2021年4月2日金曜日

売買チェック 1~3月

■1月
・弁護士ドットコム 全売却 損益+1370%
電子契約市場は参入障壁が低いとわかったから。クラウドサインが顧客を囲い込む前に起こった急激な「脱はんこ」シフトで、今後競争が激化すると思った。
小型株にシフトしようと思ったから。

・イントラスト 新規買い
医療費用保証サービスが伸びると思ったから。

・日経レバ 新規買い
米ロビンフッダー問題(個人投資家のマネーゲーム過熱問題)で地合いが大きく悪化していたから。

■2月
・イントラスト 全売却 損益-9%
第3四半期の決算説明で病院経営が安定するまでは医療費用保証サービスが伸びそうにないとわかったから。今回の失敗で決算前の買いはリスクが高いとわかった。株価3倍以上を目指す長期投資の場合は決算後に株価が上がってから買っても遅くはないと思った。

・eBASE 買い増し
業績的にもチャート的にも反転しそうだったから。
現金ポジションを減らしたかったから(消極的な買い)。

・eBASE 全売却 損益-9%
反転するというシナリオが崩れたから。今回はシナリオが崩れたことを気づいた時点ですぐに売らなかったことが失敗。一般に「200日移動平均線を下回っている株は危険」と言われるが、強い材料を期待できない限りはこういう株は買ってはいけないとわかった。

長期での成長ストーリーが微妙になったと感じたのも売った理由。この会社は今後も成長を続けていくとは思うが、海外製品も含めたあらゆる商品を管理する商品情報管理プラットフォームを構築するのは難しそうだと思った。システムをオールクラウド化すればそれもできるかもしれないが、eBASEは今後もオンプレミス(自社保有サーバー)の販売を続けていくようなので、やや中途半端なプラットフォームになるのではないかと思った。

・ジモティー 買い増し
時価総額150億円(株価2500円)以下には割安感があったから。

・ジモティー 買い増し分を6割売却 損益-14% *初期に投資した分は証券口座が違うので損益計算には含めず。
業績予想、株式需給、チャート、地合い的に1500円くらいまで下がりそうだったから。
iPhoneのIDFA規制(クッキー規制のようなもの)で広告単価がさらに下がりそうなことがわかったから。ジモティーを半年観察してやっとこのことに気づいた。

■3月
・チームスピリット 全売却 損益-12%
競争激化で「TeamSpirit」の新規導入が全然増えてなかったから。今後は大企業向けに力を入れていくようだが、中小向けでの競争力がないなので、大企業向けでも厳しそうだと思った。

・ココナラ 新規買い
テンバガーを目指せそうだから。ただ妥当と思う時価総額の上限490億円(株価2300円、PSR20倍)で買ったので割高感がある。それでもナスダックに上場する同業のファイバー・インターナショナルのPSRは50倍を超えていたので(当時)、なんとか耐えられそうだと思った。

・ココナラ 100株残して全売却 損益-11%
損切りラインに達したから。米長期金利上昇により割高株には厳しい展開になりそうだと思ったから。

・ジモティー 買い増し
投稿数が順調に伸びていたから。需給、地合いが落ち着いてきたから。

持ち株チェック

 保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
今期の業績予想は売上高+6.7%、営業利益は+9%とやや弱気な予想になっている。会社説明によると「コロナ禍による巣ごもりで増加したユーザー数は徐々に平常化されていく」「自動配信、マーケティング支援の広告需要は2020年と同様の低調なトレンドが継続する」のが理由とのこと。

ただ、足元での「ジモティー」への投稿数は順調に増えている。前第1四半期の投稿数はブログではカウントしてないが、決算資料から前第1四半期と前第4四半期の投稿数はほぼ同数であり、その第4四半期の投稿数と今期の第1四半期の投稿数を比較すると、約21%伸びている(主力の「売ります・あげます」カテゴリーのみカウント)。これはロックダウンの影響もありそうだが、通期でも会社予想より若干上振れるのではないかと思う。米クレイグスリストの月間投稿数は8000万件を超えており(wiki)、ジモティーはまだ27万件程度なので、まだまだ拡大余地はありそう。

一方で、広告需要(広告単価)の方は不透明感が強い。会社側は「2020年と同様の」と言っているが、今年3月からiPhoneでIDFA規制(利用者の行動履歴や広告効果の測定に使われるクッキーの規制のようなもの)が始まったので、広告単価がさらに下がる可能性が高い。iPhoneの国内シェアは50%を超えているので、この規制のインパクトはそこそこ大きなものになりそう。

とはいえ、「ジモティー」に表示される広告にはIDFAを使うターゲティング広告以外にもリスティング広告(検索ワード連動広告)やノンターゲティング広告などもある。またドコモやグーグルのIDを使ってログインするソーシャルログイン(データを融通し合うログイン)もあるので、業績への影響は限定的になりそうでもある。足元ではポスト・クッキー技術の開発も進んでいるようなので(1/27日経2/13日経2/3デジタルガレージ12/10日経2/10日経)、数年後にはiPhoneでターゲティング広告が復活する可能性もある。収益の97%を広告収入に依存する米フェイスブックの株価は落ちてないので、この点はそれほど心配しなくてもよいのかもしれない。

上記を勘案すると、今期業績は売上・利益ともに10~20%程度の伸びになるのではないかと思う。ただし、前第1四半期はコロナの影響をほぼ受けていないので、今期の第1四半期の業績は前期比で横ばい程度になりそう。

今回の決算説明では他に、社員が2人減っていることが気になった。「ジモティー」は1000万人を超えるユーザーからのフィードバックで改善すべきところは山ほどありそうだが、この状況で人が減っているのが不可解。もしかすると、従業員が50人程度の米クレイグスリスト(売上高1000億円、営業利益500億円)を見習っているのかもしれないが、一株主としてはジモティーはもっと攻めてもよいのではないかと思う。社長は優秀なタイプには見えるのだが、創業者にみられるようなパワフル感に欠けるところが少し気がかかり。

それと、以前「ジモティーレポート」に書いた成長ストーリーが実現できるかが微妙になってきた。レポートには米クレイグスリストのように、仕事や不動産の分野でも大きく成長する、みたいなことを書いているが、今はそれらの分野で競合がひしめいているのでそれほど伸びない可能性もある。ただそれを考慮しても「無料広告」の潜在市場は巨大だと思うので、ジモティーの成長余地はまだまだあるのではないかと思う。

ココナラを調べていて、ジモティーは有望なスキルシェア・プラットフォームになれる可能性があると気づいた。ココナラなどのスキルシェア・プラットフォームは手数料が25~35%と高いことが問題だが、「ジモティー」は基本的に手数料がかからない。加えて、集客力が高いので、スキルシェア市場に本格参入したら面白いのではないかと思った。

「ジモティー」には動画でやりとりする機能はないが、スキルシェア「モッシュ」のようにズームやインスタライブと連携すればその問題も解消する。売り手と買い手の金銭の授受については手数料を少し取ってエスクロー決済(買主がサービスの代金を決済代行業者に対して支払い、サービス完了後に売主にお金を引き渡す決済方法)を導入すればよさそう。売り手の信頼性についてはレビューをきっちり書かせるようにすれば、それも徐々に高まっていくのではないかと思う。ジモティーはこの分野でも活躍できそうだと思ったので、このプランを書いたメールをIRに送っておいた。

「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数
・売ります・あげます 7月15日 893080 →10月 945116 →1月 1013333 →4月 1096141
・メンバー募集 67116 →69364 →71879 →74732
・助け合い 25300 →26203 →27226 →28662
・不動産 466478 →511537 →518859 →402393
・アルバイト 43710 →44585 →46999 →61359
・正社員 13703 →14002 →15335 →17574
・イベント              →31575
・中古車               →43199
・教室・スクール           →18364
・地元のお店             →13453
・里親募集              →7628
*投稿件数は削除されたものもあるので実際の投稿件数はもっと多い。

今後3年の予想売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は280億円(株価4800円、PSR20倍)くらい。2030年の予想売上・利益は現在の10倍くらい。

■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
第2四半期の決算説明で表皮水疱症の承認申請の協議がそこそこ順調に進んでいることがわかった。承認申請が遅れているのはレダムセチドが今までにない医薬コンセプトのためかもしれない。ただ、日経で少し気になる情報も目にしたのでその点についても少し考えておく。

2/7日経に腰椎間板ヘルニアの新しい治療薬「ヘルコニア」が紹介されていた。ヘルコニアはメリットの多い治療薬のようだが、アナフィラキシー(過敏症)のリスクもあるという。ヘルコニアは一度使うと体内に抗体ができ副作用が起こりやすくなるようで、生涯に一度しか使用できないという制約がある。ヘルコニアの主成分はタンパク質であり、ステムリムの薬剤の主成分も”ミニタンパク質”であるペプチドなので、同じような副作用が起こる可能性もありそう。詳しいことはわからないが、このリスクも考慮しておく。患者にとって有意義そうな薬剤が承認されないのは何かわけがあるに違いないので、この点は今後も探っていく。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~10%程度。業績が急拡大するのは早くて3年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は0~500億円くらい。

