2019年10月4日金曜日

売買チェック

・日経レバETF。7割売却。損益-3%。
円高トレンドや貿易環境の不透明感、戻り売りなどで、日経平均が22000円以上にはなりにくいと思ったから。ただ米中貿易戦争が一時停戦になりそうで、世界的に金融緩和・財政出動の流れになってきているので、しばらくは高値圏で推移しそう。チャート的にも出来高をつけてゴールデンクロスを形成しているので23000円くらいまでは上がるのかもしれない。

今回、米ドルや日経レバETFなどのマクロ系金融商品を買ってみたが、政治の動向がネックになることがわかった。米中貿易戦争にしても、米国の対応がコロコロ変わるだけでなく、中国の対応もコロコロ変わる。中国は8月まで米農産物の輸入はしないような雰囲気だったが、9月に入り一転、輸入を再開することに決めた。このきっかけはおそらく豚コレラ流行による食品物価の急上昇(9/11日経)あたりになるとは思うが、単にそれだけが理由とも思えない。政治についての広範な知識があればもう少し予測精度は上がるとは思うが、ここら辺はあまり興味のない分野なので、これ以上深入りするのはやめようと思う。

7/14の日経ヴェリタスでヌビーン・アセットマネジメントのボブ・ドール氏が「「長短金利の逆転」「社債スプレッドの拡大」「物価上昇」のうち、2つ以上が該当する場合は景気後退に陥る可能性が高まるが、1つ以下の場合は問題ない。今は1つしか該当せず、市場は退屈な中立状態。バブルの気配はないが、景気後退の予兆もない。下がったら買い、上がったら売るしかない」みたいなことを言っていたが、足下ではその通りの展開になっている。確かに物価上昇(金利上昇)や景気後退(信用収縮)が起きない限りは、お金の逃げ場がないので、市場はボックス圏で推移するしかないように思う。マクロ系金融商品を売買するときは、このくらいざっくりしたスタンスでのぞむのがベストではないかと思った。

・日進工具。全売却。損益-37%。
・コンテック。全売却。損益-36%。
円高トレンドと貿易環境の不透明感で業績が回復するのはしばらく先になると思ったから。

8月に半分売却したが、ほぼ底値で売っていたらしい(笑)。フロー型ビジネスモデルの景気循環株は妥当な株価がわかりにくい。現状はチャートで判断している状況だが、お世辞にも適切な判断ができているとはいえない状態。この点に関しては今後も考察を続けていくが、とりあえずは景気拡大期の終盤にこの手の株は買ってはいけないことがわかった。

持ち株チェック

保有比率の高い順に見ていく。

■弁護士ドットコム
基本シナリオ:法律分野をITで変革し最強のプラットフォーマーに
JPモルガンが「オーバーウェイト」でカバレッジ開始。モルガンは浮動株が少ない中で保有比率6.3%まで買い進んでいるので、その本気度が窺える。モルガンによると「下期から来期にかけて、クラウドサインは成長加速のカタリスト(材料)がそろっており、中長期ポテンシャルを織り込みに行く展開を予想する。目標株価6000円」とのこと。

9月24日に実店舗での申し込みを電子化するクラウドサインNowが始まった。このサービスを紹介する動画を見たが、最新テクノロジーやiPadをうまく活用しており、契約状況の分析サービスまでついているので、これも今後伸びていきそうだと思った。今後3年の予想売上高成長率は年率35%程度。現在の企業価値は将来の予想利益などを勘案すると800~1300億円(株価3600~5800円)くらいか。2030年の予想時価総額は1兆円。

■シンクロ・フード
基本シナリオ:市場独占型プラットフォーマーではないので利益成長は厳しそう
人材採用の効果が現れ始めたのか、関東と関西の求人広告数が少し増えてきた。ただ、今は景気拡大期の終盤なので、今後は伸び悩んでいきそう。それとM&Aのサイトが様変わりしていることに気づいた。地味な改善が着実に進んでいるのかもしれない。今後3年の予想売上高成長率は年率10~20%。営業利益成長率は年率0~5%。今後1年の予想平均株価は400~600円。
業績に最もインパクトのある求人広告掲載数を記録していく。関東 2484(2339)
関西 767(685)  東海 330(307)  九州 93(107)  北海道・東北 80(144) 総計 3754(3582)
市場独占型の求人プラットフォーマー・インディードの掲載数も記録していく。東京都の飲食店 10951(96498) 大阪府の飲食店 40064(33185)
*( )内は前年同月

■ペプチドリーム
基本シナリオ:ペプチド創薬で最強のプラットフォーマーに
富士通と共同研究して、新薬候補探索速度を10倍にするというIRがあった。今までの探索速度3ヶ月でも十分速いと思っていたが、それを10日程度に短縮できる可能性があるという。ペプドリ創薬プラットフォーム(PDPS)の人気がますます高まりそう。今後3年の売上高成長率は年率20%程度。現在の企業価値は将来の予想利益などを勘案すると6000~8000億円(株価4800~6500円)くらいか。2030年の予想時価総額は5兆円。

■朝日ネット
基本シナリオ:ストックビジネスで地味に成長&株主還元
IOTの本格的な普及には低遅延で同時多接続が可能な5Gが必須と言われているが、9/5の日経に、5Gは「今が期待のピーク」とあった。確かに今年のハイプサイクルを見ると5Gは期待のピークのところにきている。となると、AIやIOTが爆発的に普及する『データ・ドリブン・エコノミー』(データ駆動型経済)の本格到来は2023年頃になるのかもしれない。朝日ネットは5Gがらみで買われてきたところもあると思うので、5Gの期待がしぼむにつれて株価も若干調整するのかもしれない。とはいえ、2015年のハイプサイクルでは、IOT(モノのインターネット)が期待のピークにきており、現在ではすでに普及拡大期に入っているようなので、それほど心配する必用もないのかなとも思う。今後3年の予想売上高成長率は年率6%程度でEPS成長率は年率15%程度。2019年の予想平均株価は650円(変動率±20%)。

■厳選ジャパン(投資信託)
基本シナリオ:ビッグチェンジ銘柄投資でテンバガー達成
9/4の日経に流動性リスクのある中小型株が売られているとあった。中小型株は出来高が少ないためいざというときに売れないリスクがあるという。また日経マネー5月号では個人投資家の片山晃氏が「大半の投資家は小型株なんて知らない。小型株が上がってきたのは、上げ相場で銘柄を懸命に探す投資家がたくさんいたからで、そういう人たちがやる気をなくせば値は下がっていくだけ。下げ相場では損切りしたくても、買い手がいる保証がない」みたいなことを言っていた。となると、主に中小型株で構成されているこの投信は今後厳しい展開になっていくのかもしれない。とはいえ、この投信は「日本株」「30銘柄以下」という制約しかないので、今後大型株などにシフトしていくかもしれない。またたとえシフトしなくても、長期では伸びていきそうな会社ばかりなので、それほど問題ないのかなとも思った。今年の予想基準価額は11000円(変動率20%)。

