2025年1月1日水曜日

10月~12月の売買

■11月
・プラスアルファ・コンサルティング 一部売却 損益-31%
・イントラスト 買い増し

両社の決算を見比べて、イントラストの方が中長期の成長確度が高そうだと思ったから。両社とも3年程度の経営計画を出しているが、3年後の業績予想の達成確率はイントラストが75%くらい、プラスアルファ・コンサルティングが45%くらいになりそうだと思った。

プラスアルファ・コンサルティングは1786円で売却した。現在1909円(+7%)
イントラストは766円で購入した。現在817円(+7%)

今後も両社の株価パフォーマンスを比較していく。

*プラスアルファ・コンサルティングは本決算の2週間後に決算説明会の内容をHPにアップした。それにより3年後の業績予想の達成確率は55%くらいに上昇した。

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■プラスアルファ・コンサルティング
基本シナリオ:「HR事業を軸に2028年9月期に営業利益100億円」もしくは「競争激化で悪戦苦闘」

本決算と今期業績予想はほぼ予想通りの数値だった。しかし、利益がコンセンサスを大幅に下回っていたためか、株価はストップ安まで下げてしまった(笑)。

今回の決算で問題に感じたのは2点。1つは「タレントパレット」の競争力が落ちていること。マーケティングコストが上昇しており、「導入後3ヶ月無償」などの値引きキャンペーンが始まったようで、参入障壁が崩れつつあるように見える。

競争が激化しているのは、HRBrainやHRMOSなどの国内勢が勢いを増しているだけでなく(12/13日経)、米ワークデイなどの外資大手が参入してきた影響も大きそう(参照)。米ワークデイや独SAPが提供するタレントマネジメントシステムは先進的なシステムというだけでなく、ERP(統合基幹業務システム)経由でシステムを提供するので、「タレントパレット」のように「重い、見づらい、入力しづらいの3点セット」(9/20ITreview)のような問題が起こりにくい。

現時点では、外資大手に対して、日本語対応やサポート体制、各種コンサルで優位性がありそうだが、外資大手も今後そのあたりを強化してくるはずなので、中長期的な見通しはあまりよくない。11月のカオナビの決算説明資料には、「機能自体の差別化はなくなってきている」ともあるので、今後は厳しい展開になりそう。前期の「タレントパレット」導入企業数は目標を22社下回っており、今期も目標を下回る可能性がある。

もう1つの問題は、これと関連したことになるが、「タレントパレット」の今期の目標導入企業数などのKPI(重要業績評価指標)が決算説明資料からカットされていること。これまでは決算説明資料に「業績見通しの前提」として、HR事業の予想売上高や営業利益、解約率、ARPUなどのKPIが掲載されていた。しかし、今回の資料からは丸々カットされている。重要な情報をカットするということは、なにか不都合が事情があるようにみえる。なにが不都合なのかはよくわからないが、これがないことで業績見通しの不透明感は増した。今期の業績予想は数字ありきで、内容を伴っていないものなのかもしれない。

とはいえ、会社説明によると、今期の業績予想は「保守的」かつ「必達」とのことなので、前期のように下振れる可能性は低そう。個別事業の予想業績を見ても保守的に見えるところがある。たとえば、前期に買収したオーエムネットワークの今期の予想業績は売上高9億円、営業利益2.5億円となっているが、この会社のこれまでの成長速度と「タレントパレット」とのシナジーを考慮すると、もう少し上振れてもよさそう。

また今回の業績予想は会社の業績や株価がいまいちのときに出しているので、予測の精度は高そうでもある(*一般に、ネガティブな状態のときに出す予想は精度が高い)。現在のPAC株のPERは20.8倍で、業績予想と比較すると割安に見える。SBI証券のアナリストを含め(11/28SBIレポート)、大半の投資家は今期業績もまた下振れると予想しているように見えるが、個人的には上振れを予想する。営業利益は6億円くらい上振れるのではないか思う。


決算ではポジティブな要素も4つほどあった。

1つは、HR事業の予想ARPU(1ユーザーあたりの平均的な売上)が横ばい、もしくは微増になりそうなこと。今期は顧客単価の低い中小企業や学校の導入が増えそうなので、ARPUは下がると予想していたが、会社説明によると、既存の導入企業への追加オプションの拡販などにより、横ばいもしくは微増を想定しているという。

2つ目は、前期のマーケティング・ソリューション事業の売上高と利益がともに上振れたこと。競争が激化している市場で、高い利益率を維持したまま成長しているので、競争力がありそうなことがわかった。この領域でこれだけ奮闘しているので、HR事業でも善戦できるのではないかと思った。

3つ目は、学校版「タレントパレット」の「ヨリソル」が好調なこと。前期は50校程度に導入されたようで、現在トータルで70校程度に導入されている。前回のブログでは、「学校領域は攻め込みにくそう」と書いているが、今のところは順調なもよう。足元の受注は会社の想定を上回っているようで、今期は積極的な人材採用とマーケティング費用の投入を行うという。なお、この事業の成長イメージは、今期売上4億・営業損失2億、来期売上8億・収支均衡、再来期売上14億くらい?・利益貢献、になるという。

4つ目は、「タレントパレット」のエンタープライズ向けのオプションプランが拡大していること。これまではタレントマネジメントシステムのSaaSを販売するのが主だったが、今後は未来志向のコンサルティングや生成AI活用支援コンサルティング、システム運用をトータルでサポートするBPO的なサービスの提供も行っていくという。

生成AIは現在、マーケティング分野での活用が増えているが、人事分野でも評価者の「無意識バイアス」などが問題になっているので、徐々に活用が広がっていきそう。12/23日経


自社株買いをする可能性も出てきた。決算説明会の質疑応答では「配当性向20パーセントを維持しつつ、それ以外の還元についても検討」とある。常識的に考えると「それ以外の還元」は自社株買いになりそう。

11月29日に自社株買いを発表した。規模は上限30億円、発行済株式総数に対する割合は5.5%となかなかのもの。これで株価は下げ止まったが、お金の使い道がないことがわかってしまった。ただM&Aは難易度が高いので、焦ってM&Aするよりはよさそう。

少し気になったのは、自社株買いをする前にストックオプションを発行するなど、自社株を社員に配らなかったこと。従業員に自社の「オーナー」になってもらい、経営参画意識を高めるというタレントマネジメントの発想は浮かばなかったのだろうか。本気で「利益の最大化を目指す」(11/22ログミーファイナンス)のであれば、まずは社員への手厚い対応を優先すべきではないかと思った。今回の経営判断から、経営陣は社員のモチベーションよりも株主(外部評価)を気にしているように見えた。

なお、前回のブログには、社員がストックオプションなどで長者になると離職率が上がったり、モチベーションが下がったりする、みたいなことを書いたような気がするが、PACのような知識集約型企業では離職率が上がるのはあながち悪いことでもなさそう。9/5日経には、知識集約型の企業では、最新で斬新なアイデアを持つ、勤続年数の短い労働者が会社を支えており、長期勤続は負の影響をもたらす、とある。

12/21日経で、自社株買いで取得した株式を従業員に株式報酬で割り当てる制度があると知った。これなら今からでもできそう。PACも従業員に自社株を配って、従業員の経営参画意識を高めてくれればと思う。


「タレントパレット」は11月に社員のメンタル不調の解決を支援するカウンセリングサービスの提供を始めた(11/1IR)。このサービスは外部企業と連携して行うという。「タレントパレット」の外部連携は着実に進んでいるもよう。


