る可能性があります」とあるので期待できそう。ただ、治験者数はわずか10名であり、脳梗塞治験の150名と比べるとかなり少ないので、塩野義はこの治験に対してもあまり期待してないのかもしれない。肝硬変のような慢性疾患では薬剤を引きつける物質(ケモカイン)の分泌量が少ないので、あまり効かないのかもしれない。

ここまでいろいろネガティブなことを書いてきたが、画期的な表皮水疱症の薬剤がもうじき承認申請されそうであり、これが世界に普及すればステムリムの評価は一変すると思うので、見限るのはまだ早そう。それと今期の予想売上高は23億円とあるが、これは塩野義以外からの受領金の可能性もある。海外のメガファーマとの契約に少し期待したい。

・・ただ表皮水疱症の薬剤の承認申請がまだ出ていない。第Ⅱ相臨床試験の追跡調査の結果も、治験がとっくに終わってるのに、まだ出ていない。表皮水疱症の薬剤は疾患を根治できるものではないので、再投与が必要になるが、そこらへんで何か問題が生じた可能性もある。ここでコケると大暴落するので注意しときたい。

12/24の日経にミューズ細胞について、「新型コロナウイルスの感染拡大で、海外からの入手が必要な材料を調達しにくくなっている」「材料は健康な人から取り出す生体材料にあたる。国内では生体材料に関する規制が厳しく、海外から調達する必要がある」とあった。ミューズ細胞とステムリムのレダムセチドは似た作用機序(仕組み)を持つが、コストと安全性の面でステムリムの方が優位だとわかった。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~10%程度。業績が急拡大するのは早くて3年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は0~500億円くらい。

■eBase
基本シナリオ:最強の商品情報管理プラットフォームに
今期の業績予想が出たが、売上は前年比6%減、営業利益は17%減になるとのこと。前期比減となるのは、コロナによる期ズレや顧客企業の投資抑制が原因らしい。これはほぼ想定通りのことなので特に問題なし。

今後3年の予想売上高成長率は年率10%。現在の妥当だと思える時価総額は550億円(株価1200円、PSR25倍)くらい。2030年の予想利益は現在の3倍くらい。
*PSR算出で使う売上高は「eBASE事業」の売上高だけ。

■チームスピリット
基本シナリオ:最強の業務管理クラウドソフトに
本決算資料からTeamSpiritの解約率が1%以下ということがわかった。以前書いた調査レポートでは15%程度としていたが、それが誤りだとわかった。*レポートを仕上げる時には情報源を確認できなかった。

この情報で、この会社の印象がガラリと変わった。ビジネスモデルはかなり強いので、長期で順調に成長していけそうだと思った。

日本オラクルで戦略担当をしていた山下氏がチームスピリットの戦略企画担当に、セールスフォースなどで働いていた菅原氏がソリューション&セールス担当に、そーせいの株価黄金期を支えた虎見氏が社外取締役になっていることがわかった。成長の勢いが増しそうだと思った。

人材は順調に増えているようだが、主に海外要員のようなので、そこが少しネック。海外事業は期待しにくい。

今後3年の予想売上高成長率は年率25%程度。今年の妥当だと思える時価総額は320億円(株価2000円、PSR10倍)くらい。2030年の予想利益は現在の3倍くらい。

■今年の計画
今年も去年と同様、損益はあまり気にせず、知識をつけることに専念していこうと思う。10月10日の日経ヴェリタスに日本電産の永守会長の言葉「(株式投資は)もうけようと思ったらもうからない。私にとって株式投資は学びを得る場、そこで得たことを事業に生かしていく」が紹介されていたが、こういうスタンスが自分には合っているのかなと思った。

一応、去年の運用成績は+38%。上出来。今年の予想損益は去年と同じ±30%。

GMOグローバルサイン

 ■調べようと思った経緯
12/1の日経にGMOグローバルサインが運営する電子契約サービスのアカウント数が前年比16倍の4.8万件に増えたとあった。当初、GMOの電子契約サービスは「当事者型」で、「立会人型」のクラウドサインとは競合しないと思っていたが、GMOは「立会人型」にも力を入れ始めたようなので、クラウドサインの脅威になるのではないかと思った。

■どんな会社か
電子認証事業と(クラウド)サーバー貸出事業が主力の会社。両事業を活用した電子契約事業やシングルサインオン事業などの新規事業も手がける。

業績は
2018年が売上高127億円、営業利益14億円
2019年が売上高131億円、営業利益14億円
2020年が予想売上高136億円、営業利益15億円
になる。売上構成は電子認証事業が約50%、サーバ事業が約40%、新規事業が約10%になる。海外売上高比率は約35%で、利益の7~8割は電子認証事業が稼ぎ出している。

*電子認証とは
ネット上で安全な情報のやりとりをするには、お互いに相手が誰なのか、別人がなりすましていないか、を確認する必要がある。電子認証局がウェブサイトや電子文書、IOT機器などの実在性を証明(認証)することにより、なりすましや情報の改ざんを防ぐことができる。情報を暗号化し保護する機能もある。

電子認証局がウェブサイトの認証をしたものをSSLサーバー証明書といい、この証明書を発行する事業がGMOグローバルサインの主力事業になる。
*ちなみにSSLサーバー証明書のあるウェブサイトはアドレスバーに鍵マークのついたところになる。鍵マークのついてないウェブサイトで情報を入力すると第三者に情報を盗み見られる恐れがある。

■成長ストーリー
「電子認証プラットフォームを軸に成長加速」が基本シナリオ。

GMOグローバルサインの業績は拡大してはいるが、成長率は年5%以下に留まり、成長力に欠けるところがある。今後は国内No.1シェアの電子認証局・グローバルサインを軸に成長を加速させていくのが、この会社の基本戦略になる。

現在、社会のデジタルシフトが加速しており、ウェブサイトだけでなく、オンライン上の電子文書やIOT機器の認証需要が高まっている。

足下で急速に需要が高まっているのが電子契約の認証(電子署名)で、コロナ下では官民共に「脱はんこ」の流れになっており、電子契約が急速に普及している。

GMOグローバルサインはこの流れに乗り、電子契約事業で攻勢をかけ始めている。この事業はGMOグループのトップ・熊谷社長が陣頭指揮をとり、GMOグループの顧客基盤1300万社にアプローチして、(国内)市場を席巻しようとしている。

GMOの電子契約サービス・電子印鑑Agreeの基本戦略は首位クラウドサインを徹底的に模倣して、低価格と「当事者型」のセットで勝負するというもの。GMOは自社で電子認証局を持っており、「当事者型」では国内No.1シェアになる。そして自社でクラウドサーバーも持っているので、それらを活用して、圧倒的な低価格でサービスを提供することができる。

電子印鑑Agreeの月額基本料は「立会人型」「当事者型」のセットで8800円になるが、クラウドサインは「立会人型」のみで月10000円(ベーシックプラン)になる。パッと見、電子印鑑Agreeの方にお得感がある。

電子印鑑Agreeのアカウント数は19年末の3800件から20年11月には約7万件まで急増しており、首位クラウドサインの10万件(20年9月末)を猛追している。
*電子印鑑Agreeではアカウント数をカウントしており、クラウドサインは導入企業数をカウントしている。アカウントは1社で複数作られることもあるので、両者を単純比較するのは適切ではないかもしれない。

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<電子契約の「立会人型」と「当事者型」について>
・立会人型とは
電子契約システムのサービス提供者(立会人)が、オンライン上で契約する当事者双方の意思を確認し、確認した旨を示す電子署名をする方式。契約に要する時間は最短数分で済み、その簡便さから、世界で主流の電子契約になっている。日本ではこれまで法的な証拠能力が曖昧ということから導入をためらう企業が多かったが、5月に「電子署名法に準拠する」との政府見解が出て、日本でも主流になりつつある。

