2023年10月1日日曜日

7~9月の売買

■7月
・エムスリー 新規買い
チャート的に株価が下げ止まりそうだったから。ローソク足、移動平均線、MACD、RSIで大底シグナルが出ていた。

割安感があったから。コロナが始まった直後にエムスリーを調べたが、そのときの株価を下回っていてお得感があった。株価の下落が続いているのは、成長鈍化あたりが主因になりそうだが、前期、今期の成長率が低いのはコロナで需要の先食いがあったためで、来期以降は巡航速度に戻れそうだと思った。

3月に大型のストックオプションを発行していたから。経験上、10億円規模のストックオプションを発行した後は株価が上がりやすいことが多かった。ただ、今回のストックオプションは子会社の役員と従業員3人に与えられるものなので、「インサイダー買い」というわけではなさそう。


・オキサイド 全売却 損益-21%
SiCウエハ事業の見通しが悪くなったから。7/12日経産業で、オキサイドのSiCウエハ事業を主導する提携先のUJクリスタルの社長が、「量産に向けたパイロットラインを25~27年に構築することを目標」と語っており、収益化はまだまだ先になりそうだと思った。社長は溶液法で作るSiCウエハの欠陥密度や成長速度についても触れており、オキサイドが発信している情報とはだいぶ異なっているのも気になった。オキサイドは溶液法で作るSiCウエハの欠陥密度は昇華法で作るSiCウエハの300分の1、製造スピードは昇華法より速い、といっていたが、UJクリスタルの社長は欠陥密度は10分の1で、製造スピードは遅い、といっていた。7/6日経産業には、「昇華法で作るSiCウエハの欠陥密度を改善する研究も進んでいる」とあり、オキサイドのSiCウエハには競争力がなくなっていきそうだと思った。

ライコル社の買収は失敗だと思ったから。決算資料などから、ライコル社はニッチトップを志向していなさそうなことがわかった。レッドオーシャン市場で悪戦苦闘しそうな会社は投資対象にすべきではないと思った。買収で財務が大きなダメージを受けており、新たな成長ストーリーも描きにくくなった。

決算説明資料から重要な情報が消えていたから。これまでの資料には半導体事業の受注残が載っていたが、第1四半期の資料からはそれが消えていた。前回の資料では、生産トラブルから受注残が急減していたが、それが回復していないため消したのかもしれない。生産トラブルの問題は現在でも完全には解消していないようなので、歩留まりの悪化は今後も続きそうだと思った。ヘルスケア事業の進捗も芳しくなく、今期は業績が下ブレそうだと思った。来期以降の業績も不透明感が増した。

・ステムリム 半分売却 損益+90%
臨床試験の結果が中途半端だったから。このような結果では販売してもほとんど売れないだろうと思った。

今回の売買の失敗は中途半端な試験結果が出て興味を失っていたのに、すぐに売らなかったこと。株式を買うときに、失敗か成功かはっきりするまでは売らない、と決めていたのがまずかった。微妙な結果が出たときのことをまったく考慮していなかった。今後は予想外のことも起こると想定して柔軟に対処するようにしていきたい。

創業者と会長は4月と5月に、株価の高値圏で保有株を売っている。こういうところもこまめにチェックしたほうがよさそうだと思った。

・パーク24 新規買い
自宅のそばにパーク24のカーシェア車両が10台止まっている駐車場があるが、7月15日(土)の18時頃にその駐車場を見ると空っぽになっていたので、パーク24は大繁盛しているのではないかと思った。そこでパーク24の株価チャートを見てみると、なぜか暴落している。6月14日の決算説明資料を読んでも絶好調な内容で、株価が下がっている理由がわからない。

<7月14日の半年チャート>


詳しく調べてみると、JPモルガンが6月の終わりに出したレポートが下落の起点になってそうなことがわかった。レポートが出た直後に出来高が急増して下落が加速しているので、このレポートが原因になっている可能性が高い。

レポートには、パーク24が7年くらい前に買収した英駐車場事業の件で増資をする可能性がある、みたいなことが書いてあった。ダメ元でIRにこの件の資金調達はどのようにするのかと聞いてみたら、はっきりとは教えてくれないものの、増資をする気はなさそうなことは伝わってきたので、買うことにした。

買った日の終値を見るとまた株価が下がっていたので、不安になってヤフー掲示板をのぞくと、下落している要因を探る投稿であふれていたので、上記のことに軽くふれてみたら、その投稿がきっかけなのかはわからないが、翌日に大きく反発した。

8月7日にパーク24が増資懸念を払拭するようなIRを出したら、さらに大きく反発したので、下がっていたのはやはり増資懸念だったもよう。

今回の件で、株式市場では下落している要因が「不明」の場合は、買い手不在になり、下げ止まりにくくなることがわかった。

<現在の10年チャート> 雲抜けまでもうしばらくかかりそう。上昇基調ではあるので雲を抜けたら大きく上昇しそう。


今回、パーク24を買うときに気づいたのは、過去に調べたことのある会社は再調査がとても楽なこと。最新の決算資料を見ると以前からの変化がすぐにわかるので、判断しやすい。今後はこれまで調べた会社もちょこちょこ見ていこうと思う。


・ビジョナリーホールディングス 新規買い
グーグルニュースのおすすめ欄にこの会社のニュースが入ってきて、読んでみたらよさそうだと思ったから。(詳細は後述)

・ジモティー 半分売却 損益-15%
成長期待がなくなったから。海外のクラシファイドサイトのようになることを期待したが、思ったほど伸びなかった。その要因はメルカリなどの洗練された競合企業がいることと、経営陣にあまり元気がなかったこと、あたりになりそう。

・(7月終わりから8月初めにかけて)
ジモティー NISA以外全売却 損益-15%
Zホールディングス 全売却 損益+10%
パーク24 全売却 損益+6%
ステムリム 全売却 損益+83%
ハルメクホールディングス 全売却 損益+8%
ビジョナリーホールディングス 全売却 損益-4%

→プラスアルファ・コンサルティングにシフトするため。

プラスアルファ・コンサルティング 新規買い
PO(株式売出し)で株価が大きく下げていて、会社を調べてみると強そうな会社だとわかったから。POでベンチャーキャピタルが抜けて、買うタイミングとしてもベストだと思った。チャート的にも底値感があった。(詳細は後述)

■8月
・ジモティー NISA分も売却 損益-16%
決算を見て。力強く成長していくのは難しそうだと思ったから。

・エムスリー 全売却 損益-6%
底と思っていた3000円を出来高をつけて大きく割り込んだから。グダグダな展開がもうしばらく続きそうだと思った。「底」を抜けたのは、米長期金利上昇と、メドレーなど競合の躍進あたりが原因になりそう。底抜けした日の米長期金利は4.2%で、メドレーは上方修正をしていた。

・プラスアルファ・コンサルティング 買い増し
問題のなさそうな決算の後に大きく売られていたから。単なる需給要因で下げているように見えたので買い場だと思った。

決算直後に大きく売られた理由はおそらく、POによる浮動株比率の大幅上昇(21%→51%)、信用買い残の積み上がり(PO発表後に30万株→65万株)、需給が悪化したところで機関投資家の仕掛け売り、あたりになる。仕掛け売りを決算までしなかったのは、決算でポジティブサプライズがないことを確認するため、になりそう。

浮動株比率とPERの関係を調べたサイトには
浮動株比率20~30%の会社の平均PERは22倍
浮動株比率50~60%の会社の平均PERは17倍
とある。今後この会社の株価は浮動株比率が上昇した分、ディスカウントされそう。

<8月18日の半年チャート> 8月14日の決算発表後に出来高をつけて大きく売られている。その後は底値シグナル(はらみ線とコマ)が出て反発している。

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■プラスアルファ・コンサルティング
基本シナリオ:「タレントパレット」事業を軸に2030年に利益4~5倍

8/30日経に、「社員の位置情報から職場を改善するスタートアップが相次いでいる」とあった。社員の居場所を「見える化」することによって、空調の自動調整やコミュニケーションの活性化、工場での人員配置の最適化を図れるようになるという。「タレントパレット」でも同じようなことができそうなので、事業の発展余地はまだまだありそうだと思った。

8/30日経産業に、「CRM(顧客関連管理)システムを手がける米ブレイズが日本に進出している」とあった。米ブレイズのシステムを使えば、顧客がストレスを感じにくい情報配信をできるようになるという。プラスアルファ社もCRM事業を行っているが、この領域は手強い競合が多くて大変そうだと思った。

9/7日経に、「企業が管理するデータ量が2016年の7倍に増えており、それらのデータはまだまだ活用されていない」とあった。いよいよデータ・ドリブン・エコノミー(データ駆動型経済)の時代が本格化しそうな雰囲気になってきた。プラスアルファ社はこの分野のコア・プレーヤーになってくれればと思う。

同記事に、「会社での電話や会議、対面でのコミュニケーションデータを活用し、経営に役立てるスタートアップがある」とあった。このスタートアップのサービスを使えば会話内容の分析だけでなく、発言と沈黙の割合、話す速度などを分析して、話し手の感情がポジティブかネガティブかを推定できるようにもなるという。会話データを蓄積していくと、営業や人事などで意思決定する場面で有用な助言もできるようになるという。プラスアルファ社の「見える化エンジン」にも同じような機能があるので、この機能を「タレントパレット」や「セールス・スクエア」に付加したら面白そうだと思った。

9/7日経産業に、「LLM(大規模言語モデル)によってデータ戦略が変わっていく。LLMを使えば、これまで分析できなかった画像ファイルやテキストファイルも分析できるようになる」「社内の議事録やFAQなどのテキストファイルを一元管理して、LLMを使えば業務コンテキストを理解した上でさまざまなアプリを開発できる」「LLMによって少量データからも意味のある予測や分析ができるようになる」「LLMによって個の行動の分析が飛躍的に容易になる」とあった。「タレントパレット」にはすでに高度な分析機能があるが、LLMを導入することによって、分析機能がさらに向上しそうだと思った。

9/7日経に、HCM(人的資本管理)サービスを手がける米ワークデイの記事が載っていた。ワークデイについて調べてみると、「タレントパレット」の脅威になりそうな存在であることがわかった。日本では三井化学など一部の企業が同社のシステムを導入しているが、まだ本格進出してきているわけではない。今後も進出してこないでほしいと思った。

今後3年の予想売上高成長率は年20~30%程度、予想利益成長率は25~35%。現在の妥当だと思う時価総額は1370億円(株価3300円、PSR10倍、PER38倍)。2030年の予想売上高は現在の2.5~3倍くらい、予想純利益は現在の3.5~5倍くらい。


■イントラスト
基本シナリオ:家賃債務保証と医療費用保証で2028年に売上高150億円、営業利益30億円

第1四半期決算の売上高成長率は+43%、営業利益成長率は+35%と絶好調。ただこの成長ペースは特殊要因によるもので、未来永劫続くものではない。その先のことを心配していたが、株主通信に「中期経営計画に「売上100億を射程圏」とあるが、皆様にはさらに高いステージをイメージしていただける土台を今期中に作り上げる決意」とあったので、まだまだ成長してくれそうなことがわかった。