■ペプチドリーム
基本シナリオ:最強のペプチド創薬プラットフォームに
前期はコロナによる研究開発の遅れで業績が確実に下ブレると思っていたが、まさかの上方修正が入った。本決算説明では今期も前期と同程度(売上110億円)は稼げるという。

株価は1月の上方修正時のコメント「(新薬開発などで)新たな契約の締結などが見込め、2ケタの増収増益を目指す」以降、上昇基調だったが、決算時の“慎重な”業績予想により元に戻ってしまった。

今期業績予想は悲観シナリオに基づいて作成されているようで、会社説明によるとコロナの影響は今期の方が大きくなる可能性もあるという。

去年はコロナにより臨床開発がストップしていたので、現在FDAには臨床試験の申請が殺到しているという。しかし、臨床試験は一気に全部できるわけではないので、そこで絞り込みが行われ、ペプチドリームの薬剤が除外される可能性もあるという。ペプチドリームの今期臨床入り予定のパイプラインは4~8本あるが、今期の臨床入りの本数でペプドリ薬の有望性がある程度推し量れそう。

不透明要素はいくつかあるが、長期的なシナリオには変化なし。創薬プラットフォームにはますます磨きかかかっているようなので、今後も安心してこの会社の株は持っていられそう。

共同創業者の窪田会長が退任してしまった。ただこれは円満退社であり、経営陣は金城副社長など優秀そうな人材で固められているので特に問題なさそう。

グーグル系のAI会社がタンパク質の立体構造を高精度で予測するAI「アルファフォールド」を開発した(1/16日経)。薬は主に病気に関わるタンパク質に結合して作用するので、このAIが予測したタンパク質の立体構造は創薬でも使えそう。今後は「アルファフォールド」×「富士通のデジタルアニーラ」×「PDPS」×「実験ロボ」で創薬速度がさらに加速していきそう。
*デジタルアニーラとは量子コンピューターに似た計算能力を持つ超高速計算機。用途は膨大な組み合わせパターンから最適なものを選ぶ「組み合わせ最適化問題」に特化している。

今後3年の売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は7000億円(株価5500円、PSR65倍)くらい。2030年の予想売上・利益は現在の5倍くらい。

■ココナラ
基本シナリオ:最強のスキルシェアプラットフォームに
2030年の予想売上・利益は現在の10倍くらい。

■今後の計画
株式市場では「金融相場」と「業績相場」が同時に起こっているので株価は上がりそうではある。しかし、米長期金利の上昇により割高感のあるグロース株には厳しい展開になりそうでもある。ココナラのような割高株は慎重に買っていく。ジモティーのような割高感のない株はいけそうだと思ったタイミングで買っていく。

10倍株候補 ココナラ

 ■どんな会社か
個人スキルをネット上で売買するプラットフォーム「ココナラ」を運営する会社。他に法律相談サイト「ココナラ法律相談」、ユーザー同士が直接会ってサービスを提供する「ココナラミーツ」も手がける。今年3月にマザーズ上場。従業員数は110人。

個人スキルをネット経由で提供するクラウドソーシング企業はいくつかあるが、クラウドワークスやランサーズなどが扱う企業向けサービスでは、企業が発注元になり、企業が価格を決めているのでサービスの内容は限られている。対して、「ココナラ」が提供するサービスは、売り手の知識、経験、スキルなど、どのようなものでも出品でき、売り手が価格を決められるので、扱うサービスは幅広い。

「ココナラ」で出品されるサービスには大きく分けて「制作・ビジネス系カテゴリ」と「相談系カテゴリ」がある。そこから21のカテゴリに細分化され、さらにそこから211のサブカテゴリに細分化される。

現在の「ココナラ」の会員登録者数は約200万人になる。出品者数は約20万人で約40万件のサービスが出品されている。希望するサービスがない場合は「仕事・相談の公開依頼」を通じて、出品者に新規サービスを要請することもできる。

収益はユーザー間取引の手数料から得る。手数料は取引金額の25%(取引金額が5万円を超える場合は段階的に10%まで引き下げ)になる。

サービスを1度利用した購入者は、他のカテゴリのサービスを購入する傾向があり、また足元ではサービス単価の高いビジネス向けが伸びているので、平均販売単価は上昇傾向にある。

ココナラの経営指針は「「ココナラに行けば解決する」という相談窓口になる」というもので、そこから法律相談サイトやユーザー同士が直接会ってスキルを提供するプラットフォーム事業が立ち上がっている。

業績推移は
2018年8月期が売上高7.6億円、経常利益が0.4億円
2019年8月期が売上高11.3億円、経常損失が10.5億円
2020年8月期が売上高17.7億円、経常損失が0.8億円
(予)2021年8月期が売上高24.2億円、経常利益が0.4億円
になる。売上は毎期35%超伸びている。足元では損益分岐点を超えたもようで、今後は売上の拡大に伴い利益率が高まっていきそう。

■成長ストーリー
「最強のスキルシェア・プラットフォームに」が基本シナリオ。

日本では少子高齢化の影響で人手不足が慢性化している。一方で、経済のグローバル化に伴い、企業間の競争が激化している。このような状況で企業が競争力を高めていくには社外の知恵やスキルを活用することが不可欠になる。

また子育て中の主婦や引退したシニアなど、スキルを持っているのになんらかの理由で職に就くことができない人がいる。一方で、フリーランス人材が増加しており、自らに足りないスキルを補完するサービスが求められている。

ココナラではこのようなニーズをマッチングさせることを生業に、成長していくことを基本戦略としている。

現在、「ココナラ」における個人間ユーザーのマッチングはクリティカル・マス(商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点)に達しているので、今後はほっといても、ネットワーク効果で市場が自己増殖するフェーズに入っている。

一方で、法人向けではまだそのレベルには達しておらず、テコ入れが必要な段階にある。ココナラは現在、法人向けに最も力を入れており、ここでも圧倒的なポジションを築こうとしている。

「ココナラ」に出品されている法人向けのサービスには、起業相談からマーケティング、HP作成、ロゴ作成、動画編集、Web集客サポートなど、起業から事業拡大まで一連のサービスがそろっている。また企業が利用しやすいように出品者の信頼性を認定する「PRO認定制度」を設けたり、エンタープライズ向けの機能を拡充させたりして普及促進を図っている。これら施策の成果はすでに出始めており、足元では売上の過半をビジネス向けが占めるようになっている。

「ココナラ」で得た圧倒的な知名度を利用して、対面取引の「ココナラミーツ」も立ち上げている。この分野の競合は限られているので、この分野でも覇権を取れる可能性がある。

また記事や動画、楽曲を販売できる「ココナラブログ」も立ち上げている。この分野の競合も限られているので、ここでも覇権を取れる可能性がある。

日本におけるスキルシェアはまだ緒に就いたばかりなので拡大余地は大きい。総務省によると2017年の日本におけるスキルシェアの利用率は3.7%だが、米国では29.6%ある(「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究の請負の報告書 (2017年)」)。この市場はまだまだ成長市場であるので、それを加味すると日本でのスキルシェア市場は少なくともあと10倍以上の成長余地がある。

シェアリングエコノミー協会(東京・千代田)によると、2020年度の国内スキルシェア市場は2500億円程度になるが、2030年度にはそれが最大で2兆6千億円になるいう。3/20日経
*シェアリングエコノミー協会の理事・幹事はココナラの会長を含むシェアリング企業の社長らで構成されているので、上記予測には当事者らの願望が多分に含まれている可能性がある。

■問題点
・競合がいくつか存在する
企業向けのクラウドシーシング企業には「クラウドワークス」「ランサーズ」「ビザスク」などがおり、個人向けのスキルシェア市場には「ストアカ」「カフェトーク」「タイムチケット」「モッシュ」などがいる。ただ、それぞれの会社には特色があり、数も限られているので棲み分けはできそうでもある。

海外には「ココナラ」と同じような事業を世界展開するファイバー・インターナショナルという会社も存在するが、ファイバー社はまずは英語圏を押さえる方向のようなので、当面は心配しなくてもよさそう。

・手数料が高い
「ココナラ」での取引金額は大半が5万円以下になるが、そこでの手数料は25%もかかる。ただ他のスキルシェア企業もだいたい似たようなものなので(カフェトーク40%、ストアカ35%、タイムチケット26%、ファイバーインターナショナル26%)、相対的に見れば割高感はなさそう。

ビジネス向けではクラウドワークスやランサーズなどが手数料10%程度と低いが、ココナラでもビジネス向けの単価が高いサービスになると、10%程度まで手数料が下がるので、ここでもそれほど問題なさそう。