ただ、立会人型では本人確認がメールアドレスだけでもよいため、なりすましや不正ログインのリスクがある。そのため当事者同士が電子署名した「当事者型」に比べ、証拠能力が若干劣るという欠点がある。

*20年9月に、「二要素認証などをすれば電子認証局による本人確認がなくても問題ない」みたいな政府見解が出ている。

・当事者型とは
電子契約システム(電子認証局)のサービス提供者が、契約当事者双方の本人確認の証明書を発行し、それをオンライン上の契約に紐付ける方式。この方式を使えば契約者の真正性は「立会人型」よりも高まるが、企業の照会や本人の在籍確認などに時間を要するため、証明書の発行に1~2日かかるという欠点がある。

両者の使い分けについては、これまで認め印で行っていた契約は「立会人型」、代表社印を用いてきた契約は「当事者型」になっていく、という説もある。
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株式市場の注目は電子契約事業に集まっているが、GMOグローバルサインが本命視しているのはIOT機器とデジタルデータの電子認証市場になる。今後はあらゆる機器がネットに接続され、すべての文書がデジタルデータ化されていくので、そこに巨大な電子認証市場が発生するとGMOは見ている。

IOT機器には乗っ取りやデータ流出のリスクがあるが、GMOはIOT機器に個別で電子証明書を発行し、その機器のライフサイクルを一括管理できる「IOT IDプラットフォーム」を構築して、そのリスクに対処しようとしている。このプラットフォームの販売はすでに始まっており、21年中にも数十万台の機器に電子証明書を搭載したというニュースを発表する予定だという。

日本では23年に適格請求書保存方式(インボイス制度)が開始される予定だが、デジタルデータ化されたインボイスを電子認証して、管理や手間を半減させる事業も始める予定だという。

これらの電子認証の発行単価はSSLサーバ証明書などと比べると格安になるが、発行コストはほぼゼロで、発行枚数は年間数十億枚を超える見込みなので、GMOはここで莫大な利益を上げられると考えている。

■問題点
・電子認証局のシェアが低い
電子認証局・グローバルサインの世界シェアは4位(5位?)になるが、そのシェアは2.4%に過ぎない。しかも微減傾向にある(参照)。このような状況でどこまで競争力を発揮できるのか疑問。

・革新性がない
この会社のもう一つの主力事業は(クラウド)サーバー事業になるが、アマゾンやマイクロソフト、セールスフォースのような革新性がない。現在はこれらのサービスを模倣し始めているようだが、周回遅れなのは否めない。

電子契約事業ではクラウドサインのサービスを忠実にコピーしようとているが、このようなやり方ではクラウドサインが定義した市場で戦うことになり、熊谷社長の目指すNo.1になるのは難しいのではないかと思う。

・電子印鑑Agreeを企業が本格導入するか疑問
電子印鑑Agreeのサービス内容は表面的にはクラウドサインと酷似しているが、急ごしらえ感が強く、ややこしい電子契約システムを企業が本格導入するのか疑問。

就活サイトに投稿された従業員の口コミに「様々な商品を理解不足のまま 体制ができてないまま取りかからせる」「障害や問題がかなり多い(顧客からの直接的なクレームが多い)」とあるが、この投稿は20年9月のものなので、電子契約事業のことを指している可能性がある。たとえそうでなかったとしても、このような体制では企業は導入できないのではないかと思う。

・シングルサインオン事業(トラスト・ログイン)が伸びてない
SaaS全盛の時代には、そのIDを一括管理するシングルサインオン事業(IDaaS)が伸びそうだが、業績面ではそれほど伸びてない。競合企業がGMOを敬遠しているのだろうか。

・子会社の独立性がない
電子契約事業は親会社の社長が指揮を取っているが、ここまでがっつり経営に介入するなら子会社を上場する意味があるのかと思う。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★☆
・参入障壁は高いか。★★。電子認証やクラウドサーバーの参入障壁はそれほど高くない。
・ストック型ビジネスか。★★★☆。ほぼ全ての事業がストック型(継続課金型)。ただ電子認証(SSLサーバー証明書)は無料のところが勢力を増しているので、今後、価格下落圧力がかかる可能性がある。
・時流に乗っているか。★★★★★。電子文書やIOT機器の電子認証はメガトレンド。クラウドサーバー事業もメガトレンド。

■チャート
<2年チャート>特に問題なさそうな上昇トレンド。今の株価水準がボトムに見える。

■まとめ
この会社のビジネスモデルはそこそこ強そうだが、圧倒的な強みがなさそうなのが問題。会社が思い描くような急成長はしていけないのかもしれない。しばらく様子を見ようと思う。


■クラウドサインは優位性を維持できるか
・シェア低下について
電子契約のようなネットワーク事業は、チャットアプリ・LINEのように、周りが使えば使うほど利便性(価値)が高まっていくが、電子署名は参入障壁が低いので今後クラウドサインの電子署名シェアは落ちていく可能性がある。

ただ電子契約においては、他社の電子署名を使った契約書でも、標準的な仕様で作られた契約書であれば、おそらくどの電子契約管理システムでも使えるはずなので、LINEのような「勝者総取り」構造にはならない可能性が高い。となると、今後は電子契約の管理システムの方に重点が移っていくのではないかと思う。そうなった場合はクラウドサインに分がありそう。

・価格競争に突入するか
GMOグローバルサインの青山社長は11月9日の動画で、電子印鑑Agreeは来期にも黒字化できると言っており、電子契約事業を率いる熊谷社長は電子契約でトップシェアを目指しているようなので、今後は黒字化を後回しにして、さらに価格を下げてくる可能性がある。もし月額基本料を5000円まで下げてきたら、10000円のクラウドサインには割高感が出る可能性がある。

ただこの点に関しても、重要なのは電子契約を管理するシステムだと思うので、電子署名の利用料を下げてもあまり意味がないのではないかと思う。今後は電子契約システムの導入のしやすさ(既存システムや他のビジネスソフトとの連携のしやすさ)、使い勝手、サポート体制が重要になってきそうなので、そこで明確に差異化を図れているクラウドサインには分がありそう。

・「当事者型」がないことについて
クラウドサインには「当事者型」のサービスがないが、「当事者型」にも一定の需要はありそうなので、これがネックなる可能性がある。米ドキュサインは日本で「当事者型」サービスを提供するためか、GMOグローバルサインと技術提携している。ただ、クラウドサインでは「高度な認証機能」を使うことにより「当事者型」に匹敵する本人確認ができるようなので(参照)、「当事者型」がなくても特に問題はないかもしれない。手間の多い「当事者型」は今後廃れていく可能性もある。

上記を勘案するとクラウドサインは優位性を保てそう。ただ、まだ理解不足のところもあり、熊谷社長はヤリ手経営者なので楽観するのはまだ早そう。今後も調査は続けていこうと思う。

■補記
今回の調査で思わぬ収穫が2つあった。1つはクラウドサインについて高度に解説したブログを見つけたこと。今回のレポート作成ではこのブログから多大な影響を受けた(ほぼ受け売り(笑))。エムスリーやGMOペイメントのホルダーはやっぱり違うなと思った。

もう1つは熊谷社長の著作『一冊の手帳で夢は必ずかなう』を読んだこと。熊谷社長は”自己啓発オタク”であり、そっち系の本にはあまり興味がなかったのだが、いざ読んでみると生活習慣が一変してしまった(笑)。85歳までの「未来年表」を作ってみたら、俄然やる気が湧いてきた。