■パーク24
基本シナリオ:最強のカーシェア・プラットフォーマーに。海外の「空港」駐車場事業は効率化しにくいので期待薄。
カーシェア車両に貼ってあるラベルが変わっていることに気づいた。新ラベルは黄色地に黒字で「Times」とだけ書いてある。すこし目立つなあと思った。カーシェア利用者は運転が下手なのがバレたくないのであまり目立たないほうがよいと思うのだが・・。今後3年の売上高成長率は年率5%で利益成長率も5%程度。2019年の予想平均株価は2400円(変動率20%)。

■今後の計画
日経レバETFは、日経平均が23000円になったら売却する。
シンクロフードは600円になったら売却する。
朝日ネット、パーク24は考え中。
弁護士ドットコム、ペプチドリーム、厳選ジャパンは長期で保有する。

日経平均が23000円になったら日経インバースETFを買う。
1ドルが110円になったらドルを売る。
メディアドゥが3300円になったら買う。

今後は「日本円」が強そうなので、基本的には現金ポジションを増やす方向でいく。

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
予想レンジ:今後1年は1.1%~2.1%の間で推移

長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今後は両者とも低下傾向になる。米国の2018年の経済成長率は2.9%、2019年は(予)2.6%、2020年は(予)1.9%で、インフレ率は2018年が2.4%、2019年は(予)2.0%、2020年は(予)2.7%になる。貿易戦争が激化した場合、経済成長率は下振れし、物価には上昇圧力がかかる。
*数値はIMF予想

・金融政策↑
インフレ率が2%を下回り始めているので、FRBは7月に金融緩和に転じた。現在の政策金利は1.75-2.00%だが、政策金利の先行指標である米2年物国債利回りは1.39%まで低下しているので、利下げはもう少し続くかもしれない。ただ今回の利下げは、景気後退に陥ってからの利下げではなく、将来の景気減速に備えた予防的な利下げなので、景気浮揚効果により長期金利には上昇圧力がかかる。

FRBは長期金利のコントロールにも触れ出したが、もしそれを実行すれば長期金利には明確な天井ができる。

・リスクオン、オフ→
米中貿易戦争が一時停戦に向かいそうな雰囲気があるので、ややリスクオンになりつつある。

・財政赤字の拡大↑
米政府は財政支出を拡大しており、今後も年金や医療、福祉などの社会保障費が税収の伸びを上回って増加していきそうなので、長期的に財政赤字の拡大は続きそう。2018年の米国の財政赤字額は100兆円を超えており、この水準は当面続く見込み。

・米国債の人気低下↑
米10年国債の利回りは先進国の中では相対的に高いので海外から買われやすいが、足下では為替ヘッジコスト(2.2%)が米長期金利(1.53%)を上回っているので、海外からの米国債の購入は減少しつつある。双子の赤字(貿易赤字や財政赤字)の拡大も人気低下の要因になる。
*ヘッジコストとは外貨の短期金利と運用元通貨の短期金利の差から生じるコスト

・トランプ大統領の介入↓
低金利好きのトランプ大統領はFRBへの口先介入のみならず、FRBへ緩和派の人間を送り込むなどして金融緩和圧力をかけ続けている。これは短期的には金利に低下圧力がかかるが、中長期では金融市場に歪み(バブル)が生じ金利に上昇圧力がかかる。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れも減少している。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率が長期的に低下傾向にある。

投機筋の持ち高
足下では売り越しが減少傾向にあるので、投機筋は長期金利がいったん底打ちしたとみている。

・チャート↓
短期・中期・長期、全てで下降トレンド。


■WTI原油 (保有資産:なし)
予想レンジ:今後1年は45ドルから70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦は60ドル、ロシアは45ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。

・トランプ大統領の介入↓
トランプ大統領は低インフレ(低金利)と株高を切望しているので、原油価格の上がりにくい政策をとる。トランプ大統領の介入ラインはおそらく65ドルあたりになる。

・需要↓
景気減速により石油需要は年初の見込みより下振れているようだが、景気減速は比較的穏やかなものになりそうなので需要が急減することはなさそう。現時点では前年比1%の伸び率。

中長期的には景気後退や温暖化対策(クリーンエネルギーへのシフト)など需要を抑制する要因もあるが、人口増や世界経済の成長に伴い原油消費量は増加基調になる。脱プラスチック運動も始まりつつあるが、石油化学製品を代替品に置き換えるには少なくともあと数十年はかかると言われている。IEA(国際エネルギー機関)によると石油需要は2040年まで拡大を続ける見通し。

・供給↑
イランやベネズエラの供給が減り、OPECとロシアが協調減産してるので足下で供給はしまりつつある。OPECは世界景気後退を懸念して少なくとも2020年3月末までは協調減産を続けることに決めている。

長期的には原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより、新規の油田開発が停滞気味なので、将来の供給不安は残る。
*現在ESG(環境、社会、企業統治)の観点を考慮しない企業は評価しないという流れになってきている。地球温暖化につながる化石燃料は環境リスクが高く、3月には世界最大の政府系ファンド・ノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外すという方針を示している。7月にはEUの政策金融機関、欧州投資銀行も化石燃料に関連する事業への新規融資を2020年までにやめるという方針を示している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
米国は1月にベネズエラ国営石油会社への制裁を決定した。ベネズエラの産油量は投資不足などもあり著しく低下している。

リビアで内戦が激化している。生産設備の被害や輸送の寸断で一気に生産量が落ちる可能性がある。

米国は5月にイラン産原油を全面禁輸することに決めた。イランは対抗措置として原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡(世界の石油タンカーの2割が通過)を閉鎖すると警告していたが、5月に入りさっそく通過するタンカーなどへの攻撃を始めた。その後もゴタゴタが続いており、9月にはサウジの石油施設が新イラン武装組織フーシから大規模な攻撃を受けた。サウジの供給減少分は備蓄分や他国の増産で補えるようだが、今後しばらくは原油価格にリスクプレミアムが上乗せされそう。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立状態。地合いは若干リスクオンに傾きつつあるが、中東情勢の緊迫がリスクオフ要因になる。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

投機筋の持ち高
買い越しポジションは横ばい傾向。投機筋は今くらいの水準で落ち着くとみている。

・為替↑
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかるが、ドルはほぼ頭打ちの状態なので、今後は原油価格に徐々に上昇圧力が加わってきそう。ドル安になると新興国の輸入が増えやすくなるのでこれもまた上昇圧力になる。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、ドル安(円高)が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまる。硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかると言われている。

・チャート→
中期ではボックス相場、長期では下降トレンド。


■ドル円 (保有資産:なし)
予想レンジ:今後1年は98円から108円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、今は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融引き締めから緩和に転じつつあるので、徐々に円高圧力が高まりそう。6/26の日経によると、FRBが0.5%の利下げをすると(政策金利が1.75~2.00%になると)日経均衡為替レートは105.9円が妥当な水準になるという。現在は0.5%の利下げが完了しており円は106.8円まで上昇しているが、今後も景気後退懸念によりさらに利下げが進んでいきそう。

