2025年10月1日水曜日

7~9月の売買

 ■7月

・米アルファベット 買い増し

今期の設備投資額が12兆円超になり、AI時代に大きく伸びそうだと思ったから。
アルファベットは2022年頃から設備投資を拡大しており、まだ投資余力はありそうなので(7/19日経)、今後も力強く成長していけそうだと思った。

現在の成長ドライバーは自社サービスへのAI実装やAIインフラ・AI技術の提供になるが、2027~2028年頃にはAGI(汎用人工知能)を達成し、創薬、エネルギー、素材開発、ロボット工学など幅広い分野でブレークスルーを連発するのではないかと思う。そうなれば成長速度は一段と加速する。

競合にはオープンAIやアンソロピックなどがいるが、データ量・資金・インフラ面ではアルファベットに優位性がある。組織の柔軟性ではやや劣る印象があるものの、総合的に見て、最終的にはトップに立てるのではないかと思う。

今回の買い増しは『NEXUS 情報の人類史 下』(ユヴァル・ノア・ハラリ)の影響もある。本書には次のような記述がある。

「グーグルの検索エンジンがほんの小さな第一歩を踏み出し、アマゾンがささやかなオンライン書店で、マーク・ザッカーバーグが高校生だった2000年には、データの海を中央で処理するのに必要なAIは、影も形もなかった。だが、まもなく登場するに違いないと思っている人もいた。

「ワイアード」誌の創刊者で編集者のケヴィン・ケリーは、2000年にグーグルでの小さなパーティに出席し、同社の共同創業者のラリー・ペイジと言葉を交わしたときのことを、次のように回想している。「ラリー、私にはまだわからないんです。検索会社は、こんなにたくさんあるでしょう。ウェブ検索を、無料で? それでやっていけるんですか?」と彼は訊いた。するとペイジは、グーグルは検索に重きを置いているわけではまったくないと説明した。「私たちは、本当はAIを作っているんです」と彼は言った。大量のデータを持っていると、AIを開発するのが簡単になる。そして、AIは大量のデータを大きな力に変えられる。」

これを読んで、GoogleのAI研究は他とは厚みが違いそうだと感じた。

一方で同書には、次のような記述もある。

「情報と引き換えに情報を手に入れる情報取引はいたるところで行われている。毎日何十億という人がビッグテックと取引を行うが、金銭はほとんど動いていない。私たちはビッグテックから情報を手に入れ、彼らに情報を提供する。この情報取引が増えるにつれ、情報経済は貨幣経済を脇に押しやりながら成長し、ついには金銭という概念そのものが疑わしいものになる。金銭では無料でも情報の観点からは価値のあるものが増えているので、いずれはお金がなくても、莫大な情報を持っている個人や企業が豊かな存在となりえる」

この見方が正しければ、アルファベットの利益は必ずしも増えず、株価は上がりにくくなるかもしれない。しかし、長期的には勝者であり続ける可能性が高く、その頃には価値観や常識そのものが変化していそうなので、とりあえず現時点では「AI勝者」に賭けておくのが妥当ではないかと思った。

・サイバーエージェント 新規買い

サイバーエージェントは、日本を代表する「AI実装企業」というイメージがあり(2/19日経など)、AI活用によって今後収益率が高まっていきそうだと思った。

エンタメやゲームに強く、余暇が増えるAI時代には活躍できそうだと思った。

・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAの積み立て買い

■8月

・サイバーエージェント 買い増し

絶対失敗するだろうと思っていたAbemaTVが成長トレンドに乗り、黒字転換する見通しとなったため(8/4日経)。改めて経営者はただ者じゃないと思った。

・NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックスETF 新規買い

このETFは日経平均株価が下がると利益が出る仕組み。

・8月12日時点で日経平均の騰落レシオは149、PERは17.5倍と高水準にあり、翌13日にはさらに株価が上昇し、過熱感が強まっていた。
・今期は減益になる見通し(8/13日経
・機関投資家の現金比率は最低水準(8/12日経

→これらから天井圏と判断した。

一方で、AIブームや自社株買い、米利下げ期待、踏み上げ(8/8日経)などの上昇要因もあったが、これらは概ね織り込まれていると判断した。

翌14日に判明した13日の騰落レシオは155、PERは17.6倍、さらに15日に判明した「8月8日現在の信用評価損益率は-5.41%」と、ほぼ天井の水準だった。

・NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックスETF 全売却 損益-3%

8/14日経に、「2012年末~2013年初は騰落レシオが「買われすぎ」の状態が約2ヶ月続いた」と人を不安にさせるような情報があり、他にも、日米企業の投資増情報や(8/14日経7/24日経)、来期の増益予想(8/16日経)といったプラス材料もあり、18日にはあっさりと新高値を突破したので売ることにした。

その後、8/20日経に「信用取引の売り残が1兆円を超え、6年ぶりの高水準に達した。信用売りの膨張は将来の買い戻し需要につながる。過去にも信用売り残が1兆円を超えたタイミングでピークを迎え、株高に弾みをつけた。(中略)このような展開になると、売り手が諦めて買い戻しに走るまで株高が続く」とあり、需給的にも売っておいて正解だったと思った。

なお、8/15「マネーは語る」には、「日本株は米国株とドル/円相場に連動し、外国人投資家の動きが大半を左右する。米株が堅調で円安が緩やかなら日本株は支えられる」との分析があり、言われてみれば確かにその通りで、今後はこちらを中心に見たほうがよさそうだと思った。

現在、日経平均株価は最高値圏で推移している。

・プラスアルファ・コンサルティング  全売却  損益:旧NISA-8%、新NISA+26%

3Q決算を見て。マーケティング・ソリューション事業の顧客数は前四半期比-43、HRソリューション事業の顧客数は+36(前年同期+102)と低調であるにもかかわらず、決算後に株価が大きく上昇していたので売ることにした。

株価が上昇したのは、利益の上方修正(*売上は下方修正)や配当増額、ARPUの増加、信用買い残の激減による需給改善などが考えられるが、これらはいずれも短期的な効果に留まると思った。


・イントラスト 4分の1売却 損益+52%
株価が節目の1000円を達成し、今後は成長が鈍化しそうだと思ったから。
とはいえ、優良成長企業なので、残りはしばらく放置する予定。


・米ベライゾン 新規買い

8/24バロンズに影響されて。

・5G投資がピークアウト
・光ファイバー・ブロードバンド企業を約3兆円で買収
・スマホ通信サービスと光ファイバー・ブロードバンドサービスをセット販売することで解約率が低下し、ARPUが上昇
・PER 9.67倍、配当利回り 6.12%

→底堅く、成長しそうな雰囲気があった。

問題点は買収シナジーが出るのは来年以降になることと、米国への移民流入が減少していて契約数の伸びが鈍化しそうなこと、あたり。


・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAの積み立て買い
・米アルファベット ドルコスト平均法で買い増し


■9月

・インフォマート 新規買い

8/19日経「企業間の商取引を電子化する自社サービス「BtoBプラットフォーム請求書」の利用が120万社を超えた。同社によると国内の全企業の3分の1に相当するという。東証プライム上場企業では利用率が99%に達した」がきっかけ。

少し調べてみると、万年赤字だった請求書事業(ES事業)が直近四半期で黒字転換しており、投資もきっちりしているので、伸びていきそうだと思った。

株価は7月31日の決算後に大きく調整しており、そろそろ底を打ちそうだと思った。

・iシェアーズ AI グローバル・イノベーション アクティブ ETF 新規買い

9/10日経「ブラックロックがAI関連銘柄に投資するアクティブ型ETFを東証に上場。投資コンセプトは「AIの利益を総取りする各分野の2〜3社を見極めて集中投資する」「AI企業を3層に分けて投資:①インフラ(半導体・電力・クラウド)、②AIシステムの中核(LLM・データ)、③アプリ・サービス」」がきっかけ。

AI関連投資の最大の問題点は、AI企業の多くが過大評価されており、その大半が生き残れないこと。上場しているAI関連企業は約1,000社あり、素人がその中から“勝ち馬”を見極めるのは困難なので、プロに任せようと思った。

9/11SBIには、運用者の「AI革命」の流れの捉え方や、「進歩が早く入れ替わりの激しい業界の中で、変化に速やかに対応できるよう銘柄の入れ替えもダイナミックに行う」という投資スタンスが紹介されており、妥当だと感じた。


その他の問題点は信託報酬が年0.847%とやや高く、2026年6月30日以降は年0.99%に引き上げ予定であること。米市場に上場している同タイプETF「ISHARES A.I. AND TECH ACTIVE CL1」は0.68%なのでこちらの方がよさそうだと思ったが、SBI証券の外国株では取り扱っていなかった(リクエスト済み)。

組み入れ銘柄に”危険”な会社があったのもやや問題に感じた。その一社がソフトバンクグループ。孫社長はAI開発について非常に楽観的で、「(AI事業の総収益)600兆円ほどを数社で分け合う、その1社に我々もなりたい」(9/25日経)と金銭的利益を重視する姿勢が気になる。AGIやASIなど人知を超えた知能の出現は人類に深刻なリスクをもたらす可能性があるため、その負の側面を軽視している会社は応援しにくいところがある。

・パーク24 全売却 損益+5%

3Q決算でカーシェア事業の低調さが明確になったため。利用率が低下している中で投資を拡大しているので、収益率が下がっていきそうだと思った。

さらに問題だと感じたのは、自家用車による自動運転タクシーの実現性が見えてきたこと。これまでは自動運転の影響は限定的と考えていたが、テスラが8月に日本の一般道で自動運転テスト走行を開始したことで(8/20日経)、将来的にカーシェア事業そのものが破壊される可能性があると思った。

