2021年10月1日金曜日

売買チェック 7~9月

 ■7月
・ペプチドリーム 半分売却 損益+145%
業績がしばらく横ばいになりそうだったから。小型株にシフトしようと思った。

ペプチドリーム株は5年くらい持っていたが、思った以上に上がらなかった。時価総額が大きく、割高感のある株は上がりにくいとわかった。

・イントラスト 買い増し
長期的な見通しがよく、下げ余地が小さそうだったから。

・ステムリム 買い増し
大型のストックオプションを発行したから。会社計画が順調に進んでいると思った。

しかしストックオプションIRの直後に下方修正を出して株価下落(笑)。こんなパターンもあるのかと思った。今回のような発行者側にリスクの全くないストックオプションはあまり参考にしないほうがよさそうだと思った。

■8月
・ペプチドリーム 一部売却 損益+115%
株価が怪しい下げ方(長期のサポートラインを勢いよく下抜け)をしていたから。調べてみると特に悪いニュースは見つからなかったが、パトリック社長が持ち株を手仕舞い始めていることがわかった(4月に持ち株比率を売買報告義務のない5%未満(4.99%)まで落としている)。3月に創業社長が辞め、5月にIR担当者が辞めていることもあり、潮目が変わったと思った。

創薬領域がレッドーシャンと気づいたのも売った理由。今は1つの疾患に対して抗体や核酸、放射線などいろいろなアプローチの仕方があるので、ペプチド薬に圧倒的な優位性があるわけではない。またペプチド薬においても、中外製薬がペプチスターを上回る投資をこの分野にしているので(7/27日経)、この領域においてもペプチドリームの独壇場ではないと思った。

今は世界中で創薬ベンチャーが勃興していることもあり、もうこの分野に素人が投資するのは難しそうだと思った。

<5年チャート> 短期線と中期線が長期線を下抜いているので、トレンドが変わったようにみえる。


・ペプチドリーム 買い増し
株価が4000円以下になり、さすがに下げすぎだと思ったから。確かに創薬市場はレッドオーシャン化しているが、薬価が安く、高い効果を期待できるペプチド薬の将来性・競争力は健在だと思った。テクニカル的にもRSIが20以下と「底」に見えた。

・イントラスト 買い増し
問題のなさそうな決算の後に売り込まれていたから。
今回の決算でネガティブな内容は3つ。
・家賃債務保証の普及率が約80%に達しており、伸びしろが少ない。
・医療費用保証の契約数がそれほど伸びていない。
・医療費用保証の売上が減った。
しかし、これらの情報は前回の決算でわかっていたこと。小型地味株は株価への情報の落とし込みが鈍いとわかった。こういうところにチャンスがありそうだと思った。

・ジモティー 一部売却 損益+10%
ジモティー株を買いすぎていたから。リスクを少し落とそうと思った。
チャート的には2300円あたりに「天井」があり、当面はそこを超えられないと思った。今回、株価が上昇したのは決算でのリップサービス(決算資料「ネット決済・配送代行の手数料売上を急拡大させる道筋もつきつつある」「短期的にはネット決済の手数料売上には成長の余地が大幅にある」)になるが、手数料収入が業績にインパクトを与えるほどに成長するにはしばらく時間がかかると思った。

<2年チャート> 予想に反してあっさり「天井」を超えてしまった笑。今回の上昇は出来高が少な目で、信用買い残を消化しながらのものなので、次の決算がパッとしなくても、高値圏を維持できるかもしれない。


■9月
・ペプチドリーム 全売却 損益+110%
ペプチドリームが9月に行った買収がいまいちだと思ったから。今回買収した会社は放射性医薬品を開発・製造する富士フイルムの子会社になるが、2つの問題があると思った。1つは会社が「重く」なってしまうこと。ペプチドリームはこれまで少数精鋭の開発に特化した会社だったが、従業員500人と工場を持つ会社を買収することによりやや重めの会社になってしまった。投資は創薬力を強化する部分のみにして欲しかった。

2点目はイノベーションを期待しにくいこと。放射性医薬品とPDCの相性はよいようだが、買収した会社は有望な放射性核種を持ってなさそう(もし持っていたら業態を医薬事業にシフトしている富士フィルムが300億円程度で売るはずがない)。これではイノベーション(新結合)が生まれないと思った。もちろん今後開発を進めていくだろうが、現時点での見通しは悪そうだと思った。

ペプチドリームは今回の買収で増資が必要になりそうだが、これでは応援できないと思った。

とはいえ、長期の成長シナリオが崩れたわけではないので観察は続けていく。

持ち株チェック

保有比率の高い順に見ていく。

■ジモティー
基本シナリオ:最強の地元取引プラットフォームに
9月に「ジモティーカー」という子会社を設立した。これはおそらく個人間の車売買をサポートする会社になる。個人間で車売買をする場合、手続きがややこしいという課題があるので、それを解決するのが目的になるのではないかと思う。

車の個人間売買の潜在市場は大きそうであり、また「ジモティー」では9月から15万円以上の高額取引はすべてエスクロー決済が義務づけられたので、この事業が軌道に乗れば業績が急拡大しそう。

8月にジモティーのエスクロー決済を使って出品してみた。すると交渉前にいきなり決済されてしまった。もしその後の交渉で都合が折り合わなかった場合はどうするのかと思った。システムにはまだまだ穴がありそうだと思った。

US版メルカリが米ウーバーと連携し、全米で「メルカリローカル」を始めた(7/21日経)。ウーバーが日本でもサービスを始めればメルカリは日本でも同じことをすると思うので、これはジモティーの脅威になるかもしれない。

ただメルカリは対面取引の「メルカリアッテ」を2018年にやめているので、「メルカリローカル」はネットだけで取引が完結する仕組みになりそう。対面取引主体のジモティーとは競合しないかもしれない。それにウーバーが日本でサービスを始めたらジモティーもそれと連携すると思うので、その意味でもメルカリがそれほど脅威にはならないのではないかと思う。

ジモティーは7月に自治体と地域住民をマッチングさせるシステム「LOCONET」β版の提供を開始した。このシステムは自治体の仕事を地元民に紹介するシムテムらしいが、いずれは地域情報の窓口のような存在に発展していく可能性もある。米ネクストドアのような存在に進化することも少し期待したい。

*ネクストドアとは2011年に米国で創業した会社。地域コミュニティーの会員同士の交流サイトを運営している。地元のイベントや小売店、レストランなどの情報の共有、グッズ交換などの活動の場を提供している。世界11カ国に約6000万人のユーザーを抱えている。日本にも一応進出している。収入源は広告で、2020年の売上高は約130億円、損失は約80億円になる(7/7日経)。この会社はいずれジモティーの脅威になる可能性がある。

