2022年10月1日土曜日

7~9月の売買

 ■7月
なし。

■8月
・ジモティー 半分売却 損益-5%
業績がしばらく停滞しそうだったから。この会社の主な収入源は広告収入になるが、今後は景気が鈍化し、広告収入も鈍化すると思った。ページビューの伸びもそれほど期待できないと思った。

期待したような成長軌道を描けなさそうだと思ったのも売った理由。会社の成長の原動力はつまるところ「人材」になるが、この会社にはセンスとパワーのある”スーパースター”がいないと思った。ジモティースタッフは「ジモティー」を安定運営しているので優秀なのは間違いないが、超優秀ではなさそうだと思った。

今年ジモティーに入社し、CFO(最高財務責任者)兼 CSO(最高戦略責任者)に就任した佐野氏が”スーパースター”になる可能性もあるが、第2四半期に発表された新ビジネスプランを見る限り、その可能性は低そう(詳細は後述)。外部の「コンサルタント」を戦略トップに据えた今回の人事からはジモティーの手詰まり感もうかがえた。ただ、ビジネスモデルの基礎は強いのでもうしばらく様子を見ようと思う。

決算後の急騰でも売却した。急騰のきっかけは決算で発表した新ビジネスプランになりそうだが、それが目論見通りにいくとは思えなかった。今回の株価上昇は業績の裏付けが全くないものなので早晩失速すると思った。

・イントラスト 半分売却 損益+2%
景気鈍化もしくは景気後退により家賃債務保証の未収金が増えると思ったから。
医療費用保証が伸び悩んでいたから。2022年4~6月期の導入数はトータルで+1件だった(新規4、解約3)。契約数の伸びが最も期待できる第1四半期にこの数字は不吉な予兆のように思えた。

医療費用保証の問題点を2つ見つけた。1つは未収金が「必要悪」かもしれないこと。病人には高齢者が多く、高齢者や病人には収入や貯蓄に不安を抱えた人が多い。そのような人たちは外部の業者から取り立てられると、ストレスがかかり病状が悪化する可能性がある。またお金を払えない場合、病院に行かなくなったり、転院したりする可能性も出てくる。そうなると本末転倒で、この商材を導入する意義は薄れる。

もう1つは病院が損をする可能性があること。この商材は病院の前年の未収金の8~9割を保険料として受け取り、当年の未収金全額を保証するものになるが、この商材からメリットを得るには、病院の業績が前年と同等かそれを以上になる必要がある。大きく下ブレた場合は損をする可能性がある。病院の経営は純粋なストック型ビジネスというわけではないので、導入するメリットがそれほど大きくない可能性がある。

ただ9月にアップされた決算説明動画では「前年の未収金が450万円の病院の場合、300万円強の保証料を見積もりで出すケースが多い」と説明していたので、保険料率は7割程度に下がった可能性がある。そうなると病院の業績が多少下ブレても導入するメリットはありそう。ただこれは回収率が高まったということも意味するので1つ目の問題は悪化する。

この商材の導入が増えないのはここらへんに原因があるのかもしれない。

■9月
なし。

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
第2四半期決算で新たなビジネスプランを発表した。そのプランは簡単にいうと、営業組織を設けて「ジモティー」の広告枠を高値で販売していく、というものになる。ジモティーによると、「ジモティー」の広告価値は年60億円以上はあるらしい。

最初に取り組む領域は「アルバイト」カテゴリー。「ジモティー」経由のアルバイト応募数は月約45000件あり、1件当たりの送客価値を3000~5000円とすると、月に約1.8億円、年に約20億円の広告価値を生み出しているという。しかし現状ではそのうち95%が無料送客になっており、このうち半分程度を収益化していく意向。事業はすでにスタートしており、滑り出しは順調とのこと。この事業が軌道に乗れば他の領域にも進出していくという。

「ジモティー」には「地域性」と「アクセス数の多さ」という強みがあるので、一定の顧客は獲得できそう。また求人分野においては、2030年の人手不足が2019年の4倍超(約640万人)まで膨れ上がるという予想もあるので(7/25日経)、当面は強い需要も期待できる。

しかし、このビジネスプランには問題点が少なくとも2つはある。1つは求人1件あたりの応募数になる。求人件数が7000~8000件程度で応募数が45000件の場合は、求人1件あたりの応募数が5~6件になり、2万円程度の広告価値が期待できる。しかし、「ジモティー」に掲載されているアルバイトの求人件数は推定で70000~80000件はあり、この場合、求人1件あたりの応募数は1件にも満たない。つまり求人1件あたりの広告価値は3000~5000円にも満たないことになる。ジモティーはこの広告枠を月2~3万円で売るようなので、少し無理があるようにみえる。

もう1つは、この領域はレッドオーシャンということ。アルバイトの求人プラットフォームは山ほどあり、そこで「ジモティー」が競争優位に立てるとは思えない。「ジモティー」に掲載されている求人の9割以上は「受付終了」になっており、無駄な情報が多い。また他のカテゴリーを使った印象だが、使い勝手が悪い。本気で仕事を探そうとする人は、求人に特化した会社の使いやすいアプリを使うのではないかと思う。

以上をまとめると、ジモティーの新プランはそれほどうまくいかないのではないかと思う。ただ、株価は決算後に出来高をつけて大きく上昇しているので、もしかしたら機関投資家向けの説明会で何か重要なことを言ったのかもしれない(決算説明資料を誤解している可能性もある)。この点に関してはIRに問い合わせてもスルーされるので、しばらく様子を見るしかなさそう。


久々にジモティーを使ってみた。前回使ったとき、気になった点を3点ほど運営部に指摘していたが、1件だけが改善されていた。
前回指摘した問題点は
・無料出品をすんなりできない
・掲載する写真の画質が悪い
・取引途中で掲載情報を変更できる
になる。この中で「無料出品をすんなりできない」だけが改善されていた。ただ、それも中途半端な改善で、ごちゃっとした感じにジモティーらしさが出ていた。

今回「ジモティー」を利用するにあたって感じたのは面倒くささ。そのため出品するタイミングがだいぶ遅れた。何が面倒くさいのか。対面取引だけが原因かと思っていたが、今回使ってみて「無駄な問い合わせの多さ」も原因ではないかと思った。

「あげます・売ります」カテゴリーで取引する場合、取引場所と取引日時は必須事項になるが、出品時の掲載情報に取引日時を入力する欄がない。そのため取引日時の問い合わせがたくさん来る。これにいちいち対応するのが非常に手間。出品に慣れてくれば事前にこういった情報も書き込めばいいわけだが初心者は気づかない。またベテラン投稿者の出品をみても取引日時を記載している投稿は少ない。取引に必須な情報はあらかじめ入力欄を設けておくべきだと思った。この点については運営部に指摘しておいた。

今回はエスクロー決済は使わなかった。手数料が高いというのもあるが、交渉前にいきなり決済されるのがイヤだった。決済後に互いの都合が合わない場合はキャンセルをすればいいわけだが、それもまた面倒だと思った。エスクロー決済が「ジモティー」に導入されてから1年以上たつが、どうしてこういう基本的なところが改善されないのだろうかと思った。

ジモティーアプリを使っていると以前のヤフオクを思い出す。以前のヤフオクは取引毎に住所や氏名、配送方法などの定型情報をいちいち入力する必要があった。ヤフオク運営部には米オークションサイトの「eBay」を見習うように指摘していたが一向に改善されなかった。ヤフオクが変わったのはメルカリが登場してからになる。ジモティーもヤフオクのように、自社の存在を脅かすような競合(お手本)が登場するまでは変わらないのかもしれない。