その成長プランは、家賃債務保証事業で事業用物件の取り扱い拡大と、住宅ローン保証の取り扱い開始、医療費用保障事業の成長、M&Aや事業提携あたりが軸になる。事業用物件の家賃債務保証商品は、大手損保会社と開発したもののようなので、手堅い商売になりそう。

医療費用保証事業はまだ伸びが弱いが、営業の強化や協業先の模索などをしているようなので、今後の成長に期待したい。

株主通信で唯一気になったのは経営幹部の写真。10人くらいの写真が掲載されているが、もれなく「おじさん」で、若手や女性が一人もいない。もともとそういう業界なのかもしれないが、7/9日経に、「女性役員比率が高い企業の株価は市場平均を上回っている」とあるので、女性役員も入れてくれればと思った。8/4日経には、「政府は6月に「女性版骨太の方針」を決定。プライム企業の女性役員比率を30%以上とする目標を明記したほか、25年をめどに少なくとも1人は女性役員を登用するよう促している」とあるので、その意味でも女性役員を増やしたほうがよさそう。

国内企業の倒産件数が増えてきた。倒産の理由は人手不足(9/26日経)、物価高、社長の高齢化(6/27日経産業)、「ゼロゼロ融資」の終了あたりになる。東京商工リサーチによると、7月の倒産件数は758件、8月の倒産件数は760件と前年同月比50%超増加している。「ゼロゼロ融資」の返済が本格化する時期は2023年7月から24年4月になるので、今後1年くらい高水準の倒産件数が続きそう(7/11日経8/14日経9/9日経)。倒産に伴い家賃債務保証の未収金が増えていくかもしれない。ただ日本の家計は「コロナ貯蓄」をほとんど取り崩していないようなので(9/26日経)、未収金はそれほど増えない可能性もある。

9/20IRで、イントラストが10月20日にスタンダード市場に移行することがわかった。スタンダード市場に移行することで、プライム適合基準への調整がなくなり、親会社の株式売出しという”時限爆弾”がなくなった。それでも”爆弾”は残っていることに変わりはないので、買い増しをするとしても”爆発”した後になりそう。

決算説明会の質問コーナーで、「冴えない株価についてどう思うか」と問われた社長は、「一番ショックを受けているのは、もしかすると私かもしれない」と答えていた(笑)。こういう社長は株主から見ると頼もしいなと思った。

今後3年の予想売上高成長率は年10~20%程度。現在の妥当だと思う時価総額は255億円(株価1140円、PSR3倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2.5倍くらい。


■今後の計画
前回の当欄に、「インフレが落ち着くまでは現在の現金ポジションを維持する。インフレが落ち着いて米政策金利が0%近くになったら株式を買っていく。次に構築するポートフォリオは半分ぐらいをドル建てにしたい」と書いていたが、7月と8月に日本株を大量に買い込んでしまった。今後は地合いに翻弄されそうだが、チャンスと思ったところで買えたので後悔はない。仕込みはほぼ終わったので、持ち株の今後の推移を観察していきたい。

今のポートフォリオは円安対策がまったくできていないので、そこらへんの対策は考えていきたい。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
 ・上場5年以内の会社
 ・社長が若い
 ・オーナー企業
 ・時価総額が300億円以下
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)エムスリーやリクルートなど

■良さそうな会社
・M&A総研ホールディングス
AIを使ったM&Aマッチングシステムを手がける会社。荻野CFO「集合知で買い手を探すため、効率が良く、人間では思いつかないマッチングが生み出せる」(9/16ヴェリタス)。この会社の売上高成長率と利益率は尋常じゃない。M&Aマッチングシステムはネットワーク効果が働きやすいので、高水準の利益率を維持できるかもしれない。問題は株価がすでに高値圏にあることと、流動性が低いことあたりになる。

・霞ヶ関キャピタル
不動産コンサルティング会社。複数のテナントが入る貸冷凍冷蔵倉庫も開発する。冷凍冷蔵倉庫はフロンを使わない環境負荷の低いタイプを導入しており、中小企業の需要を捉えている。AIで荷物を識別するシステムを導入して作業を自動化する冷蔵冷凍倉庫も計画している。冷凍冷蔵倉庫は労働環境が過酷なため省人化の需要が強い。9/16ヴェリタス

この会社も高速成長している。問題は財務状態がいまいちで、設備投資が大きそうなところ。少し苦手なタイプの会社。

・メック
電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる。ヴェリタス

・SREホールディングス
「適正な不動産の売買価格をAIで素早く査定するシステムを手がける。AIによる査定価格と実際の成約価格を比べた誤差率は4%程度で、人が判断したときの誤差率は7~8%なので、AIの方が適正な価格を算出できることがわかる。契約社数は2500社と1年前から7割増。解約率は0.6%程度。このシステムは消費者側にも利点がある。不動産を売りたいときは情報が不足し、適正な価格の判断ができず、買い手側が優位な状況が多い。AI査定で作成した査定書には解析データが記載されているので消費者も客観的に適正価格を知ることができる。矢野経済研究所は不動産テック市場は25年度に20年の2倍に膨らむと予想している。SREホールディングスは培った技術を応用し、証券会社向けのAIシステムも開発。証券会社の顧客の住所から不動産価格を推定し、過去の証券取引データと組み合わせて潜在的な富裕層を見つけ、金融商品の提案につなげている。社長は「業界を超えて需要は高い」と語る」日経

・アサヒホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しており、貴金属のリサイクルはメガトレンドになっている。アサヒは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。ヴェリタス

・オプティム 
法人向けにモバイル端末を管理するシステムを提供する会社。モバイル端末管理の市場では4割近いシェアを持つ。モバイル端末のセキュリティーや不正利用の防止設定、紛失時の遠隔操作などを一括で管理できる。リモートワーク普及を追い風に底堅い需要が続いている。

今後注力するのが「X-Techサービス」と呼ぶ産業DX事業。端末管理事業で培ったクラウド上で大量のデータやIDを管理する技術を応用し、IoT端末を用いたDXサービスの開発に取り組む。その一例が、ドローンを用いたスマート農業システム。作物を育てるほ場を測量・空撮し、気象情報と組み合わせてAIで分析。農薬や肥料散布の適切なタイミングを計算した上で、オプティムがドローンのパイロットを派遣し、生産者に変わって散布する。他にも、土木現場での3次元測量や医療現場での手術ロボット運用支援など、複数の業種でDXサービスに参入する。全体の売上高に占める「X-Techサービス」の割合は既に4割弱に達しており、近くモバイル端末管理事業の売上高を逆転するもよう。今後は売上高、営業利益ともに年率10%の成長を維持しながら積極的に研究開発部門に投資していく考え。9/10ヴェリタス

2050年には国内の農業人口が現状より8割減るとの推計もあるので(9/18日経)、農業DXは伸びそう。肉体労働系DXは競合があまり多くなさそうなのでよさそう。

プラスアルファ・コンサルティング

■どんな会社か
マーケティング領域や人材領域にあるビッグデータを「見える化」し、分析するツールをSaaSで提供する会社。現在の主な事業は「見える化エンジン事業」「カスタマーリングス事業」「タレントパレット事業」の3つ。それぞれの事業を簡単に見ていく。

<見える化エンジン事業> 2008年~
コールセンターやマーケティング部門に集まる顧客の声や、SNSやネット上での口コミを分析するツールを提供する。どのような情報を集め、どういう軸で分析するかといったコンサルティングやシステム構築、分析結果を商品開発に反映する業務フローの定着までを支援する。主な顧客は製造業になるが、金融業などのサービス業でも顧客の声をマーケティングに生かす取り組みが進んでおり、顧客の裾野は拡大している。SaaS型テキストマイニング市場では11年連続国内シェアトップ。

<カスタマーリングス事業> 2011年~
ネット通販などを行う小売り事業者向けにCRM(顧客関連管理)システムを提供する。顧客の属性、購入履歴、メール配信のクリック反応などのデータを統合して分析し、顧客に最適なタイミイングで最適な情報の提供、商品のレコメンドを行う。このシステムを使えば、マーケティング施策の精度向上や自動化を実現できる。

競合は多いが、「カスタマーリングス」には多様な条件設定により有望顧客をリアルタイムで抽出する機能があり、顧客に合わせたきめ細やかな施策を実施できるという強みがある。SaaS型CRM市場での国内シェアは3位。

<タレントパレット事業> 2016年~
社内に散らばったさまざまな社員情報を一元化して「見える化」し、それを分析するツールを提供する。これまでの人事では、人事に関するデータが、紙やExcelでバラバラに管理されていたため、データはほとんど活用されず、人事施策は経験や勘で行われていた。たとえば採用では、なんとなく「一緒に働きたい人」という漠然な基準で選び、入社後にミスマッチが発覚しても、それが次の採用に生かされることはほとんどなかった。

「タレントパレット」では社員の年齢、勤続期間、スキル、職務履歴、研修履歴、勤怠情報など、数値化して集計できる定量データと、適性検査結果、採用時のエントリーシート、選考時の面接官のメモ、キャリアデザインシート、評価面談、自己申告書、満足度調査、モチベーション調査、研修後のアンケートなど、数値化しにくい定性データを一元管理して「見える化」し、分析する。

このシステムを使えば、人材配置や育成、プロジェクトチームの編成、離職防止、採用効率化などのさまざまな人事施策を高度化できる。タレントマネジメント・システム市場での国内シェアは、従業員300人以上の中堅・大企業ではトップ。

「タレントパレット」と連動して、新卒学生をダイレクトリクルーティングする「キミスカ」事業も手がける。「タレントパレット」導入企業は自社で活躍しているハイパフォーマー人材と似た人を「キミスカ」でスカウトすることができる。少子化に伴う労働力不足で採用の難易度は高まっており、「キミスカ」事業も順調に成長している。


タレントパレット事業は現在の主力事業なので、この事業についてもう少し詳しくみていく。

<どのような経緯で「タレントパレット」は生まれたのか>
プラスアルファ・コンサルティング(以下PAC社)は2006年末に創業し、その後順調に成長していったが、社員が50~100人になったあたりから、個々の社員がどのように考え、どのようなモチベーションで働いているのかがわからなくなった。そして突然「他にやりたいことがある」と辞めていく人が増えてきた。優秀な社員の離職は大打撃になった。当時、このような悩みを解消するツールは見当たらず、そこで、これまで自社で培ってきたマーケティングの技術が人材管理の分野でも使えるのではないかと思い、「タレントパレット」が誕生した。

<CRM(顧客関連管理)の仕組みを人材管理システムに>
マーケティングの戦略は現在、ほぼすべてデータに基づいてアクションしているといっても過言ではない。マーケティングとはつまるところ「顧客をとことん知ること」になり、マーケティングではそのためにITなどを駆使して、顧客の属性、購買履歴、アクセスログ、購入理由などのデータを集めて統合し、それを多角的な視点で分析し、顧客を理解している。そしてそこで得た知見を元に優良顧客の育成や離反防止、商品開発や販売促進などの施策に役立てている。