ただ、新興のスキルシェア企業「モッシュ」は8%(割引中の現在は3.6%)と低いので、状況次第では手数料競争が始まる可能性もある。

クラシファイドサイトを運営するジモティーも競合になる可能性がある。「ジモティー」では基本的に手数料がかからないので、ジモティーがうまいことやれば手強い競合になる可能性がある。

・匿名性であること
「ココナラ」はユーザーが気軽に利用することを重視して設計されているので匿名出品が多い。ただ、匿名だと信頼性が低下するという問題が生じる。「スキル」といった形のないものは外部からは評価しにくいので、それが匿名で出品されることにより、より評価をしにくくなる。また匿名になると責任の所在が曖昧に感じられるので著作権侵害などの法的トラブルが発生する可能性もある。

「ココナラ」では「PRO認定制度」などを設けて、出品者を審査し、出品者の信頼性を高めるような施策も打っているが、それもまだ限定的な話になる。ただ出品者側も匿名だとサービス単価が安くなることに気づいているはずなので、長期で考えれば自然と実名出品が増えていきそうでもある。

・テレビCMを多用する
クラウドワークスやランサーズなどの会社は営業担当者を抱えているが、ココナラでは抱えていない。そのためテレビCMを流して認知度の拡大を図っている。ただテレビCMはお金がかかるので、今後利益を圧迫する可能性もある。ただ、これは必要経費であり、現時点ではそろそろ黒字化しそうなので、それほど問題なさそうでもある。

・占い事業が主力
ココナラの目論見書には「「占い」カテゴリのサービス全体に占める割合は高い状況にあり、2019年8月期通期、 2020年8月期通期及び2021年8月期第1四半期における同カテゴリの当社流通高全体に占める割合はそれぞれ 41.6%、32.2%及び28.8%(同営業収益に占める割合は51.2%、40.7%及び36.6%)となっております」とある。少し怪しげな印象を受けるが、「占い」の売上比率は徐々に低下しているので、これもそれほど問題ではなさそうではある。

・コロナが収束すると利用が減る可能性がある
コロナで巣ごもりが続く状態ではクラウドソーシング需要が高まるが、コロナが落ち着けばそれも落ち着きそう。ただ長期で考えれば需要が増加していくのはほぼ確実なので、これも特に問題なさそうではある。今回のコロナで業務のオンライン化や社外人材の活用が一気に根付いた感もあるので、今後普及が加速する可能性もある。

・社会保証が手薄
現在の法律は「会社勤め」を前提に作られているので、クラウドソーシング分野の法整備が遅れている。そのためクラウドソーシング従事者は休業補償などの社会保障を受けにくかったり、納税などでややこしい思いをしたりすることがある。ただ、これは時間が解決してくれそう。

しかし、ココナラが最低賃金などの保障をしなければならなくなった場合は、コスト増になり利益が圧迫される恐れがある。米ウーバーでは労働者保護の負担が増しており、黒字転換が遠のいている。

・法律相談サイトは厳しそう
「ココナラ法律相談」の最大の強みは無料で法律相談ができることになるが、ココナラの法律相談では弁護士の層が薄いためか(いつも同じおじさん弁護士が回答している)、検索ランクが徐々に低下している。「ココナラ法律相談」事業の生命線はアクセス数にありそうなので、この調子でいくと収益化できなくなる可能性がある。LINE法律相談(LINE×弁コム×日本法規情報)や「みんなの法律相談」は弁護士の層が厚いので、これらに「無料」で太刀打ちできないとなると、厳しい状況になる。

・情報を探しにくそう
2020年11月末時点では約40万件のサービスが出品されているが、目的のサービスを見つけるのが大変そう。出品してもサービスが誰にも気づかれないこともありそう。そうなると出品数が頭打ちになりやすくなる。ただ、検索機能やAIマッチング機能が強化され、ユーザー数が増えていけば、その問題も解消しそう。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★4.5/5
・参入障壁は高いか。★4.5。スキルシェア分野では圧倒的なユーザー数を誇るので参入障壁は高い。スキルシェア市場でユーザーがサービスを購入する際、最大の判断材料となるのは、他のユーザーが付けたレビューになるが、「ココナラ」では270万超の圧倒的なレビュー数を誇っているので、これが高い参入障壁となっている。後発組のメルカリやDMM、クラウドワークスは「ユーザー候補はたくさんいるのに、ユーザーが思うように増えない」といった理由から撤退している。

・ストック型か。★4。人気のあるプラットフォームなのでストック型。ただ手数料の引き下げ競争が激化した場合は収益が低下する。

・時流に乗っているか。★5。スキルシェアはメガトレンド。

■チャート
上場日とその翌日に大商い(売買代金500億円程度)があったので、そこで取引された水準が1つの目安になりそう。現在はそのラインを下回っており、出来高(エネルギー)が減少しているので、そのラインを超えるのはしばらく先になるかもしれない。
<1ヶ月チャート>


■まとめ
大きな成長を見込める会社だが、足元では金利上昇局面に入っており、ココナラのような割高株は敬遠されそう。時価総額が300億円(株価1400円、PSR13倍)以下になることがあれば積極的に買っていきたい。

■補記
・実際に「ココナラ」で検索してみて
「ココナラ」で試しに「株式投資」と検索してみると約400件のサービスが出てきた。中には「香港株式IPO情報及び投資判断を提供できます」や「株式投資の判断分析資料作成します ファンダメンタル分析(基礎的要素)で根拠のある投資判断を」など、一瞬興味をひかれたものもあった。これらのサービスを出品している人は「動画編集」や「社会人の大学院進学相談」など様々なジャンルのスキルを出品していることもわかった。これは紛れもない新市場だとわかった。

ただ、やはり匿名性であることに問題を感じた。上記の香港株IPO情報を提供している人は、「モナコ在住のプライベートバンカー」らしいが、それを裏付ける情報がないので、胡散臭さが拭えなかった。また、似たり寄ったりのサービスがたくさん出品されており、スキルは形がないので、選ぶのが大変そうだと思った。

・ココナラで出品するときのポイントについて
将来、「ココナラ」になんらかのスキルを出品する可能性もあるので、ココナラが推奨する出品方法を簡単にメモっておく。出品するときのポイントは「最初は安い値段から始め、実績を積んでから値上げする」「自分の興味や適正に合ったこと楽しんでやる」の2つ。この2つをやれば長く続けることができ、収益を上げやすくなるという。

イントラスト

 ■調べようと思った経緯
エンジェル・ジャパンが運用するグローイング・ベンチャー・ファンドに長期で組み入れられている銘柄。久々に四季報で調べてみたら「医療費保証が牽引」とあり興味が湧いた。利益率が高く、業績も順調に伸びているので良さそうだと思った。

■どんな会社か
家賃債務保証を中心に、医療費保証、介護費保証、養育費保証などの保証サービスを手がける会社。保証サービスに付随する業務(審査、督促、法対応支援など)を個別に請け負うソリューション事業(BPO事業)も手がける。事業は国内のみで運営し、全国に8拠点。従業員は約200名(社員約120名、アルバイト約80名)。BPO事業を手がけるプレステージ・インターナショナルの子会社。

業績推移は
2019年3月期が売上高31億円、営業利益8億円
2020年3月期が売上高36億円、営業利益10億円
2021年3月期(予)が売上高42億円、営業利益が12億円
になる。今期予想売上高42億円の内訳は、家賃債務保証が19億円、医療費・介護費・養育費保証が4億円、ソリューション事業が19億円(コンサル&オペレーション・サービス18億円、保険デスクサービス0.8億円、Doc-onサービス0.4億円)になる。ほぼ全ての事業がストック型になる。

■強み
家賃債務保証事業を手がける会社は国内に数百あるが、ここではイントラストならではの強みについてみていく。

・利益率が高い
イントラストの取引先は大手不動産管理会社(大和ハウス、三井ホーム、住友不動産、スターツグループ、パナホームなど)が多い。これらの会社が扱う物件は家賃が高く、入居者が比較的、高所得なため、滞納リスクが低い。ゆえにイントラストの収益率が高くなる。また、現在増えている新規物件の大半はこれら大手不動産会社が供給しているものなので、それらの案件も効率よく取り込むことができる。営業利益率は他社平均(10%程度)より高い25%程度になる。

・ソリューション事業を手がける
大手の不動産管理会社は経営体力があるため、家賃債務保証は自社でやり、保証業務に付随する業務だけを外部委託したいというニーズがある。イントラストは顧客のニーズに合わせて柔軟に付随業務を請け負っている(コンサル&オペレーション・サービス)。他の保証会社でこのようなサービスを提供しているところはない。この事業は保証コストがかからないので、ここでも25%程度の営業利益率をあげることができる。

