2023年4月1日土曜日

1~3月の売買

■1月
・オキサイド 買い
地合いがいまいちなのでしばらく株式を買う予定はなかったが、1月にオキサイド株がストップ安になっていたので調査を開始した。調べてみると大きな問題点は見つからず、力強い成長ストーリーを描けたのでよさそうだと思った。ただ株価はストップ安の直後に急反発して大きく上がってしまった。株価9000円(時価総額450億円)は高いなとは思ったが、株価が気になりそわそわしはじめてしまったので少し買うことにした。

その後は静観する予定だったが、株価が出来高をつけて直近高値を超えてきたので水準訂正が起こるのではないかと思い始めた。株価が10000円を超えると心理的に買えなくなると思い、追加で少し買い増した。

・オキサイド 一部売り 損益-3%
株価が天井を打ったと思ったから。株価水準はやはり割高だったもよう。新高値ブレイク投資法のルールに従い、少し損切りした。

・・2月に株価が買値から10%下がったときにいったんすべて売却しようとも考えたが、成長ストーリーはその時点でも揺らいでいなかったので、売らないことにした。

以前、アイパートナーズ・フィナンシャルという株式の売買で手痛い失敗をしたことがあり、そのときに「株式を買う前に半年間くらいの観察期間を設ける」「見落としている問題があるかもしれないから株価が買値から1割下がったら損切りする」という教訓を得た。今回はその教訓がまったく生かされなかった笑。ただこの教訓は自分の性癖とは合わなさそうなので少し修正していく。

まず「株価が買値から1割下がったら損切りする」については、成長ストーリーが崩れない限りは基本的には売らないことにする。見落としている問題があるかもしれないが、そもそも素人が全ての問題点を見つけることは不可能なので、これは受け入れていくことにする。いったん売って株価が安くなったところで買うという方法もあるが、それをするためには株価をこまめにチェックしなければならない。そういう作業は無駄だと思うのでやらないことにする。

「投資する前に半年くらいの観察期間を設ける」については、「投資をする前に会社を調べて適正株価を算出する」に修正する。調査をした後、いったん”熱”を冷まして冷静に観察する期間を設けることは必要とは思うが、冷静になると興味を失ってしまうことが多く、また投資はタイミングが重要だと思うので、いけそうだと思ったら少し買うことにする。そのときに重視するのは”適正株価”にする。自分で適正株価を算出できるくらいまで調査をした場合はおそらく大きく外すことはないと思うので、そこを基準に売買していく。

今回の失敗の収穫は自分のプライシングがまんざらでもなさそうなことがわかったこと。今後もこの感覚を鍛えていきたい。

■2月
■3月
売買なし。

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
地味な本決算だった。今後の成長戦略もインパクトに欠けた。前期から新たに始まった人手を介した広告枠の販売は、業績の内訳をみると、自動配信広告の顧客がただ単にそちらにシフトしただけという感じなので、やる意義はなさそうだと思った。顧客側からすると広告単価は上がり、広告効果はおそらくあまり変わらないので、満足度は低下したのではないかと思う。ジモティーにしても、人手を介した分、広告事業全体の利益率は悪化したのではないかと思う。ただジモティーはこの分野に精力的に取り組んでいるようなので、なんらかの勝ち筋が見えてきた可能性もある。もう少し様子をみたい。

今後は地域限定の広告も載せていくという。地域限定の「ミスドのギフト券」などの広告はユーザー・企業ともに需要はありそうだが、現在「ジモティー」の広告枠を席巻している”コンプレックス広告”よりも単価は低くなりそう。今後はいかに”コンプレックス広告”を排除していくかが課題になりそう。

本決算で1つだけサプライズがあった。それは「ジモティー」広告を打っていないのにもかかわらずページビュー数と投稿数が伸びていたこと。昨年の4Qは広告を打っていたにもかかわらずページビューは微減で投稿数は微増だった。広告なしでこれらの数値が伸びたのはよい兆候。「ジモティー」が地域に定着し、自然需要が増えているのかもしれない。自治体との提携増加も地味に効いていそう。ジモティーは今期、広告をあまり打たず、「リユースの啓発活動」に力を入れていくという。よい作戦ではないかと思う。

ただ今後ユーザーやページビューが増えていくとしても、現在の1.5倍くらいが限界になりそう。そのためこの部分だけでは大きな成長は期待しにくい。今後業績を拡大させていくには、それ以外の部分、広告枠の販売拡大、エスクロー決済、地域SNS、スキルシェア、その他の新規事業に注力していく必要がありそう。

エスクロー決済については、先日、振り込み手数料引き下げを知らせるメールが届いた。これまでは1万円以下の売上金の振り込み手数料は500円かかっていたが、それが150円になるという。これはなかなかインパクトのある改善なので、この決済は今後伸びていくかもしれない。

地域SNSについては特に進展なし。この分野はブルーオーシャンなので投資する価値はありそう。責任者を置くなり、この分野の企業を買収するなりしたら、大きく成長できるのではないかと思う。

スキルシェアについてももっと力を入れてもよさそう。「ジモティー」でスキルシェアをした場合は手数料がエスクロー決済の5%しかかからない。他サイトと比べ価格競争力があり、ユーザー数の面でも強みがある。なぜ力を入れないのだろうか。
*この件については2,3年前にIRに提案している。

3/12日経産業に空き家のマッチングサイトに関する記事が載っていた。現在、立地が不便で傷んでいるなど、不動産仲介会社が扱いにくい物件の個人取引が増えているという。日本の空き家は2018年は約850万戸で、2030年代には約2000万戸まで増えるようなので、この分野のマッチングは今後急増していきそう。「ジモティー」にもすでにこういった物件は掲載されているとは思うが、「空き家ゲートウェイ」や「家いちば」などのサイトを参考にして、利便性を高めたら大きく伸びるのではないかと思う。
*この件もIRに提案しようと思ったが、スルーされるだけなので今回は提案しなかった。

3/17日経に「ジモティー」の求人広告に「闇バイト」掲載との記事があった。これに関しては、なにを今さらという感じ。この手の求人広告は表面上は普通の広告と見分けがつかないのでジモティーでは対処できなさそう。深刻な事件が起きないことを祈るしかない。

決算説明資料から社員数の表示が消えた。都合の悪い情報は隠す、というジモティーの悪いクセがまた出てしまった笑。こういう体質の会社は顧客にもおそらく都合の悪い情報を隠していると思うので少し心配。透明性の高いデジタル時代は自社に都合の悪い情報を隠してもすぐにバレるので、こういう会社は長期で信頼を失っていくのではないかと思う(2/9日経)。こういう体質は人間性の問題なので改めるのは難しそうだが、できたら改めてくれればと思う。今期からは有価証券報告書に人的資本情報を開示しなければならなくなる。その意味でも社員数の情報くらいは明記してほしいと思う。

社員数の表示を消した理由を考えてみた。ぱっと思いついた可能性は2つ。1つは社員の定着率の悪さを知られたくなかったため。2022年3Q末の社員数は54名だが、4Q末の社員数は50人に減っている(この数値は「株主総会招集通知」を参照)。また平均勤続年数は3.11年と短い(参照「株主総会招集通知」)。上場時(2019年12月末)の社員数は48名なので、社員の入れ替わりが激しそうなことがわかる。社内環境はあまりよくないのかもしれない。

もう1つは非正規雇用ばかりが増えているのを気づかれたくなかったため。2019年12月末の非正規雇用は23名だが、2022年12月末には115名と5倍に増えている。非正規を増やすのは状況によっては別に悪いことだとは思わないが、もしかすると現在注力している広告枠販売事業の主力を非正規にしていることを知られたくなかったのかもしれない。ただもしそうだとしても、広告枠販売事業は厳しそうなので、これは正しい戦略に見える。

・・情報を隠されるとこのように邪推してしまうので、その意味でも情報はオープンにしていったほうがよいのではないかと思う。

<「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数>
・売ります・あげます 2022年4月 14860604 →7月 15540651(+680047) →10月 16507035(+966384)→2023年1月 17533994(+1026959) →4月 18503955(+969961)
・アルバイト 1173013 →1029785(-143228) →1175078(+145293) →1165733(-9435)→1309112(+143379)
・正社員 263384 →288632(+25248) →297837(+9205) →349910(+52073) →376806(+26896)
・中古車 891605 →880663(-10942) →899161(+18498) →1020510(+121349) →1015101(-5409)
・不動産 4746672 →5066025(+319353) →2731414(-2334611) → 2734151(+2737) →987150(-1747001)
・メンバー募集 755081 →777596(+22515) →800154(+22585) →823552(+23397) →828769(+5217)
・助け合い 381023 →392329(+11306) →409002(+16673) →426671(+17669) →436281(+9547)
・イベント 285390 →298778(+13388) →314690(+15912) →330160(+15470)→343348(+13188)
・教室・スクール 186931 →190520(+3589) →195454(+4934) →199244(+3790) →201831(+2587)
・地元のお店 165633 →170234(+4601) →176953(+6719) →183685(+6732) →188465(+4780)
・里親募集 122899 →127698(+4799) →136674(+8976) →144211(+7537) →144188(-23)
*投稿件数は「取引終了分」も含めてカウントされているので、実際に取引可能な投稿件数は上記の14分の1くらいになる。

<第1四半期の売上高予想>
まずは前回の予想の振り返りから。第4四半期の売上高予想は、ページビューが微増、投稿数も微増、広告単価は小幅増で自動配信売上高は小幅増の3億5千万円、マーケティング手数料は微増の9200万円、その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)はほぼ横ばいの2600万円、合計売上高は4億7000万円(累計売上高は18.1億円)だった。

実際は、ページビューは微増、投稿数は小幅増、広告単価は微減で自動配信売上高は3億2500万円、マーケティング手数料は小幅減の8100万円、その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)は5000万円、売上高は4億5700万円(累計売上高は18.02億円)だった。この中で、「その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)」の伸びが一見サプライズに見えたが、よく見てみると自動配信売上とマーケティング手数料の一部が「その他手数料」にシフトしただけのように見える。広告事業の売上はトータルでは伸びていないので(利益率はおそらく低下)、掲載課金型広告事業はやる意義がないのではないかと思った。

以上を踏まえて、第1四半期の売上高を予想すると、ページビューと投稿数は微減、広告単価は横ばい、自動配信の一部が掲載課金型広告にシフトして自動配信売上高は微減の3億1000千万円、マーケティング手数料はマーケティングの一部が掲載課金型広告にシフトして7500万円、その他手数料(エスクロー決済手数料と掲載課金型広告)は7000万円になり、合計の売上高は4億5500万円になる。

2023年12月期通期の売上高予想は、1月にこのブログで17.5~20.5億円と予想していたが、会社が出した予想売上高は19.82億円だった(*「会社四季報2022年12月16日号」の予想は25億円だった)。

今期、ジモティーは営業利益率25%程度を目安に投資を実行していくという。投資は広告を控え目にし、主に「人」にしていくとのこと。広告への投資を減らすことに異論はないが、利益率25%にこだわる理由がいまいちわからない。株価対策だろうか。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は100億円(株価1650円、PSR5倍)くらい。2030年の予想売上高・利益は現在の2~3倍くらい。


■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
株価がやっと動き始めた。株式を保有してから2~3年、長かった。底値圏で半分売ってしまったのは残念だが、全部売らなかったのは幸いだった。あとは医療費用保証が軌道に乗ってくれさえすればベストシナリオが描ける。株価5倍も夢ではなさそう。第3四半期決算では医療費用保証の契約数が急増していたが、これは旧商品からの乗り換えがそこそこありそうであり、まだ軌道に乗ったかどうかはわからない。今後の契約推移を見守りたい。