これまで株式投資では、中長期的な見通しを立てて投資をしてきたが、IT業界は長期的な見通しを立てにくいことがわかった。この業界はもともと変化が激しく、AIの登場により、その変化がさらに激しくなっている。そのため、3年後や5年後の状況を見通しにくい。

一説では、2027年頃にAGI(汎用人工知能)が登場するとも言われている(8/11日経10/1日経10/1日経10/29日経)。もしもAGIが登場したら、A Iの進化が急加速し、短期間でASI(人工超知能)が誕生する可能性が高い。ASIは人間の1万倍以上の知能を持つとされ、そのような存在が現れれば、人間はASIの管理下に置かれ、「タレントパレット」のようなツールが不要になる可能性がある。

そこまでいかないとしても、現在、”AIエージェント”やヒト型ロボットが続々と登場している(12/30日経11/3日経12/11日経11/8日経11/9日経12/18日経12/27日経)。このような状況下では、IT業界や労働環境が大きく変化していかざるを得ない。こうした激変の時代だからこそ、精度の高いタレントマネジメントの重要性は増していくと思うが、一方で、AIやロボットによる人間の代替が進むことで、「タレントパレット」のユーザーが減っていく可能性もある。また、AIの進化によりアプリケーション開発が容易になり、ソフトウェア自体の付加価値が低下していくことも予想される。このように、先を見通すのが非常に難しい状況になっている。

とりあえず、現在の状況を基点にして、PACの今後を考えてみる。日本では今後、人手不足が深刻化していく可能性が高いので、人的資本を重視する経営の方向性が変わることはなさそう。また、AIやロボットの導入により、労働環境が大きく変わっていくので、社員のリスキリングや精度の高い人材配置の重要性がこれまで以上に高まりそう。現状、国内企業のDX投資は旺盛で、今後も引き続き拡大していく可能性が高い。

タレントマネジメントシステム市場では、競争がより激化する可能性もあるが、市場そのものは拡大傾向にある。そのため、たとえ「タレントパレット」の成長速度が鈍化したとしても、中長期的に成長が続く可能性は高い。「タレントパレット」は差異化を図れているようにも見えるので、PACは今後もそこそこ力強い成長をしていけるのではないかと思う。


12/24日経に「中期経営計画は必要か」という記事があった。記事によると、中期経営計画に対する反対論は多いらしい。その主な理由は、予見性の低い時代に数年先の業績を見通すことは不可能、というもの。しかし一方で「無数の選択を乗り越える過程でブレークスルー思考が生まれ、異なる価値観をまとめ上げる工程に意味がある」「事業や競争環境を見渡し、自らが目指す高みに到達する道筋を考えることで、企業の地力に差が出る」とのメリットも指摘されている。また投資家サイドからしても、中期的な方向性が示されていたほうがイメージがわきやすい。中期経営計画の予想が大きく外れ、経営陣への信頼度が落ちることはあるかもしれないが、やはりないよりはあったほうがよさそう。

チャートは大底を打ったように見える。決算を無難に通過していければ、今期は上昇トレンドに入りそう。期待したい。

1Q決算の予想売上高は39億円。スポット売上高次第でやや未達になることもありそうだが、前期4Qの売上高40.4億円から−2億円くらいまでなら許容範囲になりそう。そこを下回ってきたら、また上昇トレンド入りは失敗しそう。ただPERは下限近くに見えるので、下値余地は限られているように思う。

〈10年チャート〉底値圏ではらみ線が出ており、MACDでは下げすぎのライン。大底に見える。

〈5年チャート〉Wボトムになりそう。2300円を超えてWボトムが完成したら、上昇トレンドが始まりそう。


PACの現在の妥当な株価はどのくらいか。当ブログの今期の業績予想は会社予想(売上高177億円、営業利益56億円、純利益39億円)より営業利益が6億円、純利益が5億円上振れ(売上高は±5億円)。今後3年の予想売上高成長率は年15~28%、予想利益成長率は年18~28%。妥当なPERを20~30倍とすると、時価総額は880~1320億円、株価は2050〜3100円になる。



■イントラスト
基本シナリオ:家賃債務保証と医療費用保証で2027年3月期に売上高150億円、営業利益30億円

前回のブログに「未収金リスクが表面化してきた」みたいなことを書いているが、誤解だった。1Q決算で営業利益が下振れたのは、一時的に貸倒引当金を多めに積んだため。未収金が増えたわけではなかった。

医療費用保証事業では「スマホス」の導入ペースが上がってきた。営業活動は病院団体などを通じて行う”アソシエーション型”がメインになりつつあるようで、今後契約数の増大が期待できる。

事業用家賃保証事業を手がけるラクーンレントの買収が11月に完了した。この市場は大きそうなので、うまいことやれば業績の新たな柱になりそう。

今年もストックオプションを発行した。注目すべきはその規模。過去最大の5500万円になる。他の企業と比べると小ぶりになるが、イントラストにおいては大規模。イントラストは今後の株価上昇に自信があるように見える。

12/29日経にまた、単身高齢者が家を借りられないという記事が載っていた。資産1億円以上ある高齢者でも、緊急連絡先がないと賃貸住宅を借りられないという。65歳の単身世帯は現在約670万超あり、これが2030年には約800万世帯になるという。一方で、現在、賃貸向けの空き家は全国に約450万あり、増加傾向にある。これらを仲介する身元保証サービスは今後拡大していきそう。イントラストが参入したら競争力のあるサービスを提供できそう。少し期待したい。


イントラスト株の注意点は2つ。1つは未収金問題。この会社のビジネスモデルは一応ストック型にはなるが、景気後退の煽りを受けやすい。不景気になれば保証商品の回収率が下がり、業績も下振れやすくなる。現在、景気後退は始まっていないが、倒産件数は増えているようなので(10/9日経10/10日経)、この点は注意して見ていきたい。

もう一つは大株主の問題。親会社のプレステージがイントラスト株を55%保有しているため、今後株式を放出し、株価が大幅に下落する可能性がある。ただこれは業績と関係のないことなので、それで株価が暴落した場合は買い増しの好機と捉えたい。

今後3年の予想売上高成長率と利益成長率は共に年10~15%程度。現在の妥当だと思う時価総額は230億円(株価1000円、PER18倍、PSR2.7倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2倍くらい。


■今後の計画
投資スタンスは「基本静観、チャンスがきたら動く」のまま。現在、株価は高値圏にあるので、近いうちにチャンスがくる可能性は低い。今年も観察がメインになりそう。ただし、現在のポートフォリオには偏りがあるので、折を見て修正していく。

市場が荒れて米VIXが40超、日経平均の騰落レシオが65以下になったら株式などを買っていく。ドル建てやスイスフラン建て資産を優先的に買っていきたい。米景気が後退局面に入った場合は、後退開始から5〜10ヶ月後を目処に株式などを買っていく。


■去年の運用成績と今年の予想運用成績
1年前に予想した2024年の運用成績は「-10%~25%」で、その根拠は「地合いに問題があれば若干のマイナス、問題がなければそこそこなプラス。持ち株や投資スタンスにはそれほどリスクはなさそうなので、地合い次第の展開になりそう」だった。しかし実際には、地合いにはあまり問題はなく、持ち株や投資スタンスに大きなリスクがあった。運用成績は-22%だった。去年は多くの教訓を得た、悲しい年になってしまった。