・家賃債務保証事業以外の保証事業を手がける
イントラストでは家賃債務保証で得た知見を基に、医療費用保証や介護費保証、養育費保証などへ事業を拡張している。他の保証会社でこのような事業を手がけているところはほとんどない。

■成長ストーリー
「保証サービスで未収金撲滅」が基本シナリオ。

日本では月間4000万件程度の未収金が発生しているが、これらの未収金を撲滅していくのがイントラストの基本戦略になる。

イントラストが回収していく順番は今のところ、家賃、医療費、介護費、養育費の順になる。

イントラストの現在の主力事業は家賃債務保証になるが、賃貸住宅における家賃債務保証の付帯率はすでに75%に達しており、伸びしろは少ない。今後は家賃債務保証で培ったノウハウを基に、新たな領域に事業を展開していくという流れになる。

足元で最も注力しているのが医療費用保証事業になる。医療機関では年間約1000億円の未収金が発生しており、それが病院の経営を圧迫している。しかし、医療機関には回収ノウハウがなく、それが経営課題となっている。

また18年4月期決算から大規模病院の外部監査が義務づけられ、未収金管理や債権回収管理のチェックがされるようになっている。加えて、20年4月からは民法改正により、連帯保証の要件が厳格化(個人が連帯保証する場合は交渉人による自発的な意思の確認が必要、保証の限度額明示の義務化など)され、入院時には個人が連帯保証をしにくくなっている。

イントラストが提供する医療費用保証を使えば、これらの問題を解決できるので、医療機関のこの商品への関心は高まっている。

イントラストが提供する医療費保証商品は2種類ある。1つは病院側が保証料を負担し、イントラストが未収金を病院に保証するというもの。これは大手損保会社(東京海上日動と損保ジャパン)と共同開発し、損保会社の販売網を使って販売する。イントラストは主に回収作業を行い、回収できない分は損保会社に保険をかけ、そこから未回収分を弁済してもらう。商品名は「スマホス(スマート・ホスピタルの略)」になる。

もう1つは患者が保証料を負担するもので、未収金が発生した場合はイントラストが患者に代わって代金を病院に弁済する。この商品は入院患者にパジャマや歯ブラシなどのレンタルセットを提供するリネン会社(エランなど2社)が、レンタルサービスとセットで提供する。現在は、地縁・血縁の希薄化や法改正の影響などで保証人をつけられない患者が増えており、一定の需要があるという。商品名は「医療費用保証付き入院セット」になる。

現在の契約病院数はスマホスが53(前期比+36)、医療費用保証付き入院セットが137(前期比+28)の計190になる。

イントラストは早期に市場の10%(契約金100億円、契約病院数1500)を押さえることを目標にしている。ちなみに、2種類ある商品のうちで、イントラストがより注力している商品はスマホスになる。

次に力を入れている事業は介護費用保証になるが、介護費用は基本的に親族が払うので未収金はほとんど発生しない。そのため、この商品に対するニーズはあまり強くない。保証を付けると入所時の費用を下げられたり、入所しやすくなったりといったメリットがあるくらいなので、この商品の成長はあまり期待できない。

最後が養育費保証になる。養育費を受け取れないひとり親世帯は、ひとり親世帯の約75%、全国に50万世帯以上あるので、保証サービスへのニーズは強い。イントラストは地方自治体と連携したり、オウンドメディア「SiN」を立ち上げたりして、養育費保証の認知・普及に力を注いでいる。2月からは損保ジャパンと「ひとり親家庭支援に関するサービス」の共同開発を始めている。イントラストの調べでは市場規模は250~300億円あるという。実際にサービスを利用した利用者へのアンケート調査では、70%が10点満点中10点という高い評価をつけているという。

保証サービスは未収金が発生する分野なら基本的にはどこでも展開できるので、今後も新たな分野を開拓していくという。未払い金のほとんどは「うっかり滞納」であり、一度督促すれば90%超の人が払うので、きちんとした回収ノウハウさえあれば新規分野への参入はそれほど難しくないという。

■問題点
・コロナの影響を受ける
家賃債務保証事業においては、イントラストの顧客属性は高く、国からの家賃補助政策(住居確保給付金)もあるので、コロナの影響はほぼ受けない。しかし、それ以外の事業ではそこそこの影響を受ける。

ソリューション事業では新規開拓がしにくいので成長が期初の想定よりも2%ほど伸び悩んでいる。

医療費用保証事業では、病院の患者数が激減しているので保証サービスへのニーズが弱くなっている。イントラストの最大の成長ドライバーは医療費保証品(「スマホス」)であり、これが伸び悩むと成長が期待できなくなる。コロナが長引いた場合は解約が相次ぎ、業績が下振れする恐れもある。ただ、2月8日のIR資料によると、病院との契約をつなぎ止めるため、医療機関に対して保証料の優遇措置をとっている。また、病院がスマホスを導入すると、入院時の前払い金が必要なくなるので、いったんこの仕組みが組み込まれた病院は簡単には解約しなさそうでもある。

・コロナが長引くと医療費用保証市場がレッドオーシャン化する可能性がある
イントラストはスタートダッシュで一気に顧客を囲い込む戦略だったが、コロナでその計画が頓挫してしまった。コロナが終息するころには競合であふれかえっている可能性もある。ただ医療費用保証はリスクの高そうなイメージがあるので参入は少なそうでもある。

・医療費用保証商品は未回収リスクがある
医療費保証は家賃債務保証と違い、支払いをする人の属性がわからない。入院する人の多くは高齢者で病人でもあるので、収入に限りがある人が多そう。また入院は「予定外」で「高額出費」になることもあるため、医療費を払えない人が通常のケースより増える可能性が高い。

また病み上がりでお金のない人に督促すると、それがストレスになり病気が再発する可能性もある。イントラストはコンプライアンス(法令遵守)を最重視した回収作業を行っているとはいうが、医療費においては普通の状況とはやや異なるので、ここで何らかのトラブルが発生する可能性もある。

ただ「スマホス」に関して言えば、リスク分析のプロである大手損保会社と共同開発してつくっているので、未回収リスクに関してはそれほど心配しなくてもよさそうではある。「医療費用保証付き入院セット」においては契約時の審査がそこそこ厳しいようなのでこれも大丈夫そうではある。加えて、社長は保証事業を営む上で最も重要なことは、「会社に弁済能力があること(財務状態がよいこと)」「悪いリスクをとらないこと(良いリスクを多く集めること)」と言っているので、その意味でも特に問題ないのかなと思う。

・養育費保証事業が軌道に乗るか不透明
養育費保証でも、養育費を支払う人の支払い能力を事前に審査しにくいので、回収がスムーズにいかない可能性がある。20年5月には国会で改正民事執行法が成立し、裁判所を通して支払い義務者の銀行口座や勤務先の情報が入手できるようにはなったが、手続きの手間(コスト)や心理的なハードルがあり、この制度の活用は進まない可能性もある。
*養育費の支払いは月平均3~5万円になる。

欧米の一部地域では養育費の不払いがあった場合は公費で補填した上で、行政機関や裁判所が強制的に支払い義務者から徴収する仕組みがあるが、日本でもゆくゆくはこういう仕組みになっていく可能性がある。もしそうなった場合は養育費保証の存在意義がなくなる。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★4/5
・参入障壁は高いか。★3.5。ノウハウが確立されている家賃債務保証の参入障壁は低いが、医療費保証などの新領域ではノウハウが確立されてないので参入は難しそう。
・ストック型ビジネスモデルか。★4.5。ほぼ全てがストック型になる。ただし、コロナの影響で「スマホス」は解約が相次ぐ可能性がある。
・時流に乗っているか。★4。連帯保証が個人から機関にシフトするというのは今後のトレンド。医療費の費用保証は社会に根付きそう。ただコロナの影響でしばらくは伸び悩みそう。

■チャート
上値は重そうだが下値も限定的になりそう。
<5年チャート>

■まとめ
医療費保証事業は長期では成長しそうだが、中期ではコロナの影響で伸び悩みそう。イントラストの成長は病院経営が落ち着いてからになりそうだが、そうなるのは2023年頃になりそう(2/21日経)。スマホスの販売が軌道に乗れば業績3倍(株価3倍)は目指せそうなので、今後も観察を続けていく。
*スマホスの保証料は病院のベッド数と前年の滞納額をベースに決めるが、コロナ下では見積もりを出しにくくなる。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル

■気になっている会社 (時価総額500億円以下の会社、上場年の古い順に記載)
・ラクオリア創薬
名古屋大系の低分子創薬を手がける会社。株式投資で資産30億を築いた大物個人投資家が社外取締役になったので(3/25日経)、今後の株価上昇が期待できる。ただ、この会社が主力とする低分子薬は競合が多く、副作用も出やすいので、素人が分析するのは難しそうでもある。以前この会社を少し調べたことはあるが、わかりやすい強みがなかったので見送った覚えがある。