イントラストが2022年5月に出資した「プライム・ストラテジー社」が東証スタンダード市場に上場することが決まった。この会社はAI導入やDX支援、自動化支援などを行う会社で、イントラストもこの会社の支援を受けているという。イントラストの出資比率は1.3%程度なので投資収益は軽微なものにとどまりそう。

イントラストが親会社プレステージの子会社であるプレミアライフを買収した。この会社は中小規模の管理会社をターゲットとした家賃債務保証を手がける会社で、中規模以上の管理会社をターゲットとしているイントラストとは補完関係になる。プレミアライフの過去3年の売上は平均4億円、営業利益は-2600万円~3200万円とパッとしないが、イントラストはこの会社を吸収して業績・生産性を高めていく考え。プレミアライフの顧客は信用力が若干低そうで、イントラストのノウハウをどこまで適用できるかわからないが、社長は商売上手なのでうまいことやってくれそう。

「ゼロゼロ融資」の終了や人手不足、物価高などが原因で倒産が増えている。東京商工リサーチによると2023年は倒産がさらに増える可能性が高いという。とはいえ前年比で10%増くらいでおさまりそうなので、イントラストには深刻な影響は出なさそう。1/14日経3/25ヴェリタス

2027年までのイントラストの成長シナリオと業績予想をざっと書いておく。今後3年は家賃債務保証事業が業績を牽引し、24年3月期の売上高は80億円、営業利益は20億円になる。その後は医療費用保証が業績を牽引し、27年3月期の売上高は120億、営業利益は26億になる。この時点での医療費用保証の導入病院数は300になる。

今後3年の予想売上高成長率は年10~20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は240~320億円(株価1070~1430円、PSR3~4倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2.5~3.5倍くらい。


■オキサイド
基本シナリオ:超高品質単結晶でグローバル・ニッチトップ10個


■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
3月に変形性膝関節症のフェーズ2治験の結果が出た。安全性は問題なしで、患部への有効性は現在解析中とのこと。今のところプラセボ群より若干優位な状況らしい。今回の治験の主目的が「効果」ではなく「安全性」だったところに肩透かし感があった。素人的にはパッとしない結果に感じたが、株価はプラスに反応したので、プロの評価は悪くないのかもしれない。

表皮水疱症の治験が3月に始まった。
脳梗塞の治験は去年の12月に始まる予定だったがまだ始まっていない。悪い情報は出ていないので、もうじき始まりそう。

3月に決算説明動画がアップされたが、この会社にはもうほとんど興味がなくなってしまったので、今回は見なかった。

<イベント一覧>
・慢性肝疾患の第2相治験結果が2023年の4月頃に出そう。
・変形性膝関節症の第2相治験結果の詳細が2023年の5月頃に出そう。
・心筋症の第2相治験が2023年の半ば頃に始まりそう。
・表皮水疱症の第2相・追加治験の結果が2024年の中頃にわかりそう。
・脳梗塞(急性期)の第3相治験結果が2025年の後半あたりにわかりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年率-20~20%程度。業績が急拡大するのは早くて2年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は30~500億円くらい。

■今後の計画
インフレが落ち着くまで静観する。ただし米VIXが40超、騰落レシオが70以下になった場合は買っていく。米国が景気後退入りして5~10ヶ月くらいたったときにも買っていく。株価が下げたときに買えるように銘柄のリストアップ・調査をしていく。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若い
 ・オーナー企業
 ・時価総額が300億円以下
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやリクルートなど

■よさそうな会社
・エムスリー、サイバーエージェント、リクルート
時価総額は大きいが長期で成長できそうな優良テック企業。仕込むタイミングさえ間違わなければ株価3倍は目指せそう。

・SUMCO
シリコンウエハーを製造する会社。高品質のシリコンウエハーへの引き合いは強く、増産投資もしているので長期で成長できそう。底値で買えば株価3倍は目指せそう。

・メック
電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる。ヴェリタス

・ミライアル 
半導体のシリコンウエハーを輸送する際に使う特殊容器のニッチトップ企業。世界で高いシェアを占める。2023年1月期の売上高は前期比22%増。売上のうち半導体向けが9割を占めるが、プラスチック形成技術を生かし、自動車や機械部品、医療などの領域にも事業を展開していく方針。3/11ヴェリタス

・湖北工業
3/4日経記事に「湖北工業は特殊な光ファイバーを使ったレーザー装置の開発で、イスラエルの企業、アリエル・フォトニクスとの業務提携契約を結んだ。湖北工業の光ファイバー製造技術とアリエル社の開発力を組み合わせ、医療用や産業用のレーザー装置を開発する。3年後に製品化し、5年後に100億円の売上をめざす。レーザー装置に使う光ファイバーは髪の毛ほどの太さの断面に規則的に並んだ数十個以上の穴を持つ。穴の大きさ、配置によって増幅した光を通したり、波長の範囲を広げたりする働きがある。湖北工業は光海底ケーブルに欠かせない「光アイソレータ」という部品で世界シェア50%以上を持つニッチトップ企業」とあった。オキサイドと似ているようにみえた。2021年にスタンダード市場に上場。

・パラマウントベッド
日本は2025年以降、団塊の世代が後期高齢者入りし始め、介護の需要爆発が起きるとされる。一方、少子化や共働き世帯の増加、厳しい労働条件、外国人労働者の減少などで介護人材の供給が追いつきそうにない。厚労省は2040年に医療や介護など福祉関連の人材が96万人不足すると推計している(日経)。人手不足の問題を和らげる一つの策は介護のデータ化、デジタル化になる。例えば要介護者のベッドに睡眠・心拍・呼吸センサーを付けると、遠隔で患者の状態を確認できるようになり、夜会巡回が不要になる(日経)。またセンサーで呼吸数などを継続的に計測することにより発熱や認知状態を予測できるようになる。パラマウントベッドは数年前から介護施設に睡眠・心拍センサーを提供している。パラマウントベッドの医療・介護用ベッドの国内シェアは7割に達しており、センサーの普及は始まったばかり。今後の需要拡大が期待できる。

・エス・エム・エス
介護・医療業界向けの人材紹介サービス最大手。介護事業者の経営支援も行っている。業績の柱である人材紹介サービスの成長は今後も期待できるが、それ以上におもしろそうなのが介護システム(SaaS)事業になる。このシステムは介護記録はもちろん、勤怠管理、従業員・利用者の健康管理、オンライン面会などができる。介護分野のDXはまだ始まったばかりなので、需要拡大が期待できる。

・SREホールディングス
日経に紹介されていた銘柄。「SREホールディングスは適正な不動産の売買価格をAIで素早く査定するシステムを手がける。不動産業界では正確な売却価格を査定するために現地に訪問して物件状況や周囲の生活環境を調査する。相場価格のほか、過去の類似物件の取引価格を手作業で調べて算出するため手間と時間がかかる。SREホールディングスは周辺の相場のほか、協力してくれる顧客企業から成約価格のデータをもらい、AIの精度を高め、10分程度で査定書を作成できる。AIによる査定価格と実際の成約価格を比べた誤差率は4%程度で、人が判断したときの誤差率は7~8%なので、AIの方が適正な価格を算出できる。契約社数は2500社と1年前から7割増。解約率は0.6%程度。このシステムは消費者側にも利点がある。不動産を売りたいときは情報が不足し、適正な価格の判断ができず、買い手側が優位な状況が多い。AI査定で作成した査定書には解析データが記載されているので消費者も客観的に適正価格を知ることができる。矢野経済研究所は不動産テック市場は25年度に20年の2倍に膨らむと予想している。SREホールディングスは培った技術を応用し、証券会社向けのAIシステムも開発。証券会社の顧客の住所から不動産価格を推定し、過去の証券取引データと組み合わせて潜在的な富裕層を見つけ、金融商品の提案につなげている。社長は「業界を超えて需要は高い」と語る」

・アサヒホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しており貴金属リサイクルはメガトレンドになっている。アサヒは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。割高感はなく、配当はよい。ヴェリタス

・BEENOS
海外の消費者向けに日本のフリマサイトやECモールなどでの商品購入を代行するサービス事業と、アジア向けのインキュベーション事業を手がける。購入代行は10言語に対応し、118カ国・地域にサービスを提供している。国内最大手。流通総額は年20%くらいのペースで伸びている。インキュベーション事業は今後の急成長が期待できるインドやインドネシアに主に投資している。円安時代にはよさそうな会社。1/16日経

・プラスアルファ・コンサルティング
タレント・マネジメント・システム「タレント・パレット」(SaaS)を開発・提供する会社。タレント・マネジメント・システム(人事管理システム)とは、従業員が持つ能力やスキル、他システムのデータなどの人材情報を一元化し、人事や経営の課題を解消するシステム。これを使うと人材配置シミュレーションや人材評価の効率化、ハイパフォーマー分析、モチベーション分析、離職分析などができる。日本企業は人手不足感が強く、人材のミスマッチなどの課題も抱えているため、このシステムへのニーズは強い。にもかかわらず2021年の導入済み企業はまだ約13%にすぎない。調査会社のITRは今後3~5年は年20~30%の市場拡大が続くと予想している。この分野の筆頭格がプラスアルファ・コンサルティングになる。人的資本の開示が23年3月期の有価証券報告書から義務づけられる。これもシステム導入の追い風になりそう。2/14日経

・再生エネルギー関連株
気温上昇の速度が数年前の想定よりも加速しており(3/21日経)、適切な対応をしないと近い将来、数百兆円規模の損害が発生しそうなので(3/21日経)、再生エネルギーや蓄電池への投資が倍増する可能性が高い。これはまだ株価に織り込まれていない情報なので、この分野の有望銘柄を探していきたい。

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:1.8%~3.6%の間で推移

米長期金利に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2023年の米GDP成長率は+1.4%程度、米インフレ率は+3~5%程度になる。

FRBの急激な金融引き締めにより米シリコンバレーバンクなどの金融機関が破綻し始めた(3/25ヴェリタス)。金融不安の高まりにより米経済成長率は下振れる確率が高まっている。3/25ヴェリタス

・金融政策→
FRBはインフレ対策として2022年3月から金融引き締めを始めており、2023年半ば頃までに政策金利を5.25%まで引き上げる予定。2024年は金融緩和に転換し4.3%程度まで引き下げる予定。3/23日経

金融不安が極度に高まった場合、FRBは金融政策を緩和に転換する可能性が高い。

政策金利を中立金利(2.4%)を超える水準まで引き上げると、景気(長期金利)には下押しの圧力がかかる。

FRBは2022年9月から国債などの保有資産をこれまでの倍速ペースで売却し始めており、年間で1.1兆ドルの資産(約150兆円)を売却する予定。FRBが今後3年で保有資産を3割(3兆ドル)売却すると長期金利には1%程度の上昇圧力がかかるとされる(日経日経)。ただし長期金利が過度に上昇した場合は英国のように国債売却を止める可能性もある。日経日経

金利が上昇すると政府債務の金利負担も重くなり、政府は予算規模を縮小せざるを得なくなる。そうなると景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↓
インフレ高進、金融引き締め、金融機関の破綻などによりリスクオフ気味。

・米国債の人気上昇→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高いので、海外勢から買われやすい。2022年の買越額は約100兆円と過去最大になっている。2/22日経

ただ、米金利上昇により為替ヘッジコストは上昇しており、日本では米国債利回りから為替ヘッジコストを差し引くと利回りがなくなってしまう。そのため日本の一部の金融機関は米国債から日本国債に資金をシフトしている(日経)。