7/22日経に「ゴールドマンサックスは世界的な消費不況のリスクが高まったとして2026年の世界のデジタル広告市場の成長率を12%程度に下方修正した」とあった。ジモティーの収入源は広告収入なので、今の調子でいけばこのくらいの成長率が上限になりそう。

韓国版ジモティーの「人参マーケット」の時価総額が約2600億円あることがわかった。日本よりも市場が小さいはずなのに、なぜジモティーより時価総額が大きいのか。韓国にはメルカリのような洗練されたフリマアプリがないことが主因だとは思うが、地域SNS事業の存在も大きいのではないかと思う。人参マーケットが提供する地域SNSにはその地域で起こった事件や事故、落とし物や趣味の話まで様々な書き込みがなされ、同じ地域に住む人が情報交換をすることができる(8/1プレジデント)。地域SNSに特化した米ネクストドアも時価総額が1000億円を超えているので、この分野には大きな事業価値があるのかもしれない。

ジモティーの経営理念には「ジモティーの使命は生活の中で生まれる問題を地域の人同士で補い合える仕組みをつくること。地域に存在する情報を隅々までいきわたらせること」とある。この理念に従えば、自然に地域SNSは生まれてきそうだが、そうはなっていない。事業理念はただの画餅なのかもしれない。運営部には一応、この点も指摘しておいた。

8/15日経に「日本の地域SNS「PIAZZA」が都内の学校のPTA機能を代替しつつある」みたいなことが書いてあった。こういう会社に覇権を取られる前にジモティーに動いてほしいと思った。

8/25日経に「環境省は2030年までにリサイクルやシェアリングなど循環経済の関連ビジネスで、市場規模を現在の50兆円から80兆円以上に拡大させる」とあった。ただ「今後10年で金属リサイクル処理量の倍増、30年度に食品ロスの400万トン以下への削減といった取り組みを強化する」とあるので、ジモティーへの影響はそれほど大きくはないのかもしれない。それでもリサイクル機運を盛り上げるのに一役買ってくれそうではある。

ジモティーが八王子市や川崎市と共同運営する官民連携のリユース拠点の活動が環境省の「令和4年度使用済製品等のリユースに関する自治体モデル実証事業」に採択された。採択されると事業に必要な費用や技術の支援が受けられるので、今後の事業拡大が期待できる。

<ジモティーに期待する成長プラン>
1,アプリの無駄を極限まで排し、使い勝手をよくする。→ユーザーと投稿を増やす。
2,地域SNSを作る。→新たな価値を創出する。
3,プラットフォームの基礎ができあがったところでマネタイズ(収益化)していく。

これをすれば大きく成長できると思うが、ジモティーの第1四半期決算説明資料には「高収益・高効率なものにリソースを集約していく」「高収益・高効率な注力事業の選定を含めた、中期経営計画を策定予定」とマネタイズに夢中なように見える。今のメンバーではあまり期待できないのかもしれない。

<グーグルトレンド 過去5年の推移>
ほぼ横ばい。「ジモティー」は株式投資絡みでも検索されるので、ページビューとの相関はそこそこになりそう。


<App Storeランキング>
「ジモティー」は2022年4月頃までは30位前後だったが、7月頃に見たときは15位くらいに上昇していた。現在は21位。

<「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数>
・売ります・あげます 2022年4月 14860604 →7月 15540651(+680047) →10月 16507035(+966384)
・中古車 891605 →880663(-10942) →899161(+18498)
・アルバイト 1173013 →1029785(-143228) →1175078(+145293)
・正社員 263384 →288632(+25248) →297837(+9205)
・不動産 4746672 →5066025(+319353) →2731414(-2334611)
・メンバー募集 755081 →777596(+22515) →800154(+22585)
・助け合い 381023 →392329(+11306) →409002(+16673)
・イベント 285390 →298778(+13388) →314690(+15912)
・教室・スクール 186931 →190520(+3589) →195454(+4934)
・地元のお店 165633 →170234(+4601) →176953(+6719)
・里親募集 122899 →127698(+4799) →136674(+8976)
*投稿件数は「取引終了分」も含めてカウントされているので、「取引可能」な投稿件数は上記の13分の1くらいになる。

<第3四半期の売上高予想>
まずは前回の予想の振り返りから。第2四半期の予想は、「ページビューが横ばい、広告単価は小幅減、エスクロー決済手数料は3300万円と想定すると、売上高は4億2千万円~4億5千万円になる」だった。

実際は、ページビューは微増、広告単価は小幅減、エスクロー決済手数料は2800万円、売上高は4億4千万円だった。エスクロー決済事業は完全にピークアウトしたもよう。

これらを踏まえて、第3四半期の売上高予想は、ページビューが微増、広告単価は小幅増。自動配信売上は小幅増の3億5000万円、マーケティング手数料(セルフサーブ型広告収入)は微増の8800万円、エスクロー決済手数料は小幅減で2200万円と想定すると、売上高は4億6000万円になる(累計売上高は13.7億円になる)。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は100億円(株価1650円、PSR5倍)くらい。2030年の予想売上高・利益は現在の2~3倍くらい。


■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
第1四半期決算は予想よりも上振れした。家賃債務保証事業の業績が力強く伸びており、イントラストによると今期は上振れも期待できるという。これまで家賃債務保証の市場はあと数年で飽和状態になると思っていたが、ジェイリースの決算説明資料を読むと、現在の保証利用率は73%程度、市場成長率は年4%程度のようなので、あと10年くらいは穏やかな成長を続けられるのかもしれない。

イントラストの売上高成長率(25%)が市場成長率を大きく上回っている要因は、ソリューション事業(家賃債務保証業務の一部請負)から家賃債務保証に契約がシフトしている分が大きいため。イントラストのソリューション事業の契約はまだ大量に残っているので、しばらく高水準の成長を維持できるのかもしれない。

第1四半期の決算説明で、社長は第2四半期あたりから事業用物件債務保証も始めると言っていたが、まだ始まっていない。足元ではリスクヘッジと審査体制が整い出したのでそろそろ本格的に始めるとのこと。ジェイリースの資料によると、この分野の保証利用率は約20%、成長率は約14%のようなので、本格参入すれば業績の長期拡大が期待できる。ただ足元では企業倒産が増え始めており(7/9日経7/21産業8/16産業9/5日経)、景気後退のリスクも高まっているので、慎重に取り組んでくれればと思う。

医療費用保証がうまくいった場合の業績規模がだいたいわかってきた。イントラストが目標とする日本の病院の約2割(1600~1700)に医療費用保証(スマホス)が導入された場合、売上高は550億円程度になる。現在の導入病院数は74、売上は約4億円であり、現在の導入ペースから目標達成がいつになるのかは検討もつかないが、少し期待したい。

決算説明では2つの新保証商品を開発し、うち1つを近いうちリリースするとも言っていた。これも少し期待したい。

2027年までのイントラストの成長シナリオと業績予想をざっと書いておく。今後2年は家賃債務保証事業が業績を牽引し、24年3月期の売上高は75億円、営業利益は17億円になる。その後は医療費用保証が業績を牽引し、27年3月期の売上高は110億、営業利益は24億になる。この時点での医療費用保証の導入病院数は300になる。*事業用物件債務保証の業績は計算には入れていない。

今後3年の予想売上高成長率は年10~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は180億円(株価800円、PSR3倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2.5~3倍くらい。


■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
200億円超の資産を持つ大物個人投資家がステムリムの大量保有報告書を出した。その投資家の本業は医師のようなのでステムリムの薬剤は有望なのかもしれない。