・インフォマート 全売却 損益-4%

9/20日経で社長交代の報を見たのがきっかけ。ここ数年は社長の計画通りに業績が推移していた印象があったため違和感を覚えた。また副社長の昇格は理解できるものの、現社長が取締役に降格する点は不可解に感じられた。もしかすると、現社長が掲げた来期目標「営業利益50億円」(今期の倍以上)の達成が難しくなり、その責任を取る形での人事だったのかもしれない。

9/19IRでは「競争の激化や顧客ニーズの高度化等により、企業向けSaaS業界の環境が急速に変化。さらなる成長には柔軟な経営体制が必要」と説明されていた。「競争激化」や「SaaS」といったリスクワードが並び、「環境が急速に変化」とこちらの理解が及んでいないところがあったため、不安を感じた。

さらに、株価は底だと思っていた水準を出来高を伴って下抜けた。週足のローソク足を見ると、決算後にすべて陰線となっており、大口の売りが示唆されていた。イヤな感じがしたので、すべて売ることにした。

・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAの積み立て買い
・米アルファベット ドルコスト平均法で買い増し

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■イントラスト
基本シナリオ:「賃貸保証会社」から「多角的な保証プラットフォーマー」へ

1Q決算は予想をやや上回り、順調な滑り出し。

決算説明会で社長は、医療費用保証「スマホス」でシェア3割を獲得できれば売上約60億円、介護費用保証でシェア3割なら売上90〜100億円規模になると言っていた。時間はかかりそうだが、成長余地はまだまだありそうなことがわかった。

また、M&A案件は数多く来ているが、会計方針やコンプライアンスに問題のある企業が多く、実行に至っていないとも言っていた。社長には目利き力がありそうなので、質の高いM&Aをしていってくれそうだと感じた。

「プライム市場には絶対に行く」とも言っていた。プライムの上場基準を満たすには流通時価総額を上げる必要があるので、株価はもう少し上がるかもしれない。ただこれで親会社によるTOBはなくなった感じ。

9月29日に上場来高値(株式分割調整後)を更新した。この調子でさらに更新してくれればと思う。

あとはAIの導入がどれくらい進んでいるかが気になるところ。基幹システムには多少組み入れられているとは思うが、社長の発言や決算資料に「AI」という言葉がまったく出てこないので実際のところはよくわからない。バックオフィス業務にAIをうまく導入できれば生産性は確実に上がるので、今後は地味なシステム改善にも期待したい。

今後3年の業績予想は、売上・利益ともに年+10~15%。現在の適正時価総額は230億円(株価1000円、PER15倍)くらいになりそう。


■米アルファベット
基本シナリオ:中期「AIインフラと知能でトップに」→ 長期「大発明家に」

2Q決算で、今期の設備投資計画を750億ドルから850億ドル(約12兆5千億円)に引き上げた(7/24日経)。背景には、GoogleクラウドのAIインフラ需要が旺盛で供給が追いつかない状況がある(7/24ロイター7/24investing7/24SBI)。Googleクラウドは競合にはない強みがあるので(7/14インフォ)、今後も力強い成長が見込まれる。

GoogleはメタやオープンAIと大規模なクラウドコンピューティング契約を締結した。AI競合企業からも選ばれる点は、Googleクラウドの競争力の高さを示している。AIスタートアップの約9割がGoogleクラウドを利用しており、この勢いでアマゾンやマイクロソフトの牙城を崩してくれればと思う。6/27 インフォ8/21インフォ8/22日経

NTTデータがGoogleと提携して「AIエージェント」を共同開発することになった。NTTデータはGeminiを活用し、営業やマーケティング、電話対応など、50種類以上のAIエージェントを世界で展開する予定という(8/12日経)。日本のトップIT企業に採用された点からも、Geminiのアプリ開発能力の高さがうかがえる。

7月にGoogleは自動化コーディングに強みを持つ米ウインドサーフのCEOらを約3500億円で引き抜いた(7/13日経)。Geminiはコーディングに弱みがあり、またAGI(汎用人工知能)開発には高度な自動コーディングが不可欠なので、戦略的に重要な”買収”に見える。

GoogleとオープンAIのAIが数学オリンピックで金メダルレベルの実力に到達した(7/22ZDNET)。2021年の時点の専門家の予想では、そのレベルに達するにはあと22年かかるとのことだったので(7/29日経)、AIの進化がいかに速いかがわかる。知能の高度化はAI開発そのものを加速させる。「知能爆発」のフェーズに入りつつあるように見える。

7/20バロンズに「Netflixの脅威はYouTube」との記事があり、米国では視聴シェアでYouTubeがNetflixを上回り、成長速度でも凌駕しているという。2025年5月時点では、米国のテレビ視聴者がNetflixよりも67%長い時間をYouTubeに費やしているとの調査結果もある(6/23インフォ)。GoogleはYouTubeの動画作成にAIを実装し始めており(9/18日経)、競争力は今後一段と高まっていきそう。

同バロンズに「AIバブルを助長するトランプ政策」という記事もあった。トランプ政権はAI開発や技術輸出を後押しする「AIアクション・プラン」を発表しており、一方で関税・減税・利下げ圧力などによるドル安で、売上の半分以上を海外に依存する米ハイテク企業の利益は押し上げられている。Googleの事業環境は当面よさそう。7/24日経7/25日経8/2日経8/2日経

米シンクタンク・エポックAIは、「AIが人間のタスクの3割を担えば、経済成長率は年20%を超える」と予想している(7/29日経)。もしこれが現実となれば、経済の果実はAI関連資本の所有者に集中する。その筆頭はアルファベットになりそう。

ChatGPTなどのAI検索によって、Googleの広告収入が落ち込むという懸念があったが(8/9日経)、Googleのバイスプレジデントは「検索結果を要約してページ上部に表示する「AIオーバービュー」は過去10年で最も成功した機能の一つ。検索回数は全体で増加しており、既に検索連動型広告と同程度の収益化が見込める。この知見を「AIモード」での広告にも応用していく」と言っているので、影響はそれほど大きくならないのかもしれない。8/12日経8/6日経8/9日経

一方で、外部調査では「AIモードではゼロクリックの割合が9割超」との調査結果もあり(9/9日経)、実際に使用してみても参照元のサイトをクリックすることはほとんどないので、Google幹部の見解には少し疑問が残る。

8/21WSJに「グーグル、スマホAIでアップル圧倒 アップルは競争相手のアンドロイド陣営から周回遅れになりつつある」とあった。このまま進めば、iPhoneが陳腐化し、Androidスマホが市場を席巻する可能性がある。ただし現時点では、Googleのスマホ「Pixel」に搭載されたAI機能の評価は限定的で、ChatGPTなどの単体アプリでこと足りるケースが多いため、優位性はまだそれほど高くはない。

とはいえ、iPhoneの革新性不足や割高感などの影響か、iPhoneの出荷シェアは徐々に低下している。日本市場では常に過半を占めていた出荷シェアが4〜6月期に50%を割り込んでいる。今後Androidがじわじわと勢力を拡大していくのかもしれない。9/11日経

アップルはSiri刷新でGeminiを活用するとの報道もある(8/23ブルームバーグ)。買収下手なアップルにとって、AIを自社で開発していくのは難しく(8/26インフォ)、将来AIがスマホのコアバリューとなった場合、アップルはグーグルに吸収される可能性がある。

トヨタは4月、自動運転分野でアルファベット傘下のウェイモと提携することで基本合意した(8/28日経)。アルファベットはこの巨大市場でも覇権を握りそう。

ロボット分野のAIチップ開発も順調に進んでいるもよう(3/13日経9/26インフォ9/26日経) 。GoogleのAIは画像認識に強みがあるので、この分野でもリードできそう。

米司法省によるGoogle解体懸念があったが、9月の判決でクロームの売却可能性はほぼ消えた。理由は、生成AI検索の登場により「検索市場=Google独占」という図式が崩れたため(9/2インフォ9/2インフォ)。これは前回のブログで指摘していたことだが、想定より早く裁判に織り込まれたので驚いた。

今後は広告事業を巡る裁判が続くが、今の流れでいけば「広告市場=Google独占」という図式も崩れ、似たような結果になりそう(9/5インフォ9/6日経9/14インフォ9/26インフォ)。ただし、広告事業は検索事業とは事情がやや異なるようなので、事業分割(Ad Manager売却)の可能性もある程度は考慮しておいたほうがよさそう。9/23日経9/23インフォ

オーストラリア政府は、16歳未満のSNS利用を禁止する法律で「YouTube」を対象に含めると決定した。子どものSNS利用を制限する動きは欧州を中心に世界各国へ広がっており、規制が相次げば、成長がやや鈍化する可能性がある。7/30日経9/4日経9/22日経

中国のAI技術が米国に追いつきつつある。スタンフォード大のレポートによると、米中のAIモデルの性能差は24年1月の9.26%から25年2月に1.7%まで縮小している。研究者数で世界の半数を占める中国が力を伸ばすのは必然ともいえる。さらに中国は国家主導でAI研究を推進し、オープンソース型での開発を進めているため、今後は開発速度が一段と加速する可能性が高い。7/27日経

一方で、AIの計算基盤となる先端半導体では依然として米国に後れを取っている(8/14日経)。加えて、9月にはスパイウェア疑惑のあるNVIDIA製品の購入を禁止したことから(8/13日経9/18日経)、米国に容易に追いつき、追い越すのは難しい状況となっている。

さらに、オープンソース型開発にはリスクもある。兵器開発や詐欺などに悪用されれば、その破壊力は従来のツールの比ではなく、規制導入によって開発が滞る可能性もある。

前回のブログで触れた「レースエンディングシナリオ」は順調に進んでいるもよう。AI競争は「勝者総取り」の色彩が強く、米中とも「2位は致命的敗北」と認識しているため、競争は止まりそうにない。ただAIのリスクも共有され始めているようなので、一直線で破滅に向かうこともなさそう。穏やかな未来になってくれればと願う。

AIブームを原動力とした株式相場の上昇は続いている。9/5日経には「この強気相場はさらなる高みを目指す可能性がある」とある。バブル生成の過程では、経営者や投資家の「アニマルスピリット」が刺激され、技術革新と投資の活性化を促しやすいという。

