2022年1月1日土曜日

売買チェック 10月~12月

■10月
・ステムリム 全売却(笑) 損益-13%
再生誘導医薬レダセムチドには大きな問題が2つあると思ったから。
レダセムチド(HMGB1断片ペプチド)は骨髄にある幹細胞を患部に誘導して組織を再生する仕組みだが、骨髄中の幹細胞は加齢に伴い減少していく。そのため高齢者では薬があまり効かない可能性がある。当初、ステムリムはこの点を考慮して非臨床試験を行っていると思っていたが、IRに確認してみると、今回の治験で初めて高齢者に効くかどうかがわかるとのことだったので、これは危ないなと思った。

この治験をクリアしてももう一つ問題がある。それはレダセムチドがガン細胞を誘導(転移)させる可能性があること(参照1参照2参照3)。現在、日本人の3人に1人がガンで亡くなっており、ガン細胞は加齢に伴い増加しやすくなるので、高齢者には使いにくい可能性がある。レダセムチドの主な対象疾患は、先天性疾患の表皮水疱症を除き、脳梗塞や肝硬変など高齢者に多いものなので、厳しそうだと思った。

ステムリムを長いこと観察してきたが、1つ目の問題に気づくのに1年3ヶ月、2つ目の問題に気づくのに1年5ヶ月かかった。しかもそれらに気づいたきっかけは”あの”掲示板になる笑。掲示板に頼る投資法には無理があると思った。創薬ベンチャーへの投資は表面的な情報を集めているだけではダメで、医学や薬学の基礎知識がないとまともな判断ができないとわかった。創薬ベンチャーへの投資はこれで終わりにしようと思う。

*補足。12月の始めにステムリムの掲示板で「ガン化」の話題が出ていたので、上記の「ガン誘導」についての書き込みをしてみた。すると参照2に添付されている論文にはレダセムチド(HMGB1断片ペプチド)がガンを誘導するといった記載はないという指摘を受けた。当初、HMGB1タンパクの細胞誘導因子はレダセムチドしかないと思っていたが、以前ブログで書いたステムリムレポートを見返すと「HMGB1タンパクは、Abox、Bbox、tailの3つの部分で構成されており、Abox(レダセムチド)は幹細胞を誘導する部分、Bboxは炎症反応を誘導する部分」みたいなことが書いてある。ガンについて調べてみると「ガンは炎症が大好き」(参照)といった情報もあるので、ガン細胞を誘導するのはBboxっぽいことがわかった。

・アイ・パートーナーズフィナンシャル 新規買い
有望なビジネスモデルなのに全く評価されていないと思ったから。*詳細は後述

■11月
・アイ・パートナーズフィナンシャル 8割売却 損益+3%
第2四半期決算が予想より下振れたから。想定に誤りがあると思った。

・ジモティー 10%売却 損益+125%
決算が悪そうだったから。失望売りが避けられないと思った。

・ジモティー 少し買い増し
サプライズ決算だったのに、その日の夜間PTSで10%超下げていたから。

分売発表後に高値から20%超下げていたから。

■12月
・ジモティー 11月に売った分を全て買い戻し
12/3の日経に「マザーズ市場の信用評価損益率は1日時点でマイナス26.3%」とあり、底が近いと思った。

*しかしその後マザーズ市場はさらに下げ、信用評価損益率は15日に-30%になった(12/16日経)。ここまで下げたのは年末の「損出し」や金融政策の転換、IPO投資の資金確保のための換金売りが影響していたもよう。ただ、ジモティーに関してはほぼ底値で買えていた。

・ステムリム 新規買い
レダセムチドはガン細胞を誘導しなさそうだとわかったから。
ステムリムのサイトを久々に見たら、11月に阪大と共同で「再生誘導医学研究所」を設立しており、再生誘導医薬は大丈夫そうだと思ったから。
ただ、ギャンブル性が高いので買ったのは少しだけ。

・アイパートナーズフィナンシャル 買い増し
割安感があったから。年末に売り込まれていて時価総額が30億円を割っていたから。

持ち株チェック

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
上方修正が出た。今期予想売上高は前年比23.6%増の17億円、営業利益は前期比19.7%増の3.69億円とのこと。この勢いを維持してくれればと思う。

世田谷区とジモティーが共同運営する「ジモティースポット」は順調なようで各種メディアが取り上げ始めた。全国にこのようなスポットが広がることを期待したい。

中小型株に強いいちよし経済研究所がジモティーのカバレッジを始めた。投資判断は「最上位」で目標株価は6000円とのこと(10/8日経)。担当アナリストの納博司氏はアナリスト歴30年超(ネット分野は約20年)のベテランで、主席研究員ということなので信頼性は高そう。

12/9の日経に、日本の単身世帯は35%に達し、今後も増えていく、とあった。単身世帯が増加すれば地域内でのマッチング需要も増えそうだと思った。

コロナが収束に向かいつつある。巣ごもり解消後にアクセス数をどこまで伸ばしていけるかが重要になる。ジモティーは決算資料に「あと5~10倍のアクセス数拡大余地がある」と記載しているので期待したい。

決算資料で気になったのは、社員がまた減っていたこと。48名から47名になっている。利益率は高まりそうだが、課題山積みの成長企業でこれはいかがなものかと思う。

<訂正>
前回のブログで「車の個人間売買の潜在市場は大きそうであり、9月から15万円以上の高額取引はすべてエスクロー決済が義務づけられるようになったので、この市場が拡大すれば業績も急拡大しそう」みたいなことを書いているが、高額商品のエスクロー決済が義務づけられたのは「あげます・売ります」カテゴリーの物品だけだった。

ただ今後は車カテゴリーにもこのルールを適用していきそうなので、この成長シナリオはまだ使えそう。中古車市場は1500億円程度あるようなので期待したい。

「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数
・売ります・あげます 2021年1月 1013333 →4月 1096141 →7月 1178114 →10月 1238714 →2022年1月 1309130
・メンバー募集 71879 →74732 →77377 →80309 →82160
・助け合い 27226 →28662 →30099 →31277 →31913
・不動産 518859 →402393 →553245 →539483 →677740
・アルバイト 46999 →61359 →58679 →68459 →81161
・正社員 15335 →17574 →17149 →17817 →20679
・イベント     →31575 →32906 →34227 →36395
・中古車      →43199 →45112 →48214 →51367
・教室・スクール  →18364 →18958 →19491 →20010
・地元のお店    →13453 →14113 →14765 →15274
・里親募集     →7628 →7997 →8426 →8628
*投稿件数は取引終了分はカウントされないので実際の投稿件数はもっと多い。

通期の売上高予想
まずは第3四半期予想の振り返りから。前回の予想は「第2四半期よりページビューが大幅減で、広告単価が微減、エスクロー決済手数料2600万と想定すると、3億~3億5千万円くらいになりそう。第1四半期からの累計では11億~11億5千万円くらいになりそう」だった。

実際は、ページビューは小幅減で、広告単価は微増、エスクロー決済手数料が3500万円で、第3四半期の売上高は4億3千万円、累計は12億3千万円だった。予想の上限を超えてきた。

この中で最も意外だったのが、広告単価が上昇していたこと。第3四半期はIDFA規制の影響をフルに受けており、8月と9月には緊急事態宣言が出ていたので、広告単価は確実に下がると思っていた。今回の決算でIDFA規制の影響は軽微で、ジモティー広告の需要は去年より高まっていることがわかった(去年の緊急事態宣言中の広告単価は下落していた)。

ただページビューが小幅減で、広告単価が微増にもかかわらず、売上高が第2四半期よりも多いことには違和感がある。ジモティーは「PV数と売上の相関性が落ちているため、指標の見直しを検討」とはいっているが、計算間違いの可能性もあるのでこの点には注意したい。

以上を踏まえて、本決算の売上高予想は、「第3四半期よりページビューが小幅増で、広告単価が微増、エスクロー決済手数料4500万と想定すると、16億9千万円~17億3千万円くらいになりそう」になる。

来期の業績予想は、2割くらいの伸びを想定すると、売上高20億円、営業利益4.4億円くらいになりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年率20~30%程度。現在の妥当だと思える時価総額は300億円(株価5000円、PSR15倍)くらい。2030年の予想売上高・利益は現在の10倍くらい。

■アイ・パートナーズフィナンシャル
基本シナリオ:IFA増加の波に乗って業績拡大
第2四半期決算は予想数値の下限だった。第3四半期の売上高予想は32.3億円。これより下ブレたら今期は未達で終わりそう。

