2023年1月1日日曜日

10~12月の売買

■10月
売買なし

■11月
・米ドル 売り(レバ5倍)
米景気が後退すると思ったから。欧州の景気後退は避けられそうになく(10/24日経)、中国景気にもあやしい雰囲気が漂っているので(10/27日経)、米景気もその影響を避けられないと思った。10月の終わりに景気後退の強シグナルである米3ヶ月金利と10年金利の逆イールドが発生していたので(10/28日経)、近々米国も景気後退入りすると思った。

ドル円に影響力の強い米10年金利が10月20日頃にチャート上で天井を打っていたから。円も天井をつけると思った。

・米ドル 買い戻し 損益-1%
米景気が後退するのはしばらく先だと思ったから。
米景気が後退するまで4~5%のスワップポイントを支払い続けるのがうっとうしいと感じたから。ドル売りをする場合は3ヶ月くらいで結着をつけないとダメだと思った。おそらくそのタイミングの見極めは無理なので為替の売買はもうやらないと思う。ただ2月頃に1ドルが140円を超えていたら、また少し考えてみる。

現在、1ドル131円とこの2ヶ月で急速に円高が進んでいる。円高に動いたきっかけは11月10日の米CPIショック(11/11日経)と、12月20日の日銀の長期金利の上限引き上げ(12/20日経)になる。これはまったく予想できなかったが、今回の円高は行き過ぎた円安の単なる揺り戻しに見えなくもない。

・サスメド 買い
サスメドが手がける不眠症治療アプリの医療承認が間近だったから。承認後に注目度が上がり、株価も上がると思った。
日本では睡眠に問題を抱える人が多いので不眠症アプリのデジタル処方が伸びると思ったから。ソフトウェアは参入障壁の低さが問題になるが、国から承認を受ければそれが障壁になると思った。

チャートが”セットアップ(下がりにくく上がりやすいチャート)”されていたのもよかった。

・サスメド 全売却 損益-2%
米国で不眠症アプリを上市しているPear Therapeutics社の業績と株価が低迷していたから。Pear社は医療承認されているアプリが4つくらいあるにもかかわらず、11月時点の株価は1.7ドル(時価総額約300億円)と低位にあった。11月時点でのサスメドの時価総額は約200億円あり、割高感があった。

米国で治療用アプリの普及が低迷している要因は、ITリテラシーの不足、新形態の治療への抵抗感、機密情報管理の問題などがあるらしい。

当初、医療アプリは臨床試験を経て承認されたものなのでソフトウェアをアップデートできないものかと思っていたが、医療ソフトに関してはアップデートできるようなのでこの点は問題ないことがわかった。

ただそれでも活動量計などのウェアラブル端末と連携してないのはまずいと思った。サスメドの不眠症アプリは認知行動療法を促すだけのものなので、フィットビットやアップルウォッチなどと連携した健康管理アプリと比べて物足りなさを感じる。シンガポールのアクティボラブスやスイスのダカドゥーなどが開発するアプリは、ウェアラブル端末と連携し、健康分野の公開データや統計学、医学論文などを加味したアルゴリズムで健康スコアを算出する(11/30日経産業)。このようなアプリから受け取る助言の方が的確なものになりそうだと思った。またこの分野にはグーグルやアップルも注力しており、2社が持っているデータ量は桁違いなので、いずれはこの2社が覇権をとりそうだと思った。

モバイル端末を利用したモバイルヘルス市場は有望だとは思うが、ソフトウェアの競争力という観点から見てサスメドは厳しそうだと思った。

12月5日にサスメドの不眠症アプリが医療機器調査会で審議入りしたというニュースを受け、株価は1300円から2000円に急騰した。しかしその後は急落して1000円まで落ちている(現在は1171円)。大きく下げたのはPear社の急落も影響しているのかもしれない。Pear社の株価は現在1.18ドル(時価総額200億円)まで下落している。

■12月
売買なし

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
第3四半期決算は業績の伸びは弱かったが、全体的にはそれほど悪くない印象だった。新規事業の掲載課金型広告は順調なようで、今後は広告代理店のような事業も始めるという。ジモティーはユーザーの居住エリアや性別、年齢などのデータを持っており、全国でサービスを展開しているので、うまいことやれば稼げそうだと思った。

「ジモティー」で「雑談」コーナーが立ち上がった。これは「地域SNS」のようなものに発展していく可能性がある。少し期待したい。

川崎市がジモティーと提携した。川崎市では2023年7月から粗大ゴミの処理手数料を値上げする予定で、その影響を緩和するためにジモティーと提携したという。おそらく他の自治体も似たような状況だと思うので、このような流れは広がっていきそう。

<グーグルトレンド 過去5年の推移>
ほぼ横ばい。ページビューとの相関はそこそこになりそう。

<iPhoneのジモティーアプリ・ランキング>
2022年4月は30位。7月15位。10月21位。現在は12位。

<「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数>
・売ります・あげます 2022年4月 14860604 →7月 15540651(+680047) →10月 16507035(+966384)→2023年1月 17533994(+1026959)
・中古車 891605 →880663(-10942) →899161(+18498) →1020510(+121349)
・アルバイト 1173013 →1029785(-143228) →1175078(+145293) →1165733(-9435)
・正社員 263384 →288632(+25248) →297837(+9205) →349910(+52073)
・不動産 4746672 →5066025(+319353) →2731414(-2334611) → 2734151(+2737)
・メンバー募集 755081 →777596(+22515) →800154(+22585) →823552(+23397)
・助け合い 381023 →392329(+11306) →409002(+16673) →426671(+17669)
・イベント 285390 →298778(+13388) →314690(+15912) →330160(+15470)
・教室・スクール 186931 →190520(+3589) →195454(+4934) →199244(+3790)
・地元のお店 165633 →170234(+4601) →176953(+6719) →183685(+6732)
・里親募集 122899 →127698(+4799) →136674(+8976) →144211(+7537)
*投稿件数は「取引終了分」も含めてカウントされているので、実際に取引可能な投稿件数は上記の13分の1くらいになる。
*「アルバイト」や「不動産」は増えてないように見えるが、11月1日と12月1日にカウントしたときは大きく増えていたので特に問題なさそう。

<第4四半期の売上高予想>
まずは前回の予想の振り返りから。第3四半期の売上高予想は、ページビューが小幅減、広告単価は小幅増で自動配信売上が横ばいの3億3000万円、マーケティング手数料(セルフサーブ型広告収入)も横ばいの8500万円、エスクロー決済手数料は小幅減で2200万円と想定すると、売上高は4億3700万円になる(累計売上高は13.4億円になる)、だった。

実際は、ページビューは小幅減、広告単価は微増?で、自動配信売上は横ばいの3億2700万円。マーケティング手数料もほぼ横ばいの8700万円、その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)は微減の2500万円、売上高は4億4000万円(累計売上高13.4億円)だった。この中で「その他手数料」が予想より若干上振れていたのが印象的だった。これは新しく始めた掲載課金型広告の収入が増えたためかもしれない。

以上を踏まえて、第4四半期の売上高予想は、ページビューが微増、投稿数も微増、広告単価は小幅増で自動配信売上高は小幅増の3億5千万円、マーケティング手数料は微増の9200万円、その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)はほぼ横ばいの2600万円と想定すると、売上高は4億7000万円になる(累計売上高は18.1億円になる)。期初に発表した会社計画(19.4億円)から若干下振れする。
*去年の第4四半期の広告単価は大きく上昇しているが、それはCMを打っていたため。CM実施時は広告単価が上昇するらしい。今期は第3四半期も第4四半期も広告を打っていない。

2023年12月期の売上高は、17.5~20.5億円くらいになりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は100億円(株価1650円、PSR5倍)くらい。2030年の予想売上高・利益は現在の2~3倍くらい。


■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
第2四半期決算で上方修正が入った。売上高が62億から62.3億円(計画値から1%増)に、営業利益が14.5億円から15.3億円(計画値から11%増)に上振れた。決算説明会の社長の口ぶりからは、今後さらに上振れる可能性があることもうかがえた。

業績の牽引役は家賃債務保証事業で、ソリューション事業のC&Oサービスから保証事業へのシフトが順調に進んでいるという。C&Oサービスから債務保証への切り替えはもう2,3年はかかるとのことなので、その間は現在の業績拡大ペースを維持できそう。通常の家賃債務保証の新規契約も、賃貸住宅の新設着工数が堅調なので、順調に積み上げていけそうだという。