保有株の年間騰落率
プラスアルファ・コンサルティング 2785円 → 1909円(-31%)
イントラスト 801円 → 817円(+2%)

今年の予想運用成績は「-5%~30%」。保有株の業績は順調に伸びる見込みで、グロース株・小型株市場は停滞もしくは上昇を予想している。今年は学びの少ない、楽しい年にしたい。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
・上場5年以内の会社
・社長が若い
・オーナー企業
・時価総額が300億円以下
・長期的なテーマに合っている
・急成長している
・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
・参入障壁が高い
・ストック型ビジネスを手がける
・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
→業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)マイクロソフトやリクルート

■有望株
*今後は円安が進みそうなので、円安耐性のあるところを優先的に見ていく。

・米市場に上場している「銅ETF」「銀ETF」「ウランETF」
これらは株式ではないが、銅、銀、ウランは有望。価格の変動がほぼ需給だけで決まるので、わかりやすいのもいい。銅、銀、ウランは「グリーン革命」で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りつつある。

・米アマゾン
ECやAI、クラウドだけでなく、革新的な店舗運営システムや物流システム、デジタルコンテンツ販売でもまだまだ伸びそう。「グローバルサウス」での成長も期待できる。身近な存在でわかりやすいのもいい。

・独SAP
大企業向けのERPを提供する会社。生成AI導入により、クラウドERP事業の力強い伸びが期待できる。


・米セールスフォース
企業向けソフトウェア世界2位。CRM(顧客管理システム)へのAI搭載により今後も順調に伸びていきそう。

・仏エアバス
競合の米ボーイングが”墜落”しそう。ボーイングの受注残は高水準にはあるが、機体自体の問題が多く、原因の特定や当局からの承認には時間がかかるため、この問題は簡単には解決しそうにない。そのような状況で、大規模なストが起きており、財務の悪化が続いている。ボーイング社が消えることはなさそうだが、いったんは破綻しそう。

・瑞Spotify
音楽配信市場はレッドオーシャンで差異化を図りづらそうにみえるが、音楽配信ソフトをいくつか使ってみると、Spotifyは差異化ができているように感じた。音楽・音声配信の世界市場は巨大なので、成長の余地は大きい。

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のEC企業。Amazon型のマーケットプレイスに加え、フィンテック事業も展開。南米は銀行口座やクレジットカードを保有してない利用者が多く、銀行口座やクレジットカードを持たない層向けに独自の決済サービスを提供している。ラテンアメリカ市場の出遅れ感から成長余地は大きい。ただし、カントリーリスクには注意が必要。

・米マクドナルド
世界的なブランドと人材育成システムに強みがある。人材育成システムではアルバイトから社員まで段階的なトレーニングのプログラムがあり、キャリアアップの道筋を明確にしている。人材への積極的な投資継続が、高い競争力につながっている。10/4日経MJ

・UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35)
スイスフラン建てのETF。日本と米国は財政難で今後通貨が弱くなっていく可能性が高いが、スイスの財政は健全なので通貨の価値が相対的に高くなっていきそう。このETFはネスレやロシュなど優良グローバル企業で構成されているので、世界成長も取り込める。

・SBI・インベスコQQQ・NASDAQ100インデックス・ファンド 手数料0.23%
三菱UFJ-eMAXIS Slim 全世界株式 手数料0.05%
三菱UFJ-eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)手数料0.09%
つみたてNISAで使えそうな投信。QQQは手数料がやや高いものの、成長力を考慮すれば許容範囲内。つみたてNISAは米株が暴落したときに始める予定。

2024年は米株が暴落をしなかったため積み立てNISAを始められなかった。結果としてQQQは大きく上昇してしまった。積み立て投資は地合いに関係なく始めるべきものなのかもしれない。ただそうは思っていても、暴落したときでないと始められなさそう。

・マニーやナカニシ
医療機器で世界的に高い競争力がある。海外売上高比率が8割を超えているので円安耐性がある。

・リクルート
子会社米Indeedの成長期待が高い。世界一の採用プラットフォームとしての地位を強化しており、近い将来、日本企業として最大の価値を持つ会社になる可能性がある。

・エムスリー
医療DXの潜在市場は大きい。海外売上高比率が近い将来50%以上になる計画。ただ一部事業領域では競争が激化している。


・エス・エム・エス
介護DXの潜在市場も大きい。ただ稼ぎ頭の医療系求人プラットフォーム事業では競争激化の兆しがある。

・国内の再生可能エネルギー関連株
日本はエネルギー自給率が約15%と低水準にあり、今後円安基調が続く可能性が高いため、エネルギー自給率向上が課題になっている。このような背景から、再生可能エネルギー産業が今後急成長する可能性が高い。ただこの領域はレッドオーシャンでもある。再生可能エネルギーを基幹電源とするためには蓄電池の大量導入が不可欠なので(12/14日経)、蓄電池分野で競争力のある技術を持つ会社が狙い目かもしれない。


・メック
電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる。

・大阪有機化学工業
半導体の回路を描くための「フォトレジスト(感光材)」向け材料の世界大手。高機能フォトレジスト用のアクリル酸エステルで世界首位。試作段階で1キログラムから請け負うほど多品種少量の生産体制を敷く。近年、開発にリソースを投じるのがEUV(極端紫外線)露光装置向け。回路線幅2ナノ用の半導体製造に使われるため高い技術力が必要になる。今期の減益予想は市況回復を見越した積極的な設備投資に伴い、減価償却の負担が重くなっているため。24年後半には半導体市況は復調し、中長期では市場拡大が続く見込みで、生産体制を整備して旺盛な需要を取り込んでいく方針。

・AREホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しているため、貴金属のリサイクルはメガトレンドになっている。AREは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。インフレ耐性があり、配当が4%を超えるのもいい。

・アレント
ITを使った建設業界向けのコンサルティングやシステム開発を手掛ける。顧客企業と共同でAIなどを駆使した高度なサービスを開発するのが強み。建設業界は他業界に比べてデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れている。職人の高齢化や、残業規制に伴い技術者の人手が足りなくなる「2024年問題」の需要を取り込み、成長につなげる方針。


・前田工繊
経営哲学に「禅」を取り入れ、業績を順調に拡大させている。「禅の経営」に興味がある。

・REIT(不動産投資信託)
現在、REITのバリュエーションは歴史的な低水準にあり、「REITの黄金期が始まる」との見方が増えている(11/9ヴェリタス12/7ヴェリタス12/21ヴェリタス)。今後の経済ショックで大きな投資チャンスが訪れる可能性がある。

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番でみていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:3.0%~5.0%の間で推移

米長期金利に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・経済成長率+インフレ率→
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2025年の予想米GDP成長率は1.7~2.2%、2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%になる。


・金融政策↓
FRBはインフレが落ち着いてきたとして利下げを開始した。2024年は1%利下げをし、2025年は0.5%利下げをする予定。2027年に3%にする予定。12/19日経

*政策金利が中立金利(3.5~4.0%)を超えると、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。現在の政策金利は4.25%になる。

FRBは国債などの保有資産を年間7200億ドル(約108兆円)のペースで売却しているが、そろそろやめる予定。


・財政悪化による国債増発↑
米政府の財政はコロナ禍以降、大きく悪化しており、今後も悪化を続ける可能性が高い(10/9日経など)。金利が高止まりした状態では公的債務の利払い費も増加し、財政はさらに悪化しやすくなる。