顧客を理解し、顧客と最適な関係を築くプロセスは、社員を理解し、社員と最適な関係を築くプロセスと変わらないという発想から、この顧客管理の仕組みを人材管理の仕組みに転用したのが「タレントパレット」になる。「タレントパレット」でも「社員をとことん知る」ことを目的に、ITを駆使して社員の適正やスキル、職歴、評価、入社理由、キャリアプランなどのデータを集めて統合し、それを多角的な視点で分析し、社員を理解する。そしてそこで得た知見を元にハイパフォーマーの育成や、雇用・配置のミスマッチ防止、離職防止、採用強化、エンゲージメント強化などの施策に役立てている。

人材管理システムがCRMと異なるところは、分析される側の一般社員もシステムを使えるところ。例えば、現場のマネージャーはデータにアクセスして必要な社内人材を検索することができ、一般社員は自分の能力を客観的に捉えて自分のパフォーマンスを確認したり、足りないスキルを確認して能力を主体的に伸ばしていったりすることができる。

現在、市場に出ている人材管理システムは数多あるが、それらはほぼ全て「人事DX(人事業務の効率化)」に特化したものになる。人事DXのみならず、CRMの発想を取り入れたシステムは「タレントパレット」のみになる。そして現在注目が集まっているのは、このマーケティング思考を取り入れた人材管理システムになる。

■その他の強み
・コンサルティングが充実し、機能の進化が速い
PAC社はSaaS事業を営むソフトウェア企業ではあるが、社名からもわかるようにコンサルティング色が強い。ソフトウェアの機能開発の起点となるのがコンサルティング・チームで、このチームが顧客と話し合い、顧客のニーズを引き出してくる。

PAC社ではコンサルチーム→開発チーム→営業チームのサイクルを高速で回転させることによりソフトウェアを高速に進化させている。「タレントパレット」事業は開始からまだ6年半くらいしか経っていないが、「タレントパレット」には4300以上もの機能が標準搭載されている。

・PAC社でも「タレントパレット」を使っている
社員のパフォーマンスを最大化させる「タレントパレット」を自社でも使っているので、社員の生産性が高まりやすい。

社員のパフォーマンスを最大化させるとは、言い換えると、社員を会社に定着させ、活躍し続けてもらうことになる。PAC社の2022年の年間離職率は7.3%で、社員意識調査(会社ビジョン、社内雰囲気、福利厚生)のスコアは各項目で5点満点中4点以上になる。

「タレントパレット」は過去に行った人事施策を科学的に検証し、人事施策の高度化を促すシステムなので、今後もさらなる生産性の向上が見込める。

・マーケティングの知見が豊富
PAC社では創業来マーケティング・ツールの販売をしているので、マーケティングの知見が豊富。この知見を自社の商売にも活かすことができるので、商売が繁盛しやすくなる。

・データ分析やAIの知見も豊富
社長は学生時代からAIやデータ分析の研究をしており、その後も野村総研やPAC社でその分野の業務に携わっているので、AIやデータ分析に関する知見が豊富。この分野では新しいテクノロジーが次々に生まれているが、それらを柔軟・迅速に自社システムに取り入れていくことができる。

・システム統合の知見も豊富
大企業の基幹システムとタレントマネジメント・システムを統合する業務は難易度が高いが、社長と副社長は野村総研のSler(システム・インテグレーター)出身なので、複雑な案件にも対処できる。

・事業の早期黒字化が得意
一般にSaaS事業は先行投資の期間が長く、早期の黒字化は難しいとされるが、タレントパレット事業は立ち上げてからすぐに黒字化している。これはPAC社独自の”SaaSノウハウ基盤”に乗せているため。PAC社は創業来16年超、SaaS事業を行っているので、SaaS事業を黒字化させるためのノウハウが豊富にある。この”ノウハウ基盤”の上に新規のSaaS事業を乗せればすぐに黒字化させることができる。足元でも新たな事業が立ち上がりつつあるが、それらも”ノウハウ基盤”に乗せることで早期黒字化を実現できる可能性が高い。

社名に「プラスアルファ」とあるように、全社的にプラスアルファ(付加価値)を提供しようという企業文化も早期黒字化に貢献している。PAC社は「付加価値こそが会社の存在意義」と考えており、事業を考える際には差別化できないものではなく、チャレンジして付加価値の高い機能を作ろうという意識がある。


■業績など
2020年9月期 売上高47億円 営業利益14億円
2021年9月期 売上高61億円 営業利益21億円
2022年9月期 売上高79億円 営業利益26億円
2023年9月期(予) 売上高110億円 営業利益36億円
2024年9月期(ブログ予想) 売上高137億円 営業利益49億円
      (四季報予想)売上高139億円 営業利益48億円
      (SBI予想)売上高140億円 営業利益53億円

現在の売上・利益構成はタレントパレット事業が70%くらいで、他の2事業が各15%くらいずつになる。

自己資本比率は77%、有利子負債は0、現金61億円と財務状態は盤石。
配当性向は20%。

2021年7月にマザーズ上場し、2023年7月に東証プライムに移行。
上場の目的は資金調達ではなく、会社の知名度、信頼度を高めるため。


■成長ストーリー
「タレントパレット事業を軸に2030年に利益4~5倍」が基本シナリオ

成長戦略は大きく分けて2つ。既存事業の成長加速と、新規事業の立ち上げ。

まずは今一番の成長ドライバーであるタレントパレット事業が伸びる背景からみていく。主な背景は4つ。

1つ目は人手不足。日本では少子高齢化の影響などにより人手不足が深刻化している。人手不足は今後より深刻化していくと予想されており(5/6日経7/15ヴェリタス9/26日経)、限られた人材のパフォーマンスをいかに高めるかが課題となっている。

2つ目は労働生産性の低さ。これは1つ目の背景と通じるところもあるが、日本はもともと労働生産性が低い。国際的な労働生産性の統計を取り始めた1970年以降、日本はG7で50年超、最下位が続いている。労働生産性に影響する従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査でも2009年の調査開始以来、日本は世界最低ランク(5~7%)を維持している。日本の労働生産性やエンゲージメントが低いのは、メンバーシップ型(受け身型)の雇用形態や薄い転職市場、長時間労働などさまざまな要因があるが、雇用のミスマッチや人材の配置ミスも一因となっている。

3つ目は急速な環境の変化。新型コロナウイルスの発生やDX、生成AIなどの登場により、固定観念が次から次へと覆される状況が続いている。異業種や新興ベンチャーとのM&Aも活発で、業界の垣根もなくなりつつある。環境変化の速度は増しており、社会情勢の変化により事業転換を求められている企業も多い。

働く社員の意識も大きく変化している。今のシニア世代は与えられた仕事を淡々とこなし、受け身の姿勢が強いが、1980年代以降に生まれたミレニアム世代やZ世代は成長志向や社会貢献志向が強く、仕事に対して主体的に取り組む傾向がある。社員が志向するキャリアの中身も多様化している。このような変化の激しい環境では属人的な方法では精度の高い人事施策を行えなくなっている。

4つ目は人的資本経営の時代。これまで会社は社員を「コスト」として捉えてきたが、今は社員を利益や競争力の源泉となる「資本」として捉えはじめている。この変化の背景には企業価値の源泉の変化がある。

30年前まではモノが企業の競争力を生み出し、有形資産が物を言う時代だった。しかし今はあらゆる業態のサービス化が進んでおり、無形資産が物を言う時代になっている。モノそのものよりも、モノを通して得られる体験価値が重視さるようになっており、ソフトウェアや知的財産、ブランドなどの無形資産が企業の競争力を生み出している。そのような無形資産や付加価値を生み出しているのは人であり、人の能力こそが価値や競争力を生み出している。そのため、企業では人への投資が経営の最優先事項になりつつある。

このような背景によりタレントパレット事業には強い追い風が吹いている。

「タレントパレット」のターゲットは従業員100人以上の会社になるが、現在最も注力している領域は社員数が1000名以上の大企業になる。大企業ほど各社員の把握が難しくなるので「タレントパレット」の潜在力をフルに発揮しやすい。また人事で抱える悩みが多い会社を顧客にすれば、「タレントパレット」の機能改善の頻度が多くなり、それが「タレントパレット」の進化にもつながる。機能が強化されれば、中堅企業への導入も進みやすくなる。

顧客の開拓は、マス広告やWeb広告、展示会やウェブセミナーなどのイベント参加、インサイドセールスやアウトバウンドなどで行う。今年3月にはさくら情報システムと、5月には大塚商会と販売代理店の契約を結んでいる。

「タレントパレット」から周辺領域への事業展開も進めている。先ほど触れたダイレクトリクルーティング事業の「キミスカ」もその一つ。「キミスカ」事業では、民間企業への就職を希望する学生45万人のうち、3人に1人しかまだ「キミスカ」に登録していないので(2022年末)、新卒学生向けだけでも、あと3倍の成長余地がある。「キミスカ × タレントパレット」の仕組みは中途採用組にも応用できるので、長期で考えると大きく伸びる可能性がある。

「タレントパレット」は社員情報が全て集まるプラットフォームなので、採用だけでなく、研修、ヘルスケア、福利厚生などの周辺分野でも精度の高いデータ活用が期待できる。周辺領域への事業拡大ではM&Aや事業提携なども利用していく予定。

「見える化エンジン事業」や「カスタマーリングス事業」でもさらなる成長を目指す。「見える化エンジン」には今年4月、音声認識によりリアルタイムで会話を分析する機能が搭載された。10年くらい前にツイッターが流行ったときにテキストマイニングが盛り上がったように、会話分析も盛り上がる可能性がある。「カスタマーリングス事業」ではコロナ収束が追い風になる。足元では、既存顧客の利用拡大(プランアップ)も進んでおり、顧客単価の上昇も期待できる。

もう1つの成長戦略である新規事業の立ち上げについてみていく。

PAC社は創業来、5年おきぐらいに新規事業を立ち上げており、今後もこの流れを継続していく予定。新規事業でターゲットとしている領域は、「データ量が増えていて、まだその活用が進んでいないところ」になる。その領域のビッグデータを「見える化」して、意思決定や判断を支援するサービスを作っていく。

PAC社では毎年、社内コンペを開催しており、そこから現在2つの新規事業が立ち上がりつつある。1つは「セールス・スクエア事業」。この事業は営業支援系のSaaSで、人材が持つスキルや経験、適性、営業日報、実績、評価などのデータを一元化して「見える化」し、分析するツールを提供する。営業ではいまだに属人的な管理手法がまかり通っており、営業にまつわるデータが活用されていないことが多い。

たとえば、営業日報一つとっても、上司への報告が目的化していて、その内容が活用されることはまれ。営業日報には市場ニーズや顧客情報、潜在的な新規ニーズがたくさん詰まっている。顧客業界別に分析すれば、それぞれの業界におけるトレンドやテーマ、ポテンシャルなどを掴むこともできる。

営業人材を「見える化」すれば、商品知識やプレゼン、交渉、クロージングなどで誰がどのスキルに長けているのかがわかり、人材の組み合わせによって強い営業組織を実現できる。「セールス・スクエア」はすでに一部の企業でトライアルの導入が進んでいる。

もう1つの新規事業は「ヨリソル事業」。この事業では学生の情報を一元化して「見える化」し、分析するツールを提供する。いわば学生版の「タレントパレット」のようなもので、学校側は学生に対する理解を深め、個々の学生に合った育成、授業の評価・改善、就活支援、新しい学生の獲得、退学防止などの施策に役立てることができる。学生側も自分のスキルや履修科目、目標などを確認して、効率的に能力を伸ばしていくことができる。