今後3年の予想売上高成長率は年10~15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は50億円(株価6000円、PSR1倍)。2030年の予想売上・利益は現在の4倍くらい。

■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
決算説明で社長が医療費用保証の問い合わせが急増していると言っていたので、来期から医療費用保証事業は力強く伸びていきそう。この分野の競合は増えているようだが、ビジネスモデルが似て非なるものなので、当面脅威にはならなさそう。

養育費保証の方はビジネスとして成立するにはまだ時間がかかりそう。このビジネスは年間養育費の1割程度のお金をもらって年間の養育費を保証するものになるが、養育費の不払いには罰則規定がないので、回収はスムーズに進んでいないもよう。

ただ離婚時に養育費などの取り決めを法的に証明する「公正証書」を作成し、そこに強制執行を受け入れる旨の記載をすれば、裁判所なしで相手の預貯金などを差し押さえられるようになる。足元では公正証書の作成費用を補助する自治体が増えており、20年度からは国がその費用の半額を補助する取り組みを始めているので(12/9日経)、養育費の回収率は上がっていきそう。

イントラストは5年後に養育費保証を1万人に提供するという目標を掲げている。それが計画通りにいけば4億円くらいの売上になる。養育費を受け取れない1人親は全国に50万人くらいいるので、この事業が軌道に乗れば将来的に50億円くらいの売上が期待できる。

今後のイントラストの成長シナリオと業績予想をざっと書いておく。今後3年は家賃債務保証事業が業績を牽引して、24年3月期の売上高は80億、営業利益は20億になる(中期経営計画の数字)。その後は医療費用保証が業績を牽引し、27年3月期の売上高は120億、営業利益は25億になる。この時点での医療費用保証の導入病院数は1600(マーケットシェア20%)になる。

今後3年の予想売上高成長率は年15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は200億円(株価900円、PSR4倍)。2030年の予想売上・利益は現在の4倍くらい。

■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
今回の脳梗塞治験の成功でレダセムチドが高齢者にも効くとわかった。治験結果の詳報はまだだが、第Ⅲ相治験は「グローバル治験」とのことなので、インパクトのある内容になりそう。

チャートは1000円の壁が厚い。この壁を抜けるのは大変そうだが、治験結果のデータにインパクトがあれば、この壁も抜けられるかもしれない。

<訂正>
前回のブログに「心筋梗塞の治験は、治験の責任者が阪大を退官したようなので(掲示板情報)、自然消滅しそう。」と書いているが、責任者は退官していなかった。治験はそろそろ始まるのかもしれない。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~20%程度。業績が急拡大するのは早くて3年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は30~500億円くらい。

■今後の計画
今後はインフレと金融政策の転換で市場が荒れそうな気配もあるが、日本株においては好業績とPERの水準訂正で上がりそうな気がする。押し目がきたら買っていきたい。

市場が荒れてVIX指数が40超、騰落レシオが70以下になった場合も買っていく。

■去年の運用成績と今年の予想
去年の予想運用成績は±35%だったが、実際は+16%。なかなかの出来。
今年の予想運用成績も±35%。
今年も損益はあまり気にせず、知識をつけることに専念していく。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額が300億円以下
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやインフォマートなど

■2020年7月にピックアップしたIPO株を検証し、2020年4月~2021年9月に上場したIPO株をピックアップしていく。

■2020年7月にピックアップしたIPO株の検証
<2017年に上場した会社>
・オロ。クラウドERP(基幹業務システム)を開発している会社。導入コストが従来のERPよりも圧倒的に安いので中規模の会社で普及が進みそう。

→2020年7月1日の株価2509円。現在の株価2909円。順調に成長しているが、競合が増えているので今後はやや厳しい展開になるかもしれない。

・マネーフォワード。経営者ができそうな感じ。ただ時価総額が大きく、ニッチトップでないのが問題。家計簿アプリではトップになれそう。

→2020年7月1日の株価3170円。現在の株価6920円。株価が2倍以上になった。やはり経営者(経営陣)がヤリ手だった。フィンテックの潜在市場は大きいのでまだまだ成長できそう。

・ウェルビー。敏腕ファンマネ・北原氏が長期で保有している銘柄なので有望そう。ただコロナで障害者雇用はしばらく厳しくなりそう。

→2020年7月1日の株価1344円。現在の株価1334円。コロナ禍でも業績は順調に伸びているが株価は横ばい。今後は業績拡大と連動して株価も上昇していきそう。

・マクロミル。ネット調査首位級で業績も堅調なのに売られ続けている。株式需給あたりに問題があるのだろうか。コロナの影響はそこそこ受けるもよう。ただ時価総額300億円(株価750円)以下の現状は割安感がある。

→2020年7月1日の株価714円。現在の株価1107円。ビッグデータ分析などによりネット調査は減少傾向のようだが、プライバシー規制などもあるのでネット調査の需要は底堅そうでもある。

・ジェイエスビー。学生向け不動産の物件管理などをしているストック型ビジネスモデルの会社。ただ独自性は薄く成長は穏やか。

→2020年7月1日の株価2760。現在の株価3160。株価は一時4300円まで上昇したが、7月の増資と株式売り出しで急落。調達した資金で新たな学生寮を作るようなので、長期的な見通しは悪くなさそう。ただ上場時からの大株主だったレオスキャピタルが急いで手仕舞ったようなので怪しい雰囲気も漂う。

・casa。デジタルを駆使した家賃保証サービスを手がける会社。ここもストック型ビジネスモデルっぽい。

→2020年7月1日の株価1116円。現在の株価932円。ビジネスモデルはストック型でそれほど悪くなかったが、社長のパワハラが発覚し株価急落。イメージ悪化で新規客が寄りつきにくくなりそう。

・ウォンテッドリー。リンクトイン日本版みたいな会社か。株式の約7割を保有する女性経営者がなにか仕掛けてきそう。コロナ後が買い場になりそう。

→2020年7月1日の株価1430円。現在の株価1526円。社長がなにか仕掛けたのかコロナ禍に株価が急進。しかしその後元の水準に逆戻り。なにかあったのかもしれないが、この分野は興味が湧かないため調べる気が起こらず。

・テンポイノベーション。付加価値を高めた居抜き物件を提供する会社。利益率が高いので良さそうだったが、しばらくはコロナで厳しそう。

→2020年7月1日の株価622円。現在の株価891円。コロナで飲食店が厳しい中、業績を順調に伸ばしている。脅威としかいいようがない。内実が気になるところ。

・シルバーライフ。高齢者向けの弁当宅配をする会社。栄養バランスの取れた冷凍弁当などの需要が伸びている。ただ参入障壁は低い。

→2020年7月1日の株価2280円。現在の株価1321円。売上が伸びているが利益が減っている。参入障壁の低い領域で闘う”成長企業”の典型的なパターンか。

・ビジョナリーホールディングス。2019年12月にエムスリーが30億円出資し筆頭大株主になった会社。エムスリーと共同で次世代型のメガネ屋をつくるとのことなので期待できる。

→2020年7月1日の株価327円。現在の株価210円。次世代型メガネ屋「センスエイド」は2023年頃から存在感が出てきそう。23年の中期目標である売上高373億、営業利益17億円は大幅な未達で終わりそうが、エムスリーがついているので今後収益率が高まっていくのは間違いなさそう。

<2018年に上場した会社>
・ZUU。社長の著作がなかなか面白かった。ただビジネスモデルは少し弱そう。

→2020年7月1日の株価2605円。現在の株価1271円。経営者は熱い人で、売上も勢いよく伸びているが、利益が出ていない。ニュースメディアなど差別化しにくい領域で戦っているのが問題か。ただ社外取締役に著名アナリストの藤田勉氏が加わったので、利益率は徐々に改善していきそうでもある。

・ロジザード。クラウド在庫管理システムを提供する会社。ストック型ビジネスモデルだが売上の伸びがやや弱い。

→2020年7月1日の株価1862円。現在の株価2025円。業績が地味に伸びており、それと連動して株価も地味に伸びている。ただ勢いに欠ける。

・GAテクノロジーズ。中古不動産取引プラットフォームを運営する会社。売上高が急速に伸びている。社外取締役にプレステの生みの親である久夛良木氏がいるのが気になる。

→2020年7月1日の株価2350円。現在の株価1303円。売上は急速に伸びているが赤字に転落したもよう。差異化を図れなかったのかもしれない。

・アクリート。ショートメッセージ配信代行サービスを手がける会社。具体的に何をしているのかよくわからないが、業績は堅調に伸びており、ストック型のような収益構成になっている。