ジモティーと業態が似ているフューチャーリンクネットワークがマザーズに上場した。この会社は地元情報をまとめたウェブサイトなどを運営する会社になる。事業の柱は地域情報流通事業、公共ソリューション事業、マーケティング事業の3つで、ジモティーと被りそうな事業は地域情報流通事業になる。この事業は「地元」をよく知る運営パートナーが地元の情報を集め、紹介する事業。今は新聞をとる人が減っており、ポスティングが難しくなっているので、それを補う役目があるという。収入源は地元事業社からの広告掲載料、運営パートナーからの加盟料・ロイヤリティになる。現在、全国の約740の市区町村で事業を展開しており、サイトの月間閲覧数は約820万回になる。この事業の売上高は約5億円で利益は約2億円。成長率は最大で20%程度になる。

フューチャーリンクの社長は「ライバルは折り込みチラシ、看板広告、ポスティング」といっているので、ジモティーの脅威にはならなさそう。・・この会社を調べていて気づいたが、ジモティーも地元企業の広告を載せられるようにしたらいいのにと思った(もうしているかもしれないが)。

ニュースに「日本の研究開発力が落ちている」(8/11日経)、「この20年間、賃金が全く伸びていない」(9/20日経)、「円の購買力は50年前の水準まで落ちている」(7/26ロイター)とあった。この調子でいくと日本の貧困化が進みそうなので、リユースがさらに活発化していきそう。ジモティーの活躍できる場が増えそうだと思った。

「ジモティー」の主要カテゴリーの投稿件数
・売ります・あげます 2020年10月 945116 →1月 1013333 →4月 1096141 →7月 1178114 →10月 1238714
・メンバー募集 69364 →71879 →74732 →77377 →80309
・助け合い 26203 →27226 →28662 →30099 →31277
・不動産 511537 →518859 →402393 →553245 →539483
・アルバイト 44585 →46999 →61359 →58679 →68459
・正社員 14002 →15335 →17574 →17149 →17817
・イベント         →31575 →32906 →34227
・中古車          →43199 →45112 →48214
・教室・スクール      →18364 →18958 →19491
・地元のお店        →13453 →14113 →14765
・里親募集         →7628 →7997 →8426
*投稿件数は削除されたものもあるので実際の投稿件数はもっと多い。

第3四半期の業績予想。
まずは第2四半期予想の振り返りから。前回の予想は「第2四半期の売上高は、第1四半期よりページビュー微減で、広告単価が微減~横ばいと想定すると、3億5千~3億8千万円くらいになりそう。第1四半期からの累計では7億5千~7億8千万円くらいになりそう」だった。

実際は、第2四半期の売上高は4億円で、第1四半期からの累計は8億円だった。予想よりやや上振れた要因は、ページビューと広告単価が微増だったことと、エスクロー決済手数料(2300万円)を考慮していなかったこと。

以上を踏まえて、第3四半期決算の売上高予想は、「第2四半期よりページビューが大幅減で、広告単価が微減、エスクロー決済手数料2600万と想定すると、3億~3億5千万円くらいになりそう。第1四半期からの累計では11億~11億5千万円くらいになりそう」になる。

通期の業績予想は4月に書いた「今期業績は売上・利益ともに10~20%程度の伸びになるのではないかと思う」から変化なし。

今後3年の予想売上高成長率は年率20%程度。現在の妥当だと思える時価総額は200億円(株価3300円、PSR13倍)くらい。2030年の予想売上・利益は現在の10倍くらい。

■ステムリム
基本シナリオ:再生誘導医薬でテンバガー達成
7月に下方修正を出したが、その理由が「新規契約の中止」ではなく、「レダセムチドのマイルストーン不足」だったので、それほど問題なさそう。ただ表皮水疱症の承認には追加の臨床試験が必要になったので、このマイルストーンが入るのは一年以上先になりそう。

表皮水疱症は患者数が少ないので、今回の追加臨床試験はやや誤算だったが、ある意味吉報でもあった。承認申請が予定より半年以上遅れていたので、レダセムチドに何か問題があるとは思っていたが、それが副作用ではなく、データ不足(再現性の確認)ということなので、本質的な問題はあまりなさそう。フェーズ2試験では副作用が少なく、著効例が半数近くあるとのことなので、追加試験はクリアできそう。それにしても、PMDAはどうしてこんなに結論を出すのが遅いのだろうか。この薬を待ちわびている患者が気の毒に思う(今のところ、レダセムチドよりも効く薬はない)。

心筋梗塞の治験は、治験の責任者が阪大を退官したようなので(掲示板情報)、自然消滅しそう。治験の発案者にやる気がなかったようなので、成功する見込みも乏しかったのかもしれない。

Yahoo!ファイナンス掲示板に「80代の骨髄中の組織幹細胞の数は新生児と比べると1/200から1/700まで減少する」とあった。調べてみると「骨髄中の組織幹細胞の数は80代では新生児の1/200まで減少します。幹細胞が減少することで傷ついた組織修復が行われなくなります。その結果さまざまな病気を発症する、これが老化です」(参照)とあった。

レダセムチドの脳梗塞治験は60~84歳を対象に行われているので、もしかするとこの治験は失敗するかもしれない。ラットでの非臨床試験では、おそらくこの点を考慮して高齢のラットを使っているとは思うが、資料にその情報がないので実際のところはよくわからない。

とはいえ、これは塩野義と阪大がやっている研究なので、この点を認識していないはずがない。なので、この点はそれほど心配しなくてもよいのかなと思う。また高齢者でもケガしたら普通に治癒するので、脳梗塞治験でも治癒するのではないかと思う。それと成長期に幹細胞が豊富にあるのは当たり前で、それと比較するのはここではあまり重要ではないように思う。

脳梗塞治験の結果は11月中にもわかりそう。成功したら持ち株はホールド、失敗したら売却していく。

コロナ肺炎の非臨床試験は順調にいったもよう。動物試験では肺の「抗線維化作用」、「抗炎症作用」、「上皮組織を再生する作用」が確認できたという。ただ決算資料では今後の方針については触れておらず、コロナ治療薬市場はレッドオーシャンなので、これ以上治験を進めるのは難しいかもしれない。ただ決算資料には「新規提携に伴う一時金が発生する可能性」ともあるので、もしかすると塩野義あたりと契約する可能性もある。

今後3年の予想売上高成長率は年率0~10%程度。業績が急拡大するのは早くて3年後。現在の妥当だと思える時価総額は600億円(株価1000円)くらい。2030年の予想利益は0~500億円くらい。

