ダニエル・ココタイロ氏らの予想「AI 2027」によれば、「レースエンディング・シナリオ」が現実化した場合、NYダウは2029年に100万ドル(現在の約20倍)を超える可能性があるという。
足元の展開は、概ね「レースエンディング・シナリオ」に沿って進んでいるため、今の流れが続けば、今後株価は大きく上がる可能性がある。
一方で、2月に公開されたシトリニ・リサーチ社のレポート「THE 2028 GLOBAL INTELLIGENCE CRISIS(2028年の世界知能危機)」では、2028年のS&P500指数は、2026年の高値から38%下落する、と予測されている。
予測時期には1年程度のずれがあるものの、それを踏まえても両者の株価見通しには大きな隔たりがある。どちらの見方により妥当性があるのか。以下、整理しながら考えてみた。
■「AI 2027」の「レースエンディング・シナリオ」では、どのような経路を経て、株価上昇に至るのか
1.2027年頃、AI開発そのものの自動化が進み、超人的な能力を持つAIが登場する。
2.データセンター内に、超人AIのコピーが数十万体集まった研究組織ができる。
3.AI研究が加速し、「知能爆発」のフェーズに入る。
4.AIが医薬、材料、エネルギー、ロボット、ソフトウェアなど幅広い分野でブレークスルーを次々に起こす。
5.AIがロボットや工場を設計し、さらにAIによって運営される工場ができる。生産能力がほぼ無限に近づく。
6.AI企業の利益は激増し、株価は暴騰する。現在、世界最大級の企業の時価総額は4兆ドル前後だが、巨大AI企業の時価総額は数十兆ドル規模に達し、そうした企業が複数誕生する。
→ 2029年にNYダウは100万ドルに。
ただし、大量失業が起こる。
■「THE 2028 GLOBAL INTELLIGENCE CRISIS」では、どのような経路を経て、株価下落に至るのか
1.AI導入により企業の利益率は上昇する。ただし、その中身は人間の労働を削減したことによるものであり、結果としてホワイトカラーの大量失業が起こる。
2.米国ではホワイトカラーが個人消費の約7割を担っているため、彼らが大量失業すれば需要が激減する。
3.企業は収益確保のため、さらにAI投資を進め、雇用がさらに失われる循環に入る。
4.SaaSモデルの崩壊と、ホワイトカラーを主顧客とする住宅ローン市場(約1800兆円)のデフォルトが重なり、金融危機が発生する。
5.財政面では、失業増加によって税収が大きく落ち込む一方、社会保障費は急増する。AI企業への課税強化やベーシックインカムの導入が遅れ、社会不安が高まる。
6.デフレ、金融危機、財政危機が重なり、株価は暴落する。
→ 2028年にS&P500指数は2026年比で38%下落する。
■AIは「富」を創出できるのか
両シナリオに共通するのは「大量失業」の到来で、決定的な相違点は、AIが「単なるコスト削減ツール(知能代替)」に留まるのか、それとも「新たな価値を生む源泉(富創出)」になるのかという点になる。
統計的に、発見や発明の数は研究者の数に比例する。もし「デジタルな天才研究者」を無尽蔵に複製できるなら、エネルギー革命や新素材開発による真の「富」が創出される可能性は高い。
■AIによりデフレが始まる
しかしその一方で、大量失業が起これば、消費は大きく落ち込み、デフレ圧力が強まる可能性が高い。さらに、「知的資産の死」が進めば、従来の株式市場の価値評価そのものが揺らぎ、市場が大きく失墜する恐れもある。こうした動きが重なれば、金融危機の発生確率は高まる。
また、政府は財政と社会の安定を維持するため、巨大な富を生み出したAI企業に対して重い税を課す確率が高い。そうなれば、AI企業の利益も減少することになる。
■AIで株式市場は上がるのか、下がるのか
以上を総合すると、市場は次のようなフェーズを辿る可能性がある。
・短中期(2026年):人員削減による利益率の改善やAI関連投資の拡大を背景に、企業業績は押し上げられ、株価は上昇する。
・中期(2027~2028年):AI投資の拡大が続く一方で、失業が急増し始める。消費の落ち込みや信用不安が現実化した段階で、株式市場は天井を打つ。
・長期(2029年~):技術革新が極まり、エネルギーや労働が実質無料化される「ポスト希少性社会」へ移行すれば、「株価」や「企業価値」といった概念自体が意味を失い、株式市場は下落の一途をたどる。
■資産運用はどうするか
最終的に「無料社会」に近づくのだとすれば、資産運用をあまり深く考える必要はないのかもしれない。
しかし、現時点ではこのシナリオが現実化する確率はせいぜい50%程度にとどまる。また、土地・資源・ブランド・体験といった「希少性の残る領域」には、引き続き価値が宿る可能性が高い。そう考えると、資産運用について思考停止するのは得策ではない。
したがって、現時点では、あくまで「資産を残す・増やす」という方向で考えていく。
上記のシナリオを前提にした場合、どのような銘柄に投資すべきか。
候補としては、土地・資源・ブランド・体験に関連する企業、あるいはAI企業が考えられる。
なかでも、現時点で最も面白いのはAI企業になるので、ここに絞って考えてみる。
AI企業に必要なのは、頭脳、資金、データになる。これらを現時点で十分に備えているのは、結局のところ巨大企業に限られる。
おそらく、
・「知能代替」の領域で主導権を握るのは、マイクロソフト、アマゾン、アンソロピック、OpenAIあたり
・「富創出」の領域で優位に立つのは、アルファベット、アンソロピック、そして科学研究志向のAI企業(3/13インフォ)あたりになるのではないかと思う。
とりあえず、株式投資ではこのあたりを中心に考えていく。
■補記 日経平均株価はどうなるか
ついでに、日経平均株価の推移についても考えてみる。
前提は、上記シナリオとする。
日本企業においてもAIエージェントの導入は重要テーマになりつつあり(3/9日経クロストレンド)、今後、失業圧力は徐々に高まっていく可能性が高い。ただし、日本は雇用規制が厳しいため、米国のような急激な大量失業は起こりにくい。
しかし、それは「緩やかな死」を意味する。企業は新規採用を凍結し、AIに代替可能な既存社員の賃金は抑制され、国内消費は徐々に衰退していく。
日本がゆっくりと変化している間に、米国企業はAI導入を急速に進め、コスト競争力を高めていく。その結果、日本企業は価格競争力を失い、やがて倒産が急増する可能性が高い。さらに、財政不安・円安・インフレが同時進行する厳しいマクロ環境も想定される。
仮にこうした事態が起きれば、2029年の日経平均株価が10万円程度に達していても不思議ではない。名目上は現在の約2倍だが、それは急激なインフレを反映した数字にすぎず、実質的な価値はほとんど失われている可能性が高い。
その後、社会がさらに「無料社会」に近づいていけば、財政や貨幣の意味そのものが薄れ、株価という指標自体の意義も揺らいでいく。最終的には、日経平均株価もゼロに近づいていくのではないかと思う。ただし、その過程において、AIの知的財産権(ライセンス)は米国に握られ、日本はその恩恵を享受するだけの従属的な立場に置かれる可能性が高い。