海外勢の中で最も米国債を保有する中国は米中対立により米国債の保有を減らしている。2/17日経

そもそも論になるが、海外の高利回り国債は購入しても最終的には為替で価値が調整されてしまうので、買ってもそれほど利益は出ない。ヴェリタス

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

金余りで運用難に陥っている米金融機関や米企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。日経日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・財政赤字の拡大↑
米国の財政赤字は毎年100兆円を超えているので、米国債の供給増や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかっている。ただ、他国の財政状況も似たようなものなので、たいした影響はない。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート↓
<10年チャート> 高値圏でもみ合っている感じ。そろそろ下げに転じそう。


■WTI原油
今後1年の予想レンジ:60ドル~120ドルの間で推移

原油価格に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2023年の予想世界GDP成長率は2.9%になる。ただ足元では景気後退により成長率が下振れする確率が高まっている。

長期では、再生可能エネルギーの増加や学校・職場のリモート化などにより石油需要は減少していく可能性が高い。仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している(ヴェリタス日経)。

ロシアのウクライナ侵攻により原油・ガスの供給途絶リスクが表面化し、脱炭素シフトが前倒しされる可能性出てきた(日経3/14日経)。国際エネルギー機関(IEA)は再生可能エネルギーが2025年に最大の電源になると予想している。日経

一方で、世界人口増や再生エネルギー開発の滞りなどが原因で石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している(日経)。

・供給↑
OPECプラスは1バレル90ドル前後の水準を維持することを目的に減産に動いている(日経1/28日経)。米国のシェールオイルは増産ペースが鈍い(2/19日経)。国際エネルギー機関(IEA)は2023年前半は石油の需給バランスはとれるものの、年後半は大幅な供給不足に転じる可能性があると予想している。3/10日経

長期では、脱炭素の潮流を受けて油田開発投資が大きく減少しており(3/6日経)、また再生可能エネルギーの普及には時間がかかるので、大幅な供給不足に陥る可能性がある。

米国の戦略石油備蓄は40年ぶりの水準まで減っている。ロシアの減産に伴う価格高騰を抑えるため備蓄を放出しているのが原因。ただこれ以上の放出は緊急時の対応ができなくなる恐れがあるので、大規模な放出は難しくなってきている。米エネルギー省は原油価格が67~72ドルになれば戦略石油備蓄の補充に動く方針とのこと。3/10日経

・産油国で不測の事態が起こる↑
ロシアがウクライナに侵攻したため、西側はロシアからの原油輸入を大幅に減らしている。一方、中国やインドはロシアからの原油輸入を大幅に増やしている。ロシアの原油生産はほとんど減っていない。日経日経

ベネズエラやイランは西側から制裁を受けており、産油量が減っている。ただ西側は2国への制裁を緩和しそうなので、供給は徐々に増えていきそう。日経日経

中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きている。日経

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアとロシアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)とイラクは75ドル(日経)、米産油企業の採算ラインは45~70ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ↓
リスクオフ気味。原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時に売られやすい。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元ではインフレ対策としても買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではドルが下落基調なので、原油価格には上昇圧力がかかりそう。

・チャート→
<10年チャート> 下げ止まりつつあるように見える。60ドルくらいが底になりそう。


■ドル円
今後1年の予想レンジ:110円~135円の間で推移

為替に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・日米の長期金利差↑ (↑は円安方向、↓は円高方向)
米10年金利は高インフレと政策金利の引き上げにより3.5%まで上昇している。一方、日本の長期金利は金融緩和などの影響で0.3%程度で停滞している。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

・日米の量的緩和政策↑
米国は2022年5月ごろから量的引き締めをしているが、日本は量的緩和を続けている。日経

・日本の経常収支↓
円安や資源高、産業競争力の低下、輸出主導の経済構造の変化などにより、22年度の貿易赤字は過去最大の約19兆円になった。ESPフォーキャスト調査では、23年度は17兆円、24年度は13兆円の貿易赤字が続くと予想されている(1/20日経)。ただ所得収支も増加しているため、経常収支は11兆円の黒字を確保している(3/18ヴェリタス2/9日経)。2023年は所得収支の黒字が増えて貿易赤字が減りそうなので、経常黒字の拡大が予想されている。3/18日経

・米国の経常収支↑
米国は経済が強いので経常収支は改善傾向にある。

・リスクオン、オフ↓
リスクオフ気味。日本は世界一の対外純資産国なのでリスクオフ時に円は買われやすい。

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や債権、不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。
*日本の個人投資家は2021年に海外株を8兆3千億円買い越しており、その9割程度は米国株になる。なお同年の日本株の買越額は280億円になる。日経日経

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。対外純資産に占める対外直接投資の比率は増加傾向で、2020年には47%まで上昇している。一方、対外証券投資の比率は28%まで低下している。日経

・国内投資家の対外証券投資→
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を積極的に買っている。ここ数年は両者合わせて年10兆円超の買い越しが続いていた。ただ直近ではドル調達コストの上昇などにより機関投資家の海外証券投資は大幅に減っている。生保に限っては2022年に11兆円売り越している。日経2/20日経

・海外投資家の国内証券投資→
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)が低く、日本国債の金利は安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越していた(日経)。ただ2022年は国債価格の下落を見越して中長期債を10兆円超売り越している(1/13日経)。足元では日銀の国債貸出料の引き上げや米欧の金融不安などにより中長期債の買い越しに転じているもよう。3/25日経

・FX投資家の持ち高→
FX投資家(個人投資家)の月あたりの取引規模は約1000兆円(うちドル円取引は約800兆円)に拡大しており、東京市場での取引の約半分を占めている(ヴェリタス1/18日経)。2022年10月頃までは個人が大きく買い越しており、円安が進むとみていた。現在の持ち高は不明。

・投機筋の持ち高↑(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は円売りを継続している。円が下落するとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。日経

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、ウクライナ危機などにより基軸通貨ドルの需要が高まっている。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

現在の購買力平価(企業物価)は89円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくので、円の下限は70円、上限は110円くらいになる。

・日銀が保有する日本国債の値下がり↑
日銀が1%程度の金利上昇を許容するような金融政策を行った場合、日銀は債務超過に陥る可能性が高い。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるので資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。
*日本経済研究センターは日銀が長短金利操作を撤廃した場合、長期金利が1.0%程度まで上昇すると予想している。日経
*日銀は長期金利が1%に上昇した場合は日銀が保有する国債に28兆円、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。日経
*22年末に日銀が保有する国債の含み損は約9兆円まで膨らんでいる。3/18日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する(日経)。ただ現時点でそこまで下がる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。日経2/17日経

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。米国も返済不可能な水準まで債務は積み上がっているが経済が強く、基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。

・キャピタルフライト↑
日本は財政問題や経済低迷などの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産にシフトし始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。

・為替介入→
2022年9月に政府・日銀が円安を食い止めるために為替介入を始めた。ただ規模が小さく、海外と連携した協調介入を行っているわけでもないので(日経)、影響は小さい。

・チャート
<10年チャート> ピークアウトして下落基調にある。

■日経平均
今後1年の予想レンジ:22000~28000円で推移

日経平均に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(日経)、現在中銀は資産を売却し始めている。ただ2022年の10月ごろから、日本、欧州、中国の中銀の資金供給が増えており(2/18日経)、米国でも2023年3月の金融不安をきっかけに資金供給が増えている。3/22日経3/17日経

・金利↓
金利が上昇すると株式から債権へ資金が流れやすくなる。現在、金利は高水準にある。

米長期金利上昇により、米金融機関全体の債券の含み損は22年末時点で6204億ドル(約80兆円)と1年前の79億ドルから急拡大している。これは米金融機関全体の自己資本の約3割に相当する(3/24日経)。日本の金融機関も外債の含み損が膨らんでいる(日経)。一般に含み損率が高まると株式などのリスク資産投資が減少する。

・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約7.09%、配当利回りは約2.39%と、日本の10年国債の利回り0.32%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・為替↑
円安が進むと海外勢は日本株を買いやすくなる。ただ、2022年は売り基調になっている。日経

・需給↑
海外勢の売り玉はなくなりつつあり、日本企業の自社株買い意欲は旺盛なので、日本株は下がりにくい。大きく下がったときは日銀の買い支えも期待できる。

主な投資主体の売買動向
<2023年の予想>
日本銀行:買い支えで1兆円の買い越し。現状は1400億円の買い越し。
事業法人:自社株買いで4兆円の買い越し。現状は1兆円の買い越し。
海外投資家:静観モードで5千億円の売り越し。現状は1.1兆円の売り越し。
個人投資家:逆張り投資で1兆円の買い越し。現状は1300億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↓
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(期待度・人気度)で決まる。2023年の予想EPSは-10~5%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についてもみていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今は円安気味なので利益は増えやすそうではあるが、輸入価格が高騰しており、この分を価格転嫁できなければ利益は大きく増えない。2月の企業物価指数は前年同月比8.2%で消費者物価指数は3.1%なので、約5%分を価格転嫁できていないことになる。この調子でいけば利益はあまり増えない。

・海外景気↓
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。今後の世界景気は後退する可能性が高い。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫される。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばいだが、資源価格は上昇している。

・金融政策↓
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。今は世界中で金融引き締めをしている。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいだが、現在のPERは13.09倍とやや低い水準にある。ただ景気後退によりEPSが下がりそうなので、妥当な水準にみえる。

投機筋の持ち高
買い残は1兆4300億円で、裁定売り残高は2800億となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり(日経)、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。ただし、買っているのはほとんど米国株になる。

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなりやすいという問題がある。日経日経

・チャート→
<10年チャート> 辛うじて上昇トレンドを保っているがそろそろ下げそうな雰囲気。


■東証グロース指数(旧マザーズ指数)
今後1年の予想レンジ:800~1000の間で推移

東証グロース指数に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策↓
東証グロース指数は中銀の総資産との相関が全市場の中で最も高いので、中銀の資産縮小時には真っ先に売られやすい。とはいえ、中銀が資産を売り始める前にグロース指数はコロナ前の水準まで売り込まれているので、やや売られすぎの感がある。

金利の上昇も小型グロース株には逆風になる。金利が上昇すると将来の成長期待を買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。また小型グロース企業には赤字企業が多く、金利上昇時には成長資金を調達しにくくなる。

・需給→
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので(ヴェリタス日経)、売り圧力は弱そう。

個人投資家は含み損を抱えているため大きな買いはあまり期待できない。

・EPS(1株利益)成長率
不明

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

現在の信用評価損益率は-??%と平均の-10%より低いが、下落の仕方が緩やかなのでセリング・クライマックスのような投げ売りはまだ見られない。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えていた。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような状況であり、このような前例を踏まえると、東証グロース指数はあと半年くらい調整が続くかもしれない。ヴェリタス

<マザーズ指数の10年チャート> 下降トレンドだが、MACDがゴールデンクロスしているので底を打ったように見える。

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2023年の予想EPS成長率は-10~5%。
・米国株式の2023年の予想EPS成長率は-12~10%。
・欧州株式の2023年の予想EPS成長率は-15%~0%。
・日本株式の2023年の予想EPS成長率は-10%~8%。
*参照:1/26日経1/26日経2/17日経2/25日経など

■経済成長率
・世界の2023年の予想GDP成長率は2.9%。
・米国の2023年の予想GDP成長率は1.4%。
・中国の2023年の予想GDP成長率は5.2%。
・ユーロ圏の2023年の予想GDP成長率は0.7%。
・日本の2023年の予想GDP成長率は1.8%。
*数値はIMF予想。1月30日にIMFは「成長率見通しは底打ち」といっている。2/1日経