■イントラスト
基本シナリオ:債務保証事業で未収金撲滅
第1四半期決算は特に問題なし。医療費用保証は病院の評価が高いようで、継続率はほぼ100%とのこと。この商品を導入すると医療費の回収業務を専門業者に委託でき、未収金の回収率が上がるのでメリットは大きそう。コロナが収束したあたりから導入が加速しそう。

8月の動画説明会で医療費用保証の回収率が60%(家賃債務保証の回収率は98.5%)とわかった。以前書いたレポートで指摘していたとおり、やはり医療費の回収は難しそう。ただ病院からは保険料として前年の未収金の8~9割をもらっているようなので、ビジネスとしては成立しているもよう。

*補足
7月のブログに「医療費用保証スマホスを導入した病院で患者に「保証会社が集金する」と伝えると、アナウンスメント効果で未収金が大幅に減ったという」と書いたが、未収金が減ったのはアナウンスメント効果だけではなさそう。昨年はコロナの影響で患者が大幅に減っているので(9/1日経)、そちらの影響の方が大きかったのではないかと思う(動画説明会で質問したら否定されたが)。足元では患者数がコロナ前の水準に戻りつつあるようなので、来期からは未収金が増えそう。ただコロナ対策による感染症対策の影響で風邪や鼻炎などの感染症にかかる人が減っている。コロナ対策はまだ続きそうなので、これらの患者が以前の水準に戻るにはもうしばらくかかりそう。9/18日経

*訂正
7月のブログに「病院がスマホスを更新するときは前年の未収金額をベースに保証料を決めるので、未収金が減れば保証料も減る。となると、スマホスの利益率は今後低下していく可能性が高い」と書いた。しかしそれは間違いで、売上が落ちるだけで利益率は落ちない。

森ビルにイントラストの家賃債務保証が導入された。イントラストはクリーンな経営をしているので、それで選ばれたのかもしれない(創業以来、訴訟件数は0件)。イントラストの今後3年の成長ドライバーは家賃債務保証事業になるので、この調子でブランド力を高めて集客につなげてくれればと思う。

同業のジェイリースは法人向けの家賃保証事業で業績を急拡大させているが、イントラストは同事業には注力しないという。法人向けは、イントラストがいうところの「バッドリスク」が多く、引き受けられない案件が多いという。こういう堅実なスタンスには好感が持てた。

今後のイントラストの成長シナリオと予想業績をざっと書いておく。今後3年は家賃債務保証事業が業績を牽引して、24年3月期の売上高は80億、営業利益は20億になる(中期経営計画の数字)。その後は医療費用保証が業績を牽引し、27年3月期の売上高は130億、営業利益は27億になる。なお、この時点での医療費用保証スマホスの導入病院数は1600になる。

今後3年の予想売上高成長率は年15%程度。現在の妥当だと思える時価総額は200億円(株価900円、PSR4倍)。2030年の予想売上・利益は現在の4倍くらい。

■今後の計画
11月にもステムリムの命運が決まりそう。進捗に応じて売買していく。それ以外の銘柄は放置。

市場が荒れてVIX指数が40超、騰落レシオが70以下になったら株式を買っていく。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやインフォマートなど

■気になっている会社
なし。

■今後の計画
2020年7月にピックアップしたIPO株を検証し、2020年4月~2021年12月に上場したIPO株をピックアップしていく。

新日本科学

■調べようと思った経緯
ペプチドリームのIRを担当していた岩田氏が移籍した会社で興味がわいた。移籍に気づいた時点ですでに株価は上がってしまっていたが、8月の決算で急落し元の水準に戻った。決算短信を読むと伸びしろがありそうだったので調べてみることにした。

■どんな会社か
臨床試験の受託(CRO)など手がける会社。前臨床試験の受託では国内トップ。臨床試験の受託も順調に伸びている。他に点鼻薬の開発や地熱発電なども手がける。

業績は
19年3月期の売上高156億円、経常利益16億円
20年3月期の売上高145億円、経常利益31億円
21年3月期の売上高151億円、経常利益36億円
22年3月期(予)の売上高160億円、経常利益32億円
になる。CRO事業が売上・利益の9割以上を占める。
*臨床試験を手がける新日本科学PPDは持分法適用関連会社になる。業績は「持分法による投資利益」として経常利益に計上される。

■成長ストーリー
「CRO事業拡大で業績2倍、点鼻剤開発の成功で業績4倍」が基本シナリオ。

国内外の製薬会社は創薬業務への集中と、開発の効率化・スピードアップを目的に、創薬以外の業務をCROへ委託する流れになっている。また世界中で創薬ベンチャーが勃興している。これらの流れは今後も続く見通しで、新日本科学はここで発生するCRO需要を取り込んでいくことを基本戦略としている。

新日本科学が受託する前臨床試験の業務量は年率約12%のペース(過去5年平均)で伸びている。中でも海外からの伸びが著しく年率約40%伸びている。海外比率は現在2割程度だが、海外の市場は国内の約14倍あるので、今後はこちらが事業の牽引役になる見込み。国内の方も「包括受託」が増えており、こちらも順調に伸びていきそう。

CROを手がける会社は国内外に数多くあるが、新日本科学ならではの強みが2つある。1つは豊富なノウハウがあること。新日本科学は国内初のCROで、臨床試験の受託に関して豊富な経験と知識がある。最近では業務の効率化・スピードアップに成功しており、顧客の臨床試験の早期開始に貢献している。

もう1つは国内で唯一、自社グループ内で実験動物(霊長類)の繁殖・供給体制を確立していること。現在の創薬形態の中心は抗体医薬や核酸医薬(遺伝子医薬)になるが、これらの治験では実験動物に大型の霊長類を使わなければならないというものが増えている。新日本科学は中国とカンボジアに繁殖施設を持っており、新型コロナの感染拡大で中国が試験用動物の輸出を停止する中、カンボジアから調達して前臨床試験を滞りなく進めている。新日本科学は今後この分野にさらに投資をして供給体制を強化していく方針。

臨床試験を手がける新日本PPDも、2015年の事業開始以来、右肩上がりの成長を続けている。従業員数は300人から700人超へ倍増しており、2020年の売上高は102億円、経常利益は20億円になる(このうち新日本科学の業績に反映される利益は約8億5千万円になる)。

2つ目の成長の柱がトランスレーショナルリサーチ事業になる。この事業は基礎研究を臨床研究へと橋渡しする事業になる。新日本科学はここで見つけた有望なシーズを育てる事業もしている。

新日本科学が注力しているのは鼻粘膜への吸収力を高めた点鼻技術・NDS(Nasal Delivery System)になる。NSDを使って開発する薬は2種類あり、1つはレスキュー投与剤(即効性のある薬)で、もう1つは脳(中枢神経)へ薬剤を届けるものになる。脳の血管内にある血液脳関門を通過する技術は製薬企業の重点開発領域になっており、新日本科学は点鼻剤でこの壁を突破しようとしている。非臨床試験ではNDSを使い薬の高い脳移行性を確認している。ここで使用する薬は既存薬なので、新薬を創製する場合と比べ、開発期間を大幅に短縮することができる。