一方で、AI導入の動きが減速しているとの調査もある。その主な理由は費用対効果への懐疑やカスタマイズの難しさなど(9/9インフォ)。期待の「AIエージェント」は、今後ハイプサイクル上の「幻滅期」に入るため、本格普及は2~3年先になりそう。AI相場はいったん調整局面に入る可能性がある。9/15日経9/10ガートナー

9/23インフォ9/25日経9/25日経には、60兆円超のAI関連投資が需要に見合わず、持続困難との指摘もある。「ITバブル」の一因となった「ベンダーファイナンス」も活発化している(9/29日経9/29日経9/29バロンズ)。近い将来、AIバブルはいったん崩壊するというシナリオも想定しておいたほうがよいかもしれない。

今後3年の業績予想は、売上・利益ともに年+10~20%。現在の適正PERは25~35倍(株価262~368ドル)くらいになりそう。


■サイバーエージェント
基本シナリオ:AI・ロボット時代の余暇産業の勝者に

3Q決算で大幅な上方修正が入った。ゲーム事業の伸びが予想以上で、メディア&IP事業も軌道に乗り始めている。両事業とも海外展開による業績拡大も期待できる。8/19日経

9/3日経によると、2023年の日本発コンテンツの海外売上は5.8兆円となり、自動車に次ぐ2位の規模にまで成長している。政府もこの領域に注力し、2033年までに海外売上を20兆円へ拡大する目標を掲げている。サイバーエージェントは「コンテンツのAI利用促進」といった政府方針にも合致しているので、この成長の波に乗れる可能性は高い。

決算ではネガティブサプライズもあった。それは広告事業が減収減益だったこと。AI実装による収益率の改善を期待していたが、現時点では成果が出ていない。下振れの要因は、大型顧客の離脱と人件費など一時的なコスト増になる。今後はアベマTVの広告枠拡大が見込めるため、一過性の可能性もあるが、そうならない可能性もある。その要因の一つがGoogleの広告配信エージェント「P-MAX」の台頭になる。

「P-MAX」は、YouTubeやChrome、Gmail、Googleマップなど複数のGoogleサービスに広告を一括配信できるシステムで、コンバージョン数・率を自動で最大化する。さらに、キーワード入札や予算最適化、ターゲット設定、広告クリエイティブ生成までAIが自動で実行する。7/21日経MJ

マーケティング会社シンクロの社長は「私が見ている100億円以上の広告費を費やしている企業は、その費やす先が次々に『P-MAX』へと置き換わっています。P-MAXはほぼすべての広告運用業務が自動化されています。従来は広告管理画面でキャンペーンを正しく設計できるスキルが重宝されていましたが、その業務はどんどんなくなっています」と語っている。8/17日経

もう一つの要因は、AIのマーケティング活用は利益が出にくい点にある。MITのレポート「State of AI in Business 2025 Report」によれば、「生成AIへの投資からリターンを得られていない」と答えた組織は95%にのぼり、特に営業・マーケティング分野はROI(投資収益率)が低い。一方で、財務や調達、BPO削減といったバックオフィス領域の方が高いROIを実現しているという。

とはいえ、サイバーエージェントは広告事業にAIをうまく活用し始めているようで(9/20日経)、9/26日経クロストレンドには、「異業種の広告参入で選ばれるサイバーエージェント」とある。なんとかなるのかもしれない。

以上をまとめると、サイバーエージェントは今後、メディア & IP事業とゲーム事業を軸に成長していけそう。広告事業は苦戦するかもしれないが、そこで培ったマーケティング力や広告運用力は他事業でも十分に活かせるため、会社全体で見れば大きな問題にはならなさそう。人間の余暇時間が増えるAI・ロボット時代には、大きく飛躍できるのではないかと思う。


■SBIホールディングス
基本シナリオ:「どんどん巨大化する」「ネットは勝者総取りや」By 北尾CEO(参照

1Q決算は好調な感じ。自己資本比率が低く、決算書をサラッと読んだときに流動比率がよくわからなかったところが少し気になるが、今のところ経営が傾きそうな雰囲気はないので、特に心配する必要はなさそう。

「証券口座乗っ取り事件」では顧客被害の半分を補償することになったが、「影響は軽微」とのこと(7/29日経)。今後はパスキーの導入により、「乗っ取り」はほぼなくなりそうなので特に問題はなさそう。9/1日経9/23日経

8月には東北銀行と資本業務提携を締結し、提携地銀は10行に拡大した。北尾社長は「第4のメガバンク」を目指し、SBI新生銀行を中核に提携地銀の共通プラットフォームを構築する構想を掲げている(8/20日経8/22日経8/25日経)。SBIはテクノロジーや多角化に強みがあるので、特色ある新たなメガバンクが誕生する可能性がある。

SBIHDはシンガポール企業との合弁で、株式などをブロックチェーン上でトークン化して取引する新市場の構築に着手した。外国株や債券、不動産、暗号資産など幅広い金融資産を24時間365日取引可能にする計画。米ボストン・コンサルティングは、現在0.6兆ドルのトークン化資産市場が2033年には18.9兆ドル(約2,800兆円)へ拡大すると予想している(8/22日経)。似たようなことをしている米ロビンフッドの株価は大きく上昇しているので、SBIもいずれそうなるのではないかと思う。

SBI証券は東京海上アセットと組んで、未公開株をトークンで個人に販売することになった(9/25日経)。また旅行会社の東武トップツアーズと組んで前払い式トークンを発行することにもなった(9/29日経)。トークン販売が早速始まるもよう。

9/9日経に、ネット専業銀行が中小企業の顧客を増やしているとあった。理由は、送金手数料の安さで、企業間取引では決済回数が多いので利点が大きいという。直近の増加率は年40%で、7900社超まで拡大している。この数字は、全国160万の企業を調査して出てきた数字なので、伸びしろは大きい。


■前田工繊
基本シナリオ:土木資材系のM&Aでインフラ需要を着実に取り込む

8月の本決算で、今期業績予想が増収減益となり、株価は大きく下げてしまった。減収要因は、車の高級ホイール事業が米関税策の影響で(8/20日経8/21日経8/21日経)下振れ見通しとなったため。ただし、会社はこの分野への投資を継続しており、影響は一過性と考えているように見える。

この会社の過去の業績予想の傾向を見ると、保守的な予想が多いので、最終的に売上・利益は5~10%上振れるのではないかと思う。


■メック
基本シナリオ:半導体先端処理剤で世界トップに

2Q決算は素人的にはパッとしない内容だったが、決算後に株価は大きく上昇した。

当初、この理由がよくわからなかったが、SBI証券のニュースによれば、決算説明会で社長が前向きな見通しを示したことと、9/10日経の「半導体開発の注目テーマが前工程から後工程へ移った」ことあたりが要因になりそう。

9月後半には一段高となり、半導体セクターの好地合いや9/20株探9/24株探の記事がきっかけとなったように見える。同記事には、メックは電子パッケージ基板や部品の製造に必須の金属表面処理薬品で世界屈指の実力を持ち、とりわけ主力の半導体パッケージ銅表面処理剤で世界トップシェアを誇る、と紹介されている。またAIサーバー向けなど高性能電子デバイス需要も取り込み、2桁成長が続く見通し、ともある。


■大和 iFreeNEXT FANG+インデックス
基本シナリオ:AI革命の勝者に賭ける

6/30バロンズに「トランプ大統領の振る舞いなどにより、ドル安になっているが、ドル安はビッグテック企業の業績への追い風になる。恩恵を最も受けるのは海外売上高比率が64%のアップルで、次がエヌビディア53%、アルファベット51%、Microsoft49%、Amazon31%になる」みたいなことが書いてあった。この投信はトランプ政策やドル安に強そうなことがわかった。

この投信にSaaS企業が組み入れられていることがわかった。その代表がサービスナウ。ぱっと見の業績は悪くないが、「AIにのまれる」懸念から株価は停滞している(8/26日経8/23インフォ)。サービスナウもAI実装に注力しているので、生き残れると思うが、不透明感は残る。ただ、この投信はトレンドから外れた企業は組み入れから外されるので、それほど気にする必要もなさそうではある。

9/29バロンズに「今すぐ買いを検討すべきはサービスナウとAI負け組4銘柄」とあった。その理由は「ソフトウェアはAIに取って代わられてしまうとの見方が一般的だ。だがソフトウェア株は過小評価され誤解されている。サービスナウの株価は今年10%以上も下落したが、より多くの顧客がAIを採用するにつれ順調に推移するはず」。サービスナウは今後見直されていくのかもしれない。

米ビッグテックは今期50兆円超の投資計画があるが(8/14日経7/31ロイター8/24バロンズ)、一方で人員削減が加速している(8/5日経)。巨額投資がまったく雇用を生んでいないことがわかる。「人がいらない時代」が始まったように見える。

今年買った株式で、この投信の上昇率は+9%程度と地味な印象だが、9月の時点で積立NISA対象の大型投信での年初来リターンがトップとわかった(9/18日経)。当初の見立ては悪くなかったのかもしれない。


■米ベライゾン
基本シナリオ:質の高い顧客基盤を地味に拡大

この株を実際に保有してみて気づいたのは、驚くほど退屈だということ。巨体で、成長ストーリーが地味で、他の銘柄が上がる中で株価はほとんど動かないのがさびしい。買値をわずかに下回っている点も癪。冷めてしまった。


■iシェアーズ AI グローバル・イノベーション アクティブ ETF
基本シナリオ:AI革命の勝者に賭ける

この投信のコンセプトはおもしろいと思ったが、AIの危険性は考慮していないようなので、今後買い増しはしない予定。


■米マイクロソフト
基本シナリオ:最強のAIエージェント・プラットフォームに

本決算は売上・利益ともに約15%の成長だった。今期予想も同水準の成長率。前期はクラウド事業のAzureが好調で、4Q決算の売上は前年同期比39%の伸びだった。ただし、この伸びは値上げの影響が大きそう。