このサービスはあらゆる学校がターゲットになるが、当面は「キミスカ」や「タレントパレット」との相乗効果が見込める大学が中心になる。「ヨリソル」もすでに一部の学校でトライアルの導入が進んでいる。

■市場規模はどのくらいあるか
カオナビの決算説明資料によると、タレントマネジメント・システム市場は約2000億円、人材データプラットフォーム関連市場は約8.4兆円になる。

ITR Market Viewによると、現在のタレントマネジメント・システムの市場規模は150億円くらいのようなので、この市場ではあと13倍くらいの成長余地がありそう。
*タレントマネジメント・システムを提供している会社の売上を合計すると250億円くらいはありそうなので、これで計算するとあと8倍くらいの成長余地になる。

「タレントパレット」のターゲット企業があとどのくらいあるかについても考えてみる。「タレントパレット」のメインターゲットは従業員1000人以上の大企業になるが、国内にそのような企業は約4000社ある。現在「タレントパレット」を導入している大企業は550~600社くらいであり、この市場でシェアを6割取ると仮定すると、あと4倍くらいの成長余地がある。

「タレントパレット」は従業員100~999人の中堅企業もターゲットになる。この規模の会社は国内に約5万8000社あり、この領域の開拓余地はまだまだありそう。

他の市場予測もざっと見ていく。

矢野経済研究所は、人材管理ライセンスの市場は2025年に2020年比で72%増の830億円になると予想している。2022/5/19日経産業

デロイトトーマツ ミック経済研究所は、HRTechクラウド市場は2022~2027年度まで年平均29.3%の成長率になり、2027年には2880億円の市場になると予想している。2023/3/6日経

調査会社ITRは、2021年度のタレントマネジメント・システム導入済み企業は13%で、今後3~5年は年20~30%成長すると予想している。参照:「ダイヤモンドZai 2023年1月号」

経済産業省が2020年頃に実施した調査では、適切な人材配置・獲得の具体策を実行できていない企業は8割近くになる。2023/2/14日経

パーソル研究所が2022年に実施した調査では、企業の役員層の「人的資本経営」に対する理解度は76%あるが、人材の関連情報をデータとして蓄積できている割合は38%に留まっている。2023/2/14日経

リクルートが2021年に実施した調査では、人的資本経営の課題として最も多かったのが、「従業員のスキル・能力の把握とデータ化」(55%)になる。2022/6/19日経産業


以上を総合すると、「タレントパレット」事業は今後4~5年は年20~30%程度の成長を続けられそう。

他の市場はどうか。

マーケティング市場は巨大(要調査)。ただレッドオーシャンになる。
ダイレクトリクルーティング市場も巨大だが、レッドオーシャン。
学生マネジメント市場はそこそこ大きそうだが、大学に限ると810校しかなく、今後減っていきそうなので(9/27日経)、30~50億円くらいの市場規模になりそう。ただブルーオーシャンになる。他事業との相乗効果も期待できる。
営業支援サービス市場は約170億円になる。競合は多いが「セールス・スクエア」には独自色がある。

■問題点
・「タレントパレット」に対応できない人事部が多そう
社員のパフォーマンスを最大化させるタレントマネジメント・システムは「タレントパレット」のみなので、大企業の選択肢は「タレントパレット」一択になりそうだが、実際はそうなっていない。一部の大企業は「カオナビ」や「HRBrain」を選択している。

この理由は、コストやUI/UX、用途、システムに対する理解の浅さ、なども考えられるが、一番の理由は人事部が「タレントパレット」に対応できない、というものになるのではないかと思う。

これまでの人事部の主な業務は社員データの管理だったが、「タレントパレット」を導入することにより、それが社員データの分析・活用に変わる。つまり、受け身の業務から攻めの業務に業務内容が180度変わる。

また「タレントパレット」は設定や活用の難易度が高いので、相当な学習量と経験が必要になる。「タレントパレット」導入後は腰掛けで人事部に所属することもできなくなる。つまり、人事部を専門職化するような組織改革が必要になる。

このような変化に対応できないために、簡易なタレントマネジメント・システムを選ぶところもありそう。人事部の責任者がITに弱かったり、保守的なタイプだったりしたら、なおさらその傾向は強まる。

将来的に人事部は「タレントパレット」適応型のような形に進化していくとは思うが、そうなるまではもう少し時間がかかりそう。

PAC社はその移行を早めるためにも、人事領域の「データサイエンティスト養成講座」みたいなものを開いていったほうがいいのかもしれない。

・UI(ユーザー・インターフェース)がいまいちな可能性がある
PAC社は「タレントパレット」について、「UIをシンプルにして、深く使いたいときに深い機能が現れるような作りにしている」「直感的にわかりやすく、ビジュアル的に時系列での変化や予兆を一目で把握できるようにしている」といっている。しかし、ITトレンドITreviewの口コミを見ると、「UIがいまいち」といった投稿が多い。その一部を紹介する。

「管理者側(人事側)のUIは改善傾向にあるが、普通の社員からはUIが使いづらいとの意見がある」
「メニューや項目名、UIが直感的にわかりにくい。独自の用語を使用しているので機能名だけではなんの機能かわからないものもある。そういった用語は一部変更できるが、変更できなものもある」
「検索機能も直感的に操作できない。検索したい社員が見つからないこともたまにある」
「このツールに限ったことではないが、シニア層が活用できないことが多い。年配の上司が使いこなせず苦労している」
「スマホのUIを改善してほしい。見づらく、使いにくい。現在、(タレントパレットを)使うときはPCで使用している」
「できたらスマホアプリを作ってほしい。社員への初期導入時にハードルになっている」
「管理者向けのマニュアルは充実しているが、社内のユーザー向けのマニュアルが手薄。社内ユーザー向けの、カスタム可能な、基本マニュアルが欲しい。社内ユーザーが導入の目的や意義を理解でき、日常使用にメリットを感じられるような説明がほしい」

「カオナビ」を導入した企業のコメントでもUIに触れているものが多い。
「こうしたツールは年配の社員でも無理なく使えるものでなければ利用する意味がない。カオナビはとにかく簡単でシンプルなので・・」
「従業員側の画面がシンプルで見やすい点が決め手となり、カオナビに決めました」
「最も重視したのは、人事総務部だけでなく、社員にも使いやすく、直感的に操作できるかという点」
*カオナビの決算資料参照

「カオナビ」を選んだ企業の真意は別なところにあるような気もするが、「タレントパレット」のUIに改善の余地があることは間違いなさそう。PAC社にはこのような問題を察知するコンサルタントがおり、口コミを「見える化」する技術があるので、問題をすでに把握していると思うが、改善のペースは遅いようにみえる。現時点ではこの点に関してやや不透明感がある。

・「タレントパレット」の違いが理解されていない
現在、タレントマネジメント・システムといえば「人事DX」というイメージが浸透している。それはタレントマネジメント・システムを比較するサイトを見ても明らかで、みな並列で表示されている。「タレントパレット」に高度な分析機能が搭載されていることは、あまり認知されていない可能性が高い。

2023年1月に出版された『科学的人事の実践と進化』(PAC社の経営陣が執筆)にも、「私たちの感覚では、人材活用を強化したいと考えている会社のおおよそ6割が人事DXをタレントマネジメントだと勘違いしている」とある。

タレントマネジメント・システムが世に出てからまだ7年くらいしかたっていないので、認知が浅いのは仕方のないことなのかもしれないが、株主からするともどかしさがある。タレントマネジメントがらみのニュースが増えてくれば状況は変わりそうだが、今はまだそのような気配はない。

日経新聞あたりが特集記事を組んでくれたら認知度は一気に高まりそうだが、日経新聞はカオナビの株主であり、「カオナビ」を導入しているので、その都合で記事を書いてくれない可能性もある。そんなことはないとは思うが、とにかく「タレントパレット」の特徴がちゃんと理解されるまではもう少しかかりそう。

ただ最近では「人的資本経営」のニュースフローが急増しているので、その流れでタレントパレットが紹介されることもありそう。少し期待したい。

9/2ヴェリタスで、人的資本理論の実証化研究会がスコアリングした「人的資本開示スコア」で、「タレントパレット」を導入しているエーザイが日経平均225銘柄中トップに立っていた。エーザイのCHRO(最高人事責任者)が「科学的人事」についてなにやら語っている記事もある(9/2ヴェリタス)。「科学的人事」の認知度は徐々に高まっていくのかもしれない。

・AIの「ブラックボックス」の問題
深層学習を利用したAIは、分析のプロセスがブラックボックス化されているので、回答に至った経緯を明確に提示できないことが多い。人事において「ブラックボックス」で採用や昇格を決められた場合、社員のモチベーションは下がりやすくなる。また根拠がわからない仕組みでは、なにか問題が起きたときに改善策を見つけられないという問題も生じる。

ただ「タレントパレット」にはこのような「ブラックボックス」はほぼ存在しない。深層学習を利用したAIも使うが、「タレントパレット」は人が科学的に分析できる仕組みにすることを重視して作られているので、この点は問題なさそう。今後チャットGPTのような「ブラックボックス」満載の生成AIも導入するとは思うが、それも人の判断をサポートする形での導入になりそう。

・事業は国内のみ
資産運用の観点でいうと、PAC社に投資すると円安に対処できないという問題がある。今後は円安が進んでいきそうなため、外貨換算で保有資産が目減りする可能性がある。

社長はマザーズ上場時のインタビューで海外展開の可能性に軽く触れてはいるが(2021/7/3日経)、現時点で海外展開の動きはない。海外には既に米ワークデイや米オートマチック・データ・プロセッシングなどが進出しているので(8/24日経9/7日経)、今から攻め入るのは難しそう。

ただ円安が進むといっても、すぐさま円が大暴落する可能性は低く、円の下落速度よりもPAC社の成長速度の方が早そうなので、この点はそこまで心配しなくてもよいのかもしれない。

・地合いが悪い
金利が高止まりしている今は株式を買うタイミングではない。いつ景気が後退し株式市場が暴落してもおかしくない。景気後退に陥れば「タレントパレット」の導入が減り、解約が増える可能性もある。

ただ、人事に関する投資は直近の業績で左右されるものではないので、受注はそれほど落ち込まなさそうでもある。システムが機能すれば解約されることもなさそう。PAC社の財務状態は盤石であり、指標的にも割高ではないため投げ売りされることもなさそう。この点もそれほど心配する必要はないのかもしれない。

・SaaS企業が売られている
日米でSaaS起業が売られている。要因はコロナ特需の反動減と景気減速、長期金利の高止まりあたりになりそう(9/14日経)。ただSaaS事業のビジネスモデル自体は堅いので現在の売りは一過性のものになりそう。

・もう1つ問題がある
ニュースになりそうな問題を1つ見つけた。ただこれはPAC社の経営や業績に関係ないものであり、余計な波風は立てたくないので、この点は伏せておくことにする。問題が表面化した場合は株価が乱高下しそうだが、その時はやり過ごそうと思う。