新日本科学が2016年に設立し、その後スピンオフした米サツマファーマティカルズはNDSを用いた偏頭痛薬の開発を行っている。昨年9月にはフェーズ3の治験で失敗しているが、現在条件を変えて再びフェーズ3治験を行っている。結果は来年の後半頃にわかる予定。この会社はナスダックに上場しており、新日本科学の「重要投資先」になる。
*スピンオフとは子会社や事業部門を親会社と資本関係のない独立した会社にする方法。

2012年には東大とハーバード大の教授らとウェーブ・ライフ・サイエンシズを設立。この会社は核酸医薬を合成する立体制御技術を持っており、その技術で作った多くのパイプラインを有している。現在、武田薬品に複数の医薬品を導出しており、そのいくつかは臨床試験に進んでいる。他にゲノム編集技術「ADAR」という技術も持っている。この会社はシンガポールにありナスダックに上場している。新日本科学はウェーブ社の12%の株式を保有しており、新日本科学の重要投資先となっている(貸借対照表では「その他有価証券」に分類される)。

地熱発電事業も手がける。発電事業では新日本科学が使用する電力の55%に相当する電力を発電しており、今後はカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量を会社全体としてゼロにする)を目指すという。発電した電力を生かしたキノコ栽培やニホンウナギの完全養殖も手がける。ニホンウナギは絶滅危惧種であり国内需要は旺盛なので、完全養殖が軌道に乗れば大きな収益源になる可能性がある。

■問題点
・臨床試験事業は急成長できない
(前)臨床試験の受託は人手や設備が必要なので、たとえ需要が旺盛でも受託を一気に数倍に引き上げることはできない。そのためこの分野の成長は穏やかになる。

・現在の受注増は特需の可能性がある
昨年は海外からの受託が倍増しているがこれは特需の可能性がある。実験動物(霊長類)の最大の供給国は中国になるが、一昨年から中国はコロナ対策として輸出を一時的に止めている。新日本科学の受託が増えたのはその影響を受けた可能性が高い。中国が輸出を再開すれば新日本科学の受託量が落ちる可能性がある。

・受注が限界に達している?
新日本科学は経産省などが選定する「健康経営ホワイト500」に5年連続で選定されているが、就活サイトの口コミを見ると「稼働率アップを目指して土日祝休みをやめた。業務量オーバー。遅延が状態化。明らかに業務全体でトラブルやミスの発生が多くなっている。誰も生き生きとしておらず、ため息と不満と愚痴をもらしながら毎日やっている。このような状態では結婚、子育てといった将来の人生設計は難しい」といったものもある(参照)。これは匿名の、退職した人の一意見であるので、どこまで参考にしてよいのかわからないが、もしこれが事実だとしたら、”臨界点”が近づいていることになる。

新日本科学は「業務プロセスを効率化し、高稼働の状態を維持している」といっているが、この発言の信憑性を見極めるにはしばらく時間がかかりそう。

・点鼻薬の競争力
点鼻薬の技術開発競争はレッドオーシャン化しており、アナログ的な技術でもあるので、たとえ画期的な技術を開発しても、大きな差異化を図り続けるのは難しそう。正直あまり期待できない。

・重要投資先の2社は期待できない
サツマ社は現在、片頭痛薬のフェーズ3に再チャレンジしているが、ここで試している片頭痛薬は片頭痛の第一選択薬ではないエルゴタミン製剤になる。加えて、片頭痛の新薬は次々と出てきているので(9/9日経など)、たとえ治験が成功しても大きな利益は得られなさそう。

ウェーブ社の方は現在、一部のパイプラインが臨床試験に入っているようだが、最新資料を見ると進捗状況がぼやけている。以前はファイザーとも提携していたようだが、現在は資料からその名前が消えている。2019年には筋ジストロフィー薬の治験に失敗しており、全体的にあやしい雰囲気が漂っている。

両社の詳しいファンダメンタルズは知らないが、株価チャートを見ると、すでに盛りを過ぎた企業に見える。もし息を吹き返したら面白そうだが、そうなる可能性は低そう。
<サツマ社の2年チャート>

<ウェーブ社の10年チャート>

・ウナギ事業が業績にインパクトを与えるのは当分先
新日本科学は昨年9月にニホンウナギの完全養殖に成功した。ただ、受精卵からシラスウナギへの生育率は約1%で、もっと高い生育率で成功している研究機関もある。それらの研究機関はコスト面の問題から商用化には進んでいないようだが、大手企業と協業したら手強い競合になる可能性がある。

新日本科学には動物飼育に強みがあり、また発電事業の電力を利用できるので、コスト競争力はありそう。またこの事業はウナギ養殖の盛んな鹿児島で行っているので、その意味でも優位性がありそう。

ただそれでも事業が業績にインパクトを与えるほどに成長するまでは時間がかかりそう。2023年頃には生育率を10%まで高め、ウナギを1万匹出荷する予定とのことだが、1匹2000円で売ったとすると売上は2千万円にしかならない。業績にインパクトが出る100万匹、売上20億円くらいにするには少なくともあと5年はかかりそう。

・動物愛護団体から圧力を受ける可能性がある
大型動物を使った治験が増えているが、一方で社会的に動物愛護の機運も高まっている。一部の動物愛護団体は過激な行動をとることもあるので、そこでなんらかのトラブルが発生する可能性がある。ただ、新日本科学は動物福祉などに配慮しながら前臨床試験を行っているようなので、この点は大きなトラブルに発展する可能性は低そう。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★★
・参入障壁は高いか ★★★★ CRO事業は高い。この事業には高度なノウハウが必要なので簡単には参入できない。ただしWDBホールディングスなど手強い競合はいる。ウナギ事業の参入障壁もそこそこ高そう。それ以外の事業は低い。

・ストック型収益か ★★★☆ アステラス製薬や中外製薬との包括的受託提携はストック型。他の臨床試験受託も年々積み上がっているように見えるのでほぼストック型になりそう。

・成長市場か ★★★★ 製薬会社が創薬以外の業務をCROへ委託するのはメガトレンド。勃興する創薬ベンチャーの受け皿にもなれそう。ただ新日本科学PPDが手がける国内臨床試験の伸びしろはそれほどなさそう。

