2024年4月1日月曜日

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■プラスアルファ・コンサルティング
基本シナリオ:「タレントパレット」事業を軸に2030年に利益2~4倍

第1四半期決算は売上高が予想の下限値を下回ってきた。PAC社は上場してからこれまで3期の決算発表をしているが、過去2回の第1四半期決算では、その直近の第4四半期決算の売上高を1~2億円上回ってきた。それが今回は0.7億円下回っていた。

今回、売上の足を引っ張ったのは2022年に買収した「キミスカ」事業になる。この事業は大学生向けのダイレクトリクルーティング・マッチングサイトを営む事業になるが、この事業の売上高が前年同期比でまったく伸びていない。直近の第4四半期からは急減している。PAC社は「キミスカは売上が後半に偏る傾向がある」とは言っているが、ゼロ成長は印象が悪い。

「キミスカ」事業を運営する子会社のグローアップ社を調べてみると、社長がPAC社の副社長で、副社長がPAC社の執行役員であることがわかった。グローアップ社の創業者は買収された後、早々に辞めていた。

ダイレクトリクルーティング業界についてたいした知見もなく、人脈もない経営陣が、競争の激しい市場でうまくやっていけるのだろうか。たかだか導入社数1500程度の「タレントパレット」との相乗効果で大きく成長できると思ったのだろうか。今回売上が伸びなかったのは単なる季節要因ではなく、経営戦略に問題があった可能性がある。

2/13日経に「2024年の新卒採用の求人倍率は1.71倍だが、大企業に限ると約0.4倍になる。これは何十年も続く傾向」とある。「タレントパレット」のメインターゲットは大企業になる。大企業では1人の求人に対し、100人以上の応募が殺到することも多々あるようなので、ダイレクトリクルーティングの需要はあまりないのかもしれない。

どうして創業者(や経営陣)は辞めたのか。それは自社株を全く持っていなかったことが主因になりそうだが(株式は全て親会社に押さえられていた)、引き留める方法はいくらでもあったはず。そもそも新市場を切り開いてきた優秀な経営陣を残すのが買収の最低条件で、それなしで買収すること自体がおかしい。PAC社は人的資本経営をサポートするシステムを提供しているが、自社では人的資本を重視していないのかもしれない。

この件を見る限り、PAC社の社長は自信過剰で支配欲の強いタイプに見える。PAC社の元社員が書いた口コミには「オーナー社長が「自分の王国を作りたかったんだ」と語り・・」とあるので、社長は”スマートなビジネスパーソン”というよりも、”王様タイプ”なのかもしれない。だとすると、今後のM&Aは期待しにくくなる。
*この元社員の口コミは全体的にネガティブに偏り過ぎているので信頼性は低い。

これまでグローアップ社の買収はリクルートが米Indeedを買収したような協業型だと思っていた。米Indeedが関連企業の米Glassdoorを買収したように、グローアップ社も周辺企業を買収して、自社プラットフォームを強化していくものとばかり思っていた。しかし、実態は全く違っていた。

ミスったかなという感じ。

「キミスカ」事業は今後どうなるか。グローアップ社の買収後、1年間は順調に成長しており、業績が悪化したのは今回が初めてなので、今回だけたまたま業績が悪かったという可能性もある。ただ買収後1年間業績が伸びたのは前経営陣の戦略の影響が大きそうで、今回業績が落ち込んだのは、その影響がなくなったためではないかと思う。

PAC社は2月の決算発表時に、採用コンサル会社の買収を発表している。この会社を買収した目的は「タレントパレット」との相乗効果など、いろいろ触れられているが、真の目的は「キミスカ」事業の立て直しではないかと思う。買収したATTACK社の社長は業界に通じていて、成長志向も強そうなので、期待はできる。しかし一度成長力の落ちた会社を立て直すのは難しいのではないかと思う。

以上から、今期の「キミスカ」事業はゼロ成長を予想する。ゼロ成長の場合、PAC社の今期の予想売上高は期初予想から3億円下振れして135億円になる。


決算でもう一つ問題に感じたのが、マーケティング事業の利益率が落ちていること。第1四半期の売上高は前年同期比11%伸びているが、営業利益は2.8%しか伸びていない。通期の業績予想を見ると、営業利益は前期比で微減になっている。この市場は競争が激しいので、じり貧に陥っているもよう。ソフトウェア市場は参入障壁が低いので、ヒューマンリソース事業もいずれは似たような展開になるかもしれない。

ただ「タレントパレット」のような人事のシステムは基幹システムのようなものなので、一度導入すると乗り換えにくくなる。また「タレントパレット」が外部のリスキリングサービスや福利厚生サービスなどと連携していけば、強固なプラットフォームができるので、参入障壁はマーケティング事業より高くなりそう。