有望株チェック

 よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

■10倍株候補
<10倍株候補の条件は>
 ・上場4年以内の若い会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

・ジモティー。ビジネスモデルが強く、潜在市場が大きいのでテンバガーを狙えそう。

■優良銘柄(株価が急落したときに買いたい銘柄)
<優良企業の条件は>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル

・エムスリー
基本シナリオ:医療分野をITで変革し最強のプラットフォーマーに
医療分野で独占的なプラットフォームを築いている。事業カテゴリーはMR事業、治験事業、人材紹介事業、複数の新規事業、海外事業の5つあり、それらすべてが順調に伸びている。国内のMR事業(医薬品情報サイト事業)だけでもあと5倍の成長余地があり、他の事業もまだまだこれからといった感じ。2030年の予想利益は現在の4~6倍くらいになりそう。チャート上の底値(買い場)は4500円くらいか。

コロナの影響について。人材紹介事業は負の影響を受けそうだが、それ以外はコロナで伸びそう。

・リクルート
基本シナリオ:多数の独占型プラットフォームで安定成長&株主還元
元祖プラットフォーマーのリクルートは、人材、住宅、飲食、美容分野などで多数の市場独占型(寡占型)プラットフォームを構築している。中でも最も勢いのあるのが人材マッチング・プラットフォームのインディードで、20年3月期の売上高成長率は30%に達する。この分野の市場規模は16兆円超あり、インディードの売上はまだ4000億円に過ぎない。リクルートは2030年までにこの分野で世界トップになることを目標にしている。ただ会社全体の売上高成長率は年率6%程度なので急成長企業とはいえない。人材関連事業が売上の7割を占めるているので景気後退の影響を受けやすいという問題もある。2030年の予想利益は現在の3倍くらいになりそう。チャート上の底値は3200円くらいか。

コロナの影響について。ほぼ全ての事業が負の影響を受けそう。ただ長期の成長シナリオは不変。

<インディードの求人件数の推移>
5月 米国 2,417,960 日本 2,543,350
6月 米国   2,590,324 日本 2,501,261
7月 米国 2,891,732 日本 2,564,810
8月 米国 3,116,923 日本 2,393,177
9月 米国 3,214,984 日本 2,938,509
10月 米国 3,346,659 日本 3,110,078
11月 米国 3,459,029 日本 3,192,741
12月 米国 3,379,398 日本  2,839,901
1月 米国 3,279,272 日本 2,030,015

・カカクコム
基本シナリオ:多数の独占型プラットフォームで安定成長&株主還元
価格比較の分野で独占的なポジションを構築している。「価格コム」の成長は頭打ちだが、「食べログ」や、新規メディア事業の「高速バス比較ナビ」「価格コム保険」「ガイエ(映画等のプロモーション事業)」などはまだまだ伸びそう。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいになりそう。チャート上の底値は2200円くらいか。

この会社もコロナの影響を多大に受けそう。ただ低コスト・高収益なビジネスモデルなので、黒字は維持できそう。

コロナ下では食べログの有料プランの解約が相次いでいるようだが(9月時の加盟店数は前年同月比17%減)、今はもっと手数料の安いサービス(テーブルチェック、エビソル、トレタなど)が増えているので、コロナが終息しても顧客が戻ってこない可能性がある。

・GMOペイメントゲートウェイ
基本シナリオ:最強の電子決済代行プラットフォームに
電子決済代行で最も勢いのある会社。日本のEC化率はまだ7%程度なので、成長余地はまだまだある。2030年の予想利益は現在の3~4倍くらいになりそう。チャート上の底値は10000円くらいか。

コロナの影響について。この会社はコロナを追い風にして成長を続けそう。

・インフォマート
基本シナリオ:企業間取引の基幹プラットフォームに
現在インフォマートのプラットフォームを利用する会社は約52万社あり、その大半が請求書プラットフォームを利用している。請求書事業の売上高比率は全体の2割程度だが、この事業の成長余地は少なくともあと3倍はあり、そこで培ったネットワークやデータを活かした新規事業も期待できる。2030年の予想利益は現在の4倍くらいになりそう。チャート上の底値は650円くらいか。

コロナの影響について。主業である食材受発注事業はコロナの影響を多大に受けているが、請求書事業の方は伸びている。

■観察中の会社
・パークシャテクノロジー
基本シナリオ:最強のAIベンダーに
11月の本決算ではアルゴリズム事業の売上の伸びが13%とやや弱め(利益率は低下)。今期の会社予想は売上高成長率を20%~35%と見積もってるようだが、決算資料を読んでもそのような伸びは想像しにくい。豊富な手元資金を活用してM&Aでもするのだろうか。投資回収期は2023年頃からになるので、それまではしばらく様子見。

・中村超硬
基本シナリオ:ナノゼオライトでテンバガー達成
第3四半期決算はパッとしない内容だった。ナノゼオライトを市販できるようになるまではまだまだ時間がかかりそう。投資回収期は2023年頃からになりそうなので、それまではしばらく様子見。

■気になっている会社
<2017年に上場した会社>
・casa。デジタルを駆使した家賃保証サービスを手がける会社。ストック型っぽい収益構成が魅力。ただ先日、社長のパワハラが発覚して(12/2文春オンライン)、興味が失せてしまった。このパワハラを録音した音声を聞くと、堅気の人間とは思えない口ぶりで、思わず笑ってしまった。

・マネーフォワード。家計簿アプリやクラウド会計ソフトを手がける会社。時価総額は2300億円と大きいが、経営者のスケール(器)が大きそうなので、事業をまだまだスケール(大きく)できそう。

・ビジョナリーホールディングス。2019年12月にエムスリーが30億円出資して筆頭株主になった会社。エムスリーと共同出資で作る次世代型のメガネ屋・センスエイドが成長の牽引役になりそう。投資するタイミングは2023年頃になりそうだと思っていたが、エムスリーがさっそく経営合理化に動いたようで黒字転換した。ここは早めに調べたほうが良いのかもしれない。

<2018年に上場した会社>
・アクリート。ショートメッセージ配信代行サービスを手がける会社。具体的に何をしているのかよくわからないが、業績は堅調に伸びており、ストック型のような収益構成になっている。

・シノプス。自動発注システムを手がける会社。市場シェアは14%程度と市場占有率はあまり高くはない。競合が多いので今後は差異化を図るためにeBASEなどとの提携が重要になってきそう。10年後の予想利益は現在の3倍程度か。

・ZUU。ビジネスモデルはあまり強そうではないが、売上は順調に拡大している。社長は野心家なのでひょっとすると大化けするかもしれない。社長が目指す「200兆円企業」は難しそうだが、「2000億円企業」くらいにはなるかもしれない。

・スマレジ。リクルートのエアレジとバッティングしているのでいったんは除外したが、解約率が1%以下なのでビジネスモデルは強い。またレジアプリは勝者総取りという構造でもないので、商機はありそう。株価3000円台のときに、このことに気づけなかったのが残念。

<2019年に上場した会社>
・カオナビ。顔写真を使う人材マネジメントシステムを手がける会社。リクルート系で、競合がいなさそうなのがいい。10年後の予想利益は現在の4倍くらいか。

・ピー・ビーシステムズ。福証に上場するなんらかのクラウドシステムを提供する会社。業績の伸びや利益率が良く、社長が面白そうな感じ。10年後の予想利益は現在の3倍くらいか。

・HENNGE。各種クラウドサービス(SaaS)のIDを一元管理するクラウドサービスを提供する会社。解約率は0.2%以下と低く非常に強いビジネスモデルになる。ただ米オクタや米アマゾン(AWS)、野村総研が本格参入してきたので徐々に競争が激しくなりつつある。スケールメリットがあまりない(ネットワーク効果が働かない)のも問題。10年後の予想利益は現在の4倍くらいか。