■チャート
<5年チャート>「岩田相場」はいったん終了した模様。チャートは上昇トレンドを保っており、上値は軽そう。


■まとめ
ナスダックに上場する2社や点鼻剤開発は厳しそうだが、CRO事業はゆっくり成長していけそう。将来的にCRO事業の売上・利益は現在の2.5倍くらいまで成長できる可能性もある。ただそれでも株価3倍を目指せないので投資対象にはならない。とりあえずもう少し観察を続ける。

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:1.4%~2.4%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↑
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2021年の経済成長率は+5.5~6.5%、インフレ率は+4.2%になる見込み。2022年は経済成長率は約3.5~4.5%、インフレ率は約2.2~3.2%になる見込み。

・金融政策→
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げており、この水準を2021年いっぱいは続ける予定。利上げは2022年後半から開始して、23年末には1.00~1.25%、24年には1.80%程度になる予定(9/23ロイター)。ただ世界の政府・民間債務は3京円を超えているので、利上げは1.5%程度が限界になるかもしれない。

FRBのテーパリング(資産購入の縮小)は11月あたりから始まりそう。テーパリングによりインフレや経済成長は抑制されるので、長期金利には下押し圧力がかかる。テーパリング完了後、FRBは約1000兆円のバランスシートをしばらく維持する予定なので、ここで償還債券再投資の巨大需要が生まれる。これもまた長期金利の上昇を抑制する。

*2022年半ば頃にはFRBの国債購入がゼロになる予定だが、FRBの購入分(月8兆円)以上に国債発行量が減るので(月9兆円)、需給的にはバランスがとれるとされる。8/28日経8/30ロイター

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020年、2021年はコロナの影響で300兆円を超える(7/2日経)。米国債の供給過剰や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかる。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
リスクオン要因は金余りとコロナの沈静化。
リスクオフ要因は経済成長の鈍化と金融政策の転換。

・利回り上昇による米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高いので、海外勢から買われやすくなっている。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれる。

・金余り↓
金余りで運用難に陥っている金融機関や企業は多い。そういうところがこぞって米国債を買っている。7/28日経

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れなども減っている。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は長期的な低下傾向にある。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・米国債のデフォルトリスク↑
米議会で債務上限の引き上げが難航しており、米国債がデフォルトする可能性がある。ただ過去の例では、デフォルトは土壇場で回避されている。

・チャート→
<10年チャート>
長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。

■WTI原油 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:50ドル~90ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2021年の世界経済成長率は+5.5%程度、2022年が+4%程度になる。

ただ長期では、職場や学校のリモート化などにより、需要がコロナ前の水準に戻ることはなさそう。また温暖化対策で石油需要は減っていきそう。とはいえ、世界人口は2060年頃まで増える見込みなので、石油需要が激減する可能性は低そう。

・産油国や再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドル、再生可能エネルギーは40~100ドルになる。原油価格はこの範囲内で収まる可能性が高い。

・供給↑
OPECプラスは供給をやや絞っている。米シェールオイルの生産は鈍いまま。

長期では、欧米メジャーが脱炭素の潮流を受けて油田、ガス田への投資を大きく減らしており、一方需要は微増になると予想されているので、供給不足に陥る可能性が高い。9/19日経

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環として原油が買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

・米政府の介入→
バイデン政権は脱炭素を公約に掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。

・チャート
<10年チャート>
上昇トレンドに転換したように見える。

■ドル円 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:100円~115円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策→(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(92円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では大規模な緩和をしている。ただ、その緩和ももうじき終わりそう。

・日米の長期金利差↑
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差が拡大傾向にある。今後も拡大する見込み。拡大により足元ではキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
日本と米国はコロナ対策でともに巨額の財政出動をしているが、米ドルは基軸通貨なので、今後、より思い切った財政政策をとることができる。IMFの試算では、2021年の米国の財政出動は名目GDPの28%程度、日本は15.6%程度になる。3/12日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。

・ドル需給↓
FRBがドルを大量供給しているので足元ではだぶつき気味。そのさなかに米国では巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後は大幅なドル安になっている。参照

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式を買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。2020年の買越額は20兆円になる。日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資が増えている。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、2020年はコロナの影響で対外直接投資は例年の半分以下まで減っている。日経
*対外直接投資額のうち外貨建ては半分程度になる。

・米経常赤字の拡大→
米経常赤字はコロナ禍で急拡大している。米経常赤字の拡大は外貨の需要を高めるのでドル安圧力になる(6/24日経)。ただしこれは一過性になりそう。

・日本の経常収支↑
生産の現地化や輸入品の増加により貿易黒字は減少傾向にある。2019年の貿易黒字は5000億円、2020年は6700億円になる。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるので円買い需要は半分(10兆円)程度しか生まれない。
*2020年の経常収支は17兆7千億円になる。

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低い。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただ、これと同じことは米国にも言える。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月頃から売り持ちに転じている。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

*コロナ禍で日米のインフレ格差が広がっている。この状態はあと2,3年は続きそうなので、円には強い円高圧力がかかりそう。

・チャート
横ばい気味。ボックス圏で推移しそう。
<10年チャート>

■日経平均 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(2/16日経)、中銀の総資産の増加は2021年いっぱいは続く見通し。2022年は微増で、それ以降は横ばいになりそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約6.2%、配当利回りは約1.9%と、日本長期国債の利回り0.07%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
下がったときは日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2020年の主な投資主体の売買動向>
 日本銀行:8000億円の買い越し。
 事業法人:5000億円の買い越し。
 海外投資家:1兆4千億円の買い越し。
 個人投資家:400億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2021年の予想EPSは+20~30%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は狭いレンジ内に留まりそうなので大きな影響はなさそう。

*これまでは円安の方が日本企業にとって有利とみられていたが、現状では生産拠点の現地化などにより円安の恩恵を受けにくくなっている。円高の方が日本企業にとってプラスという試算もある。8/4日経

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。来年以降はコロナが収束し世界景気が回復しそうなので企業業績も上向きそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響でやや高水準で推移している。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費はほぼ横ばいだが、資源価格は上昇している。

・金融政策↑
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境が悪化する。現在は金融緩和をしているので金融環境は良好。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは14倍程度。

投機筋の持ち高
買い残は1兆2000億円で、裁定売り残高は1100億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」になる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。日経

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価が下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで上昇している。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなるという欠点がある。7/18日経

・チャート↑
青天モードに入っているので上値は軽そう。
<10年チャート>

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2020年のEPS増減率は-30~-10%、2021年は35%。
・米国株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は36%。2022年は12%。
・欧州株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は35%。
・日本株式の2020年のEPS増減率は-8%、2021年は35%、2022年は13%。
*参照:3/12日経5/29日経7/26日経など
*今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化で設備投資や人件費も減少しているので、利益が増えやすくなっている。