・金余り、資金需要の低下↓
金余りで運用難に陥っている米国の金融機関や保険会社、年金、企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。

第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。

少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。


・米国債の人気→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも高いので、海外勢から買われやすい。

米国債保有世界2位の中国は、米国との対立や人民元安阻止のために米国債を淡々と売却している。米国と緊張関係にあるロシアなども米国債を売却している。


・米企業の社債発行増↑
米企業の社債発行が急増している。米国債より投資妙味の大きい高格付け社債の発行増加により、米国債の需要が減っている。


・リスクオン・リスクオフ↑
米景気は比較的堅調で、金利を引き下げ始めたのでリスクオン気味。


・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。


・チャート→
<10年チャート> 下げトレンドに入ったように見えたが、トランプ大統領当選後に切り返している。しばらくは4~5%の間で横ばいが続きそう。



■WTI原油
今後1年の予想レンジ:40ドル~85ドルの間で推移

原油価格に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2025年の予想世界GDP成長率は3.0~3.3%になる。

長期では、再生可能エネルギーの増加や技術革新、学校・職場のリモート化などにより石油需要が減少していく可能性がある。仏トタルや英BP、国際エネルギー機関(IEA)は2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している。

一方、世界人口増やAIの電力消費、再生エネルギー開発の滞りなどにより、石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している。英シェブロンは2023年から45年にかけて石油需要は約15%増加すると予想している。

世界2位の原油需要国・中国の原油需要がピークアウトした可能性が出てきた。需要が頭打ちになっている理由は、EVの普及(ガソリン需要の減少)、再生可能エネルギーの拡大、エネルギー安全保障戦略のため(12/29日経)。この流れでいくと、世界の原油需要は早々にピークアウトする可能性がある。


・供給↓
OPECプラスは原油価格を維持するために減産に動いているが(12/7日経)、米国やカナダ、ブラジル、ガイアナなどは生産を増やしている(11/25日経)。OPECの盟主であるサウジアラビアはシェア回復のため、減産をやめ、増産の準備を進めているといった報道もある。11/20日経

長期では、脱炭素の潮流を受けて一時油田開発投資は大きく落ち込んでいたが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにエネルギー不足の懸念が生じ、化石燃料の開発投資が急増している。長期の供給も問題なさそう。


・AIによるコスト削減↓
AIの活用により生産効率が高まっている。米ゴールドマンサックスは中長期の生産コストが1バレルあたり5ドル下がると予想している。


・産油国で不測の事態が起こる↑
中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きており、パレスチナでは紛争が起きている。供給網の混乱などにより今後供給が減る可能性がある。米ゴールドマンサックスは「ホルムズ海峡で石油の流れが遮断された場合、原油価格は1カ月で20%上昇する」と予想している。

ただし、足元では中東やロシア地域の紛争は落ち着きつつある。

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。


・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル85ドル、ロシアでは80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は75ドル、米産油企業の採算ラインは40~80ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。


・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時には売られやすい。


・インフレ対策→
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元でインフレは落ち着きつつある。


・為替↓
原油はドル建てのため、ドル高になると割高感が出て、原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではややドル高基調。


・チャート→
<10年チャート> 三角持ち合いで、長期線を下回っている。底抜けしそうな雰囲気。底を抜けたら40ドルぐらいまで下がりそう。



■ドル円
今後1年の予想レンジ:130円~165円の間で推移

為替に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・日米金利差↓(↑は円安方向、↓は円高方向)
<短期金利>
日米の短期金利差は現在約4.5%ある。日本は利上げ傾向、米国は利下げ傾向にあるため、今後金利差はさらに縮まっていく可能性が高い。しかし、日本は国内需要が停滞しているため金利を上げづらく、米国は景気が比較的堅調なため利下げは穏やかなペースになりそうなため、金利差縮小のペースも穏やかになりそう。

これまで金利差拡大によりキャリー取引が増えていたが、日米の金融政策の転換により、徐々に減少している。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。
*世界で金利が最も低い水準にある日本の円は、キャリー取引の調達通貨として選ばれやすい。対ドル以外でも売られやすくなっている。ただ現在は円の代わりにスイスフランが調達金利として選ばれ始めている。キャリー取引のフランシフトが進めば、円への売り圧力は和らぐ。12/5日経
*市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

<長期金利>
現在、米長期金利と日本の長期金利の差は3.5%くらいある。今後長期金利差も縮まっていきそうだが、そのペースは短期金利と同様、穏やかなものになりそう。


・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているため、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を買っている。ここ数年は両者合わせて年10~20兆円の買い越しが続いている。

*キャピタルフライト
日本は財政問題や経済低迷、インフレなどの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産に転換し始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。2024年に始まった新NISAでキャピタルフライトが加速しつつある。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。2024年は過去最高になる可能性がある。

対して、海外企業の対日直接投資額は1兆円程度になる。


・日本の貿易収支→
円安や資源高、生産の海外移転、産業競争力の低下などにより、貿易収支は悪化傾向にある。(貿易収支を含む)経常収支は年20兆円程度の黒字ではあるが、そのうち半分くらいは海外での再投資や内部保留などにあてられるので、稼いだ外貨の半分くらいしか円転されない。

*訪日客の増加でサービス収支の旅行収支は3兆円程度の黒字になっているが、海外テック企業が提供するクラウドサービスなどへの支払いによる「デジタル赤字」は約6兆円で(12/11日経)、それを帳消しにしている。「デジタル赤字」は今後も旅行収支の黒字を上回って増えていく見込み。


・米国の貿易収支↑
米国は経済が強く、国内産業の保護主義政策を推進しているので貿易収支は改善傾向にある。


・日銀の財務状態の悪化↑
日本の長期金利が1%まで上昇した場合、日銀は債務超過に陥る。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるため資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。現在、日本の長期金利は1.07%まで上昇しており、今後さらに上昇する可能性がある。

*日銀は、長期金利が1%に上昇した場合、日銀が保有する国債に28兆円の含み損が生じ、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。

*米ゴールドマン・サックスは「2027年に政策金利が1.25~1.5%に到達するまで利上げサイクルが長期間続き、長期金利が26年末に2%に達する」と予想している。
*日銀は民間金融機関が日銀に預けている当座預金への利息を支払っている。利上げが進めば利息負担がかさみ、その負担が日銀が保有する債券の収益を上回ると、赤字に転じる可能性がある。ある試算によると政策金利が0.6%まで引き上げられると経常赤字に転じる。2.8%まで上がれば債務超過に陥る可能性がある。


・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。日本は自然災害が多く、突然の大地震が起こったときに多額の国債発行が必要になり、臨界点が早まる可能性もある。米国政府の債務も返済不可能な水準まで積み上がっているが経済が強く、ドルは基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。


・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。


・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)は低く、日本国債の金利は比較的安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している。

*海外勢は2023年半ば頃から日本株を大きく買い越しているが、これは先物の円売りを合わせて投資していることが多いので、円高要因にはなりにくい。


・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
足元の投機筋の持ち高はほぼニュートラル。円は現状の水準で落ち着くとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。


・個人投資家の売買動向 ー
日本の個人投資家によるFX取引が為替市場の約2割を占めており、相場を動かす原動力になりつつある。ただ足元の売買動向は不明。


・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、米長期金利の上昇や、ロシアやアルゼンチンの通貨不安、中国経済の先行き懸念などにより、ドルの需要が高まっている。