現時点で一番の問題は、「Copilot」が使えないこと。企業からの評価は芳しくなく、導入はあまり進んでいないもよう(9/15インフォ)。Microsoftは自社でAIの基盤モデルをしっかり作っていないので、競争力に不安が残る。とはいえ、先見性には優れた会社なので、それほど問題はなさそう。


■今後の計画
投資スタンスは 「基本静観、チャンスが来たら動く」 のまま。市場が荒れて米VIXが40超、日経平均の騰落レシオが70以下になったら株式などを買っていく。PBR、投資家心理指数、裁定売買残高なども考慮する。1ドル130円くらいになったら海外株を買っていく。

ただし、AIは「人類史上最大の革命」とも言われるので、AI関連株についてはドルコスト平均法で着実に積み上げていく。AIは暴走すると人類を滅亡させるリスクもあるので、その点に理解のある会社を選んでいく。

ウォッチリスト

今後はAI革命と円安が進みそうなので、海外のAI関連株を中心に見ていく。

・米エヌビディア
現在、「AI革命」の恩恵を最も受けている会社。AI革命は始まったばかりなので、今後も力強く成長していきそう。ロボット分野でも膨大なチップ需要が期待できる。問題は供給過剰懸念(9/23インフォ9/25日経9/25日経9/29日経9/29日経)と中国やGoogleなど競合の追い上げになる。9/5日経9/19インフォ

米シンクタンクの分析では、米国内の企業や研究機関に所属する優秀なAI研究者の約4割が中国の大学出身者になる。今後、中国政府や企業が彼らを通じて知財を獲得すれば、AI開発力はさらに高まる可能性が高い。

9月、中国政府は中国企業がエヌビディアからAI半導体”スパイGPU”を購入することを禁止した(9/18日経8/14日経)。中国はひとり立ちする準備が整いつつあるのかもしれない。

・蘭ASML
最強の半導体露光装置メーカー。参入障壁が極めて高く、実質的に競合がいないところがいい。ただし、中国企業(ファーウェイなど)の猛追には注意が必要。中国は国家主導で半導体開発を推進しており、技術力は着実に向上している。近い将来、追いつかれる可能性がある。

7/30日経には、「半導体の生産における技術進歩のけん引役は、チップを素材のウエハー上に焼き付ける露光などの「前工程」から、チップを切り出して封入する「後工程」に移りつつある」「EUV(極端紫外線)露光装置およびマスク関連装置の需要はピークアウトしている」と気になる情報があった。またAI半導体にどの程度使われているのもよくわからない。(要調査)

9/17日経には、従来の露光技術に代わる新しい技術体系「ナノインプリント」が紹介されていた。これはEUVに比べて低消費電力・低コストで微細化を実現できるという。ここらへんの調査もしたほうがよさそう。

・米OpenAI(非上場)
8月時点で週間アクティブユーザー数が7億人に達した(8/5日経)。Geminiの5倍以上の規模で、チャット領域では一人勝ちの様相を見せつつある。

ただし競争は激しく、ビジネス利用ではAnthropicに大差を付けられている(9/16インフォ)。資金面でも課題があり(9/9インフォ)、従業員向け株式売却をきっかけに離職増加の懸念もある。8/26インフォ

9月、エヌビディアがOpenAIに最大15兆円を投資すると発表した(9/23日経9/23日経)。資金面の問題はなんとかなりそう。

・米アンソロピック(非上場)
エンジニアから高い人気を集めるAI企業。AIの安全性を最優先する方針を掲げ、ソフトウェアの性能面でも高い評価を得ている。このような理念と実力を兼ね備えた企業こそ最終的に生き残る可能性が高い。足元の業績は絶好調。7/31インフォ

同社のAI「Claude」はコーディング能力に優れており、経営者はAGI達成に必要なことを熟知しているようなので、ここは有力なAGI候補企業になる。

アンソロピックは、AIが30時間連続でプログラミングできる新基盤モデル「クロード・ソネット4.5」の提供を開始した(9/30日経)。AIがAIを設計し、AGI開発へと踏み出す瞬間が、いよいよ秒読み段階に入ったように見える。

・米アマゾン
ECやクラウド基盤に加え、革新的な店舗運営システム、物流システム、デジタルコンテンツ販売でも成長余地が大きい。特に新興国を中心とした「グローバルサウス」での市場拡大が期待できる。

7/17日経8/4日経によると、AmazonもMicrosoftが構想する「AIエージェント・ファクトリー」の構築を目指しているもよう。ただし、独自の強力なAI汎用モデルを持たず、クラウド基盤ではマイクロソフトやGoogleの猛追を受けているため、不透明感は残る。

一方で、投資規模は巨額で、今期もアルファベットやマイクロソフトを上回る水準の投資をしている(8/2日経)*投資分野は多岐にわたる。これは長期的に参入障壁となる。

アマゾン倉庫のロボットはまもなく人員数を上回る見通し(7/1WSJ)。先進的なロボット企業としての成長シナリオも描ける。

・米国市場に上場している「銅ETF」「銀ETF」「ウランETF」
銅、銀、ウランは「グリーン革命」で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りつつある。価格の変動がほぼ需給だけで決まるので、わかりやすいのもいい。

・米AMD
PC向けのCPUとデータセンター向けのGPUを主に製造しており、現在GPUの引き合いが強い。エヌビディアはLLM訓練用の市場を支配しているが推論に関してはシェアは小さい。AMDの推論GPUは評価が高く、オラクルやオープンAI、xAIなどのハイパースケーラーに提供している。

PC向けCPUでもシェアを拡大しており、今後数年内に50%を超える見込み。自動車や産業用の組み込み半導体も設計しており、こちらも好調。7/13バロンズダイジェスト

・米インテル
7〜9月にかけて米政府やソフトバンクグループ、エヌビディアなどが相次ぎ出資している。ソフトバンクは子会社ARMの低消費電力AIチップの生産をインテルに委託する狙いがありそう(8/21日経8/19ロイター)。エヌビディアの出資は自社GPUとインテル製CPUを組み合わせ、高性能製品を開発することが目的の一つとされている(9/19日経)。ただし、現時点でのインテルの技術力は競合に比べて周回遅れの状況にある。

🔼・瑞Spotify
音楽配信市場はレッドオーシャンで差別化を図りづらそうに見えるが、実際に複数のサービスを試してみると、Spotifyは差別化ができているように感じた。音楽・音声配信の世界市場は巨大なので、成長余地は大きい。

しかしすでに株価が大きく上がってしまったのであまり興味がわかなくなってしまった。

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のEC企業。Amazon型のマーケットプレイスに加え、フィンテック事業も展開。南米は銀行口座やクレジットカードを保有していない利用者が多く、銀行口座やクレジットカードを持たない層向けに独自の決済サービスを提供している。ラテンアメリカ市場の出遅れ感から成長余地は大きい。ただし、カントリーリスクには注意が必要。

🔼・リクルート
子会社米Indeedの成長期待が高い。しかし、AIの台頭により、雇用やテクノロジーの先行きが見通しづらくなってきた。


・エムスリー
医療DXの潜在市場は大きい。電子カルテとクリニックアプリが成長ドライバーになりそう。業績や株価は底打ちし、上昇トレンドが始まったように見える。

🔼ダイキン
海外売上高比率が8割を超えているので、円安耐性がある。省エネ性能に優れ、環境負荷の少ない空調機器を展開しており、グローバル市場における競争力は高い。今後は、地球温暖化の進行による空調需要の増加に加え、新興国市場の拡大も期待でき、中長期の安定した成長が見込める。欧州事業は足元で回復の兆しが見え始めている。

ただ、中国企業のハイアールなどが勢力を拡大している。過去のパターンどおりにいくと、テレビやEVのような展開になりそう。8/13日経


🔼・AREホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しているため、貴金属のリサイクルはメガトレンドになる。AREは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。インフレ耐性があり、配当が4%を超えるところもいい。

しかし、この手の企業はいまいち興味がわかない。

・REIT(不動産投資信託)
現在、REITのバリュエーションは歴史的な低水準にあり、「REITの黄金期が始まる」との見方が増えている。今後の経済ショックで大きな投資チャンスが訪れる可能性がある。

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:3.0%~4.5%の間で推移

米長期金利に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・経済成長率+インフレ率→
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2025年の予想米GDP成長率は1.4~2.7%、2026年は1.5~2.1%、2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%になる。

・金融政策↓
FRBは利下げを開始した。2025年は0.5~0.75%利下げをし、2027年に3%程度にする予定。

2022年6月から量的引き締め(米国債売却)をしている。

*政策金利が中立金利(3.5~4.0%)を超えると、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。現在の政策金利は4.25%になる。

・財政悪化による国債増発↑
米政府の財政はコロナ禍以降、大きく悪化しており、今後も悪化を続ける可能性が高い。金利が高止まりした状態では公的債務の利払い費も増加し、財政はさらに悪化しやすくなる。

*FRBが実質的に政府の支配下に置かれ、財政ファイナンスに加担させられると、財政はさらに悪化しやすくなる。8/30日経

・金余り、資金需要の低下↓
金余りで運用難に陥っている米国の金融機関や保険会社、年金、企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。

第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。

少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

・米国債の人気→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも高いので、海外勢から買われやすい。

ただし、米国債保有世界2位の中国は、米国との対立や人民元安阻止のために米国債を淡々と売却している。米国と緊張関係にあるロシアなども米国債を売却している。

・米企業の社債発行増↑
米企業の社債発行が増えている。米国債よりも投資妙味の大きい高格付け社債の発行増加により、米国債の需要が減少している。

・リスクオン・リスクオフ↑
”トランプ政策”などの影響で、ややリスクオフ気味だったが、足元ではややリスクオン気味。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・チャート→
<10年チャート> 横ばいトレンド。しばらく4%あたりのボックス圏で推移しそう。ただ、三角持ち合いっぽくもなっているので、そろそろ上下どちらかに触れそう。