■経済成長率
・世界の2020年の成長率は-3.5%、2021年は6.0%。
・米国の2020年の成長率は-3.4%、2021年は6.4%。
・中国の2020年の成長率は2.3%、2021年は8.4%。
・ユーロ圏の2020年の成長率は-7.2%、2021年は4.4%。
・日本の2020年の成長率は-5.1%、2021年は3.3%。
*数値はIMF予想。1/27日経4/7日経

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標のGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナ禍ではGDPが大幅に落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えたとの試算もある。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が上がっていれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。5/8日経

*経済の持続的な成長には健全なリスクテイクが必要になるが、今回のコロナのようなテールリスク(確率は低いが起きれば影響が大きいリスク)が実際に起きてしまうと、人々は恐怖を植え付けられ、リスクを取らなくなってしまう。そのため今後の経済は伸び悩む可能性がある(1/5日経)。ただ足元ではコロナ前を上回るほどに起業が増えているようなので、リスクを取らなくなるのはコロナで被害を受けた一部の業種にとどまるのかもしれない。6/27日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2020年が1.3%、2021年は3.5~4.5%、2022年が2.2~3.2%。
・欧州の予想インフレ率は2020年が0.3%、2021年は1.5~2.5%、2022年が1.5~2.5%。
・日本の予想インフレ率は2020年が0.2%、2021年は0.5%、20222年が0~1.0%。
米10年物価連動債利回りから算出される現在の米国の予想インフレ率は約2.3%になる。

*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手側は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起こると価格がゼロに近づく。
*コロナ禍ではデジタルサービスの普及が加速しているので、ますますインフレが起こりにくい土壌ができつつある。
*イノベーションの恩恵はアイデアや資本の出し手に集中するため、所得配分は富裕層に偏りやすい。富裕層は消費性向が少ないため、総需要は供給量に比べて少なくなる。
*経済のデジタルシフトは「人」の代替ともいえるものなので、デジタルシフトが起こると人の賃金が上がりにくくなる。所得の増えない経済では支出が増えず、インフレが起こりにくくなる。

*ただし、コロナ禍では米国で賃金が大きく上昇している。8月の賃金の伸び率は前年同期比4.3%になる(9/4ロイター)。米国の7月の求人件数は1090万人で、失業者数は870万人と求人件数よりも少ないので、賃金には当面、上昇圧力がかかりそう。9/9日経
*とはいえ、現在のように失業率が5%超の高い水準では、総需要が盛り上がりにくいのでインフレが起こりにくくなる。
*インフレは需要が供給を上回るときに起こるが、需要はコロナ前から全体的に停滞気味。今後失業率が低下しても需要は停滞する可能性が高い。
*先進国では高齢化が進んでいるが、高齢者は支出が少ないので、インフレが起こりにくくなる。

*コロナでは人手不足や建材価格高騰などの影響で米国の住宅価格が大きく上昇している。建材や建設作業員の供給不足の解消には時間がかかりそうなので、住宅価格は今後も高水準で推移する可能性が高い。住宅価格や家賃はCPI全品目のうち3割強の寄与度があるので、指数への影響が大きくなる。
*米国ではインフレが高水準で推移しているが、これはバイデン政権による200兆円の現金給付の影響も大きい。ただしこれは一時的な援助金なので、一過性のものになる。
*コロナで供給基盤が破壊されているので、それが元に戻るまではインフレが発生しやすくなる。
*金融緩和により原油などの商品価格は押し上げられており、これもインフレ圧力になる。

*中央銀行の最大の責務は「物価の安定」になる。中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行う。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、2%を下回りはじめているので(今は別)、今後長期で金融緩和が続く可能性は高い。ただ、今はデジタル経済や商品価格の停滞、少子高齢化、グローバリゼーションなどで構造的にインフレが起こりにくくなっているので、中銀のインフレ目標には無理があるようにも見える。
*FRBはインフレ政策を強化しているが、その副作用で金融バブルが醸成されつつある。今後、金融バブルが崩壊した場合は金融システムや経済が大きなダメージを受け、それがインフレ低下につながる恐れもある。
*コロナ対策で世界中の中銀が通貨を大量に供給しているが、これは通貨価値を下落させるのでインフレ圧力になる。
*社会がデジタル化するとあらゆる動きがデータで把握できるようになり、データに基づいた的確な政策を実施できるようになる。2025~2030年頃にはインフレに代わる新たな”経済の体温計”が生まれそう。

■金利
・米国の2年金利は0.29%で10年金利は1.51%。30年金利は2.07%。
・日本の2年金利は-0.12%で10年金利は0.07%。

*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスになると銀行などに資金を預けても実質的に目減りするため、株式や商品、不動産などに資金が流れやすくなる。現在、G20の約半分の国で実質長期金利がマイナスになっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー(現金収支)を割り引いて企業価値を算出する。金利が上昇すると割り引く分が多くなり、将来のキャッシュフローの創出期待が大きいグロース企業の理論価値は下がりやすくなる。
*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.5%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*景気拡大期の「良い金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では株式市場への影響は長期金利上昇よりも政策金利引き上げの影響の方が大きい。1/16ヴェリタス
*景気拡大期終盤の金利上昇では、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。
*低金利が続く環境では企業の資金調達が容易になるので株式上場は減っていく。またM&AやLBOが増えるので上場企業も減っていく。ロイター

■債務
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比220%で上昇傾向(2021)。これは日本のバブル期(218%)を上回る。9/27日経
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で微増傾向(2019年)。
 *GDPは債務返済能力の代理変数になる。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
・コロナ禍で政府債務は急膨張している。IMFは「21年の先進国の政府債務はGDP比125%と過去最大になる。新興国の政府債務も21年にはGDP比で65%と過去最大になる。国別では日本が突出し、19年の238%から21年には264%になる」と言っている。参照参照
・米政府が抱える債務残高は22年度末の32兆ドル強から31年度末には44兆ドル強に膨らみ、対GDP比率は130~140%になる見通し。6/5ヴェリタス

*2019年の米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる(2019/7/19ダイヤモンド)。債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回った状態が続くと、どこかで必ず逆回転が起こる。
*米企業はコロナ禍で借り入れを増やしており、2020年7月には負債総額が過去最高のGDP比83%まで上昇している。一方、企業の債務返済能力は歴史的水準まで低下しており、格付けを下げられる企業が急増している。格付けがジャンク債まで低下するとFRBの支援措置を受けられなくなり、破綻する可能性が高まる。参照参照
*債務の質は劣化しており、2019年には米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
*2020年、20221年は低格付け債(ジャンク債)の発行が過去最高ペースになっている。2/21日経4/11日経
*米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。5/10日経
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(貯蓄余剰になると、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので金利が上がりにくくなる)。
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。

