2019年10月4日金曜日

パークシャテクノロジー

■調べようと思ったきっかけ
・AI事情に通じている松尾豊教授が技術顧問だったから。AI市場はレッドオーシャン市場だが、氏の助言により、勝ち抜ける道を進めるのではないかと思った。
・東大系の会社だったから。AIは知性の勝負になるので東大とは相性がよいと思った。

■どんな会社か
深層学習のアルゴリズム(演算手順)ソフトを開発、提供する会社。

パークシャが作る深層学習アルゴリズムソフトは主に4つ。
・テキスト理解・対話エンジン
自然言語の内容を理解し、人とほぼ同じ対応をすることができる。チャットボット(自動会話システム)や、コールセンターのオペレーター・サポート、膨大な文書の中から特定の文書を抽出することなどに使われている。

・画像・映像認識エンジン
画像や映像を高精度で識別できる。防犯、医療、介護、小売り、インフラ整備などに使われている。

・顧客管理エンジン
飲食店や販売店などで効果を上げてきた手法を学習させ、顧客との関係をより強固するための支援をする。具体的には、顧客を分類し、優良顧客にはクーポンを配り離反防止策を講じたり、新規顧客にはキャンペーンをして再来店を促したりする。

・予測・推論エンジン
業界データやその周辺データを学習させ、需要予測などをする。価格最適化やリソースの最適配分などもできる。

パークシャがこれらのソフトを提供する会社は2018年9月期時点で約120社になる。ドコモやLINE、リクルートなど大企業が中心で、情報通信系やサービス系の会社が多い。

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<深層学習とは>
コンピューターで大量のデータの中から何かしらの傾向を取り出す技術。パターン認識。
深層学習は数百ある機械学習のうちの1つの手法だが、「自動的に特徴を抽出する」というところが画期的で、AI分野では50年に1度のブレークスルーとも言われている。

深層学習と他の機械学習の最大の違いは、今触れたように、「自動で特徴を抽出する」ことになる。これまでの機械学習では、コンピューターに「モノ(リンゴなど)」の概念を教えるときは、逐一その特徴を人が教えていかなければならなかった。しかし「モノ」の特徴をすべて言語化することは難しく、コンピューターに「モノ」の概念を高精度に認識させることができなかった。深層学習ではコンピューターが自動的に「モノ」に共通する特徴をいくつも抽出することができるので、「モノ」の概念を高精度で認識できるようになった。

深層学習は対象に共通する特徴を自動的に抽出するので、これまで人が気づかなかった(気づけなかった)特徴を抽出することも多い。例えば顔認識では、かすかな眠気や感情などを認識することができる。

<深層学習の仕組み>
深層学習の仕組みは人の脳を模した作りになっている。人の脳は、例えばものを見るとき、目に入った情報が目の奥にある網膜に投影され、その情報がまず一次視覚野にあるニューロン(神経細胞)に伝えられる。このニューロンは狭い範囲にある視神経からしか情報を受け取れないため単純な形しか認識できない。この単純な情報が二次視覚野のニューロン、三次視覚野のニューロンに送られるにしたがってまとめられていき、徐々に複雑な形が認識されていく。

これらのニューロンはシナプスというもので繋がっており、このシナプスに電気信号が流れることで情報が伝わっていく。シナプスは単に情報を伝えるだけでなく、情報の重み付けの役割も担っている。同じことを繰り返し学習した場合は、シナプスに何度も同じ信号が送られ、そのシナプスが太くなり、信号を効率的に送れるようになっていく。その結果、学習したことにだけ反応する神経回路(ニューラルネットワーク)が作られる。

このニューラルネットワークをコンピューター上に再現したのが深層学習(ディープラーニング)になる。深層学習ではエンジニアがニューラルネットワーク(深層学習アルゴリズム)の大枠を作った後に、目的に合致した大量のデータ(答え付き)を入れていく。膨大な量の学習を繰り返すことで、正しい答えを導き出せるように自動的にパラメータ(情報の重み付け)が変わっていき、回路が徐々に調整されていく(認識精度が上がっていく)。

このような深層学習の理論は1980年代にはすでにあったが、当時は適切な学習方法(情報の重み付けの方法など)や大量のデータ、高性能プロセッサがなかったため、認識精度が上がらなかった。しかし2012年にこれらの問題がすべて解決し、実用化に耐えうるレベルまで認識精度が向上した。

(パークシャテクノロジーはこの深層学習の技術を社会に還元するために2012年に作られた。)