■WTI原油
今後1年の予想レンジ:40ドル~70ドルの間で推移

原油価格に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2025年の予想世界GDP成長率は2.3~3.3%、2026年は2.9~3.3%になる。ただし、世界2位の需要国・中国の需要は、再生可能エネルギーの拡大などですでにピークアウトしている可能性がある。8/22日経9/18日経

長期では、再生可能エネルギーの増加や技術革新、学校・職場のリモート化などにより石油需要が減少していく可能性がある。仏トタルや英BP、国際エネルギー機関(IEA)は2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している。9/26ロイター

一方、世界人口増やAIの電力消費、再生エネルギー開発の滞りなどにより、石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している。英シェブロンは2023年から45年にかけて石油需要は約15%増加すると予想している。

・供給↑
OPECプラスは原油価格を維持するために減産に動いていたが、足元では増産に転じている(9/9日経9/26日経)。米国やカナダ、ブラジル、ガイアナなどは生産量を高水準で維持している。

・AIによるコスト削減↓
AIの活用により生産効率が高まっている。米ゴールドマンサックスは中長期の生産コストが1バレルあたり5ドル下がると予想している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きており、供給網の混乱などにより今後供給が減る可能性がある。米ゴールドマンサックスは「ホルムズ海峡で石油の流れが遮断された場合、原油価格は1カ月で20%上昇する」と予想している。

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル85ドル、ロシアでは80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は75ドル、米産油企業の採算ラインは40~80ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時には売られやすい。

・インフレ対策↑
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元でインフレは落ち着きつつあるが、インフレは続いている。

・為替↑
原油はドル建てのため、ドル高になると割高感が出て、原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではややドル安基調。

・チャート↓
<10年チャート> 三角持ち合いを下抜けたので、40ドルくらいまで落ちそう。



■ドル円
今後1年の予想レンジ:130円~165円の間で推移

為替に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・日米金利差↓(↑は円安方向、↓は円高方向)
<短期金利>
日米の短期金利差は現在約4%ある。日本は利上げ傾向、米国は利下げ傾向にあるため、今後金利差は縮まっていく可能性が高い。ただし、日本は国内需要が停滞しているため利上げをしにくく、米国は景気が比較的堅調なため利下げをしにくい。金利差縮小のペースは穏やかなものになりそう。

これまで金利差拡大によりキャリー取引が増えていたが、日米の金融政策の転換により、徐々に減少している。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。
*世界で金利が最も低い水準にある日本の円は、キャリー取引の調達通貨として選ばれやすい。ただ現在は円の代わりにスイスフランが調達金利として選ばれ始めている。キャリー取引のスイスフラン・シフトが進めば、円への売り圧力は和らぐ。
*現在、日本の実質金利(インフレ率-政策金利)は-2.5%程度と世界最低レベル。このような状況ではキャリー取引で円が売られやすくなる。8/29日経
*市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

*世界的な金融危機(経済ショック)が起きた場合、米国は急激な利下げをし、日本は利下げ余地がほとんどないため、日米の金利差は急速に縮まる可能性が高い。仮に現在4%ある金利差が0%まで縮まった場合、急激な円高が起こりやすくなる。

<長期金利>
現在、米長期金利と日本の長期金利の差は2.5%くらいある。今後長期金利差も縮まっていきそうだが、そのペースは短期金利と同様、穏やかなものになりそう。

*2月に日本の長期金利と中国の長期金利がほぼ同じになった。今後中国金利が日本金利を下回るようになれば、世界のマネーフローが変化し、日本の国債が買われる可能性がある。
*日本の機関投資家は海外債券を売って国内債券を買い始めている。

*日本のインフレ率はG7の中で最も高い状態がすでに7ヶ月も続いている。インフレ率が3%台半ばなのに、長期金利は1.6%台にとどまっており、長期金利は上昇しやすくなっている。
*インフレ率上昇は円の価値が下落していることを意味し、円安がさらにインフレ率を押し上げ、結果的に日本の金利をさらに押し上げることになる。

*国内政治では、高インフレ問題に対し、減税や現金給付で対処しようとしている。こうした政策は結果的にインフレを助長させることになる。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているため、高い運用利回りが見込める海外債券や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を買っている。ここ数年は両者合わせて年10~20兆円の買い越しが続いている。

*キャピタルフライト
日本は財政問題や経済低迷、インフレなどの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産に移し始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。2024年に始まった新NISAでキャピタルフライトが加速しつつある。

・米国の信頼低下↓
トランプ政権の関税政策などにより、米国への不信感が強まり、世界の投資家は一定程度の米国資産を欧州などにシフトし始めている。世界の投資家によるドル資産離れは、今後も徐々に進んでいく可能性が高い。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。

対して、海外企業の対日直接投資額は1兆円程度になる。

7月、日本政府は、米国の関税引き下げの見返りとして、約80兆円の米国投資を行うことを約束している。

・日本の貿易収支→
円安や資源高、生産の海外移転、産業競争力の低下などにより、貿易収支は悪化傾向にある。(貿易収支を含む)経常収支は年20兆円程度の黒字ではあるが、そのうち半分くらいは海外での再投資や内部留保などにあてられるので、稼いだ外貨の半分くらいしか円転されない。
*2024年の経常収支は29兆円の黒字。

*訪日客の増加で2024年度のサービス収支の旅行収支は6.6兆円程度の黒字になっており、海外のクラウドサービスなどへの出費の増加に伴う「デジタル赤字」(6.9兆円)を帳消しにする規模にまで拡大している。ただし、この先も同じペースで旅行収支の黒字が拡大するか不透明な面はある。
*経産省は2035年に「デジタル赤字」が18~28兆円まで拡大すると試算している。8/8日経

*足元で進む原油安は貿易黒字に寄与する。

・日銀の財務状態の悪化↑
日本の長期金利が1%まで上昇した場合、日銀は債務超過に陥る。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるため資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。現在、日本の長期金利は1.65%まで上昇しており、今後さらに上昇する可能性がある。
*日銀は、長期金利が1%に上昇した場合、日銀が保有する国債に28兆円の含み損が生じ、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。

*米ゴールドマン・サックスは「2027年に政策金利が1.25~1.5%に到達するまで利上げサイクルが長期間続き、長期金利が26年末に2%に達する」と予想している。
*日銀は民間金融機関が日銀に預けている当座預金への利息を支払っている。利上げが進めば利息負担がかさみ、その負担が日銀が保有する債券の収益を上回ると、赤字に転じる可能性がある。ある試算によると政策金利が0.6%まで引き上げられると経常赤字に転じる。2.8%まで上がれば債務超過に陥る可能性がある。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。日本は自然災害が多く、突然の大地震が起こったときに多額の国債発行が必要になるので、大規模な自然災害が起きれば臨界点が早まる可能性もある。米国政府の債務も返済不可能な水準まで積み上がっているが経済が強く、ドルは基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。

・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。
*リスクオンになると、キャリー取引で円が売られやすくなる。

・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)は低く、日本国債の金利は比較的安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は円を大きく買い越しているが、ポジションを徐々に縮小している。円高への動きが弱まるとみている。
*円買いポジションがすべて手仕舞われたら、円は155円程度になると試算されている。7/21ロイター
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。

・個人投資家の売買動向 ー
日本の個人投資家によるFX取引が為替市場の約2割を占めており、相場を動かす原動力になりつつある。ただ足元の売買動向は不明。

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、米長期金利の上昇や、ロシアやアルゼンチンの通貨不安、中国経済の先行き懸念などにより、ドルの需要が高まっている。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必要なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高かったので円の購買力平価は長期的な円高傾向にあった。しかし米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率は上昇傾向にあるので、購買力平価は円安方面へ反転しつつある。

現在の購買力平価(消費者物価)は108円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくとされるが、近年では投機取引の拡大や資本の自由化などから購買力平価の影響力は弱まっている。

*購買力平価仮説が成り立つ前提は、貿易における実需取引が為替レートを決める主因であるというもの。日本の製造業は海外に拠点を移し、輸出が増えなくなっているため、購買力平価と市場レートは開きやすくなっている。また現実の為替市場では金融取引が圧倒的なボリュームを占めているため、貿易の実需取引の影響は小さくなっている。

*購買力平価とは、世界のどこでも同じモノは同じ価格という条件が成り立つ為替レートを意味する。米国で1ドルの商品が日本で150円なら購買力平価は1ドル=150円とする考え方。現在の購買力平価(消費者物価)は108円で、実勢為替レートは1ドル150円なので、この基準で照らせば、円は将来上昇すると考えられる。ただし、貿易可能な「財」とそれ以外の「サービス」に分けて購買力平価を算出すると、財の購買力平価は1ドル155円で、サービスの購買力平価は1ドル87円になる。財の購買力平価と円の実勢レートはほぼ一致している。これは国内の生産拠点が減り、安くものを作ることが難しくなったため。

・米国の貿易収支↓
米国の貿易赤字は拡大の一途をたどっており、2024年は貿易赤字は過去最大の185兆円になる。

・為替介入→
政府が保有する外貨準備は日本の外国為替取引額の3営業日分くらいしかないのでたいした影響はない。7/21ロイター

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約85兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する。しかし現時点でそこまで下がる可能性は低い。

・<10年チャート> これまで米長期金利と似たようなチャートだったが、足元ではそれが乖離し始めている。これは円高が進む前兆とも言われる。



■日経平均
今後1年の予想レンジ:38000~48000円で推移

日経平均に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している。2025~2026年は世界的に金融緩和の年になりそうなので、中銀の総資産は増加しそう。