創業者の玉井克人教授が取締役に就任することがわかった。教授は研究だけでなくビジネス面でもヤル気が出てきたのかもしれない。良い兆候と捉えたい。

今後のイベント
・変形性膝関節症の第2相治験結果が2023年の2~4月頃に出る。
・慢性肝疾患の第2相治験結果が2023年の4~6月頃に出る。
・脳梗塞(急性期)の第3相グローバル治験が2023年ごろに始まりそう。
・表皮水疱症の第2相・追加治験の結果が2023年の終わり頃にわかりそう。

表皮水疱症の遺伝子治療の研究も順調に進んでいるもよう。この研究がうまくいけば、他の分野にも応用が利きそうなので、この調子でいってくれればと思う。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~20%程度。業績が急拡大するのは早くて2年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は30~500億円くらい。


■今後の計画
インフレが落ち着くまで静観する。ただし米VIXが40超、騰落レシオが70以下になった場合は買っていく。株価が下げたときに買えるように銘柄のリストアップ・調査をしていく。

米国が景気後退に陥る確度が高まったら米ドルを売っていく。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額が300億円以下
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやリクルートなど

■気になっている会社
・サイバーエージェント、Zホールディングス、エムスリー、リクルート
時価総額は大きいが長期で成長できそうな優良テック企業。仕込むタイミングさえ間違わなければ株価3倍は目指せそう。この中で一番面白そうなのはサイバーエージェントになるが、事業がほぼ国内のみなので円安の恩恵を受けられないのがネック。Zホールディングスもしかり。超長期で考えるとリクルートやエムスリーがよいのかもしれない。

・弁護士ドットコム、マネーフォワード、フリー
優良SaaS企業。時価総額が微妙に大きく、強敵がいるのがネックだが、市場拡大と超優秀なスタッフにより業績3倍は目指せそう。SaaS企業は足元で大きく売り込まれており、だいぶ値ごろ感が出てきた。

・パークシャ・テクノロジー。ハイプサイクル的に人工知能は今後本格的な普及期に入りそう。この領域はレッドオーシャンだが、この会社の人材は地頭が良さそうなので勝ち抜けそう。投資回収期に入りつつあるので投資するタイミングとしても良さそう。8/15日経に「今期の採用予定は100人と、従業員全体の約3割に相当する。ソフトの販売拡大を見据え、マーケティングや使用方法を教える人材を補強する」とあったので業績が急拡大しそうな雰囲気がある。

・SBIホールディングス。FRBが金融緩和に転じたときに買いたい銘柄。この会社はフィンテック分野に大きく投資をしているので長期保有でも問題なさそう。

・SUMCO。シリコンウエハーを製造する会社。高品質のシリコンウエハーへの引き合いは強く、増産投資もしているので、長期で成長できそう。株価が大きく下げているときに買えば3倍は目指せそう。

・アサヒホールディングス。貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しており、貴金属リサイクルはメガトレンドになっている。アサヒは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。割高感はなく、配当がよいので、大きく下げることがあれば買いたい。9/3ヴェリタス

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:2.0%~4.0%の間で推移

米長期金利に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2022年の米予想経済成長率は+2.3 ~3.0%、米予想インフレ率は+4.0~6.5%、2023年は経済成長率+2.3%、インフレ率+4.0%になる。
*数値はFRB予想やIMF予想などを参照

・金融政策↑
FRBはインフレ対策として2022年3月から金融引き締めを開始。足元では金利引き上げペースを加速させている。政策金利の見通しは2022年末4.4%、2023年末4.6%、2024年末3.9%、2025年末2.9%になる。9/22日経
*政策金利を(景気をふかしも冷やしもしない)中立金利(2.4%)を超える水準まで引き上げると景気(長期金利)には強い下押し圧力がかかる。

2022年9月からは国債などの保有資産をこれまでの倍速ペースで売却し始めている。年間で1.1兆ドルの資産(約150兆円、保有資産の約1割)を売却する予定。FRBが今後3年で保有資産を3割(3兆ドル)売却すると長期金利には1%程度の上昇圧力がかかると試算されている。日経9/1日経
*長期金利の上昇が止まらない場合は、英国のように国債売却を止め国債を購入する可能性もある。9/29日経9/30日経

*政策金利を3%程度まで引き上げると、FRBの金利収支が「逆ザヤ」に転じる(7/30ヴェリタス)。また長期金利が3%を超えると保有する債券に含み損が生じる。そうなるとドルの信用に懸念が生じ、長期金利に上昇圧力がかかる。

*金利が上昇すると政府債務の金利負担も重くなり、政府は予算規模を縮小せざるを得なくなる。そうなると景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↓
インフレが高進しているのでリスクオフ気味。

・米国債の人気上昇→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高いので、海外勢から買われやすい。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれる。1~6月期の海外勢の米長期国債買越額は約46兆円と上半期として過去最大に達している。8/17日経

ただ、米金利上昇により為替ヘッジコストは上昇しており、利回りからヘッジコストを差し引くと利回りがほとんどなくなってしまうこともある。日本はその一例で、日本の一部の金融機関は米国債から日本国債に資金をシフトしている(日経)。

海外勢の中で最も米国債を保有する中国は米中対立により米国債の保有を減らしている。米国債保有トップ2の中国と日本の買いが入らないと需給が悪化する可能性がある。

日本政府は円安防止を目的に為替介入を始めた(9/22日経)。為替介入では日本政府が持つ外貨準備(外貨建て資産)を売却するので、米長期金利には一定の上昇圧力がかかる。
*外貨準備は約185兆円あるが、その中に米10年国債がどの程度含まれているかは不明。

*そもそも論になるが、海外の高利回り国債を買っても、最終的には為替で価値が調整されてしまうので、買ってもあまり利益は出ない。8/27ヴェリタス

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

金余りで運用難に陥っている米金融機関や米企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。日経日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・財政赤字の拡大↑
米国の財政赤字は毎年100兆円を超えているので、米国債の供給増や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかっている。ただ、他国の財政状況も似たようなものなので、相対的にたいした影響はない。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート↑
<10年チャート> 力強い上昇トレンド。ただ移動平均線との乖離が大きくなっているので、そろそろ調整が入りそう。


■WTI原油
今後1年の予想レンジ:60ドル~120ドルの間で推移

原油価格に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2022年の予想世界経済成長率は3.2%、2023年は2.9%になる。足元では景気懸念により成長率が下振れする確率が高まっている。

長期では、温暖化対策や職場・学校のリモート化などにより石油需要は減少していく可能性が高い。仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している(ヴェリタス日経)。一方、世界人口は今後も増えていくので石油需要は増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要は2020年比で4割増になると予想している(日経)。

ウクライナ紛争で原油・ガスの供給途絶リスクが表面化し、脱炭素シフトが前倒しされる可能性が高まっている。ヴェリタス

・供給→
国際エネルギー機関(IEA)は2022年、2023年の需要予測を下方修正し、供給過剰が当面続くと予想している(8/4日経)。OPECプラスは1バレル90ドル前後の水準を維持することを目的に減産に動いている。9/7日経

長期では、脱炭素の潮流を受けて油田開発投資が大きく減少しており、また再生可能エネルギーの普及には時間がかかるので、大幅な供給不足に陥る可能性がある。

・産油国で不測の事態が起こる↑
ロシアがウクライナに侵攻したため、西側はロシアからの原油調達を絞っている。一方、中国やインドはロシアからの原油輸入を大幅に増やしている。ウクライナ紛争後、ロシアの原油生産はそれほど減っていない。8/16日経

ベネズエラやイランは西側から制裁を受けており、産油量が減っている。ただ西側は2国への制裁を緩和しそうなので、供給は増えそう。8/16日経8/17日経

中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きている。日経

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは40ドル、米産油企業の採算ラインは45~70ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。基本的に原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ↓
リスクオフ気味。原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時は売られやすい。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元ではインフレ対策としても買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではドル高が進んでいる。