・リスクオン、オフ→
米中貿易戦争がいったん落ち着きそうなので、ややリスクオンに傾きつつある。

*リスクオフになった場合のドル円の基本的な動きついて。まず条件反射的に円が買われる。そこからさらに不透明感が強まればキャリー取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こる。本格的なリスクオフまで発展すると対外資産の引き上げ(投資撤退)と、その思惑による円買いが起こる。
 *キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り高利通貨を買って金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただし足下では円以外のユーロやドルも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。
 *日本が持つ対外純資産は世界最大の340兆円になるが、そのうち資産の引き上げが起こりやすい証券投資の割合は3割程度(100兆円)になる。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。ただ2018年の対外直接投資は15兆円程度と高水準だったが、日本企業の海外M&Aに1年半先行する世界製造業PMI(購買担当者景気指数)は2017年12月にピークアウトしているので、日本企業による海外M&Aもいったんピークアウトしそう。米中貿易戦争による貿易環境の不透明感も対外投資減速の一因になる。
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。
*今年1月~6月の海外直接投資額は13兆6千億円。

・日本の投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、為替差損回避(ヘッジ)付きでも高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。国内の超低金利は当面続きそうなので、今後も対外証券を積み増していく可能性が高い。
*足下では世界的な金利低下により外債の利回りも下がっているので外債購入が減りつつある。

日本の対外証券投資は年によってばらつきがあるが、平均すると年10兆円程度の買い越しになる。今後は異次元緩和前の比較的高い利回りで購入した国内債権の償還が始まるが、戻ってきたお金は国内債への再投資ではなく、外債に回る可能性が高い。2019年の償還額は47兆円になる。
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。
*今年1月~9月の海外証券投資は18兆円超。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、それで外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っており、これは円高圧力になる。

・経常収支→
中期的には、輸入額の4分の1(20兆円)を占める原油・天然ガス価格がやや高止まりしているので貿易収支が徐々に悪化していきそう。長期的にも、スマホや医薬品などの輸入が増加傾向で、生産の海外移転などにより輸出の伸びが鈍化傾向なので貿易収支は悪化していきそう。2018年の貿易黒字額は1兆円程度になる。
*貿易ではドル決済が圧倒的に多いため、実需では年間7兆円くらいのドル不足が発生すると言われている(7兆円くらいの円売り需要がある)。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは半分(10兆円)程度しか生まれない。

・投機筋の持ち高→(「米国商品先物取引委員会 円 投機的ネットポジション」で検索)
足下では投機筋による円ポジションが売り持ちから買い持ちに転じている。投機筋は円高が進むとみている。
*円を買い持ちするとスワップポイント(金利差収入)がマイナスになるので、拡大余地はそれほど大きくはなさそう。

・日米の経済成長力↑
資金は景気の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などの資産価格を押し上げるが、基本的には日本経済よりも米国経済のほうが景気が強いのでドルが買われやすい。しかし足下では米国経済はすでにピークアウトしているので、両国の成長力格差は縮小しつつある。

購買力平価
ドル円の購買力平価は95円程度なので、円の下限は75円、上限は120円程度になる。米国の方が慢性的にインフレ率が高いので、購買力平価は長期的な円高傾向にあるが、米国のインフレ率は年々低下して日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

・米財政赤字の拡大↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、この水準は今後もしばらく続きそう。近い将来、米国債を消化するために大量のドルが発行される可能性が高い。

・日本の財政赤字の拡大↑
日本の累積財政赤字はGDP比200%を超えており、今後も社会保障費の増大により財政赤字は拡大していく可能性が高いので、円離れがすすみそう。日本も米国同様、日本国債を消化するために大量の円が発行される可能性が高い。

・チャート→
短期ではいったん下げ止まったように見えるが、中長期では下降トレンド。

■日経平均 (保有資産:日経レバETF)
予想レンジ:今後1年は19000から23000のボックス圏で推移
日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需給↑
日銀が日本株を買いまくっているので日本株は下がりにくい。日銀の買越額は年間6兆円規模になるが、他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(詳細は「長期計画チェック」)、売り玉はすべて日銀が吸収してくれそう。

 <2019年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行、金融政策により3~6兆円の買い越し。現状は3兆5千億円の買い越し。
 事業法人、自社株買いにより3~4兆円の買い越し。現状は3兆4千億円の買い越し。
 海外投資家、世界景気後退懸念により2~4兆円の売り越し。現状は2兆8千億円の売り越し。
 個人投資家、相続に伴う換金売りで1~3兆円の売り越し。現状は2兆3千億円の売り越し。

・EPS(1株利益)→
日経平均株価は基本的にEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まるが、2018年のEPSは-3%、2019年は(予)0%、2020年も(予)0%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気→
日本企業は海外で6割を稼いでいるので、海外景気の影響を大きく受けるが、IMFは2019年が3.2%、2020年が3.5%、世界経済が成長すると予想しているので、日本企業の業績もそこそこ堅調に推移しそう。

・失業率↓
失業率が最低水準まで低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率は最低水準(2.3%)にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫される。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
米中貿易戦争激化によりリスク選好度は低下傾向。日経平均のPERは基本的に11~16くらいの間で推移するが、現在のPERは12.18になる。貿易戦争によるリスクオフやEPS下振れ懸念があるので、このくらいの水準が妥当なのかもしれない。

・金余り↑
市場にお金があふれると資産価格は上昇するが、今後も金融緩和は続きそうなので株価は下落しにくい。

・利回り↑
日本株式の益回りは8%超で配当利回りは2%超と、日本国債の利回り-0.2%より高いので、株式に資金が流れやすい。

投機筋の持ち高
売り越しは横ばい。投機筋は日本株がこのくらいの水準で落ち着くとみている。

裁定売り残高の方は、買い残高と逆転し、高水準の1兆7000億円まで積み上がっている。投機筋は日本株が大きく下がるとみている。
*平時は売り残高よりも買い残高が多いのが普通で、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」の水準になる。現在の裁定買い残は5700億円と売られすぎの水準。

・チャート→
19000~23000円のボックス圏で推移しそう。短期では200日線を25日線と75日線が上抜いているので若干上がりそう。

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■ファンダメンタルズ
<EPS成長率>
・世界株式の2018年のEPS増加率は15%、2019年は8%。
・米国株式の2018年のEPS増加率は22%、2019年は0%。
・欧州株式の2018年のEPS増加率は5%、2019年は3%。
・日本株式の2018年のEPS増加率は-3%、2019年は0%。
参照:9/7日経9/8日経など
→問題なし

<経済成長率>
・世界の2018年の成長率は3.7%、2019年は3.2%、2020年は3.5%。
・米国の2018年の成長率は2.9%、2019年は2.6%、2020年は1.9%。
・中国の2018年の成長率は6.6%、2019年は6.2%、2020年は6.0%。
・ユーロ圏の2018年の成長率は2.2%、2019年は1.3%、2020年は1.6%。
・日本の2018年の成長率は1.1%、2019年は0.9%、2020年は0.4%。
*IMFの予想。参照:2019/07/24日経
*IMFは4期連続で下方修正している。IMFは「貿易政策が解決しなければさらに下振れする」と言っている。
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。

2017年あたりから世界同時成長が起きており、このような状態は通常2,3年続くという。ただしこのような世界同時成長は景気サイクルの終盤に見られる特徴的な現象とも言われている。米ピムコは2019年に世界経済の同時減速が始まると予想している。

世界同時成長は海外で6割を稼ぐ日本企業には追い風になる。しかしその反面、海外の景気後退期は日本企業にとって強い向かい風になる。このような経済構造に円高効果が加わり、日本株は米国株の1.5倍くらい下落する。
→問題なし