→2020年7月1日の株価810円。現在の株価1395円。参入障壁は低そうだが業績は順調に伸びている。ただ今後も高い利益率を保てるかは疑問。

・シノプス。自動発注システムを手がける会社。今年1月にeBASEと業務提携している。伸びそうな業種だが、市場シェアは14%程度なので競合がたくさんいそう。

→2020年7月1日の株価1987円。現在の株価1121円。コロナの影響と競争激化で苦戦しているもよう。

<2019年に上場した会社>
・スマレジ。POSレジのクラウドサービスを手がける会社。業績の伸びは順調だが、リクルートの「Airシリーズ」とバッティングしそう。

→2020年7月1日の株価1647円。現在の株価2145円。Airシリーズとは確かにバッティングしていたが、潜在市場は大きく、主な競合はリクルートとUSENくらいしかいないので、それほど問題ではなかったもよう。株価は一時4300円まで上がったがその後急落。なにか問題が起きたのかもしれない。

・カオナビ。顔写真を使う人材マネジメントシステムを提供する会社。リクルート系で、競合がいなさそうなのがいい。

→2020年7月1日の株価4646円。現在の株価2980円。人事管理システムSaaSには競合が山ほどいた。

・ミンカブ。「みんなの株式」や「株探」など個人投資家向けのメディアプラットフォームを運営する会社。個人的にはほとんど利用しないサイトだが、アクセス数や業績は順調に伸びている。

→2020年7月1日の株価1983円。現在の株価2748円。業績が力強く伸びている。しかしここは使わないサイトなので調べる気が起こらない。

・日本ホスピスホールディングス。高齢化社会で伸びそうな名前。ただ自己資本比率が低く、投資負担の重い会社なので、増資が頻発しそうでもある。社長の商売っ気の強そうな顔と事業内容がマッチしないのも気がかり。

→2020年7月1日の株価1826円。現在の株価2309円。増資はなく、業績は順調に拡大している。今後も増資リスクはあるが成長はしていけそう。

・Welby。医療系アプリを提供する会社。個人が記録した医療情報を医療関係者と共有して健康状態を管理できるアプリを提供している。伸びそうではあるが参入障壁が低そうでもある。

→2020年7月1日の株価2003円。現在の株価703円。参入障壁の低いアプリビジネスは難しそう。

・トビラシステムズ。スマホ通話の課題をテクノロジーで解決する会社。オレオレ詐欺などの迷惑電話を自動的にカットするフィルターなどを提供している。法人向けのサービスも開始しており、開拓余地はまだまだありそう。

→2020年7月1日の株価1800円。現在の株価835円。個人向けはそろそろ頭打ちになりそう。法人向けはそれほど需要がなかったもよう。

・サンサン。クラウド型の名刺管理サービスを提供している会社。市場を独占しそうな雰囲気があるが、時価総額が大きすぎる。

→2020年7月1日の株価1037円。現在の株価2507円。業績が力強く伸びており、市場を独占しそうな気配がある。ただ時価総額的にも業態的にもあまり興味がわかない。

・フリー。クラウド会計・クラウド人事ソフトを提供する会社。ここもマネーフォワードと一緒で時価総額が大きく、ニッチトップでないのが問題。

→2020年7月1日の株価4830円。現在の株価6360円。マネーフォワードと同じような成長軌道、株式評価になっている。今後もマネーフォワードと併走して成長していけそう。

・ブシロード。新日本プロレスやバンドリなどキャラクタービジネスを手がける会社。タカラトミーを立て直したハロルド・ジョージ・メイ氏がプロレス会社の社長に就任したので伸びそうだが、コロナの影響をしばらく受けそう。

→2020年7月1日の株価1463円。現在の株価1882円。コロナでイベントを開けず大変だったようだが黒字を維持している。コロナ後は従来の成長軌道に戻れそう。

・ピー・ビーシステムズ。福証に上場するなんらかのクラウドシステムを提供する会社。業績の伸びや利益率が良く、社長が面白そうな感じ。

→2020年7月1日の株価1630円。現在の株価830円。7月に主力のシステム構築の売上が伸び悩み下方修正。それほど特色のある会社ではなかったのかもしれない。

・サイバーバズ。インスタグラムのマーケティング支援をする会社。レッドオーシャン市場に見えるがサイバーエージェント系なので勝ち抜けそう。

→2020年7月1日の株価3865円。現在の株価950円。売上は伸びているが、広告単価下落の影響などもあり減益基調。社長はサイバーエージェントの元エース営業マンらしいが、ビジネスモデルが弱いと厳しそう。

・ギフティ。ギフト券の電子化を推進する企業。参入障壁の低そうな業態だが、営業利益率が30%以上あるので、もしかしたら競合がほとんどいないのかもしれない。

→2020年7月1日の株価2395円。現在の株価1957円。海外市場と比較すると日本の潜在市場あと10倍くらいあるらしいので(10/18日経)、このまま新規参入がなければ大儲けできそう。ただそうなる確率は低そう。10月に株価を見た時は4000円台だったが、そこから急落している。競争が始まったのかもしれない。

・HPCシステムズ。高性能コンピューターの導入を支援する会社。AI時代には伸びそう。

→2020年7月1日の株価2862円。現在の株価2869円。AI絡みのコンピューター導入が増えており、業績が拡大しているもよう。この勢いは当面続きそう。ただ、ここも10月の高値から株価が大きく落ち込んでいる。地合いの悪化が原因だろうか。

・HENNGE。SaaSのIDを一元管理するクラウドサービスを提供する会社。SaaSプラットフォームのような存在でもある。競合はいくつか存在するが、解約率は0.2%以下なので非常に強いストック型ビジネスモデルになる。業績は順調に伸びており典型的な優良成長企業になる。

→2020年7月1日の株価2355円。現在の株価1938円。米オクタや米アマゾン(AWS)、野村総研が本格参入してきて競争が激化している。参入障壁が低いので「典型的な優良成長企業」ではなかった。

・セルソース。脂肪細胞由来幹細胞を加工受託する会社。主に変形性膝関節症などの再生医療を手がける。ステムリムの競合会社。

→2020年7月1日の株価1778円。現在の株価5430円。経営者がヤリ手で業績が急拡大、株価が3倍になっている。ただ足元では業績の伸びが鈍化しているもよう。ここは当初、ステムリムが競合になりそうだと思っていたが、そうなるとしてもかなり先の話で、あまり関係なかったもよう。

・マクアケ。クラウドファンディングのプラットフォームを運営する会社。サイバーエージェント系なので詐欺に遭う心配はほとんどなさそう。競合は多いが最終的にはこことキャンプファイヤーあたりが残りそう。

→2020年7月1日の株価6180円。現在の株価4340円。コロナ禍でクラウドファンディングが一時盛り上がり、株価は13700円まで上昇したが、今は熱が冷めたもよう。クラウドファンディング業界には新規参入が増えているので、しばらく厳しい状態が続きそう。

・ランサーズ。フリーランス人材を斡旋するプラットフォーム「ランサーズ」を運営。今後はフリーランスが増えていくので、その流れに乗りそう。

→2020年7月1日の株価771円。現在の株価352円。競争激化で成長は頭打ちに。

・ユナイトアンドグロウ。中堅企業内でIT人材をシェアするサービスを提供する会社。変わった業態なので少し興味が湧く。

→2020年7月1日の株価1126円。現在の株価1703円。都内の中小企業からの引き合いが活発なようで20%成長が続いている。ニッチ分野を開拓しているのかもしれない。

・ランディックス。東京の富裕層向けの住宅販売を手がける会社。顧客データに強みがあるらしく利益率は高い。業績も伸びている。しかしコロナで販売が落ち込みそうでもある。

→2020年7月1日の株価1950円。現在2896円。緩和マネーの影響で高級不動産の販売は好調だったもよう。

・SREホールディングス。不動産仲介の取引データを分析したAIアルゴリズム機能を提供する会社。よくわからないがGAテクノロジーズみたいな会社だろうか?