世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。日経

■インフレ
・米国の2023年の予想インフレ率は3.0~5.0%。
・欧州の2023年の予想インフレ率は3.5~5.5%。
・日本の2023年の予想インフレ率は1.5~3.0%。
*参照:日経など
*参照:米PCE(個人消費支出物価指数)、米CPI(消費者物価指数)ユーロHICP日本CPI。各国中銀は主にこれらの指標を使って政策決定する。
*米国の今後10年の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率10年)は2.34%。ブレーク・イーブン・インフレ率とは債券市場の予想物価上昇率で、実質金利を算出するときなどに用いる。

世界中でインフレが高進している。インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて、今後のインフレ動向を予想していく。

<インフレ要因>
★コロナ特有のもの
・供給基盤が破壊され供給不足が生じている。
・コロナで対面型サービスの人気が落ち、賃金が上昇している。
・コロナが落ち着いてきて需要が増している。
・政府から給付金が支給され需要が増している。
・金融緩和の影響で資産価格や商品価格が上昇している。
・量的緩和の影響で通貨価値が下落している。
→現在、これらの要因はほぼ解消されている。
 
★コロナ後も続くもの
・人手不足で賃金が上昇している。米国の2月の求人件数は1082万件で、失業者数は569万人になる。失業者1人に対して求人が約1.9件ある計算になる。3/9日経

米労働市場は逼迫しているが、金融引き締めなどの影響で求人件数がピークアウトしそうな気配も出てきた。米国で求職サイト「Indeed」を運営するリクルートの社長は2月の決算説明で「(米国では)予算をかけてまで採用しようという意欲が、多くの業界で大幅に減退している」と語っており(2/14日経)、Indeedの社長は3月に「米国では今後2~3年で求人数がパンデミック(新型コロナウイルスの世界的な大流行)以前の水準である約750万人か、これを下回る可能性が高い」と言っている。3/23日経

求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち(現在は5%程度)、FRBの2%物価目標と整合するとされる(日経)。今の調子でいくと労働市場のインフレ問題は徐々に解消されていきそう。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。ヴェリタス日経
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ要因になる。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇などにより、食料価格が上昇傾向にある(日経ヴェリタス)。農作物・肥料価格の先行指標である「農業ETF」は高値圏で推移している。

・ロシアのウクライナ侵攻により食料・資源・エネルギー価格が上昇している。西側の制裁は今後も続く予定で、これらの価格にはしばらく上昇圧力がかかる。

・米住居費が上昇している。家賃上昇が2023年の米CPIを1.1ポイント押し上げると見込まれている。日経

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。日経

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。日経日経

<デフレ要因>
・世界中の中央銀行が強力な金融引き締めをしている。金融引き締めをすると需要が減る。

・経済や社会のデジタルシフトが加速している。経済や社会のデジタルシフトは強力なデフレ圧力になる。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報・人・モノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・産業の「自動化」により、生産コストが低下している。
・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。日経
・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。
・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。
・人手不足で成長力が低下している。
・金融引き締めなどの影響で資産価格が下落している。

以上をまとめると、インフレの大きな要因はコロナ要因、賃金上昇、財物価の上昇、資源高あたりになる。これらのうち賃金の上昇以外は収束しつつあるので、米国のインフレ率は徐々に落ち着いていきそう。ただ過去の例では賃金インフレはしぶとく続くので、FRBが目指すインフレ率2%になるのは2024年頃になりそう。2/14日経2/18ヴェリタス

インフレが落ち着いた後も、脱炭素や人手不足、非グローバル化などの構造要因は残るので、しばらくは以前のような超低インフレには戻らない可能性が高い。ただ超長期では、エネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命により超デフレになる可能性が高い。

■金利
・米国の政策金利は5.0%で、3ヶ月金利は3.94%、2年金利は4.17%、10年金利は3.57%、30年金利は3.75%になる。
・日本の2年金利は-0.05%、10年金利は0.33%、30年金利は1.28%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では株式などのリスク資産に資金が流れやすくなる。現在、実質金利は上昇基調にあり、米国の実質10年金利は約1%、日本は-1%くらいになる。

*現在の債券は魅力的な水準になっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが4.1%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなる。日経2/10日経

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.4%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年7月から10年金利が2年金利を下回っており、現在もそれが続いている。3/25ヴェリタス
*米10年金利が米3ヶ月金利を下回ると、その後、比較的すぐに景気後退する傾向がある。2022年10月からこの逆イールドが発生している。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。ヴェリタス

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。日経

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は3~4の段階になる。

■債務
・世界の債務はコロナ下で急拡大し過去最高水準のGDP比343%に達している(日経)。ただ、対コロナの経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっている。デフォルトが急に増える状況ではない(日経ヴェリタス)。ただ米国においては2023年半ば~後半頃にコロナ貯蓄がゼロになる可能性が高い。2/5日経3/2日経

・債務の質は劣化しており、米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割超が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
・欧州企業全体の信用リスクを示す指数は2022年7月に一時、コロナ危機下の2020年3月並みの水準まで悪化している。日経
・米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。また企業負債のGDP比率は12年には65%前後だったが、足元では80%に迫る水準まで上昇している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。日経ヴェリタス

・クレディ・スイスが発行した2.2兆円のAT1債(劣後債の一種)の価値が3月にゼロになった。世界で発行されているAI1債は約35兆円あり、それらのAI1債もデフォルトするのではないかとの不安が高まっている。ただ、スイスのAT1債は特殊なので、デフォルトが続く可能性は低い。3/27日経

・日本政府の債務残高はGDP比で250%を超えており、先進国の中で断トツトップになっている。資産を差し引いた純額でも140%と、財政事業が危機的なギリシャやイタリアと同程度になる。放漫財政により債務残高は毎年膨らみ続けている。政府債務のGDP比が90%を超えると民間投資に向かう資金が大きく減るので、経済成長が減速しやすくなる。

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている(日経)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。
・債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。削減できなくても政府債務は実質的に返済不要なので特に問題なさそう。
・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる(日経)。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する。3/19日経

・国際決済銀行(BIS)によると、22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。1/20日経

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。日経日経

・国際金融協会(IIF)によると、新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている(日経)。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。米国の積極的な利上げに成長鈍化も加わり、多くの投資家が新興国の金融資産から資金を引き揚げている。新興国の25%がデフォルト同然の借入金利に直面している。2/19日経

・世界で過剰債務企業が増えている。本業の利益が借金の利払いより少ない”ゾンビ”企業が全上場企業(2万4500社)に占める比率は2021年度に16%になっている。直近ではこうした企業が破綻に追い込まれる事例が相次いでおり、仏アリアンツ・トレードは23年に世界の企業の倒産が21年比で26%増えると予想している。日経

・米ムーディーズは今後の世界の社債について、最も悲観的なシナリオだとデフォルト率が14.5%になると予想している。これは1933年の世界大恐慌の最中の15.8%以来の水準になる。リーマン・ショック時のデフォルト率は12.1%になる。日経

<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので(日経)、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。中銀は足元でインフレ対策として資産の売却を始めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、バブルが完全崩壊する可能性は低い。

■金融政策、財政政策
・世界中の中銀がインフレ対策で金融引き締めを行っている。ただ日本や中国など一部の中銀は金融緩和を続けている。

・日銀が金融引き締めをしないのは、日本のインフレ率が2%程度と低く、コストプッシュ型の悪いインフレのため。日銀は現在のような需要不足の状態(3/8日経)で引き締めをすると景気後退に陥ると考えている。

・日銀総裁に植田和男氏が就任した。植田氏はマクロ経済学(金融政策)のスーパースターだが、日銀は国債を限界まで買い上げほぼ身動きの取れない状態に陥っているので、できることはあまりなさそう。とはいえ一番マシな選択肢を選んでくれるのではないかと思う。

・黒田日銀の金融政策を総括すると失敗だったようにみえる。日本の財政を健全化するには歳出を削減して、経済成長率を高める方法以外ないが、黒田日銀はそれに逆行することをしていた。大規模緩和をして財政規律を失わせ、経済の新陳代謝を低下させて成長力を低下させた。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる(日経日経)。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる(日経ヴェリタス)。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機に陥る可能性が高い、とされる。ヴェリタス
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。

■政治
・日本の政治は比較的安定。ただ、日銀の財政ファイナンスにより財政のタガが緩んでいる。この調子でいくと近い将来財政破綻しそう。
・海外は不安定。ウクライナ紛争により、ロシアと西側の関係は当分冷え込みそう。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
*米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれそう。日経日経
・中国では習近平総書記の3期続投が決まったが、周りを全てイエスマンで固めており、マクロ経済に詳しい人物が1人もいないので経済が低迷しそう。米中対立の影響で先端技術が入ってこなくなっているので、それも経済を下押ししそう。
・EU域内で財務格差が広がりつつある。財務状態の異なる国々で単一の通貨を使うことには無理があるので、EUは解体されそう・・と思っていたが、コロナ危機やウクライナ紛争などの危機でEU加盟国の結束は強まっているらしい。日経日経

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしたようにみえる。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。自動車販売もピークアウトの兆しが出ている。日経
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で47.7と4ヶ月連続で中立水準を下回っている。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は55.1と高水準を維持している。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える。
・1月の米PMI(購買担当者景気指数)総合は46.6と7ヶ月連続で50を下回っている。1/25日経
ユーロ圏のPMIは47.8。好不況の分かれ目である50を8カ月連続で下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは52.6とやや回復基調にある。
米国の失業率は減少傾向で現在は3.6%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るとされる。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米調査会社コンファレンス・ボードの2月の景気先行指数は前月比マイナス0.3と11カ月連続で落ち込んでいる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000はやや高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは2022年1月頃から上昇基調になっている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は3つ起きている。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照

■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい(日経)。現在の「弱気」は45%とそこそこ弱気な水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。同指数は4月27日にマイナス42%、6月20日にマイナス41%と「極度の悲観」に達している。マイナス40%を超える悲観はリーマンショック後の2009年3月に記録したマイナス51%以来になる(東洋経済)。現在はマイナス27%と「悲観」の水準にある。

投資家の強欲と恐怖指数(Greed and Fear Index)も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすくなる(東洋経済)。現在は40で「Fear」の水準。

・米国債の予想変動率を示すMOVE指数も株価の先行指標になる。この指数が株価の予想変動率を示すVIX指数の5倍に達すると株式市場は下落することが多い(日経)。3月15日にMOVE指数は198まで上昇。同日のVIX指数は26なので、MOVE指数はVIX指数の7.5倍くらいまで上昇している。現在のMOVE指数は141、VIX指数は19になる。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月で、その期間の株式の平均下落期間も16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。日経

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わる可能性が高い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。ヴェリタス

■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは121とやや過熱の水準。
・日本株の信用評価損益率は-10.46%と平均的な水準。
・チャートは全体的に高値圏でもみ合いの感じ
<ナスダック5年チャート> 一時、長期線を割り込んでいたが、Wボトムを形成して長期線を越えてきている。大きく反発するのかもしれない。

長期計画

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
インフレ高止まりにより景気後退に陥る確率が高まってきた。民間・政府ともに債務山積みの状態で中銀が金利を引き上げているので、景気には強い下押し圧力がかかっている。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は比較的良好なので深刻な景気後退に陥る確率は低い(日経日経日経)。今回のインフレは長引きそうなので、しばらく金融緩和や財政政策による景気刺激は期待しにくい。景気後退は浅く長いものになるのではないかと思う。景気の底は2023年の終わり頃から2024年の始めあたりになりそう。

<補足>
景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大)・失業率低下 →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮)の流れになる。

■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務残高は積み上がっており、GDP比220%に達している(日経日経)。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化する。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が2024年頃までに武力で台湾を併合するとの予想がある(日経日経日経日経)。実際にそれが起きれば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる(日経日経日経)。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米国側からになる。日経日経