ゼロゼロ融資の終了(12/14日経)や景気後退により家賃債務保証の未収金が増えるのではないかと懸念していたが、企業の貯蓄は積み上がっているようなので(11/1日経12/8日経)特に問題なさそう。

決算説明では、業務センターの移管・集約により生産性が改善し、前期急増した業務委託手数料は商品構成の変更により今後は増えにくくなるとも言っていた。利益率は高まっていくのかもしれない。

医療費用保証事業は、今期新規契約5、解約4と、新規契約が少なく解約が増えているのが気になるが、今期は人員を増やして営業体制を強化しているので、今後は積み増していけそうだという。この商材にはいくつかの懸念事項があるが、順調にいってくれればと思う。

介護費用保証事業は、費用を親族が払うので商材の需要はなさそうだと思っていたが、商材に小額の傷害保険や賠償保険を自動付帯させたら需要が一気に増えたという。介護市場は巨大なのでこの事業が軌道に乗れば業績にインパクトが出そう。

前回の決算説明で事業債務保証を間もなく始めると言っていたが、その点のついての言及はなかった。代わりに、近々新しい保証商材を発表すると言っていた。少し期待したい。

11/1日経11/1日経11/2日経に「経営者保証」に関する記事があった。経営者保証とは金融機関が中小企業に融資するときにつける保証で、倒産したときに会社資金で返済できない分を経営者の資材で返済してもらうというもの。国は国内で企業を促すために、今後はこの経営者保証を規制する方針という。イントラストはこの保証に関与できるのではないかと思ったが、これは単なる融資審査みたいなものなので、イントラストの出る幕はなさそう。

今回の決算説明はポジティブサプライズが多かったが、問題は動画をアップするタイミングが遅かったこと。機関投資家向けの決算説明会が開かれてから1週間たってようやく動画がアップされた。その間に株価は大きく上がってしまった。もう少し個人投資家に配慮してほしいと思った。

決算資料を読んで気になったことがこの説明会では質問されていなかったので、今回は個人投資家向けの説明会に参加して質問してみた。質問は2つ。1つは、「スマホス(医療費用保障)の解約率が5%に上昇しているが、解約の理由は何か」というもの。社長の返答は曖昧で、その点に関しては調べていないという感じだった。かわりに「解約率5%はつまり継続率95%ということで、90%を超える継続率は優秀」というような説明を受けた。確かにそれはその通りだとは思うが、商材の改良につなげるために解約の理由は聞いた方がよいのではないかと思った。

もう1つは、「リーマンショック級の景気後退が起きた場合、家賃債務保証でどのくらいの未収金が発生しそうか」というもの。この返答も不明瞭で、そういったことは想定していないという感じだった。かわりに「比較的安定した業態。まったく想定できなような何かが発生した場合はおそらく対応できる。体制は整えている」というような説明を受けた。イントラストはリーマンショック時に倒産の危機に陥っているのに(参照)、想定していないのはいかがなものかと思った。ただ現在の財務状態はおそらく当時よりもかなりよいので、それほど心配しなくてもよさそう。

今回の質疑応答でおもしろく感じたのは、このような答えにくい質問をわざわざ選んで回答していたこと。チャットフォームに書かれた質問は全部で10くらいあり、時間の関係で3つまでしか回答されなかったが、その中で上記2つが選ばれた。ここの社員はガッツがありそうだと思った。ただ後にアップされたこの説明会の動画は質疑応答のシーンが全てカットされていた笑。

2027年までのイントラストの成長シナリオと業績予想をざっと書いておく。今後2年は家賃債務保証事業が業績を牽引し、24年3月期の売上高は75億円、営業利益は17億円になる。その後は医療費用保証が業績を牽引し、27年3月期の売上高は110億、営業利益は24億になる。この時点での医療費用保証の導入病院数は300になる。

今後3年の予想売上高成長率は年10~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は180億円(株価800円、PSR3倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2.5~3倍くらい。


■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
急性期脳梗塞の第2相治験の結果の詳細がわかった。プラセボ投与群の改善率は18%、レダセムチド投与群は34%だった。これでレダセムチドの有効性が示唆されたとのことだが、それほどインパクトのある内容ではなかった。先日グロース市場に上場したティムスも急性期脳梗塞の第2相治験を行っているが、結果はプラセボ投与群の改善率18%、TMS-007投与群は40%だった。ティムスの方が改善率が高い。ただ薬を投与できるタイミングはティムスが発症後12時間以内なのに対し、レダセムチドは発症後24時間なので、レダセムチドの方が若干長い。また作用の仕組みが異なるので併用できる(競合しない)可能性もある。

グローバルで行う第3相の脳梗塞治験の計画も発表された。国内の第2相治験では対象患者が60~85歳だったが、グローバル治験では18歳以上に対象範囲が広がった。投与するタイミングは国内治験が発症後4.5~24時間だったが、海外治験は発症~25時間に変わった。素人的には、若年者は幹細胞が多いのでグローバル治験はレダセムチドの改善率が上がりそうだと思ったが、プロは「治験被験者が60~85歳(第2相)から18歳以上(予定第3相)と一挙に広がる。偽薬群の改善率↗️が見込まれ個人的には厳しい結果を予想する」「欧米では若年者の脳梗塞が増加中で高齢以外の危険因子を持つ者が多い。治験除外基準をうまく設定しないと第3相治験は泥沼へ」と、プラセボ群も上がるという。ほかにもネガティブな点があるようで少し心配になる。どっちに転ぶかわからないが、おとなしく結果を待っていようと思う。

グローバル治験は12月から始まる予定だったが、まだ始まっていない。悪い情報は出ていないのでもうじき始まることを期待したい。国内治験では治験が始まってから結果が出るまでに32ヶ月かかっている。グローバル治験も同じくらいの時間がかかるとすると結果は2025年の後半あたりにはわかりそう。

表皮水疱症の追加治験も2022年12月頃から開始の予定だったがこちらも始まっていない。患者あっての治験なので多少開始時期がズレることもあるのかもしれない。こちらの結果は結果は2024年の中頃にはわかりそう。

<イベント一覧>
・変形性膝関節症の第2相治験結果が2023年の2月頃に出る。
・慢性肝疾患の第2相治験結果が2023年の4月頃に出る。
・心筋症の第2相治験が2023年の半ば頃に始まりそう。
・表皮水疱症の第2相・追加治験の結果が2024年の中頃にわかりそう。
・脳梗塞(急性期)の第3相治験結果が2025年の後半あたりにわかりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~20%程度。業績が急拡大するのは早くて2年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は30~500億円くらい。

■今後の計画
インフレが落ち着くまで静観する。ただし米VIXが40超、騰落レシオが70以下になった場合は買っていく。株価が下げたときに買えるように銘柄のリストアップ・調査をしていく。

12/17ヴェリタスに「景気後退入りして最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。そして景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わる可能性が高い。しかし景気後退入りから5~14ヶ月の間に株を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい」とある。
また9/13日経には「1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月で、その期間の株式の平均下落期間も16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行する」みたいなことが書いてあるので、景気後退が始まってから10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になるのかもしれない。
米景気は2023年半ば~2024年初め頃に景気後退入りしそうなので、株を買うタイミングは24年半ば頃になるのかもしれない。

次回構築するポートフォリオは半分くらいをドル建てにしたい。

■去年の運用成績と今年の予想
去年の予想運用成績は±35%だったが、実際は-30%。-50%くらいは覚悟していたが、予想の範囲内に収まっていた。金融資産が減ったのは悲しいが、知識は着実に積み上がっており、今後の見通しもそれほど悪くないので特に問題なさそう。今年も淡々と知識を積み上げていこうと思う。今年の予想運用成績は-25~10%。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若い
 ・オーナー企業
 ・時価総額が300億円以下
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやリクルートなど

■よさそうな会社
・サイバーエージェント、Zホールディングス、エムスリー、リクルート
時価総額は大きいが長期で成長できそうな優良テック企業。仕込むタイミングさえ間違わなければ株価3倍は目指せそう。この中で一番面白そうなのはサイバーエージェントになるが、事業がほぼ国内のみなので円安の恩恵を受けられないのがネック。Zホールディングスもしかり。長期で考えるとエムスリーやリクルートの方がよいのかもしれない。