・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。


購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

現在の購買力平価(企業物価)は92円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくとされるが、近年では投機取引の拡大や資本の自由化などから購買力平価の影響力は弱まっている。

*購買力平価仮説が成り立つ前提は、貿易における実需取引が為替レートを決める主因であるというもの。日本の製造業は海外に拠点を移し、輸出が増えなくなっているため、購買力平価と市場レートは開きやすくなっている。また現実の為替市場では金融取引が圧倒的なボリュームを占めているため、貿易の実需取引の影響は小さくなっている。


・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する。しかし現時点でそこまで下がる可能性は低い。


・<10年チャート> これも米長期金利と似たようなチャート。いったん天井を打ったように見えたが、トランプ大統領当選後、切り返している。米長期金利と連動して、しばらく140~160のボックス圏で推移しそう。




■日経平均
今後1年の予想レンジ:30000~45000円で推移

日経平均に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している。2025年は世界的に金融緩和の年になりそうなので、中銀の総資産は増加しそう。


・金利→
金利が上がると、株式から債権へ資金が流れやすくなる。大多数の国の金利は足元でピークアウトしている。ただし日本は例外で穏やかな上昇基調にある。


・為替↑
円安が進むと海外勢から見た日本株は割安感が出る。現在は円安傾向にある。
*ドル高・円安が1%進むと東証株価指数(TOPIX)は0.5%上昇するという試算もある。


・需給↑
主な投資主体の売買動向
2024年は、事業法人が8兆円くらいの株式を買い越して、それ以外の投資主体がすべて売り越すという構図だった(12/26日経8/29日経)。2025年も似たような構図になりそう。


・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益) × PER(期待度・人気度)で決まる。2025年の予想EPSは+7%くらいになる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因をみていく。
・為替↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響を大きく受ける。今は円安傾向なので利益が上乗せされやすくなる。

・海外景気→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。足元の世界景気はまだら模様。

・自社株買い↑
自己株式はEPSを計算する際に分母の株式数から除かれるため、自社株買いにはEPSを押し上げる効果がある。日本企業は自社株買いに積極的で、2024年の自社株の取得実績は約8兆超になる。
日経には「自社株買いをしても、その分株数も減り、時価総額も同じ割合で減るので理論的には自社株買いをしても株価は不変」とあるが、自社株買いにより需給が改善したり、ROEが上がったり、企業の「自社株は安い」というアナウンスメント効果があったりするので、株価は上がりやすくなる。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益を圧迫する。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばい傾向で、資源価格は円安により上昇傾向にある。

・金融政策→
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。日本では金利が上昇基調にあるが、そのペースは非常に穏やか。
ーーーーー


・PER(期待度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいで、現在のPERは16.14倍とやや高い位置にいる。今期の業績予想は-5~+9%くらい、来期は+7%くらいになりそうなので、現在の株価水準は妥当な水準なのかもしれない。


・リスクオン、リスクオフ↑
ややリスクオン気味。


・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約6.33%、配当利回りは約2.23%と、日本の10年国債の利回り1.07%より高いので、株式に資金が流れやすい。


・中国株からのシフト↑
中国の景気停滞リスクや地政学リスクから、中国投資離れが拡大している。その代替投資先の1つとして日本株が選ばれている。


投機筋の持ち高
買い残は約2兆円で、売り残は約2000億となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。


・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。2024年に始まった新NISAで2024年上半期に約3兆円が日本の個別株に流入している。


・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えると株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。


・チャート↑
<10年チャート> 出来高を増やして新高値を突破しているので基調は強い。ただ長期MACDは天井を打っている。しばらく横ばいでもみ合うのかもしれない。



■東証グロース250指数
今後1年の予想レンジ:600~900の間で推移

東証グロース指数に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・金融政策↑
東証グロース指数は米金利の影響を強く受けるので、米国の利上げ時は真っ先に売られやすい。現在は利下げ基調なので、買われやすくなっている。

*小型グロース企業には赤字で借り入れ依存度が高いところが多い。金利上昇時には借金の金利負担が重くなり財務状態が悪化する。また成長資金を調達しにくくなる。
*金利上昇時は将来の成長期対で買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。
*金利が上昇すると国内需要が弱含み、国内事業が中心の小型グロース企業は業績が伸び悩みやすくなる。
*米金利が上昇すると、円安が進み、円安の恩恵を受ける国内の大型株が選好されやすくなる。


・需給↑
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので、売り圧力はそれほど強くなさそう。個人投資家の含み損は減少傾向にあるので、そろそろ個人が動き出してもよさそう。
*東証グロース市場の海外投資家の売買シェアは約4割になる。


・EPS(1株利益)成長率 ー
不明。

*株価は基本的にEPS × PERで決まる。グロース市場全体のEPSがマイナスの場合、そこにPERをかけても株価を算出できない。株価を決定する代表的な指標である純利益が赤字の場合は、株価が市場のセンチメントに左右されやすくなる。


<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えている。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような状況であり、このような前例を踏まえると、2年の停滞が続いた東証グロース指数は今後反発する可能性がある。

<グロース250の10年チャート> 底値感はあるが基調は弱い。

市場環境

 株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などをみていく。

■EPS成長率
・世界株式の2025年の予想EPS成長率は-5~10%。
・米国株式の2025年の予想EPS成長率は12%。
・中国株式の2025年の予想EPS成長率は0~10%。
・欧州株式の2025年の予想EPS成長率は-10~5%。
・日本株式の2025年の予想EPS成長率は7%。
*参照:11/20日経など


■経済成長率
・世界の2025年の予想GDP成長率は3.0~3.3%。
・米国の2025年の予想GDP成長率は1.7~2.2%。
・中国の2025年の予想GDP成長率は4.1~4.5%。
・ユーロ圏の2025年の予想GDP成長率は1.2~1.7%。
・日本の2025年の予想GDP成長率は0.8~1.1%。
・インドの2025年の予想GDP成長率は6.5%。
*数値はIMFとOECDと世界銀行の予想。10/23日経など

*米モルガン・スタンレーは米国が中国に60%、そのほかの国・地域に10%の一律関税を課した場合、米経済の実質経済成長率は1.9%下がると試算している。11/24日経

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。


■インフレ
・米国の202年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・欧州の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・日本の2025年の予想インフレ率は1.5~2.5%。
*ブレーク・イーブン・インフレ率とは市場参加者のインフレ予想を反映する代表的な指標。通常の国債と物価連動国債の利回り差から算出する。ブレーク・イーブン・インフレ率は実質金利を算出するときなどに使われる。


今後のインフレ動向を、インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて考えていく。

<インフレ要因>
・人手不足で賃金が上昇している。米国においては求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされる。8〜10月の求人件数は700万件台半ばとまだ少し多い。12/6日経

*米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは5月に「米国の景気と求人数が悪化し続けるのは確実。底打ちまでに18~24カ月ほどかかる」と言っている。ただ、11月にトランプ大統領候補が当選し、米雇用市場は盛り上がりつつある。

*米国ではフルタイム労働者が減少しており、パートタイム労働者が増加している。過去のケースではこのようにフルタイムが減り、パートタイムが増えた場合は、時間をおいて、雇用者全体の伸びが急減速している。