→2020年7月1日の株価2586円。現在の株価7260円。ソニーとZホールディングスがタッグを組んで作った会社のようで、GAテクノロジーズとは一味違ったもよう。

・スペースマーケット。住宅や会議室など空きスペースのマッチングプラットフォームを手がける会社。コロナの影響で売上は落ちそうだが、ITプラットフォームなので打撃は小さそう。

→2020年7月1日の株価811円。現在の株価837円。コロナ禍では苦戦したようだが、それもなんとか乗り切ったもよう。来期以降は成長軌道に戻れそう。ただ競合は多そう。

・WDBココ。医薬品の安全性情報管理プラットフォーム?を手がける会社。業務内容はよくわからないが、利益率が高く売上も順調に伸びているので調べてみる価値はありそう。

→2020年7月1日の株価2923円。現在の株価5920円。順調にストックを積み上げている。この会社を調べたときに問題点をいくつか見つけたが、それらは杞憂だったもよう。この会社にしろ、8月に調べた新日本科学にしろ、創薬以外の業務をアウトソースする流れは加速しているのかもしれない。

<2020年に上場した会社>
・ジモティー。地元取引に特化したプラットフォーム「ジモティー」を運営しており、市場を独占している。収益の柱である広告はコロナの影響で減少しそうだが、長期的な見通しは悪くない。

→2020年7月1日の株価1600円。現在の株価3410円。ほぼ予想通りの展開。

・アディッシュ。SNSにまつわる課題を解決する会社。SNS監視などをしているので伸びそう。

→2020年7月1日の株価3035円。現在の株価1164円。伸びそうなサービスだが、利益がまったく伸びていない。差異化が図れなかったのだろうか。

・NexTone。音楽コンテンツの著作権管理プラットフォーム?を運営する会社。このプラットフォームは既存の著作権会社(JASRAC)が抱える課題を解消するもののようで、ストリーミング時代にはこういう会社は伸びそう。

→2020年7月1日の株価2043円。現在の株価4600円。会社の計画通りの進捗。この会社を調べたときはJASRACが潰しにかかると見ていたが、現状は放置の状態。

<予想の勝敗>
23勝17敗。2倍以上になったのは7銘柄。1/2以下になったのは8銘柄。検証から株式投資はリスキーなことと、参入障壁が重要なことがわかった。

上記銘柄で気になったのはジェイエスビーとビジョナリーホールディングス。割安感があり、株価2倍は目指せそう。

■2020年4月~2021年9月に上場したIPO株をピックアップ
・STIフードホールディングス。主にセブンイレブン向けの惣菜(焼き魚やカップサラダ)を製造している会社。成城石井や世田谷自然食品への納入も開始。やや高級路線で勝負している。中食市場は単身世帯の増加に伴い拡大傾向にあるので今後も伸びていきそう。9月に生産設備増強のための増資を実施。23年12月期には生産能力が現在の60%増になる見込み。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★☆

・プレイド。ウェブ上の消費者行動を分析するSaaS「KARTE」を提供する会社。国内トップシェア。レッドオーシャン市場だがグーグルと戦略提携しているのが強み。時価総額800億円(PSR10倍)とやや大型になるが伸びしろはありそう。ただグーグル以外の差別化ポイントを見つけるのは素人には難しそう。
<ビジネスモデルの強度> ★★★☆
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★☆
時流に乗っているか ★★★★★

・ポピンズホールディングス。働く女性支援のためのベビーシッター派遣、保育所、学童施設、介護の在宅支援サービスなどを手がける会社。15~64歳女性の就業率は7割を超えており、共働きが増えているので需要は強い。コロナの影響で一時成長が鈍化したが、足元では回復傾向。投資を着実に実行しており、今後も穏やかな成長を続けられそう。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★★

・coly。スマホゲームの開発・運営を手がける会社。女性向け恋愛ゲームに強い。ゲームのキャラクターを利用したグッズ販売や舞台化、アニメ化も手がける。スマホゲーム市場は成熟市場、レッドオーシャン市場ではあるが、双子姉妹の共同代表や内定倍率100倍を勝ち抜いた優秀なスタッフ(女性比率72%、外国籍社員比率10%、平均年齢28歳)により独自性のあるものを作れそう。IR資料に「同性婚歓迎」といった記載もあるので、LGBTQ向けのニッチゲームも生まれるかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ★★
参入障壁は高いか ★
ストック型収益か ★★
時流に乗っているか ★★★☆

・Enjin。中小企業や医療機関に「PR支援サービス」を提供する会社。決算資料を読んでも具体的に何をやっているのかよくわからない会社だが、売上・利益は力強く伸びている。ホームページを開くと従業員の”圧”のあるPR感が伝わってくるので、なにかしらのPR力はありそう。こういうわかりにくい会社は誰も調べないと思うので、ある意味チャンスかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ?
参入障壁は高いか ?
ストック型収益か ?(数字を見る限りストック型っぽい)
時流に乗っているか ?

・アイ・パートナーズフィナンシャル。IFA(独立系金融アドバイザー)サポート事業を手がける会社。日本では資産形成層を中心に証券投資への意欲が高まっており、今後はそれをサポートするIFAの存在感が高まっていきそう。それに伴いIFAサポート事業も伸びそう。ビジネスモデルは有望に見えるが、時価総額が30億円と割安感がある。
<ビジネスモデルの強度> ★★★☆
参入障壁は高いか ★★★
ストック型収益か ★★★☆
時流に乗っているか ★★★★☆

・ベイシス。通信・電力・ガス等の事業者に対し、通信インフラの設計・施工・運用・保守を提供する会社。店舗内にAIカメラを設置したり、スマートメーターの設置・保守などを手がける。5G時代にはIOT機器が爆発的に増えていくのでその波に乗れそう。ただ事業の半分程度を「設計・設置」などのフロー型ビジネスが占めているため、ストック型ビジネスという感じではない。当初この会社は、電波塔のシェアリング事業を手がけるJTOWERのような存在かと思ったが、それとは全く異なるもよう。それほど特色のある会社ではないのかもしれない。
<ビジネスモデルの強度> ★★★
参入障壁は高いか ★★
ストック型収益か ★★★
時流に乗っているか ★★★★☆

*今回の調査に使ったサイトは96ut.com

■今後の調査計画
気が向いたら調べていく。ただ調査済みのアイ・パートナーズフィナンシャル以外は業績3倍を目指せそうにないので、現時点ではあまり調べる気が起こらない。調べるとしたらJSB、ビジョナリーホールディングス、STIフードホールディングスの順番か。

アイ・パートナーズフィナンシャル

■どんな会社か
IFA(独立系金融アドバイザー)のサポート業務を手がける会社。IFAサービスを提供する会社。オフィスは全国に22カ所ある。 

<IFAとは>
IFAとは金融機関に属さず、公正中立な立場から顧客の資産運用に対するアドバイスを行う存在。金融アドバイザーは金融機関に所属しているとノルマがあるため手数料至上主義になりがちだが、IFAとして独立するとノルマがなくなり、顧客本位のアドバイスをできるようになる。転勤がないので顧客と長期の関係を築きやすくもなる。

IFAになるには証券外務員の資格が必要なため、証券会社から転身するケースが多い。顧客にとってはIFAの方がメリットが大きいため、IFAとして独立するときには証券会社時代の顧客がついてきてくれることが多い。

アイ・パートナーズフィナンシャル(以下アイ社)に所属するIFAはアイ社と業務委託契約を結んでいる。この契約は雇用契約ではないのでアイ社から営業方針の指示やノルマを課せられることはない。管理体制は雇用契約と変わらない。
*アイ社には雇用契約のIFAも若干名いる。

<IFAサポート業務について>
IFAが自身で起業した場合、立ち上げ時に金銭的に大きな負担がかかるほか、事務や管理業務などで忙殺されがちになる。また、顧客へのサービスに支障が生じたり、業務上の情報不足が生じたりすることもある。アイ社ではこれらをサポートし、IFAが業務に専念できる環境を提供している。

各サポートを1つずつみていく。

・コンプライアンス管理、内部管理
IFAが業務を行う上で最も重要なのがコンプライアンス(法令順守)になる。法令に違反した場合は、顧客から訴訟を起こされるリスクがあるだけでなく、金融庁から業務停止や登録取り消し処分を受けるリスクもある。

アイ社では専任の内部管理責任者がIFAの活動を常時モニタリングしており、問題があれば個々のIFAへフィードバックしている。顧客対応上の懸念次項があればその相談にも応じている。