・マネーフォワード、フリー、弁護士ドットコム
優良SaaS企業。時価総額が微妙に大きく強敵がいるのがネックだが、市場拡大と超優秀なスタッフにより業績3倍は目指せそう。SaaS企業は足元で大きく売り込まれており、だいぶ値ごろ感が出てきた。ただマネーフォワードとフリーが低価格で電子契約SaaSを始めていることに気づいた。電子契約はコモディティ化が進んでいるのかもしれない。そうなると弁護士ドットコムはやや厳しい展開になる。

・SUMCO。シリコンウエハーを製造する会社。高品質のシリコンウエハーへの引き合いは強く、増産投資もしているので長期で成長できそう。底値で買えば株価3倍は目指せそう。

・メック。電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる(11/26ヴェリタス)。株価が下げたときに買えば3倍は目指せそう。

・オキサイド。12/22の大スポで紹介されていた銘柄。「レーザーテックと株式持ち合いをしていて、同社向けのレーザー光源を独占供給している。しかも半導体(露光装置)世界最大手ASMLもオキサイドから納入していて、世界シェアを独占している。ほかにも超高品質なSiCウエハーを共同開発する国の補助金事業も有望。半導体の演算処理を電気ではなく光で処理する次世代技術でもキーになる会社で“超”将来性がある」。テンバガーのにおいがする。

・パラマウントベッド
日本は2025年以降、団塊の世代が後期高齢者入りし始め、介護の需要爆発が起きるとされる。一方、少子化や共働き世帯の増加、厳しい労働条件、外国人労働者の減少などで介護人材の供給が追いつきそうにない。厚労省は2040年に医療や介護など福祉関連の人材が96万人不足すると推計している(11/21日経)。人手不足の問題を和らげる一つの策は介護のデータ化、デジタル化になる。例えば要介護者のベッドに睡眠・心拍・呼吸センサーを付けると、遠隔で患者の状態を確認できるようになり、夜会巡回が不要になる(11/22日経)。またセンサーで呼吸数などを継続的に計測すると発熱や認知状態を予測できるようになるともいわれている。パラマウントベッドは数年前から介護施設に睡眠・心拍センサーを提供している。NTT西と共同で睡眠センサーとAIで睡眠の質を解析し、高齢者の睡眠改善を促すサービスも始めている(12/8日経産業)。パラマウントベッドの医療・介護用ベッドの国内シェアは7割に達しており、センサーの普及は始まったばかりなので、今後の需要爆発・業績拡大が期待できる。

・エス・エム・エス
介護・医療業界向けの人材紹介サービス最大手。介護事業者の経営支援も行っている。業績の柱である人材紹介サービスの成長は今後も期待できるが、それ以上におもしろそうなのが介護システムSaaS事業になる。このシステムは介護記録はもちろん、勤怠管理、従業員・利用者の健康管理、オンライン面会などができる。介護分野のDXはまだ始まったばかりなので、このシステムもセンサーと並んで潜在力がある。

・SREホールディングス
12/26日経に紹介されていた銘柄。「SREホールディングスは適正な不動産の売買価格をAIで素早く査定するシステムを手がける。不動産業界では正確な売却価格を査定するために現地に訪問して物件状況や周囲の生活環境を調査する。相場価格のほか、過去の類似物件の取引価格を手作業で調べて算出するため手間と時間がかかる。SREホールディングスは周辺の相場のほか、協力してくれる顧客企業から成約価格のデータをもらい、AIの精度を高め、10分程度を査定書を作成できる。AIによる査定価格と実際の成約価格を比べた誤差率は4%程度で、人が判断したときの誤差率は7~8%なので、AIの方が適正な価格を算出できる。契約社数は2500社と1年前から7割増。解約率は0.6%程度。このシステムは消費者側にも利点がある。不動産を売りたいときは情報が不足し、適正な価格の判断ができず、買い手側が優位な状況が多い。AI査定で作成した査定書には解析データが記載されているので消費者も客観的に適正価格を知ることができる。矢野経済研究所は不動産テック市場は25年度に20年の2倍に膨らむと予想している。SREホールディングスは培った技術を応用し、証券会社向けのAIシステムも開発。証券会社の顧客の住所から不動産価格を推定し、過去の証券取引データと組み合わせて潜在的な富裕層を見つけ、金融商品の提案につなげている。社長は「業界を超えて需要は高い」と語る」

・アサヒホールディングス。貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しており貴金属リサイクルはメガトレンドになっている。アサヒは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。割高感はなく、配当はよい。底値で買えば株価2倍は目指せそう。ヴェリタス


■IPO企業
今年も新規に上場した会社を調べた。ただ直近で上場した会社は売買や評価が落ち着いていないので、2022年に上場した会社は調べなかった。今回調べたのは2021年10月~12月に上場した会社のみになる。

まずはそれらの会社を調べる前に、去年ピックアップしたIPO企業をみていく。

・STIフードホールディングス。主にセブンイレブン向けの惣菜(焼き魚やカップサラダ)を製造している会社。成城石井や世田谷自然食品などの高級スーパーなどへの納入も始めており、やや高級路線で攻めている。惣菜・弁当市場は単身世帯の増加に伴い拡大傾向にあるので今後も伸びが期待できる。9月に生産設備増強のための増資を実施しており、23年12月期には生産能力が現在の60%増になる見込み。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★☆

考察:2021年12月30日の株価は2860円。現在の株価3060円。
株価は3月くらいに1800円まで沈んだが、現在は去年より少し高い水準。業績は悪くなく、新工場稼働により今後生産拡大が期待できる。しかし成長力がやや地味な印象。

・プレイド。ウェブ上の消費者行動を分析するSaaS「KARTE」を開発・提供する会社。この分野では国内トップシェア。レッドオーシャン市場だがグーグルと提携しているので期待が持てる。時価総額は800億円(PSR10倍)とやや大型になるが伸びしろはありそう。ただグーグル以外の差別化ポイントを素人が見つけるのは難しそう。
<ビジネスモデルの強度> ★★★☆
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★☆
時流に乗っているか ★★★★★

考察:2021年12月30日の株価は2135円。現在の株価663円。
株価は年初が天井で、その後360円まで下落している。この下げはSaaSバブル崩壊の影響もありそうだが、下げの度合いが大きすぎるのでそれだけではなさそう。ただ興味がわかないのでそれ以上調べる気が起こらない。

・ポピンズホールディングス。ベビーシッターの派遣、保育所・学童施設の運営、介護の在宅支援サービスなどを手がける会社。15~64歳女性の就業率は7割を超えており、共働きが増えているので需要は底堅い。コロナの影響で一時成長が鈍化したが、足元では回復傾向。投資を着実に実行しており、今後も穏やかな成長を続けていけそう。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★★

考察:2021年12月30日の株価は2943円。現在は1533円。
株価は年初をピークに11月に1400円台まで下落。コロナ対策で人員を増やしたことなどが影響して業績は下振れ。コロナが明ければ業績は回復しそうだが、成長力はやや地味な印象。

・coly。スマホゲームの開発・運営を手がける会社。女性向け恋愛ゲームに強い。ゲームのキャラクターを利用したグッズ販売や舞台化、アニメ化も手がける。スマホゲーム市場は成熟市場かつレッドオーシャン市場ではあるが、双子姉妹の共同代表や内定倍率100倍を勝ち抜いた優秀なスタッフ(女性比率72%、外国籍社員比率10%、平均年齢28歳)により独自性のあるものを作れそう。IR資料に「同性婚歓迎」といった記載もあるので、LGBTQ向けのニッチゲームも生まれるかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ★★
参入障壁は高いか ★
ストック型収益か ★★
時流に乗っているか ★★★☆

考察:2021年12月30日の株価は2456円。現在の株価は1095円。
株価は3月に3100円台まで上昇しているがその後は下落基調。スマホゲーム市場はやはり成熟&レッドオーシャンで優秀なスタッフがいても厳しそう。

・Enjin。中小企業や医療機関に「PR支援サービス」を提供する会社。決算資料を読んでも具体的に何をやっているのかよくわからない会社だが、売上・利益は力強く伸びている。ホームページを開くと従業員の”圧”のあるPR感が伝わってくるので、なにかしらのPR力はありそう(IRのPR力はないが)。こういうわかりにくい会社は誰も調べないと思うので、ある意味チャンスかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ?
参入障壁は高いか ?
ストック型収益か ?(数字を見る限りストック型っぽい)
時流に乗っているか ?