・CRIミドルウェア
主にゲームソフト会社向けに映像・音声技術を提供する会社。ゲーム業界(国内)では3割程度のシェアがある。足元ではアパレル企業(ビームスなど)や家電企業など異分野にも販路を広げている。同社のソフトを使えばブラウザー上で手軽に製品紹介動画をつくれるので、今後普及が進みそう。ただ参入障壁が低そうなのが問題。

・ビジョナリーホールディングス。2019年12月にエムスリーが30億円出資して筆頭株主になった会社。エムスリーと共同出資で作る次世代型のメガネ屋「センスエイド」が成長の牽引役になりそう。投資するタイミングは2023年頃になりそうだと思っていたが、エムスリーがさっそく経営合理化に動いたようで利益率は高まりつつある。

・カオナビ。顔写真を使う人材マネジメントシステムを手がける会社。リクルート系で競合がいなさそうなのがいい。10年後の予想利益は現在の3倍くらいか。

・ビザスク。「スポットコンサル」というニッチトップのクラウドシーシング事業を手がける。万年割高株なのがネック。

■観察中の会社
・パークシャテクノロジー
基本シナリオ:最強のAIベンダーに
第1四半期決算は売上高が15%程度の伸びだったが、AIアルゴリズム事業の営業利益率は30%程度まで高まっていた。この分野は競合が多いので厳しそうだと思っていたが、この利益率を見るとかなり競争力が高いのかもしれない。

資産運用会社のスパークスと組んで新興AI企業(海外含む)に投資する事業が面白い。このような事業をすると投資収益を上げられる可能性があるだけでなく、その業界を深く知り、投資家目線を養うこともできるので、ゆくゆくはパークシャが有望な投資対象になる確率が高まる。

この会社の投資回収期は2023年頃からになりそうなので、それまではしばらく様子見。

マクロ系金融資産チェック

 市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:1.5%~3.0%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↑
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今年の経済成長率は去年からの反動に加え、ワクチン普及による景気回復や大型経済対策などにより+6.0~7.5%(3/7日経)、インフレ率は+2.0~3.0%に跳ね上がりそう。ただ、来期以降はそれらも落ち着きそうなので、金利上昇は一時的なものになりそうでもある。

・金融政策↑
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げているが、長期金利の方はほぼ放置状態なので、長期金利は上がりやすくなっている。またFRBは「市場が安定した」として3月19日に米大手銀が米国債を持ちやすくするSLR(補完的レバレッジ規制)を解除したので、それも長期金利の上昇圧力になっている。

長期金利の上昇を放置すると雇用創出や経済成長に悪影響が出るので、FRBは「必要になれば追加緩和に踏み切る」とは言っているが、追加緩和(長期債の購入)をすればインフレや資産高が高進し、長期金利にさらに上昇圧力がかかるので、現実的にはFRBは身動きをとれない可能性が高い。

それでも長期金利が中立金利の2.5%を超えてくると信用収縮を招いたり、財政出動をしにくくなったりするので、FRBは「口先介入」を活発化させる可能性が高い。FRBが「インフレは一時的なもの」と市場をうまく説得できればそれなりの効果はありそう。

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020会計年度はコロナの影響により330兆円まで拡大している(10/17日経)。そして今年はトリプルブルー(青色をシンボルカラーとする民主党が、大統領、上下両院で多数を占める)になり、民主党の大規模な財政政策が議会を通りやすくなっている。財政赤字は400兆円規模になる見込み。来年以降も巨額の財政赤字が続く見込み。米国債の供給過剰や通貨の信認低下により、長期金利には強い上昇圧力がかかる。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
ワクチン投与が始まり、政府と中銀が大規模な経済対策をしているので全体的にリスクオン気味。

・利回り上昇による米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高くなっており、一方で、ゼロ金利政策による米短期金利の低下でドルの為替ヘッジコストが大幅に下がっているので、米国債は海外勢から買われ始めている。日欧の年金基金や生保など運用難に陥っているところは多く、米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生すると言われている。
*ただし、米長期金利の上昇局面では、債権投資家のロスカットにより、オーバーシュートする可能性もある。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くないので金利が上がりにくい。少子高齢化の影響で住宅ローンなどの借り入れなどが減っているのも金利低下圧力になる。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率は長期的に低下している。

・チャート→
<10年チャート>
長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそうだが、勢いがあるので一時的にその線を超えることもありそう。

・投資戦略
長期金利が3%に達するようなことがあれば米国債を買う。


■WTI原油 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:45ドル~70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要予測はIMFの世界経済成長率予想などを基につくられるが、成長率は2021年は+5.5%に持ち直す見込みなので、原油需要は高まりつつある。国際エネルギー機関(IEA)は21年の世界の原油需要を前年比6%増と予測している。

ただコロナ禍では職場や学校のリモート化が進んでおり、これは不可逆的なところもあるので、コロナが収束しても石油需要(移動需要)は元の水準に戻らない可能性が高い。

また地球温暖化への懸念から、環境リスクの高い石油は今後敬遠される可能性も高い。英BPは新興国、途上国の成長などを考慮した「標準シナリオ」では2030年頃まで石油需要は増加を続けるとしているが、コロナや温暖化対策を考慮した「急速シナリオ」では「すでにピークを打った可能性がある」としている。9/15日経

・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。参照参照

・供給↑
OPECプラスは協調減産を継続しているので供給は締まりつつある。ただ産油国の財政は原油収入に依存しているので、現在の減産が精一杯になりそう。また今以上に原油価格が上昇すると石油消費国の石油離れを加速させるので、これ以上原油価格を押し上げる目的での減産もなさそう。

現在の油田開発は脱化石燃料への投資家圧力などにより停滞しているので、長期では供給不足に陥る可能性もある。

・リスクオン、オフ↑
全体的にリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環として原油にも資金が流れ込んできている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和するようなので、今後原油供給は増えそう。

・米政府の介入→
米石油産業は1000万人の雇用を生む巨大産業だが、バイデン新大統領は連邦政府所有地での新規採掘・フラッキングの禁止、米国沖合の新たな油ガス田開発禁止、化石燃料に対する補助金廃止、燃費基準の再強化などの公約を掲げているので、原油価格が暴落しても市場に介入しない可能性が高い。

・チャート
40~70ドルのボックス圏で推移しそう。


■ドル円 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:100円~115円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では最大限の緩和をしている。

FRBの総資産は2019年末には400兆円程度だったが、それが21年末には955兆円に増える見込み。一方、日銀の総資産は2019年末の610兆円程度から、21年末には780兆円と小幅な伸びに留まる見込み(3/20日経)。総資産の対GDP比の拡大幅は米国の方が大きいので、その分、米ドルの減価率の方が高くなる。

・日米の長期金利差↑
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差が拡大傾向にある。米長期金利の上昇は今後も続く見込みで、米ドルへの上昇圧力は増していきそう。足元ではキャリー取引も増えているもよう。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ円以外のドルやユーロも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
日本と米国はともに巨額の財政赤字を積み上げているが、米ドルは基軸通貨なので、今後、より思い切った財政政策をとることができる。IMFの試算では、今年の米国の財政出動は名目GDPの28%程度、日本は15.6%程度になる見込み。3/12日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われるが、デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。またワクチン接種でも米国の方が進んでいるので、全体的に米経済の方が勢いがある。

・リスクオン、オフ↑
リスクオン気味。

・ドル需給↓
コロナショックにより、一時期ドル需要が急激に高まったが、FRBがドルを大量供給して、現在では落ち着いている。過去のパターンでは需給が一巡した後は円高になっている。参照

現在、世の中に出回るドルの量は歴史的な水準まで膨れ上がっており、その最中に米国は巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。今後どこかでドル安に反転する可能性が高い。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。2020年の買越額は20兆円になる。2/5日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は2019年1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている。ただ現在はFRBのゼロ金利政策で日米金利差が縮小し、海外投資家が円を買う際に受け取れる上乗せ金利(ベーシススワップ)が減少しているので、日本国債への投資は減っている。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は増えている。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、コロナ禍では対外直接投資が例年の半分以下まで減少している。7/4日経
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・米経常赤字(貿易赤字)の拡大→
米国では財政赤字が大きくなっているが、民間部門の貯蓄が増えているので、経常収支の赤字額はあまり膨らんでない。8/14日経

・日本の経常収支→
まずは貿易収支について。
輸入額の4分の1を占める石油・天然ガスの価格が上昇しており、生産の現地化や電子機器(スマホなど)・医薬品の輸入が増加しているので、貿易黒字は減少しつつある。2019年の貿易黒字は5000億円、2020年は6700億円になる。今年は赤字に転落する可能性がある。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いは半分(10兆円)程度しか発生しない。
*ただし景気後退期に入ると企業は手元資金を確保するため再投資を減らし本国に送金するので円高圧力が若干増す。過去の例ではだいたい3~4兆円の送金需要が発生している。5/12ロイター
*2020年の経常収支は17兆7千億円(前年比14%減)になる。2/9日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価が21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下落すると債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ、現状ではそこまで下がる可能性は低い。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただこれと同じことは米国にも言える。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。イランやロシア、トルコ、中国などにも金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
約1年ぶりに売り持ちに転換。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