・人的サポート
IFAがオフィスにいないときは本社事務局が受電対応や注文の代理発注を行う。業務の進捗状況をふまえたコンサルティングにも対応する。

・各種セミナー
金融アドバイザーにとって最も重要なスキルは金融知識(や相場観)になる。そのため知識の継続的な増強は不可欠になる。アイ社では月4~5回以上の勉強会が行われており、所属IFAは必要に応じて自由に参加できる。またオフィスによって情報格差ができないように定期的にWEB会議も開いている。

アイ社には資産運用会社から資産運用の勉強会をやってくれという依頼や、上場会社からIRをやってくれという依頼もある。そのため有益な情報が集まりやすい。所属IFAにはよい投資情報を提供することができる。ある所属IFAは「アイ社に所属してから証券会社時代よりも様々な情報を収集できるようになった」と語っている。参照

IFAになると時間を自由に使えるようになるので、外部の勉強会に参加したり、決算説明会に行って社長と話したりすることもできる。参照

・コミュニケーション環境がある
各IFAには株式や債券、投信などの得意分野がある。IFA同士は証券会社時代のときのように営業成績を競い合う関係にはないので、お互いに情報を共有してスキルを高めようという意識が強い。有益な情報を気軽に交換することができる。

・ITシステムの提供
複数の証券会社にまたがる資産を一括で見える化するソフトウェアやCRM(顧客管理)ツールを提供している。

情報格差が起こらないようにグループウェアを活用した社内掲示板や社内メールなども提供している。そこではビジネスの切り口や成功事例などの紹介もしている。

・各種設備
オフィス、事務机、パソコン、電話、電話録音装置、音声テキスト化装置などが支給される。

*これらのサポートは所属IFAへの満足度調査を参考に適宜更新されている。

<収益構造>
アイ社の収益は、所属IFAが仲介した取引(手数料、預かり残)に応じて証券会社から支払われる業務委託報酬と、各IFAから支払われるシステム使用料、他の専門家へのマッチング手数料等、からなる。

売上の9割超は業務委託報酬になる。業務委託報酬の中から一定割合をIFAに報酬として支払い、その差額が粗利となる。

売上の5%程度は各IFAから毎月支払われる約10万円のシステム使用料になる。

売上の残り数%がマッチング手数料等、になる。IFAは顧客から証券投資だけでなく、保険や不動産、相続・贈与、事業継承、M&A、オペリース、PE(未公開株)ファンドなどの相談も受ける。アイ社ではこれらのサービスを提供できる会社(約30社)と提携しており、顧客のニーズとマッチする専門家を紹介することでも手数料を得ている。

主な支出は、サポート人員の人件費、オフィス賃料、ソフトウェア代、備品など、になる。所属IFAは委任契約なので人件費は発生しない。IFAのサポートは本店で一元管理しているので所属IFAが増加しても人件費は抑制される。つまり、所属IFA(と預かり残)が増えれば、利益が拡大しやすくなる構造になる。

業績は
2019年3月期が売上23億円、営業利益が0.5億円。
2020年3月期が売上24億円、営業利益が0.06億円。
2021年3月期が売上40億円、営業利益が2.4億円。
2022年3月期(予)が売上45億円、営業利益が2.3億円
になる。足元では損益分岐点を超え始めているので今後の利益拡大が期待できる。
現在の所属IFA数は217人、預かり残は約2400億円になる。

■成長ストーリー
「IFA増加の波に乗って業績拡大」が基本シナリオ。

現在、「老後2000万円問題」や、年金不安、雇用不安、金余り、パンデミック(巣ごもり)などにより、個人の資産運用への機運が高まっている。足元では欧米のように資産形成を証券市場でやろうという動きが顕在化してきている。

資産運用の方法は個人自ら学ぶこともできるが、その仕組みは複雑で誰もが正確に理解することはできない。また学ぶ時間を取れない人も多い。そのような人たちには金融アドバイザーが必要になる。

金融アドバイザーは金融機関にも多くいるが、そこに所属するスタッフは自社の利益、あるいは社内での評価を高めるために、必ずしも顧客本位のアドバイスをできるとは限らない。そこで金融機関から独立したアドバイザー(IFA)の必要性が増してくる。

この点に関しては行政面からの後押しもある。金融庁は2017年に金融商品の販売や助言、運用などを担う全ての金融機関を対象にした「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、手数料を重視したビジネスモデルから顧客本位の営業への変革を求めている。

このような背景により、顧客本位の助言を行えるIFAへの注目度が高まりつつある。アイ社はIFAの満足度が向上するようなビジネスプラットフォームを提供し、今後増加するであろうIFAを取り込んでいくことを基本戦略としている。

アイ社に所属するIFAは創業以来、右肩上がりで増えており、現在217名になっている。IFA志望者のアイ社への資料請求は月50件以上あり、上場承認後はそれがさらに増えているという。今後も順調に増員していけそうな雰囲気がある。

アイ社の今後の課題は「コア資産」の取り込みになる。現在は機動的な売買をする「サテライト資産」の取り込みが主だが、今後は顧客からの信頼を高めて、長期的な目線で運用するコア資産の取り込みが重要になる。信頼を高めるには、顧客の資産を増やすことが重要になるので、IFAへの有益な情報の提供、各種勉強会の充実に力を入れていく。

この戦略がすでに奏功しつつあるのか、もしくは単なる意識変化のためか、コア資産の取り込みは順調に進んでいる。2021年3月期は預かり残が前年から急増している。これは株高の影響もあるが、その影響は6割程度とのことなので、3割程度がコア資産の流入になる(残り1割はIFA数増加による預かり残増)。社長は第1四半期の決算説明で「資産形成層を中心に証券市場での資産運用が非常に加速している。かなり驚くべきスピードで加速をしている」と語っている。

<潜在市場はどのくらいか>
・証券市場に流入する可能性のある資金量
日本の家計部門の金融資産は2020年末で1946兆円になる。その約53%が預貯金で、約17%が株式・債券になる。米国ではこの比率が預貯金約13%、株式・債券約51%になっている。仮に米国の水準まで株式・債券の比率が高まると仮定すると、証券投資は現在の3倍、あと約660兆円が株式・債権へ流入することになる。その半分と見積もっても300兆円くらいの資金流入の可能性がある。
参照:ウェルスナビ決算説明資料2021/8/13

・IFA数
まずは人口比率で見積もってみる。日本のIFAは現在約4700人いる。日本の人口の約3倍の米国ではIFAが約12万人、日本の人口の半分の英国では約2.7万いる。米国や英国と同等の比率までIFAが増えると仮定すると、日本のIFA数は4~5万人まで増える可能性がある。

次にIFA比率で見積もってみる。証券会社に所属する外務員に対するIFAの比率は日本では約6%になるが、米国では約40%(資産ベースでも約40%)になる。米国と同等の水準までIFAが増えると仮定すると、日本のIFA数は現在の6.5倍、約3万人になる。上記をまとめると日本のIFA数はあと6倍くらいの拡大余地がある。
参照:アイパートナーズ決算説明資料2021/8/12

・預かり残
「証券市場に流入する可能性のある資金量」と「IFA数」からIFA経由の預かり残の拡大余地を推計してみる。日本の証券投資は600兆円くらいまで拡大する余地があり、IFA比率は40%程度まで高まる可能性がある。600兆円のうち40%がIFA経由の預かり残になると仮定すると、その預かり残は240兆円になる。現在のIFA経由の預かり残は約3兆円なので、あと80倍の拡大余地がある。そこまでいかないとしても10倍程度の30兆円くらいは期待できる。

なお、社長は2016年のタンタビューで「10年後には弊社のIFAを1000人、20年後には5000人にしたい」と語っている。
*11月の決算説明会で「10年後の目標IFA数」についてを質問すると、「野望はあるが、ここで答えるのは適切ではない」みたいなことを言われた。

<株主還元について>
現在、アイ社では配当を出しているが、これは株主のほとんどが資産運用のプロであるIFAのため。「銀行に預けるよりはマシ」と思ってもらうために、純資産の2%程度の比率で、毎年出しているという。これは今後も続ける予定だが、余剰資金は基本的には成長投資に回していくという。

■問題点
・市場連動性がある
IFA経由の預かり残は市場価格によって変動するため市場環境が悪化して株式や債券の価格が下がるとIFA経由の預かり残も減る。加えて顧客の投資意欲も減退するので取引の縮小や資金の引き上げが起こる可能性もある。
*IFAは常々、顧客に「ゴール」を見据えたコーチングを行っているので、パニック的な売りは出にくい。