・チャート→
<10年チャート> ピークアウトしたように見える。60ドルくらいが底になりそう。


■ドル円
今後1年の予想レンジ:110円~150円の間で推移

為替に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・日米の長期金利差↑ (↑は円安方向、↓は円高方向)
FRBは3月に金融引き締めに転じ、米長期金利は大きく上昇している。一方、日銀は金融緩和を継続しており、10年金利を0.25%に抑え込んでいる。
*日銀の国債買い入れに伴う通貨供給も円安要因になる。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。現在のような状況では低利通貨の円は売られ高利通貨のドルは買われやすくなる。市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われる傾向がある。7/14ロイター8/19ロイター

・日本の経常収支↑
輸出主導の経済構造が変わり(8/29日経)、円安、資源高の影響などもあり、日本の貿易収支は赤字に転落している。日本はこれまで年20兆円程度の経常黒字を維持してきたが、今年は4兆円程度になりそう。日経
*日本の製造業の海外生産比率は1998年に10%だったが、2020年には22%になっている。日経

訪日外国人の旅行制限が撤廃され、海外からの旅行や留学が元の水準に戻れば3兆円程度の経常収支押し上げ効果がうまれる。日経ヴェリタス日経9/15日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。
*日本の個人投資家は2021年に海外株を8兆3千億円買い越しており、その9割程度は米国株になる。日本株の買越額は280億円になる。日経

・リスクオン、オフ→
リスクオフ気味。日本は世界一の対外純資産国なのでリスクオフ時に円は買われやすいが、上記要因により円が買われにくくなっている。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。対外純資産に占める対外直接投資の比率は増加傾向で、2020年には47%まで上昇している。一方、対外証券投資の比率は28%まで低下している。日経

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を積極的に買っている。ここ数年は両者合わせて年10兆円超の買い越しが続いている。ただ直近ではドル調達コストの上昇などにより機関投資家の海外投資は減っている。8/11日経

・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)が低く、日本国債の金利は安定しているため、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している(日経)。ただ足元では国債価格下落を見越して売り越し基調にある。日経7/20日経

・FX投資家の持ち高↑
FX投資家の月あたりの取引規模は約1000兆円(うちドル円取引は約800兆円)まで拡大しており、個人投資家が為替市場に与える影響は大きい(8/27ヴェリタス)。足元で個人は買い越しており、円安が進むとみている。*直近は不明

・投機筋の持ち高↑(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は売りを拡大させている。投機筋は円安が進むとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買いポジションが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった9月にドルを1万ドル(140万円)買うと1日の金利収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利損失が1日159円くらいになる。9/14日経

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、ウクライナ危機などにより基軸通貨ドルの需要が高まっている。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。足元では急速にインフレ格差が拡大しているので下降曲線の傾きはやや急になっている。

現在の購買力平価(企業物価)は86円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくので、円の下限は65円、上限は105円くらいになる。

・日銀が保有する日本国債の値下がり↑
仮に、日銀が1%程度の金利上昇を許容するような金融政策を行った場合、日銀は債務超過に陥る可能性が高い。そうなると円に対する信用は失われる。7/23日経7/6日経日経日経8/24日経8/25日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が低下する(日経)。ただ現時点で、そこまで下がる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシア制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。日経9/22日経

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の大暴落が起きる可能性がある。米国も返済不可能な水準まで債務は積み上がっているが経済が強く、基軸通貨なので大暴落は起きにくい。

・キャピタルフライト↑
日本は財政問題や経済の低迷などの問題を抱えているため、日本人が円資産を海外資産にシフトする可能性がある。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも外に向かうと円相場へのインパクトは大きくなる。足元では外貨に投資する外貨定期預金の開設が活発化している。9/7日経

・為替介入→
足元の大幅な円安を受けて「政府・日銀が為替介入するかもしれない」といった報道もあるが(9/15日経)、日銀が行っている長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)と矛盾するので実際に介入が行われる可能性は低い。政府・日銀が本気で円安を止めたいなら、まずは長短金利操作を修正する必要がある。

政府・日銀が為替介入を始めた(9/22日経)。国がこんなトンチンカンなことをするのかと驚いた。ただ為替介入をするといっても、他国と足並みをそろえる協調介入ではなく日本の単独介入であり、また政府が保有する外貨準備は日本の外国為替取引額の3営業日分くらいしかないようなので(9/23日経)、たいした影響はなさそう。それでも売り弾は180兆円くらいはあり、1回の介入は2~3兆円程度のようなので時間稼ぎくらいはできるかもしれない。9/26日経9/27日経

・チャート↑
<10年チャート>
「4月に24ヶ月移動平均線が60ヶ月移動平均線を上抜いており、これによって、下から順に60ヶ月、24ヶ月、12ヶ月が並んだ。いずれも右肩上がりとなり、最も上に現値が位置する状態を維持。強い上昇トレンドを示唆するパーフェクトオーダーを示現している。前回のパーフェクトオーダー完成は13年11月で、その後15年6月に125円まで上昇した。今回もここから1年前後は上昇トレンドが続く可能性が高い。1998年の高値の147円を更新する可能性もある」6/11ヴェリタス
*下のチャートの移動平均線は12ヶ月、24ヶ月、60ヶ月のものではない。

「8月29日時点でドル円の上値抵抗とみられる水準は年初来高値の139円、心理的節目の140円だった。9月に入り140円台に乗せたことで145円、あるいは1998年8月に付けた147円までチャート上にメドらしいメドは見当たらなくなる。今後も短期的な調整局面を挟みながら順次上値を試す展開となるだろう」9/3ヴェリタス


■日経平均
今後1年の予想レンジ:22000~30000円で推移

日経平均に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策↓
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している(日経)。コロナ禍では世界の主要中銀は市場に1300兆円を供給し株価は大きく上昇したが、現在はその資金の吸収に動いているため株価は大きく下落している。今後も当面、資金の吸収は続く見込み。日経

ただ、中銀が資金の吸収に本格的に動く前に株式は大きく売られており、やや売られすぎの感がある。機関投資家の9月の現金保有比率は長期平均の4.8%を大きく上回る6.1%まで上昇しており金あまり感がある。9/15日経

・米長期金利↓
長期金利が上昇すると株式から債権へ資金が流れやすくなる。

米長期金利上昇により、米大手銀の債券含み損は約5兆5000億円(自己資本の4%程度)まで膨らんでおり、この状態ではリスク資産投資ができなくなる。過去の例では含み損率が3%を超すと株価の大幅調整が起きている(週刊エコノミスト4月19日号7/19日経)。日本の3メガバンクも外債の含み損が6月に2.6兆円まで膨らんでおり、リスク資産投資が減少している。8/3日経

・利回り↑
日本株式の益回りは約7.73%、配当利回りは約2.48%と、日本の10年国債の利回り0.245%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・為替↑
円安が進むと海外勢は日本株を買いやすくなる。

・需給↑
海外勢の売り玉はなくなりつつあり、大きく下げたときは日銀や日本企業が買い支えるので日本株は下がりにくい。

主な投資主体の売買動向
<2022年の予想と現状>
日本銀行:予想は日本株の買い支えで1兆円の買い越し。現状は5千億円の買い越し。
事業法人:予想は自社株買いで4兆円の買い越し。現状は3兆1千億円の買い越し。*8月19日時点で、企業が発表している2022年度の自社株の買い入れ枠は5.6兆円になる。8/23日経
海外投資家:予想は景気後退を懸念して2兆円の売り越し。現状は2兆7千億円の売り越し。
個人投資家(投資信託含む):予想は逆張り投資で1兆円の買い越し。現状は4千億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(期待度・人気度)で決まる。2022年の予想EPSは0~10%、2023年は-10~3%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についてもみていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今は円安基調なので利益は増えやすそうではあるが、輸入価格が高騰しており、この分を価格転嫁できなければ利益はそれほど増えない。8月の企業物価指数は前年同月比+9.0%になるが、消費者物価指数は+2.8%で、約6%分を価格転嫁できていないことになる。この調子でいけば利益はほとんど増えない。7/30ヴェリタス9/13日経9/20日経
*価格転嫁は為替の変動が穏やかな場合は順調に進みやすいが、今回のように急激な場合は十分にできず企業利益は圧迫されやすい。