考察:2021年12月30日の株価は2239円。現在の株価は1820円。
株価は4月に好業績を好感して3520円まで上昇しているが、その後はPR支援サービスのキャンセル増加や業績の進捗悪化などにより下落している。IRはわかりやすくなっており、この会社のやっていることは独自性がありそうなので調べてみる価値はありそうだが、いかんせん業態的に興味がわかないので調べる気にならない。

・アイ・パートナーズフィナンシャル。IFA(独立系金融アドバイザー)のサポートサービスを手がける会社。日本では資産形成層を中心に証券投資への意欲が高まっており、今後はそれをサポートするIFAの存在感も高まっていきそう。それに伴いIFAサポート事業も伸びそう。ビジネスモデルは有望に見えるが、時価総額が30億円と割安感がある。
<ビジネスモデルの強度> ★★★☆
参入障壁は高いか ★★★
ストック型収益か ★★★☆
時流に乗っているか ★★★★☆

考察:2021年12月30日の株価は850円。現在の株価は479円。
株価は年初以降、下落基調。ここはストック型のビジネスモデルだと思っていたが、調べてみるとそうではないことがわかった。市況悪化や競争激化などの影響もあり、業績は悪化が続いている。

・ベイシス。通信・電力・ガス等の事業者に対し、通信インフラの設計・施工・運用・保守を提供する会社。店舗内にAIカメラを設置したり、スマートメーターの設置・保守などを手がける。5G時代にはIOT機器が爆発的に増えていくのでその波に乗れそう。ただ事業の半分程度を「設計・設置」などのフロー型ビジネスが占めているため、ストック型の会社という感じではない。当初この会社は、電波塔のシェアリング事業を手がけるJTOWERのような存在かと思ったが、それとは全く異なるもよう。それほど特色のある会社ではないのかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★★☆

考察:2021年12月30日の株価は4875円。現在の株価は2144円。
株価は半値落ちし、その後は緩やかな下落傾向。業績はそれほど悪くなさそうで成長ストーリーも描きやすそうではあるが、他社と差異化できるような特色はなさそう。

■まとめ
今回わかったのは、優秀そうな経営陣がいてもビジネスモデルが弱いと成長は難しいこと、IPO後1年は株価変動が激しく半値落ちがザラにあること、IPO後に力強く成長できる会社は全体の5%以下なこと、リスクに見合うリターンは得られそうにないこと、あたり。

前回の調査で見落としていたのはバイセル・テクノロジー。ここは高齢者宅へ出張訪問をして貴金属など高価なものを買い取り、オークションなどで販売する会社。査定時には現場査定に加え、モバイル端末を利用した専門家鑑定も行う。このようなニッチでアナログな領域をデジタルで変革していく会社こそピックアップすべきだと思った。

以上のような点を踏まえて、2021年10月~12月に上場した会社の中からめぼしい会社をピックアップした。今回ピックアップしたのは、サスメド1社。サスメドについては冒頭の売買記録のところに書いた。


■ZAIで紹介されていた銘柄
「ZAI 23年1月号」に10倍株特集が掲載されていたので久々に買ってみた。紹介されていた銘柄の中で目を引いたのはケアネットとカオナビの2社。簡単に調べてみた。

・ケアネット
国内の医師の約7割が登録する医療情報サイトを手がける。エムスリーの小型版のような会社。売上の9割は医師への医薬品情報の提供事業になる。30億円だった売上は新型コロナ発生後に90億円まで拡大している。会社は今後3年でさらに3倍の売上300億円、営業利益100億円にする計画を立てている。

ケアネットは医薬DX市場が現在の1200億円から10年後には3000~4000億円まで拡大すると推計している。M&Aや事業提携などをしてこの流れに乗っていくのが基本戦略だという。

事業計画書を読んである程度の説得力は感じたが、あと3年で業績3倍になるイメージはわかなかった。会社がこの計画を立てたタイミングは業績が急拡大していたときなので、少し楽観的になりすぎていたのではないかと思う。

仮に医薬DX市場がケアネットの推計通りに拡大するとしたら、素直にエムスリーを買おうと思う。

・カオナビ
タレント・マネジメント・システム「カオナビ」(SaaS)を開発・提供する会社。タレント・マネジメント・システム(人事管理システム)とは、従業員が持つ能力やスキル、他システムのデータなどの人材情報を一元化し、人事や経営の課題を解消するシステム。これを使うと人材配置シミュレーションや人材評価の効率化、ハイパフォーマー分析、モチベーション分析、離職分析などができる。

日本企業は人手不足感が強く、人材のミスマッチなどの課題も抱えているため、タレント・マネジメント・システムへのニーズは強い。にもかかわらず2021年の導入済み企業はまだ約13%にすぎない。調査会社のITRは今後3~5年は年20~30%の市場拡大が続くと予想している。

カオナビの業績は足元で力強く拡大しており、解約率は0.5%以下と強固なストック型ビジネスを形成している。導入企業数は人材管理市場において7年連続シェア№1を維持。カオナビは今後もトップを維持し2025年3月期に売上を現在の1.8倍の100億円、営業利益を現在の25倍の30億円にする計画を立てている。

ただ足元では競争激化により優位性が薄れてきたようにみえる。タレント・マネジメント・システムがその効果を最大限に発揮するのは人材が多い会社、つまり大企業になる。しかしカオナビは大企業からの採用率が低い。かわりに大企業はプラスアルファ・コンサルティングの「タレントパレット」を導入している。この分野で最も競争力があるのは「タレントパレット」ではないかと思う。

未上場企業のHRbrainも企業価値が前年比2.6倍の215億円になっているので(12/6日経)競争力がありそう。以前調査したチームスピリットにより、市場が拡大しても競争力が弱いソフトウェア企業は稼ぎにくくなることがわかっているので、カオナビのような会社は成長できない可能性がある。

カオナビがオフィスを縮小して在宅ワーク勤務にシフトしているのも気になる。アイデア勝負のソフトウェア企業はオフィスワークのままの方が競争力が高まるのではないかと思う。正直、ここを買うならプラスアルファコンサルティングの方を買った方がよいのではないかと思う。

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:1.8%~4.0%の間で推移

米長期金利に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2023年の米予想GDP成長率は+1.0%程度、米予想インフレ率は+4.5%程度になる。

・金融政策→
FRBはインフレ対策として2022年3月から金融引き締めを始めており、2023年中に政策金利を5.1%まで引き上げる予定。2024年は金融緩和に転換し4.1%程度まで引き下げる予定(12/15日経)。政策金利を引き上げると長期金利には上昇圧力がかかる。一方で、政策金利を中立金利(2.4%)を超える水準まで引き上げると、景気(長期金利)に下押しの圧力がかかる。

FRBは2022年9月から国債などの保有資産をこれまでの倍速ペースで売却し始めており、年間で1.1兆ドルの資産(約150兆円)を売却する予定。FRBが今後3年で保有資産を3割(3兆ドル)売却すると長期金利には1%程度の上昇圧力がかかるとされる(日経日経)。ただし長期金利が過度に上昇した場合は英国のように国債売却を止める可能性もある。日経日経

*FRBが政策金利を3%程度まで引き上げると、FRBの保有資産の金利収支が「逆ザヤ」に転じ、保有する債券には含み損が生じる(ヴェリタス)。そのような状態になるとドルの信用に懸念が生じ、長期金利に上昇圧力がかかる。

*金利が上昇すると政府債務の金利負担も重くなり、政府は予算規模を縮小せざるを得なくなる。そうなると景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。今年8月の政府債務に対するネット利払い額は前年比50%増の630億ドル(約8兆3千億円)となっており、今年の対GDP比の利払い額は戦後最大になる可能性が高い。利払い額の増加により国債が増発されると長期金利には上昇圧力がかかる。週刊エコノミスト10/25

・リスクオン、オフ↓
インフレ高進と金融引き締めによりリスクオフ気味。

・米国債の人気上昇→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高いので、海外勢から買われやすい。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれている。1~6月期の海外勢の米長期国債買越額は約46兆円と上半期として過去最大に達している。日経

ただ、米金利上昇により為替ヘッジコストは上昇しており、日本では米国債利回りから為替ヘッジコストを差し引くと利回りがなくなってしまう。そのため日本の一部の金融機関は米国債から日本国債に資金をシフトしている(日経)。

