■見つけた経緯など
保有投信「厳選ジャパン」の上位10銘柄にあった。11/10の日経ヴェリタスでこの投信を運用するアセットマネジメントOneが保有比率12%まで買い増していることがわかり、相当有望な会社なのではないかと思った。株価はいったん調整が入っている感じで、調べるタイミングとしても良いと思った。
■どんな会社か
業務管理用のクラウドサービス「TeamSpirit」を開発・提供する会社。TeamSpiritは勤怠管理、就業管理、経費精算、工数管理、電子稟議、カレンダー、社内SNSなど従業員が毎日使う社内業務を1つにまとめたサービスで、業務効率化だけでなく、出社から退社までの情報を集めることにより働き方の分析もできる。モバイルにも対応しているので、場所を問わずにどこでも利用できる。
勤怠管理や経費精算などに特化した単体のクラウドサービスを提供する会社はあるが、すべてを1つにまとめたクラウドサービスを提供する会社は今のところ他にはない。1つにまとめることで重複入力や入力内容の矛盾などを省くことができ、働き方の総合的な分析ができる。
利用形態はサブスクリプション型(継続課金型)で従業員一人あたり600円で利用できる。企業ごとのカスタマイズはせず、単一サービスを提供している。単一サービスにすることで開発スピードを速め、開発コストを削減することができる。顧客からのフィードバックを随時製品に反映していっているので、今のところ大きな問題は発生してないもよう。
これまでこのような一体化したシステムはごく1部の大手企業しか使えなかったが、クラウド経由で安価に利用できるようになり、導入する企業は急速に増えている。19年8月期末にTeamSpiritを導入している会社は1200社(前期比30%増)、契約ライセンス数は20万人(前期比50%増)になる。導入企業の8割が従業員100人以上の中堅・大手企業で、足下では大手企業の採用が増えつつある。23年8月期の目標契約ライセンス数は100万になる。
19年8月期の業績は売上高18億円(前期比47%増)、営業利益2.4億円(黒字転換)。20年8月期の業績予想は売上高が前期比42%増の26億円、営業利益は先行投資負担により微増になる。今後数年間は売上高の伸長ペースを落とさずに成長させていく計画で、23年8月期の目標売上高は100億円になる。
■成長ストーリー
「TeamSpiritで業務効率化、働き方の分析で生産性改善」が基本シナリオ。
今後日本では労働人口が減っていくので、人口減を補うために業務を効率化していくことが必要になる。また日本では製造業の自動化などによりサービス業の比率が今後長期的に上昇していくが、サービス業では人が「原価」になるので、業績を向上させるには人の改善(生産性の向上)が不可欠になる。さらには19年4月に「働き方改革」法案が施行され、長時間労働を是正し内部統制を強化しなければならない状況になっている。これら3つの課題解決の一助になるのがTeamSpiritになる。
TeamSpiritを普及させる経路は主に3つ。まず1つ目は「セールスフォースとのセット販売」になる。TeamSpiritは米セールスフォースのプラットフォーム上で動くソフトになるが、セールスフォースの顧客情報管理クラウドサービスが日本の企業に導入されるときにTeamSpiritも一緒に導入されることが多い。セールスフォースは毎年25%程度の売上高成長率を保っており、セールスフォースの社長は今後もそのペースを維持していけるといっているので、TeamSpiritも年率25%程度の成長はしていけそうではある。
2つ目は「内部統制の強化」になる。会社に労基署が入ってきた場合、「残業時間は何時間か」という見方をする。その一方で税務署が入ってくると、何時間業務をしたというところを原価にして利益が出たか出ないかという見方をする。この2つは合っている必用があるが、単一サービスを使っているとそこに矛盾が生じてしまうことがある。しかし統合サービスのTeamSpiritでは矛盾(不正)が生じない仕組みになっている。株式を上場する場合にはこうした内部統制がきちんとできている必用があるので、上場前に証券会社や監査法人がTeamSpiritを紹介する流れができている。現在マザーズに上場している15%の会社がTeamSpiritを使っている。今年4月に施行された「働き方改革」法案はこの経路からの普及を後押しする。
3つ目がERP (統合基幹業務システム)のクラウドシフトになる。ERP世界首位の独SAPは2025年までに現行のERPのサポートを終了すると言っているが、それに伴い大手企業のERPはクラウドへシフトする流れになってきている。そしてクラウド化する際にTeamSpiritもセットで導入するという流れになってきている。2019年2月にその第一弾として野村総研と組み、三菱地所にSAPのERPとTeamSpiritをセットで導入している。大手企業に導入された場合はグループ会社に波及するという展開も期待できる。
*TeamSpiritはERPと連携可能。
このようなクラウドサービスへの移行はまだ初期の段階で、クラウドサービスの本格的な普及はこれからになる。チームスピリットがターゲットとしている100人以上の会社は国内に6万社あり、そこで働く従業員は2900万人になる。
2017年12月には海外にも進出している。シンガポールに開発拠点を設けており今後はアジア地域に売り込んでいくという。19年8月期の売上はほぼゼロだが、24年8月期には売上高の1割を海外で稼ぐ計画を立てている。社長は「セールスフォース上で動いている類似ソフトはほとんどないのでいけるんじゃないか」と言っている。
■問題点
・各々のサービスの完成度が低い?
TeamSpiritの強みは統合サービスであることだが、中に入っている各々のサービスを競合サービスと比較した場合、使い勝手が劣っているように見える。いくら統合サービスのメリットが大きくても、各々のサービスが使いにくかったら、部分的に使われなくなったり、他社に乗り換えられたりする可能性がある。そうなると総合力の強みが失われ、解約される可能性が出てくる。他社のサービスの良いところをどんどん吸収していければ良いのだが、全然追いついてない印象がある。
・顧客満足度が低い?