<インフレ>
・米国の予想インフレ率は2018年度が2.4%、2019年は2.00%、2020年は2.73%
・欧州の予想インフレ率は2018年度が1.5%、2019年は1.5%?、2020年は1.8%?
・日本の予想インフレ率は2018年度が0.98%、2019年は1.07%、2020年は1.54%
*IMFの予想。参照:世界経済のネタ帳

中央銀行に課せられた最大の任務は「物価に安定」になるが、中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行うことになる。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性が高い。
→問題なし

<金利>
・米国の2年金利は1.39%で10年金利は1.52%。
・日本の2年金利は-0.32%で10年金利は-0.21%。
*米国の2年金利が10年金利を上回ると平均18ヶ月後に景気後退に陥るといわれるが、2019年8月にその2つが逆転した。現在の差は+0.13%。
*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)が-0.5%まで低下しているので、米株には割安感が出ている。
→問題あり

<債務>
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
*米企業の債務残高は2011年のGDP比65%から過去最高の73%まで上昇している。一方で米家計の債務残高は2007年のGDP比97%から76%まで低下している。2019/5/23日経
  *今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かすだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。
 *足下ではレバレッジド・ローンと呼ばれる高リスクの貸し出しが増えている。
 *先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる。2019/7/19ダイヤモンド
*中国の企業・家計債務は危険水準に達しているが、2018年に習政権は経済の筆頭課題に金融危機封じ込めを据えていたので(2018年中盤から景気重視に転換)、しばらくは心配しなくてもよさそう。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は、可処分所得に対する家計債務比率が日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、今後深刻な消費不振に陥る可能性が高い(2019/7/28日経)。ただ8月16日に中国政府が「2019年と2020年の個人の可処分所得を押し上げる政策を実施する」といっているので、当面は大丈夫そう。
*新興国は米金融引き締めなどで通貨安・高インフレ・高金利になり、債務圧縮局面に入りつつあったが、米国が金融緩和に転じ、新興国のインフレ率は中銀のターゲット内に収まっているので足下では落ち着いている。
→問題あり

<金融政策>
・米国は7月に金融緩和に転じた。
・欧州も9月に金融緩和に転じた。
・新興国も米金融緩和を受け緩和に転じつつある。
・日本は金融緩和を継続しているが限界に近づきつつある。日銀によると2020年4月頃までは現状の緩和水準を維持し、その後も長期で緩和を続けるとのこと。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率がさらに落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作っているという一面もある。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀に課せられた任務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*米国ではトランプ大統領がFRBに金融緩和圧力をかけているが、これを続けているとジョンソン大統領やレーガン大統領の二の舞になる可能性がある。ジョンソン大統領のときはニクソンショック、レーガン大統領のときはプラザ合意というドルショックが起きている。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ないように思う。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかなさそう。
→問題なし

<政治>
・日本は安定。19年の消費税引き上げは株式市場の鬼門になると思っていたが、政府の大盤振る舞い(支援給付金、軽減税率、教育無償化、補正予算)や携帯料金引き下げなどにより、消費増税の負担を相殺・超過しそうなので問題なさそう。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・香港ではデモが続いているが、これはもしかすると中国民主化への序章になるかもしれない。チベットでは中国の思想を植え付ける100万人規模の再教育施設があるようだし、中国の監視・信用格付け社会では社会的弱者の不満が高まっているようなので、中国に経済ショックのような大きな打撃が加われば、一気に民主化の機運が高まっていく可能性がある。
・英国は強行離脱派のジョンソン氏が首相になったので強行離脱する可能性が少し高くなってきた。今後EU離脱には「合意なしの離脱」「合意ありの離脱」「総選挙を実施して離脱延期」「再国民投票を実施して離脱撤回」などのシナリオがあるが最後までもつれそう。
・英国のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっている。しかし失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
→問題あり

<その他の景気後退シグナル>
・過去の景気後退期はすべて米国の需給ギャップがプラスに転じた後に始まっているが、足下ではすでにプラスに転じている。
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしそうだったが足下では反発している。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は47.8と2ヶ月連続の50割れ。
・失業率が最低水準まで低下すると企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになるが、米国の失業率は歴史的に低い水準(3.7%)にある。米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われているが、現在はまだ低下している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、今がまさにその状態。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は景気がピークアウトするかどうかの分岐点にある。
・世界景気を半年先取りするOECD景気先行指数は低下が続いており、節目の100を下回っているが、この指数よりさらに先行性のあるOECD中国景気先行指数や中国製造業PMIは下げ止まりつつある。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは「問題なし」の水準で落ち着いている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれるが、今はまだ「長短金利の逆転」だけ。
・起こり得ない衝撃的な事象の発生を織り込むSKEW指数(ブラックスワン指数)は現在112と低位で推移している。
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多いが、今は「4,利上げ打ち止めを好感した反発」局面に入りつつあるので、いったん上がりそう。
→問題なし

■テクニカル
・チャート
日米欧のチャートは特に問題なさそうだが、中国のチャートは天井を打って、長期の下降トレンドに入ったように見える。次の景気後退の先導役は中国が担うのかもしれない。
<上海総合指数の5年チャート>
→問題なし

・ディストリビューション・デー(機関投資家の売り抜け日)
日経平均 1日
NYダウ 4日
ナスダック 7日
→問題あり

・騰落レシオ
日経平均 126
NYダウ 113
ナスダック ?
→問題あり

・信用評価損益率
ー13.48 %
→問題なし

■まとめ
問題なし7件、問題あり5件、中期的な危険度:45%、1年以内に米国が景気後退に陥る確率:65%、1年以内に中国の債務バブルが破裂する確率:10%、投資判断:様子見
*景気後退とはGDPが2四半期連続でマイナス成長になること。

金融相場(業績停滞 × 金融緩和)がしばらく続きそうだが、日本株は為替が円高に傾き始めているので上値が重くなりそう。

長期計画チェック

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」いわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

現時点の予想では2020~2021年頃に景気後退期に入るとみている。ただ今回の景気拡大期は低成長・低金利の中で浅く長いものだったので、景気後退期も浅く長いものになりそう。・・もしくは、今後はデジタル革命と低金利が続きそうなので、浅い景気後退期の後に穏やかな景気拡大期が長期で続く、という展開になるかもしれない。

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過去の景気後退に共通するパターン:米国の長短金利が逆転した後、もしくは利上げ停止後、1,2年してから日本株が50%超下落。

2018年12月に長短金利が逆転し、利上げも停止されたので、今後1,2年以内に景気後退に陥る可能性が高まってきた。ただ今回の利上げ停止ポイントは過去の水準(5%超)と比べてだいぶ低く(2.5%)なりそうなので、景気後退は比較的穏やかなものになるかもしれない。
*政策金利2.5%とは、景気をふかしも冷やしもしない中立金利(2.75%)よりも低く、実質政策金利(名目政策金利-インフレ率)も0.5%と低いため、かなり緩和的な水準になる。
*今回の長短金利の逆転は従来のものとは成立パターンが異なる。過去のパターンは高インフレによって押し上げられた短期金利が長期金利を上抜いているが、今回は低インフレ下でFRBの利上げ停止によって下がった長期金利が短期金利を下抜いている。
*今回は中銀が量的緩和をして国債をたくさん買っているので、長期金利は元から低かった。