景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある(日経ロイター)。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれそう。

2022年は世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生した(日経産業ヴェリタス日経日経)。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは3月に「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測している(3/21日経)。経済システム転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので(『21 Lessons』)、人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている(日経日経)。AIやロボット、教育(日経)などの影響を考えると、今後もピークアウトの前倒しは続くのではないかと思う。

景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。ロイター

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので(日経)、景気後退もしくは財政破綻する可能性がある。

■今後の計画
円が105円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。

・米市場に上場している「銅ETF」「リチウムETF」
「グリーン革命」で銅需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう(日経日経)。仕込むタイミングは2024年の半ば頃にくるかもしれない(日経)。リチウムも同じような理由で供給不足に陥る可能性が高い。日経日経

・ファーストトラスト・クラウド・コンピューティングETF
この「クラウドETF」は、マイクロソフトやアマゾンなどクラウド基盤を提供する銘柄と、クラウド経由でソフトウェアを提供するSaaS銘柄で構成されている。現在は大きく売り込まれているが、ビジネスモデルは強く、長期的な見通しはよい。日経

・米市場に上場している「半導体ETF」「サイバー・セキュリティETF」
AI・ロボット社会では半導体企業とサイバー・セキュリティ企業の力強い成長が期待できる。基準価額が大きく下げているときに買えば3倍は狙えそう。半導体株は「シリコンサイクル」的に2023年後半あたりが仕込み時になりそう(日経)。ただ米国の対中輸出規制や過剰投資には気をつけたい。日経日経1/4日経

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のeコマース企業。当初はオークションサイトとしてスタートしたが現在のビジネスモデルはAmazonのマーケットプレイスに近い。小売り事業者にウェブサイト上の場所を貸し出し、手数料を徴収する。出店者の代わりに配送業務を行う事業や、サイトの作成・管理を代行するサービスも提供している。もう一つの事業がフィンテック事業。南米は欧米などと異なり、銀行口座やクレジットカードを保有してない利用者も多い。ラテンアメリカ市場ではオンラインで販売した際に支払処理をどのように行うかが大きな問題となっている。メルカドリブレはそれぞれの国情に併せてQRコードなどを活用した様々な決済サービスを提供している。ラテンアメリカはインターネットの普及自体が遅れているため先進国と比べて出遅れ感があり、その分成長余地が残されている。ラテンアメリカに住む6億5千万人の人びとの中でネット通販を頻繁に利用する人はまだ8千万人程度とされる。問題はカントリーリスクになる。サービスを提供している18カ国のうち、アルゼンチン、ベネズエラ、ニカラグアのリスク評価は最低ランクで、最大の売上を稼ぐブラジルも下から3番目の評価になる。ビジネス自体は順調であっても為替レートが大幅に低下すればドル建ての業績は悪化してしまう。ライバルのShopee(シンガポール)はこのような問題から、ラテンアメリカ事業を縮小している。週刊エコノミスト

・アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、セールスフォース
これらの大型株はまだまだ成長しそう(日経日経日経産業1/25日経など)。ただ大きくなりすぎて規制リスクが高まっている(日経日経など)。この中で規制の影響をあまり受けなさそうなのはセールスフォースあたりになる。

パワフルなAIを作れる企業の条件は、「巨大なデータセットを持っている」「莫大な資金がある」「超優秀な頭脳がある」の3つになる。これらの条件をすべて満たせるのは西側では米巨大テックしかないので、これらの企業はAI時代にも伸びそう。

・日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。ただ生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには中銀が通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した国債を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値(信認)が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなると通貨安とインフレが加速し、国内からお金が逃げ出す。ただ実物資産である株式は上昇する(週刊エコノミスト )。ハイパーインフレが起きた場合は株式は大暴騰する。つまり株式は長期で上昇し続ける可能性が高い。ただし、高インフレが発生すると事業環境が悪化するので外貨換算の企業価値は減少する。

通貨の信認喪失が起こるタイミングはおそらく日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。現行の財政スタンスでいけば2036年ごろに財政破綻する可能性が高いらしい。2/8日経

オキサイド

 ■調べようと思ったきっかけ
12/22の東スポ記事「レーザーテックと株式持ち合いをしていて、同社向けのレーザ光源を独占供給している。しかも半導体(露光装置)最大手ASMLもオキサイドから納入していて、世界シェアを独占している。ほかにも超高品質なSiCウエハを共同開発する国の補助金事業も有望。半導体の演算処理を電気ではなく光で処理する次世代技術でもキーになる会社で”超”将来性がある」を読んで。

■どんな会社か
光学単結晶やそれを用いたレーザ装置を開発、製造、販売する会社。事業分野は「光計測・新領域事業」「半導体事業」「ヘルスケア事業」の3つ。3月にイスラエルの企業を買収したことにより、新たに「宇宙・防衛事業」「美容事業」「量子暗号事業」「エネルギー事業」が加わった。

オキサイドの主力3事業についてみていく。
<光計測・新領域事業>
研究開発に特化した事業で、すべての事業はここを起点に始まる。売上高は全体の1割程度になるが、研究開発人員の約30%を投入しており、オキサイドのコアの部分になる。研究開発するものは国内外のメーカーや大学から相談を受けた光学単結晶や光の波長変換技術領域のもので、実需があり難易度の高いもののみになる。付加価値の高いものが多く、研究開発の段階ですでに黒字化している。

<半導体事業>
半導体ウエハの検査装置メーカー向けに光学単結晶を販売している。また半導体ウエハ製造企業向けにレーザ検査装置を販売している。半導体向けの深紫外レーザ光学単結晶の世界シェアは約20%、7nm以下の半導体ウエハの深紫外レーザ検査装置は世界シェア約95%になる。オキサイドのレーザ検査装置は信越化学工業、SUMCO、TSMC、サムスン、インテルなどで使われている。

レーザ検査装置で使う光学単結晶は1~2年で寿命がくるため、定期的に光学ユニットの交換が必要になる。このメンテナンス事業ではマーケティング費用が発生せず、受注単価が高いため利益率も高い。収益構造はストック型になる。この事業の半導体事業に占める売上高は現在2割程度になる。レーザー検査装置の販売は始まったばかりなのでこの事業の売上比率は今後上がっていく予定。

<ヘルスケア事業>
ガンや認知症の診断に使われるPET-CT検査装置に搭載されるシンチレータ単結晶を開発、製造、販売している。この分野における世界シェアは20%程度あり、拡大傾向にある。

【オキサイドの強み】
オキサイドの競争力の源泉は高度な単結晶育成技術になる。様々な原料を混ぜ合わせ、それぞれの原子(分子)配列がまったく同一な単結晶の作成は難しいが、オキサイドは欠陥の少ない高品質な単結晶を作ることができる。先端半導体ウエハの検査で使われている紫外レーザーは高いエネルギーを使うため結晶が劣化しやすく、従来の製品では耐久時間が2週間からもって1ヶ月程度だった。オキサイドはそれを1年以上に引き上げた。オキサイドほどの光学単結晶を作れる企業は国内外に存在しないともいわれいてる。Forbes2021/4

【業績】
2019年2月期 売上高26.0億円、営業利益1.0億円
2020年2月期 売上高30.6億円、営業利益1.2億円
2021年2月期 売上高35.7億円、営業利益3.6億円
2022年2月期 売上高47.5億円、営業利益5.9億円
2023年2月期(予) 売上高58.7億円、営業利益5.1億円
*2023年2月期の業績予想は、当初、売上高64億円、営業利益9億円だったが、第3四半期に下方修正した。これはレーザ検査装置の製造で問題が生じたため。

2022年2月期の各事業の売上比率は半導体事業が52%、ヘルスケア事業が36%、光計測・新事業領域が12%になる。海外売上高比率は71%(うち米国が45%)になる。海外への販売はほぼすべて円建てで行っているため為替変動の影響は少ない。

光学単結晶の原料は基本的に安価なものが多い。オキサイドはそれを結晶にして原価の500~1000倍に高付加価値化しているため、販売が増えると利益率が高まりやすい。

オキサイドが掲げる業績面での経営目標は、売上高成長率20%、営業利益率10%になる。営業利益率10%には研究開発投資を継続する意志が反映されている。

配当はなし。自己資本比率が50%以上、フリーキャッシュフローが安定的になれば配当も考えるとのこと。

設備投資のピークは前期(2023年2月期)になる。


■成長ストーリー
「超高品質単結晶でグローバル・ニッチトップ10個」が基本シナリオ

AIや5G(6G) 、量子コンピューターが普及する21世紀は「光の時代」ともいわれている。そこでは光の波長を調整する光学単結晶やレーザ装置が非常に重要なものになってくる。オキサイドは光学単結晶の分野で世界トップになることを目指している。

主な成長戦略は3つ。既存事業の成長、新領域の事業化、M&Aになる。

<既存事業の成長>
現在の一番の成長ドライバーは半導体事業になる。この事業の売上は年40%超の勢いで伸びており、オキサイドによるとこのペースを維持していくとのこと。半導体ウエハの市況は一部で悪化しているが、7nm以下の先端ウエハの工場建設は旺盛なため、オキサイドの事業への影響は今のところない。現在は生産が追いつかない状況で、生産能力の増強が課題となっている。2023年4月から新工場が稼働するので、生産能力は徐々に高まっていく予定。

2番目の成長ドライバーはヘルスケア事業になる。この事業の売上は年15~25%のペースで伸びている。世界のPET-CT装置の成長率は年5%程度だが、オキサイドが提供する単結晶は競争力が高いので、シェア拡大により現行の成長ペースを維持できそう。

PET-CT装置の市場拡大も期待できる。2023年1月にエーザイと米バイオジェンのアルツハイマー認知症薬の治療薬「レカネマブ」がFDAから迅速承認を受けた。日欧でも近々承認される予定。アルツハイマー認知症の診断には頭部専用PET-CTでの検査が必要になるので、検査装置需要が高まる可能性が高い。なお、2019年の世界のがん患者数は約1400万人になるが、アルツハイマー型認知症は5500万人になる。国際アルツハイマー病協会は2025年にそれが1億5200万人に増加すると予想している。エーザイは2030年にレカネマブの売上高が世界で1兆円規模になると予想している(3/10日経)。頭部PET-CT市場はガンPET-CT市場くらいまで拡大する可能性がある。

<新領域の事業化>
光学単結晶の応用範囲は広く、オキサイドは事業領域の拡大を進めている。5Gや量子コンピューター、固体電池など新しいアプリケーションが出てくると新しい素材ニーズが生まれ、オキサイドはそれらに合わせ研究開発を進めている。顧客は足元で160社・機関を超えており、これらの顧客から最新の技術動向を得ている。

現在取り組んでいるパイプラインは16。この中で事業インパクトが大きくなりそうなものを上から順に5つほどみていく。

・SiC(炭化ケイ素)ウエハ事業
SiCウエハとは、従来のシリコンウエハに炭素を混ぜ合わせたもので、高温下・高電圧下でも安定して作動し、電力損失が少ないウエハになる。このような特性があるため、SiCパワー半導体はEV(電気自動車)向けなどで需要が急拡大している。現在、シリコン製のパワー半導体は送電線や電車などにも使われているが、今後はこれらのパワー半導体もSiCパワー半導体に置き変えられていくとされる。
*パワー半導体とは電力の制御を担う半導体

ただ、現在流通しているSiCウエハは、欠陥密度が高く、製造コストが高いという問題を抱えている。オキサイドは名古屋大発のベンチャーUJ-Crystalと組んで、それらの課題を解消する開発に取り組んでいる。現時点ではまだ研究段階にあるが、AI技術(プロセス・インフォマティクス)の導入などにより、結晶作成は順調に進んでいる。