預かり残が市場変動の影響をどの程度受けるのかを推計してみる。アイ社の預かり残の大まかな内訳は、株式が約4割、債券と投資信託がそれぞれ約2割5分、現金が約1割になる。このようなポートフォリオの場合、株式市場が50%下がった場合、アイ社の預かり残は30%程度減る。

アイ社の一番の成長エンジンは証券市場の成長ではなく、IFA数増加(に伴う預かり残の増加)になので、IFAが増えればそれほど問題ないが、市場環境が大きく悪化しているときには証券会社から独立してIFAになろうという人は少ないので、IFA数増加も期待しにくい。

となると今後の市場環境が重要になってくるが、市場は高値圏にあり、金融政策は引き締めに転じているので、今後大きく上昇する展開は考えにくい。とはいっても過剰流動性は維持されそうなので、極端に下がる展開も考えにくい。市場環境の影響はそれほど大きくならないのではないかと思う。

・IFA数の急増は難しそう
アイ社の成長ドライバーはIFA数の増加になるが、IFAが急増すると各IFAに目が届きにくくなるのでコンプライアンス面で問題が起きる可能性が高まる。そのためIFAを急増させるのは難しそう。

ただ、年間40~50人くらいのペースでなら増やしていけそう。「20年後に5000人」は難しいかもしれないが、1000人くらいまでなら増やせるのではないかと思う。

・社長への依存度が高い
アイ社の収益基盤の根幹は質の高いIFAの存在になるが、IFAと面接し契約を決めるのは社長になる。ここでは目利き力が重要になる。また社長には”カリスマ性”があるのでそれでIFA志望者が集まってきているという面もある。このような能力・特質は簡単に真似できるものではないので、もし何らかの理由で社長が抜けたら、ビジネスモデルの根幹が揺らぐ可能性がある。

ただ社長は資産運用のプロ、つまり長期思考の達人なので、そこら辺の手はすでに打っているはず。上場時の目論見書には「特定の人物に依存しない経営体制の構築に力を注いでいる」とあるので、この点はなんとかなるのではないかと思う。

・競合の存在
IFAサービスを提供する会社は100社以上あるが、その大半は5人以下の小規模事業者になるのでアイ社の競合とはいえない。ガイアやフィナンシャルスタンダードといった有名なIFA会社は数十人規模の従業員を抱えるが、雇用契約なのでビジネスモデルがアイ社とは異なる。現在、IFAサポートという面で競合になるのはSBIマネープラザくらいになる。SBIマネープラザはSBIの100%子会社であり、資本力とIT力があるので、コスト競争力では勝てそうにない。ただ独立系ではないので、棲み分けはできそうな感じ。

資産運用領域全体でみると競合は多い。まずファンドラップが競合になる。ファンドラップとは金融機関が顧客から資産を預かり、運用の目的やリスク許容度を聞いて最適なポートフォリオを組むサービスで、IFAが提供するサービスと似ている。現在、その簡便さからファンドラップに資金が急速に流入しており、2021年6月末の預かり残は約12兆円と5年前の2倍にまで膨らんでいる(10/21日経)。ただ運用成績は手数料が高いため、その多くがバランス型投信と比べて見劣りするという問題がある。

足元で急速に普及しているロボアドバイザー投資もファンドラップの一種になる。このサービスも運用目的とリスク許容度を設定してポートフォリオを設定するものだが、AIがポートフォリオを自動生成するので、ファンドラップよりも手数料が安い(1%程度)。ただこれもポートフォリオの種類が少ない、パフォーマンスがしれているといった問題がある。

ファンドラップ全般にいえる問題として、よき相談相手がいないという問題もある。投資初心者はよき相談相手がいない不安から投資額が小額に留まる傾向がある。ファンドラップで資産運用に目覚めた人がIFAに流れてくるという展開も考えられる。

金融機関の金融アドバイザーも競合になる。金融機関は従来の手数料ビジネスが厳しくなってきているので、富裕層向けの資産運用事業に注力している。UBSやシティグループなどの外資系は資産運用の歴史が長いのでIFAの脅威になる可能性がある。ただこれら会社のメインターゲットは超富裕層なので棲み分けはできそうでもある。

・訴訟リスクがやや高い
市場環境が悪化して顧客に大きな損失が発生した場合、IFAに落ち度がなくても、なにかしらの理由をつけて訴えられる可能性がある。実際に昨年アイ社は訴訟を起こされており(案件は不明)、上場が2ヶ月遅れたのはそのためになる(参照。その後、適法性が認められて上場承認されている)。ただアイ社のIFAはコンプライアンス意識が高く、それをチェックする体制もあるので、重大な問題に発展する可能性は低そう。なお、過去に重大な訴訟は起きていない。

・利益率は低め
アイ社は所属IFAの満足度を高めるために報酬率を業界最高水準に設定している。そのため粗利は少なめ。ただ足元では損益分岐点を超え始めているので、今後はIFA数(と預かり残)の増加に伴い利益も増えていきそう。

・証券投資が減る可能性がある
資産運用のセオリーは株式や債券など、値動きの方向性や大きさの異なる資産を組み合わせることにより、リスクとリターンのバランスを調整するものになる。しかし、今は株式と債券が同様の動きをすることが増えているので(10/13ブルームバーグ10/15日経)、リスク分散のために他の資産(不動産やPE投資など)へ資金がシフトする可能性がある。

また現在、国債など一部の債券はインフレ率を加味すると損する水準まで割高になっているので、その意味でも債権への投資は難しくなりつつある。

ただ不動産やPE投資といった代替資産は流動性が低いので、個人投資家にとってあまり利用しやすい投資商品とはいえない。また証券にはリスク分散ができるさまざまな性質のものがあるので、金融商品への深い知識があればなんとかなるのではないかと思う。

・手数料無料化の影響
大手オンライン証券では手数料の無料化が進んでおり、インデックス投信やETFなど手数料の安い金融商品が増えている。個人投資家は手数料のない世界で生きているので、手数料に関してはかなりシビアになっている。そのためIFAに(間接的に)払う手数料に抵抗を覚える可能性がある。ただIFAの場合は、資金の方向性を決める相談(知識)の部分に価値があるので、手数料無料化の影響はほぼないのではないかと思う。
*IFAは「相談料」は徴収しない。

・金融機関からいけずされる?
IFAはほぼ全員が証券会社からの転向組になるが、IFAとして独立するときは、証券会社で抱えていた顧客を連れてくることになるので、証券会社は顧客を奪われることになる。これをされて喜ぶ証券会社はないので、アイ社は証券会社からなんらかのいけずをされる可能性がある。出来高が少ないのはここらへんのことも影響しているのかもしれない。

・IFAが日本に根付くまで時間がかかりそう
現在、日本でIFAという存在を知っている人はほとんどいない。IFAが日本で認知されるのはしばらく先になるかもしれない。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★☆
・参入障壁は高いか。★★★。高付加価値のIFAサポートを構築するのは高度なノウハウが必要なため参入障壁はそこそこ高い。アイ社はIFA黎明期からサポート事業をしているので簡単には真似できそうにない。ただし、資産運用全般ではファンドラップなど競合は多い。

・ストック型収益か。★★★☆。所属IFAと預かり残が積み上がるビジネスモデルなので基本的にはストック型になる。ただし、市場連動性があるので、市場環境が悪化したときは預かり残が減る。

・潜在市場は大きいか。★★★★☆。資産形成層が証券市場で資産形成をしようという流れが加速しており、独立系金融アドバイザーの必要性は増しつつある。IFA経由の預かり残はあと10倍以上の拡大余地がある。

■チャート
<1年チャート> 下降トレンドで出来高(エネルギー)が少ないのも問題。ただ下降が穏やかになっているので、下げ止まりそうな雰囲気はある。


<マザーズの2年チャート> 中期の下降トレンドになっている。長期線を割り込みつつあり、反転する兆しはまだ見えない。直近でははらみ線が出ているが小さいのでシグナルとしては弱い。地合いが悪いとアイ社株の反転は期待しにくい。ただファンダメンタルズ的にはこれ以上大きく下げないのではないかと思う。

■まとめ
IFAは時代の要請により今後着実な増加が期待できる。2022年に限れば地合いのバックアップも期待できそう。当面、成長速度は穏やかになりそうだが、中長期では大きな伸びが期待できる。長期で保有したい。