■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★★☆
・参入障壁は高いか。★★★★。「タレントパレット事業」の参入障壁は高い。他社がマーケティング思考を取り入れたタレントマネジメント・システムをこれから作ることはできるが、PAC社が現状のペースで開発サイクルを回している限りは追いつけなさそう。ただ米ワークデイあたりが日本市場に本格参入してきたら脅威になる。マーケティング事業の参入障壁はそれほど高くない。

・ストック型収益か。★★★★★。足元では収益の83%がストック型になる。全サービスの解約率は0.9%以下と低いので強固なストック型になる。ストック収益比率は上昇傾向にある。

・時流に乗っているか。★★★★★。人手不足の時代は人手不足を克服するソリューションはメガトレンドになる。人的資本経営の時代は「人」への投資はメガトレンドになる。データ駆動型経済ではビッグデータを「見える化」する事業はメガトレンドになる。


■チャート
<3年チャート> 全体的に見ると横ばい傾向になるが、2022年7月あたりから底値を徐々に切り上げている。そろそろ青天井モードに入りそう。


<日経平均株価とTOPIXのチャート> 日経平均株価は8月16日に三尊天井を形成したので(8/16日経)しばらく地合いは悪くなりそうだったが、そこからいったん切り返している。TOPIXにおいては新高値を突破して上昇トレンドを保っている。出来高も増えている。もしかすると地合いはそれほど悪化しないのかもしれない。
<日経平均株価の1年チャート>

<TOPIXの1年チャート>



■妥当な時価総額(株価)はどのくらいか
SaaS企業を評価する際によく使われる「40%ルール」で考えてみる。この指標は売上高成長率と営業利益率(もしくはキャッシュフロー・マージン)を足して40%に達したら優良企業というもの。PAC社は今期これが69%もあるので超優良企業になる。おそらく来期以降も60%程度の水準を維持できそう。

この指標で40%ある企業のPSR(時価総額を売上高で割った値)は10倍くらい、60%を超える場合は15倍くらいあることが多い。ただ、今は金利高により株式のバリュエーションが下がっているので、PSRはここから3倍くらい下げて考えた方がよさそう。加えて、PAC社の浮動株比率は21%から51%に上昇しているので、そこからさらに2倍くらい下げた方がよさそう(参照)。

PAC社の来期の売上高を137億円と仮定し、PSR10倍で計算すると、時価総額は1370億円(株価3300円)になる。来期の純利益を35.2億円と仮定するとPERは38.9倍になる。このくらいの水準が妥当ではないかと思う。

<当ブログが算出する来期の業績予想>
売上高137.4億円(前期比+25%)、営業利益49.2億円(+33%)、純利益35.2億円(+33%)
売上高の内訳は
タレントパレット事業 87.7億円(+33%)
見える化エンジン事業 19.8億円(+10%)
カスタマーリングス事業 17.6億円(+7%)
キミスカ事業 12.3億円(+30%)


■まとめ
地合い的に株価はしばらく厳しそうだが、PAC社のビジネスモデルは強いので、事業は順調に成長していけそう。ただ、見落としている問題や誤解しているところもまだありそうなので、楽観せずに、シビアな視点で観察していきたい。

エムスリーは20%成長に戻れるか

エムスリーが4月に出した決算説明資料に「FY2027の売上~6000億円」とあった。今期の予想売上高は2500億円なので、今期含めて5年で売上高を2倍以上に引き上げようとしているのがわかる。この目標が達成可能かどうかについて考えてみる。
*FY2027とは2027会計年度、つまり2028年3月期のこと。

売上6000億円を達成するには年25%の成長が必要になる。年20%の成長率では売上5200億円になる。今期の予想成長率は8%になる。

成長ストーリーの大枠を考えてみる。

まず潜在市場はどのくらいあるか。ダイヤモンド3/8には「国内の医療DXの潜在市場は1兆円超」とある。その内訳は「製薬マーケティング支援3000億円、医療データ利活用1000億円、治験業務2000~3000億円、健康保険業務2000億円、医療業務2000億円」になる。

エムスリーの海外売上高比率は25%くらいあるので、海外の市場についても考えてみる。人口や経済規模を考慮すると、世界の医療DX市場は40兆円くらいはありそう。

需要の強さはどのくらいか。世界的に、高齢化による医療費の上昇、人手不足、薬価の上昇、財政問題などの問題は山積しているので、医療DXへの需要は相当強い。

エムスリーの競争力はどのくらいあるか。エムスリーは世界の医師の60%超が登録するプラットフォームを持っているので、競争力はありそう。

エムスリーの成長戦略はどのようなものになるか。既存事業の成長と、M&Aによる成長が基本戦略になる。エムスリーは年に10件以上のM&Aをしている。エムスリーは買収巧者で、これまでに買収した会社を買収後平均5年で利益を6倍にしている。今後もM&Aを成長ドライバーにしていく方針。

市場規模、需要の強さ、エムスリーの競争力・戦略を考慮すると高成長はできそう。


一方で、エムスリーの成長を阻害する要因もいくつかある。今考えられる要因は3つ。

1つ目は競争激化。DX市場は医療分野に限らず参入障壁が低いので競争が激化しやすい。国内の医療DX市場ではJMDCやメドレーなどが急成長しており、それぞれの分野でエムスリーのシェアを浸食している。市場自体が拡大しているので、エムスリーの伸びが止まることはなさそうだが、伸び率は鈍化しそう。

2つ目は人手不足。2022年11月にモルガン・スタンレーMUFG証券が出したレポートに、「エムスリーの人員増が追いつかず事業成長のボトルネックになっている」「離職率の高さなど人事面の懸念がある」とある(参照)。エムスリーは人気のありそうな企業なので働き手は集まりそうだが、ここが成長の足枷になる可能性がある。

3つ目は景気後退のあおりを受けそうなこと。エムスリーが力を入れている米欧では近々景気が後退する可能性がある。米欧が景気後退に陥れば日本もそのあおりを受ける。そうなればエムスリーの成長が鈍化するのは避けられない。

以上をまとめると、エムスリーが今後も成長していけるのは間違いなさそうだが、成長力は若干落ちる、という感じになりそう。あとはどのくらいの成長率になるか。

2010年以降の売上高成長率を見てみる。
2010年 38%
2011年 24%
2012年 30%
2013年 36%
2014年 41%
2015年 39%
2016年 26%
2017年 21%
2018年 21%
2019年 19%
2020年 15%
2021年 29%
2022年 23%
2023年 11%
(予)2024年 8%

まず今期の売上高成長率が8%と低いのは、コロナで需要の先食いがあったため。コロナ禍3年と今期をトータルすると、平均成長率は年17%になる。

問題は年々成長率が落ちていること。これは売上高が増えるにつれ成長率が落ちるという自然な現象ではあるが、このペースでいくと年20%成長に戻るのは難しそう。今後5年間は順調にいっても13~18%くらいが限界ではないかと思う。仮に来期以降4年の平均成長率を年15%とすると、2028年3月期の売上高は4370億円になる。売上高2倍は難しそう。


■現在の妥当な時価総額(株価)はどのくらいか
エムスリーは純粋なSaaS企業というわけではないが、「40%ルール」で考えてみると、今期の売上高成長率は8%で営業利益率は30%なので、ほぼ優良企業ということになる。金利高を考慮するとPSRは7倍くらいになりそう。PSR7倍で計算すると、時価総額は1兆7500億円、株価2600円、PER33.6倍になる。このくらいの水準が妥当ではないかと思う。

来期の業績を売上、利益ともに+15%と仮定すると、そこでの妥当な時価総額は2兆円、株価は3000円になる。


■まとめ
エムスリーは20%成長に戻れるか。おそらく戻れない。18%成長くらいが限界になりそう。ただそれでも優良な成長企業であることに変わりはないので、株価が2600円を大幅に割り込むようなことがあれば買っていきたい。エムスリー株は円安対策に使えそうなのもいい。

ビジョナリーホールディングス

 ■調べようと思ったきっかけ
エムスリーを調べていた影響か、グーグルニュースのおすすめ欄に「「エムスリーの陰謀で排除された!」メガネスーパー親会社前社長が衝撃告発」という記事が出てきた。気になったので読んでみると、メガネスーパー(親会社ビジョナリーホールディングス)の悪徳社長が退社したことや、エムスリーがビジョナリーホールディングス(以下BH社)に出資した理由がわかった。BH社の騒動後に株価は大きく下がっており、経営を立て直せれば株価は大きく反発すると思った。

■事件の経緯
事件を要約すると、元社長が私的な子会社をたくさん作ってそこに業務を委託していたり、経費を不正流用していたりというもの。事件は匿名の通報により発覚している。

■どんな会社か
メガネ小売りチェーン「メガネスーパー」を運営する会社。メガネスーパーは関東や中部地方を中心に約300店舗展開。高い検査技術に強みがあり、ミドル・シニア層をターゲットにした高付加価値戦略で経営している。同業他社と比べ、コンタクトレンズの販売比率が高く、コンタクトレンズの定期配送サービスに力を入れている。卸売り事業やEC事業も手がける。

■業績
2018年4月期 売上217億円 営業利益7.1億円
2019年4月期 売上264億円 営業利益9.3億円
2020年4月期 売上273億円 営業利益-2.1億円
2021年4月期 売上260億円 営業利益3.5億円
2022年4月期 売上260億円 営業利益-1.2億円
2023年4月期 売上270億円 営業利益2.9億円

コロナ前までは増収増益基調だったが、コロナ以降は失速している。
売上高・利益の約9割が小売り事業の「メガネースーパー」によるもの。

自己資本比率18%。配当はなし。

■成長ストーリー
「経営正常化で株価5倍」が基本シナリオ

前期の売上高270億円、営業利益2.9億円に対し、現在の時価総額は41億円になる。前期の営業利益率は1%程度になるが、これを10%程度まで高めることができたら、時価総額は5倍くらいまで跳ね上がりそう。

営業利益率を10%に高めることは可能か。

利益創出の1つ目の方法は、元社長らの不正資金流用分を正常化すること。これで6~8億円の増益が見込める。

2つ目の方法は、エムスリーとの相乗効果を出すこと。エムスリーがBH社に出資した目的は、エムスリーが持つコンテンツや医師ネットワークをBH社と連携させることと、治験モニターを集めること。エムスリーがBH社に出資してから3年くらいたち、まだ相乗効果は顕在化していないが、それはコロナ直前に提携したことが影響してそう。現在はコロナがほぼ収束しており、今後エムスリーとの相乗効果が出てくれば、利益を10億円くらい上積みできそう。

これらの方法と現在の利益を足せば、営業利益率は8%くらいになる。あとは経営力のある人が社長につけば営業利益率10%は達成できそう。

エムスリーがBH社を買収する可能性も少しある。もともとエムスリーはBH社を買収するつもりだったようだが、元社長に拒否されて買収できなかったらしい。今はその社長がいなくなったので買収する可能性もあるが、買収すると今回の騒動を裏で画策していたのはエムスリーであることがバレバレになるので、買収はしなさそう。するとしても経営が軌道に乗って、ほとぼりが冷めてからになりそう。