以下、景気後退や株価下落を穏やかにする要因を列記していく。
・リーマンショックの記憶がまだ残っているため、皆慎重になっている。
・バブルは借金をして資産を買いまくることによって生じるが、先進国では今回そのような現象はあまり見られない。・・と言われていたが実際は超低金利が長期にわたり続いているので、順調にバブルは醸成されていたもよう。ただこのバブルは主に債券市場で起きており、金利上昇や景気後退が起こらない限り、このバブルは破裂しにくい。
・先進国の金融機関の財務状態は比較的良好なため、先進国では金融危機(信用収縮)は起こりにくい。
 *金融危機(信用収縮)、つまりクレジットの消失が起こらなければ、金余りの状態が続く。*クレジットとは世の中に流通する大半のお金のこと(参照)。
 *中国の不動産にはバブルの兆候がある。ただし中国政府の需要抑制策により、日本のバブル期ほどの過熱感はない。
 *中国で最も大きなバブルはシャドーバンキング商品(銀行理財商品、委託融資、信託商品)への投資になる。これらの投資は過熱感が強く、2017年末の残高は1000兆円とGDP比8割の規模になる。
 *バブル崩壊の仕組み。景気後退や金利上昇などにより株式や不動産などが売られはじめると、資産価格が上昇することを前提として資産を買っているバブル系投資家が資産の投げ売りを始め、資金の逆回転が起こる。

・中国政府には財政出動や金融緩和の余地がある。
・中国は独裁体制のため、不況に陥るとすべての批判が指導部に降りかかる構造になっている。そのため指導部はなんとしても不況を起こさないようにする。
・中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業のものなので計画に沿って徐々に削減していけそう。
・トランプ政権は2020年の大統領選に向けて景気刺激策を打ってきそう。株価の維持は再選への最低条件になる。
・先進国のインフレ率は慢性的に2%を下回りつつあるので、今後も長期で金融緩和が続きそう。
・先進国の中銀はインフレターゲットを2%に設定しているが、現在のようなインフレが起こりにくい環境でインフレ2%を達成・維持するには株高のような資産価格の維持・上昇が不可欠になる。そのため中銀は株式市場に優しい政策をとらざるを得ない。
・中銀が量的緩和をして国債などの資産を大量に買っているので資産価格は下がりにくい(金利は上がりにくい)。中銀が資産売却を進めれば資産価格は下がるが、今のところそれを進める気配はない。足下では資産購入を再開しそうな雰囲気になっている。
・金融緩和により過剰な金余りが続いている。米メリルリンチによると2019年2月の機関投資家の現金保有比率は2009年1月以降で最も高い水準になる。
・現在、第4次産業革命が進行中で、これは今後も長期にわたり続く。
・先進国では株式以上に債券が割高なので、株式に優位性がでやすい。
・日本株に限れば、日銀のバックアップがあるので下がりにくい。
 *ただし日銀のバックアップがあるからこそ投資家が売ってくる可能性もある。1995年に為替が1ドル80円を突破したとき、日銀が「もうこれ以上無理だ」とドル買い介入をやめたら底打ちしたという。市場参加者はドルを売る相手がいなくなり、買い戻しを始めたらしい。2016年の半ばから日銀は日本株を年間6兆円ベースで買い始めているが、2016年に個人と海外が6兆9千億円、2017年に5兆1千億円、2018年に6兆円、2019年に入りすでに5兆1千億円を売り越している。ちなみにこの期間の日銀以外の主な買い手は事業法人と信託銀行になる。16年は6兆円、17年は2兆円、18年は4兆8千億円、19年は3兆4千億円を買い越している。
・日本株の売り玉が少なくなっている。海外勢はアベノミクスが始まった2012年から日本株を買い始めており、累積買越額が一時20兆円くらいまで膨らんだが、足下では6兆円くらいまで縮小している。個人投資家はこの間一貫して売り越しており、その額は約30兆円に上る。反対にアベノミクス以降に一貫して買い越しているのは日銀と事業法人になり、その累計額は40兆超になる。この両者は景気後退期には売り圧力になりにくい。
 *08/22の日経によると、12年11月以降の海外勢の買い越し額は株価上昇を加味して試算すると、8月現在で16兆円になるという。

以上を総合すると、次の景気後退や株価の下落は比較的穏やかに進む可能性が高い。

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景気後退シナリオ2:インフレが過熱し景気後退に陥る
景気後退に至るのお馴染みのパターンは金融緩和→失業率低下・債務拡大→インフレ過熱→金融引き締め→債務圧縮→景気後退になるが、今回は失業率が低下してもインフレが過熱しないので、景気後退に陥りにくい。足下ではFRBがインフレを起こそうと再び金融緩和を始めている。
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景気後退シナリオ3:米長期金利上昇による景気後退
今後、米長期金利は需給要因(財政悪化など)により長期的に上昇していく可能性がある。長期金利が上昇すると株式や不動産が売られ、借り入れが減り景気後退に陥る。景気後退に陥ると通常なら長期金利も低下するが、今回は需給要因により長期金利は下がりにくい。新興国では米金利上昇とそれに伴うドル高により、通貨安、インフレ、金利高が起こり景気後退に陥る。中国ではこれらに加え、過剰債務や貿易戦争、労働人口のピークアウトなどにより景気後退に陥る。日本や欧州は、これらの国々のあおりを受けて、景気後退に陥る。
*FRBが長期金利のコントロールについて触れ出したので、このシナリオはなくなりそう。ただ米国の長期国債は規模が大きく、国内投資家が9割を保有する日本国債と違って国内投資家が6割しか保有していないので、日本のように長期金利をうまくコントロールできない可能性もある。
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景気後退シナリオ4:マイナス金利により金融機関が破綻し景気後退に陥る
先進国の金利はマイナス圏に突入しているので、利ザヤの縮小から金融機関が破綻していく可能性がある。金融機関が破綻すると信用収縮が起こり(金回りが悪くなり)、景気後退に陥りやすくなる。ただ現時点では中銀が民間の金融機関を気にかけながら金融政策を行っているので、銀行が破綻するとしても穏やかなものになりそう。
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景気後退シナリオ5:中国のバブル崩壊による景気後退
中国の企業債務は積み上がっているが、その7割以上は実物投資ではなく、リスクの高い金融資産(シャドーバンキング商品)への投資に回っている。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して、連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。そうなると企業は債務返済で手一杯になり、新たな投資ができなくなる。そのようにして不況に陥ると独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性も出てくる。独裁体制は経済的に成熟した社会には適さないシステムとも言われているので、その意味でもこのタイミングで独裁体制が終わる可能性がある。これらの政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。
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景気後退シナリオ6:上記の景気後退シナリオ複数が同時に起こる
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景気後退シナリオ7:各国中銀がインフレ政策をやめる
先進国の中銀はインフレターゲットを2%に設定しているが、経済成長率が2%を下回り、インフレが起こりにくい社会構造でそのような政策を続けるのはもともと無理がある。日本においてはインフレ目標達成のために、日本銀行が日本株を最も買っているが、これはあまりにも不自然。そのためどこかでインフレ政策を転換する必要が出てくる。インフレ政策を転換すれば資産価格は下落するが、今のところインフレ政策よりもマシな政策はなさそうなので、インフレ政策が限界にくるまで(おそらく10年以内)この政策は続きそう。足下ではFRBが平均インフレ目標政策などを検討するなど、インフレ政策を強化する方向で動いている。
*平均インフレ目標政策とはインフレ目標を下回る期間が長引けば、その後上回ることを許容し平均で目標達成を図る手法。
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■今後の計画
米中貿易戦争が激化・長期化しそうな気配になってきたので、景気後退シナリオ5が実現する可能性が少し高まってきた。ただそれが起こるとしてもまだまだ先になりそうなので、基本的には持ち株ホールドの方向でいく。