マクロ系金融指標チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:1.2%~2.0%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2021年の米国の経済成長率は+6.0%、インフレ率は+4.2%になる見込み。2022年は経済成長率+5.2%、インフレ率+2.2~3.2%になる見込み。

・金融政策↓
FRBはインフレ対策として量的緩和を22年3月に終了し、政策金利を22年に3回(0.75%)、23年に3回(0.75%)、24年に2回(0.5%)上げる予定。ただ、この金融引き締め策はインフレの原因になっている供給側には直接作用せず、需要を抑えて間接的にインフレを低下させるものなので、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。

世界の債務は過去最高水準のGDP比350%まで高まっており(12/17日経)、この状態で利上げをすると利払い負担が増すので、それも景気(長期金利)に下押し圧力をかける。

*市場はFRBが金利を1.5%までしか上げられないと予想している。12/18日経

FRBは政策金利の引き上げと同時に資産売却も始める可能性がある(12/18日経12/18ヴェリタス)。その場合、需給面で長期金利には上昇圧力がかかる。ただし、2022年は米財務省の国債発行量が減るので、影響は限定的になりそう。11/10日経

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えており、2020年、2021年はコロナの影響で300兆円を超えている(7/2日経)。米国債の供給増や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかる。2022年の財政赤字は100兆円台に留まりそう。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。リスクオフ要因はコロナ拡大、インフレ、金融政策の転換で、リスクオン要因はコロナ沈静化、景気拡大、金余り、になる。

・米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利より相対的に高いので、海外勢から買われやすい。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれる。

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れなども減っている。

金余りで運用難に陥っている金融機関や企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。7/28日経11/22日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート→
<10年チャート> 長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。

■WTI原油
今後1年の予想レンジ:70ドル~120ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2021年の世界経済成長率は+5.9%程度、2022年が+4.9%程度になる。

長期では、温暖化対策や職場・学校のリモート化で石油需要が減る可能性がある。一方で、世界人口は今後も増えていくのでトータルで石油需要が増える可能性もある。米エネルギー情報局(EIA)は50年の石油需要は20年比で4割増えると予想している(10/8日経)。一方、仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要はピークアウトすると予想している。11/6ヴェリタス日経

・供給↓
OPECプラスはやや増産し、米国の生産も回復基調にある。春頃には供給過剰になる可能性がある。10/25日経

長期では、石油開発会社が脱炭素の潮流を受けて油田開発投資を大きく減らしており、また再生エネルギーの普及には時間がかかるため、供給不足に陥る可能性が高い。

石油は人間にとっての食料と同じ生活必需品のため、少しでも不足すると価格が跳ね上がる性質がある。

・産油国や再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45~70ドル、再生可能エネルギーは40~100ドルになる。原油価格はこの範囲内で収まる可能性が高い。
*米国の石油企業は株主や金融機関の圧力で採算や環境を重視するようになっており、かつてのように相場が高騰してもすぐ増産という流れにはならない。11/6ヴェリタス

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環としても原油が買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

・米政府の介入→
バイデン政権は脱炭素を公約に掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。原油価格が高騰した場合は備蓄石油を放出したり、産油国に圧力をかけたりする。ただこれらにたいした効果はない。

・チャート
<10年チャート> 上昇トレンドに転換したように見える。

■ドル円
今後1年の予想レンジ:105円~120円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の長期金利差↑(↓は円高方向)
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在、金融政策や経済成長力の違いからその金利差が拡大傾向にある。ただ今後はその拡大が止まりそう。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の経済の強さの違い→
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。

日本の個人投資家は2021年に海外株を7兆円買い越しており、その大半は米国株になる。対して日本株の買越額は350億円になる。12/30日経

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資が増えている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。対外純資産に占める直接投資の比率は増加傾向で、2020年には47%まで高まっている。一方、対外証券投資の比率は減少傾向で足元では28%まで低下している。11/17日経

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力のある海外株を積極的に買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。

・日本の経常収支↑
生産拠点の現地化や通信機器や医薬品など輸入の増加(12/12日経)、原油価格の上昇などにより貿易収支は赤字になりつつある。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が現地で再投資されるので円買い需要は半分(10兆円)程度しか生まれない。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただ、これと同じことは米国にも言える。

・日米の財政政策→
巨額の財政出動をすると景気を押し上げ、自国通貨も押し上げる効果があるが、一方で財政赤字の拡大により通貨の信認が低下するといった副作用もある。日米の財政支出は対GDP比で同程度になる。

・ドル需給↓
FRBがドルを大量供給しているので足元ではだぶつき気味。そのさなかに米国では巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後にドル安に転じている。参照

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月頃から売り持ちに転じている。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本より米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

*コロナ禍で日米のインフレ格差が広がっている。この状態が続くと円には強い上昇圧力がかかる。

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低い。

・日銀が保有する日本国債の値下がり→
日銀は日本国債を500兆円超保有している。金利が2%まで上昇すると、当座預金への利払い負担が国債の運用利回りを上回る「逆ざや」が生じ、債務超過に陥る可能性がある(10/1日経)。ただ現時点ではそうなる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・チャート
<10年チャート> ゴールデンクロスを形成して上振れそうな雰囲気がある。

■日経平均
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している(日経)。世界の中銀の総資産は2022年は横ばいになる見通し。

・米長期金利金利→
長期金利が上昇すると株式から債権へ資金がシフトする。今後の長期金利は横ばい圏で推移しそう。

・為替→
円安が進むと海外勢は日本株を買いやすくなる。今後の為替は横ばい圏で推移しそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約6.52%、配当利回りは約1.96%と、日本長期国債の利回り0.069%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・需給↑
大きく下げたとき日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2022年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行:4000億円の買い越し。
 事業法人:2兆円の買い越し。
 海外投資家:1兆円の買い越し。
 個人投資家:5000億円の買い越し。
 投資信託:2千億円の売り越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度・期待度)で決まる。2022年の予想EPSは+10%超になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は横ばい圏で推移しそう。

*これまでは円安の方が日本企業にとって有利とみられていたが、現状では生産拠点の現地化などにより円安の恩恵を受けにくくなっている。円高の方が日本企業にとってプラスという見方もある。8/4日経

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。2022年はコロナが収束し世界景気が回復しそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫される。また労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響でやや高い水準にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばいだが、資源価格は上昇傾向にある。コスト上昇分を価格転嫁できれば問題ないが、日本企業はそれをできないことが多い。

・金融政策↓
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境が悪化する。FRBが金融引き締めに転換したので、企業収益にも影響が出そう。ただペースは穏やかになりそうなので、影響は軽微なものになりそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17くらいだが、現在のPERは13.80とやや低め。PERは景気が上向くと上昇しやすくなる。

投機筋の持ち高
買い残は2951億円で、裁定売り残高は1561億なので、投機筋は日本株が横ばいになるとみている。
*一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。今は売られすぎの水準なのかもしれない。

・個人投資家の流入↑
コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。日経

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなりやすいという問題がある。7/18日経10/20日経

・チャート↑
<10年チャート> 青天モードに入っているので上値は軽そう。

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2021年のEPS増加率は30%超、2022年は10%超。
・米国株式の2021年のEPS増加率は50%超、2022年は8%超。
・欧州株式の2021年のEPS増加率は30%超、2022年は10%超。
・日本株式の2021年のEPS増加率は30%超、2022年は10%超。
*参照:7/26日経12/12日経12/18ヴェリタス12/25ロイター12/25ヴェリタスなど
*今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化で設備投資や人件費も減少しているので、利益が増えやすくなっている。

■経済成長率
・世界の2021年の成長率は5.9%、2022年は4.9%。
・米国の2021年の成長率は6.0%、2022年は5.2%。
・中国の2021年の成長率はは8.0%、2022年は5.6%。
・ユーロ圏の2021年の成長率は5.0%、2022年は4.3%。
・日本の2021年の成長率は2.4%、2022年は3.2%。
*数値はIMF予想。10/13日経

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標のGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナ禍ではGDPが大幅に落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が上がっていれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2021年が3.5~4.5%、2022年が2.2~3.2%。
・欧州の予想インフレ率は2021年が1.5~2.5%、2022年が1.5~2.5%。
・日本の予想インフレ率は2021年が0.5%、20222年が1.0~2.0%。
*参照:9/15日経9/23ロイター9/29日経12/11ヴェリタス
*参照:米PCEユーロHICP日本CPI。中銀が政策決定するときは主にこの指数を使う。