■問題点
・会社を立て直せるか不明
今回の騒動で取締役が一掃されたので、経営が混乱してそう。現社長はBH社の社外取締役だった松本大輔氏。松本氏はコンサルタントのキャリアを積んできた人で、事業戦略を考えるのはお手の物だろうが、従業員1500人、300店舗ある会社をうまく運営できるのかわからない。松本氏はエムスリー社長がマッキンゼーにいたときの元部下なので、エムスリー社長の支援を受けられそうではあるが、それでもうまくいくかどうかはわからない。

・新たな問題が発覚する恐れがある
元社長や元幹部らは調査に非協力的なため、今回の悪事はまだすべてが解明されたわけではない。今後新たな問題が出てくる可能性がある。


■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★☆
・参入障壁。★★★。エムスリーのプラットフォームとの連携や先端検査機器は参入障壁になりそうだが、メガネ店自体の参入障壁は低い。

・ストック型収益か。★★。事業の大半はフロー型収益。コンタクトレンズの定期配送はストック型だが、収益に占める割合は低い。

・潜在市場は大きいか。★★☆。高齢化や若年層の近眼化でメガネ市場は穏やかな拡大傾向にある。

■チャート
<1年チャート> 底を打ったように見える。今後は上り調子になるかもしれない。


■まとめ
上記シナリオがうまくいけば株価5倍は狙えそうだが、現時点では不透明要素が多い。経営を正常化できそうな雰囲気が漂ってきたらまた考えてみようと思う。

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:2.5%~5.0%の間で推移

米長期金利に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2023年の米GDP成長率は+2.0%程度、米インフレ率は+4%程度、2024年はGDP成長率+1.1%程度、インフレ率は+2.5%程度になる。

・金融政策→
FRBはインフレ対策として2022年3月から金融引き締めを始めており、政策金利の引き上げを2023年末頃まで続ける予定。2023年末の予想政策金利は5.25~5.75%、2024年末の予想政策金利は5.1%になる。9/21日経
*政策金利が中立金利(2.4%)を超えると、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。

FRBは国債などの保有資産を年1.1兆ドル(約150兆円)のペースで売却している。今後2年間そのペースで資産を売却していくと、長期金利には1%程度の上昇圧力がかかる。日経日経

・財政悪化による国債増発↑
米政府の財政はコロナ禍で大きく悪化しており(9/27日経)、今後も悪化し続ける可能性が高いため、米財務省は米国債の発行を段階的に増やすと公表している(8/3日経8/3日経8/5ヴェリタス8/20日経9/14日経)。FRBの利上げによる利払い費負担増も財政悪化に拍車をかける。8/4日経

格付け機関は米政府の財政悪化懸念から米国債の格付けを引き下げている。格下げも米国債売りの一因になる。

・リスクオン・リスクオフ→
米景気は比較的堅調だが、長期金利の上昇が止まらないので、ややリスクオフ気味。

・米国債の人気上昇→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも高いので、海外勢から買われやすい。2022年の買越額は約100兆円と過去最大になっている。日経

ただ、米金利上昇により為替ヘッジコストは上昇しており、日本においては米国債利回りから為替ヘッジコストを差し引くと利回りがなくなってしまう。そのため日本の一部の金融機関は米国債から日本国債に資金をシフトしている(日経)。日銀が長期金利の変動許容幅の上限を1%に引き上げたことも日本勢の国内回帰を促している。7/31日経

日本の次に米国債を大量に保有する中国は、米国との対立や人民元安阻止のために米国債を大量に売却している。日経

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

金余りで運用難に陥っている米金融機関や米企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。日経日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・チャート↑
<10年チャート> 「新高値」を突破しているのでさらに上がりそうではあるが、移動平均線との乖離率が高まっているので、そろそろ天井を打ちそうでもある。

<前回の予想が外れた要因>
前回の予想は「今後1年の予想レンジ:2.0%~3.8%の間で推移」だったが、実際は9月28日に4.69%まで上昇している。どうして予想が外れたのか。

考えられる要因は4つ。
1つは国債増発。米財政はコロナで著しく悪化したため国債を増発している。そこに金利上昇が加わって、さらに国債を増発する、という悪循環に陥っている。

2つ目は中国の米国債売却。世界で2番目に多く米国債を保有する中国が、米国との対立や人民元安阻止のために、米国債の売り手に回っている。

3つ目はFRBの米国債売却。量的緩和の終了により、FRBは年に150兆円程度、米国債を売っている。

4つ目はインフレの下げ渋り。米経済が市場の想定以上に底堅いので、インフレがなかなか下がらない。今はそこに原油高やストライキも加わってインフレはより下がりにくくなっている。

今後も需給要因で米長期金利の高止まりは続きそう。米長期金利が下がるのは不況になってからになりそう。


■WTI原油
今後1年の予想レンジ:70ドル~120ドルの間で推移

原油価格に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2023年の予想世界GDP成長率は3.0%、2024年は2.7~3.0%になる。

長期では、再生可能エネルギーの増加や学校・職場のリモート化などにより石油需要が減少する可能性が高い。仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している(ヴェリタス日経)。

一方で、世界人口増や再生エネルギー開発の滞りなどが原因で石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している。日経8/12ヴェリタス

・供給↑
OPECは1バレル90ドル前後の水準を維持することを目的に減産に動いている(日経日経日経9/7日経)。米国はシェールオイルの採掘効率の低下や株主からの株主還元要求、反化石燃料の勢力からの非難などにより増産ペースが鈍い。日経7/5日経

長期では、脱炭素の潮流を受けて油田開発投資が大きく減少しており(日経)、再生可能エネルギーの普及には時間がかかるので、供給不足に陥る可能性がある。

・産油国で不測の事態が起こる↑
中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きている。日経

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン↓
サウジアラビアとロシアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)とイラクは75ドル(日経)、米産油企業の採算ラインは50~80ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
*原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時には売られやすい。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元ではインフレ対策としても買われている。

・為替↓
原油はドル建てのため、ドル高になると原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではドル高基調。

・チャート→
<10年チャート> 底打ちして上昇トレンドの気配。


■ドル円
今後1年の予想レンジ:125円~155円の間で推移

為替に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・日米金利差↑ (↑は円安方向、↓は円高方向)
<短期金利>
日米の金融政策の違いから、日米の短期金利は約5%開いている。日銀は円安の流れを止めるため、政策金利を引き上げる可能性もあるが、大幅に上げることはなさそうなので(8/3日経)、現在の5%の金利差はあと半年~1年くらい続きそう。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。
*市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

<長期金利>
米10年金利は4.6%まで上昇しているが、日本の長期金利は0.7%程度で停滞している。

・日本の経常収支→
円安や資源高、産業競争力の低下(日経)などにより、22年度の貿易赤字は過去最大の約19兆円に達している(経常収支は9兆円の黒字)。2023年、2024年は貿易収支が多少改善しそうだが、産業構造はたいして変わらないので大幅に改善する可能性は低い。

・米国の経常収支↑
米国は経済が強いので経常収支は改善傾向にある。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や債権、不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。
*日本の個人投資家は2021年に海外株を8兆3千億円買い越しており、その約9割は米国株になる。同年の日本株の買越額は280億円になる。日経日経

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を買っている。ここ数年は両者合わせて年10兆円超の買い越しが続いている。ただ2022年はドル調達コストの上昇などにより機関投資家の海外証券投資は大幅に減っている。生保に限っては2022年に11兆円売り越している(日経日経)。2023年1~6月は一転して13兆円の買い越しになっている。7/10日経8/16日経

・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)が低く、日本国債の金利は安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している。日経日経

・FX投資家の持ち高 ー
FX投資家(個人投資家)の月あたりの取引規模は約1000兆円(うちドル円取引は約800兆円)に拡大しており、東京市場での取引の約半分を占めている(ヴェリタス日経)。2022年10月頃までは個人が大きく買い越しており、円安が進むとみていた。現在の動向は不明。

・投機筋の持ち高↑(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は円を大きく売り越している。円が下落するとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。日経

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、米長期金利の上昇や、ロシアやアルゼンチンの通貨不安、中国経済の先行き懸念などにより、ドルの需要が高まっている。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

現在の購買力平価(企業物価)は90円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくとされるが、近年では購買力平価の影響力は軽微なものになっている。7/22ヴェリタス

・日銀の財務状態の悪化→
日本の長期金利が1%まで上昇した場合、日銀は債務超過に陥る。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるので資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。
*日銀は長期金利が1%に上昇した場合、日銀が保有する国債に28兆円、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する(日経)。ただ現時点でそこまで下がる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。日経日経

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。米国政府の債務も返済不可能な水準まで積み上がっているが経済が強く、ドルは基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。

・キャピタルフライト↑
日本は財政問題や経済低迷などの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産にシフトし始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。2024年に始まる新NISAでキャピタルフライトが加速する可能性がある。9/26日経

・為替介入→
今後、円安を止めるために政府・日銀が為替介入する可能性がある。ただ売り玉(保有する米国債)は限られており、単独介入のため、影響はほとんどなさそう。

・チャート
<10年チャート> 再び上昇基調に。ただ長期線との乖離率が高いので、そろそろ天井を打ちそうでもある。


■日経平均
今後1年の予想レンジ:27000~36000円で推移

日経平均に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している(日経)。現在中銀は資産を売却し始めているが、2022年の10月ごろからは日本、欧州、中国の中銀が資産を増やしている(日経)。米国は資産を売却し始めているが、シリコンバレーバンクの破綻などを受けてFRBが3月に新設した融資枠「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」や住宅ローン担保証券(MBS)の償還の遅れから、FRBの保有資産の減少は鈍化している。9/9ヴェリタス7/22日経

・金利↓
金利が上がると、株式から債権へ資金が流れやすくなる。現在、金利は高止まりしている。

金利上昇により金融機関が保有する債券の含み損が膨らんでいる。金融機関の含み損率が高まると株式などのリスク資産投資が減少する。日経日経日経

・為替↑
円安が進むと海外勢から見た日本株は割安感が出る。現在、円の価値は過去最低水準にある。日経日経

海外勢が日本株を買うときに為替リスクをヘッジすると、5%程度の金利差収入を得られる。7/8日経

・需給↑
海外勢の売り玉はなくなりつつあり(6/9トウシル)、日本企業の自社株買いは活発なので、日本株は下がりにくい。暴落したときは日銀のサポートが期待できる。

主な投資主体の売買動向
<2023年の予想と現状>
日本銀行:買い支えで1兆円の買い越し。現状は1400億円の買い越し。
事業法人:自社株買いで5兆円の買い越し。現状は3兆円の買い越し。
海外投資家:日本企業の資本効率改善期待や中国株からのシフトなどにより4兆円の買い越し。現状は3.5兆円の買い越し。
信託銀行(年金基金など):ポートフォリオのリバランスにより3兆円の売り越し。現状は5.3兆円の売り越し。
個人投資家:逆張り投資で1兆円の売り越し。現状は3.2兆円の売り越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(期待度・人気度)で決まる。2023年の予想EPSは0~10%、2024年は-5~10%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因をみていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今は円安気味なので利益は増えやすそうではあるが、輸入価格が上昇しており、この分を価格転嫁できなければ利益はそれほど増えない。現在は企業物価上昇分を価格に転嫁しきれていないので、円安の恩恵をあまり受けられていない。