・チャート
長期チャートでは今が天井に見えるが、勢いがあるので一時的に紫線を突き抜けそうでもある。
<10年チャート>

・投資戦略
米長期金利が3%に達することがあればドルを売る。


■日経平均 (保有資産:日経レバ)
今後1年の予想レンジ:27000~35000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策↑
中銀の総資産と世界の株価はほぼ連動しているが(2/16日経)、日本株もその例にもれない。中銀の総資産の増加は今後もしばらく続く見通し。

・利回り↑
日本株式の益回りは約3.98%、配当利回りは約1.71%と、日本長期国債の利回り0.11%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
下がったときは日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。日銀は年間で最大12兆円買うと言っている。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2020年の主な投資主体の予想売買動向と現状>
 日本銀行(予)金融政策により0~12兆円の買い越し。現状は7000億円の買い越し。
 事業法人(予)自社株買いにより1~2兆円の買い越し。現状は2000億円の売り越し。
 海外投資家(予)景気回復・経済対策期待で2~4兆円の買い越し。現状は1兆5千億円の買い越し。
 個人投資家(予)相続に伴う換金売りと個人投資家の流入で0~1兆円の買い越し。現状は5000億円の売り越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2021年の予想EPSは+20~30%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で6割を稼ぐので為替相場の影響は大きい。ただ今後の為替は狭いレンジ内で動きそうなので大きな影響はなさそう。

・海外景気↑
日本企業は海外で6割を稼いでいるので海外景気の影響を大きく受ける。2021年は世界景気が回復しそうなので企業業績も上向きそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率はコロナの影響で上昇傾向にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫されやすくなる。足元での減価償却費はほぼ横ばい。一方で、資源価格は上昇しており、これは利益を圧迫する。

・金融政策↑
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、現在は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは22.61。金融緩和や今期の業績を考慮するとこのくらいが妥当なのかもしれない。

投機筋の持ち高
買い残は1兆4400億円で、裁定売り残高は1兆1100億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。12/30日経

・チャート↑
足元ではやや過熱感があるが、青天モードに入っているので上値は軽そう。
<10年チャート>

・投資戦略
大きく下げたら買う。

市場環境チェック

 株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■EPS成長率
・世界株式の2020年のEPS増減率は-30~-10%、2021年は35%。
・米国株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は35%。
・欧州株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は35%。
・日本株式の2020年のEPS増減率は-8%、2021年は35%。
*参照:3/12日経など
*今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化で設備投資や人件費が減少しているので、企業の利益は増えやすくなっている。

■経済成長率
・世界の2020年の成長率は-3.5%、2021年は5.5%。
・米国の2020年の成長率は-3.4%、2021年は5.1%。
・中国の2020年の成長率は2.3%、2021年は8.1%。
・ユーロ圏の2020年の成長率は-7.2%、2021年は4.2%。
・日本の2020年の成長率は-5.1%、2021年は3.1%。
*数値はIMF予想。1/27日経
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標の一つであるGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されているサービスの大半は公共財に近い性質があるため、金銭的な数値には反映されにくい。
*経済の持続的な成長には健全なリスクテイクが必要になるが、今回のコロナのようなテールリスク(確率は低いが起きれば影響が大きいリスク)が実際に起きてしまうと、人々は恐怖を植え付けられ、リスクを取らなくなってしまう。またオフィスやホテルなどの資本ストックにも傷跡を残す。今後の経済成長は長期停滞する可能性がある。1/5日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2020年が1.3%、2021年は1.5~3.0%。
・欧州の予想インフレ率は2020年が0.3%、2021年は1.0%。
・日本の予想インフレ率は2020年が0.2%、2021年は0.5%。
*参照:米PCEユーロHICP日本CPI
米10年物価連動債利回りから算出される現在の米国の予想物価上昇率は2.3%になる。
*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手側は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。『FREE』の著者クリス・アンダーソンは「モノ中心の経済はインフレ志向になるが、情報中心の経済はデフレ志向になる」と言っている。*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起こると価格がゼロに近づく。
*コロナ禍ではデジタルサービスの普及が加速しているので、インフレが起こりにくい土壌ができつつある。
*経済のデジタルシフトは「人」の代替ともいえるものなので、人の賃金が上がりにくくなっている。所得の増えない経済では支出が増えず、インフレが起こりにくくなる。*米国の2020年の生産性は業務自動化により2.6%成長しているが、雇用は3%超減少している。2/23日経
*インフレとは需要が供給を上回るときに起こるが、需要はコロナ以前から全体的に停滞気味。一方で供給基盤は安定しているので、需要が供給を上回りにくくなっている。コロナの影響で需要と供給力の差である需給ギャップは2025年まで年平均で4.5%悪化するとも言われている(8/20日経)。ただ米国においては足元でGDPギャップが急速に改善しており、インフレリスクが高まっている 2/27日経
*コロナの影響で企業倒産が相次いだ場合は、コロナ収束後に供給が追いつかず、インフレが発生する可能性がある。

*原油など商品価格の停滞もインフレ停滞の要因になる。かつての景気拡大局面では商品価格も大きく上昇していたが、2020年までの景気拡大局面では成長率が穏やかなため商品価格が上がりにくくなっている。経済のサービス化に伴い財への需要が弱くなっている面もある。加えて、環境保護や省資源化が求められていることもあり、今後も商品価格の停滞が続く可能性は高い。
*足元ではインフレ対策で商品価格が上昇している。商品は最良のインフレヘッジ手段になる。

*中央銀行の最大の責務は「物価の安定」になる。中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行う。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性が高い。ただ、デジタル経済や商品価格の停滞、少子高齢化、グローバリゼーションなどで構造的にインフレが起こりにくくなっているので、中銀のインフレ目標には無理があるようにも見える。
*FRBはインフレ政策を強化しているが、その副作用で金融バブルが醸成されつつある。今後、金融バブルが崩壊した場合は金融システムや経済に大きなダメージを与える。そして、それがインフレ低下につながる恐れもある。中銀がインフレ目標にこだわりすぎることで、逆にそれが目標達成を遠ざけてしまう可能性もある。
*コロナ対策で世界中の中銀が通貨を大量に供給しているが、これは通貨価値の下落を引き起こすのでインフレ圧力になる。
*社会がデジタル化するとあらゆる動きがデータで把握できるようになり、データに基づいた的確な政策を実施できるようになる。2025~2030年あたりにインフレに代わる新たな指標が生まれる可能性がある。

■金利
・米国の2年金利は0.16%で10年金利は1.67%。30年金利は2.33%。
・日本の2年金利は-0.12%で10年金利は0.11%。
*実質金利(名目金利-インフレ率)は資金の行方を決める最大の材料と言われる。現在G20の約半分の国で実質金利がマイナスになっている。実質金利がマイナスの状態では、国債や預金よりもモノの物価上昇率の方が速いので、商品や株式が買われやすくなる。
*投資家は企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー(現金収支)を割り引いて企業価値を算出する。金利が上昇すると割引率が高まり、成長期待が高い企業の理論価値を押し下げる。反面、成長期待が高くない割安株への影響は小さく、成長株と比べて買われやすくなる。
*長期投資家は長期金利が0.5%近辺の状態では、金利が2%以上の状況に比べ、2.5倍高いバリュエーション(投資尺度)でも株式を選好すると言われている。8/8日経
*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.5%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*景気拡大期の「良い金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では株式市場への影響は長期金利よりも政策金利の影響の方が大きくなっている。1/16ヴェリタス
*低金利が続く状況では企業の資金調達が容易になるので株式上場は減っていく。またM&AやLBOが増えるので上場企業数も減っていく。9/18ロイター