<2020年に上場した会社>
・ビザスク。ランサーズを調べているときに見つけたクラウドシーシング会社(調べようと思ったが株価が上がり始めてしまったので調べる気が失せた)。この会社が提供するサービスは「スポットコンサル」なので、大手派遣会社のクラウドソーシング市場参入の影響は受けない。今後クラウドソーシング専業で生き残れる会社はこことココナラくらいかもしれない。

マクロ系金融資産チェック

 市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:0.8%~1.3%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今年はコロナの影響により経済成長率は-4.3%まで低下し、インフレ率は1.3%程度にとどまる。来年は予想経済成長率3.1%、インフレ率1.5%程度になり、若干回復する見込み。
*数値はIMF予想。

・金融政策↓
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げており、長期金利も0%台に抑えようとしている。FRBはゼロ金利政策を完全雇用(失業率4.1%程度)とインフレ率が2%に近づくまで続ける予定。FRBは少なくとも2023年末まではゼロ金利政策を続けると言っている。12/17日経

ただ米国では今年の臨時の財政支出が合計で400兆円を超えている。FRBの国債購入ペースは月8兆円程度なので、今のペースでは長期金利の上昇を抑制できない可能性が高い。FRBは「必要になれば追加緩和に踏み切る」とも言っているので、購入ペースを倍増して長期金利の上昇を抑えにかかる可能性もある。金利の上昇を放置すると、財政出動がしにくくなり、また雇用創出や経済成長も見込みにくくなるので、今後、FRBが国債購入量を倍増させる可能性も少なからずありそう。

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020会計年度はコロナの影響により330兆円まで拡大している(10/17日経)。2021年も高水準の財政赤字が続く見込み。

財政赤字が続くと通貨の信認が低下し、海外の投資家が米国債を敬遠するようになる。ただ、今は世界中が似たような状況なので、米国債だけ敬遠されるという展開にはならないのかもしれない。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
コロナはリスクオフ要因になるが、ワクチンの投与が始まり、政府と中銀が大規模な経済対策をしているので、全体ではややリスクオン気味。

・利回り低下による米国債の人気低下↑
現在の米10年国債の利回りは0%台(インフレを加味した実質長期金利はマイナス圏)なので海外からの購入は減っている。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くないので金利が上がりにくい。少子高齢化の影響で住宅ローンなどの借り入れなどが減っているのも金利低下圧力になる。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率は長期的に低下している。

・チャート→
日足チャートでは底打ち。週足チャートでは天井。しばらく現在の水準(0.9%)を維持しそう。


■WTI原油 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:35ドル~55ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↓
原油の需要予測はIMFの世界経済成長率予想などを基につくられるが、2020年の世界経済成長率は-4.4%まで落ち込んでおり、今期の需要は日量1000~2000万バレル程減少している。来期の経済成長率は5.2%と持ち直す見込み。
*平時の世界の石油消費量は日量約1億バレル。

コロナ下では職場や学校のリモート化が進んでいるが、この変化は不可逆的なところもあるので、コロナが収束しても石油需要が元の水準に戻らない可能性が高い。またESG(環境、社会、企業統治)啓発や技術革新により、環境リスクの高い石油は今後敬遠される可能性が高い。英BPは新興国、途上国の成長などを考慮した「標準シナリオ」では2030年頃まで石油需要は増加を続けるとしているが、コロナや温暖化対策を考慮した「急速シナリオ」では「すでにピークを打った可能性がある」と言っている。9/15日経

・産油国の採算ライン↑
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。3/10日経4/30 日経

この水準以下で石油を生産しても意味がないので、長期でこの水準を下回る展開は考えづらい。

・供給↓
OPECプラスは協調減産を実施しており、それ以外の産油国も油価低迷で産油量を減らしている。現在の油価は産油国の財政均衡ラインを下回っているが、産油国の財政は原油収入に依存しているので今以上減産することはできない。そのため、足下では在庫がだぶついている。

ただ現在は原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより新規の油田開発が停滞しているので、長期的には供給不足に陥る可能性もある。12/16ロイター

・米政府の介入↓
米石油産業は1000万人の雇用を生む巨大産業であり、WTI価格が40ドル程度で推移した場合はシェール企業の4割が2年以内に破綻するとも言われているので(6/30日経)、米政権は原油価格を下支えする政策をとる可能性がある。

一方で、バイデン新大統領はクリーンエネルギーとインフラ投資に200兆円の支出を公約しており、そこには連邦政府所有地での新規採掘・フラッキングの禁止、米国沖合の新たな油ガス田開発禁止、化石燃料に対する補助金廃止、燃費基準の再強化などが含まれているので、トータルでみると、新政権は市場への介入に抑制的になりそうな感じ。

・産油国で不測の事態が起こる↑
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などから産油量が著しく低下している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。

しかし、米新政権はイランやベネズエラに対する制裁を緩和する構えなので、今後原油供給が増える可能性が高い。

リビアでは内戦が続いていたが、8月に停戦合意。今後、原油輸出量は持ち直す見込み。

・リスクオン、オフ↑
コロナはリスクオフ要因になるが、ワクチン接種が始まったのでややリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・為替↑
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかるが、ドルは下落基調なので今後は原油価格に徐々に上昇圧力がかかってきそう。ドル安になると新興国の輸入が増えやすくなるのでこれもまた上昇圧力になる。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、ドル安(円高)が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまっているが、硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかる。

・チャート
短期では上昇トレンドだが、長期では頭打ちな感じ。


■ドル円 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:95円~105円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では最大限の緩和を始めている。

FRBの保有資産は2019年末には400兆円程度だったが、それが2020年末には740兆円まで拡大している。対して日銀の保有資産は2019年末には610兆円程度だったが、2020年末には690兆円と小幅な伸びに留まっている。保有資産の対GDP比の拡大幅は米国の方が大きいので、その分、米ドルの減価率の方が高くなる。

・日米の長期金利差→
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差がほとんどなくなっている。その影響で、為替相場に影響の大きいドル円のキャリー取引は大きく減少している。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ足下では円以外のドルやユーロも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、コロナにより今年はさらに300兆円程上乗せされる。日本も米国と似たような状況だが、米ドルは基軸通貨なので今後、米国はより思い切った財政政策をする可能性が高い。
*IMFは20年の米財政の赤字額がGDP比18.7%、日本が14.2%になると予測している。

・日米の経済の強さの違い→
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われるが、デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。ただコロナショックで米国のデジタル企業以外は多大なダメージを受けているので全体で見るとドル資産の売買は拮抗している。

・リスクオン、オフ↑
大規模な金融緩和や財政出動でややリスクオン気味。
*リスクオフになった場合はまずキャリー取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こる。本格的なリスクオフまで発展すると対外資産の引き上げ(投資撤退)が起こる。日本が保有する対外純資産は世界最大の340兆円になるが、そのうち資産の引き上げが起こりやすい証券投資の割合は3割(100兆円)程度になる。

・ドル需給↓
コロナショックにより、一時期ドル需要が急激に高まったが、FRBがドルを大量供給して、現在では落ち着いている。過去のパターンでは需給が一巡した後は円高になっている。3/24日経5/7ダイヤモンド