海外勢の中で最も米国債を保有する中国は米中対立により米国債の保有を減らしている。

そもそも論になるが、海外の高利回り国債は購入しても最終的には為替で価値が調整されてしまうので、買ってもそれほど利益は出ない。ヴェリタス

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

金余りで運用難に陥っている米金融機関や米企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。日経日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・財政赤字の拡大↑
米国の財政赤字は毎年100兆円を超えているので、米国債の供給増や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかる。ただ、他国の財政状況も似たようなものなので、大きな影響はない。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート↑
<10年チャート> 力強い上昇トレンドだが基準線との乖離は大きく、4%あたりで天井を打ったように見える。


■WTI原油
今後1年の予想レンジ:50ドル~100ドルの間で推移

原油価格に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2023年の予想世界GDP成長率は2.7%になる。足元では景気後退懸念により成長率が下振れする確率が高まっている。

長期では、温暖化対策や職場・学校のリモート化などにより石油需要は減少していく可能性がある。仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している(ヴェリタス日経)。一方、世界人口は今後も増えていくので石油需要は増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要は2020年比で4割増になると予想している(日経)。

ウクライナ紛争で原油・ガスの供給途絶リスクが表面化したので、脱炭素シフトが前倒しされる可能性出てきた(ヴェリタス10/28日経)。国際エネルギー機関(IEA)はウクライナ紛争などの影響により、再生可能エネルギーが2025年に最大の電源になると予想している。12/7日経

・供給→
国際エネルギー機関(IEA)は7月に2022年、2023年の需要予測を下方修正し、供給過剰が当面続くと予想している(日経)。
OPECプラスは1バレル90ドル前後の水準を維持することを目的に減産に動いている。日経

長期では、脱炭素の潮流を受けて油田開発投資が大きく減少しており、また再生可能エネルギーの普及には時間がかかるので、大幅な供給不足に陥る可能性がある。

・産油国で不測の事態が起こる↑
ロシアがウクライナに侵攻したため、西側はロシアからの原油調達を絞っている。一方、中国やインドはロシアからの原油輸入を大幅に増やしている。ロシアの原油生産はほとんど減っていない。日経10/10日経

ベネズエラやイランは西側から制裁を受けており、産油量が減っている。ただ西側は2国への制裁を緩和しそうなので、供給は増えそう。日経日経12/11日経

中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きている。日経

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアとロシアで財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)とイラクは75ドル(10/6日経)、米産油企業の採算ラインは45~70ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。基本的に原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ↓
リスクオフ気味。原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時は売られやすい。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元ではインフレ対策としても買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではドルがピークアウトした感じなので、原油価格には上昇圧力がかかりそう。

・チャート→
<10年チャート> ピークアウトしたように見える。50ドルくらいが底になりそう。

■ドル円
今後1年の予想レンジ:105円~140円の間で推移

為替に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・日米の長期金利差↑ (↑は円安方向、↓は円高方向)
FRBは強力な金融引き締めをしており、米10年金利は3.8%まで上昇している。一方、日銀も10年金利の上限を引き上げたが、0.50%を上限としているので日米金利差はわずかにしか縮まっていない。
*日銀は10年金利の上限引き上げと同時に国債買い入れ量を月7.3兆円から月9兆円程度に増やしている(12/20日経)。国債買い入れに伴う通貨供給は円安要因になる。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。現在のような状況では低利通貨の円は売られ高利通貨のドルは買われやすくなる。ただし、市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

・日本の経常収支↑
円安や資源高、産業競争力の低下(10/15ヴェリタス10/3日経)、輸出主導の経済構造の変容(日経10/21日経)などにより、22年度の貿易赤字は過去最大の約16兆円になる見込み。23年度も約13兆円と巨額の赤字が続く見通し(11/1日経)。所得収支などは増えているので、貿易収支を含めた経常収支はしばらく黒字を維持できそうだが、半導体や医薬品、ITサービスの輸入拡大は続きそうなので、貿易収支の悪化は続きそう。

・米国の経常収支↓
米国は経済が強いので経常収支は改善傾向にあるが、足元のドル高は経常収支(貿易収支)にネガティブな影響を及ぼす。

・リスクオン、オフ→
リスクオフ気味。日本は世界一の対外純資産国なのでリスクオフ時に円は買われやすいが、上記要因により円が買われにくくなっている。

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や債権、不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。
*日本の個人投資家は2021年に海外株を8兆3千億円買い越しており、その9割程度は米国株になる。日本株の買越額は280億円になる。日経11/27日経11/1日経

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。対外純資産に占める対外直接投資の比率は増加傾向で、2020年には47%まで上昇している。一方、対外証券投資の比率は28%まで低下している。日経

・国内投資家の対外証券投資→
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を積極的に買っている。ここ数年は両者合わせて年10兆円超の買い越しが続いている。ただ直近ではドル調達コストの上昇などにより機関投資家の海外証券投資は大幅に減っている。日経10/21日経

・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)が低く、日本国債の金利は安定しているため、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している(日経)。ただ足元では国債価格下落を見越して売り越し基調にある。日経日経

・FX投資家の持ち高↑
FX投資家(個人投資家)の月あたりの取引規模は約1000兆円(うちドル円取引は約800兆円)まで拡大しており(ヴェリタス10/18日経)、東京市場での為替売買における割合は全体の約半分を占めている(10/15ヴェリタス)。10月頃までは個人が大きく買い越しており、円安が進むとみていた。現在は不明。

・投機筋の持ち高↑(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は円売りを継続いるが徐々にポジションを落としている。円安の勢いが弱まるとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差収入)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった9月にドルを1万ドル(140万円)買うと1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。日経

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、ウクライナ危機などにより基軸通貨ドルの需要が高まっている。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。足元では急速にインフレ格差が拡大しているので下降曲線の傾きはやや急になっている。

現在の購買力平価(企業物価)は86円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくので、円の下限は65円、上限は105円くらいになる。

・日銀が保有する日本国債の値下がり↑
仮に、日銀が1%程度の金利上昇を許容するような金融政策を行った場合、日銀は債務超過に陥る可能性が高い。債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるので資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は失われる。
*日本経済研究センターは日銀が長短金利操作を撤廃した場合、長期金利が1.0%程度まで上昇すると試算している。12/28日経
*日銀は長期金利が1%に上昇した場合は日銀が保有する国債に28兆円の含み損が生じると試算している。なお5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。12/2日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が低下する(日経)。ただ現時点で、そこまで下がる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシア制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。日経日経

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の大暴落が起きる可能性がある。米国も返済不可能な水準まで債務は積み上がっているが経済が強く、基軸通貨なので大暴落は起きにくい。

・キャピタルフライト↑
日本は財政問題や経済低迷などの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産にシフトし始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。

・為替介入→
9月に政府・日銀が円安を食い止めるために為替介入を始めた。ただ規模が小さく、協調介入でもないので(日経)たいした影響はなさそう。

・チャート↑
<10年チャート>
ピークアウトしたように見える。底値は105円くらいになりそう。

■日経平均
今後1年の予想レンジ:20000~28000円で推移

日経平均に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策↓
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(日経)、現在中銀は資産を売却し始めているので株価は大きく下落している。今後も売却はしばらく続く予定。

ただ、中銀がまだ2%くらいの資産しか売却していないにもかかわらず(11/13日経)、株価は10%超売られているので、やや売られすぎの感がある。

・金利↓
金利が上昇すると株式から債権へ資金が流れやすくなる。現在、金利は高水準にある。

米長期金利上昇により、米大手銀の債券含み損は約5兆5000億円(自己資本の4%程度)まで膨らんでいる。この状態ではリスク資産投資ができなくなる。過去の例では含み損率が自己資本の3%を超すと株価の大幅調整が起きている(週刊エコノミスト日経10/3日経)。日本の3メガバンクも外債の含み損が9月末に4兆円まで膨らんでおり、リスク資産投資が減少している。11/13日経

・株式利回り↑
日本株式の益回りは約7.68%、配当利回りは約2.42%と、日本の10年国債の利回り0.42%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・為替↑
円安が進むと海外勢は日本株を買いやすくなる。ただ、2022年は売り基調になっている。10/6日経