■債務
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる(2019年)。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向(2019年)。
 *GDPは債務返済能力の代理変数になる。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
・コロナにより政府債務は急膨張している。IMFは「21年の先進国の政府債務はGDP比125%と過去最大になる。新興国の政府債務も21年にはGDP比で65%と過去最大になる。国別では日本が突出し、19年の238%から21年には264%になる」と言っている。参照参照
*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる(2019/7/19ダイヤモンド)。債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回った状態が続くと、どこかで必ず逆回転が起こる。
*米企業はコロナによる経済低迷で借り入れを増やしており、2020年7月には負債総額が過去最高のGDP比83%まで上昇している。一方、企業の債務返済能力は歴史的水準まで低下しており、格付けを下げられる企業が急増している。格付けがジャンク債まで低下するとFRBの支援措置を受けられなくなり、破綻する可能性が高まる。参照参照
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく(貯蓄余剰になると、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので金利が上がりにくくなる)、高債務の状態が維持されやすい。
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*債務の質は劣化しており、2019年には米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場はない。
*2020年、20221年は低格付け債(ジャンク債)の発行が過去最高ペースになっている。2/21日経
*信用格付けの低い企業は米シェール企業などエネルギー企業に多いが、原油安によりそれらの企業の信用リスク(デフォルトリスク)が高まっている。米ムーディーズはWTI価格が40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内にデフォルトすると予想している。6/30日経
*格付け会社のムーディーズやフィッチは「米国のジャンク債市場のデフォルト率は1990年、2000年、2009年の景気後退時はいずれも10%前後であったが、今回はその水準を上回る可能性もある」と言っている。6/4ヴェリタス
 *米企業のデフォルトは2021年春~年央にかけてピークを迎える可能性が高い、とも言われている。7/4ヴェリタス
*米企業は過剰な自社株買いなどで財務体質が脆弱になっていたところにコロナが直撃したので、さらに財務が脆弱になっている。
*大型のデフォルトが複数起こり、信用収縮が起きた場合は、設備投資の縮小や資産価値の下落が起こる。
*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。政府債務においては、今のように国債金利がGDP成長率を下回っている状態では、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。参照
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている。参照
 *政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中で財政支出を減らすと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。
 *財政赤字が拡大すると公共サービスなどの政府機能が落ちていく。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は2016年に政府出資の資産管理会社(AMC)を設立し、不良債権の最終処理を進めている。*AMCとは銀行の不良債権を分離して買い取り、それを海外の投資銀行や資産運用会社などに売却する会社。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性がある(参照)。
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費(政府債務)が膨らんでいく可能性が高い。参照
*新興国や資源国の債務も膨張し始めている。このまま景気停滞が続いた場合はデフォルトリスクが高まる(参照)。足元で進んでいるドル高はドル建て債務の返済負担を重くするので、それもまたデフォルトリスクを高める要因になる。

■金融政策、財政政策
・コロナショックで先進国の中銀は金融緩和をしている。一方でブラジルやロシアなどの新興国は経済が疲弊しているにもかかわらず、インフレ対策として金融引き締めに動いている。
・日米欧は金融緩和が限界に達しつつある。スウェーデン中銀はマイナス金利だと家計債務の膨張が止まらないなどの理由で2020年1月に政策金利を0%に引き上げている。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止、資産価格の上昇になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率が落ちていく。そして潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作っている。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*主要中銀の量的緩和(資産購入)は2019年は40兆円ほどだったが、2020年はコロナショックにより1000兆円まで拡大している(12/31日経)。大規模な資産購入は2021年も続く見込み。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。2019/10/7の日経には財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できるとある。このような投資に該当するものには出生率向上策や気候変動への取り組みなどがあるという。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレなどで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで利上げをしたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上がる、という悪循環に陥ってしまう。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ない。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかない。
*今回のコロナを機に先進国はMMTのような政策に移行したように見える。
*現在行っているMMTのような政策はインフレが生じる前にコロナを制圧できるかが重要なポイントになる。それができない場合は深刻な景気後退が避けられなくなる。
*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援策をすることが重要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになる。しかし、もしこれをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。参照

■政治
・日本の政治は比較的安定。ただワクチン接種の進捗が遅く、集団免疫ができるのは22年後半~23年頃になりそう。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・中国では独裁体制や監視体制が強化されつつあるが、この調子でいくと小説『1984』の世界が現実のものとなるかもしれない。
・英国はEUから「合意ありの離脱」をしたが、EUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のEU離脱時のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっている。ただ失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
・EUの対コロナの財政政策では、北欧の財政健全国と南欧の重債務国が対立している。財務状態の異なる国々が単一の財政政策をすることにもともと無理があるので、今回のコロナを機にEU解体機運が高まる可能性がある。
*コロナ危機は、コロナ前からくすぶってきた格差問題をさらに悪化させる可能性が高い。今回のコロナショックは中小企業や非正規労働者などの「経済弱者」を直撃しているが、一方で、大規模な金融緩和による資産価格の上昇で株式や不動産を保有する「経済強者」は富を一段と拡大させている。
*格差問題が深刻化すると、国民の不満がつもったり、政治の分断が起こったりして、社会が不安定化する。
*富裕層の支出性向は低く、富が循環しないため、格差が拡大すると経済の潜在成長率が押し下げられる。加えて、オートメーション化でで中間層が消失すると、金融緩和、財政拡張、イノベーションが続いても、経済は上向かず物価も上がらなくなる。
*現在、政府や家計の債務は富裕層の貯蓄で手当されている。その債務は膨らみ続けており、それに伴い富裕層の貯蓄も膨らみ続けている。格差の拡大はこのような経路でも起きている。この流れを止める唯一の方法は、政府が富裕層から巨額の税金を徴収して、それを一般市民に再分配することになる。10/14日経

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はコロナにより一時大きく落ち込んだが、足下では急回復している。
・世界景気の先行指標である世界新車販売台数は2018年、2019年と2年連続で減少していたが、足元ではやや回復しているもよう。*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数もコロナにより一時大きく落ち込んだが、その後、急回復している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数もしかり。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えると言われる)。
米国の失業率はコロナショックで4月に戦後最悪レベルの14.7%まで上昇していたが、足下では6.2%まで改善している。ただこの失業率には「理由不明の休職者」は含まれていない。実際の失業率は10%前後に達するとも言われている。3/4ダイヤモンド
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われる。
*失業率が最低水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。4/25日経
・米景気の先行指標になるダウ輸送株ラッセル2000は新高値を付けている。
・機関投資家の懐具合を示す現金比率は、2月に3.8%を過去最低水準まで低くなっている。今後は金融資産を買いたくても買えないので、資産価格は上がりにくくなる。2/17日経
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、2018年、2019年はまさにその状態だった。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は高値圏で推移している。ただこれはEVブームとインフレ対策、コロナによる産出地の供給減の影響が大きい。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは一時大きく落ち込んだが、現在は節目の50を超えて安定的に推移している。*PMIは生産や受注が前月と比べて増えたかどうかを調べるものなので、節目の50を超えたからといって必ずしも経済が全面的に回復したということを意味しない。
・マクロ経済の不透明感を表す経済政策不確実性指数は一時急上昇していたが、現在では落ち着いている。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りはコロナショックで一時大きく下落したが、FRBが低格付け債を買い入れることを決めてから持ち直している。*シェールガス企業などの投資不適格債(ジャンク債)はFRBの購入対象外になる。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果がある言われる。参照
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。

■その他指標
・日米の騰落レシオは120、116とやや過熱気味。
・日本株の信用評価損益率は-7.41%と”天井”に近づきつつある。

・チャート
ナスダック指数やマザーズ指数は米長期金利と逆相関しがちだが、足元では両指数ともデッドクロスを回避できそうなので、この関係も崩れそう。
<米10年長期金利 1年チャート>

<ナスダック 1年チャート>

<マザーズ 1年チャート>

長期計画チェック

  「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
今年はコロナワクチンの普及により徐々に景気が回復していきそう。ただ今回のコロナ禍では債務がさらに膨れ上がっているので、今後の景気回復は穏やかなものになりそう。2019年のEPSを回復するのは2024年頃になるかもしれない。

ワクチン以外に景気回復を促す要因がいくつかあるので、それらを一通り書いておく。
・イノベーションは経済成長の最も基本的な原動力になるが、今は世界中でイノベーション(デジタル革命など)が起きている。*経済成長の原動力は他に「労働力の増加」と「実物資本(耐久生産財)の増加」がある。
・ネット社会では情報を集めやすく、人が繋がりやすいので、イノベーション(新結合)が起こりやすい。現在はそこに膨大なデータとAIが加わりイノベーション速度は加速している。*AIは一見無関係に見えるものの関連性(新結合)を見つけるのが得意。
・バブルは借金をして資産を買いまくることにより生じるが、今回そのような現象はあまりみられない。現在起きている「金融バブル」は中銀が民間銀行から資金を借り入れて通貨を供給し、その通貨で国債などの資産を買い入れることにより生じているので破裂しにくい。(日米欧の中銀の総資産は2100兆円を突破し、リーマンショック前の4倍以上に膨らんでいる。11/13日経)。中銀が資金を引き揚げればバブルは崩壊するが、中銀はインフレ政策にこだわっているので、資金を引き揚げる可能性は低い。
 *ただ足元では従来型のバブルも醸成されつつある。2020年12月時点での機関投資家や個人の信用取引口座の借入残高は過去最高の80兆円まで積み上がっている。1/28日経
・社債市場はバブル気味だが、今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では金利が上がりにくく、バブル(高債務)の状態が維持されやすい。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機が起こりにくい。コロナの影響でデフォルト連鎖が起きても金融機関は7%超の自己資本比率を維持できる見通し。参照
・中国の不動産市場にはバブルの兆しがあるが、中国政府の需要抑制策により日本のバブル期ほどの過熱感はない。ただし、シャドーバンキング商品(銀行理財商品、委託融資、信託商品)への投資は過熱感が強く、2017年末の残高は1000兆円とGDP比8割の規模まで膨らんでいる。
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国有企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。
・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。