・国内投資家の対外証券投資↑
これまで日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っていたので、高い運用利回りが見込める海外債権などを買っていた。しかしコロナショックで外債の利回りも低下しているので、対外証券投資は減りつつある。とはいえ、2020年は6月までに13兆円を買い越している(9/1日経)。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。
*日本の主要生命保険会社は、外債の金利が低下して日本国債の魅力が相対的に増したとして、今年度は日本国債への投資を増やすことに決めている(4/24日経)。一方、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、今後外債投資を強化するという。この強化により今後15~25兆円の対外証券投資需要が発生する。4/1日経
*為替ヘッジ付き米10年債利回りが4月末に約1年半ぶりにプラス圏に浮上し、日本勢は再び米国債を購入し始めている。7/21日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は2019年1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている。現在はFRBのゼロ金利政策で日米金利差が縮小し、海外投資家が円を買う際に受け取れる上乗せ金利(ベーシススワップ)が減少しているので、日本国債への投資は減っている。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、コロナ下では対外直接投資は停滞しつつある。2020年上期の日本企業による海外企業の合併・買収は前年同期比77%減となっている。7/4日経
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・米経常赤字(貿易赤字)の拡大→
米国では財政赤字が大きくなっているが、民間部門の貯蓄が増えているので、経常収支の赤字額はあまり膨らんでない。8/14日経

・日本の経常収支→
まずは貿易収支について。
輸入額の4分の1を占める石油・天然ガスの価格は低下しており、これは貿易黒字要因になるが、日本には世界で稼げるデジタル企業が少なく、モノの生産の現地化が進んでおり、さらには電子機器(スマホなど)や医薬品の輸入が増加しているので、貿易黒字は年々減少しつつある。2019年の貿易黒字は約5000億円にとどまる。2020年はコロナの影響で自動車などの輸出が減少しているので、貿易赤字に転落する可能性がある。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは半分(10兆円)程度しか発生しない。
*ただし景気後退期に入ると企業は手元資金を確保するため再投資を減らし本国に送金するので円高圧力が若干増す。過去の例ではだいたい3~4兆円の送金需要が発生している。5/12ロイター

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価が19500円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が13000円台まで下落すると債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる。3/9日経

・日米の公的債務→
日本と米国の公的債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、コロナの影響でこれがさらに膨らむ可能性が高い。この債務を解消するには、インフレしかなさそうなので、そう遠くない将来にドルショック(ドルの大幅下落)、もしくは円ショックが起こる可能性がある。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
買い持ちが多い。投機筋は円高が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

・チャート↓
長期チャートでは大きな三角持ち合いが完成し、下方に振れている。

■日経平均 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:24000~33000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策↑
日本株はFRBの量的緩和(資産買い入れ)との相関が強いが、FRBは3月から過去最大規模の量的緩和を始めている。世界の主要中銀は2020年に1000兆円程の資産を買い入れている(12/31日経)。中銀の資産購入は今後もしばらく続く見通し。

・利回り↑
日本株式の益回りは約3.6%、配当利回りは約1.8%と、日本国債の利回り0%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
日銀が株式を買いまくっているので日本株は下がりにくい。日銀の買越額は年間6~12兆円になるが、他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は4.5兆円まで縮小)、残りの売り玉はすべて日銀が吸収してくれそう。

 <2020年の主な投資主体の予想売買動向と現状>
 日本銀行、(予)金融政策により6~12兆円の買い越し。現状は7兆円の買い越し。
 事業法人、(予)自社株買いにより2~3兆円の買い越し。現状は1兆3千億円の買い越し。
 海外投資家、(予)景気後退懸念で2~4兆円の売り越し。現状は3兆3千億円の売り越し。
 個人投資家、(予)逆張り投資で1~3兆円の買い越し。現状は6千億円の売り越し。

*事業法人はコロナの影響で現金収入が減っているので、今後は自社株買いより手元資金の確保を優先する可能性が高い。

・EPS(1株利益)↓
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2020年の予想EPSは-30~-15%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気↓
日本企業は海外で6割を稼いでいるので海外景気の影響を大きく受けるが、2020年はコロナの影響で世界景気が停滞しそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、また労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率はコロナの影響で上昇傾向にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↑
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫されやすくなるが、コロナの影響で資源価格は低下している。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは25.26。金融緩和や来期の業績を考慮するとこのくらいが妥当なのかもしれない。

投機筋の持ち高
買い残は3600億円で、裁定売り残高は1兆3400億なので、投機筋は日本株が下がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。12/30日経

・チャート↑
新高値を突破しているので上昇トレンドは続きそう。

市場環境チェック

 株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■ファンダメンタルズ
<EPS成長率>
・世界株式の2019年のEPS増加率は8%、2020年は-30~-10%
・米国株式の2019年のEPS増加率は3%、2020年は-30~-15%
・欧州株式の2019年のEPS増加率は3%、2020年は-30~-15%
・日本株式の2019年のEPS増加率は-8%、2020年は-30~-15%
*参照:8/11日経8/14日経9/16日経など
*2020年はコロナの影響で大幅な減益予想になるが、コロナ抜きで考えると、今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化に伴い設備投資や人件費が減少しているので、企業の利益は増えやすい状況になっている。
→問題あり

<経済成長率>
・世界の2019年の成長率は2.9%、2020年は-4.4%、2021年は5.2%
・米国の2019年の成長率は2.4%、2020年は-4.3%、2021年は3.1%
・中国の2019年の成長率は6.1%、2020年は1.9%、2021年は8.2%
・ユーロ圏の2019年の成長率は1.3%、2020年は-8.3%、2021年は5.2%
・日本の2019年の成長率は0.9%、2020年は-5.3%、2021年は2.3%
*数値はIMF予想。10/14日経
*IMFは「新型コロナウイルスによる感染第2波が発生すれば、2021年の世界経済成長率はゼロ成長にとどまる」と言っている。6/25日経
*IMFは「先行きは巨額の公的・民間債務が経済成長を抑えるため回復力は鈍化する。25年までの6年間で経済損失は3000兆円に達する」と言っている。10/14日経
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただしデジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標の一つであるGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されているサービスの大半は公共財に近い性質があるため、金銭的な数値には反映されにくい。今は若い人ほど幸福度が高いという調査結果が出ているが、これはデジタルサービスの恩恵を最も受けているためとも言われている。
*仏経済学者のジャン・フーラスティエは今から70年くらい前に「農耕社会、工業社会の後にはサービス社会へ移行するが、そこは経済成長のない世界になる」と言っている。11/27日経
→問題あり

<インフレ>
・米国の予想インフレ率は2019年が1.8%、2020年は1.3%
・欧州の予想インフレ率は2019年が1.2%、2020年は0.3%
・日本の予想インフレ率は2019年が0.9%、2020年は0.2%
*参照:米PCEユーロHICP日本CPI。*中央銀行は基本的にはこの指標を基に金融政策を策定するが、12/11日経には、米10年物価連動債利回りから算出される予想物価上昇率で政策を決めるみたいなことが書かれているので、こちらの物価も重要なのかもしれない。この予想物価上昇率は現在、1.97%になる。
*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手側は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。『FREE』の著者クリス・アンダーソンは「モノ中心の経済はインフレ志向になるが、情報中心の経済はデフレ志向になる」と言っている。*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争により価格が限りなくゼロに近づきやすい。
*コロナ禍ではデジタルサービスの普及が加速しているので、インフレが起こりにくい土壌ができつつある。
*ITにより少ない人数で多くの富を生めるようにはなったが、富はIT企業に集中し、社会全体に分配されにくくなっている。低中所得層の所得が伸びないと、需要も伸びず、物価も上がりにくくなる。
*経済のデジタルシフトが進んでいるが、デジタルシフトは「人」の代替ともいえるものなので、人の賃金が上がりにくくなっている。所得の増えない経済では支出も増えず、インフレが起こりにくくなる。8/14日経
*インフレとは需要が供給を上回るときに起こるが、需要は停滞気味で、世界的に供給基盤は安定しているので、需要が供給を上回りにくくなっている。
*原油など商品価格の停滞もインフレ停滞の要因になる。かつての景気拡大局面では商品価格も大きく上昇していたが、今回の景気拡大局面では成長率が穏やかなため商品価格が上がりにくくなっている。経済のサービス化に伴い財への需要が弱くなっている面もある。環境保護や省資源化が求められていることもあり、今後も商品価格の停滞が続く可能性は高い。