・金利→
金利が上がると、株式から債券へ資金が流れやすくなる。大多数の国の金利は低下傾向にある。ただし日本は例外で穏やかな上昇基調にある。

・為替→
円安が進むと海外勢から見た日本株は割安感が出る。現在は若干円高傾向にある。
*ドル高・円安が1%進むと東証株価指数(TOPIX)は0.5%上昇するという試算もある。

・需給→
主な投資主体の売買動向
2025年も事業法人の自社株買いが旺盛で、1~5月は過去最高の12兆円に達している。海外投資家も足元では買い越しが続いているもよう。個人や金融機関の売買動向は不明。日銀は保有するETFやREITの売却を決めた。ただし、売却は「100年超ペース」であり、市場の様子を見ながらのようなので、大した影響はなさそう。9/20日経9/20日経

・パッシブ運用の拡大↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えると株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では53%、日本では70%超まで高まっている。パッシブファンドの投資家は下落局面でも売らず、むしろ資金を再投資する傾向が強い。8/31バロンズ9/16日経

・EPS(1株利益)↓
日経平均株価は基本的にはEPS (1株利益) × PER (期待度・人気度)で決まる。2025年の予想EPSは-7~5%、2026年は5~12%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因を見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響を大きく受ける。今はやや円高傾向なので利益が下振れやすくなる。

・海外景気→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。足元の世界景気はそこそこ堅調な様子。

・自社株買い↑
自己株式はEPSを計算する際に分母の株式数から除かれるため、自社株買いにはEPSを押し上げる効果がある。日本企業は自社株買いに積極的で、2025年の自社株の取得実績は12兆超になる。
日経には「自社株買いをしても、その分株数も減り、時価総額も同じ割合で減るので理論的には自社株買いをしても株価は不変」とあるが、自社株買いにより需給が改善したり、ROEが上がったり、企業の「自社株は安い」というアナウンスメント効果があったりするので、株価は上がりやすくなる。
*日本では2019年から大規模な自社株買いにより、株数が減少する時代に突入している。需給が引き締まって株価が上昇しやすくなる。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益を圧迫する。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばい傾向で、資源価格は円安により上昇傾向にある。

・金融政策→
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。日本では金利が上昇基調にあるが、そのペースは非常に穏やか。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)↓
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいで、現在のPERは18.3倍とかなり高い位置にいる。EPS的に現在の株価水準は平均よりかなり高い水準になる。

・PBR(株価純資産倍率)→
PBRの分母になる純資産は比較的変動しにくく、下値を探る物差しとして使いやすい。日経平均のPBRの下値目処は1.15倍とされる。現在のPBRは1.62倍。

・リスクオン、リスクオフ↑
ややリスクオン気味。

・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約5.63%、配当利回りは約2.41%と、日本の10年国債の利回り1.65%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・中国株からのシフト↑
中国の景気停滞リスクや地政学リスクから、中国投資離れが拡大している。その代替投資先の1つとして日本株が選ばれている。

投機筋の持ち高
買い残は約2.4兆円で、売り残は約900億円となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。

買い残高が多いと株価は中期的に上がりにくくなり、少ないと上がりやすくなる。現在の裁定取引残高は売りが2300万株で、買いが10億株と買いが多い状態。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。2024年に始まった新NISAで2024年上半期に約3兆円が日本の個別株に流入している。

・チャート↑
<10年チャート> 高水準の出来高をつけて新高値を突破しているので基調は強い。底は前回の天井の38000円くらいになりそう。


■東証グロース250指数
今後1年の予想レンジ:600~900の間で推移

東証グロース指数に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・金融政策↑
東証グロース指数は米金利の影響を強く受けるので、米国の利上げ時は真っ先に売られやすい。現在は利下げ基調なので、買われやすくなっている。

*小型グロース企業には赤字で借り入れ依存度が高いところが多い。金利上昇時には借金の金利負担が重くなり財務状態が悪化する。また成長資金を調達しにくくなる。
*金利上昇時は将来の成長期待で買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。
*金利が上昇すると国内需要が弱含み、国内事業が中心の小型グロース企業は業績が伸び悩みやすくなる。
*米金利が上昇すると円安が進み、円安の恩恵を受ける国内の大型株が選好されやすくなる。

・需給↑
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。現時点では、海外投資家は売り尽くした感があるので、売り圧力はそれほど強くなさそう。個人投資家の含み損は減少傾向にあるので、そろそろ個人が動き出してもよさそう。
*東証グロース市場の海外投資家の売買シェアは約4割になる。

・EPS(1株利益)成長率 ー
不明。

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えている。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も似たような状況であり、このような前例を踏まえると、2年の停滞が続いた東証グロース指数は反発局面に入りそう。

<グロース250の10年チャート> 底打ちしたが、目先分厚い雲があり、850あたりが天井になりそう。

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2025年の予想EPS成長率は-5~10%。
・米国株式の2025年の予想EPS成長率は-4~15%、2026年は7~13.4%。
・中国株式の2025年の予想EPS成長率は-10~10%。
・欧州株式の2025年の予想EPS成長率は-10~5%。
・日本株式の2025年の予想EPS成長率は-7~5%、2026年は5~12%。


■経済成長率
・世界の2025年の予想GDP成長率は2.3~3.3%、2026年は2.9~3.3%。
・米国の2025年の予想GDP成長率は1.4~2.7%、2026年は1.5~2.1%。
・中国の2025年の予想GDP成長率は4.0~4.9%、2026年は4.0~4.5%。
・ユーロ圏の2025年の予想GDP成長率は0.7~1.7%、2026年は1.0~1.4%。
・日本の2025年の予想GDP成長率は0.6~1.1%、2026年は0.4~0.8%。
・インドの2025年の予想GDP成長率は6.5%、2026年も6.5%。
*数値はIMFとOECDと世界銀行の予想。7/30日経9/23日経など

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。

*GDPの算出で、データが生み出す価値を捉える取り組みが始まる。現在は、デジタルを使ったサービスや取引が広がっているにもかかわらず、データが生み出す価値を十分に捕捉できていない。今後はデータやデータベースの整備が設備投資として計上される。新基準を導入すれば日本の名目GDPは1~2%押し上げられるという試算がある。


■インフレ
・米国の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%、2026年は1.7~2.6%。
・欧州の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%、2026年は1.5~2.5%。
・日本の2025年の予想インフレ率は2.0~3.0%、2026年は1.8~2.8%。9/30日経
*ブレークイーブン・インフレ率とは市場参加者のインフレ予想を反映する代表的な指標。通常の国債と物価連動国債の利回り差から算出する。ブレークイーブン・インフレ率は実質金利を算出するときなどに使われる。

今後のインフレ動向を、インフレ要因とデフレ要因を一通り挙げて考えていく。

<インフレ要因>
・人手不足で賃金が上昇している。米国においては求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされる。7月の求人件数は718万件と概ね整合する水準まで落ちてきた。有効求人倍率は1倍を割り込んだようなので、賃金の上昇は鈍化しそう(9/4日経)。

ただし、米国で最大の求人プラットフォームを運営するIndeedは8月の決算説明で「求人広告数は減少が続いているが、米国の経済見通し改善を背景に5~6月は中小企業の求人需要に回復の兆しがみられた。米国の求人需要は今年度の下半期に底を打つ可能性が高い」と言っているので(8/5日経)、再び賃金が上昇基調に戻る可能性もある。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・財政拡張が物価を押し上げている。米国では積極財政が生んだ累積的な「財政ショック」が2023年の米インフレ率を0.5%押し上げたと推計されている。財政要因は直近の数四半期でも0.6~0.7%の押し上げ寄与があると推計されている。
*政府債務の増加は通貨の価値低下につながる。

・トランプ大統領の関税引き上げ政策もインフレ圧力になる可能性がある。米国の平均関税率が10%上昇すると、米国のインフレ率は25年に0.6%、26年に0.2%上昇するという試算もある。一方で、関税は消費税と同じで、消費者の購買意欲を削ぐ景気抑制的な政策なので、インフレ効果はないとの見方もある。

・トランプ大統領はFRBに利下げ圧力をかけ続けており、自身の意向に沿った人物を送り込んでもいる。かつて米国でニクソン政権が同じようなことをしたとき、インフレは3%から9%近辺まで急上昇し、その後高止まりしている。今後、FRBの独立性が揺らげば、インフレ再燃のリスクは高まる。9/3日経9/3日経

・ウクライナや中東地域の戦争によってエネルギーコストが上昇しているが、足元では落ち着きつつある。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ戦争などにより、食料価格が上昇傾向にある。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。

・米欧でインフレやAIへの不安などからストライキが頻発している。

・株高による資産効果で消費が落ちにくくなっている。

・通貨の減価が続いている。対ゴールドでみたドルの評価は1971年のニクソンショックから下がり続け50年あまりで100分の1に落ち込んでいる。ドルの供給が膨らんだほか、基軸通貨に対する信頼が低下したことが背景にある。企業や家計が持つ現金など、すぐに使えるマネーを示す通貨供給量「M1」は同期間に80倍超に膨らんでいる。


<デフレ要因>
・世界各国の金利は平時と比べまだ高い水準にある。金利高は需要を減らす効果がある。

・経済のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば、検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、1億曲超をいつでも自由に聴けるSpotifyは月1080円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産コスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がゼロに近いので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報や人やモノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・AIやロボットを活用した産業の「自動化」により、生産コストが低下している。

・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。

・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。

・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。

・人手不足で成長力が低下している。

・米国やOPECの原油増産により、エネルギー価格が下がり始めている。


以上をまとめると、インフレは落ち着きつつあるが、人手不足や保護主義、環境規制、紛争、財政ショックなど影響で、以前のような超低インフレに戻る可能性は低い。米国のインフレ率は2025年に2.5%くらいになり、その後は2~3%で推移しそう。

日本においては、国力の低下から円安は止まりそうになく、円安の影響で2%程度のインフレが持続する可能性が高い。インフレが高進した場合はキャピタルフライトが加速し、さらに円安・インフレが進む可能性もある。とはいえ、日本は少子高齢化社会なので、需要の基調は弱い。インフレが進むとしても比較的穏やかなものになりそう。