*米国では移民が急増しており、企業の求人を埋めている。移民は「弱い雇用」と呼ばれるパートタイムの割合が高いとされる。こうのようなケースでは、雇用が増えても賃金はあまり上がらない。ただし、大量の移民は家賃の上昇圧力にはなる。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・財政拡張が物価を押し上げている。米国では積極財政が生んだ累積的な「財政ショック」が2023年の米インフレ率を0.5%押し上げたと推計されている。財政要因は直近の数四半期でも0.6~0.7%の押し上げ寄与があると推計されている。
*世界的に選挙が相次ぐ2024年は財政拡張が進みやすくなる。
*政府債務の増加が通貨の価値低下につながっている。米国、ユーロ圏、日本の世界3大基軸通貨国すべてで政府債務が過剰な状態にある。通貨の購買力が落ちている。

・トランプ大統領の関税引き上げ政策もインフレ圧力になる。トランプ大統領は中国、カナダ、メキシコに対して関税を大幅に引き上げると公言している。これらが実施されればインフレ率を0.5~1ポイント程度押し上げると試算されている。ただし現実にはこれらの引き上げは一部にとどまる可能性が高い。前トランプ政権時の18年に、米国は中国、欧州連合に対し、関税を引き上げたが、米国のインフレ率は低位で安定していた。今回も関税引き上げ政策は単なる交渉材料になる可能性が高い。

・ウクライナや中東地域の戦争によってエネルギーコストが上昇している。ただし、これらの戦争はノーベル平和賞受賞を目指すトランプ大統領の策略により、徐々に落ち着いていきそう。12/21ヴェリタス12/25日経

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ戦争などにより、食料価格が上昇傾向にある。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。

・米欧でインフレやAIへの不安などからストライキが頻発している。

・株高による資産効果で消費が落ちにくくなっている。


<デフレ要因>
・これまで世界中の中央銀行が強力な金融引き締めをしていたので、金利は平時と比べまだ高い水準にある。金利高は需要を減らす効果がある。

・経済のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば、検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、1億曲超をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産コスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がゼロに近いので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報や人やモノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。12/1日経

・AIやロボットを活用した産業の「自動化」により、生産コストが低下している。

・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。

・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。

・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。

・人手不足で成長力が低下している。

以上をまとめると、インフレは落ち着きつつあるが、人手不足や保護主義、環境規制、紛争、財政ショックなど影響で、以前のような超低インフレに戻る可能性は低い。米国のインフレ率は2025年頃に2.3%くらいになり、その後は1.5~3%あたりで推移しそう。

日本においては、国力の低下から円安は止まりそうになく、円安の影響で2%程度のインフレが継続する可能性が高い。インフレが高進した場合はキャピタルフライトが加速し、さらに円安・インフレが進む可能性もある。とはいえ、日本は少子高齢化社会なので、需要の基調は弱い。インフレが進むとしても比較的穏やかなものになりそう。

超長期で考えると、世界ではエネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命が進み、超デフレ(無料社会)になる可能性がある。


■金利
・米国の政策金利は4.25%で、3ヶ月金利は4.33%、2年金利は4.24%、10年金利は4.53%、30年金利は4.73%になる。
・日本の政策金利は0.25%、2年金利は0.59%、10年金利は1.07%、30年金利は2.25%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。11/30日経

*現在の債券は魅力的な水準まで利回りが高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが4.24%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(3.5~4.0%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。しかし今回は30年債が自然利子率を長期間上回っているにもかかわらず、米株は天井を付けていない。

*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年7月から10年金利が2年金利を下回っており、2年ほどその状態が続いていた。しかし現在、景気後退は起きていない。

*短期金利が長期金利を下回る逆イールドは、景気後退の直前に解消することが多い。9月に逆イールドは解消しているが、現時点で景気後退を見込むエコノミストは少ない。今後2年は景気拡大が続くとの見方が多い。

*米10年金利が米3ヶ月金利を下回ると、その後、比較的すぐに景気後退する傾向がある。2022年10月からこの逆イールドが発生している。この逆イールドも2年ほど続いた。

*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし長短金利が逆転すると逆ザヤになるので融資が減る。その結果、企業の投資も減り景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。過去の例では、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起きていることが多い。今回米中銀は2023年9月頃から利上げを停止している。

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今回はこのパターンに当てはまらず、「堅調なファンダメンタルズと利下げを好感した上昇」になっている。


■債務
・世界の債務はコロナ過で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している。ただし、コロナ過の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク(ノンバンク)」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドル(3京6000兆円)と07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。ノンバンクは信用力の低い企業へ融資することが多く、今後も融資は拡大していく見通し。ノンバンクによる企業向け融資(プライベートクレジット)は金融規制の対象外にあるためデフォルトリスクを把握しづらい。金利が高止まりし景気後退に陥ればデフォルト率が7%くらいまで上昇する可能性がある。
*プライベートクレジット事業者は2008年の金融危機後に設立されたところが多いため、デフォルトの影響は未知な部分が多い。
*銀行は預金者のお金を貸し出しているため、その資本は損失に備えて厳しい監視下に置かれている。一方、プライベート資産を運用するプライベート・デッド・ファンド(以下PD)は機関投資家から調達した資本そのものを貸し出しているので、規制は銀行に比べて緩い。銀行が破綻すれば預金者は保護されるが、PDが破綻しても機関投資家は保護されない。11/5日経10/26日経

*米国の金利の高止まりは、ノンバンク業界を直撃する。ノンバンクは通常、リスクの高い借り手に高い金利で貸し付ける。金利高止まりの影響で借り手の返済能力は落ち不良債権が増えている一方で、貸し手の資金調達コストは上がっている。ノンバンクでは時価会計を行っていない運用会社が多いため、問題があっても資金繰りが苦しくなるまでそれが表面化しないことが多い。商業用不動産市場では価格が半分になったものも珍しくない。高金利の下で経済に内在する不安定要素は増している。

・プライベートエクイティ(未公開株)ファンドでは投資回収が難しくなっている。PEファンドが抱える未売却企業は約2万8000社、3兆2000億ドル(約500兆円)相当に及ぶ。

・米金融市場では商業用不動産が大きな”爆弾”になっている。商業用不動産の10年間の価格上昇率は日本が20%なのに対し、米国は50%になっている。米国の商業用不動産向け貸出額は2010年から2023年まで約2倍に膨らんでいる(日本は同期間に3割増)。一方で、リモートワークの浸透や金融引き締めによるオフィス需要の低下によりオフィスの空室率は20%に迫っている。金利上昇により商業用不動産向けの融資基準は厳格になるなか、2024年に80兆円規模の償還期限が到来する。そこで借り換えができない場合、物件は市場で売却されるため、市場価格の調整圧力はかなり大きくなる。米欧ではGDPに占める商業用不動産の割合が1~2割に高まっているため、不動産バブルが崩壊すれば米経済は大きく下押しされる。米不動産ファンドは世界中に分散投資しているため、ファンドのリバランスで世界中の商用不動産に売りの連鎖が波及する恐れがある。
*2024年はそつなく借り換えが進んだもよう。次の山場は2026年以降になる。