・海外景気→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。足元の世界景気は比較的堅調だが、今後は徐々に悪化していきそう。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益を圧迫する。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格→
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費と資源価格は横ばい傾向。

・金融政策→
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。今は世界中で金融引き締めをしているが、日本では緩和を続けている。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいだが、現在のPERは15.50倍と比較的高い水準にある。

・リスクオン、リスクオフ→
ほぼ中立。

・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約6.34%、配当利回りは約2.22%と、日本の10年国債の利回り0.77%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・中国株からのシフト
中国の景気停滞リスクや地政学リスクから、中国投資離れが拡大している(8/12日経)。その代替投資先として日本株が選ばれている。

投機筋の持ち高
買い残は1兆4500億円で、裁定売り残高は11億となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり(日経)、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している(7/7日経)。2024年に始まる新NISAでさらなる流入が期待できる。

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えると株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。日経日経

・チャート↑
<10年チャート> 新高値を突破していて基調は強い。前回の天井30000円くらいが底になるかもしれない。


■東証グロース指数(旧マザーズ指数)
今後1年の予想レンジ:800~1100の間で推移

東証グロース指数に与える要因を、影響の大きい順にみていく。
・金融政策→
東証グロース指数は中銀の総資産残高の影響を全市場の中で最も受けるので、中銀の資産縮小時には真っ先に売られやすい。ただ、グロース指数はすでに金融緩和前の水準まで売られているので底を打ったように見える。

金利の上昇も小型グロース株には逆風になる。金利が上昇すると将来の成長期待で買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。また小型グロース企業には赤字企業が多く、金利上昇時には成長資金を調達しにくくなる。

・需給→
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないので、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので(ヴェリタス日経)、売り圧力はそれほど強くなさそう。個人投資家の含み損はまた増えてきているようなので(松井証券)、個人の買いはあまり期待できない。

・EPS(1株利益)成長率 ー
不明。

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えていた。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような状況であり、このような前例を踏まえると、東証グロース指数の停滞はもうしばらく続くのかもしれない。ヴェリタス

<マザーズ指数の10年チャート> MACDはゴールデンクロスになっているが、移動平均線はデッドクロスになりそう。デッドクロスが完成したら下降トレンドに転換しそう。

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2023年の予想EPS成長率は-10~5%、2024年は-5~10%。
・米国株式の2023年の予想EPS成長率は-10~5%、2024年は-5~8%。
・欧州株式の2023年の予想EPS成長率は-10%~5%、2024年は-10~5%。
・日本株式の2023年の予想EPS成長率は0%~10%、2024年は-5~10%。


■経済成長率
・世界の2023年の予想GDP成長率は3.0%、2024年は2.7~3.0%。
・米国の2023年の予想GDP成長率は1.8~2.2%、2024年は1.0~1.3%。
・中国の2023年の予想GDP成長率は5.1~5.2%、2024年は4.5~4.6%。
・ユーロ圏の2023年の予想GDP成長率は0.6~0.9%、2024年は1.1~1.5%。
・日本の2023年の予想GDP成長率は1.4~1.8%、2024年は1.0%。
・インドの2023年の予想GDP成長率は6.1%、2024年は6.3%
*数値はIMFとOEDCの予想。7/25日経9/20日経

世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。日経


■インフレ
・米国の2023年の予想インフレ率は3.5~4.5%、2024年は2.0~3.0%。
・欧州の2023年の予想インフレ率は4.5~6.0%、2024年は2.0~3.5%。
・日本の2023年の予想インフレ率は2.0~3.0%、2024年は1.2~2.0%。
*参照:9/12日経など
*米国のブレーク・イーブン・インフレ率(10年)は2.39%。ブレーク・イーブン・インフレ率とは債券市場の予想物価上昇率で、実質金利を算出するときなどに用いる。

世界中でインフレが高止まりしている。インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて、今後のインフレ動向を予想していく。

<インフレ要因>
★コロナ特有のもの
・供給基盤が破壊され供給不足が生じている。
・コロナで対面型サービスの人気が落ち、賃金が上昇している。
・コロナが落ち着いてきて需要が増している。
・政府から給付金が支給され需要が増している。
・金融緩和の影響で資産価格や商品価格が上昇している。
・量的緩和の影響で通貨価値が下落している。
→現在、これらの要因はほぼ解消されている。

★コロナ後も続くもの
・人手不足で賃金が上昇している。求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされるが(日経)、8月の求人件数は882万件とまだ少し多い。ただ順調に減ってはいるので、人手不足は徐々に解消されていきそう。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。ヴェリタス日経
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ紛争などにより、食料価格が上昇傾向にある(日経ヴェリタス)。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。日経

・米住居費が上昇している。家賃上昇が2023年の米CPIを1.1ポイント押し上げると見込まれている。日経

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。日経日経


<デフレ要因>
・世界中の中央銀行が強力な金融引き締めをしている。金融引き締めには需要を減らす効果がある。

・経済や社会のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報・人・モノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・産業の「自動化」により、生産コストが低下している。
・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。日経
・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。
・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。
・人手不足で成長力が低下している。
・金融引き締めなどの影響で資産価格が下落している。

以上をまとめると、賃金(サービス)以外のインフレは落ち着きつつあるので、インフレは徐々に落ち着いていきそう。ただ過去の例では賃金インフレはしぶとく続くので、米国でインフレ率が2%になるのは2024年末頃になりそう。日経ヴェリタス

インフレが落ち着いた後も、脱炭素シフトや人手不足、脱グローバル化などの構造要因は残るので、しばらくは以前のような超低インフレには戻らない可能性が高い。

日本においては、今後人手不足がより悪化していきそうなので(日経7/15ヴェリタス9/26日)、デフレからインフレに転換する可能性がある。9/23日経9/29日経

超長期では、エネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命により超デフレ(無料社会)になる可能性が高い。


■金利
・米国の政策金利は5.50%で、3ヶ月金利は5.48%、2年金利は5.03%、10年金利は4.59%、30年金利は4.72%になる。
・日本の2年金利は-0.52%、10年金利は0.77%、30年金利は1.65%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。

*現在の債券は魅力的な水準まで高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが4.89%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。日経日経

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.4%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。

*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年7月から10年金利が2年金利を下回っており、現在もその状態が続いている。ヴェリタス
*米10年金利が米3ヶ月金利を下回ると、その後、比較的すぐに景気後退する傾向がある。2022年10月からこの逆イールドが発生している。
*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし、長短金利が逆転すると逆ザヤになるので、融資が減る。その結果、投資も減り、景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きかった。ヴェリタス

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった(日経)。過去のパターンでは、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起こることが多い。ヴェリタス7/8

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は4の段階になる。


■債務
・世界の債務はコロナ下で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している(9/20日経)。ただ、コロナ過の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない(日経ヴェリタス)。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドルと07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。「シャドーバンク」は信用力の低い企業への融資が多い。9/16日経

・債務の質は劣化しており、米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割超が格付けの最も低いトリプルBになっている。

・米国の企業負債のGDP比率は12年には65%前後だったが、足元では80%に迫る水準まで上昇している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。ヴェリタス8/14日経

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている(日経)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる(日経)。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。日経
・国際決済銀行(BIS)によると、22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。日経

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。日経日経

・国際金融協会(IIF)によると、新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている(日経)。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。

・世界で過剰債務企業が増えている。本業の利益が借金の利払いより少ない”ゾンビ”企業が全上場企業(2万4500社)に占める比率は2021年度に16%になっている。直近ではこうした企業が破綻に追い込まれる事例が相次いでおり、仏アリアンツは23年に世界の企業の倒産が21年比で26%増えると予想している。日経

・米ムーディーズは今後の世界の社債について、最も悲観的なシナリオだとデフォルト率が14.5%になると予想している。これは1933年の世界大恐慌の最中の15.8%以来の水準になる。リーマン・ショック時のデフォルト率は12.1%になる。日経

<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので(日経)、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。中銀は足元でインフレ対策として資産の売却を始めているが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、バブルが完全崩壊する可能性は低い。


■金融政策、財政政策
・世界中の中銀がインフレ対策で金融引き締めを行っている。ただ日本や中国など一部の中銀は金融緩和を続けている。

・日銀が金融引き締めをしないのは、日本のインフレ率が2%程度と低く、コストプッシュ型の悪いインフレのため。日銀は現在のような需要不足の状態(日経日経)で引き締めをすると景気後退に陥ると考えている。ただ、4~6月期は需要超過に転じたもよう(9/2日経)。この状態が続けば金融引き締めに転じる可能性がある。しかし需要超過は大きく上振れそうにはないので(2021/10/29)、引き締めに転じるとしても穏やかなものになりそう。

・日銀総裁に植田和男氏が就任した。植田氏はマクロ経済学(金融政策)のスーパースターだが、日銀は身動きの取れない状態に陥っているので、できることはあまりなさそう。とはいえ一番マシな選択肢を選んでくれるのではないかと思う。スーパースターの吉川洋氏も日銀に加わった(日経)。吉川氏は金融緩和に否定的なので、金融政策は徐々に引き締めにシフトしていきそう。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる(日経日経)。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる(日経ヴェリタス)。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。ヴェリタス
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定。ただ、日銀の財政ファイナンスにより財政のタガが緩んでいる。この調子でいくと近い将来財政破綻する。
・海外は不安定。ウクライナ紛争により、ロシアと西側の関係は当分冷え込みそう。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
*米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。日経日経8/2日経8/16日経
・EU域内では財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ紛争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトはしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は103.0とそこそこな水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で47.6と10ヶ月連続で中立水準を下回っている。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は54.5と中立水準を上回っているが、下降トレンドになっている。もうじき50を下回るかもしれない。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは43.4。好不況の分かれ目である50を15カ月連続で下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは49.7とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格はピークアウトしているが、高値圏で推移している。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)は2022年10月頃に底を打ち、大きく反発している。ただ現在の上昇は世界景気の回復を予兆するものではなく、単なるAIブームの可能性がある。
米国の失業率は減少傾向で現在は3.8%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥るとされる。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは高止まりしている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。現在は3つ起きている。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。参照


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい(日経)。現在は「弱気」に傾きつつある。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は-13.15%と「弱気」に傾きつつある。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすくなる(東洋経済)。現在は29で「Fear」の状態。

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後株価が急落することが多い。現在のVIX指数は17.34と比較的低位な水準にある。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。日経

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わる可能性が高い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。ヴェリタス


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは110とやや過熱の水準。
・日本株の信用評価損益率は-8.93%とやや買われすぎの水準。
・先進国の株価チャートは高値圏でもみ合っている状態。

<NYダウの5年チャート> 累積売買高の「天井」をやっと超えたと思ったら、また下回りそうな感じ。

<ナスダックの5年チャート> チャート的にはどっちに振れてもおかしくない感じだが、コロナ過以降、NYダウもナスダックも出来高が急増し、高水準を維持している。これはおそらく過剰流動性(金余り)の表れであり、この状態は今後も維持されそうなので、なんらかのショックが起きても、株価はそれほど落ちないのかもしれない。