・需給↑
海外勢の売り玉はなくなりつつあり、日本企業の自社株買い意欲は旺盛なので、日本株は下がりにくい。大きく下がったときは日銀の買い支えも期待できる。

主な投資主体の売買動向
<2022年の予想と現状>
日本銀行:予想は日本株の買い支えで1兆円の買い越し。現状は6千億円の買い越し。
事業法人:予想は自社株買いで7兆円の買い越し。現状は5兆円の買い越し。
*企業が発表している2022年度の自社株の買い入れ枠は9兆円超になる。11/18日経10/13日経
海外投資家:予想は景気後退を懸念して2兆円の売り越し。現状は2兆1千億円の売り越し。
個人投資家(投資信託含む):予想は逆張り投資で1兆円の買い越し。現状は6千億円の買い越し。

<2023年の予想>
日本銀行:買い支えで1兆円の買い越し。
事業法人:自社株買いで4兆円の買い越し。
海外投資家:静観モードで5千億円の売り越し。
個人投資家:逆張り投資で1兆円の買い越し。

・EPS(1株利益)↓
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(期待度・人気度)で決まる。2023年の予想EPSは-10~5%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についてもみていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今は円安基調なので利益は増えやすそうではあるが、輸入価格が高騰しており、この分を価格転嫁できなければ利益は大きく増えない。11月の企業物価指数は前年同月比9%超で消費者物価指数は3%程度なので、約6%分を価格転嫁できていないことになる。この調子でいけば利益はほとんど増えない。

・海外景気↓
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。今後の世界景気は後退する可能性が高い。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫される。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばいだが、資源価格は上昇している。

・金融政策↓
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。今は世界中で金融引き締めをしている。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいだが、現在のPERは12.15倍とやや低い水準にある。ただ景気後退によりEPSが下がる可能性もあるので、妥当な水準にみえる。

投機筋の持ち高
買い残は3700億円で、裁定売り残高は4600億となっている。投機筋は日本株がやや下がるとみている。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり(日経)、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。ただし、買っているのはほとんど米国株になる。

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなりやすいという問題がある。日経日経

・チャート→
<10年チャート> 辛うじて上昇トレンドを保っているが天井を打ったようにも見える。底は20000円くらいになりそう。

■東証グロース指数(旧マザーズ指数)
今後1年の予想レンジ:800~1000の間で推移

東証グロース指数に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策↓
東証グロース指数は中銀の総資産との相関が全市場の中で最も高いので、中銀の資産縮小時には真っ先に売られやすい。とはいえ、先にも触れたように中銀が資産を売り始める前に、マザーズ指数はコロナ前の水準まで売り込まれているので、やや売られすぎの感がある。

金利の上昇も小型グロース株には逆風になる。金利が上昇すると将来の成長期待を買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。また小型グロース企業には赤字企業が多く、金利上昇時には成長資金を調達しにくくなる。

・需給↓
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので(ヴェリタス日経)そろそろ下げ止まりそう。

個人投資家は含み損を抱えているため大きな買いはあまり期待できない。

・EPS(1株利益)成長率
不明

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

現在の信用評価損益率は-27%と平均の-10%よりかなり低いが、下落の仕方が緩やかなのでセリング・クライマックスのような投げ売りはまだ見られない。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えていた。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような局面であり、このような前例を踏まえると、東証グロース指数はあと1年くらい調整が続くかもしれない。ヴェリタス

<マザーズ指数の10年チャート> 全ての移動平均線が下向きになっており、一部がデッドクロスしているので下落基調はしばらく続きそう。ただ、すでにかなり売り込まれているので600くらいで下げ止まりそう。

市場環境

 株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2022年の予想EPS成長率は10%、2023年は-10~5%。
・米国株式の2022年の予想EPS成長率は5%、2023年は-10~10%。
・欧州株式の2022年の予想EPS成長率は0~10%、2023年は-15%~0%。
・日本株式の2022年の予想EPS成長率は0~10%、2023年は-10%~5%。

■経済成長率
・世界の2022年の予想GDP成長率は3.2%、2023年は2.7%。
・米国の2022年の予想GDP成長率は1.6%、2023年は1.0%。
・中国の2022年の予想GDP成長率は3.2%、2023年は4.4%。
・ユーロ圏の2022年の予想GDP成長率は3.1%、2023年は0.5%。
・日本の2022年の予想GDP成長率は1.7%。2023年は1.6%。
*数値はIMF予想。10/12日経
*成長率はさらに下振れするリスクがある。IMFは23年の世界成長率が2%を割り込む確率を25%程度とみている。

世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2022年が4.0~6.5%、2023年が3.0~5.0%。
・欧州の予想インフレ率は2022年が5.0~7.6%、2023年が3.5~5.5%。
・日本の予想インフレ率は2022年が1.5~2.5%、2023年が0.5~2.0%。
*参照:10/28日経など
*参照:米PCE(個人消費支出物価指数)、米CPI(消費者物価指数)ユーロHICP日本CPI。各国中銀は主にこれらの指標を使って政策決定する。
*米国の今後10年の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率10年)は2.30%。ブレーク・イーブン・インフレ率とは債券市場の予想物価上昇率で、実質金利を算出するときなどに用いる。

世界中でインフレが高進している。インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて、今後のインフレ動向を考えていく。

<インフレ要因>
★コロナ特有のもの
・供給基盤が破壊され供給不足が生じている。→解消されつつある。
・コロナが収束せず供給不足が長引いている。→解消されつつある。日経
・コロナで対面型サービスの人気が落ち、賃金が上昇している。
・コロナが落ち着いてきて需要が増している。
・政府から給付金が支給され需要が増している。
・金融緩和の影響で資産価格や商品価格が上昇している。
・量的緩和の影響で通貨価値が下落している。
 
★コロナ後も続くもの
・人手不足で賃金が上昇している。米国では求人件数が1000万件を超えているが、完全失業者は600万人に留まっている(日経12/1日経)。仮に失業者全員が求人に応じたとしても400万件程度の求人が充足されない計算になる。コロナ前の景気拡大局面のピークでも未充足数は150万件程度だったので人手不足感は強い。

労働者が減ったのは(労働参加率が低下したのは)、コロナの後遺症など(50万人、日経)、株高などによる早期退職(160万人)、給付金による過剰貯蓄、雇用条件に対する不満、移民の伸び悩み、高齢化の進展、”アンチワーク”など構造的な要因も絡んでいるので早期解決は難しい。

現在、賃金の上昇率が5%台で高止まりしている。3%程度まで減速しないとFRBの2%物価目標と整合しない。賃金の上昇率を3%程度に抑えるには求人件数を700万件程度まで減らす必要がある。日経

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7%程度の物価押し上げ効果が見込まれる(日経ヴェリタスヴェリタス)。主要中銀が加盟する「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)」はパリ協定の達成に向けた脱炭素化によって、20年代後半の日米欧のインフレ率は1%近く上昇するとしている(日経)。2050年までに脱炭素社会への移行が円滑に進む場合、日本でさえインフレ率が3%程度に達すると予想している。日経
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーはデフレ要因になる。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇などにより、食料価格が上昇傾向にある(日経日経ヴェリタス)。農作物・肥料価格の先行指標である「農業ETF」は高値圏で推移している。

・ロシアのウクライナ侵攻により食料・資源・エネルギー価格が上昇している。西側の制裁は長引きそうなので、これらの価格は高止まりしそう。ただ、過去50年間の戦時の商品価格の高騰を分析すると、開戦5ヶ月後に5割程度まで高騰してピークを付けた後、下落に転じている(日経)。今回も天然ガス以外は過去と同様の展開になっている。日経

・米住居費が上昇している。家賃上昇が2022年と23年の米CPIを1.1ポイント押し上げるとされる。日経

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で、製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。日経

・世界の生産年齢人口比率が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。日経日経

<デフレ要因>
・世界中の中央銀行が金融引き締めをして需要を減らそうとしている。

・経済や社会のデジタルシフトが加速している。
*経済や社会のデジタルシフトは強力なデフレ圧力になる。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報・人・モノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。
・産業の「自動化」により、生産コストが低下している。
・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。日経
・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。
・世界的に少子高齢化が進んでいる。高齢者は支出が少ない。労働者は高齢者を支えるための税金が増え、収入や支出が減りやすい。
・人手不足で成長力が低下している。
・株安などで資産価格が下落している。

