2019年11月1日金曜日

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:1.3%~2.3%の間で推移

長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今後は両者とも低下傾向になる。米国の2018年の経済成長率は2.9%、2019年は(予)2.4%、2020年は(予)2.1%で、インフレ率は2018年が2.4%、2019年は(予)1.82%、2020年は(予)2.27%になる。貿易戦争が激化した場合、経済成長率は下振れし、物価には上昇圧力がかかる。
*数値はIMF予想

・金融政策↑
インフレ率が2%を下回り始めているので、FRBは7月に金融緩和に転じた。現在の政策金利は1.50~1.75%だが、政策金利の先行指標である米2年物国債利回りは1.52%なので、利下げはいったん打ち止めになりそう。今回の利下げは、景気後退に陥ってからの利下げではなく、将来の景気減速に備えた予防的な利下げなので、景気浮揚効果により長期金利には上昇圧力がかかる。

FRBは10月から短期金融市場の資金不足(短期金利の急上昇)を解消するため、短期国債を月6兆5千億円のペースで買うことに決めた。これは長期国債などの資産を購入する量的緩和とは異なるが、市場に出回る資金量が増えるため、長期金利にも若干低下圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争が一時停戦に向かいそうなのでリスクオンになりつつある。

・財政赤字の拡大↑
米政府は財政支出を拡大しており、今後も年金や医療、福祉などの社会保障費が税収の伸びを上回って増加していきそうなので、長期的に財政赤字の拡大は続きそう。2018年の米国の財政赤字額は100兆円を超えており、この水準は当面続く見込み。

・米国債の人気低下↑
米10年国債の利回りは先進国の中では相対的に高いので海外から買われやすいが、足下では為替ヘッジコスト(2.2%?)が米長期金利(1.68%)を上回っているので、海外からの米国債の購入は減少しつつある。双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)の拡大も人気低下の要因になる。
*ヘッジコストとは外貨の短期金利と運用国通貨の短期金利の差から生じるコスト

・トランプ大統領の介入↓
低金利好きのトランプ大統領はFRBへの口先介入のみならず、FRBへ緩和派の人間を送り込むなどして金融緩和圧力をかけ続けている。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れも減少している。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率が長期的に低下傾向にある。

投機筋の持ち高
足下では売り越しが減少傾向にあるので、投機筋は長期金利が上昇するとみている。

・チャート→
いったん底打ち。Wボトムを形成しそう。上値は2.3%あたりになりそう。


■WTI原油 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:45ドル~70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦は60ドル、ロシアは45ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。

・トランプ大統領の介入↓
トランプ大統領は低インフレ(低金利)と株高を切望しているので、原油価格の上がりにくい政策をとる。トランプ大統領の介入ラインはおそらく65ドルあたりになる。

・需要↓
原油の需要予測はIMFの世界経済成長率予想などをもとにつくられるが、その予想成長率は好不況の分かれ目である3.0%まで低下している。

WTI原油先物価格は米ISM製造業景況指数と連動しやすいが、同指数は10年ぶりの水準まで落ち込んでいる。

中長期的には景気後退や温暖化対策(再生エネルギーへのシフト)、脱プラスチック運動など需要を抑制する要因もあるが、人口増や世界経済の成長に伴い原油消費量は増加基調になる。IEA(国際エネルギー機関)によると石油需要は2040年まで拡大を続ける見通し。

・供給↑
イランやベネズエラの供給が減り、OPECとロシアが協調減産してるので足下で供給はしまりつつある。OPECは世界景気後退を懸念して少なくとも2020年3月末までは協調減産を続けることを決めている。

長期的には原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより、新規の油田開発が停滞気味なので、将来の供給不安は残る。
*現在ESG(環境、社会、企業統治)の観点を考慮しない企業は評価しないという流れになってきている。地球温暖化につながる化石燃料は環境リスクが高く、2019年3月には世界最大の政府系ファンド・ノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外すという方針を示している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
米国は2019年1月にベネズエラ国営石油会社への制裁を決定した。ベネズエラの産油量は投資不足などもあり著しく低下している。