<銅の5年チャート> 世界景気の先行指標である銅チャートが大きな三角持ち合いを形成している。これがどちらに振れるかで、世界景気の行方がわかりそう。

<銅の10年チャート> ファンダメンタルズ的には下振れてもよさそうだが、一目均衡表的には上振れそう。

長期計画

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
インフレ高止まりにより景気後退に陥る確率が高まってきた。民間・政府ともに債務山積みの状態で中銀が金利を引き上げているので、景気には強い下押しの圧力がかかっている(日経9/12日経)。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は比較的良好なので深刻な景気後退に陥る確率は低い(日経日経日経)。今回のインフレは長引きそうなので、しばらく金融緩和や財政政策による景気刺激は期待しにくい。景気後退は浅く長いものになるのではないかと思う。景気の底は2023年12月~2024年5月あたりになりそう。

*景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大)・失業率低下 →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮)の流れになる。

ただ、最近は「景気後退に陥らない」という意見も増えてきた。ゴールドマンサックスを筆頭に、FRB、モルガンスタンレー、ブラックロック、バンクオブアメリカあたりがそのようなことをいっている。7/18日経7/21日経7/21日経7/25日経7/27日経8/5日経

本当にそんなことが可能なのか。景気後退要因と景気浮揚要因を列記して考えみる。

<景気後退要因>
・企業債務はGDP比で過去最高水準まで高まっており、金利も2008年の金融危機前と同水準まで上昇している。いつ資金の逆回転が起きてもおかしくない。一度「債務爆弾」が爆発すると、爆発が連鎖しやすくなる。
・米欧などの先進国中銀はインフレ抑制に苦労しており、キツめの金融引き締め策を長い期間とらざるを得ない状況になっている。その影響は1年くらいの時差をもって経済に反映される。
・逆イールドが発生している影響で、融資・投資が減っている。銀行の融資態度は景気との相関が強く、過去、融資基準の厳格化が進んだ時期には景気後退が発生している。8/1日経
・米家計のコロナ貯蓄はほぼゼロになっている。10月からは、学生ローンの支払い猶予期間も終わり、返済が始まる。
・米国の商用不動産で不良債権が急増している。金利高などにより今後それがさらに増加していく可能性が高い。8/2日経
・市場のカンフル剤になった「生成AIブーム」がいったんしぼむ可能性がある。9/26日経
・2008年に起きた金融危機では、中国の大型投資により世界経済は救われたが、今回はそれが期待できない。

<景気浮揚要因>
・失業率が低い。米GDPの7割は個人消費が占めるが、失業率が低水準の状態で維持されると、所得が増え、消費が落ち込みにくくなる。1960年代以降に8回あった景気後退局面では、失業率が平均で3%強上昇しているが、今後想定される失業率の上昇幅はその半分にも満たない。9/1日経
・米家計のバランスシートは健全。家計の可処分所得に占める元利払いの返済負担比率は低下している。9/28日経
・インフレが鈍化している。コロナ禍で深刻になっていた移民減少や半導体不足などの供給制約が緩和されてきている。インフレ指数の大部分を占める賃料も落ち着き始めている。
・過剰流動性(金余り)が維持されている。コロナ禍で政府がばらまいた資金が市場にまだ高水準で残っている。景気サイクルの終盤にもかかわらず、家計の貯蓄も豊富にある。7/20日経
・現在はサービス業が経済成長を主導しているので、景気が落ち込みにくい。サービス業は投資資金を製造業ほど必要とせず、イノベーションが起こりやすいので、成長力が落ちにくい。
・米国では半導体産業や環境産業(EVなど)を政府が支援しているので、景気が落ち込みにくい。8/5ヴェリタス
・市場はすでに景気後退をかなり織り込んでいる。
・インドなどの新興国経済が好調。中国はいろいろと問題を指摘されているが、それでも今年、来年と5%程度の成長を維持できる見通し。

<まとめ>
景気後退に陥らないかどうかは微妙なところだが、現時点では深刻な景気後退は避けられそうな雰囲気。米失業率がポイントになりそうなので、そこを重点的に見ていきたい。


■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務は積み上がっており、GDP比220%に達している(日経日経)。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化する。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

中国政府がとれる政策が限られてきた。政府や民間企業の債務残高の合計はGDP比で約300%に膨らんでおり、これまで成長を支えてきた公共支出のさらなる拡大はしにくい。人民元安も進んでおり、中国人民銀行(中央銀行)は景気を支えるための大幅な利下げをしにくい。8/19ヴェリタス9/21日経


景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が2024年頃までに武力で台湾を併合するとの予想がある(日経日経日経日経)。実際にそれが起きれば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる(日経日経日経)。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米国側からになる。日経日経

ただ、中国は米国債を着実に売り続けている。一方で「安全資産」である金の保有は増やしている。台湾に侵攻する気持ちも少しはあるのかもしれない。7/1ヴェリタス


景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある(日経ロイター)。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのではないかと思う。

2022年は世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生した(日経産業ヴェリタス日経日経)。2023年もしかり(7/31日経8/1日経8/12日経9/27日経)。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは3月に「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測している(日経)。経済システム転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので(『21 Lessons』)、人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている(日経日経)。AIやロボット、教育(日経)などの影響を考えると、今後もピーク時期の前倒しが続く可能性が高い。


景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や紛争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。ロイター

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので(日経)、景気後退もしくは財政破綻する可能性がある。


■今後の計画
円が120円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。

・米市場に上場している「銅ETF」「銀ETF」
「グリーン革命」で銅需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りそう(日経日経8/21日経)。仕込むタイミングは2024年の半ば頃にくるかもしれない(日経)。銀もグリーン経済などの影響で供給不足に陥りそう(7/15ヴェリタス)。

・QQQ(インベスコQQQトラスト・シリーズ1ETF)
ナスダック100指数に連動するETF。アルファベット、マイクロソフト、テスラ、アマゾン、アドビ、アップル、メタ、エヌビディア、(セールスフォース)などの大型テクノロジー株はまだまだ成長しそう。

・ファーストトラスト・クラウド・コンピューティングETF
この「クラウドETF」は、マイクロソフトやアマゾンなどクラウド基盤を提供する銘柄と、クラウド経由でソフトウェアを提供するSaaS銘柄で構成されている。現在は大きく売り込まれているが、ビジネスモデルや長期的な見通しは悪くない。日経

・ヴァンエック半導体ETF、「サイバー・セキュリティETF」
AI・ロボット社会では半導体企業とサイバー・セキュリティ企業の力強い成長が期待できる。半導体株は「シリコンサイクル」的に2023年後半あたりが仕込み時になりそう(日経)。ただ米国の対中輸出規制や、世界的な半導体過剰投資には気をつけたい。日経日経日経

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のeコマース企業。ビジネスモデルはAmazonのマーケットプレイスに近い。もう一つの事業がフィンテック事業。南米は欧米などと異なり、銀行口座やクレジットカードを保有してない利用者も多い。ラテンアメリカ市場ではオンラインで販売した際に支払処理をどのように行うかが大きな問題となっている。メルカドリブレはそれぞれの国情に併せてQRコードなどを活用した様々な決済サービスを提供している。ラテンアメリカはインターネットの普及自体が遅れているため先進国と比べて出遅れ感があり、その分成長余地が残されている。問題はカントリーリスクになる。サービスを提供している18カ国のうち、アルゼンチン、ベネズエラ、ニカラグアのリスク評価は最低ランクで、最大の売上を稼ぐブラジルも下から3番目の評価になる。ビジネス自体は順調であっても為替レートが大幅に低下すればドル建ての業績は悪化してしまう。週刊エコノミスト

・(つみたてNISA用) iシェアーズ・コア S&P 500 ETF
S&P500指数に連動するETF。手数料は0.03%と安い。金融庁に承認された現時点で唯一の米国市場に上場するETFになる。問題はこのETFをNISAで買える証券会社がないこと(5/14ヤフーニュース)。SBI証券で買えるようにしてくれればと思う。

ボリンジャーバンド

株式需給について調べていたら、「チャートで需給を見る」という言葉を見つけた(ダイヤモンド・オンライン2022/3/9)。響きが新鮮だったので記事で紹介されている本を読んでみた。

本の内容はテクニカル分析がメインの普通の投資指南本だったが、2点だけ参考になるというか、考えさせられる箇所があった。

1点目は「損切り」の箇所。

・保有している小型成長株が急落したら理由を考える前に問答無用で売る。理由はすぐにわからないことが多く、わかってからでは遅すぎる。すばやく売ることを徹底することが長期的な高パフォーマンスにつながる。

・どれほど成長期待が大きくても急落した小型株はいったん売って頭を冷やして考え直した方がいい。企業の未来を正確に予想することはできない。

・暴落銘柄は暴落する前に何度も売りシグナルを発していることが多い。そこで売っていく必用がある。

ここで言っていることはよくわかる。これまでこれをせずに何度も悲しい思いをしてきた。しかし性格上、この「問答無用で売る」ということができない。問答をして、たとえ屁理屈でも、理由がはっきりしない限り売買することができない。ただ株式投資で最も重要なことは「知識をつけること」だと思っているので、これからも問答をして知識をつけることを重視していこうと思う。いったん売ってから問答するという手もあるかもしれないが、狼狽売りになったり、興味を失ったり、売買でメンタルが消耗したりするので、それはやらないことにする。

最近では株価が出来高をつけて大きく動いたときは、その理由がだいたいすぐにわかるようになってきた。この変動要因を見極める力を今後も鍛えていきたい。


2点目は「ボリンジャーバンド」の箇所。

これまでボリンジャーバンドは全く使ってこなかったが、『2000億円超を運用した伝説のファンドマネージャー』の著者はこのテクニカル指標を最も信頼していたという。使えそうな指標なのでこの指標について簡単にまとめておく。

ボリンジャーバンドは1980年代にアメリカのアナリスト・ボリンジャーさんが考案した指標で、1本の移動平均線とその上下6本の標準偏差(線)で構成されるバンド(帯)になる。
*標準偏差とは、データが平均値の周辺でどれくらいばらついているかを表すもの。

標準偏差が小さいと、つまり株価の変動が小さいと、バンド幅は狭まっていく。反対に株価の変動が大きいと、バンド幅は広まっていく。ボリンジャーバンドが最も使えるタイミングは、このバンド幅が狭くなったときになる。

ボリンジャーバンドの標準偏差は±1α~±3αまで3種類ある。
±1α標準偏差の中に株価が納まる確率は68%になる。
±2α標準偏差の中に株価が納まる確率は95%になる。
±3α標準偏差の中に株価が納まる確率は99%超になる。

この局面で使う標準偏差は±2αになる。±2αのバンドが狭まった状態で、株価が上下どちらかのバンドにタッチ(または貫通)した場合は、これまでなかった新しい動きと解釈でき、株価の方向性が出やすくなる。そのタイミングで売買すれば出たばかりの材料に乗れる確率が高くなる。

ただし、その後に値動きの激しい状態が続き、広くなった±2αを株価が超えていく場合は行き過ぎのサインで、反転する確率が高くなる。


この指標を使って過去のいろいろな銘柄のチャートを見てみると、確かにこのルール通りに動いているものが多い。試しにエムスリーの今後をボリンジャーバンドで占ってみる。

<エムスリーの3年チャート> 直近でバンド幅は狭くなっており、-2αのバンドを一度貫いている。今はタッチしている状態。下降トレンドはまだ続くのかもしれない。