足元で米商業用不動産を取り巻く環境はじわじわと悪化している。商業用不動産の中でもとりわけ深刻なのはオフィスビル。23年後半から融資のリスクが急激に顕在化し、30日以上返済延滞している案件の割合は過去10年で最悪となっている。商業用物件の取引数は、過去最低レベルで低空飛行中であり、今年後半以降に増加するローンの満期に耐えられるかどうか懸念されている。ただ、商業用不動産の貸し手は比較的小規模な銀行が多く、銀行の健全性は以前より格段に高まっているため、デフォルト率がある程度高まっても、銀行システム全体の危機に発展する可能性は低い。

住宅用不動産も”爆弾”になりつつある。金利の上昇に加え、保険料など維持費も上昇しており、空室率は高止まりしている。マンション向け融資残高は23年末に約2兆2000億ドル(約345兆円)と、焦げ付きが顕在化しつつある商業用不動産向け融資の6割に達している。マンション向け融資の延滞率は2024年1月に0.44%となり、リーマン危機の水準を上回り過去最高を更新している。リーマン危機の際には、延滞がピークに達してから貸し手の損失がピークに達するまでに約2年を要している。24年と25年には5000億ドル(71兆円)の融資が返済期限を迎える。借り換えに失敗すれば割安な価格で不動産を手放さざるを得ず、価格下落に拍車がかかる恐れがある。

・米政府の公的債務のGDP比率は07年の35%から22年には97%まで高まっており、53年には181%まで上昇する見込み。

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。
・22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。

・中国は前例のない投資主導経済を20年にわたって続けている。過去40年間に消費のGDP比は53%から38%へ低下し、消費が投資を下回り続けている。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造になる。多くの資産が健全資産とはいえず、不良資産が積み上がっている。
*一方、米国では労働者に購買力を与え、生活水準を向上させることで需要を創造してきた。過去40年間に米国の消費のGDP比は60%から68%に上昇している。

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。

・新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。


<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより起こる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元で一部中銀はインフレ対策として資産の売却を進めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、”中銀バブル”が完全崩壊する可能性は低い。


■金融政策、財政政策
・世界の大部分の中央銀行は金融緩和に転じている。

*米ゴールドマン・サックスは、景気後退を予防する目的の利下げや、インフレが落ち着いた後に行う利下げでは株高が発生し、景気後退を伴う利下げでは株安が発生すると分析している。今回の利下げは前者のタイプなので株高が発生しやすい利下げになる。米JPモルガンも似たようなことを言っている。10/20日経

・日本の中央銀行は世界の大多数の中央銀行とは対照的に金融引き締めをしている。ただ国内需要は弱く、世界中の中銀は金融緩和に動いているので、金融引き締めは非常に穏やか。日銀のバランスシート膨張や政府債務の拡大も金融引き締めをしにくくしている。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建を重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定しているが、財政収支は悪化の一途なので、長期の見通しは悪い。

・海外の政治は不安定。ただウクライナ戦争や中東地域の紛争は次第に落ち着いていきそう。12/20日経

・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。

・米国では資本主義と自己責任社会の帰結として、格差拡大が続いており、民主主義が機能不全に陥りつつある。近い将来、大規模な政治的分断が起こる可能性が高い。

・米国は典型的な衰退期に入ったという見方もある。マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は、国家のサイクルは「新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ」「平和と繁栄を迎え支出と債務が過剰になるステージ」「財政状況が悪化し内戦、革命に向かうステージ」の3つのステージに分けられ、現在の米国は衰退期に属する3つ目のステージに入ったと言っている。

・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。国外からの投資も、各種規制やスパイ法などの影響で著しく減っている。この調子でいくと中長期でも経済成長が減速していく可能性が高い。中国共産党が一党支配を最優先する限り、この傾向は続き、最終的に中国はロシアのような国になる可能性がある。
*23年の海外勢の対中直接投資額は21年の51兆円の1割程度まで落ち込んでいる。
*中国共産党の一党体制はますます強化されている。

・中国経済がかつての日本のようなデフレに陥りつつあるという見方が強まっている。日本は1990年代から不良債権、雇用、設備の3つの過剰に悩まされた。中国も今同じ3つの過剰に悩まされている。当時の日本は欧米市場へのアクセスが確保され、海外に活路を求められた。しかし今の中国は米国と対立し、欧州でも中国製EVを締め出す動きが広がっている。米欧の半導体輸出規制により先端半導体の調達にも支障をきたしており、技術的にも追い詰められつつある。
・レイ・ダリオ氏は「中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。バブルが崩壊し、試練が続くだろう」と言っている。

・EUは域内で財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ戦争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は104とほぼ中立の水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
*米GDPの約7割は個人消費が占める。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で48.4と中立よりやや低い水準。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は52.1と堅調な水準。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは45.2。好不況の分かれ目である50を2年以上下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは50.1とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格はいったんピークアウトして、比較的低位な水準にある。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)は7月に最高値を更新したが、足元ではやや調整気味。三角持ち合いを形成しているので、今後上下どちらかに大きく振れる可能性が高い。
米国の失業率は低位で推移しており現在4.2%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥りやすくなる。11月の失業率は前年同月を0.5%上回っている。
*米国では直近3ヶ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退に陥りやすくなる。現在は0.43ポイント上回っている。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは底打ちし上昇基調にある。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。つい最近まで3つ起きていた。現在は2つ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい。現在は「中立」の水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は9%と「やや強気」の水準。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすい。現在は28で「Fear(恐怖)」の水準。

・米機関投資家の株式持ち高比率を示すNAAIM Exposure Indexも先行指標になる。この値が80を超えると過度の楽観、20を下回ると過度の悲観になる。現在は80と過度の楽観になる。

・機関投資家の運用資産に占める現金比率も株価の先行指標になる。この比率が4%を下回ると「株売りシグナル」になる。12月の現金比率は3.9%になる。10/19ヴェリタス12/19日経

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後なんらかのショックで株価が急落することが多い。現在のVIX指数は17と低位な水準にある。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わることが多い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは107と中立の水準。
・日本株の信用評価損益率は-8.86%と中立の水準。
・先進国の株価チャートは、軒並み最高値を突破しており基調は強い。

長期計画

「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
景気循環的にそろそろ景気後退に陥りそう。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は比較的良好なため深刻な景気後退に陥る可能性は低い。

*景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大) →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮) →不景気 の流れになる。

9月にバンク・オブ・アメリカが実施した機関投資家調査では世界経済がソフトランディングするとみる割合は79%に上昇しており、解答者の52%が今後1年半で米経済が景気後退に陥らないと予想している。本当にそんなことが可能なのか。景気後退要因と景気浮揚要因を列記して考えてみる。