リビアで内戦が激化している。生産設備の被害や輸送の寸断で一気に生産量が落ちる可能性がある。

米国は5月にイラン産原油を全面禁輸することに決めた。イランは対抗措置として原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡(世界の石油タンカーの2割が通過)を閉鎖すると警告していたが、5月に入りさっそく通過するタンカーなどへの攻撃を始めた。その後もゴタゴタが続いており、9月にはサウジの石油施設が新イラン武装組織フーシから大規模な攻撃を受けた。サウジの供給減少分は備蓄分や他国の増産で補えるようだが、今後しばらくは原油価格にリスクプレミアムが上乗せされそう。*サウジはすでに生産量は回復したと主張しているが、コアな石油処理施設を破壊されているので嘘っぽい。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。地合いは若干リスクオンに傾きつつあるが、中東情勢の緊迫がリスクオフ要因になる。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

投機筋の持ち高
買い越しポジションは横ばい傾向。投機筋は今くらいの水準で落ち着くとみている。

・為替↑
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかるが、ドルはほぼ頭打ちの状態なので、今後は原油価格に徐々に上昇圧力が加わってきそう。ドル安になると新興国の輸入が増えやすくなるのでこれもまた上昇圧力になる。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、ドル安(円高)が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまる。硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかると言われている。

・チャート→
短期では横ばい。中期では三角持ち合いを形成して上がりそう。長期では下降トレンド。


■ドル円 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:100円~110円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、今は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融引き締めから緩和に転じつつあるので、徐々に円高圧力が高まりそう。

ただドル円相場と相関が高い日米長期金利差は、米国の「予防的利下げ」による景気浮揚効果により米長期金利が上昇し、拡大している(円安要因)。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争がいったん落ち着きそうなので、リスクオンに傾きつつある。

*リスクオフになった場合のドル円の基本的な動きついて。まず条件反射的に円が買われる。そこからさらに不透明感が強まればキャリー取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こる。本格的なリスクオフまで発展すると対外資産の引き上げ(投資撤退)と、その思惑による円買いが起こる。
 *キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り高利通貨を買って金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ足下では円以外のユーロやドルも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。
 *日本が持つ対外純資産は世界最大の340兆円になるが、そのうち資産の引き上げが起こりやすい証券投資の割合は3割程度(100兆円)になる。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。
2018年の対外直接投資は15兆円程度と高水準だったが、日本企業の海外M&Aに1年半先行する世界製造業PMI(購買担当者景気指数)は2017年12月にピークアウトしているので、日本企業による海外M&Aもいったんピークアウトしそう。米中貿易戦争による貿易環境の不透明感も対外投資減速の一因になる。
*今年1月~6月の海外直接投資額は13兆6千億円。
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、為替差損回避(ヘッジ)付きでも高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。国内の超低金利は当面続きそうなので、今後も対外証券を積み増していく可能性が高い。
*足下では世界的な金利低下により外債の利回りも下がっているので外債購入が減りつつある。

日本の対外証券投資は年によってばらつきがあるが、平均すると年10兆円程度の買い越しになる。今後は異次元緩和前の比較的高い利回りで購入した国内債権の償還が始まるが、戻ってきたお金は国内債への再投資ではなく、外債に回る可能性が高い。2019年の償還額は47兆円になる。
*今年1月~9月の海外証券投資は18兆円超。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている(円高圧力)。
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。

・経常収支→
まずは貿易収支について
中期的には、輸入額の4分の1(20兆円)を占める原油・天然ガス価格がやや高止まりしているので貿易収支が徐々に悪化していきそう。長期的にも、スマホや医薬品などの輸入が増加傾向で、生産の海外移転などにより輸出の伸びが鈍化傾向なので貿易収支は悪化していきそう。2018年の貿易黒字額は1兆円になる。
*貿易ではドル決済が圧倒的に多いため、実需では年間7兆円くらいのドル不足が発生すると言われている(7兆円くらいの円売り圧力がある)。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは半分(10兆円)程度しか発生しない。