ーーーーーーーーーー
【SiCウエハの製造について】
オキサイド以外の全メーカーは昇華法という方法でSiC結晶(SiCウエハ)を製造している。SiCは固体から液体にならずに、いきなり気体になるという性質がある。そのため結晶にする場合は気体から固体にして結晶を作る必要がある。気体から固体に結晶化する過程では急激な温度変化が生じて欠陥密度の高い結晶になりやすい。

オキサイドは溶液法という方法でSiC結晶を作る。溶液法ではケイ素の液体の中に炭素を溶かし込んで結晶を成長させていく。温度的にマイルドな環境で結晶を成長させるため欠陥密度が昇華法の300分の1程度と高品質な結晶ができる。また作る手間が減り成長も早いのでコストも下がる。昇華法では難しい厚みのあるインゴット(塊)も作れる。

【SiCウエハにはN型とP型がある】
N型は主にEVなどに使われ、P型は発電インフラ、送電インフラなど、より電圧の高いデバイスに使われるため、P型の方が付加価値が高い。昇華法でP型を作る場合は非常に手間がかかるが、溶液法ではN型と同じようにシンプルな方法で作ることができるため、オキサイドはまずはP型の開発に取り組む。
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開発の大まかな計画は、2023年3月にSiCウエハの工場が完成し、2024年のサンプル出荷を目指す方向。溶液法での巨大SiC単結晶の量産化が成功すれば、世界中の先端素材メーカーから注目が集まり、おそらくオキサイドは世界的なメーカーになる。他のメーカーとライセンス契約する可能性も出てくる。

オキサイドのSiCウエハ事業は国のグリーンイノベーション基金に採用されており、2022年3月から8年間、国の援助が受けられる。最初の2年間は全額分の助成を受けられる見込み。

SiCウエハの市場規模は2022年に約630億円、2024年に約1000億円、2026年に約1500億円になると予想されている。オキサイドはここでシェア10%をとることを当面の目標としている。

・量子暗号通信事業
米中を筆頭に量子コンピューターの研究開発が加速している。量子コンピューターの特徴は処理速度が極めて速いことで、最新スパコンの数万倍のスピードがある。ただ高性能な量子コンピューターが完成した場合、現在使われている通信暗号が破られてしまうという問題がある。安全な通信を行うには量子暗号通信が必要になる。オキサイドは横国大発のスタートアップLQUOM(ルクオム)と提携して、情報を安全に送受信できる量子暗号通信ネットワークの構築を目指している。オキサイドはルーターに使う波長変換素子や量子メモリに使う光学単結晶を提供する予定。

量子技術の市場規模は2025年で3兆円、2050年には約70兆円になると予想されている。なお、2023年3月に買収したライコル社は量子暗号の領域ですでに数億円の売上がある。

・アイソレータ単結晶
これは5G(または6G)で使う単結晶で5Gで安定した通信を確保するために使われる。この分野でオキサイドは最後発のメーカーにはなるが、国内の5G普及は遅れており、参入のタイミングは間に合ったもよう。競合は米コヒレントと国内のグラノプト。通信分野で使う波長は0.8~4ミクロンくらいになるが、オキサイドはそのニッチ領域を攻めている。

・GaN(窒化ガリウム)ウエハ用単結晶「SAM」
GaNウエハは中電圧デバイスに適した素材で、「SAM」はそのウエハの基板となる結晶。オキサイドの結晶を使うと欠陥密度が従来の半分くらいまで減少し、より高性能なGaNパワー半導体を作れるようになるという。2021年にサンプルを集荷し、現在は評価待ち。多数のメーカーから引き合いがあり、今のところ評判は上々とのこと。

・フェムト秒レーザー
フェムトとは10の-12乗という意味で、フェムト秒レーザーとは1兆分の1秒にパルスレーザーが出る装置。このレーザーは熱を出さずに微細加工ができる点が特徴で、有機ELやマイクロLED、医療用ステントなどの製造に使われる。オキサイドはデンマークのNKT Photonics社(現・浜松ホトニクス子会社)と提携し、258nmのフェムト秒レーザーを開発し、サンプル出荷している。今のところ高評価を受けているとのこと。先行メーカー2社は343nmのフェムト秒レーザーになる。現在、あらゆる分野で製品の微細化が進んでいるので、258nmのフェムト秒レーザーの需要が高まる可能性がある。

<M&A>
海外の専業メーカーは上場後にM&Aを繰り返しながらどんどん大きくなっている。オキサイドもそれを見習う。そもそもオキサイドはこれまでM&Aをして大きくなってきた。半導体事業はソニーから買収した事業になるし、ヘルスケア事業は日立から買収した事業になる。オキサイドはその買収した企業の生産性を100倍以上に高めて成長してきた。今後もこの必勝パターンを繰り返して大きくなっていく予定。

M&Aの方法は外部の調査機関やコンサルを使わず、日本電産のように自社で調べて交渉するというスタイル。オキサイドは専門家集団(社員の約3割が博士、修士、MBA取得者)で経営されており、中長期のビジョンも共有されているため、意志決定は早いという。投資に対するリスク、メリットがクリアなため、交渉はスムーズに進むことが多いという。

今後は買収だけでなく、スタートアップの支援なども行っていく。オキサイドはもともと国立研究所である材料・物質機構発のスタートアップで、創業してから約20年間、経営のノウハウを蓄えてきた。ディープテック分野では、量産化や安定生産、資金調達など特有の難しさがあり、大学発のスタートアップでは創業者である教授が雑務に忙殺されて研究に専念できないことが多い。オキサイドは経営の基本的な部分を支援し、優秀な研究者が本業に専念できる環境を作っていく。

【3月に買収したライコル社】
オキサイドは2023年3月にイスラエルのRaicol Crystals(ライコル社)を34億円で買収した。この会社はオキサイドと同じ光学単結晶メーカーであるが、オキサイドと被る製品や技術はなく、補完関係にある。

期待できるシナジーは4つ。1つは事業領域の拡大になる。ライコル社は「宇宙・防衛」「美容」「エネルギー」「量子暗号」領域で事業を行っており、買収によりオキサイドはそれらの分野へ進出できる。

2つ目は新素材の開発になる。ライコル社の得意とするフラックス法とオキサイドの単結晶育成技術を融和させることにより新材料を開発することができる。

3月24日にオキサイドは米大学発スタートアップのHT Crystal Solution社と資本業務提携した。IR資料には「HTCS社にて開発された新材料は、ライコル社にて大型化と量産化を進め、オキサイドで製造するレーザ装置に搭載することを見込んでいる」とある。今後はこういったパターンの開発も増えていくのかもしれない。

3つ目はラインナップの拡充になる。製品ラインナップを充実させることで顧客にワンストップで製品を提供できるようになる。量子暗号分野にいたっては、ユーザーが求めるほぼすべての種類の波長変換素子とメモリ用結晶を提供できるようになる。

4つ目は営業面のシナジーになる。ライコル社は欧米、トルコ、中国、シンガポール、韓国、インドに営業所を持ち、オキサイドにもまた別の販路網がある。ライコル社にはオキサイドにはない経験・知見もある。今後はそれらが合わさることにより、両社製品のクロスセルや新規顧客の拡大、世界的な販路網の強化が期待できる。

ライコル社の4事業についてみていく。
<宇宙・防衛分野の事業>
ライコル社の光学単結晶はレーザー高度計やレーザー照準器、対象物との距離を測るレーザーファインダーなどで使われている。レーザーファンダーは年20%程度の成長が見込まれている。ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な動きにより世界の軍事費は増加傾向にあり(1/30日経2/15日経2/16日経)、ビジネスチャンスは大きい。オキサイドは単体では米国の宇宙・防衛分野に入ることはできなかったが、今回の買収で参入のチャンスができた。この分野で求められる品質は高いので技術力の向上も期待できる。

<美容分野の事業>
ライコル社の単結晶はレーザー脱毛やタトゥー除去、シミ・ソバカス除去などで使われるパルスレーザーの波長変換素子や高速光スイッチなどで使われている。販売先は韓国、フランス、米国になる。近年、美意識の高まりから世界的に美容レーザー市場が拡大しており、2030年まで年18%程度成長すると見込まれている。

<エネルギー分野の事業>
ライコル社の単結晶はスマートグリッドの電界センサーとして使われている。販売先は米国になる。スマートグリッドとは電力の流れを供給側と需要側の両方から制御し、最適化する送電網のこと。近年急速に普及している。
*従来の電力網は発電所からユーザーへの一方向の電力供給だったが、現在は太陽光発電などいろいろなところで発電があり、双方向の電力の流れが生まれている。そのため電力網を双方向にする必要があり、スマートグリッドが生まれている。スマートグリッドでは送電線の電圧や電力などをモニターするセンサーが必要になり、そのセンサーにライコル社の結晶が使われている。米国のスマートグリッド市場は2027年まで年18%の成長が見込まれている。スマートグリッドは米国だけでなく、今後世界中で必要になってくる技術なので、この分野の事業は大きなビジネスになる可能性がある。

<量子分野の事業>
量子もつれ光を発生する単結晶と素子を製造し、米国、カナダ、ドイツ、韓国などの研究機関や企業に販売している。この分野はまだ研究開発の段階にあるが、ライコル社はすで数十社、数十機関とのビジネスがあり、数億円の売上がある。オキサイドも量子分野の研究を始めており、2社でやれば量子分野の一部の領域ではシェアをほぼ全てとれる見込み。オキサイドはこの分野の売上が3億、5億と伸びていくと予想している。

【ライコル社の業績】
2019年12月期 売上高11億円、営業利益0.5億円
2020年12月期 売上高10億円、営業利益1億円
2021年12月期 売上高11億円、営業利益0.9億円
2022年12月期(予)売上高16億円、営業利益?億円

2022年12月期の各事業の売上高比率は、宇宙・防衛が41%、量子分野が22%、美容分野が19%、その他が8%になる。エネルギー分野は2023年12月期からで8%程度になる見込み。オキサイドとの連結決算は2024年2月期の第2四半期からになる。

■問題点
・競合の参入
半導体分野の266nm紫外レーザー単結晶ではオキサイドが市場を独占しているが、355nm紫外レーザー単結晶の市場を独占していた米コヒレントがこのまま黙って見過ごすとは思えない。参入してきたらオキサイドの脅威になる。

ただオキサイドが作る単結晶は欠陥がほとんどないため、それ以上の品質の結晶を作るのは難しそう。またオキサイドは競争力の高い競合品が開発されることを念頭に研究開発を進めているので、結晶の長寿命化や製造コスト削減の追求に余念がない。コヒレントが参入してきたとしてもシェアを大きく奪われる可能性は低そう。

とはいえ、米国勢はAIやロボットを使った研究の自動化(ラボラトリーオートメーション)に長けていそうなので、早々に追いつかれる可能性もある。この点は注視していきたい。

ヘルスケア分野の競合は米クリスタル・フォトニクス社になる。オキサイドは毎年クリスタル社のシェアを侵食していっているので、クリスタル社がいつ反撃に出てもおかしくはない。ただ結晶の品質を高めるには製法を抜本的に変える必要がありそうなので、反撃はできなさそうでもある。この点も注視していきたい。