以上をまとめると、インフレの大きな要因はサービス価格の上昇、財物価の上昇、資源高、金融緩和による住宅市場の過熱あたりになる。このうちサービス価格の上昇以外はすでに終わりが見えているので、米国のインフレ率は徐々に落ち着いていきそう。ただサービス価格のインフレはしぶといので、FRBが目指す2%で落ち着くのは2024年頃になりそう。

日本のインフレは値上げラッシュがまだしばらく続きそうなので、2023年の2月頃まで3~4%のインフレが続きそう。その後はピークアウトして1~2%あたりで落ち着きそう。(11/22日経11/30日経12/11日経12/13日経12/28日経)。

今回のインフレの波がおさまった後も、人口動態や非グローバル化、気候変動などの構造要因は残るので、以前のような超低インフレ環境には戻らないかもしれない。

■金利
・米国の政策金利は4.5%で、3ヶ月金利は4.37%、2年金利は4.42%で、10年金利は3.87%、30年金利は3.95%になる。
・日本の2年金利は-0.03%で10年金利は0.42%、30年金利は1.57%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。現在の実質金利は上昇基調にあり、米国の実質10年金利は約1%、日本は-1%くらいになる。

*現在の債券は魅力的な水準になっている。たとえばリスクの低い米2年債は利回りが4.4%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、不安定な値動きの他の資産よりも資金を吸収しやすくなる。12/24日経

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.4%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年6月に一時10年金利が2年金利を下回っており、現在もそれが続いている(日経)。8月には英国、スウェーデン、カナダ、ニュージーランドでも逆イールドが発生している。日経
*米10年金利が米3ヶ月金利を下回ると、その後、比較的すぐに景気後退する傾向がある。10月の終わりから逆イールドが発生している。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。ヴェリタス
*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。今の流れでいくと、本当の景気後退がくるのは23年終わりから24年にかけてになる。12/8日経

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は3の段階になる。

■債務
・世界の債務はコロナ下で急拡大し過去最高水準のGDP比343%に達している(11/27日経)。ただ、対コロナの経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっている。デフォルトが急に増える状況ではない。日経日経ヴェリタス日経ヴェリタス

・債務の質は劣化しており、米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割超が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
・米欧でハイイールド債の国債に対するスプレッド(上乗せ金利)が10%を超える債券の割合が1割程度まで増えている。日経
・欧州企業全体の信用リスクを示す指数は7月に一時、コロナ危機下の2020年3月並みの水準まで悪化している。日経
・米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。また企業負債のGDP比率は12年には65%前後だったが、足元では80%に迫る水準まで上昇している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。日経ヴェリタス

・日本政府の債務残高はGDPの2倍を超えており、先進国の中で断トツトップ。放漫財政により債務残高は毎年着実に膨らみ続けている。日経

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている(日経)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。
・債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。削減できなくても政府債務は実質的に返済不要なので特に問題なさそう。
・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。日経

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。日経日経10/12日経10/12日経11/1日経

・国際金融協会(IIF)によると、新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。新興国の3分の1で外貨建て国債の利回りが10%を上回っており、新興国の30%、低所得国の60%が債務返済危機に陥っている。日経

・世界で過剰債務企業が増えている。本業の利益が借金の利払いより少ない”ゾンビ”企業が全上場企業(2万4500社)に占める比率は2021年度に16%になっている。直近ではこうした企業が破綻に追い込まれる事例が相次いでおり、仏アリアンツ・トレードは23年に世界の企業の倒産が21年比で26%増えると予想している。日経

・米ムーディーズは今後の世界の社債について、最も悲観的なシナリオだとデフォルト率が14.5%になると予想している。これは1933年の世界大恐慌の最中の15.8%以来の水準になる。リーマン・ショック時のデフォルト率は12.1%になる。日経

<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので(日経)、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元ではインフレ対策として資産の売却を始めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめると思うので、バブルが完全崩壊する可能性は低い。

■金融政策、財政政策
・世界中の中銀がインフレ対策で金融引き締めを行っている。ただ日本や中国など一部の中銀は金融緩和を続けている。

日銀が金融引き締めをしないのは、日本のインフレ率が2%程度と低く、コストプッシュ型の悪いインフレのため。日銀は現在のような需要不足の状態(10/6日経12/7日経)で引き締めをすると景気後退に陥ると考えている。ただ、2000年以降の7割の期間は需要不足の状態であり(11/15日経)、需要不足は今に始まったことではない。このような状況で金融緩和で競争力の乏しい産業を支えると競争力はさらに落ちていく。日本の長期金利は0%台。これは投資先がなくなっていることを意味する。このような状況で無理矢理投資をすると歪みが生じる。

日銀は長期金利の上限を引き上げる予定は「全くない」と言っておきながら、12月にその上限を突如引き上げた。これは投機筋対策としては効果があったようだが、市場からの信頼を失ったように見える。

日銀は12月に長期金利の上限を引き上げると同時に月間の国債買い入れ額を増やした。これは矛盾する政策で、金融政策の限界が近づいているように見える。

日銀は現在も市場金利の不自然な押さえ込みを続けているが、その副作用として円安・インフレが発生している。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる(日経日経日経)。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる(ヴェリタス日経ヴェリタス)。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機に陥る可能性が高い、とされる。12/10ヴェリタス
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。

■政治
・日本の政治は比較的安定。ただ、日銀の財政ファイナンス(12/19日経)により財政のタガが緩みまくっている。今年度の赤字国債は50兆円超で(11/5日経)、来年度の赤字国債も同程度になる見込み(12/24日経)。国の予算の大半は成長投資ではなく、国の“ランニングコスト”として使われているので(12/25日経)今後税収が増える見込みもほぼない。足元では金利が上昇しており(12/24日経)、国債格下げリスクが生じているので(12/25日経)、近い将来、日本の財政は危機を迎える可能性が高い。

・海外は不安定。ウクライナ紛争により、ロシアと西側の関係は当分冷え込みそう。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
*米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれそう。日経10/24日経
・中国では習近平総書記の3期続投が決まったが、周りを全てイエスマンで固めており、マクロ経済に詳しい人物が1人もいないので経済が低迷・混乱しそう。米中対立の影響で先端技術が入ってこなくなっているので、それも低迷に拍車をかけそう。
・米欧は格差拡大や価値観の分断を背景にしたポピュリズム(大衆迎合主義)が拡大しつつある。ポピュリズムは目先の利益を優先するので、長期では成長が伸び悩みやすくなる。
・EU域内で財務格差が広がりつつある。財務状態の異なる国々で単一の通貨を使うことにはもともと無理があるので、EUは崩壊する可能性がある。・・と思っていたが、コロナ危機やウクライナ紛争などの危機でEU加盟国の結束は強まっているらしい(10/14日経10/27日経)。・・ただ金利上昇局面では債務問題絡みのゴタゴタは避けられないように思う。

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしたようにみえる。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。自動車販売もピークアウトの兆しが出ている。10/22日経
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で49.0と中立水準を下回っている。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は56.5と高水準を維持している。
*同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える。
ユーロ圏のPMIは47.8。好不況の分かれ目である50を6カ月連続で下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは47.0。3月以降の10ヶ月間で50を下回る月が8ヶ月ある。
米国の失業率は減少傾向で現在は3.7%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るとされる。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は下げ基調になっている。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは1月頃から上昇基調になっている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は3つ起きている。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照

■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。9月の個人投資家心理は「弱気」が60%を占めており、「異常な弱気」の水準。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい(日経)。現在の「弱気」は47%。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。同指数は4月27日にマイナス42%、6月20日にマイナス41%と「極度の悲観」に達している。マイナス40%を超える悲観はリーマンショック後の2009年3月に記録したマイナス51%以来になる(東洋経済)。現在はマイナス21%と「悲観」の状態にある。

投資家の強欲と恐怖指数(Greed and Fear Index)も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすくなる(東洋経済)。現在は37で「Fear」の水準。

・米国債の予想変動率を示すMOVE指数も株価の先行指標になる。この指数が株価の予想変動率を示すVIX指数の5倍に達すると株式市場は下落することが多い。7月頃にMOVE指数はVIX指数の5倍くらいまで上昇している(日経)。現在のMOVE指数は121、VIX指数は21になる。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月で、その期間の株式の平均下落期間も16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。日経

・景気後退入りして最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。そして景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わる可能性が高い。しかし景気後退入りから5~14ヶ月の間に株を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。12/17ヴェリタス