*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨らみやすくなる。政府債務においても、今のように国債金利がGDP成長率を下回っている状態では、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる(参照)。
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている(参照)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中で財政支出を減らすと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで高まっている。中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性がある。参照
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費(政府債務)が膨らみ、政府債務が急速に膨張する可能性が高い。9/28日経
*新興国や資源国の債務も膨張している。このまま景気停滞が続いた場合はデフォルトリスクが高まる(参照)。足元で進んでいるドル高はドル建て債務の返済負担を重くするので、それもまたデフォルトリスクを高める。

■金融政策、財政政策
・コロナ対策で先進国の中銀は金融緩和を続けているが、メキシコやブラジル、ロシアなどの新興国はインフレ対策で金融引き締めに動いている。
・カナダや英国、ノルウェー、ニュージーランド、アイスランドの中銀は景気回復により緩和縮小・利上げに動き始めている。しかし、”世界の中央銀行”である米中銀(FRB)に歩調を合わせないと自国通貨高になるので、縮小ペースは穏やかなものになりそう。5/31日経6/16日経
・米国も金融緩和の縮小に動き始めている。しかし緩和終了までの道のりは長いと言われている。9/14日経

*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今はそれが起こりにくい。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止、資産価格の上昇になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下、資産価格の過度な膨張になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率が落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレ率も落ちていく。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい土壌を作っていることになる。
*金融緩和が長引くほどリスク投資は膨らみ、金融正常化の際に市場の混乱が大きくなる。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益力が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。

*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。日経には財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げられるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できる、とある。このような投資に該当するものは出生率向上策や気候変動への取り組みなどになるという。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げることができない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上がる、という悪循環に陥ってしまう。
  *MMTと日本が行っている金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ない。
*今回のコロナを機に先進国はMMTのような政策に移行したように見える。
*現在行っているMMTのような政策はインフレが生じる前にコロナを制圧できるかが重要になる。それができない場合は深刻な景気後退が避けられなくなる。
*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援をすることが必要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになる。しかし、これをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。参照

■政治
・日本の政治は比較的安定。ワクチン接種は順調に進んでおり、選挙も順調に終わりそうなので、12月頃には政治も落ち着きそう。・・と思っていたら岸田さんが首相になってしまった。岸田さんはパッと見は悪くないが、キャラが薄い印象があるので、首相としてはどうなのかなと思う。拙速な財政健全化に動きそうな雰囲気があり、金融所得課税(株式譲渡益や配当金などへの課税)を引き上げる方針のようなので、株式市場にはネガティブな存在になりそう。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国では独裁体制や監視体制が強化されつつある。この調子でいくと小説『1984』の世界が現実のものとなるかもしれない。
・英国はEUから「合意ありの離脱」をしたが、EUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のEU離脱時のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは弱まっている。ただ失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
*コロナ危機は、コロナ前からくすぶってきた格差問題をさらに悪化させている。今回のコロナショックは中小企業や非正規労働者などの「経済弱者」を直撃し、一方で、大規模な金融緩和により「経済強者」の富を一段と拡大させている。格差問題が深刻化すると、社会的結束が損なわれ、政治が二極化し、社会が不安定化しやすくなる。
*富裕層の支出性向は低く、富が循環しないため、格差が拡がると経済成長が鈍化しやすくなる。
*現在、政府や家計の債務は富裕層の貯蓄で手当されている。その債務は膨らみ続けており、それに伴い富裕層の貯蓄も膨らみ続けている。格差の拡大はこのような経路でも起きている。この流れを止める唯一の方法は、政府が富裕層から巨額の税金を徴収して、それを一般市民に再分配することになる。日経

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数は高水準で推移している。
・世界景気の先行指標である世界新車販売台数は2018年、2019年と2年連続で減少していたが、足元ではやや回復しているもよう。*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は高水準で推移している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数もしかり。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える)。
米国の失業率はコロナショックで4月に戦後最悪レベルの14.7%まで上昇していたが、足下では5.4%まで改善している。ただこの失業率には「理由不明の休職者」は含まれていない。それを含めた失業率は約8%になるともいわれる。3/4ダイヤモンド6/15日経8/28ヴェリタス
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るといわれる。
*失業率が最低水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標になるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んに行われるが、2018年、2019年はまさにその状態だった。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は高値圏で推移している。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは9月に節目の50を割りこんでいる。*PMIは生産や受注が前月と比べて増えたかどうかを調べるものなので、節目の50を超えたからといって必ずしも経済が全面的に回復したということを意味しない。
・マクロ経済の不透明感を表す経済政策不確実性指数は低位で落ち着いている。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りはコロナショックで一時大きく上昇したが、FRBが低格付け債を買い入れることを決めてから持ち直している。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は「物価上昇」のみ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照
・米株式市場の証拠金債務(信用取引の買い残高)は米GDP比4%(90兆円超)と過去最高水準にある。過去1年では7割増加している。1930年以降は増加率が6割を超えたところから株式相場が調整することが多かった。今後、金利上昇を起点に逆回転が始まる可能性がある。5/1日経
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は1の段階。

■その他指標
・日米の騰落レシオは122、95と問題のない水準。
・日本株の信用評価損益率は-7.68%と問題のない水準。
・チャートは全体的に上昇チャート。

長期計画チェック

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
コロナの沈静化に伴い景気は徐々に回復していきそう。ただ、今回のコロナ禍では債務がさらに積み上がっているので、景気回復は穏やかなものになりそう。

コロナ収束以外に景気回復を促す要因がいくつかあるので、それらを一通りみていく。
・イノベーション(生産性の向上)は経済成長の最も基本的な原動力になるが、今は世界中でデジタル革命などのイノベーションが起きている。*経済成長の原動力は他に「労働力の増加」と「実物資本(耐久生産財)の増加」がある。
・ネット社会では情報を集めやすく、人が繋がりやすいので、イノベーション(新結合)が起こりやすい。現在はそこにビッグデータとAIが加わっているのでイノベーションが加速している。*AIは一見無関係に見えるもの同士の関連性(新結合)を見つけるのが得意。
・バブルは借金をして資産を買いまくることにより生じるが、今回そのような現象はあまりみられない。現在起きている「金融バブル」は中央銀行が民間銀行から資金を借り入れて通貨を発行し、その通貨で国債などの資産を買い入れることにより生じている。そのため破裂しにくい。(日米欧の中銀の総資産はリーマンショック前の4倍超の2100兆円まで膨らんでいる。日経)。中銀が資産を売却すればバブルは崩壊するが、中銀はインフレにこだわっているので、資産を売却する能性は低い。
 *足元では従来型のバブルも醸成されているもよう。2021年4月末時点での米機関投資家や個人の信用取引口座の借入残高は過去最高の92兆円まで膨らんでいる(5/24日経)。日本の株式市場でも信用買いの残高は積み上がっている。5/22ヴェリタス
・社債市場はバブル気味だが、今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では金利が上がりにくく、バブル(高債務)の状態が維持されやすい。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機が起こりにくい。コロナの影響でデフォルト連鎖が起きても金融機関は7%超の自己資本比率を維持できるとされる。参照
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国有企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。たとえ削減できなくても、国有企業の債務は政府債務であり、政府債務は基本的には返済不要なので、デフォルトする確率は低そう。
・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。