*コロナの影響で解雇や賃下げが発生して購買余力が低下している。また感染への恐れから消費も停滞している。企業収益は悪化しており、設備投資も減少している。全体的な需要不足でデフレ圧力がかかりはじめている。需要と供給力の差である需給ギャップは2025年まで年平均で4.5%悪化するとも言われている。8/20日経
*コロナ後の世界ではデジタル化が進み、サービス業などで働く比較的賃金の低い労働者らが失業の脅威にさらされるリスクがある。11/13日経
*コロナの影響で企業倒産が相次いだ場合は、コロナ収束後に供給が追いつかず、インフレが発生する可能性がある。
*コロナ対策で世界中の中銀が通貨を大量に発行しているが、これは通貨価値の下落を引き起こすのでインフレ圧力になる。
*日本では足下で円高が進行しつつあるが、これは輸入物価の下落を通じてデフレ圧力がかかる。

*中央銀行の最大の責務は「物価の安定」になる。中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行う。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性は高い。ただ、デジタル経済や商品価格の停滞、少子高齢化、グローバリゼーションなどを考慮すると、中銀のインフレ目標には無理があるようにも見える。
*FRBはインフレ目標政策を強化しているが、その副作用で金融バブルが醸成されつつある。今後、金融バブルが崩壊した場合、金融システムや経済は多大なダメージを受け、それがインフレ低下につながる可能性もある。中銀がインフレ目標にこだわりすぎることで、逆にそれが目標達成を遠ざけてしまう可能性がある。
*ゼロインフレが続く環境では、中央銀行は物価安定策(インフレ抑制策)をする必用がない。そのため今後、中央銀行の主要責務は物価安定から金融安定にシフトしていく可能性が高い。6/30日経
*社会がデジタル化するとあらゆる動きがデータで把握できるようになる。そうなればデータに基づいた的確な政策を実施できるようになる。2025~2030年あたりにインフレに代わる新たな「経済の体温計」のようなものが生まれるかもしれない。
→問題なし

<金利>
・米国の2年金利は0.12%で10年金利は0.92%。30年金利は1.66%。
・日本の2年金利は-0.12%で10年金利は-0.03%。
*実質金利(名目金利-インフレ率)は資金の行方を決める最大の材料とも言われるが、現在G20の約半分の国で実質金利がマイナスになっている。7/25日経
*米国の実質長期金利は-0.9%くらいなので、資金は国債・預金から株式・商品(金など)にシフトしている。
*FRBはゼロ金利政策を続けながら「平均2%インフレ目標政策」を導入するようなので、インフレ期待が高まれば実質金利は-2%あたりまで低下する可能性がある。8/8日経
*長期投資家は長期金利が0.5%近辺の状態では、金利が2%以上の状況に比べ、2.5倍高いバリュエーション(投資尺度)でも株式を選好すると言われている。8/8日経
*過去150年の米国の株式益回りと長期金利の差(イールドスプレッド)は平均3%になる。イールドスプレッドが3%を割り込むと株価の割高さが嫌気され売られやすくなるが、7月のイールドスプレッドは3.9%と売り込まれる水準にはない。現在の米国株のPERは過去の平均よりも高い水準にあるが、金利を軸に見た場合は特に割高感があるわけではない。8/12日経9/12日経 *足下ではイールドスプレッドが3%を割り込んでいる。
*金利が下がると企業の資金調達が容易になるので株式上場は減っていく。またM&AやLBOが増えるので上場企業数も減っていく。9/18ロイター
*足下では長期金利がジリジリと上昇している。金利低下局面では、将来の利益を現在価値に割り戻す際の割引率(金利)が下がり、高いバリュエーション(株価指標)が容認されるので、グロース株が買われやすいが、現在のような金利上昇局面ではその逆の理屈が成り立つので、グロース株が売られ、バリュー株が買われやすくなる。
→問題なし

<債務>
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる(2019年)。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向(2019年)。
 *GDPは債務返済能力の代理変数になる。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
・コロナにより政府債務は急膨張している。IMFは「21年の先進国の政府債務はGDP比125%と過去最大になる。新興国の政府債務も21年にはGDP比で65%と過去最大になる。国別では日本が突出し、19年の238%から21年には264%になる」と言っている。10/15日経10/15日経
*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる(2019/7/19ダイヤモンド)。債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回った状態が続くと、どこかで必ず逆回転が起こる。
*米企業はコロナによる経済低迷で借り入れを増やしており、2020年7月には負債総額が過去最高のGDP比83%まで上昇している。一方、企業の債務返済能力は歴史的水準まで低下しており、格付けを下げられる企業が急増している。格付けがジャンク債まで低下するとFRBの支援措置を受けられなくなり、破綻する可能性が高まる。7/4ヴェリタス7/6日経
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(貯蓄余剰になると、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので金利が上がりにくくなる)。*IMFによると世界の貯蓄額は2004年から投資額を上回っている。10/28日経
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*債務の質は劣化しており、2019年には米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場はない。
*信用格付けの低い企業は米シェール企業などエネルギー企業に多いが、原油安によりそれらの企業の信用リスク(デフォルトリスク)が高まっている。米ムーディーズはWTI価格が40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内にデフォルトすると予想している。6/30日経
*格付け会社のムーディーズやフィッチは「米国のジャンク債市場のデフォルト率は1990年、2000年、2009年の景気後退時はいずれも10%前後であったが、今回はその水準を上回る可能性もある」と言っている。6/4ヴェリタス
 *米企業のデフォルトは2021年春~年央にかけてピークを迎える可能性が高い、とも言われている。7/4ヴェリタス
*米企業は過剰な自社株買いなどで財務体質が脆弱になっていたところにコロナが直撃したので、さらに財務が脆弱になっている。
*大型のデフォルトが複数起こり、信用収縮が起きた場合は、設備投資の縮小や資産価値の下落が起こる。
*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。政府債務においては、今のように国債金利がGDP成長率を下回っている状態では、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。2019/10/7日経
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている。2019/11/10日経
 *政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中で財政支出を減らすと、景気悪化を招き財政赤字はさらに膨らみやすくなる。
 *財政赤字が拡大すると公共サービスなどの政府機能が落ちていく。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は2016年に政府出資の資産管理会社(AMC)を設立し、不良債権の最終処理を進めている。*AMCとは銀行の不良債権を分離して買い取り、それを海外の投資銀行や資産運用会社などに売却する会社。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性が高い(2019/7/28日経)。
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費(政府債務)が膨らんでいく可能性が高い。1/18日経
*新興国や資源国の債務も膨張し始めている。このまま景気停滞が続いた場合はデフォルトリスクが高まる。7/23日経
*足下ではドル安が進んでいるが、ドル安は新興国のドル建て債務の返済負担を軽くするので、新興国に強力な金融緩和効果をもたらす。21~22年頃から新興国市場が盛り上がるとも言われている。7/2ダイヤモンド
→問題あり