製品のレビューを見ると「アプリの起動が遅い、重い、フリーズする、システムエラーが多い、システムがわかりにくい、入力に時間がかかる(毎日入力するようなところはあらかじめ入力しておいてほしい)」などごく初歩的でかつ重要なものが目につく。もしこれらが本当だったら、このサービスを使うことによって逆に生産性が落ちるという事態が生じかねない。2018年に社長は「アンケート結果を見ると「TeamSpirit」を導入された企業の4割以上で業務効率化が実現しています」と言っているが、これはつまり半分以上の会社では業務が効率化されてないとも取れるので、もしそうならば導入する意味がないのではないかと思ってしまう。
・エンジニアが不足している?エンジニアの定着率が悪い?
サブスクリプションサービスを長期間利用してもらうには、顧客からのフィードバックを絶えず製品に反映させていかなければならないが、上記レビューなどを見ていると製品が適切にアップデートされているのか疑問が残る。一部のベンチャー企業のエンジニアの離職率は30%を超えるとも言いわれるが、社員の口コミに「PDCAではなく人材を高速回転させている」みたいなものもあるので、ここもあまり定着率は良くないのかもしれない。他の口コミには「関係部門の仲が悪く、不満をもった社員が大半なので大量離職により空中分解する危険性がある」という不穏なものもあるが、この「関係部門の仲が悪く」というのはカスタマーサクセスの要求にエンジニア部門が応えられず、両者の間に軋轢が生じているということなのかもしれない。エンジニア部門が軌道に乗らなければ着実な成長は見込めないので、ここら辺の改善が中期的には最も重要なように思う。
*カスタマーサクセスとは「顧客を成功に導く」という意味で、2000年初頭に米セールスフォースが提唱した概念。従来のカスタマーサポートは問い合わせを待つ受け身の取り組みだが、カスタマーサクセスは顧客が成功するようにサービスの使用法を指南するなど積極的に関わろうとする取り組み。いわば攻めのサポート。サブスクリプションサービスには導入が簡単だが解約も簡単という問題があるが、カスタマーサクセスの取り組みにより解約率を半分に抑えた例もあるという。
・内部統制に問題がある?
社員の口コミに「社長はアイデアマンだが方針がコロコロ変わる」「勤怠管理ソフトを作っている会社なのにサービス残業が常態化している」といったものもあり、社内が若干混乱している様子がうかがえる。従業員が100人くらいに増えるとこのようなことはよく起こるらしいが、もし上記のことが本当ならば早めに改善する必用があるように思う。経営者には0から1を生み出すタイプと、1を1.1もしくは10にするタイプと、その両方を兼ね備えたタイプがいるらしいが、ここの社長は創業者に多い0から1を生み出すタイプに見えるので、今後は業務を標準化し、1を1.1もしくは10にできる人に経営を任せた方が良いのかもしれない。
チームスピリットのビジネスモデルの大枠はほぼできあがっており、あとはお手本ソフトや顧客からのフィードバックを参考にしてTeamSpiritの品質を高めていくだけだと思うので、社内体制を早めに整える必要があるように思う。
・競合は本当にいないのか?
社長は競合するサービスはないと言っているが、オロというクラウドERPを開発する会社は、チームスピリットが提供するようなサービスも提供している。また独SAPは子会社に米コンカーという会社を持ち、この会社は世界最大のクラウド経費精算サービスを提供している。ここらへんは競合になるように見える。競合関係については今後も調査していく。
・海外市場は厳しそう
今後はアジア地域に進出していくようだが、そこでは米国系のクラウドサービスとぶつかることになりそう。米国勢はこの分野のパイオニアであり、システムの合理化(簡素化)においては基本的に米国勢の方が長けているので、太刀打ちできなさそう。
・マザーズの地合いが悪い
マザーズは長期的な下方トレンドに入っているようにみえる。力強い成長を続けていけるのならば問題なさそうだが、少しでも業績に陰りが見えたら株価が失墜しそう。
<マザーズの10年チャート>
■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★☆(3.8)
・参入障壁は高いか。★★★。TeamSpiritのような統合ソフトを作ること自体はそれほど難しくないようだが、実際の運用にはノウハウの蓄積が必用なので、TeamSpiritを超えるソフトを簡単に作ることはできない。TeamSpiritの原型は2012年に作られ、そこから品質を高め続けている。ただし資本力のあるクラウドサービス開発会社が参入してきた場合は追いつかれる可能性がある。
・ストック型ビジネスか。★★★☆。サブスクリプションサービスなので基本的にはストック型になる。音楽や動画などのサブスクリプションサービスは飽きたらすぐにやめることができるが、勤怠管理や経費精算などのサブスクリプションサービスは多少イヤになってもやめにくい。やめる場合はまず移行の手間やコストがかかる。そして働き方を分析するにも長期のデータがないとちゃんと分析できない。現在の年間解約率は15%程度になる。
・時流に乗っているか。★★★★★。バックオフィス系のクラウドサービスはメガトレンド。
■チャート
期待相場が終わり業績相場に移行したように見える。足下では上昇トレンドに入っている。底は1500円くらいになりそう。
<2年チャート>
■まとめ
内部統制やTeamSpiritの品質に若干の問題はありそうだが、サービスの継続使用率を見ると大きな問題は特になさそう。ビジネスモデル的には軌道に乗れば業績が急拡大していくタイプなので、もう少し様子を見て特に問題がなさそうなら少し買ってみたい。・・調べてる間に株価がかなり上がってしまった。「「厳選ジャパン」に組み込まれているからまあいいか」と思いたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