・海外景気↓
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。今後の世界景気はインフレ高進などにより景気鈍化もしくは景気後退する可能性が高い。
*インフレは消費者の購買力を奪い消費主導の不況を起こす。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫される。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率はコロナ前よりもやや高い水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばいだが、資源価格は上昇している。

・金融政策↓
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。日本は金融緩和を続けているが、世界的には金融引き締め傾向になる。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいだが、現在のPERは11.95倍とやや低い水準にある。今後景気後退によりEPSが下がる可能性もあるので、妥当な水準にみえる。

投機筋の持ち高
買い残は1兆4000億円で、裁定売り残高は2400億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり(9/21日経)、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。ただ買っているのはほとんど米国株になる。

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなりやすいという問題がある。日経日経

・チャート→
<10年チャート> 辛うじて上昇トレンドを保っている。Wトップを形成したように見えなくはない。


■東証グロース指数(旧マザーズ指数)
今後1年の予想レンジ:800~1150の間で推移

東証グロース指数に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策↓
東証グロース指数は中銀の総資産との相関が全市場の中で最も高いので、中銀の資産縮小時には真っ先に売られやすい。とはいえ、先にも触れたように中銀が資産を売り始める前に、マザーズ指数はコロナ前の水準まで下げているので、やや売られすぎの感がある。

金利の上昇も小型グロース株には逆風になる。金利が上昇すると将来の成長期待を買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。また小型グロース企業には赤字企業が多く、金利上昇時には成長資金を調達しにくくなる。

・需給↓
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。

グロース市場での海外投資家の売買シェアは約50%あり、海外投資家は昨年の11月から3月までほぼ一貫して売り越している(ヴェリタス日経)。ただそろそろ売り玉が尽きそうな雰囲気がある。

個人投資家は多くが含み損を抱えているため大きな買いはあまり期待できない。

・EPS(1株利益)成長率→
*グロース企業の合計損益は赤字なので(8/19日経)、EPS成長率の算出はできない。

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

現在の信用評価損益率は-27%と平均よりかなり低いが、下落の仕方が緩やかなのでセリング・クライマックスのような投げ売りはまだ見られない。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えていた。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような局面であり、このような前例を踏まえると、東証グロース指数はあと1年くらい調整が続くかもしれない。ヴェリタス

<マザーズ指数の10年チャート> 全ての移動平均線が下向きになっており、一部がデッドクロスしているので下落基調はしばらく続きそう。底は600くらいになりそう。

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2022年の予想EPS成長率は10%、2023年は-10~5%。
・米国株式の2022年の予想EPS成長率は-5~5%、2023年は-15~0%。
・欧州株式の2022年の予想EPS成長率は0~10%、2023年は-15%~0%。
・日本株式の2022年の予想EPS成長率は0~10%、2023年は-10%~3%。

■経済成長率
・世界の2022年の予想GDP成長率は3.2%、2023年は2.9%。
・米国の2022年の予想GDP成長率は2.3%、2023年は2.3%。
・中国の2022年の予想GDP成長率は3.3%、2023年は5.1%。
・ユーロ圏の2022年の予想GDP成長率は2.6%、2023年は2.3%。
・日本の2022年の予想GDP成長率は1.7%。2023年は2.3%。
*数値はIMF予想。7/27日経7/27日経
*予想経済成長率は1月、4月、7月と3回連続で下方修正されており、IMFは10月も下方修正する可能性があるとしている。

世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2022年が4.0~6.5%、2023年が3.0~5.0%。
・欧州の予想インフレ率は2022年が5.0~7.6%、2023年が3.0~5.0%。
・日本の予想インフレ率は2022年が1.5~2.5%、2023年が0.5~1.5%。
*参照:ヴェリタス7/15日経など
*参照:米PCE(個人消費支出物価指数)、米CPI(消費者物価指数)ユーロHICP日本CPI。中央銀行は主にこれらの指標を使って政策決定する。
*米国の今後10年の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率10年)は2.19%。ブレーク・イーブン・インフレ率とは債券市場の予想物価上昇率で、実質金利を算出するときなどに用いる。

世界中でインフレが高進している。インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて、今後のインフレ動向を予想していく。

<インフレ要因>
★コロナ特有のもの
・供給基盤が破壊され供給不足が生じている。→解消されつつある。
・コロナが収束せず供給不足が長引いている。→解消されつつある。9/11日経
・コロナで対面型サービスの人気が落ち、賃金が上昇している。
・コロナ対応に慣れてきて需要が増している。
・政府から給付金が支給され需要が増している。
・金融緩和の影響で資産価格や商品価格が上昇している。
・量的緩和の影響で通貨価値が下落している。
 
★コロナ後も続くもの
・人手不足で賃金が上昇している。米国では求人件数が1100万件を超えているが、完全失業者は600万人に留まっている(9/3日経)。仮に失業者全員が求人に応じたとしても500万件程度の求人が充足されない計算になる。コロナ前の景気拡大局面のピークでも未充足数は150万件程度だったので人手不足感は強い。

労働力人口が減ったのは(労働参加率が低下したのは)、コロナの後遺症など(50万人、9/13日経)、株高などによる早期退職(160万人)、給付金による過剰貯蓄、雇用条件に対する不満、移民の伸び悩み、高齢化の進展、”アンチワーク”など、構造的な要因も絡んでいるので早期解決は難しい。日経ヴェリタス日経8/19日経

現在、賃金の上昇率が5%台で高止まりしている。3%程度まで減速しないとFRBの2%物価目標と整合しない。そこまで賃金の上昇率を抑えるには求人件数を700万件程度まで減らす必要がある。9/9日経

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7%程度の物価押し上げ効果が見込まれている(日経ヴェリタスヴェリタス)。主要中銀が加盟する「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)」は2050年までに脱炭素社会への移行が円滑に進む場合、日本でさえインフレ率が3%程度に達すると予想している。日経
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーはデフレ要因になる。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇などにより、食料価格が上昇傾向にある(日経日経ヴェリタス)。農作物・肥料価格の先行指標である「農業ETF」は上昇基調にある。

・ロシアのウクライナ侵攻により食料・資源・エネルギー価格が上昇している。西側の制裁は長引きそうなので、これらの価格は高止まりしそう。ただ、過去50年間の戦時の商品価格の高騰を分析すると、開戦5ヶ月後に5割程度まで高騰してピークを付けた後、下落に転じている(日経)。今回も天然ガス以外は過去と同様の展開になっている。9/28日経

・米住居費が上昇している。家賃上昇が2022年と23年の米CPIを1.1ポイント押し上げると見込まれている。日経

・経済の脱グローバル化で、製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。9/22日経
・世界の生産年齢人口比率は2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。日経8/6日経

<デフレ要因>
・世界中の中央銀行がインフレ対策として金融引き締めをしている。FRBは強力な金融引き締めをして需要を大きく減らそうとしている。

・経済や社会のデジタルシフトが加速している。
*経済や社会のデジタルシフトは強力なデフレ圧力になる。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報・人・モノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。
・産業の「自動化」により、生産コストが低下している。
・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。日経
・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。
・世界的に少子高齢化が進んでいる。高齢者は支出が少ない。労働者は高齢者を支えるための税金が増え、収入や支出が減りやすくなっている。
・人手不足で成長力が低下している。
・株安などで資産価格が下落している。