景気後退期に入り円が90円くらいまで上昇したら、もしくは日経平均が16000円台になったら、米欧通貨や外国株、日本株を買っていく。おそらく今回が最後の円高局面になると思うので、海外資産の比率を高めにしていく。
*日経平均が18000円以下になると日銀が保有するETFが簿価割れを起こし、円の信認が揺らぎ始め(円安圧力がかかり始め)、日本株が反発しやすくなる。

次の円高時に仕込みたい外国株
・(米)VISAや(米)マスターカード。両社はフィンテック企業のボス的存在で、電子マネーは結局ここらへんが中核になりそう。
・(米)P&G。経営体制は盤石で、”奇跡の化粧水”SK-IIが世界的にヒットしそう。
*(米)ウーバーはやっぱりなし。ウーバーイーツを利用してみて便利な会社だなと思ったが、その後ガンガン送ってくる販促メールがうっとうしい。配信停止に登録しても、退会してアプリを削除しても、まだ送ってくる(笑)。それ以外でも、運転手や配達員の労務コスト(社会保障費やケガ補償費)が急増し、利益が出るのは当分先になりそうだと思ったのもある。
・NASDAQ100ETF。第4次産業革命の中核ETF。
・アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信(為替ヘッジなし)。腕利き米国人が運用する趣味の良さそうなファンド。
・米国株式長期厳選ファンド。奥野一成氏が運用するビジネスモデルが堅固な企業に投資する永久保有系ファンド。積み立てオンリーなのがやや難。
・インド株のETF。インドは2040年まで人口ボーナス期が続く。
・インドネシア株のETF。インドネシアは2030年まで人口ボーナス期が続く。
・銅。銅をたくさん使う電気自動車などにより銅の需要は長期的に右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などにより供給が追いつかなくなる可能性がある。銅の採算ラインは1トン5500ドル程度になる。
・原油。原油価格が40ドル以下になると産油国や米企業が採算割れを起こすので、40ドル以下になったら買い。新規の油田開発も停滞気味のようなので長期的な供給不安もある。

■次回の上げ相場について
次の景気拡大期は、中銀に金融緩和をする力があまり残されてなさそうなので、今回のような資産インフレはあまり期待できそうにない。とはいえ中銀が2%のインフレ目標にこだわり続ける限りは資産インフレがどうしても必要になってくるので、また新たな金融緩和策を考案して資産市場を盛り上げてくれるのではないかとも思っている。おそらく次の金融政策は現在日銀が行っているような財政ファイナンス、もしくはMMTのような財政主導の金融緩和策が主流になるのではないかと思う。

有望株チェック

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

■10倍株候補
<10倍株候補の条件は>
 ・上場4年以内の若い会社
 ・社長が若くやり手
 ・オーナー企業
 ・時価総額300億円以下の小型株
 ・長期的なテーマに合っている
 ・急成長している
 ・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

(今のところ候補はなし。探してもないけど)

■優良銘柄(株価が急落したときに買いたい銘柄)
<優良銘柄の条件は>
 ・参入障壁が高い
 ・ストック型ビジネスを手がける
 ・時流に乗っている
 →業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル

・エムスリー。医療分野で独占的なプラットフォームを築いている。問題は成長力がやや鈍化傾向なところ。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。
・リクルート。市場独占型プラットフォームを多数保有している。問題はこの会社の収益の過半が求人広告や人材派遣によるものであること。景気後退期にはその影響を強く受けやすくなる。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。
・カカクコム。価格比較の分野で独占的なポジションを築いている。「価格ドットコム」「食べログ」だけでなく、新規メディア事業の「求人ボックス」や「スマイティ」も好調のよう。問題は飲食店の口コミが「食べログ」から「グーグル」に流れていることなど。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。
・LINE。独占的なチャットプラットフォームを有している。6800万人のアクティブユーザーを抱え、足下ではヤマト運輸、エムスリー、弁護士ドットコムなど他企業との連携が加速している。問題はLINEペイの見通しがそれほど良くないこと。ソフトバンクに買収されるという噂もある。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。
・インフォマート。企業間取引の基幹ITインフラを構築している。問題は将来の市場規模がどのくらいなのかまだよくわからないこと。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。
・GMOペイメントゲートウェイ。決済代行プラットフォームで半独占的なポジションを構築している。問題はこの会社のことをまだよく知らないこと。2030年の予想利益は現在の2~4倍くらいか。
・ベネフィット・ワン。大企業向けの福利厚生代行サービスなど優良ストックビジネスを手がける。問題は業績の伸びがやや穏やかなこと。足下ではM&Aなどで成長が加速している?2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。
・リログループ。中小企業向けの福利厚生代行サービスなど優良ストックビジネスを手がける。問題は業績の伸びがやや穏やかなこと。2030年の予想利益は現在の2~3倍くらいか。

■観察中の銘柄
・メディアドゥ
基本シナリオ:最強の電子書籍取次プラットフォーマーに
この会社の最大の問題点は電子書籍店が淘汰・集約されていくことだが、メディアドゥが配信システムと電子コミックを独占提供するLINEマンガが長期で生き残れそうだと思い始めた。電子書籍の売上の半分以上はコミックが占めているが、LINEマンガが今の調子で躍進を続けていけばメディアドゥも力強く成長していけると思った。

長期でいけそうだと思ったので株を買おうと思ったが、株価はすでに上がり始めてしまった。これは日経マネー10月号(8/21日発売)の特集の影響かもしれない。同特集では下記のエデュラボやブシロードを知ったわけだが、今回ばかりは「余計なことをしてくれて」と思ってしまった。今後3年の売上高成長率は年率20%、営業利益成長率は年率25%。今後1年の予想平均株価は4000円(変動率±25%)。

・エデュラボ
基本シナリオ:教育改革の波に乗って業績拡大
9/2の日経に大学入試共通テストの英語試験について「国は23年度まで民間試験と従来のマークシート試験を併存させ」とあった。これはつまり民間試験を使わないという選択肢もあるということなので、来年、民間試験を受ける学生はそれほど多くないのではないかと思った。ただ「24年度以降、民間試験への一本化を検討する」ともあったので、24年以降は皆が民間試験を受けるようになりそう。もしそうなれば、多種多様な民間試験があると成績を比較しにくいので、一つの民間試験に絞り込まれる可能性が高い。民間試験の中で今最も勢いのあるのは英検だが、英検がこの調子を保てればその一つに選ばれるのではないかと思った。今後3年の売上高成長率は20%。今後1年の予想株価は4000~6000円。