<金融政策、財政政策>
・コロナショックで世界中の中銀が金融緩和をしている。
・日米欧は金融緩和が限界に達しつつある。
*スウェーデン中銀は2020年1月にマイナス金利だと家計債務の膨張が止まらないなどの理由で政策金利を0%に引き上げている(2019/12/20日経)。金利緩和の限界が露呈しつつある。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止、資産価格の上昇になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率が落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作っているという一面もある。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*主要中銀の量的緩和(資産購入)は2019年は40兆円ほどだったが、2020年はコロナショックにより1000兆円まで拡大している(12/31日経)。大規模な資産購入は2021年も続く見込み。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。2019/10/7の日経には財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できるとある。このような投資に該当するものには出生率向上策や気候変動への取り組みなどがあるという。ただし、完全雇用の状況では労働力不足でこのような需要喚起策は打てない。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレなどで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで利上げをしたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上がる、という悪循環に陥ってしまう。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ない。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかない。
*今回のコロナを機に先進国はMMTのような政策に移行したように見える。
*現在行っているMMTのような政策はインフレが生じる前にコロナを制圧できるかが重要なポイントになる。それができない場合は深刻な景気後退が避けられなくなる。
*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援策をすることが重要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになるが、もしこれをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。4/5日経ヴェリタス
→問題なし

<政治>
・日本の政治は比較的安定。ただ管首相のリーダーシップの弱さが露呈し始めた感じで、内閣支持率は9月の74%から足下48%まで低下している(12/29日経)。第一印象通り、管首相は表舞台には不向きな人だったのかもしれない。経済政策が良さそうなだけに少し残念。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・中国では独裁体制や監視体制が強化されつつあるが、この調子でいくと小説『1984』の世界が現実のものとなるかもしれない。
・英国はEUから「合意ありの離脱」をしたが、これから始まるEUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のEU離脱時のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっている。ただ失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
・EUの対コロナの財政政策では、北欧の財政健全国と南欧の重債務国が対立している。財務状態の異なる国々が単一の財政政策をすることにもともと無理があるので、今回のコロナを機にEU解体機運が高まるかもしれない。
*コロナ危機は、コロナ前からくすぶってきた格差問題をさらに悪化させる可能性が高い。今回のコロナショックは中小企業や非正規労働者などの「経済弱者」を直撃しているが、一方で、大規模な金融緩和による資産価格の上昇で株式や不動産を保有する「経済強者」は富を一段と拡大させている。経済格差と政治の分断(社会の不安定化)には明確な因果関係があると言われており、今後、所得再分配策やベーシックインカム、資産課税などの議論が活発になっていきそう。8/8ヴェリタス12/09日経
*富裕層の支出性向は低く、富が循環しないため、格差が拡大すると経済の潜在成長率が押し下げられる。また格差拡大で中間層が消失すると、金融緩和、財政拡張、イノベーションが続いても、経済は上向かず物価も上がらなくなる。
*現在、政府や家計の債務は富裕層の貯蓄で手当されている。そしてその債務は膨らみ続けており、それに伴い富裕層の貯蓄も膨らみ続けている。格差の拡大はこのような経路でも起きている。この流れを止める唯一の方法は、政府が富裕層から巨額の税金を徴収して、それを一般市民に再分配することになる。10/14日経
→問題あり

<その他の景気後退シグナル>
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はコロナにより一時大きく落ち込んだが、足下では急回復している。
・世界景気の先行指標である世界新車販売台数は2018年、2019年と2年連続で減少している。*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数もコロナにより一時大きく落ち込んだが、その後、急回復している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数もしかり。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えると言われる)。
米国の失業率はコロナショックで4月に戦後最悪レベルの14.7%まで上昇していたが、足下では6.7%まで改善している。
 *失業率には「理由不明の休職者」は含まれていない。この人口を加算すると失業率はさらに5%上昇する。5/11日経
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われる。
*失業率が最低水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。4/25日経
・米景気の先行指標になるダウ輸送株ラッセル2000は急回復している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、2018年、2019年はまさにその状態だった。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は高値圏で推移している。ただこれはEVブームとコロナによる産出地の供給減の影響が大きそう。
・世界景気を半年先取りするOECD景気先行指数(4月発表)は98.8と節目の100を下回っている。4/8日経
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIも一時大きく落ち込んだが、現在は節目の50を超えて安定的に推移している。*PMIは生産や受注が前月と比べて増えたかどうかを調べるものなので、節目の50を超えたからといって必ずしも経済が全面的に回復したということを意味しない。
・マクロ経済の不透明感を表す経済政策不確実性指数は「世界」「米国」「中国」で高水準で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りはコロナショックで一時大きく下落したが、FRBが低格付け債を買い入れることを決めてから持ち直している。*シェールガス企業などの投資不適格債(ジャンク債)はFRBの購入対象外になる。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれるが、今は「長短金利の逆転」だけ。*デフォルト率はジリジリと上昇しており、2021年の中頃までは上昇を続けそうなので、社債スプレッドは今後跳ね上がる可能性がある。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果がある言われる。5/29国際通貨研究所
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多いが、今は利上げ局面が終了し、利下げ局面に入っている。
→問題あり

■テクニカル
・チャート
グロース株(割高株)と逆相関の関係にある米10年金利が上昇基調にある。このまま金利が上昇を続けると、グロース株には下落圧力がかかる。ただ、長期チャートを見ると金利は今の水準がほぼ天井にも見えるので、グロース株への影響は限定的なものになるかもしれない。

<1年チャート> 底打ちして上昇トレンドに入っている。

<2年チャート> 分厚い雲(抵抗帯)にぶつかっている。テクニカル指標は短期より長期の方が信頼性が高いので、金利は今が天井の可能性がある。
→問題なし

・騰落レシオ
日経平均 100
NYダウ 125
ナスダック ?
→問題なし

・信用評価損益率
ー13.76 %
→問題なし

■まとめ
現在、米VIX指数は低下しており、投資家の現金比率は4%程度まで低下しているので(12/16ブルームバーグ)、市場はやや楽観気味。一方で市場の波乱を織り込むスキュー指数は143と高水準で推移しているので、今後、株価はいったん大きく下げることもあるかもしれない。ただその後はお馴染みの金融緩和と財政拡大で再び上がっていきそう。ただインフレ過熱だけはバブル崩壊のトリガーになるので、そこだけは注意しときたい。

ーーーーー
1年以内に米国が景気後退に陥る確率:100%。
*景気後退とはGDP成長率が2四半期連続でマイナス成長になること。

1年以内に中国の債務バブルが破裂する確率:30%
中国はデフォルトモードに入っていたところに(2019/11/29日経)コロナが直撃したのでデフォルトモードが加速している(11/23日経)。社債の償還がピークを迎える2021年,2022年頃(2019/12/27日経)に中国共産主義は危機を迎えるのかもしれない。ただ、中国の独裁体制は2000年以上続いているようなので(4/14日経)、そう簡単には終わらなさそうでもある。

長期計画チェック

 「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
今後はコロナにより景気後退に陥りそう。新型コロナは終息するまであと1~2年はかかりそうなので(4/2日経)、しばらくは厳しい状況が続くかもしれない。今回の景気後退では企業の債務が整理されず、逆に膨らむのでコロナ収束後の景気拡大は非常に穏やかなものになりそう。2019年のEPSを回復するのは2024年頃になるかもしれない。

