2024年4月1日月曜日

『投資の教科書』

 日経新聞の元記者が書いた『転換の時代を生き抜く投資の教科書』を読んだ。この本の基本コンセプトは「投資は資産形成だけでなく、教養になる」というもの。新味があり、なかなかおもしろかったので、印象に残ったところを簡単にメモっておく。

●「株式投資を始めると、あらゆるものへの関心が飛躍的に高まり、ニュースが自分ごととして入ってくる。そしてさまざまな出来事がつながっていく。こうした発想の連鎖はビジネスパーソンに必要な教養やセンスにもなる。」
*「 」内は要約

確かに株式投資を始めてから新聞をよく読むようになり、ちゃんと理解できるようになった。以前は日経新聞の「経済教室」なんて誰が読むんだと思っていたが、今では興味を引く見出しがあれば目を通すようになった。これは「金を賭ける」という緊張感がなし得たことだとは思うが、結果的に教養もついたように思う。

それとこれはブログを書いているから言えることになりそうだが、投資ブログを始めてから分析力や創造力もアップしたように思う。ブログで株価に影響を与えそうな情報を集めて、あれこれ考えながらまとめていくと分析力が高まる。また情報を整理していると情報同士がつながって思いがけないアイデアが浮かぶことも多い。

世界経済フォーラム(WEF)が2023年に発表した雇用の未来予測リポートには、今後5年間に重要性が増すスキル1位に創造的思考、2位に分析的思考が挙げられている(2023/5/1WEF)。投資ブログによりこれらスキルをトレーニングできそうだと思った。

●「投資は経営の疑似体験になる。投資(経営)の世界で連戦連勝が続くことはまずない。いろいろなリスクに向き合いながら判断を重ねていくことにより、リスクの取り方、向き合い方のバランス感覚が鍛えられていく。投資はビジネスパーソンのマインドセットを磨く手軽なリスキリングともいえる。」

株式投資では、投資した会社の経営戦略や経営判断を分析して、この先どうなるかを予想し、その結果を見ていくわけだが、確かにこれは経営の疑似体験ともいえる。自分で経営判断をすることはできないが、経営者の経営判断を判断することはできる。そしてリアルな世界でその結果を見ることができる。株式投資をしていると、経営判断力やリスクマネジメント力も鍛えられそうだと思った。

●「株式市場は世界中の英知とマネーが網引きする世界。さまざまなバックグラウンドを持つ投資家が参加し、その誰もが利益を得たいと考えている。何十年も前からある理論が通用するといった悠長な世界でもない。昨日まで通用していた理屈が全く通じないこともある。」

これまで株式投資で楽をしようと必勝パターンを探してきたが、なかなか見つからないのはこういうことかなと思った。株式投資では勤勉さや機敏さ、柔軟さが重要で、怠けながら勝つのは難しそうだと思った。

●「「事実は小説より奇なり」という。投資の世界では予定調和とは無縁の経済ドラマが繰り広げられている。日々の生々しい出来事をどう解釈し、お金を動かすのか。さまざまな要因が複雑に絡み合い、めまぐるしく動き、その帰結が株価や為替レートといった数字として表れる。そこには幾多もの人間ドラマが埋め込まれている。こんな小説は書こうと思っても書けない。」

株式投資には確かにドラマ要素がある。会社を創業して上場までこぎ着けた社長は例外なくキャラが濃い。そしてその周りには優秀な人たちが集まっていることが多い。今はそれらの人たちがSNSなどで情報を発信しているので、見ていていろいろな発見がある。

こういったキャラクターは並の作家には創作できない。だからヘタなドラマより株式投資ドラマのほうがよほど刺激的になるのではないかと思う。自分が投資した会社のドラマが不愉快な結末で終わることが多いのは残念だが、それでもドラマとして見ればなかなかの出来ではないかと思う。

このブログがこんなに長く続いたのは絶えず予想外のドラマが起こり続けていることも一つの要因かもしれない。

本書で参考になったのは、こうした意義的なところだけでなく、PERやPBR、自己資本比率、バランスシートなどの基礎知識的なところも参考になった。これまでこうした指標や財務諸表は知っているつもりだったが、本書を読んで、あまり理解していないことがわかった。本書を読んでから、会社の企業価値を評価する際は、PSRではなくPERを使うようになった。

PCEとCPIの違いや、マネーストックなど、マニアックな用語の解説も参考になった。これらもわかっているようでわかっていなかった。実戦で使えそうな知識が増えた。

あとは人間・後藤達也の考え方や哲学が少しわかったのもよかった。後藤さんのことは日経記者時代から注目していたが、後藤さんが「ウォール街ラウンドアップ(電子版では「NY特急便」)」に書く、長期金利などの仕組みと時事情報を絡めた、キレ味鋭い説得力のある記事はとても参考になった。あれこそまさに「投資の教科書」だった。高速でこのような質の高い記事を書ける人はどのようになっているのかと興味があった。本書でその謎が少し解けた。

個人的に少し残念なのは、後藤さんが日経新聞を辞めてしまったこと。現在、後藤さんはXやYouTube、note、各メディアなどで活躍しているが、そこで発信している情報は主に初心者向けのものになるので正直物足りない。後藤さんの頭脳ポテンシャルが最大限発揮されるのは日経新聞だと今でも思っている。

本書で少し気になったのは、ところどころ太字になっていること。これはnoteでも見られることだが、少し押しつけがましく感じる。重要と思うところは個人個人で違うので、なくてもいいのではないかと思った。

0 件のコメント:

コメントを投稿