<深層学習の問題点>
・深層学習の学習結果は膨大なデータの羅列なので、人が見てもその内容を詳しく理解することができない。そのため何か不具合が起きてもアルゴリズムを軌道修正することが難しい。また、もっともらしい答えが得られ、それが実際に有効な場合でも、答えが導かれた理由がよくわからないことが多い。ただこの問題に関しては、現在、数学や物理学を使って解明する研究が進んでいるので、じきに人が理解できるようになりそう。(深層学習が働く仕組みが詳しくわかれば、より高度な学習に発展させられるようにもなる)。

・深層学習で有用な知見が得られるかどうかはやってみなければわからない。なにも得られないこともある。

・深層学習は人が設定した範囲以外の課題には対処できない(業務特化型)。またたとえ範囲を設定しても、それが広すぎる場合は認識精度がそれほど上がらない。例えば株価予測の場合、データを読み込む範囲が業績、チャート、ビジネスモデル、マクロ環境など幅広いので予測精度がなかなか上がらない。それとこれは次に触れるが、すべての情報を数値化できていないという問題もある。ただこれも研究が進むにつれて徐々に予測精度は上がっていきそう。

・機械学習全般にいえることだが、計算に置き換えられない領域では使えない。機械学習が囲碁や将棋に強いのは、すべてを計算に置き換えられるからになる。現時点では人が行っていることを計算に置き換えられる領域はそれほど広くなく、機械学習にできることは限られている。ただ今後は徐々に計算に置き換えられる領域が広がっていくと言われている。AIの研究はつまるところ、人間のやっていることを計算に置き換えることになる。

参考:Newton別冊『ゼロからわかる人工知能』
   Newton別冊『ゼロからわかる人工知能 仕事編』
   「AI社会を展望する」(日経9/3~9/13)
   「華麗なるAI人脈」(日経9/2~9/7)
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■成長ストーリー
「深層学習の最新知見を産業に落とし込んで業績拡大」が基本シナリオ。

この会社の最大の強みは人材になる。上場時の博士(博士在籍含む)の割合は25%と高く、現在そこから人員がかなり増えているが、人材採用の75%をリファラル採用(社員の紹介による採用)が占めているので、同レベルの人材を確保できている可能性が高い。アルゴリズムソフトなどの無形資産はアイデアが真似されやすいため1年で20%程価値が落ちるというが、質の高い人材によりアルゴリズムを常に最新の状態にアップデートしていくことができる。この先端の深層学習アルゴリズムを産業を落とし込んでいくのがこの会社の基本戦略になる。

産業に落とし込んで行く経路は主に2つ。1つは「人手の代替」になる。日本では労働人口が減り始めており、今後もそれが長期で続いていく可能性が高い。深層学習は人が行っている業務を代替、もしくはサポートできるので、この人口減少分が一つの成長ポテンシャルになる。慢性的に人手不足の領域は、介護、建設、物流など多岐にわたるが、その全てに深層学習を適用する余地がある。パークシャがこの分野ですでに軌道に乗せている事業はLINEのチャットボットやコールセンターのオペレーター・サポートになる。

そしてもう一つが「業務の高付加価値化」になる。ネットが始まって最初の20年はニーズを見つける時代だったが、今後はニーズは変わらず、アルゴリズムによってそれぞれの性能を高める時代になると言われている。深層学習には膨大な情報を学習し、人が認知できないパターンまで検出できるので、認識精度や予測精度を飛躍的に高めることができる。パークシャは警備会社ALSOKと組んで監視カメラに判断機能を持たせたり、クレディセゾンと組んでカード不正使用検知機能を開発したりしている。

深層学習アルゴリズムにはグーグルやマイクロソフトなどのテックジャイアントが強力な汎用アルゴリズムを持っているが、パークシャは国内で最大規模の業界データを持つ企業と組み、業界特化型の高精度な認識・分析をする方向で進めている。グーグルなどは市場の大きい英語圏から攻めているようなので、国内に強いパークシャには若干分があるように思う。パークシャは、国内市場・特定領域に特化して成果を上げている翻訳会社ロゼッタのような成長パターンになるのかもしれない。

*パークシャはすでに大企業とのつながりが多いが、これは東大ネットワークが作用しているのかもしれない。日本の大学で最初に深層学習の授業を行ったのは東大の松尾豊氏(パークシャの技術顧問)になるが、その授業を受けた生徒たちが各大企業に散らばって、そこでAIを導入するにあたり、同氏(同社)に相談しに来ているのかもしれない。