■気になっている銘柄
・パークシャテクノロジー
AI関連の会社で、技術顧問に東大教授の松尾豊氏がいるのが肝。AIはレッドオーシャン市場だが、松尾氏はAI事情に精通しているので、勝ち抜ける道を進める可能性がある。AIは純粋に知性の勝負になるので東大系の会社なのも良い。先日増資で200億円を調達しているので仕込むタイミングとしては悪くなさそう。

・ブシロード
日経マネー11月号で特集されていた会社。ここはキャラクタービジネスを手がける会社だが、子会社に新日本プロレスがあるのがよい。新日本プロレス社長にはタカラトミーを立て直したハロルド・ジョージ・メイ氏が就いているので、今後伸びそうだと思った。・・しかし株価がすでに上がり始めてしまった。

・ハウスドゥ
フランチャイズ店舗が急速に増えている。何か大きな変化が起きているのかもしれない。

・パラマウントベッド
介護用ベッドの最大手。マットレスに睡眠計測センサーや臭気センサーを取り付けて、介護現場の負担を軽減している。IOTベッドの販売台数は前期比5割の伸びで、高齢化が進む中国にも進出しているという。

月1社ずつ調べていく。今後調べていく順番はブシロード、ハウスドゥ、パラマウントベッド、2016年のIPO企業、の順。

パークシャテクノロジー

■調べようと思ったきっかけ
・AI事情に通じている松尾豊教授が技術顧問だったから。AI市場はレッドオーシャン市場だが、氏の助言により、勝ち抜ける道を進めるのではないかと思った。
・東大系の会社だったから。AIは知性の勝負になるので東大とは相性がよいと思った。

■どんな会社か
深層学習のアルゴリズム(演算手順)ソフトを開発、提供する会社。

パークシャが作る深層学習アルゴリズムソフトは主に4つ。
・テキスト理解・対話エンジン
自然言語の内容を理解し、人とほぼ同じ対応をすることができる。チャットボット(自動会話システム)や、コールセンターのオペレーター・サポート、膨大な文書の中から特定の文書を抽出することなどに使われている。

・画像・映像認識エンジン
画像や映像を高精度で識別できる。防犯、医療、介護、小売り、インフラ整備などに使われている。

・顧客管理エンジン
飲食店や販売店などで効果を上げてきた手法を学習させ、顧客との関係をより強固するための支援をする。具体的には、顧客を分類し、優良顧客にはクーポンを配り離反防止策を講じたり、新規顧客にはキャンペーンをして再来店を促したりする。

・予測・推論エンジン
業界データやその周辺データを学習させ、需要予測などをする。価格最適化やリソースの最適配分などもできる。

パークシャがこれらのソフトを提供する会社は2018年9月期時点で約120社になる。ドコモやLINE、リクルートなど大企業が中心で、情報通信系やサービス系の会社が多い。

――――――――――
<深層学習とは>
コンピューターで大量のデータの中から何かしらの傾向を取り出す技術。パターン認識。
深層学習は数百ある機械学習のうちの1つの手法だが、「自動的に特徴を抽出する」というところが画期的で、AI分野では50年に1度のブレークスルーとも言われている。

深層学習と他の機械学習の最大の違いは、今触れたように、「自動で特徴を抽出する」ことになる。これまでの機械学習では、コンピューターに「モノ(リンゴなど)」の概念を教えるときは、逐一その特徴を人が教えていかなければならなかった。しかし「モノ」の特徴をすべて言語化することは難しく、コンピューターに「モノ」の概念を高精度に認識させることができなかった。深層学習ではコンピューターが自動的に「モノ」に共通する特徴をいくつも抽出することができるので、「モノ」の概念を高精度で認識できるようになった。

深層学習は対象に共通する特徴を自動的に抽出するので、これまで人が気づかなかった(気づけなかった)特徴を抽出することも多い。例えば顔認識では、かすかな眠気や感情などを認識することができる。

<深層学習の仕組み>
深層学習の仕組みは人の脳を模した作りになっている。人の脳は、例えばものを見るとき、目に入った情報が目の奥にある網膜に投影され、その情報がまず一次視覚野にあるニューロン(神経細胞)に伝えられる。このニューロンは狭い範囲にある視神経からしか情報を受け取れないため単純な形しか認識できない。この単純な情報が二次視覚野のニューロン、三次視覚野のニューロンに送られるにしたがってまとめられていき、徐々に複雑な形が認識されていく。

これらのニューロンはシナプスというもので繋がっており、このシナプスに電気信号が流れることで情報が伝わっていく。シナプスは単に情報を伝えるだけでなく、情報の重み付けの役割も担っている。同じことを繰り返し学習した場合は、シナプスに何度も同じ信号が送られ、そのシナプスが太くなり、信号を効率的に送れるようになっていく。その結果、学習したことにだけ反応する神経回路(ニューラルネットワーク)が作られる。

このニューラルネットワークをコンピューター上に再現したのが深層学習(ディープラーニング)になる。深層学習ではエンジニアがニューラルネットワーク(深層学習アルゴリズム)の大枠を作った後に、目的に合致した大量のデータ(答え付き)を入れていく。膨大な量の学習を繰り返すことで、正しい答えを導き出せるように自動的にパラメータ(情報の重み付け)が変わっていき、回路が徐々に調整されていく(認識精度が上がっていく)。

このような深層学習の理論は1980年代にはすでにあったが、当時は適切な学習方法(情報の重み付けの方法など)や大量のデータ、高性能プロセッサがなかったため、認識精度が上がらなかった。しかし2012年にこれらの問題がすべて解決し、実用化に耐えうるレベルまで認識精度が向上した。

(パークシャテクノロジーはこの深層学習の技術を社会に還元するために2012年に作られた。)

<深層学習の問題点>
・深層学習の学習結果は膨大なデータの羅列なので、人が見てもその内容を詳しく理解することができない。そのため何か不具合が起きてもアルゴリズムを軌道修正することが難しい。また、もっともらしい答えが得られ、それが実際に有効な場合でも、答えが導かれた理由がよくわからないことが多い。ただこの問題に関しては、現在、数学や物理学を使って解明する研究が進んでいるので、じきに人が理解できるようになりそう。(深層学習が働く仕組みが詳しくわかれば、より高度な学習に発展させられるようにもなる)。

・深層学習で有用な知見が得られるかどうかはやってみなければわからない。なにも得られないこともある。

・深層学習は人が設定した範囲以外の課題には対処できない(業務特化型)。またたとえ範囲を設定しても、それが広すぎる場合は認識精度がそれほど上がらない。例えば株価予測の場合、データを読み込む範囲が業績、チャート、ビジネスモデル、マクロ環境など幅広いので予測精度がなかなか上がらない。それとこれは次に触れるが、すべての情報を数値化できていないという問題もある。ただこれも研究が進むにつれて徐々に予測精度は上がっていきそう。

・機械学習全般にいえることだが、計算に置き換えられない領域では使えない。機械学習が囲碁や将棋に強いのは、すべてを計算に置き換えられるからになる。現時点では人が行っていることを計算に置き換えられる領域はそれほど広くなく、機械学習にできることは限られている。ただ今後は徐々に計算に置き換えられる領域が広がっていくと言われている。AIの研究はつまるところ、人間のやっていることを計算に置き換えることになる。