景気の落ち込みを和らげる要因もいくつかある。それらを一通り書いていく。
・イノベーションは経済成長の最も基本的な原動力になるが、今は世界中でイノベーション(デジタル革命)が起きている。
・ネット社会では情報を集めやすく、人が繋がりやすいので、イノベーション(新結合)が起こりやすい。現在はそこにAIが加わってイノベーション速度は加速している。*AIは一見、無関係に見えるもの同士の関連性(新結合)を見つけるのが得意。
・バブルは借金をして資産を買いまくることにより生じるが、今回そのような現象はあまりみられない。現在起きている「金融バブル」は中銀が通貨を発行して、それで資産を買いまくることにより生じているので破裂しにくい。日米欧の中銀の総資産は2100兆円を突破し、リーマンショック前の4倍以上に膨らんでいる(11/13日経)。ただマネックス証券の社長が「人生で初めてお金を借りて(株式に)投資している」と語っているように、足下では従来のバブルも起こっている模様。10/17アエラ
・社債市場はバブル気味だが、今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では金利が上がりにくく、バブル(高債務)の状態が維持されやすい。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機が起こりにくい。コロナの影響でデフォルト連鎖が起きても金融機関は7%超の自己資本比率を維持できる見通し。6/27日経
・中国の不動産市場にはバブルの兆しがあるが、中国政府の需要抑制策により日本のバブル期ほどの過熱感はない。ただし、シャドーバンキング商品(銀行理財商品、委託融資、信託商品)への投資は過熱感が強く、2017年末の残高は1000兆円とGDP比8割の規模まで膨らんでいる。
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国有企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。
・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。
・中国は独裁体制のため、不況に陥るとすべての批判が指導部にふりかかる構造になっている。そのため指導部はなんとしても不況を起こさないようにする。
・先進国の中銀はインフレターゲットを2%に設定しているが、現在のようなインフレが起こりにくい環境でインフレ2%を達成・維持するには株高のような資産価格の維持・上昇が不可欠になる。そのため中銀は市場に優しい政策をとらざるを得ない。

コロナ以外の景気後退シナリオもいくつかある。それらを一通り書いていく。
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景気後退シナリオ1:災害や紛争で景気後退?
日本ではいずれ必ず南海トラフ地震が起こるといわれており、中東では紛争などの地政学リスクが高まっている。こうした問題が実際に起こると景気には強い下押し圧力がかかり、過去のパターンでは株価が15~35%下落している(2/29日経)。しかし、このような状況になると必ず政府や中銀が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば経済はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスと言われている。
*今回のコロナのように問題が大きく、長引きそうな場合は、そのまま景気後退に突入することもある。ただ株式市場の方は金融緩和や財政拡大により上昇しやすくなる。歴史的にみるとパンデミック(世界的な感染大流行)後の株式市場では、金融緩和や社会・経済構造の転換などにより、長期にわたる株高が発生している。12/15ロイター
*今回のコロナで企業倒産が相次いだ場合は、コロナが収束した後で供給が追いつかなくなり、V字回復ができなくなる。
*日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は景気後退を通り越して財政破綻するとも言われている(2019/10/11日経)。もしそうなった場合は1000兆円超の損失が発生するようなので強烈な株安・円安が発生する可能性が高い。
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景気後退シナリオ2:中国の債務バブル崩壊で景気後退
中国の企業債務は積み上がっているが、その7割以上は実物投資ではなく、リスクの高い金融資産(シャドーバンキング商品)への投資に回っている。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起きれば急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。景気後退に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムとも言われているので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性もある。これらの政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。
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景気後退シナリオ3:マイナス金利により金融機関が破綻し景気後退
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。しかし現時点では中銀が民間金融機関に配慮しながら金融政策を行っているので、穏やかな統廃合で済みそう。
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景気後退シナリオ4:中銀のインフレ政策が限界に達して景気後退
先進国の中銀はこれまで金融緩和で市場を支えてきたが、その金融緩和が限界に達しつつある。今後市場は支えを失い、大崩れする可能性がある。ただ、中銀の通貨発行能力は健在なので今後は財政政策主導の財政ファイナンスで市場を支えていけそうでもある。
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景気後退シナリオ5:米長期金利が上昇し景気後退
米国は財政が著しく悪化しているので、長期金利には上昇圧力がかかっている。長期金利が上昇すると株式や不動産が売られ、借り入れが減り、景気後退に陥りやすくなる。ただ、今はFRBが米国債を無制限に買う方針を示して長期金利をコントロールしているので長期金利は低位に抑えられそうでもある。
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景気後退シナリオ6:インフレが過熱し景気後退
景気循環の従来のパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→景気拡大→インフレ過熱→金融引き締め→債務圧縮→景気後退になるが、今回はインフレが過熱しないので、景気後退に陥りにくい。
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景気後退シナリオ7(株価下落シナリオ):上院で民主党が50議席を取り株価下落
1月5日に米国ジョージア州で上院2議席を決める投票が行われるが、そこで民主党が2議席をとると大統領・上下院ともに民主党になり、民主党の政策が通りやすくなる。民主党の政策は大規模な財政出動や大幅増税、ハイテク企業や石油企業への規制強化になるので、株式市場(特にハイテク株)には下落圧力がかかる。ただ、コロナ下では増税しにくく、対コロナの経済対策規模が大きいので、株式市場への影響は(当面は)限定的になりそうでもある。
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景気後退シナリオ8:上記の景気後退シナリオ複数が同時に起こる。
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■今後の計画
コロナや米中貿易戦争などで景気後退は避けられそうにないが、低インフレ×金融緩和×イノベーションにより株価の上昇は続きそう。押し目がきたら淡々と買っていこうと思う。

円が95円くらいまで上昇したら、外国株を買っていく。おそらく今回の円高が最後の円高になる。

円高時に仕込みたい外国株
・UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35) 。スイス株式で構成されたETF。”最強通貨”のスイスフラン建てなので円安・ドル安対策によさそう。組み込まれている銘柄はネスレやロシュなど優良グローバル企業なので安定成長も期待できる。
・(米)アルファベット、アマゾン、マイクロソフト。規制リスクはあるが、情報社会の根幹にある「データ」を抑えているので長期の成長が期待できる。
・(米)VISAや(米)マスターカードはやっぱりなし。今は手数料が安く、利便性の高いフィンテック企業が多数出現しているので、手数料の高いVISAやマスターカードはやや劣勢に立たされる可能性がある。
・(米)フェイスブック、ツイッター。SNSで盤石な地位を確立しており、今後も年率10%超の成長は期待できる。
・(米)セールスフォース、ドキュサイン。日本企業を調べていて見つけた優良成長企業。社風が良さそうなのがいい。
・NASDAQ100ETF。第4次産業革命の中核ETF。日本市場で簡単に買えるのがいい。
・アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信(為替ヘッジなし)。腕利き米国人が運用する趣味の良さそうなファンド。
・米国株式長期厳選ファンド。奥野一成氏が運用するビジネスモデルが堅固な企業に投資する永久保有系ファンド。積み立てオンリーなのがやや難。
・インド株のETF。インドは2040年まで人口ボーナス期が続く。2060年までの成長速度は主要国でトップになりそう。10/16日経
・東京海上・インド・オーナーズ株式オープン。インドのオーナー企業に投資するファンド。
・インドネシア株のETF。インドネシアは2030年まで人口ボーナス期が続く。
・銅。銅をたくさん使う電気自動車などにより銅の需要は長期的に右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などにより供給が追いつかなくなる可能性がある。現在の銅の採算ラインは1トン5500ドル程度。

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。ただ、生活者に余裕のない状態で財政健全化をすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには通貨を大量発行するしかない。現在、政府が大量発行した債権を中銀が買い取る形で通貨を大量発行しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値が下落していき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなるとインフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は(外貨換算で)大暴落する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。

ちなみに、ゼロ金利が続くような環境では、利回りゼロの国債に投資しても意味がないので、株式全般が上昇しやすくなる。中でもグロース株への投資が優位になる。ゼロ金利が続くような環境では、企業の将来の利益を現在価値に割り引く際の割引率(金利)が下がり、高いバリュエーション(株価指標)が許容されやすくなる(成長性が評価されやすくなる)。