以上をまとめると、インフレのピークは米国と日本が2022年10月、EUが12月、英国が2023年1月あたりになりそう。ただ、今回のインフレはしぶとそうなので米インフレ率が2.0%程度に落ち着くのは2025年くらいになるかもしれない。

■金利
・米国の2年金利は4.15%で10年金利は3.78%。30年金利は3.66%。
・日本の2年金利は-0.04%で10年金利は0.24%。30年金利は1.38%。

(名目金利からインフレ率を差し引いた)実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。

これまで世界の実質金利はマイナス圏にあったが、先日2年半ぶりにプラス圏に浮上した(9/8日経)。現在の米国の実質10年金利は1.59%、日本は-1.8%くらいになる。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.4%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年6月に一時10年金利が2年金利を下回っている(6/30日経)。8月には英国、スウェーデン、カナダ、ニュージーランドでも逆イールドが発生している。8/25日経

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。ヴェリタス
*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

■債務
・世界の債務はコロナ下で急拡大し過去最高のGDP比350%に達している(日経)。しかし、対コロナの経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっている。デフォルトが急に増える環境ではない。7/2日経8/20日経7/30ヴェリタス8/2日経7/2ヴェリタス

・債務の質は劣化しており、米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割超が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
・米欧でハイイールド債の国債に対するスプレッド(上乗せ金利)が10%を超える債券の割合が1割程度まで増えている。7/30日経
・欧州企業全体の信用リスクを示す指数は7月に一時、コロナ危機下の2020年3月並みの水準まで悪化している。8/4日経
・米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。また企業負債のGDP比率は12年には65%前後だったが、足元では80%に迫る水準まで上昇している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。日経9/24ヴェリタス

・日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、先進国の中で断トツトップ。2021年の税収は歳出の半分以下で、債務残高は着実に膨らみ続けている。7/5日経

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている(参照)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。
・債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。削減できなくても政府債務は実質的に返済不要なので特に問題なさそう。
・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。日経

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。日経7/28日経

・国際金融協会(IIF)によると、新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。新興国の3分の1で外貨建て国債の利回りが10%を上回っており、新興国の30%、低所得国の60%が債務返済危機に陥っている、もしくはその可能性があるとされる。7/26日経

・新興国で海外資本の流出超過が5ヶ月連続となり、過去最長記録を更新した。資本の流出は途上国全般で深まる金融危機を一段と悪化させるおそれがある。8/3日経

・世界で過剰債務企業が増えている。本業の利益が借金の利払いより少ない”ゾンビ”企業が全上場企業(2万4500社)に占める比率は2021年度に16%になっている。直近ではこうした企業が破綻に追い込まれる事例が相次いでおり、仏アリアンツ・トレードは23年に世界の企業の倒産が21年比で26%増えると予想している。7/28日経

・米ムーディーズは今後の世界の社債について、最も悲観的なシナリオだとデフォルト率が14.5%になると予想している。これは1933年の世界大恐慌の最中の15.8%以来の水準になる。リーマン・ショック時のデフォルト率は12.1%になる。9/13日経

<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので(9/23日経)、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元ではインフレ対策として資産の売却を始めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、バブルが完全崩壊する可能性は低い。

■金融政策、財政政策
・世界中の中銀がインフレ対策で金融引き締めを行っている。ただ日本や中国など一部の中銀は金融緩和を続けている。日経日経

日銀が金融引き締めをしないのは、日本のインフレ率が2%程度と低く、コストプッシュ型の悪いインフレのため。日銀は現在のような需要不足の状態(8/24日経9/24日経)で引き締めをすると景気後退に陥ると考えている。

ただ、日銀は国債を無制限で購入し10年債利回りを0.25%に抑えようとしているが、日銀の操作の及ばない20年国債や30年国債の利回りは1.0%超に上昇しており、利回り曲線に歪みが生じている。このような歪みはどこかで修正され、修正時には何かしらの波乱が起こる。第二次世界大戦時にも政府が国債市場に介入し、利回り曲線に同じような歪みが生じているが、その歪みは円の大暴落(ハイパーインフレ)によって修整されている。現在も似たような状況で、円の下落によって帳尻を合わせようとしている。ヴェリタス9/22日経

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる(日経8/24日経8/25日経)。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。7/30ヴェリタス7/6日経9/3ヴェリタス
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。

■政治
・日本の政治は比較的安定。岸田政権の支持率は足元で不支持率を下回ったようだが(9/20日経)、野党にライバルはおらず、もともと存在感の薄い政権なので支持率にたいした意味はなさそう。日本の経済政策、財政政策には根深く深刻な問題があるので、日本の政治は徐々に不安定になっていきそう。
・海外は不安定。ウクライナ紛争により、ロシアと西側との関係は当分冷え込みそう。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
*米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれそう。9/30日経
・米欧は格差拡大や価値観の分断を背景にしたポピュリズム(大衆迎合主義)が拡大しつつある。ポピュリズムは目先の利益を優先するので、長期では成長が伸び悩みやすくなる。
・EU域内で財務格差が広がりつつある。財務状態の異なる国々で単一の通貨を使うことにはもともと無理があるので、EUは崩壊する可能性がある(8/13ヴェリタス8/14日経)。
 財務状態の悪いイタリアでポピュリスト政権が誕生した(9/27日経)。今後、財務状態がさらに悪化するのはほぼ確実なので、EUが分裂する確率が高まっている。

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしそうな気配が漂っている。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で52.8と中立水準に近づいている。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は56.9と高水準を維持している。
*同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える。
米国の失業率は減少傾向で現在は3.7%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るとされる。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は下げ基調になっている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは50.1とほぼ中立で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは1月頃から上昇基調になっている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は3つ起きている。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は3の段階になる。

■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。現在の個人投資家心理は「弱気」が60%を占めており、「異常な弱気」の水準。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい(日経)。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。同指数は4月27日にマイナス42%、6月20日にマイナス41%と「極度の悲観」に達している。マイナス40%を超える悲観はリーマンショック後の2009年3月に記録したマイナス51%以来になる(8/1東洋経済)。現在は40%と「極度の悲観」の状態にある。

投資家の強欲と恐怖指数(Greed and Fear Index)も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすくなる(東洋経済)。現在は15で「Extreme Fear」の水準。

・米国債の予想変動率を示すMOVE指数も株価の先行指標になる。この指数が株価の予想変動率を示すVIX指数の5倍に達すると株式市場は下落することが多い。7月頃にMOVE指数はVIX指数の5倍くらいまで上昇している。8/11日経

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月で、その期間の株式の平均下落期間も16.7ヶ月になる。今回の株価のピークは2022年1月なので、そこに16.7ヶ月を足すと、2023年4~5月あたりになる。株価の底打ちはそのあたりになる可能性がある。9/13日経

・1950年以降、米S&P500は直近の安値から5割戻した後は、その安値を再び更新することはなかった。米S&P500は6月に5割戻しを達成しているが(8/13日経)、9月にその大底を割ってしまった。相場格言に「半値戻しは全値戻し」というものもあるが、「半値戻し云々」はそれほどあてにならないとわかった。

■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは80とやや低めの水準。
・日本株の信用評価損益率は-10.76%と平均的な水準。
・チャートは全体的に天井を打って下降トレンドが始まったようにみえる。