超長期で考えると、世界ではエネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命が進み、超デフレ(無料社会)になる可能性がある。


■金利
・米国の政策金利は4.25%で、3ヶ月金利は3.98%、2年金利は3.65%、10年金利は4.18%、30年金利は4.77%になる。
・日本の政策金利は0.50%、2年金利は0.93%、10年金利は1.65%、30年金利は3.17%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。

*現在の債券は魅力的な水準まで利回りが高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが3.65%もある。その他の質の高い債券にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし長短金利が逆転すると逆ザヤになるので融資が減る。その結果、企業の投資も減り景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。過去の例では、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起きている。今回米中銀は2023年9月頃から利上げを停止している。

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は4の局面でFRBは「予防的利下げ」をしている。一般に、このパターンは株価が上がりやすい。


■債務
・世界の債務はコロナ禍で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している。ただし、コロナ禍の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク(ノンバンク)」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドル(3京6000兆円)と07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。ノンバンクは信用力の低い企業へ融資することが多く、今後も融資は拡大していく見通し。ノンバンクによる企業向け融資(プライベートクレジット)は金融規制の対象外にあるためデフォルトリスクを把握しづらい。金利が高止まりし景気後退に陥ればデフォルト率が7%くらいまで上昇する可能性がある。

*プライベートクレジット事業者は2008年の金融危機後に設立されたところが多いため、デフォルトの影響は未知な部分が多い。
*銀行は預金者のお金を貸し出しているため、その資本は損失に備えて厳しい監視下に置かれている。一方、プライベート資産を運用するプライベート・デッド・ファンド(以下PD)は機関投資家から調達した資本そのものを貸し出しているので、規制は銀行に比べて緩い。銀行が破綻すれば預金者は保護されるが、PDが破綻しても機関投資家は保護されない。

*膨張するプライベートクレジットが将来の金融危機の火種になりかねないと、米証券取引委員会(SEC)など米国の金融当局者や著名エコノミストが警鐘を鳴らしている。2008年の金融危機以降に強化された銀行資本規制により、銀行発の金融危機再来のリスクは相対的に低下しており、システム全体にショックを波及させる潜在的な感染源はノンバンク融資にあるという。

*米国の金利の高止まりは、ノンバンク業界を直撃する。ノンバンクは通常、リスクの高い借り手に高い金利で貸し付ける。金利高止まりの影響で借り手の返済能力は落ち不良債権が増えている一方で、貸し手の資金調達コストは上がっている。ノンバンクでは時価会計を行っていない運用会社が多いため、問題があっても資金繰りが苦しくなるまでそれが表面化しないことが多い。商業用不動産市場では価格が半分になった例も珍しくない。高金利の下で経済に内在する不安定要素は増している。

・プライベートエクイティ(未公開株)ファンドでは投資回収が難しくなっている。PEファンドが抱える未売却企業は約2万8000社、3兆2000億ドル(約500兆円)相当に及ぶ。

・米金融市場では商業用不動産が大きな”爆弾”になっている。商業用不動産の10年間の価格上昇率は日本が20%なのに対し、米国は50%になっている。米国の商業用不動産向け貸出額は2010年から2023年まで約2倍に膨らんでいる(日本は同期間に3割増)。一方で、リモートワークの浸透や金融引き締めによるオフィス需要の低下によりオフィスの空室率は20%に迫っている。金利上昇により商業用不動産向けの融資基準は厳格になるなか、2024年に80兆円規模の償還期限が到来する。そこで借り換えができない場合、物件は市場で売却されるため、市場価格の調整圧力はかなり大きくなる。米欧ではGDPに占める商業用不動産の割合が1~2割に高まっているため、不動産バブルが崩壊すれば米経済は大きく下押しされる。米不動産ファンドは世界中に分散投資しているため、ファンドのリバランスで世界中の商用不動産に売りの連鎖が波及する恐れがある。
*2024年はそつなく借り換えが進んだもよう。次の山場は2026年以降になる。

足元で米商業用不動産を取り巻く環境はじわじわと悪化している。商業用不動産の中でもとりわけ深刻なのはオフィスビル。23年後半から融資のリスクが急激に顕在化し、30日以上返済延滞している案件の割合は過去10年で最悪となっている。商業用物件の取引数は、過去最低レベルで低空飛行中であり、今年後半以降に増加するローンの満期に耐えられるかどうか懸念されている。ただ、商業用不動産の貸し手は比較的小規模な銀行が多く、銀行の健全性は以前より格段に高まっているため、デフォルト率がある程度高まっても、銀行システム全体の危機に発展する可能性は低い。

住宅用不動産も”爆弾”になりつつある。金利の上昇に加え、保険料など維持費も上昇しており、空室率は高止まりしている。マンション向け融資残高は23年末に約2兆2000億ドル(約345兆円)と、焦げ付きが顕在化しつつある商業用不動産向け融資の6割に達している。マンション向け融資の延滞率は2024年1月に0.44%となり、リーマン危機の水準を上回り過去最高を更新している。リーマン危機の際には、延滞がピークに達してから貸し手の損失がピークに達するまでに約2年を要している。24年と25年には5000億ドル(71兆円)の融資が返済期限を迎える。借り換えに失敗すれば割安な価格で不動産を手放さざるを得ず、価格下落に拍車がかかる恐れがある。

・米政府の公的債務のGDP比率は07年の35%から22年には97%まで高まっており、53年には181%まで上昇する見込み。

・日本の超長期債の金利上昇が止まらない。これは財政膨張に歯止めがかからなくなるとの懸念があるため。英国のようにちょっとしたショックで金利上昇が加速し金融市場が混乱する可能性もある。

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるため債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。
・22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。

・中国は前例のない投資主導経済を20年にわたって続けている。過去40年間に消費のGDP比は53%から38%へ低下し、消費が投資を下回り続けている。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造になる。多くの資産が健全資産とはいえず、不良資産が積み上がっている。
*一方、米国では労働者に購買力を与え、生活水準を向上させることで需要を創造してきた。過去40年間に米国の消費のGDP比は60%から68%に上昇している。

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。

・新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。


<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより起こる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元で一部中銀はインフレ対策として資産の売却を進めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、”中銀バブル”が完全崩壊する可能性は低い。


■金融政策、財政政策
・世界の大部分の中央銀行は金融緩和に転じている。

*景気後退を予防する目的の利下げや、インフレが落ち着いた後に行う利下げでは株高が発生しやすい。一方、景気後退を伴う利下げでは株安が発生しやすくなる。

・日本の中央銀行は世界の大多数の中央銀行とは対照的にインフレ対策として金融引き締めをしている。ただし、国内需要は弱く、世界中の中銀は金融緩和に動いているので、金融引き締めは非常に穏やか。日銀のバランスシート膨張や政府債務の拡大も金融引き締めをしにくくしている。

・無借金経営企業が増え、家計の金融資産も増えているため、利上げの効果は一昔前とは変質している。金利が上がっても企業の利払いは昔ほど増えず、一方で家計の利子所得は増える。場合によっては、利上げがむしろ景気刺激的に働くこともある。民間の資産が大きいということは、それと表裏をなす政府の債務が大きいということになる。金利が上昇すれば政府の利払いが増え、その分だけ財政赤字は拡大するが、一方で、政府から民間にお金が渡ればその分だけ人びとの所得は増える。利上げにはこのような景気や物価を刺激する側面もある。それでも利上げの波及経路には為替や株価などもあるため、全体として利上げは物価抑制効果を持つと考えられている。しかし、政府債務が巨額になった分、今は昔よりずっと総需要押し上げ効果は大きいと考えられる。米国では0%から5%超まで利上げをしても経済はさほど減速していないが、その一因は政府の利払いにあった可能性がある。日本の政府債務はGDP比で米国の倍近くあるので、日銀が利上げを進めたとき、十分な物価抑制効果が得られない可能性がある。利上げの効きが悪ければさらに利上げをしなければならないという悪循環のリスクがある。巨額の政府債務が当たり前となった現代において、利上げがインフレ抑制に効かなくなりつつある。4/18日経

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金ができる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建を重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定しているが、財政収支は悪化の一途なので、長期の見通しは悪い。
・海外の政治は不安定。ただウクライナや中東地域の紛争は落ち着きつつある。
・米国では資本主義と自己責任社会の帰結として、格差拡大が続いており、民主主義が機能不全に陥りつつある。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
・米国は典型的な衰退期に入ったという見方もある。マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は、国家のサイクルは「新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ」「平和と繁栄を迎え支出と債務が過剰になるステージ」「財政状況が悪化し内戦、革命に向かうステージ」の3つのステージに分けられ、現在の米国は衰退期に属する3つ目のステージに入ったと言っている。

・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。国外からの投資も、各種規制やスパイ法などの影響で著しく減っている。この調子でいくと中長期でも経済成長が減速していく可能性が高い。中国共産党が一党支配を最優先する限り、この傾向は続き、最終的に中国はロシアのような国になる可能性がある。
*23年の海外勢の対中直接投資額は21年の51兆円の1割程度まで落ち込んでいる。

・中国経済がかつての日本のようなデフレに陥りつつあるという見方が強まっている。日本は1990年代から不良債権、雇用、設備の3つの過剰に悩まされた。中国も今同じ3つの過剰に悩まされている。当時の日本は欧米市場へのアクセスが確保され、海外に活路を求められた。しかし今の中国は米国と対立し、欧州でも中国製EVを締め出す動きが広がっている。米欧の半導体輸出規制により先端半導体の調達にも支障をきたしており、技術的にも追い詰められつつある。
・レイ・ダリオ氏は「中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。バブルが崩壊し、試練が続くだろう」と言っている。