*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下するという性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起こると価格がゼロに近づく。

世界的にインフレが過熱し始めている。インフレ要因とデフレ要因を一通り列記して、今後のインフレ動向について考えていく。

<インフレ要因>
☆コロナ禍特有のもの
・供給基盤が破壊され供給不足が生じている。
・コロナがなかなか収束せず供給不足が長引いている。
・コロナで対面型サービスの人気が落ち、賃金が上昇している。
・コロナとの付き合いがこなれてきて需要が急増している。
・政府から給付金が支給され需要が増している。
・金融緩和の影響で資産価格や商品価格が上昇している。
・金融緩和(量的緩和)の影響で通貨価値が下落している。

☆コロナ後も続くもの
・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。再生可能エネルギーの生産コストは化石燃料由来のエネルギーと比べ割高になる。2030年までの8年間に年率で0.7%世界の物価を押し上げるともいわれる。11/19日経11/6ヴェリタス11/6ヴェリタス
 *脱炭素シフトが一巡すれば再生可能エネルギーはデフレ要因になる。
・人手不足で賃金が上昇している。コロナ禍の株高で米国では55歳以上の早期退職者が160万人ほど出たもよう。引退した人は労働市場には戻らないので人手不足は長期に及ぶ可能性がある。11/19日経
・経済の脱グローバル化で、自国生産にシフトし生産コストが上昇している。
・世界の生産年齢人口比率は2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなく可能性がある。11/10日経
・政府は今後も大規模な財政出動をしていく予定。需要を押し上げる効果がある。

<デフレ要因>
・経済や社会がデジタルシフトしている。先に述べたようにデジタルシフトは強いデフレ要因になる。コロナでデジタル化の流れは加速している。
・イノベーションが加速している。今はネットやAIによりイノベーション(新結合)が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。
・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向は低い。
・世界的に少子高齢化が進んでいる。高齢者は支出が少ない。
・世界的に労働人口が減少傾向にある。消費が縮小する。
・人手不足で成長力が低下する。人手不足により経済・社会のデジタル化が加速する。
・なんだかんだで経済のグローバル化が進んでいる。安価な輸入品が増える。
・世界的に経済成長率が鈍化している。
・金融政策が金融引き締めに転じている。

まとめると、今後1年くらいはインフレが高進し、その後は徐々に落ち着いていきそう。ただ米国では需給ギャップが当面プラス圏で推移するようなので(10/29日経)、あと2年くらいは高水準のインフレが続きそう。

■金利
・米国の2年金利は0.73%で10年金利は1.50%。30年金利は1.94%。
・日本の2年金利は-0.094%で10年金利は0.069%。

*名目金利からインフレ分を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態で、国債を買ったり、銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。現在、G20の半数以上の国で実質長期金利がマイナスになっている。この状態は今後もしばらく続く見込み。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益を金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益が減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分が多くなり、理論価値が下がりやすくなる。
*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.5%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*景気拡大期の「良い金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場への影響の方が大きくなっている。ヴェリタス
*景気拡大期終盤の金利上昇では、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こりやすくなる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

■債務
・世界の債務は2021年9月に過去最高のGDP比350%に達している。12/17日経

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くとどこかで必ず逆回転が起こる。債務拡大ペースは10年近くGDP成長率を上回っている。
*債務の質は劣化しており、米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割超が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
*米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。5/10日経
*低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので、金利が上がりにくく、高債務の状態が維持されやすくなる。

*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨らみやすくなる。政府債務においても、多少の財政赤字を続けていても債務残高GDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている(参照)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。削減できなくても政府債務は実質的に返済不要なので特に問題なさそう。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで高まっている。中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性がある。参照
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。9/28日経

<バブルについて>
・バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。今回もバブルは発生しているが、投資主体はこれまでの民間から政府へとシフトしている。政府(中央銀行)が民間銀行から資金を借りて国債などの資産を買いまくっている。中銀が資産を売却すればバブルは破裂するが、中銀はインフレにこだわっており、また財政ファイナンスの面からも資産を売却する可能性は低い。中銀の借金は実質的に返済不要なので、その意味でも資産を売却する可能性は低い。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機(バブル崩壊)が起こりにくい。デフォルトが発生し、それが連鎖しても金融機関は7%超の自己資本比率を維持できるとされる。参照

■金融政策、財政政策
・世界中の中銀がインフレ対策で金融政策を引き締めに転じている。ただ景気が回復途上なのでそのペースは穏やか。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀が金利を2%まで上げると日銀は債務超過に陥るとされる。10/1日経
  *MMTと日本が行っている金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。

*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援をすることが必要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになる。しかし、これをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。参照

■政治
・日本の政治は比較的安定。岸田政権の支持率は安定して推移しているもよう(12/28日経)。ただ財政支出ではばらまき色が強く、その効果を検証する仕組みもないので、今後も愚策が繰り返されそう。日本の長期的な見通しはあまりよくない。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制が強化されつつある。今後成長力が弱まる可能性がある。
・米欧は格差拡大や価値観の分断を背景にしたポピュリズム(大衆迎合主義)が拡大しつつある。ポピュリズムは目先の利益を優先するので、成長力が落ちやすくなる。

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数は高水準で推移している。
 *景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は61と高水準で推移している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は69とさらに高水準で推移している。
 *同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える。
米国の失業率は減少傾向で現在は4.2%。
 *米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るといわれる。
 *失業率が最低水準(3.5%)まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
 *米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は足元ではやや調整気味だが、高値圏で推移している。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは50.3と中立の水準にある。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは横ばいで推移している。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は「物価上昇」のみ。
 *社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は1~2の段階になる。

■その他指標
・日米の騰落レシオは94、98と問題のない水準。
・日本株の信用評価損益率は-10.86%と問題のない水準。
・チャートは全体的に上昇チャート。ただマザーズだけは下降チャート。

長期計画チェック

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
イノベーションの加速とコロナの収束により景気は徐々に回復していきそう。ただコロナ時に積み上がった債務と、インフレ対策の金融引き締めにより、景気には強い下押し圧力もかかりそう。今後は景気鈍化と物価上昇が併存するスローフレーション(スローグロースとインフレーションの造語)のような展開になりそう。

<補足>
景気循環の基本的なパターンは不景気 →金融緩和 →失業率低下・債務拡大 →景気過熱 →インフレ過熱 →金融引き締め →債務圧縮 →景気後退の流れになる。足元では景気が過熱する前にインフレが過熱しているので、従来のパターンとは少し異なる。景気が過熱する前に金融引き締めをすると景気が鈍化しやすくなる。

■景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:金利上昇でバブルが崩壊し景気後退
世界の政府・民間債務はGDP比で過去最高水準まで高まっているので、米金利が中立金利の2.5%を超えて上昇していくと、バブルが破裂する可能性がある。ただ現時点で金利が大幅に上昇する可能性は低い。

景気後退シナリオ2:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務残高は積み上がっており、GDP比220%に達している(9/27日経)。景気下振れなどでいったんデフォルトが起これば、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。もしそうなれば政治的混乱が相まって不況が深刻化する。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

景気後退シナリオ3:中国が武力で台湾を併合して米中戦争が激化し景気後退
中国は台湾周辺の軍備を増強しており、2024年頃までに台湾を併合するという説がある(11/2日経)。実際にそれが起きれば米中戦争が激化し景気後退に陥る可能性がある。ただデメリットの大きな政策なので実際に起こる確率は低そう。

景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のようなパンデミックも株式市場には追い風で、社会構造・経済構造の転換や金融緩和などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。ロイター

ただし日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生し、財政破綻する可能性がある(参照)。

■今後の計画
円が100円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。ただ馴染みのある海外企業はすべて巨大なので株価の大幅上昇は見込みにくい。無理して買わないようにする。

よさそうな米国株は、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、フェイスブック、セールスフォース。

よさそうな新興国株は、インド株のETF、東京海上インドオーナーズ株式オープン。インドは人口ボーナスで2050年頃までは成長しそう。ただ、成長率の高い国はインフレ率も高いので株価が上昇しても為替差損で思ったほど利益があがらないかもしれない。
*GDP成長率とインフレ率は同程度になる。

よさそうな商品は銅。グリーン革命で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう。6/7日経

日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフランやスイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。 

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。しかし生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかし、そのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには中銀が通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した国債を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値(信認)が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなると通貨安・インフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は大暴落する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
5/3日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。