■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは78とやや低めの水準。
・日本株の信用評価損益率は-12.47%と平均的な水準。
・チャートは全体的に天井を打って下降トレンドが始まったようにみえる。ナスダックの週足チャートはデッドクロスを形成しているので、中長期の弱気相場に入った可能性が高い。
<ナスダック5年チャート>

長期計画

 「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
インフレ高進により景気後退に陥る確率が高まってきた。民間・政府ともに債務山積みの状態で中銀が金利を引き上げているので、景気には強い下押し圧力がかかっている。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は良好なので深刻な景気後退に陥る確率は低い(日経日経日経)。今回のインフレは長引きそうなので、しばらく金融緩和や財政政策による景気刺激は期待しにくい。景気後退は浅く長いものになるのではないかと思う。景気の底は2023年の終わり頃から2024年の始めあたりになると予想する。

<補足>
景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大)・失業率低下 →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮)の流れになる。

■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務残高は積み上がっており、GDP比220%に達している(日経12/7日経)。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化する。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

中国は「ゼロコロナ」政策の余波や、米国の対中輸出規制強化などで成長率が下振れしている。労働力人口の減少やIT規制強化、最高指導部にマクロ経済の専門家がいないことなども成長の足枷になる。GDPの約3割を占める不動産市場の調子も悪い。台湾有事の懸念により海外企業の中国離れも増えつつある(10/29日経10/29日経12/14日経12/15日経12/16日経)。

中国は「ゼロコロナ」政策を緩和してから、コロナ感染者が急増し、12月だけで新規感染者が2億4千万、1日あたりの死者が5千人を超えたとの報道もある(12/24日経)。この流れでいくとバブルが崩壊する可能性もあるのかもしれない。

中国の若年者(16~24歳)の失業率は過去最高水準で推移している(日経12/1日経)。この年代は革命分子になりやすいので、バブルが崩壊したら政権が崩壊する可能性もある。

景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が2024年頃までに武力で台湾を併合するとの憶測が流れている(日経日経日経日経)。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる(日経10/18日経11/23日経)。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に武力侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米国側からになる。日経日経

景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある(日経ロイター)。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換は当分先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのかもしれない。

今夏は世界各地で記録的な熱波・干ばつが発生している(日経産業ヴェリタス日経日経)。転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので(『21 Lessons』)、人が減っていく可能性が高い。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が7月11日に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている(日経日経)。AIやロボット、教育(日経)などの影響を考えると、今後もピークアウトの前倒しは続くのではないかと思う。

景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれる。今回のようなパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。ロイター

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので(日経)、景気後退を通り越して財政破綻する可能性がある。

■今後の計画
円が105円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。

・米市場に上場している「銅ETF」「リチウムETF」
「グリーン革命」で銅需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう(日経日経)。仕込むタイミングは2024年の半ば頃にくるかもしれない(日経)。それまでに1トン5000ドルを切るようなことがあれば買っていきたい。

リチウムも同じような理由で供給不足に陥る可能性が高い。12/13日経12/13日経

・ファーストトラスト・クラウド・コンピューティングETF
この「クラウドETF」は、マイクロソフトやアマゾンなどクラウド基盤を提供する銘柄と、クラウド経由でソフトウェアを提供するSaaS銘柄で構成されている。現在は大きく売り込まれているが、ビジネスモデルは強く、長期的な見通しはよい。11/30日経

・米市場に上場している「半導体ETF」「サイバー・セキュリティETF」
AI・ロボット社会では半導体企業とサイバー・セキュリティ企業の力強い成長が期待できる。基準価額が大きく下げているときに買えば3倍は狙えそう。

半導体株は「シリコンサイクル」的に2023年後半あたりが仕込み時になりそう(10/29日経)。ただ米国が中国に対し半導体の輸出規制を強化しており(10/8日経)、その影響で米半導体企業に数兆円のマイナスインパクトをもたらす可能性がある(10/13日経)。また各国が半導体分野に官民あげて巨額の投資をしているので(11/30日経)しばらく供給過剰が続く可能性もある。そこらへんには注意したい。

CPUやDPU(データ処理装置)を手がけるAMD(11/5ヴェリタス)や、「総合サイバーセキュリティー」を手がけるパロアルトネットワークス(11/21産業)などの個別株もいいかもしれない。

・メリカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のeコマース企業。当初はオークションサイトとしてスタートしたが現在のビジネスモデルはAmazonのマーケットプレイスに近い。小売り事業者にウェブサイト上の場所を貸し出し、手数料を徴収する。出店者の代わりに配送業務を行う事業や、サイトの作成・管理を代行するサービスも提供している。もう一つの事業がフィンテック事業。南米は欧米などと異なり、銀行口座やクレジットカードを保有してない利用者も多い。ラテンアメリカ市場ではオンラインで販売した際に支払処理をどのように行うかが大きな問題となっている。メルカドリブレはそれぞれの国情に併せてQRコードなどを活用した様々な決済サービスを提供している。ラテンアメリカはインターネットの普及自体が遅れているため先進国と比べて出遅れ感があり、その分成長余地が残されている。ラテンアメリカに住む6億5千万人の人びとの中でネット通販を頻繁に利用する人はまだ8千万人程度とされる。問題はカントリーリスクになる。サービスを提供している18カ国のうち、アルゼンチン、ベネズエラ、ニカラグアのリスク評価は最低ランクで、最大の売上を稼ぐブラジルも下から3番目の評価になる。ビジネス自体は順調であっても為替レートが大幅に低下すればドル建ての業績は悪化してしまう。ライバルのShopee(シンガポール)はこのような問題から、ラテンアメリカ事業を縮小すると報道されている。週刊エコノミスト11月8日 

・アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、セールスフォース
これらの大型株はまだまだ成長しそう(日経日経11/21日経11/21産業など)。ただ大きくなりすぎて規制リスクが高まっている(日経12/10日経など)。この中で規制の影響をあまり受けなさそうなのはセールスフォースあたりになる。

・日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。ただ生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには中銀が通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した国債を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値(信認)が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなると通貨安・インフレが加速し、国内からお金が逃げ出す。ただ実物資産である株式は上昇する(週刊エコノミスト11月8日 )。ハイパーインフレが起きた場合は株式は大暴騰する。つまり株式は長期で上昇し続けることになる。ただし、高インフレが発生すると事業環境が悪化するので外貨換算の企業価値は減少する。

通貨の信認喪失が起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。
*ハイパーインフレが起これば公的債務は完済されやすくなる。

投資にベストな心理状態

株式投資をしていると株価が上昇しているときは楽観的になり、投資判断を誤ることが多いように感じる。経営者の発言でも株価や業績が急上昇しているときは楽観的な発言になり、その後業績(株価)が失墜することが多いように感じる。例えばスマホゲーム制作会社gumiの國光元社長はスマホゲームが隆盛を極めていた2013年頃に「時価総額8兆円は見えた」と語り、その後業績は右肩下がりになっている。ZOZOの前澤元社長も株価が急上昇していた2018年に「10年以内に5兆円企業を目指す」と語り、その後株価は急落している。

このようになる仕組みがいまいち謎だったが、『ストレス脳』(アンディシュ・ハンセン)にそのあたりのことが書いてあった。

「喜んでいる人は悲しんでいる人よりテストの点数が低い。気分のよいときはあら探しをするのをやめてしまうためかもしれない。うまくいっているのだから間違いを探す必要なんてない、というように。人は気分がよいと全体的な情報だけを処理し、細かいことは無視する傾向がある。また気分がよいときは騙されやすくもある。普段ほど批判的に細部まで分析できないためだろう。

しかし、気分が落ち込んでいるときは逆になる。細かい点にこだわり、批判的になり、間違い探しをするかのように情報を分析する。私たちの思考能力は気分と関係があって、どういう能力が必要とされるかはその時々による。人生を左右するような問題に取り組むときに人が鬱々として引きこもるのは、脳の戦略なのかもしれない。ちなみにこれは分析的反芻の仮説と呼ばれている」

となると、株式投資をする際にベストな心理状態は陰気くらいがちょうどよいのかもしれない。少なくとも浮かれた状態では足をすくわれやすくなるということは気に留めておきたい。それと業績(株価)絶好調時の社長の発言は少し割り引いて解釈するようにしたい。