景気後退シナリオもいくつかあるのでそれらも一通り書いておく。
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景気後退シナリオ1:災害や紛争で景気後退
日本ではいずれ必ず南海トラフ地震が起こるといわれており、中東では紛争などの地政学リスクが高まっている。こうした問題が実際に起こると景気には強い下押し圧力がかかり、過去の例では株価が15~35%下落している(参照)。しかし、このような状況になると必ず政府や中銀が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば経済はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスと言われている。

しかし、今回のコロナのように問題が大きく、長引きそうな場合は、そのまま景気後退に突入することもある。ただ、そこでも政府や中銀の大型の経済対策により、株式市場は上昇しやすくなる。今回のようなパンデミックは歴史的に見ると株式市場には追い風で、金融緩和や社会構造、経済構造の転換などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。12/15ロイター

日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生し財政破綻する可能性がある(参照)。
*政府は首都直下、南海トラフいずれについても30年以内に起きる確率を70%としている。1/22日経
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景気後退シナリオ2:インフレが過熱し景気後退
景気循環の従来のパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→景気拡大→インフレ過熱→金融引き締め(金利上昇)→債務圧縮→景気後退になるが、今回はインフレが過熱していないので、景気後退モードに入りにくい。足元ではインフレが進み始めたが、構造的にインフレは起こりにくくなっているので、一時的な上昇で終わりそう。
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景気後退シナリオ3:中国の債務バブル崩壊で景気後退
中国の企業債務は積み上がっているが、その7割以上は実物投資ではなく、リスクの高い金融資産(シャドーバンキング商品)への投資に回っている。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起きれば急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。景気後退に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムとも言われているので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性もある。これらの政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。

ただ、中国企業の債務は実質的には中国政府の債務なので、債務バブルが破裂する可能性は低い。
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景気後退シナリオ4:マイナス金利により金融機関が破綻し景気後退
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。しかし、現時点では中銀が民間金融機関に配慮しながら金融政策を行っているので、穏やかな統廃合で済みそう。
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景気後退シナリオ5:中銀のインフレ政策が限界に達して景気後退
先進国の中銀はこれまで金融緩和で市場を支えてきたが、その金融緩和が限界に達しつつある。今後市場は支えを失い、大崩れする可能性がある。ただ、中銀の通貨供給能力は健在なので、今後は財政ファイナンスで市場を支えていけそうでもある。
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株価下落シナリオ1:米国での増税により株価下落
米国では新政権誕生により企業や富裕層への増税機運が高まっている。法人税の引き上げが実施されれば企業利益を押し下げ、キャピタルゲイン税が40%に引き上げられれば、増税前の利益確定売りは避けられない。ただ、法人増税はおそらくコロナ後であり、キャピタルゲイン税引き上げ前の売りは、その後に再投資されそうなので、当面は特に問題なさそう。

■今後の計画
円が90円台まで上昇したら、株価3倍以上を狙える海外株などを買っていく。ただ馴染みのある海外企業はすべて巨大なので株価の大幅上昇は見込みにくい。無理して買わないようにする。

よさそうな米国株は、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、フェイスブック、ツイッター、セールスフォース、ドキュサイン、ファイバーインターナショナル。

よさそうな新興国株は、インド株のETF、東京海上インドオーナーズ株式オープン。インドは2050年頃までは成長しそう。ただ、インフレ率が高いので株価が上昇しても為替差損で思ったほど利益にならないのかもしれない。

よさそうな商品は銅。EVなどで需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう。

日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフランやスイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。 

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した債権を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値が下落していき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなるとインフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は大暴落する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。

スマホ依存と株式投資の共通点

 スマホ依存について書かれた『スマホ脳』(アンディシュ・ハンセン)を読んだ。株式投資と通じる点があったので少し考えてみた。まずはスマホ依存になる仕組みから。

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人類の文明が今ほど進化する前、狩猟採集社会では人は飢えに苦しむ中、少しでも多くの食料を獲得し、長く生きようとした。生存のため、周囲の状況を把握し新しい情報を求める過程で、脳はドーパミンを放出し、情報収集に専念するよう促した。新しい情報があるSNSやネットニュースを見るのも、この脳の働きが関与している。

脳は新しい情報を得るときにドーパミンを放出するが、最もそれを放出するのは「何か新しい情報があるかも」という期待があるときになる。そのためチャット着信のような不確かな結果に人は強く引きつけられる。SNSの投稿につく「いいね」にも脳は大量のドーパミンを放出し、人はデジタルが与える“ご褒美”に次々と飛びついていく。そしていったん依存症になるとそこからなかなか抜け出せなくなってしまう。覚醒剤などの薬物依存をやめられないのも、このドーパミンが関与している。

フェイスブックなどのSNS企業は脳が不確かな情報を偏愛していることや、どのくらいの刺激、頻度が適切なのかを熟知しており、脳科学や行動科学の専門家を雇って、最大限の依存性を発揮するようなソフトウェアの開発に力を注いでいる。フェイスブック初代CEOのショーン・パーカーは「人間の心の脆弱性を利用した」と語り、元副社長のチャマス・パリハビティヤは「私たちが作り出したのは、短絡的なドーパミンを原動力にした、永遠に続くフィードバックのループだ」と語っている。

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株式投資との共通点は、情報収集の重要性と「何かが起こるかも」という期待感になる。株式投資をしていると情報感度が高まり、常に情報を求めた状態になる。そして、株式市場が開いているときは、株価は常に変動している、つまり、常に「何かが起きている」状態なので、一度株価が気になりだすと何度もチェックしてしまうことが多い。

これまでこの行為は無駄だとはわかってはいたが、なかなかやめられずにいた。しかし、脳の仕組みとスマホ依存の弊害(下記記載)を理解すると自然にやめることができた。現在、株式の売買は市場が開く前の成行注文のみにしているが、そうするようになってから、企業の成長シナリオやマクロ分析に集中できるようになった。今のところ特に問題を感じてないので今後もこれは続けていこうと思う。

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<スマホ依存の弊害(一部)>

人がマルチタスクをしていると、脳はドーパミンを与えて気持ちよくしてくれる。このような仕組みは、先祖があらゆる刺激に迅速に対応できるようにするために作られた。生き残るためにドーパミンを与えて簡単に気が散るようにしたのだ。

しかし、マルチタスクをしていると長期記憶の形成に問題が生じる。長期記憶には対象に集中して「これは大事なことだ」と脳に認識させることが必要になるが、対象に集中しているときにSNSなどをチェックして他の情報が入り込むと、記憶の固定化が妨げられてしまう。また人は複数の作業を同時にこなしていると思っていても、実際は1度に1つのことしか集中できない。集中の対象を変えるときに脳は切り替え時間を要するが、ほんの数秒メールをしただけでも再び元の作業に100%戻るには数分かかるので、それもまた長期記憶の妨げになる。切り替え速度の速い”スーパーマルチタスカー”も人口の1~2%存在するが、それはあくまでも例外的な話だ。

記憶の固定化には睡眠も重要なるが、スマホを夜に使用するとブルーライトや情報過多の影響で脳が覚醒(興奮)し睡眠の質が低下することもわかっている。スウェーデンでは眠れなくて受診する若者の数が2000年頃と比べて8倍まで増加しているという。

スマホ依存には人生の満足度を下げる作用があることもわかっている。心の平安など、気分に関わる神経伝達物質セロトニンは、ヒエラルキー(社会階層)の高い方が分泌が増えることがわかっている。人は昔から競い合ってきたが、昔のライバルはせいぜい20~30人程度で、トップに立つのはそれほど難しくはなかった。しかし、現在はネットでライバルが数百万人いることを認識できてしまう。そうなると自分より賢かったり、かっこよかったり、リッチな人が必ずいる(少なくとも見かけ上は)。その結果、自分のヒエラルキーが低く感じられ、セロトニンの分泌量が減り、人生の満足度が低下する。実際、SNSに費やした時間が長い人ほどストレスの問題を抱えている率が高く、うつ症状のあるケースが多いことがわかっている。

他にも、スマホをよく使う人はすぐに手に入る”ご褒美”に慣れているため衝動的(短期思考)になりやすい、などの問題もある。

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もともとスマホはあまり使う方ではなかったが、このような問題を知ってからさらに使用頻度が減った。今のところスマホの使用を減らしたことが体調や記憶にどの程度影響したのかはよくわからないが、時間に余裕ができたことだけは確か。今後もスマホとは一定の距離を保っていこうと思う。