ヒューマンリソース事業が順調に成長していけるのならば、マーケティング事業の利益率はそれほど問題にならないのかもしれない。なぜならマーケティング事業の知見はヒューマンリソース事業にも生かされているから。ヒューマンリソース事業が順調に伸びていく限りは、この点はあまり気にする必要はないのかもしれない。


ただ生成AIの登場により、全事業の利益率が落ちていく可能性も出てきた。

1/18日経産業には、「生成AIを導入したERP(統合基幹業務システム)により、システム開発の流れが根本から変わる」みたいなことが書いてある。記事を要約、抜粋すると次のようになる。

「SaaS型のERPに生成AIが導入され始めた。これまでERPに蓄積したデータを活用するには、データ分析に特化したデータベース(データウェアハウス)を構築し、それらを分析するソフト(ビジネスインテリジェンス・ソフト)が必要だったが、生成AIによりそれらが不要になりつつある」

「SaaS型ERPの導入が主流になると、ERP導入プロジェクトで工数がかかるのはカスタマイズやアドオン開発といった導入時ではなく、導入後になる。ERPが新たに提供する生成AIの機能をどう使うのか、定期的に発生するバージョンアップの作業支援など、ERPの導入後に注力するビジネスモデルに変わらざるを得ないのではないだろうか」

もしこのように生成AI・ERPがソフトウェアの中心になるとしたら、PAC社のようなITベンダーの役割は従属的にならざるを得えない。加えて、生成AI・ERPを提供している独SAPなどもタレントマネジメントシステムを提供しているので、こういうところにシェアを大きく奪われる可能性もある。

PAC社がオービックのようなERP会社に買収してもらうという手もあるかもしれないが、そうなると「王国」がなくなってしまう可能性があるので、そうなる確率は低い。

ただ、生成AI・ERPに合わせて外部のITベンダーが頻繁にカスタマイズをしていくのは困難であり、生成AI・ERPと既存のシステムは共存も可能なので、この点はそれほど心配しなくてもよいのかもしれない。


ヤフー掲示板のPAC社スレッドに「うちの会社では「見える化エンジン」を生成AIで置き換えられないか検討が進んでいる」とあった。確かに生成AIには情報を分析する機能もあるので、「見える化エンジン」のようにマーケティングでも使えそう。しかし「見える化エンジン」はマーケティングのノウハウが結晶化されたソフトウェアなので、そのすべてを生成AIに置き換えるのは難しそうでもある。加えて、PAC社は「見える化エンジン」に生成AIを導入しはじめているので、競争力は保てるのではないかと思う。

3/25日経産業には「企業によるシステム内製の動きが活発化しているが、頓挫してしまうケースが多い」とある。

とはいえ、生成AIはソフトウェアの開発を容易にするので、今後システム内製の難易度が下がっていくのは間違いない。いずれは生成AIだけで「見える化エンジン」のようなシステムを作成(コピー)し、それを自社で簡単にカスタマイズできるようになるかもしれない。そうなるとPAC社のストックビジネスは崩壊する。


2/3日経に「米アルファベットのAI研究を主導する英ディープマインドの共同創設者スレイマン氏は「5~10年以内に経営するAIが誕生する」と予想している」みたいなことが書いてあった。今後、人の判断が完全に不要になる時代がくるとは思わないが、減るのは間違いない。PAC社のシステムは人の判断の精度を高めることを目的に作られているので、人が判断する頻度が減ると、システムの存在価値が薄れる可能性がある。

*余談だが、英ディープマインドのスレイマン氏は3月に米マイクロソフトに引き抜かれ、新組織「マイクロソフトAI」のCEOに就任している(3/20ロイター)。「経営するAI」はマイクロソフトから生まれるのかもしれない。


現時点で、この先PAC社の利益率が落ちていくかどうかははっきりしないが、1つ確実に言えることは、今後AIの進化により事業環境が激変していくということ。ここで生き残るには、AIをシステムに積極的に取り入れて、高速に進化していくしかなさそう。

「IT業界は技術の陳腐化が激しい」とは聞いていたが、今回のケースでそれがよくわかった。この業界の会社に投資するのはリスクが高いとわかった。

PAC社は手堅い投資先と思って集中投資をしていたが、そうではなさそうなことがわかった。今回のケースから、会社の問題は短期間の調査ですべてわかることはない、未来のことは予見しきれない、投資はこのような不確実な状況で行わなければならないので投資先は分散させないといけない、という常識的な教訓を得た。