パークシャが今最も力を入れているのが領域がMAASになる。社長によると、この領域は深層学習と非常に相性がよく、今後伸びることがはっきりしているという。パークシャは手始めに画像認識技術を用いたロックレス駐車場を開発したアイドラ社を買収。今後は「駐車場運営をデジタルメディアと融合していく」という(詳細は不明)。パークシャはトヨタやソフトバンクが作ったMAASを推進する企業連合モネコンソーシアムにも参加しており、多種多様な企業と連携し、事業を推進していくという。

*MAASとは、モビリティ・アズ・ア・サービスの略で、必用な移動手段を必要な分だけサービスとして利用するという意味。代表例はカーシェアになるが、一般的には人の移動を最適化するために、バス、電車、レンタカー、飛行機などをパッケージ化し、スマホなどから検索、予約、支払いを一度で行えるようにしたサービスを指すことが多い。MAASはユーザーの利便性向上だけでなく、移動の最適化により渋滞や環境コストを低減できるというメリットもある。

AIビジネスの市場規模は、富士キメラ総研の予測によると、2018年度が5300億円で2030年度が2兆1000億円になる。
AI関連産業の市場規模は、EY総合研究所の予測によると、2015年が3.7兆円で2030年が約87兆円になる。
参照:「AI関連産業は2030年に86兆円に 数字で見るAI市場」

■問題点
・AI市場は今後急拡大していきそうだが、AIアルゴリズムは基本的にはオープンソース化されているので、続々と企業が新規参入してきている。今後は絶え間ない価格競争にさらされるので、利益率が低下していきやすくなる。

・パークシャは東大系で、東大には最新の知見が集まりやすそうなメージがあるが、今はネットがあるので情報格差が起こりにくい。アルゴリズムのような“アイデア”は特許を取りにくいということもあり、他社との差異化を図りにくいという問題がある。

・画期的なアルゴリズムが開発された場合、他社に乗り換えられる可能性がある。深層学習アルゴリズムは使えば使うほどその精度が上がっていくので、基本的には他社に乗り換えられにくい性質を持つが、圧倒的に優れたアルゴリズムが開発された場合は乗り換えられる可能性がある。

グーグルが作ったAlphaGoという囲碁ソフトがある。このソフトは過去3000万局の対局データを学習させて作られたもので、2017年には人類最強の囲碁棋士・柯潔九段を破っている。その後グーグルはAlphaZeroというソフトを開発。このソフトには過去の対局データを一切与えず、囲碁の基本的なルール以外なんの知識もないAI同士を対戦させて、24時間後にはAlphaGoを下している。ちなみに将棋では2時間、チェスでは4時間の自己対戦で当時の最強ソフトを下している。

このような「強化学習」ができるアルゴリズムが開発された場合、それに乗り換えられ、そして永遠に追いつけなくなる可能性が出てくる。

(補足だが、AIが自分自身のアルゴリズムを書き換えて自己を改善できるようになると、加速度的に能力が向上していき、人間がその先の変化を見通せない段階にまで進化すると言われている。この予測不能になる状態のことをシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ぶ。)

・具体的な事業イメージが湧きにくい。パークシャは今年の7月にアイドラ社を買収したが、具体的な事業戦略を明かしてないため、今後の展開をイメージしにくい。それ以外の事業でも内容をオープンにしているものが少ないので、具体的にどんなことをしているのかよくわからない。

■利益成長を続けられるビジネスモデルか ★★★☆
・参入障壁は高いか。★☆。低い。すでに競合が多数いるので、激しい価格競争が始まっている。東大のブランドとネットワークが多少の障壁になるか。
・ストック型ビジネスか。★★★★。深層学習のアルゴリズムは使えば使うほど認識精度が上がっていくので基本的にはストック型になる。しかし画期的なアルゴリズムが開発された場合は乗り換えられる可能性がある。
・時流に乗っているか。★★★★★。AIは第四次産業革命のメインテーマの一つ。

■チャート
どっちつかずで方向感のない感じ。
<3年チャート>

■まとめ
今後はソフトウェアを知能化する深層学習アルゴリズムの時代が来るとは思うが、現時点でパークシャは他社との大きな差異化を図れていないようなので、現在の時価総額1300億円(売上高30億円程度。*アイドラ社含まず)には割高感がある。7月に増資で調達した200億円は2022年9月期までに使うようなので、投資回収期は早くても2023年9月期になりそう。

投資するタイミングはまだまだ先になりそうだが、AIは外せないテーマの1つなので、パークシャを軸に長期で観察していこうと思う。

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