参考:Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』
   Newton別冊『ゼロからわかる人工知能 仕事編』
   「AI社会を展望する」(日経9/3~9/13)
   「華麗なるAI人脈」(日経9/2~9/7)
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■成長ストーリー
「深層学習の最新知見を産業に落とし込んで業績拡大」が基本シナリオ。

この会社の最大の強みは人材になる。上場時の博士(博士在籍含む)の割合は25%と高く、現在そこから人員がかなり増えているが、人材採用の75%をリファラル採用(社員の紹介による採用)が占めているので、同レベルの人材を確保できている可能性が高い。アルゴリズムソフトなどの無形資産はアイデアが真似されやすいため1年で20%程価値が落ちるというが、質の高い人材によりアルゴリズムを常に最新の状態にアップデートしていくことができる。この先端の深層学習アルゴリズムを産業を落とし込んでいくのがこの会社の基本戦略になる。

産業に落とし込んで行く経路は主に2つ。1つは「人手の代替」になる。日本では労働人口が減り始めており、今後もそれが長期で続いていく可能性が高い。深層学習は人が行っている業務を代替、もしくはサポートできるので、この人口減少分が一つの成長ポテンシャルになる。慢性的に人手不足の領域は、介護、建設、物流など多岐にわたるが、その全てに深層学習を適用する余地がある。パークシャがこの分野ですでに軌道に乗せている事業はLINEのチャットボットやコールセンターのオペレーター・サポートになる。

そしてもう一つが「業務の高付加価値化」になる。ネットが始まって最初の20年はニーズを見つける時代だったが、今後はニーズは変わらず、アルゴリズムによってそれぞれの性能を高める時代になると言われている。深層学習には膨大な情報を学習し、人が認知できないパターンまで検出できるので、認識精度や予測精度を飛躍的に高めることができる。パークシャは警備会社ALSOKと組んで監視カメラに判断機能を持たせたり、クレディセゾンと組んでカード不正使用検知機能を開発したりしている。

深層学習アルゴリズムにはグーグルやマイクロソフトなどのテックジャイアントが強力な汎用アルゴリズムを持っているが、パークシャは国内で最大規模の業界データを持つ企業と組み、業界特化型の高精度な認識・分析をする方向で進めている。グーグルなどは市場の大きい英語圏から攻めているようなので、国内に強いパークシャには若干分があるように思う。パークシャは、国内市場・特定領域に特化して成果を上げている翻訳会社ロゼッタのような成長パターンになるのかもしれない。

*パークシャはすでに大企業とのつながりが多いが、これは東大ネットワークが作用しているのかもしれない。日本の大学で最初に深層学習の授業を行ったのは東大の松尾豊氏(パークシャの技術顧問)になるが、その授業を受けた生徒たちが各大企業に散らばって、そこでAIを導入するにあたり、同氏(同社)に相談しに来ているのかもしれない。

パークシャが今最も力を入れているのが領域がMAASになる。社長によると、この領域は深層学習と非常に相性がよく、今後伸びることがはっきりしているという。パークシャは手始めに画像認識技術を用いたロックレス駐車場を開発したアイドラ社を買収。今後は「駐車場運営をデジタルメディアと融合していく」という(詳細は不明)。パークシャはトヨタやソフトバンクが作ったMAASを推進する企業連合モネコンソーシアムにも参加しており、多種多様な企業と連携し、事業を推進していくという。

*MAASとは、モビリティ・アズ・ア・サービスの略で、必用な移動手段を必要な分だけサービスとして利用するという意味。代表例はカーシェアになるが、一般的には人の移動を最適化するために、バス、電車、レンタカー、飛行機などをパッケージ化し、スマホなどから検索、予約、支払いを一度で行えるようにしたサービスを指すことが多い。MAASはユーザーの利便性向上だけでなく、移動の最適化により渋滞や環境コストを低減できるというメリットもある。

AIビジネスの市場規模は、富士キメラ総研の予測によると、2018年度が5300億円で2030年度が2兆1000億円になる。
AI関連産業の市場規模は、EY総合研究所の予測によると、2015年が3.7兆円で2030年が約87兆円になる。
参照:「AI関連産業は2030年に86兆円に 数字で見るAI市場」

■問題点
・AI市場は今後急拡大していきそうだが、AIアルゴリズムは基本的にはオープンソース化されているので、続々と企業が新規参入してきている。今後は絶え間ない価格競争にさらされるので、利益率が低下していきやすくなる。

・パークシャは東大系で、東大には最新の知見が集まりやすそうなメージがあるが、今はネットがあるので情報格差が起こりにくい。アルゴリズムのような“アイデア”は特許を取りにくいということもあり、他社との差異化を図りにくいという問題がある。

・画期的なアルゴリズムが開発された場合、他社に乗り換えられる可能性がある。深層学習アルゴリズムは使えば使うほどその精度が上がっていくので、基本的には他社に乗り換えられにくい性質を持つが、圧倒的に優れたアルゴリズムが開発された場合は乗り換えられる可能性がある。

グーグルが作ったAlphaGoという囲碁ソフトがある。このソフトは過去3000万局の対局データを学習させて作られたもので、2017年には人類最強の囲碁棋士・柯潔九段を破っている。その後グーグルはAlphaZeroというソフトを開発。このソフトには過去の対局データを一切与えず、囲碁の基本的なルール以外なんの知識もないAI同士を対戦させて、24時間後にはAlphaGoを下している。ちなみに将棋では2時間、チェスでは4時間の自己対戦で当時の最強ソフトを下している。

このような「強化学習」ができるアルゴリズムが開発された場合、それに乗り換えられ、そして永遠に追いつけなくなる可能性が出てくる。

(補足だが、AIが自分自身のアルゴリズムを書き換えて自己を改善できるようになると、加速度的に能力が向上していき、人間がその先の変化を見通せない段階にまで進化すると言われている。この予測不能になる状態のことをシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ぶ。)

・具体的な事業イメージが湧きにくい。パークシャは今年の7月にアイドラ社を買収したが、具体的な事業戦略を明かしてないため、今後の展開をイメージしにくい。それ以外の事業でも内容をオープンにしているものが少ないので、具体的にどんなことをしているのかよくわからない。

■利益成長を続けられるビジネスモデルか ★★★☆
・参入障壁は高いか。★☆。低い。すでに競合が多数いるので、激しい価格競争が始まっている。東大のブランドとネットワークが多少の障壁になるか。
・ストック型ビジネスか。★★★★。深層学習のアルゴリズムは使えば使うほど認識精度が上がっていくので基本的にはストック型になる。しかし画期的なアルゴリズムが開発された場合は乗り換えられる可能性がある。
・時流に乗っているか。★★★★★。AIは第四次産業革命のメインテーマの一つ。

■チャート
どっちつかずで方向感のない感じ。
<3年チャート>

■まとめ
今後はソフトウェアを知能化する深層学習アルゴリズムの時代が来るとは思うが、現時点でパークシャは他社との大きな差異化を図れていないようなので、現在の時価総額1300億円(売上高30億円程度。*アイドラ社含まず)には割高感がある。7月に増資で調達した200億円は2022年9月期までに使うようなので、投資回収期は早くても2023年9月期になりそう。

投資するタイミングはまだまだ先になりそうだが、AIは外せないテーマの1つなので、パークシャを軸に長期で観察していこうと思う。