・投機筋の持ち高→(「円 投機的ネットポジション」で検索)
足下では売りと買いがほぼ均衡している。投機筋は今くらいの水準で落ち着くとみている。
*円を買い持ちした場合、スワップポイント(金利差収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションは短命で終わることが多い。

・日米の経済成長力↑
資金は景気の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などの資産価格を押し上げるが、基本的には日本経済よりも米国経済のほうが景気が強いのでドルが買われやすい。米経済にも減速感が漂い始めたが、デジタル革命の牽引役は米国なので、今後も米ドルが買われやすい状況は続きそう。

購買力平価
ドル円の購買力平価は95円程度なので、円の下限は75円、上限は115円程度になる。米国の方が慢性的にインフレ率が高いので、購買力平価は長期的な円高傾向にあるが、米国のインフレ率は年々低下して日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

・米財政赤字の拡大↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、この水準は今後もしばらく続きそう。近い将来、米国債を消化するために大量のドルが発行される可能性が高い。

・米経常赤字の拡大↓
米国では経常赤字が10年ぶりの水準まで悪化しており、貿易赤字を解消するため、または不足する資金を海外から調達するために、プラザ合意のようなドル高是正策をする可能性がある。

・日本の財政赤字の拡大↑
日本の累積財政赤字はGDP比200%を超えており、今後も社会保障費の増大により財政赤字は拡大していく可能性が高いので、円離れがすすみそう。日本も米国同様、日本国債を消化するために大量の円が発行される可能性が高い。

・チャート→
短期では上昇トレンド。中期・長期では下降トレンド。


■日経平均 (保有資産:日経レバETF)
今後1年の予想レンジ:19000~24000円で推移
日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需給↑
日銀が日本株を買いまくっているので日本株は下がりにくい。日銀の買越額は年間6兆円規模になるが、他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(詳細は「長期計画チェック」)、残りの売り玉はすべて日銀が吸収してくれそう。

 <2019年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行、金融政策により3~6兆円の買い越し。現状は3兆8千億円の買い越し。
 事業法人、自社株買いにより3~4兆円の買い越し。現状は3兆5千億円の買い越し。
 海外投資家、世界景気後退懸念により2~4兆円の売り越し。現状は2兆3千億円の売り越し。
 個人投資家、相続に伴う換金売りで1~3兆円の売り越し。現状は2兆6千億円の売り越し。

・EPS(1株利益)→
日経平均株価は基本的にEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まるが、2018年のEPSは-3%、2019年は(予)0%、2020年も(予)0%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気→
日本企業は海外で6割を稼いでいるので、海外景気の影響を大きく受けるが、IMFは2019年の世界経済成長率を3.0%、2020年を3.4%と予想しているので、日本企業の業績もそこそこ堅調に推移しそう。

・失業率↓
失業率が最低水準まで低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率は最低水準(2.4%)にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫される。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
米中貿易戦争激化によりリスク選好度は低下傾向。日経平均のPERは基本的に11~16くらいの間で推移するが、現在のPERは12.97になる。貿易戦争によるリスクオフやEPS下振れ懸念があるので、このくらいの水準が妥当なのかもしれない。

・金余り↑
市場にお金があふれると資産価格は上昇するが、今後も金融緩和は続きそうなので株価は下落しにくそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは8%超で配当利回りは2%超と、日本国債の利回り-0.1%より高いので、株式に資金が流れやすい。

投機筋の持ち高
売り越しは微増。投機筋は今後日本株が少し下がるとみている。

裁定売り残高の方は、買い残高と逆転し、高水準の1兆3000億円まで積み上がっているが、9/6につけたピークの2兆円からは減少傾向にある。投機筋は日本株が下がるとみていたがそれを若干調整している。
*裁定残高について。平時は売り残高よりも買い残高が多いのが普通。裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」の水準になる。現在の裁定買い残は5700億円と売られすぎの水準。

・チャート→
短期では上昇トレンド。中期・長期では横ばい、もしくは上昇トレンド。
需給的には23000円を超えると戻り売りが減り、上がりやすくなる。

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