長期計画

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
インフレ高進により景気後退に陥る確率が高まってきた。民間・政府ともに債務山積みの状態で金利を引き上げているので、景気には強い下押し圧力がかかっている。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は良好なので深刻な景気後退に陥る確率は低い(8/20日経7/28日経7/29日経)。今回のインフレは長引きそうなので、しばらく金融緩和や財政政策による景気刺激は期待しにくい。景気後退は浅く長いものになるのではないかと思う。

<補足>
景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大)・失業率低下 →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮)の流れになる。

■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務残高は積み上がっており、GDP比220%に達している(日経)。景気下振れなどにより、いったんデフォルトが起これば、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱が相まって不況が深刻化する。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

中国では「ゼロコロナ政策」により景気不安が高まっている。GDPの約3割を占める不動産市場はピンチに陥りつつある(8/13日経8/23日経8/14ヴェリタス9/28日経)。一部の専門家は政府が対処できるだろうとは言っているが(9/5日経)、不動産融資の規模が巨大なので(9/17日経)、対処できない可能性もある。対処に失敗したらバブルははじける。

中国の若年(16~24歳)失業率は過去最高の19.9%に達している(8/16日経)。この年代の失業者は革命分子になりやすいので、経済が傾いたら暴動が起きて政権が崩壊する可能性がある。

景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が2024年頃までに武力で台湾を併合するとの憶測が流れている(日経日経日経日経)。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる(8/2日経)。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に武力侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米側からになる。8/2日経8/5日経

景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある(日経8/13ロイター)。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換は当分先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのかもしれない。

今夏は世界各地で記録的な熱波・干ばつが発生している(7/20日経7/22産業7/23ヴェリタス8/29日経9/5日経)。転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるとも言われているので(『21 Lessons』)、人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が7月11日に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている(7/12日経7/13日経)。AIやロボット、教育(8/3日経)などの影響を考えると、今後もピークアウトの前倒しは続くのではないかと思う。

景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれる。今回のようなパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。ロイター

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので(日経)、日本は景気後退を通り越して財政破綻する可能性が高い。

■今後の計画
円が105円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。ただ馴染みのある海外企業はすべて巨大なので株価の大幅上昇は見込みにくい。無理して買わないようにする。

・米市場に上場している「銅ETF」
「グリーン革命」で銅需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう(日経日経)。仕込むタイミングは2024年の半ば頃にくるかもしれない(7/20日経)。それまでに1トン5000ドルを切るようなことがあれば買いたい。

・米市場に上場している「半導体ETF」「サイバー・セキュリティETF」
AI・ロボット社会では半導体企業とサイバー・セキュリティ企業の力強い成長が期待できる(9/5日経など)。基準価額が大きく下げているときに買えば3倍は狙えそう。「韓国KOSPI」指数も半導体株のようなものなので狙い目かもしれない。

・アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、セールスフォース
これらの大型株はまだまだ成長しそう(7/26日経8/25日経など)。ただ社会的な力を持ちすぎて規制リスクが高まっている(8/17日経など)。この中で規制の影響をあまり受けなさそうなのはセールスフォースあたりになる。

・アーク・イノベーションETF
キャシー・ウッド氏が運用する「破壊的イノベーション」企業に集中投資するファンド。ウッド氏は「AI」「ロボット」「ブロックチェーン」「ゲノム解析」「エネルギー貯蔵」の5つのテクノロジーが次の10年で世界を変えると考えている。ただ、ウッド氏が投資する企業は、将来性はあっても利益の出ていないところが多く、景気悪化時には財務不安が高まり売られやすい。このファンドは低金利を前提にしたファンドなので、低金利が持続するような環境でしか買えない。

・バークシャー・ハザウェイ
ウォーレン・バフェット氏が経営する会社。バフェット氏は投資する会社の将来性だけではなく、キャッシュフロー(利益)も重視しており、組み入れ銘柄は財務の安定性や健全性が高い企業が多い。そのため景気悪化への耐性がある。バークシャーは10兆円を超す手元資金が問題視されていたが、足元の下げ局面では積極的に買いに動いているので(日経)、景気回復時には大きな反発が期待できる。問題はバフェット氏が92歳と高齢なこと。持ち前の目利き力でよい後継者を選んでいるとは思うが、氏の能力を引き継ぐのは難しそう。

・米GXOロジスティクス
物流サービスを受託する会社。消費者から不良品や使用済み製品などの返品を受け付ける事業に強みがある。ITを駆使して商品の点検や修理、廃棄や返金といった複雑なプロセスを請け負うので、ただの商品配送よりも付加価値が高くなりやすい。小売業者からの引き合いは強く、参入障壁は高いようなので、長期の成長が期待できる。日経

・よさそうな新興国株は、インド株のETF、東京海上インドオーナーズ株式オープン。インドは人口ボーナスで2050年頃までは成長が続きそう(7/31日経)。ただ、成長率の高い国はインフレ率も高いので株価が上昇しても為替差損で思ったほど利益を得られないかもしれない。
*GDP成長率とインフレ率は同程度になる。

・日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフランやスイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。ただ生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには中銀が通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した国債を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値(信認)が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなると通貨安・インフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は大暴落(中期では大暴騰)する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。
*ハイパーインフレが起これば公的債務は”完済”される。

スマレジ

■調べようと思った経緯
クラウド型POS(販売時点管理情報)レジの主要プレーヤーは3社程度に絞られてきており、そのうちの1社であるスマレジは大きく成長できそうだと思った。足元(7月)で株価は大きく下げており、自社株買いも入ったので調べるタイミングとしてはよさそうだと思った。

■どんな会社か
クラウド型POSレジ「スマレジ」を開発・提供する会社。「スマレジ」は中規模な小売店や飲食店を中心に導入が拡大している。主な収入源は「スマレジ」のサブスク売上と「スマレジ」周辺機器の販売になる。

<「スマレジ」とは>
iPhoneやiPadにインストールして使うクラウド型POSレジアプリ。従来型のPOSレジと比べ導入費用を8割ほど抑えることができ、ソフトのアップデートや機能の追加を低コストかつ迅速に行うことができる。「スマレジ」にはレジ機能の他、在庫管理、顧客管理、シフト管理など一連の業務システムも備えており、これ1台あれば店舗運営をすることができる。

業績推移は
2020年4月期 売上32.5億円、営業利益7.5億円
2021年4月期 売上33.2億円、営業利益8.4億円
2022年4月期 売上42.9億円(前期比+29%)、営業利益6.3億円(前期比-25%)
2023年4月期(予) 売上55.9億円(前期比+30%)、営業利益6.5億円(同+2%)
になる。2022年4月期の売上の内訳は、サブスク売上が56%、周辺機器販売等が44%になる。

今期も売上は大きく伸びる予定だが、利益の方は、広告宣伝費、買収した会社の赤字分、決済端末の安価提供キャンペーン、社員増加(2022年期に123人→210人)などにより横ばいになる予定。

■成長ストーリー
「2031年にPOSレジ市場で国内シェア14%獲得」が基本シナリオ。

これまでPOSレジ市場では東芝テックや富士通などの大手が市場を独占してきた。ただ導入費用やシステム変更費用が高いため大手企業しか導入できなかった。クラウド型POSレジはそれらの課題を解消し、小型店でも導入できるようになった。足元では人手不足やキャッシュレス決済の普及、軽減税率への対応などが追い風になり中小型店での導入が急速に拡大している。スマレジはこの流れに乗って「スマレジ」を普及させていくことを基本戦略としている。

国内でレジを使う店舗は約211万店あり、スマレジは2031年にこのうちの30万店舗(国内シェア14%)に「スマレジ」を導入する計画。現在、スマレジを導入しているアクティブ店舗(直近1ヶ月でレジ機能を使った店舗)は約3.2万店(国内シェア1.5%)あり、あと約10倍の規模拡大を計画している。