・EUは域内で財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ戦争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は97とまあまあ堅調な水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
*米GDPの約7割は個人消費が占める。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で48.7と中立よりやや低い水準。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は52と比較的堅調な水準。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは49.5と中立の水準。好不況の分かれ目である50を2年以上下回っていたが、8月に50.5に浮上している。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは49.4とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格は高値圏にある。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)は新高値を更新している。
米国の失業率は低位で推移しており現在4.3%。「完全雇用(3.5%)」に近い水準にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥りやすくなる。8月の失業率は前年同月を0.1%上回っている。
*米国では直近3ヶ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退に陥りやすくなる。現在は0.2ポイント上回っている。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは底打ちして持ち直しつつある。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。つい最近まで3つ起きていた。現在は1つ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい。現在は「中立」の水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は-0.6%とほぼ「中立」の水準。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすい。現在は52で「中立」の水準。

・米機関投資家の株式持ち高比率を示すNAAIM Exposure Indexも先行指標になる。この値が80を超えると過度の楽観、20を下回ると過度の悲観になる。現在は86と過度の楽観水準になる。

・機関投資家の運用資産に占める現金比率も株価の先行指標になる。この比率が4%を下回ると「株売りシグナル」になる。8月の現金比率は3.9%。8/12日経

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後なんらかのショックで株価が急落することが多い。現在のVIX指数は16と低い水準にある。

スキュー指数も株価の先行指標になる。この指数は、S&P500種株価指数のオプション市場で、株価の上昇を見込むコール(買う権利)に対して下落に備えるプット(売る権利)の需要が高まると上昇する。これは市場で将来の大きな価格変動に備える取引が増えていることを意味する。2月18日には183と過去最高値を付けた。2021年のパターンでは、半年ほど後にS&P500指数は下落に転じ、1年半ほど調整している。現在のスキュー指数は145とやや高い水準。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わることが多い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは109とやや過熱の水準。
・日本株の信用評価損益率は-6.22%とやや過熱の水準。
・先進国の株価チャートは、軒並み最高値を突破しており基調は強い。

<NASDAQの10年チャート> 移動平均線との乖離率が高いのは気になるが、出来高を増やしながら上昇が加速している。今後さらに上昇しそうな雰囲気がある。

長期計画

 「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えておく。

■今後の景気について
景気循環的にそろそろ景気後退に陥りそうだったが、「AI革命」や、家計・企業の良好な財務状態、中銀の金融緩和などにより、比較的堅調な景気が続きそう。

*景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大) →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮) →不景気 の流れになる。

景気後退要因と景気浮揚要因を列記して、今後の見通しを考えてみる。

<景気後退要因>
・企業債務はGDP比で過去最高水準まで高まっており、金利も2008年の金融危機前と同水準まで高まっている。いつ資金の逆回転が起きてもおかしくない。
・米欧などの先進国中銀は2022年から政策金利を急激に引き上げている。金利高の影響は1年くらいの時差をもって経済に反映される。2025年はその影響が表れる年になる。
・逆イールドが発生している影響で、銀行の融資が減っている。銀行の融資態度は景気との相関が強く、過去、融資基準の厳格化が進んだ時期には景気後退が発生している。
・米家計のコロナ貯蓄はほぼゼロになっている。2023年10月からは学生ローンの返済が再開されている。クレジットカード債務や自動車ローンの延滞率は足元で13年ぶりの高さになっている。
・米経済の牽引役である個人消費は長引くインフレや金利高で節約志向が高まっており、やや低調になっている。8/14日経
・失業率がやや悪化傾向にある。
・米金融市場で投資家の楽観論が強まっている。金融機関から借金をして売買する信用取引の規模は過去最高を更新した。信用取引の極端な増加は2000年ごろのインターネットバブルや2008年のバブル崩壊直前の状況に近い。7/31日経


<景気浮揚要因>
・失業率が低い。米GDPの約7割は個人消費が占めるが、失業率が低水準の状態で維持されると、所得が維持され、消費が落ち込みにくくなる。1960年代以降に8回あった景気後退局面では、失業率が平均で3%強上昇しているが、今後想定される失業率の上昇幅はその半分にも満たない。
・米国では移民の流入やテクノロジーの普及、サプライチェーンの強靱化などにより潜在成長率が2%台に上昇している。
・米国の生産性は上昇している。生産性は2023年に年率で4%程伸びている。生産性が上がった主因は雇用流動性の高さになる。米国ではコロナ禍の初期に2200万人超の一時解雇が発生したが、その後、労働者はより成長力のある企業に転職した。最も雇用が増えたのはIT関連になり、起業数はコロナ禍前の2倍になった。これらが米国の技術革新を加速させている。
・デジタル化が米国経済を強靱化している。デジタルエコノミーの伸び率は平均年7%超あり、それが米経済を下支えしている。
・現在はサービス業が経済成長を主導しているので、景気が落ち込みにくい。サービス業は投資資金を製造業ほど必要とせず、イノベーションが起こりやすいので、成長力が落ちにくい。
・AIが普及期に入りつつある。英調査会社はその普及率に応じて2027年の米GDPを0.7~2.5%、2032年時点で1.8~4.0%押し上げると予想している。
・世界で「AI革命」が起きている。規制緩和やビッグテックによる大型投資により、景気は底上げされやすい。8/14日経
・米国では家計債務の約7割を住宅ローンが占めるが、コロナ禍の低金利時代に多くの世帯が住宅ローンを借り換えを行ったため、現在の債務返済コストは抑えられている。住宅価格は高騰しており、その含み益を借り換えで現金化する手法も活発になっており、約60兆円の余剰資産が生じたという試算もある。
・米家計は金融資産の5割を株式や投資信託などで運用しているので、株高により、家計は潤っている。この20年の株価上昇の結果、家計の金融資産の増加は個人所得の増加の6倍になっている。住宅価格は3倍に上昇している。2024年第1四半期の米家計資産は過去最高の160兆ドル(2京5000兆円)に達している。家計純資産は過去10年間で約2倍になっている。
・景気サイクルの終盤にもかかわらず、米家計のバランスシートは良好で、家計の可処分所得に占める元利払いの返済負担比率は低下している。
・クレジットカード支払いの延滞率が上昇しているとの指摘は多いが、延滞が生じているのは低所得者層であり、全体に占める割合は10~15%程度にとどまる。金利水準は高いが、米国では固定金利で住宅ローンを組む人が全体の8割と多く、22年以降の金利上昇の影響は限定的になっている。
・現在、過去の景気後退局面の前段階で必ず見られていた「民間債務の急速な拡大」は起きていない。
・米長期金利は高止まりしているが、企業の金利耐性は向上している。2022年以降の米企業部門の受取利息の伸びは支払利息よりも大きい。大企業は低金利時に固定金利で資金を調達している一方、米アップルのように手元資金が潤沢な企業は高利回りの運用資産を保有している。
・インフレが鈍化している。コロナ禍で深刻になっていた移民減少や半導体不足などの供給制約が解消されている。インフレ指数の約3割を占める賃料も落ち着き始めている。
・インフレ要因となっていた、ウクライナ戦争の供給ショックが落ち着きつつある。
・インフレが落ち着いてきており、主要中銀は政策金利を引き下げ始めている。
・米国では半導体産業や環境産業(EVなど)、インフラ産業などの巨大産業を政府が支援しているので、景気が落ち込みにくい。
・世界的に積極的な財政政策が採られているので、当面の間、力強い経済成長が続く可能性が高い。
・インドなどの新興国経済が好調。中国はいろいろと問題を指摘されているが、それでも4%超の成長をできる見通し。
・過剰流動性(金余り)が維持されている。コロナ禍で政府がばらまいた資金が市場にまだ高水準で残っている。マネーストック(民間に流通しているお金の総量)は長期的に右肩上がりで増えている。世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は2024年4月にリーマン・ショック前の約4倍にあたる8兆7300億ドル(1360兆円)に拡大している。
・FRBなどの主要中銀は過去の金融危機の経験を踏まえ、制度変更や規制に加え、バックストップ(安全策)機能を整備している。
・長期の米景気を俯瞰すると、現在の景気は拡大局面が長く、後退局面が短くなっている。その要因は、製造業からサービス業への重心移動、生産・在庫管理の進化、機動的な金融・財政政策などになる。
・米トランプ大統領は2024年12月に「投資家の皆さんにはこれから素晴らしい日々が待っている」「常々言ってきたことだが私にとって株式市場はすべてだ」と言っているので、なんだかんだで最終的には景気が浮揚するような政策をとる可能性が高い。
・MMF(公社債投資信託)には1000兆円以上の資金が積み上がっている(*コロナ危機前の倍の規模)。利下げが進めば、株式市場に資金が流れる可能性が高い。9/17日経9/19日経


<まとめ>
こう見ていくと、やはり比較的堅調な景気を保ちそう。景気後退に陥るとしても軽微なもので済むのではないかと思う。


■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務は積み上がっており、GDP比220%に達している。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。そして経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。


景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が武力で台湾を併合するとの見方がある。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。

とはいえ、中国は米国債を売り続けており、「安全資産」である金の保有を増やしているので、台湾に侵攻する可能性も少しはある。


景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのではないかと思う。

近年、世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生している。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測しており、2024年の平均気温は+1.6度になった。IPCCの数値目標が守られているかは、1年間の値だけではなく複数年の平均で判断するので、気温の上昇幅が単年で1.5度を超えてもただちに目標未達とはならないが、地球温暖化の深刻さは増している。

AI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので、長期的には出生率の低下により人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている。AIやロボット、教育などの影響を考えると、今後もピーク時期の前倒しが続く可能性が高い。


景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去れば景気はV字回復するケースが多い。一般に、災害や戦争は押し目買いのチャンスといわれる。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。

ただし、日本で南海トラフ地震が起きた場合は、200兆円程度の損失が発生するとされ、財政破綻やハイパーインフレが起こる可能性がある。


■今後の計画
AI関連銘柄はドルコスト平均法で買い増していく。
景気が停滞し、円高が進んだときには、海外株を買っていく。