決算ではポジティブな要素もあった。それは決算説明資料に「ヨリソル」事業の今期の予想数値が登場したこと。「ヨリソル」は”学生版「タレントパレット」”になるが、それが今期から本格始動しそうな雰囲気になってきた。資料によると、今期予想は契約50件、売上1億円、営業損失1億円になる。今期業績へのインパクトは小さそうだが、SBIレポートによると「”校務 DX”と呼ばれる公共系特需の時期と(「ヨリソル」の)展開時期が重なる」とあるので、今後の進展に期待したい。


3/4のSBIレポートに「タレントパレットの価格改定が 24/4/1 より順次行われる。基本月額費用部分で 10~14%程の値上げとなる」とあった。これにより利益率の上昇は期待できるが、タイミング的にはどうかと思った。SBIは「今回の値上げによるマイナスインパクトは皆無若しくはごく軽微なものに留まると予想」とは言っているが、第1四半期の「タレントパレット」導入件数は93件で、前年同四半期の113件から20件減っている。対して競合の「カオナビ」は導入件数を151件から162件と11件増やしている。大企業向けに限ると18件から23件に5件増えている。

「カオナビ」は低価格に強みがある。現在のような状況で「タレントパレット」を値上げをすると、競争力がさらに落ちる可能性がある。PAC社は今期の導入件数を390と予想しているが、この調子でいくとそこから下振れして360件くらいになりそう。「タレントパレット」事業でも業績が下振れる可能性が出てきた。

PAC社は2022年に新規事業の営業支援・分析系SaaS「セールス・スクエア」を立ち上げている。もし今期「タレントパレット」の導入件数が下振れしたら、このソフトウェアがうまく機能していなかったことがわかる。それを確認する意味でも、今期の導入件数には注目していきたい。


2/25日経に「SaaS型CRM(顧客管理)最大手のセールスフォースがAIに力を入れている
」とあった。セールスフォースのCRMのシェアは断トツトップで、資金力、開発力、データ量などで他を圧倒しているので、おそらく今後もさらに差を広げていく可能性が高い。3/25日経産業には、セールスフォースのCRMに生成AI導入をどのように導入したのかが書かれていたが、PAC社の部分的な導入と比べ、より包括的なものだった。こうなってくるとPAC社のCRM「カスタマーリングス」のじり貧は避けられなさそうだと思った。


3/17日経に「社員の健康をデータで把握・管理し、生産性向上につなげる」みたいな記事が載っていた。そこではソフトバンクやKDDI、日清HDなどの事例が紹介されていたが、それら企業を調べてみると、ほとんどの企業が「タレントパレット」を導入していることがわかった。「タレントパレット」の新機能開発・導入は順調に進んでいることがわかった。ただ戸田建設が独SAPの「サクセスファクターズ」を導入しているのは少し気になった。

3/22日経に「厚生労働省は2024年度に、社員の健康増進を図る中小企業への補助金を新設する」とあった。中小企業は「タレントパレット」のメインターゲットではないが、今後、社員の健康増進の機運が高まっていきそう。「タレントパレット」の健康データ管理・分析機能の引き合いが強まるかもしれない。

3/20日経に(「タレントパレット」を導入している)日本特殊陶業が「全社員のスキルを可視化している」との記事が載っていた。日本特殊陶業はEVシフトにより事業転換を迫られており社員をパワーアップして新事業を立ち上げる必要があるという。そこで「タレントパレット」の「スキルマップ」などを活用して、社員のスキルを見える化し、学ぶ意欲や新事業への攻めの志を養おうとしている。このような導入事例を見ると「タレントパレット」の成長余地は大きそうだと思った。


1/13ヴェリタスに「企業業績や株価と相関が高いのは、設備投資や研究開発より人的投資」みたいなことが書いてあった。1/18日経には「日本の無形資産投資は90年代以降停滞しており、GDPに対する無形資産投資の比率でみると米国に大きく遅れを取っている。中でも、「人への投資」である人的資本投資がこの10年低迷している」「日本企業のイノベーション実現率を上げるためには人的資本投資を十分にする必要がある」みたいなことが書いてある。

23年には有価証券報告書で「人的資本」に関する取り組みの開示が始まっている。米国では有価証券報告書に「人件費のうち企業の成長につながる投資はどの部分かを明示させる」方向に進んでいるようなので、いずれは日本も同じようになりそう(2/3ヴェリタス)。この流れでいくと、今後日本では人的資本への投資が活発化していきそう。