導入を増やすための戦略は5つ。1つ目が決済サービスと「スマレジ」とのセット販売になる。スマレジは昨年12月に大和ハウスから電子決済サービス会社・ロイヤルゲートを買収。ロイヤルゲートはクレジットカード、電子マネー、QR決済などのあらゆるキャッシュレス決済を1台の端末で処理できる「ペイゲート」を開発・提供している。この会社の買収によりスマレジは顧客に「スマレジ」と決済システムをセットで提供できるようになった。両者はセットで使うものなので相乗効果が期待できる。スマレジは2024年4月期の目標ARR(サブスク売上高)を50億円としており、うち決済サービスのARRを10億円としている。
*現在のARRは31億円(「スマレジ」のARR24億円、決済サービスのARR4億円、HR事業のARR3億円)になる。

2つ目が「積極的なプロモーションの継続」になる。スマレジは前期から年8億円程度の広告宣伝費を投入しており、今期、来季も同水準の広告宣伝費を投入する計画。宣伝効果により顧客獲得ペースは上向いており、今後も順調な獲得が期待できる。

3つ目がレジアプリマーケットの拡充。「スマレジ」の導入企業数は10万社を超えており、顧客のニーズは増加している。しかし、スマレジ一社ではそられらの要望にすべて応えることはできない。そこで「スマレジ」の仕様を外部に公開し、アプリ開発会社に「スマレジ」の追加機能を開発してもらっている。それらのソフトは「スマレジ・アプリマーケット」で販売しており、現在、開発パートナーは法人(576社)・個人(319人)合わせて約900、販売中のアプリは79個になる。長期的にアプリ数は300程度まで増やす計画。スマレジは販売金額の3割を手数料として受け取る。この事業の現在の月収は100万円以下になるが、長期的には収益の柱になる可能性がある。

4つ目がHR(人材管理)事業の拡大になる。スマレジはクラウド勤怠管理サービス「スマレジ・タイムカード」を提供しており、22年4月期の登録事業所数は11万5千社(前期比15%増)、ARRは3億円(同25%増)になる。今後はこの事業を人材開発の領域まで広げ、「スマレジ」とのクロスセルの拡大を目指す。

5つ目がM&Aやコーポレートベンチャーキャピタルによる投資になる。スマレジは豊富な手元資金(32億円)を活用して、2021年にベンチャーキャピタルを設立。自社に関連したスタートアップに投資して、自社サービスとの連携・強化、エコシステムの育成、投資収益拡大を目指す。今後はM&Aも活用して業容の拡大、スピードアップを目指す。

■問題点
・競争優位性があるのか疑問
社長は「小売業の人が本気でシステムを入れたいと思ったら、うち一択になってくる」とは言っているが、リクルートが提供するシステム「Airシリーズ」に対する優位性が見えない。Airシリーズはレジ機能、決済機能、勤怠管理、シフト管理、顧客管理、業務データ分析、受発注、会計システムとの連携、など、「スマレジ」以上に店舗運営に必要な業務システムを備えているようにみえる。さらにAirシリーズを運営するリクルートは「Indeed」などの求人支援、販促支援、金融支援などもしているので、総合力では「スマレジ」を圧倒しているようにみえる。価格に関してはレジ機能だけなら無料など、「スマレジ」の0~12000円よりも安い。「スマレジ」の新規導入も年1万2000~1万4000店くらいあるのでなんらかの優位性はありそうだが、現時点では分が悪いようにみえる。(要調査)

・アクティブ店舗数30万店(市場占有率14%)は厳しそう
「スマレジ」の2021年4月期のアクティブ店舗の増加数は約5100店、2022年4月期は約5500店で、現在のアクティブ店舗数はトータルで約3万300店になる。2031年4月期に30万店まで増やすとすると、あと約27万店増やす必要があるが、その場合、年間3万店ずつ増やしていく必要がある。上記の成長戦略によりアクティブ店舗数の普及ペースのスピードアップは期待できるが、5000店から3万店までは少し距離があるようにみえる。うまくいっても年1万店くらいが上限ではないかと思う。その場合、2031年のアクティブ店舗数は12万店程度になる。

*2022年6月の「スマレジ」の登録店舗数は11万3千店あり、このうちアクティブ店舗数は約3万店になる。登録店舗数に占めるアクティブ店舗数の割合は3割程度になる。仮にこの割合で登録店舗数を増やしていくとすると、アクティブ店舗数を30万店にするには登録店舗数を90万店まで増やす必用がある。国内のレジ市場は約211万店舗であり、「Airレジ」はすでに約64万店舗に導入されていて、さらに「スマレジ」の4倍超のペースで登録数を増やしているので、「スマレジ」が90万店舗まで登録数を増やすのは難しいのではないかと思う。

・開発力が弱い可能性がある
App Storeのレビューを見ると「システムの不具合が多い」との評価が多く、評価点は2.7点と低い(対して「Airレジ」は4.5点と高い)。就活サイトの元従業員の口コミには「コードが古い」「改善の提案が受け入れてもらえない」「システムを客観的に見て顧客にお勧めできない」「広告やウェブページには機能に関する過大な謳い文句が書かれている」「仕様を知っているのは一人いるかいないかということもある」「その場しのぎであれこれ機能を追加して、開発がメテオフォール型になっている」などとある。こうした評価を話半分程度に参考にしても、開発力はそれほど高くなさそうな雰囲気がある。ソフトウェアを開発する会社では、「ちゃんと動く」ソフトが肝になるので、ここが弱いと致命的になる。

・レジが減る可能性がある
買い物がネットにシフトしているのでリアル店舗での買い物が減っている(7/18日経)。またリアル店舗でも無人店舗やテーブルでスマホ決済ができる飲食店が増えているので(8/13日経)、POSレジ自体が不要になる可能性もある。

・電子決済サービス市場はレッドオーシャン
電子決済サービスではGMOフィナンシャルゲートやリクルート、SMBC、米ブロック、米ストライプなどの競合がゴロゴロいる。この分野は薄利多売なので規模の大きさが重要になるが、スマレジの規模感では決済事業の黒字化は難しそう。
*買収した決済サービス会社・ロイヤルゲートの2021年3月期の業績は売上7億円、赤字6億円になる。

・アプリマーケットの元気のなさ
スマレジのアプリマーケットでは現在79のアプリが販売されいてるが、スマレジに入ってくる手数料は月100万円以下なので活況とはいえない。「スマレジ」市場はアクティブ店舗が約3万店とそれほど大きくなく、また販売手数料が3割と割高感があるので、アプリ開発会社にとっては開発するインセンティブがあまりないのかもしれない。ここが活発にならないと「スマレジ」を導入している企業の満足度は高まらないので、他に乗り換えられる可能性がある。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★
・参入障壁は高いか★★。低い。ただしクラウド型POSレジの競合はそれほど多くはない。

・ストック型収益か★★★☆。「スマレジ」の解約率は0.6%程度で、収益の約半分がサブスク収入なので収益の半分がストック型といえる。ただそのストック型ビジネスも競争激化により単価が落ちていく可能性はある。

・潜在市場は大きいか★★★。クラウド型POSレジは成長市場ではあるが、「スマレジ」は国内向けなので成長余地は限られる。レジが不要になる可能性もある。市場はあと3倍くらいで頭打ちになりそう。

■チャート
短期では底打ちの気配。しかし長期では1400~2000円の間に分厚い壁があるので上値は重そう。


■まとめ
競合や潜在市場、開発力などを考慮すると、スマレジが長期で力強く成長していくのは難しそう。ただ、まだ「スマレジ」についてわかっていないこともあるので、もう少し観察・調査する必要はありそう。