景気後退シナリオもいくつかあるのでそれらも一通りみていく。
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景気後退シナリオ1:災害や紛争で景気後退
日本ではいずれ必ず南海トラフ地震が起こるといわれており、中東では紛争などの地政学リスクが高まっている。こうした問題が実際に起きれば景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、このようなことが起こると必ず政府や中銀が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば経済はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれている。

しかし、今回のコロナのように問題が大きく、長引きそうな場合は、そのまま景気後退に陥ることがある。ただそこでも政府や中銀が大規模な支援策を講じるので、景気は反発しやすくなる。歴史的に見ると今回のようなパンデミックは株式市場には追い風で、社会構造・経済構造の転換や金融緩和などにより、長期にわたる株高が発生しやすくなる。ロイター

*日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生し、深刻な景気後退(もしくは財政破綻)に陥る可能性が高い(参照)。2つが同時に起きる可能性はそれほど高くはないが、政府は首都直下型地震、南海トラフ地震いずれについても30年以内に起きる確率を70%としている。1/22日経
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景気後退シナリオ2:インフレが過熱して景気後退
景気循環の従来のパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→景気拡大→インフレ過熱→金融引き締め(金利上昇)→債務圧縮→景気後退になる。足元では米国でインフレが高進しているが、インフレは構造的に持続しにくくなっているので、高インフレは一過性で終わりそう。ただ、今後2,3年は高インフレの状態が続く可能性もあり、それが引き金となって景気後退に陥る可能性もある。
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景気後退シナリオ3:中国の債務バブル崩壊で景気後退
中国の民間債務残高は積み上がっており、GDP比で220%になる。これは日本のバブル期のピーク(218%)を上回る(9/27日経)。足元では習政権が格差是正へ向けて「共同富裕」のスローガンを掲げており、不動産融資の締め付けや、IT企業や教育産業、芸能界への統制を強めている。一方で、高齢化の進展などにより財政赤字の悪化ペースが速まっている(9/28日経)。この調子でいくと経済成長が大幅に鈍化する可能性が高い。

景気下振れなどでいったんデフォルトが起これば、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。景気後退に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムともいわれるので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性がある。これらの政治的混乱が実際に起これば不況はさらに深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。
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景気後退シナリオ4:マイナス金利により金融機関が破綻して景気後退
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。しかし現時点では中銀が民間金融機関に配慮しながら金融政策を行っているので、穏やかな統廃合で済みそう。
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景気後退シナリオ5:中銀のインフレ政策が限界に達して景気後退
先進国の中銀はこれまで金融緩和で市場を支えてきたが、その金融緩和が限界に達しつつある。今後市場は支えを失い、大崩れする可能性がある。ただ、中銀の通貨供給能力は健在なので、今後は財政をファイナンスする形で市場を支えていけそう。
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景気後退シナリオ6:中国が武力で台湾を吸収して米中戦争が激化し景気後退
中国は台湾周辺の軍備を増強しており、14年にロシアが行ったクリミア併合を手本に、台湾を吸収するという説もある。もしそれが起きれば米国は反発するので、米中戦争が激化する可能性が高い。そうなると世界経済が大混乱し景気後退に陥る可能性が高まる。ただ中国がこの作戦を実行するとデメリットが甚大になるので、実際にやる可能性は低そう。
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株価下落シナリオ1:米政府の格差是正政策により株価下落
バイデン政権は格差是正を政策の柱に掲げており、企業や富裕層への増税機運が高まっている。法人税が引き上げられれば企業利益は(約5%)押し下げられ、キャピタルゲイン税が倍(40%)になれば増税前の利益確定売りは避けられない。増税は2022年にも始まる可能性があり、そうなると米株は売られやすくなる。9/14日経

またバイデン政権は「小さな政府」から「大きな政府」に転換して、政府主導の成長戦略も描いている。大規模な公共投資はその代表例で、もしそれが実行されれば金利には上昇圧力がかかる。巨大IT企業への規制強化も検討しており、(6/30日経)、それが実行されれば、IT企業は大きなダメージを受ける。

■今後の計画
円が90円台まで上昇したら、株価3倍以上を狙える海外株などを買っていく。ただ馴染みのある海外企業はすべて巨大なので株価の大幅上昇は見込みにくい。無理して買わないようにする。

よさそうな米国株は、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、アップル、フェイスブック、ツイッター、セールスフォース、ドキュサイン、ファイバーインターナショナル。

よさそうな新興国株は、インド株のETF、東京海上インドオーナーズ株式オープン。インドは人口ボーナスで2050年頃までは成長しそう。ただ、成長率の高い国はインフレ率も高いので株価が上昇しても為替差損で思ったほど利益があがらないかもしれない。
*GDP成長率とインフレ率は基本的に同程度になる。

よさそうな商品は銅。グリーン革命で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足になりそう。6/7日経

日本円と米ドルが暴落しそうになったら、スイスフランやスイスフラン建てのETF(UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35))を買っていく。 

■今後の株式市場について
日本や米国の公的債務は返済不可能な水準まで積み上がっており、この巨額の債務を返済するには財政を健全化するか、インフレを起こすしかない。しかし生活者に余裕のない状態で財政を健全化しようとすると逆効果になるので、現実的にはインフレを起こすしかない。

しかしそのインフレもデジタル化やグローバル化などの影響で起こりにくくなっている。この状態でインフレを起こすには通貨を大量供給するしかない。現在、政府が大量発行した国債を中銀が買い取る形で通貨を大量供給しているが、この構図は今後もしばらく続く可能性が高い。

このような状態が続くと通貨の価値が落ちていき、資産価格には上昇圧力がかかる。株式市場はこのような流れで今後、長期で上昇を続けるのではないかと思う。

ただし、このような政策を永遠に続けることはできない。このような政策を続けていると、どこかで必ず通貨の信認喪失が起こる。そうなるとインフレが加速し、国内からお金が逃げ出し、株式市場は大暴落する。それが起こるタイミングはおそらく、日本の経常収支が赤字に転落したとき(国の借金が民間の貯蓄を上回ったとき)になる。危機は2030年頃に訪れるかもしれない。
5/3日経によると2031年に日本が財政破綻する確率は50%になる。