<景気後退要因>
・企業債務はGDP比で過去最高水準まで高まっており、金利も2008年の金融危機前と同水準まで高まっている。いつ資金の逆回転が起きてもおかしくない。
・米欧などの先進国中銀はこの2年で政策金利を急激に引き上げている。金利高の影響は1年くらいの時差をもって経済に反映される。2025年はその影響が表れる年になる。
・過去のパターンでは米利上げ停止後1年くらいに「○○ショック」が起こり景気後退に陥っている。今回FRBは2023年9月頃から利上げを停止しているので、もうそろそろ「○○ショック」が起こってもおかしくない。
・過去のパターンでは逆イールド発生後、1~2年くらいたったころに景気後退が起きている。米国では2022年7月に逆イールドが発生しており、現在2年半が経過している。
・逆イールドが発生している影響で、銀行の融資が減っている。銀行の融資態度は景気との相関が強く、過去、融資基準の厳格化が進んだ時期には景気後退が発生している。
・米家計のコロナ貯蓄はほぼゼロになっている。2023年10月からは学生ローンの返済が再開されている。クレジットカード債務や自動車ローンの延滞率は足元で13年ぶりの高さになっている。
・米経済の牽引役である個人消費は長引くインフレや金利高で節約志向が高まっており、低調気味になっている。
・今後米国の失業率が上昇していく可能性がある。米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは5月に「米国の景気と求人数が悪化し続けるのは確実。底打ちまでに18~24カ月ほどかかる」と言っている。
・株式市場の牽引役になっている「生成AIブーム」が”幻滅期”に入り、いったんしぼむ可能性がある。現在、生成AIのインフラ投資は活発だが、生成AIの利用企業数はピーク時の半分以下になっている。株式市場が停滞すると逆資産効果が生じる。
・2008年に起きた金融危機では、中国の大型投資により世界経済は救われたが、今回はそのような支え手がいない。
・過去の例では、日銀の政策金利の引き上げは米景気後退の直前に開始されることが多い。過去のパターン通りいくとしたら、あと6ヶ月くらいで景気後退に突入する。


<景気浮揚要因>
・失業率が低い。米GDPの約7割は個人消費が占めるが、失業率が低水準の状態で維持されると、所得が維持され、消費が落ち込みにくくなる。1960年代以降に8回あった景気後退局面では、失業率が平均で3%強上昇しているが、今後想定される失業率の上昇幅はその半分にも満たない。
・移民が流入している。移民流入により労働供給が増え、成長の原動力になっている。一方で、移民は「弱い雇用」に就くので、賃金の伸び鈍化にも役立っている。
・米国では移民の流入やテクノロジーの普及、サプライチェーンの強靱化などにより潜在成長率が2%台に上昇している。
・米国の生産性は上昇している。生産性は2023年に年率で4%程伸びている。生産性が上がった主因は雇用流動性の高さになる。米国ではコロナ過の初期に2200万人超の一時解雇が発生したが、その後、労働者はより成長力のある企業に転職した。最も雇用が増えたのはIT関連になり、起業数はコロナ過前の2倍になった。これらが米国の技術革新を加速させている。
・デジタル化が米国経済を強靱化している。デジタルエコノミーの伸び率は平均年7%超あり、それが米経済を下支えしている。
・現在はサービス業が経済成長を主導しているので、景気が落ち込みにくい。サービス業は投資資金を製造業ほど必要とせず、イノベーションが起こりやすいので、成長力が落ちにくい。
・AIが普及期に入りつつある。英調査会社はその普及率に応じて2027年の米GDPを0.7~2.5%、2032年時点で1.8~4.0%押し上げると予想している。
・現在世界的なAIブームが起きている。このブームはまだまだ続きそう。
・米国では家計債務の約7割を住宅ローンが占めるが、コロナ過の低金利時代に多くの世帯が住宅ローンを借り換えているので、債務返済コストが低くなっている。住宅価格は高騰しており、その含み益を借り換えで現金化する手法も活発になっており、約60兆円の余剰資産が生じたという試算もある。
・米家計は金融資産の5割を株式や投資信託などで運用しているので、株高により、家計は潤っている。この20年の株価上昇の結果、家計の金融資産の増加は個人所得の増加の6倍になっている。住宅価格は3倍に上昇している。2024年第1四半期の米家計資産は過去最高の160兆ドル(2京5000兆円)に達している。家計純資産は過去10年間で約2倍になっている。
・景気サイクルの終盤にもかかわらず、米家計のバランスシートは良好で、家計の可処分所得に占める元利払いの返済負担比率は低下している。
・クレジットカード支払いの延滞率が上昇しているという指摘は多いが、延滞が生じているのは低所得者層で、全体に占める割合は10~15%程度になる。金利水準は高いが、米国では固定金利で住宅ローンを組む人が全体の8割と多く、22年以降の金利上昇の影響は限定的になっている。
・現在、過去のリセッション局面の前段階で必ず見られていた「民間債務の急速な拡大」は起きていない。
・米長期金利は高止まりしているが企業の金利耐性は上がっている。2022年以降の米企業部門の受取利息の伸びは支払利息よりも大きい。大企業は低金利時に固定金利で資金を調達している一方、米アップルのように手元資金が潤沢な企業は高利回りの運用資産を保有している。
・インフレが鈍化している。コロナ禍で深刻になっていた移民減少や半導体不足などの供給制約が解消されている。インフレ指数の約3割を占める賃料も落ち着き始めている。
・インフレ要因となっていた、ウクライナ戦争の供給ショックが落ち着きつつある。
・インフレが落ち着いてきており、主要中銀は政策金利を引き下げ始めている。
・米国では半導体産業や環境産業(EVなど)、インフラ産業などの巨大産業を政府が支援しているので、景気が落ち込みにくい。
・世界的に積極的な財政政策が採られているので、当面の間、力強い経済成長が続く可能性が高い。
・インドなどの新興国経済が好調。中国はいろいろと問題を指摘されているが、それでも4%超の成長をできる見通し。
・過剰流動性(金余り)が維持されている。コロナ禍で政府がばらまいた資金が市場にまだ高水準で残っている。マネーストック(民間に流通しているお金の総量)は長期的に右肩上がりで増え続けている。世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は2024年4月にリーマン・ショック前の約4倍にあたる8兆7300億ドル(1360兆円)に拡大している。
・FRBなどの主要中銀は過去の金融危機の経験を踏まえ、制度変更や規制に加え、バックストップ(安全策)機能を整備している。
・長期の米景気を俯瞰すると、現在の景気は拡大局面が長く、後退局面が短くなっている。その要因は、製造業からサービス業への重心移動、生産・在庫管理の進化、機動的な金融・財政政策などになる。


<まとめ>
こう見ていくと、景気浮揚要因の方が多く、強そうなので、堅調な景気を保ちそう。景気後退に陥るとしても軽いもので済みそう。


■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務は積み上がっており、GDP比220%に達している。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

・・中国政府がとれる政策が限られてきた。政府や民間企業の債務残高の合計はGDP比で約300%に膨らんでおり、大規模な財政支出はしにくい。一方で、人民元安が進んでおり、中国中銀は大幅な利下げをしにくくなっている。


景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が武力で台湾を併合するとの見方がある。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米国側からになる。

とはいえ、中国は米国債を売り続けており、「安全資産」である金の保有を増やしているので、台湾に侵攻する可能性も少しはありそう。

中国が2024年5月23~24日に実施した台湾を包囲する形での軍事演習について、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は「(侵攻に向けた)リハーサルのようだった」と話している。


景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられない。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのかもしれない。

2022年、2023年、2024年は世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生した。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測している。2024年の平均気温は+1.5度になった可能性がある(11/18日経)。経済システム転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので、人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている。AIやロボット、教育などの影響を考えると、今後もピーク時期の前倒しが続く可能性が高い。


景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や戦争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので、景気後退もしくは財政破綻する可能性がある。

南海トラフ地震が単独で起きた場合は、200兆円程度の損失が発生すると試算されている。このような災害の発生時には、大規模な財政支出が必要になるが、すでに国債金利は上がり始めているため、これまでのように日銀頼みの国債発行をできない可能性が高い。仮に国債を大量増発した場合、財政破綻もしくはハイパーインフレが起こる可能性がある。10/17日経


■今後の計画
景気が停滞し、円が130~135円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。