2023年11月に「タレントパレット」の競合のHRBrainがスウェーデン拠点の投資ファンド、EQTに買収された。HRBrainはEQT支援のもと、顧客を大企業に広げたり、新たなサービスを開発したりしていくという(ブルームバーグ11/27)。西欧系の投資ファンドはデータ活用の知見が豊富なので、いずれHRBrainは手強い競合になる可能性がある。


PAC社は3月に“今後30年の人事の未来を考えるシンクタンク”「HR未来予測プロジェクト」を発足した(IR)。競争優位性を保つにはこのような専門性・先見性は絶対に必要なので、このシンクタンクは長期的には重要な存在になりそう。順調に知見を蓄積していければ、今後激変するであろう市場環境の中でも生き残れるのかもしれない。


<今期の売上高予想>
「キミスカ」事業がゼロ成長、「タレントパレット」事業がやや下振れ、それ以外は期初予想通りと仮定すると
第2四半期の売上高予想は32.4億円(累計63.0億円)
第3四半期の売上高予想は34.4億円(累計97.4億円)
第4四半期の売上高予想は36.6億円(累計134.0億円) 通期の成長率20%
通期の純利益の成長率25%
になる。


<妥当な時価総額はどのくらいか>
これまで時価総額を見積もるのにPSR(株価売上高倍率)を主に使ってきたが、これからはPER(株価純利益倍率)をベースに考えていく。
*PSRは売上高をベースにした指標で、PERは純利益をベースにした指標になる。SaaS企業を評価する場合、今後利益率が上昇していくことを前提に売上高ベースで企業価値を評価することが多いが、SaaS企業は結局利益が出ないというケースも少なからずあるので、今後は純利益に焦点を絞って分析していく。純利益は株主のものであるので、その意味でもこちらに着目した方が合理的ではないかと思う。ただ純利益は特別損益などにより大きく変動することもあるので、PSRも規模感を測る目安として使っていく。

PERをベースにした場合、時価総額を算出する式は
純利益 × PERになる。

PAC社の今期の予想純利益は33億円になる。
PERはどのくらいか。まず業界平均のPERは約30倍になる。そこに今後3年の年平均売上高成長率20%、営業利益率30%を加味すると、PERは35~45倍くらいになる。さらにそこに「キミスカ」事業や「タレントパレット」事業の下振れ懸念、生成AIによる不透明感を加味すると、PERは35~40倍くらいになる。

以上から、純利益33億円 × 予想PER35~40倍で、推定時価総額は1155~1320億円になる。このときのPSRは8.5~9.7倍になる。なお、国内SaaS企業の平均PSRは5~10倍になる。


今後3年の予想売上高成長率は年15~25%程度、予想利益成長率は20~30%。現在の妥当だと思う時価総額は1155~1320億円(株価2700~3150円、PER35~40倍、PSR8.5~9.7倍)。2030年の予想売上高は現在の2~2.5倍くらい、予想純利益は現在の2~4倍くらい。



■イントラスト
基本シナリオ:家賃債務保証と医療費用保証で2028年に売上高150億円、営業利益30億円

第3四半期決算もほぼ計画通り。特に問題なし。

医療費用保証「スマホス」は公立大系の病院や日本赤十字社系の病院に導入され始めた。この調子でいってくれればと思う。

2024年は物価高や人手不足、過剰債務などの問題で企業倒産が増えそうだが、激増するという感じでもなさそう。1/15日経

2/21日経に単身高齢者向けの家賃債務保証に関する記事が載っていた。記事によると、単身高齢者は今後も右肩上がりで増えていき、2030年には800万世帯に迫るという。一方、持ち家比率は低下していき、賃貸住宅ニーズが高まると予想されている。政府はここでの家賃保証を手がける業者を認定・バックアップする制度を創設するという。

この領域はイントラストがターゲットとしている領域とは少し異なるが、成長市場なので商売上手なイントラストが参入したらおもしろくなりそう。少し期待したい。

2/24日経2/24日経に、養育費の不払い問題に関する記事が載っていた。現在、多くの自治体が離婚の「合意文書」を作成するための補助金を支給し始めているようで、この合意文書があれば、養育費を徴収しやすくなるという。イントラストの養育費保証事業はまだ軌道に乗っていないが、養育費を回収しやすい下地ができれば、事業が軌道に乗る可能性がある。

今後3年の予想売上高成長率は年10~20%程度。現在の妥当だと思う時価総額は230億円(株価1000円、PER18倍、PSR2.7倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2.5倍くらい。


■今後の計画
しばらく静観する。

米国が景気後退に陥って5~10ヶ月くらいたったころに株式などを買っていく。できたらドル建て資産を買っていく。米VIXが40超、日経平均の騰落レシオが65以下になった場合も買っていく。景気後退に陥らなさそうな場合は、その時また考える。

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