なおシンチレータ単結晶はもう一社作っているところがあるが、その会社はPET-CT装置を作っている会社なので競合にはならない。

・市況の影響を受けやすい
半導体分野の紫外レーザ単結晶やレーザー検査装置の需要は半導体メーカーの設備投資需要と連動するので、市況が悪化するとオキサイドの業績も悪化しやすい。現在は「シリコンサイクル」で需要が停滞期にきているので、半導体設備投資需要は弱含んでいる。ただ、オキサイドが手がける製品は需要が旺盛な先端もののみなので今のところ影響はない。先端ものに特化していけば、今後も市況の影響をあまり受けずに済みそう。

ヘルスケア分野のシンチレータ単結晶の需要もPET-CT装置メーカーの需要動向に左右されるが、医療機器産業は安定成長しやすいなので特に問題なさそう。

・米中対立の影響を受ける可能性が高い
米国は2022年10月から中国への先端半導体の輸出を制限している。その規制は足元で強化されており、同盟国である日本もその規制に追随する方針(3/17日経産業)。10~12月期の中国向けの半導体装置輸出額は日本が前年同期比16%減、米国が50%減、オランダが44%減とすでに規制の影響が出始めている(3/29日経)。オキサイドが手がける紫外レーザー単結晶やレーザ検査装置は先端向けの半導体に使われるのでこの規制の影響を受ける可能性が高い。オキサイドの取引先であるKLAなどはすでに一部製品の中国への販売を停止している(2/15日経)。オキサイドの半導体事業の中国向け売上高は10%程度ありそうなので(要調査)、その分業績が下押しされそう。

・SiCウエハ市場はレッドオーシャン
SiCウエハ市場は巨大なので競合が山ほどいる。世界シェアの6割を握る米ウルフスピードは約8500億円の増産計画を推進中で、今後10年で生産能力を10倍に増やす方針。中国では国を挙げて半導体事業をバックアップしており、SiC関連の企業が続々と誕生している(2/9日経産業)。三菱電機も1000億円を投じ、SiCウエハーの生産能力を5倍に増やす計画(3/14日経)。オキサイドが作るSiCウエハのコスト競争力は高いようだが、大量生産されたSiCウエハには価格で太刀打ちできない可能性がある。ただ品質は差別化できているので、総合的に見ると活路はありそう。

・ライコル社の強みが見えない
ライコル社にはオキサイドのように市場を独占している結晶がない。パワー不足の会社の場合、オキサイドとのシナジーはあまり期待できない。ただ目利き力のあるオキサイド経営陣が過去最大の資金を投じて買収した会社なので、この点はそれほど問題ないのかもしれない。

・一部新事業が停滞しているようにみえる
GaNウエハ基板用「SAM」やアイソレータ単結晶はサンプル出荷を始めてから2年くらいたつが、その進捗がほとんどないように見える。もしかすると需要がほとんどないのかもしれない。ただオキサイドはサンプル出荷時に「サンプル出荷が今後3年間に業績に与える影響は軽微」といっているので、この業界ではこのくらいのペースが普通なのかもしれない。

・量子暗号通信の実用化は当分先
楽観的な予測では、量子コンピューターは今後5~10年で実用に耐えるものが開発されるとも言われている。しかし量子は極めて繊細なもので、ほんのささいな振動や電気的干渉、温度変化、磁場変化などに弱い。そのため実用的な量子コンピューターには高真空、超伝導材料、超低温環境などのまったく新しい技術開発をする必要がある。また量子コンピューターの実用運用に成功したとしても、これまでの二進法ビットで動くコンピューターとはまったく異なるプログラム(量子ビット)で動くのでアルゴリズムを1から開発しなければならない。これらの問題を考慮すると量子コンピューターの実現には10~30年程度かかりそう(参考『AI 2041』)。オキサイドが量子暗号通信分野で収益を拡大させるのは当分先になるかもしれない。

・レーザ検査装置の生産で問題が発生している
前第3四半期にレーザー検査装置の生産で問題が発生した。海外から調達する一部部材で不具合が多発したのが原因という。1月時点では不具合の原因が根本的にはわかっていないようなので、今後また同じ問題が発生する可能性がある。ただ、オキサイドは相手企業と製造プロセスの検証、管理を進めており、「長期にわたって影響が継続することはない」といっているので、長期的には問題なさそう。

・シンチレータ単結晶の採算が悪化する可能性がある
シンチレータ単結晶の一部部材はレアアースを使っており、そのレアアースは価格変動が大きい。価格が高騰した場合、価格転嫁しきれず採算が悪化する可能性がある。ただ今のところは製品の競争力が高いため原料価格の上昇があった場合は価格に転嫁できているという。

・設備投資が重い
オキサイドはコテコテの製造業なので設備投資費が重い。IT企業のように少ない設備投資費で業績を急拡大していく展開は期待できない。現金もそれほどないので、今後はコンスタントに増資をする可能性がある。

・円建て取引
オキサイドは海外企業とのほぼすべての取引を円建てで行っている。円建て取引は為替変動の影響を受けにくいという利点はあるが、今後は長期で円安が進んでいきそうなのでドル建て取引に変えたほうが利益が増えそう。また海外との取引では価格競争力が高まりそう。ドル建て取引にしたほうがよさそう。

・社長がやや高齢
社長は現在64歳とやや高齢。社長は技術と経営に通じており、英語も話せる。この手の人材はなかなかいないので、大半の事業が軌道に乗る前に社長が何らかの理由で抜けた場合、ピンチに陥りそう。

・会社が山梨の奥地にある
オキサイドが山梨で創業したのは、結晶産業が盛んな山梨から依頼を受けてのことになる。山梨県からの支援や山梨大学のクリスタル科学研究センターから人材の供給は期待できるが、立地的な魅力が薄いため都市部から優秀な人材が集まりにくいという問題がある。ただ上場後は優秀な人材が集まってきているようなので、それほど問題はないのかもしれない。

・大株主がオキサイド株を売る可能性がある
2021年6月に東証が施行した改訂コーポレートガバナンス・コードにより、株主持ち合いに対する市場の見方が厳しくなっている。2022年6月には大株主の1社である日立ハイテクがオキサイド株を全株売却した。NTTアドバンスやKLA、ニコン、レーザーテックなどの大株主もオキサイド株を売却する可能性がある。それら企業の持ち株を合計すると全株式の20%くらいあるので、売るとなったらそこそこの売り圧力になりそう。

・空売りが多い
機関投資家5社が空売りしており、合計空売り比率は約4%ある。これは単なる割高感からの空売りだとは思うが、なにか他に問題がある可能性がある。今後も調査を続けていきたい。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか 強度:★★★★
・参入障壁は高いか ★★★★ 超高品質な光学単結晶の作成は難しいので参入障壁は高い。またニッチ分野なので参入は少ない。ただSiCウエハは参入障壁の低いレッドオーシャンになる。

・ストック型収益か ★★★☆ 景気や顧客の設備投資の動向に業績が左右されるので基本的にはフロー型になる。ただ現在の事業分野での需要は安定的にあり、市場をほぼ独占しているので実質的にはほぼストック型になる。

・潜在市場は大きいか ★★★★★ デジタル社会や脱炭素社会では光学単結晶やレーザーの需要は尽きることがなさそう。

■今期の業績予想と妥当な時価総額
【2024年2月期の業績予想】
売上高は91億円、営業利益は9億円
この内訳は
半導体事業 売上高42億円(前期比35%増)
ヘルスケア事業 売上高22億円(前期比15%増)
光計測・新領域事業 売上高8.5億円(前期比15%増) 
ライコル社の事業 売上高18.5億円(前期比15%増)

【妥当な株価・時価総額】
考慮するポイントは
・業績:24年2月期の売上高93億円、営業利益9億円
・今後3年の売上高成長率:年20~30%
・今後3年の営業利益率:8~15%
・財務状態:自己資本比率約40%、流動資産約70億円、現金約20億円、流動負債約35億円
・ビジネスモデルの強度:★★★★
・現在の不透明感:★★★

これらを勘案すると、PSR(売上高・時価総額倍率)は4~5倍くらいになりそう。
現在の妥当だと思う時価総額は364~455億円、株価は3650~4550円くらいになる。

■チャート
4500~4750円くらいが当面の天井になりそう。底は3000円くらいになりそう。

■まとめ
ニッチ市場で競争力があり、新規事業も有望なので長期で大きく成長できそう。今のところ大きな問題は見当たらないので株価が大きく下げることがあれば買い増したい。

チャットGPTと株式投資

『AI 2041』(カイフー・リー、チェン・チウファン)に「20年後には大半のアナリストよりAIの方が網羅的で説得力のある投資レポートを1000倍超の速さで書けるようになる。データ収集と構造分析のような地道な作業で人間はAIにかなわない」みたいなことが書いてあった。

現在、米Open AIが開発したチャットGPTが話題になっている。3月に発表されたGPT-4は文脈の理解や論理的推論が向上し、人間をしのぐ「賢さ」を獲得。米司法試験で上位10%の成績を収めるほどに成長したという(3/17日経)。『AI 2041』には「20年後のGPT-23くらいになると、人類の書いたものを全て読み、創作した映像を全て見て、独自の世界モデルを構築しているだろう。この全知シーケンス導入モデルは人類の歴史上の叡智がすべてつまっていて適切な質問にはなんでも答えられるようになるだろう」とある。

AIが進化していくと株式投資の仕方も大きく変わりそう。AIによって株式投資がどのように変わるのか、そのときAIをどのように活用したらいいのかについて考えていく。

まずはGTPのような大規模言語モデルについて調べていく。

■GPTとは
GPTとはGenerative Pretrained Transformerの略で、事前学習済みの、生成型の、転移学習型という意味。このタイプのAIにはまず人間がネット上にある文章をうまく選んで大量にコンピューターに入れ、文字の順序を学習させる。そして文章を自動生成するプログラムを作る。このプログラムをさらに人間らしい文章を生成するように訓練する。そうすることでプログラムが人間の論理的思考を模倣するようになる。このような基礎ができたら、詩やプログラムなど様々な分野の言語を学習させていく、という仕組み。

前バージョンのGPT-3は最高のスパコンを使い、45テラバイト超のテキストで訓練されている。このデータセットは人間が読んだら一生の50万倍の時間がかかるほどの量になる。大規模言語モデルはデータ量や計算能力が高まるほどその精度が向上するという特徴がある。データ量と計算能力は今後も毎年倍々ペースで増えていくので、それに伴いGPTの能力も向上していく。

GPTのような大規模言語モデルAIはこれまでの単一領域の専用AIとは全く異なる。GPTは、詩、プレスリリース、マニュアル作成、作家の文体の模倣など様々なタスクをそれなりに上手にこなす。首尾一貫した会話もできる。この多芸AIは1つのタスクを処理する専用AIの能力をそれぞれの分野で上回る。専用AIはそれ用の学習データを大量に用意する必要があるが、多芸AIは基礎がある分、データ量が少なくて済むという特徴もある。

■得意なこと
・知識のインプット
知識の吸収スピードは驚異的で、人間が一生かかって読むほどの分量を数秒で読み込んでいく。AIは忘れることがなく、疲れ知らずで、休むことなく知識を吸収し続けることができる。今後もAIはどんどん博識になっていく。

・知識のアプトプット
現在のGPTは全分野において修士課程の人くらいに詳しくなっており、それらの知識を瞬時にアウトプットすることができる。

・文章に関連したタスク
プログラミング、長文の要約、指定したキーワードによる文章の作成、報告書・プレゼン資料・仕様書・メールの作成、文字起こし、校閲、データ分析などができる。文章の完成度は高く、2020年にはGPT-3が書いた偽記事が米ニュースサイトのランキングで1位を獲得するという現象も起きている。

・人との対話
雑談相手、カウンセラー、子どもたちの先生、採用面接、カスタマーサービスなどに対応できる。もちろん会話型の検索エンジンにもなれる。発想のヒントを得るための相手としても使える。うまく質問や議論をすればフィードバックや参考情報の提供を受けてアイデアのヒントをもらったり、アイデアを洗練させたりすることができる。

・画像生成
プロ並みのイラストを瞬時に描ける。2022年には画像生成AIで作成した絵画が米国の美術品評会で1位を獲得している。

・パーソナライズやカスタマイズ
深層学習AIは膨大なデータから微妙なパターンを見つけだすのが得意。例えば保険加入の審査をする場合、人間の審査員では職業、収入、家庭状況、資産などの数項目でしか審査ができないが、AIは数千の変数を考慮できる。医療記録、購買記録、行動履歴、予定履歴、通話履歴、交友関係、投資、チャット、相談などの情報を公開情報やスマホアプリなどから入手し、分析して、ユーザーごとに最適なサービスを提供できる。

学習面においては個人を効率的に教えることができる。人はそれぞれ性格も能力も異なるので最適な教え方も一人ひとり異なる。AIはテストを出し、採点し、結果を分析して、勉強の不十分なところを指摘して、個人の能力を効率よく引き上げることができる。また人の瞳孔や体温をモニターし、教え方の効果、影響を分析することもできる。これらのデータが増えるごとにAIは個人への理解を深めていき、より最適化された学習法を提案できるようになる。

・個人の識別、感情の推測
AIは人間の顔、歩き方、手指、音声、ジェスチャーなどで個人を総合的に判断するので、人間よりはるかに正確に個人を特定・認識することができる。また微表情や声のトーン、呼吸、体表温などで感情も推測できる。犯罪捜査でAI生体認証を使い、AI尋問を行えば事件の解決率は高まり、犯罪発生率は下がる。

■苦手なこと
・不正確な回答をすることがある
生成AIは過去に記録されたテキストを学習して、確率的に起きる可能性の高い文章を表しているに過ぎない。そのため必ずしも回答が正しいとは限らない。また過去から学んでいるため未来や未知のことはわからない。AIは自分が知らないということがわからないため、でたらめな回答をしてしまうことも多い。AIは人間によくあるバイアス、偏見や悪意も吸収してしまっているため、思考や考えが偏りやすいという問題もある。大規模言語モデルはアップデートを頻繁にできないので、情報が古くなりやすいという問題もある。このように回答の精度に問題はあるが、その精度は上昇しており、今後も上昇し続ける。米Open AIは、「GPT-4は事実に基づいて回答する確率が前バージョンから40%上がった」と言っている。

・総合的な分析や戦略決定ができない
現在のAIは複雑に概念が絡み合った中から最適な結論を出すことや、そこに至る道筋を見いだすことができない。特にこれまでなかったような解決策を見いだすことはできない。

・抽象概念の理解や意識的な創造はできない
AIは創造的に見える詩や絵画を作成することはできるが、それは単なる組み合わせであり、意識的な創造ではない。AIは目標を絞って最適化することには長けているが、自ら目標を選んで創造することはできない。

・因果推論が苦手
AIは相関関係を見つけるのは得意だが、その因果関係を説明するのが苦手。AIはデータで訓練され、その意志決定は複雑な数学方程式により下されるので意志決定の過程を説明するのが困難。人間にわかるようにするには極端に単純化しなくてはならない。

・意志や感情がない、共感できない
AIは表面的には感情的な文章を書いたり、共感的な対話をすることはできるが、これらは過去に人間が行ったことの模倣であって、実際にAIが感じているわけでも、思っているわけでもない。今後、AIは生体モニターなどから人間の感情パターンを学習していくことはできるが、現在の学習方法で人間のような意志や感情をもつことはない。

■問題点
・個人を操れる
AIのパーソナライズ機能や生成機能を使えば、個人の行動を意のままに操ることができる。2016年の米大統領選挙ではフェイスブックがケンブリッジ・アナリティカ社にユーザーの情報を提供して、有権者の投票行動に影響を与えたが、同じことをGPTで行えばはるかに危険な影響力を及ぼす。

・偽記事や偽動画を作成できる
生成AIを使えば人間には見分けのつかないような偽記事や偽動画を簡単に作れる。それらの情報が大量に作られたら社会は混乱する。

・プライバシーがなくなる、精神状態が悪化する
AIを使えばユーザーのことを、当の本人以上に詳しく知ることができる。ユーザーの好みを知れば類似の情報をいくらでも提供でき、情報中毒に陥らせることも可能。ユーザーは視野が狭くなり、精神状態が悪化する。社会の分極化も進みやすくなる。

・自律兵器を作成できる

・・高度なAIの出現で人類が文明を制御できなくなる恐れがあるとして、3月に米国で高度なAIの開発の一時停止を求める署名活動が始まった。起業家のイーロン・マスク氏も賛同している(3/30日経)。ちなみに米Open AIは、もともとはマスク氏らがシンギュラリティー(AIの人間知能超え)に向けて「AIが悪さをしないようにする」という目的で作られた非営利団体になる。Open AIが営利企業に移行する過程でマスク氏は離脱している。

・著作権に触れる
生成AIは現存するテキストや画像を元にして文章や画像を生成するので、著作権に触れる可能性がある。米国では著作権絡みの訴訟も起きている。

・AIソフトの寡占化
大規模言語モデルは学習に投入する計算リソースやモデルのサイズ、学習データ量が大きくなればなるほど性能が向上するという「スケーリング則」が働くとされる。運用には膨大な電力を必要とし、最先端の巨大コンピューターも必要になる。実質的にこれらを用意できるのは(西側では)米巨大テックのみになる。今後米巨大テックがAIのコア技術を抑える可能性が高い。

GPTのような優れたAIが作られると、「GPTプラットフォーム」も作られ、そこから数千のGPTアプリが作られる。GPTはそれらアプリからデータを吸収し、能力がますます高まっていく。この段階に入るともう後発組は追いつけなくなる。このようなコア技術を海外企業に抑えられた場合、それを止められるとすべての業務が立ちゆかなくなってしまう。安全保障の面でも問題が生じる。

・大量の失業が生まれる、社会が混乱する
AIは多くの業務を人間よりうまくこなせる。しかも24時間年中無休で働き、学習し、改善し続ける。コストはゼロに近い。今後人間がやっていた仕事は容赦なくAIに取って代わられていく。レジ係、裁縫業、工場労働者、ドライバー、カスタマーサポート、翻訳、会計士、税理士、弁護士、放射線科医、保険査定人、ローン審査人、プログラマーなどが消えていく。この事実は莫大な経済的利益を生むが、同時に前例のない失業を生む。

長時間労働が不要になったとき人は空いた時間をどのように使えばいいのか。産業革命以降に生まれた労働倫理は人びとの観念に深くしみついており、キャリアこそ人生と多くの人が思っている。人生を賭けて習得してきた技能をAIやロボットがやすやすと上回っていく様をこれから見ることになる。人生の意義を失う人が増えていく。喪失感と無力感に打ちひしがれた先には薬物やアルコール、うつ病、自殺の増加が待っている。こんな不安な時代には抗議のデモや暴力的な衝突も起きやすくなる。ベーシックインカムも導入されるだろうが、それも絶望を長引かせるだけで真の解決策にはならない。新型コロナウイルスによる社会や政治の混乱はAI経済と比べれば子どもの遊び程度になる可能性が高い。

ではどうするか。時間はかかるが社会を再構築していくしかない。AIは人びとを単純作業から解放し、飢えや貧困を消滅させ、自由に生きられるようにもする。皆が基本的欲求を満たされ、生活の苦労から解放されて、誰もが高次の目標に向けて生きられるユートピアが近づいたともいえる。人間とはなにか、人生の意義とはなにかを深く考える機会にもなる。社会の倫理、企業の責任、政府の役割を再定義し、人間性が輝く経済に作り替えていく必要がある。

どのように経済を変えていくか。これまでの経済システムは「欠乏」を前提として作られてきた。希少な資源をどのように生産、分配、消費に回せば効率的になるのかを追究して経済が作られてきた。「欠乏」がなくなった未来には現在の経済システムは無効になる。欠乏がなくなれば売買や交換という仕組みは必要なくなり、貨幣そのものも必要なくなるかもしれない。もしそうなれば市場も消える。労働、貨幣、理想といった概念を再定義し、多くの人が自己実現に向けて生き始められるような経済に変えていく必要がある。

AIと人間の思考法は本質的に異なるので、人間にしかできない部分はまだまだ残る。また今後AIに刺激されて人間自身も進化する。まずAIと人間の共生関係を作ることが重要になる。かつてヨーロッパでは余暇と自由な時間が増えたときに、人びとが情熱と創造性を発揮してルネサンスが起きた。AI時代でも適切な制度設計があれば、人間の創造性を開花させるルネサンスを起こせるかもしれない。

・無用者階級が生まれる可能性がある
今後人間は生成AIより、より生成的な存在に進化していく必要がある。ただこれには向き不向きがあり、みなが芸術家や研究者、冒険家などの創造的な存在になれるわけではない。一定数の「落ちこぼれ」が生まれるのは避けられそうにない。もしかすると、ユヴァル・ノア・ハラリ氏がいうような数十億人規模の無用者階級が誕生する可能性もある。ただ人間は人間に都合のよいような制度設計ができ、また適応力もあるので、それほどおかしな方向には進まないのではないかと思う。

■2040年以降について
・万能AIはできるか
米Open AIの最終目標は人間のように多様な知的作業をこなす汎用AI(AGI)の実現になる。GPTはこのまま進化してAGIになれるだろうか。結論をいえばAGIの誕生は当分先になる。なぜなら人間の認識プロセスでわかっていないことが多いから。「意識」を例にとってみても、人間の意識を形作る生理的メカニズムさえまだ理解できていない。意識や感情、共感、信頼、戦略的思考などはどうやってモデル化するか。これらの解決には深層学習のようなブレークスルーが10回以上必要だとされている。過去60年で大きなブレークスルーは深層学習の1回のみなので、AGIの誕生はしばらく先になる。

・無料社会はどのようにして誕生するか
エネルギー革命、材料革命、AI・ロボット革命が起これば、必然的に無料社会が実現する。まず現在進行中のクリーンエネルギー革命は、気候変動の危機に対応するとともに、世界のエネルギーコストを劇的に下げる。2040年頃には先進国と一部の発展途上国の主力電源は太陽光と風力発電になっている可能性が高い。これらのコストは過去10年で55~85%下がっているので(3/21日経)、2040年にはもっと下がっている可能性が高い。電力コストの劇的な低下はこれまでできなかった新しい発明や応用を開拓する。肉は動物由来の細胞から室内で合成されるようになり、分子レベルから操作することで新規の食材、材料も作れるようになる。合成生物学は新しいゴム、化粧品、香水、服、プラスチックを作り出す。生産は有限の資源や毒性のある原料を使わず、自然界に豊富にある安価な基礎的物質を使う方向に移行する。そしてAIとロボットによる生産により人件費は大幅に減少する。この先に見えてくるのは衣食住などの基本的な生活コストがほぼ無料の世界。無料のものは食品、衣服、電力、住居といった必需品から始まり、交通、通信、医療、教育、娯楽と広がっていき、あらゆるものが無料になる社会が誕生する。

■まとめ
前置きが長くなったが、AI時代の株式投資はどうなるのか。株式市場は最終的にはなくなりそうだが、しばらくは存在しそう。なくなるまでは情報を集めるのにAIを使っていくのがよさそう。競合企業を調べるのは大変なので、同業他社と比較するときには重宝しそう。AIは総合判断や未来のことを考えるのは苦手なようなので、そこはこちらでやっていきたい。AIは校閲もできるようなので、このブログの校閲にも使っていきたい。