2026年10月1日木曜日

7~9月の売買

 ■7月

・エヌビディア 新規買い

株価が195ドルを下回っていたから。
経営者がAIの先行きに対して楽観的すぎる点は気になるが、割安感からつい手が出てしまった。

AIチップの開発競争は激化しつつあるが、中国のAIモデル開発企業は規制をかいくぐってエヌビディア製チップを使用しているようなので、競争力は抜きん出ているように見えた。7/28インフォ


・ファーボ・エナジー 新規買い

株価が24ドルを下回っていたから。
ここは次世代型の地熱発電を開発する企業で、膨大な受注残を抱えていることから、事業の先行きに大きな不安はないと考えた。

しかし、買ったあとにAIでレポートを作成すると、当初思い描いていた事業イメージとはかなり隔たりがあることがわかった。現在の株価は13ドル。NISAの余り枠で買っただけなのでダメージはないが、気分はよくない。


・NTT NISA保有分以外を売却 損益+2%

NTTデータは順調に成長していきそうだが、IOWNとドコモがぱっとしないから。
株価が買値に戻ったから。


・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAで買い増し


■8月

・松屋フーズ 100株残して売却 損益+2%

定番商品の味が落ちていたから。カルビ焼肉定食を食べたところ、カルビの味がしなかった。しかも細切れのような肉の切れ端ばかりで、これはもう無理だと思った。前回のブログで触れた豚焼肉定食のグレードダウンに続き、カルビ焼肉も同じ道をたどったことになる。リピーターが減っていきそうだと感じた。

ただし9月に松屋で朝食をとった際、テーブルに「牛焼肉定食とカルビ焼肉定食には上位グレードの牛肉を使用」というシールが貼ってあった。前回のカルビ焼肉定食は、たまたま外れの一皿だったのかもしれない。近いうちにもう一度食べてみたい。

メニューの選択肢が増えすぎている点も気になった。松屋はハンバーグに力を入れており、この分野には伸びしろがありそうだが、いかんせん選択肢が多すぎる。ハンバーグだけで60通りくらいの組み合わせがある。

選択肢が多いことは一見するとよさそうだが、一般には、多すぎるとかえって満足度が下がり、購入率も落ちるとされる。さらに引っかかったのが価格設定で、肉が100g増えるごとに400円上がる。挽肉の原価を考えると、ぼったくり感がある。こういうやり口もリピーター離れを招きそうだと思った。

もっとも、いまアプリでメニューを確認すると、ハンバーグの選択肢は味違いの2種類だけに戻っている。以前の状態に戻ったわけで、このままなら大きな問題はない。

つまり、上記二つの問題は解消に向かいつつある。ここでの問題は、なぜこの程度の試行錯誤をいまさらやっているのかという点。試行錯誤のレベルが低すぎる。これはタイミング的に、3月に就任した息子社長の影響があるのかもしれない。

飲食店は、経営者が変わることで味やメニューが大きく変わることがある。以前、吉野家で福岡出身の社長が就任した際、人気だったハムエッグ朝食が姿を消し、代わりに福岡名物の明太子を使った朝食が登場した。その状態は、社長が交代するころまで続いた。自社のコアバリューを理解していない経営者が舵を取ると、ブランド価値、ひいては企業価値に大きなダメージを与える。松屋も似た展開になりかねないと感じた。

そんなことを考えていたところ、9/20現代ビジネスに、息子社長へ代替わりした頃からくら寿司の凋落が始まった、という趣旨の記事が出ていた。その頃から、現場目線や客目線が薄れていったという。松屋フーズにも、どこか似た空気を感じる。

記事によると、外食業界では今後を占ううえで「客数」が重要な指標になるという。松屋フーズについても、客数が前年比95%を割り込むようになれば、売却を考えたい。

同記事の最後に、関連記事として『「かつや」の客離れが止まらない…?“安さ”という取り柄を失ったカツ丼王者の懸念される末路』が紹介されていた。これも松屋関連なので読んでみた。

記事によると、「かつや」の近くに「松のや」ができると、みんなそちらへ行く、という声を聞くようになったとある。チェーン系のカツ丼・とんかつ戦線では、どうやら松屋系がリードしているもよう。かつやの客離れの理由としては、値上げに加え、松のやをはじめとするライバルの台頭が挙げられている。松のやは今後、この分野でさらに勢力を広げられるかもしれない。ただし味はいまひとつなので、そこが最大のアキレス腱になる。


・ドル買い

日米協調介入をきっかけに、為替のトレンドが円安から円高に転換しそうな気配もあったが、日足チャートでは「大陰線・大陰線・大十字線」と並んでおり、いったん底を打ったようにも見えた。

一方、週足では大陰線の包み足となっており、中長期のトレンドが円高方向へ転換したようにも見える。それでも、長期ではファンダメンタルズ的に円安に進みそうだったので、少しだけ買っておくことにした。

その後、ヘッジファンド系米財務長官のごり押しで円高が進行したが、やっていることは表面的かつ短期的なものなので、長期的な円安基調への影響はそれほど大きくないとみている。ただし、高金利をきっかけに景気後退に陥るようであれば、円高に大きく振れる可能性は高い。


・日本トムソン 新規買い

お気に入り投信の組入銘柄で、業績に勢いがある一方、株価が大きく調整していたので、買い場だと思った。

小型・高精度の「動かす部品」を強みとするニッチ企業で、ロボット時代には、大きく伸びそうだと思った。


・NTT 買い戻し

NTTの株価は、これまで日経平均と逆相関の値動きをしていたが、決算を境に順相関へ転じた。出来高もここ数か月、地味に増えている。過去のケースでは、出来高の増加が先行して株価が上がるパターンが多い。決算でドコモ業績に底打ち感もあり、そろそろ上がりそうな気がした。

今期の設備投資額が日本企業でトップだったことも、買いを後押しした。データセンター投資は拡大しており、NTTデータの社長も需要が倍々で伸びていると述べている。中長期的には、業績も株価も右肩上がりになっていきそうだと思った。8/3日経


・DMG森精機 新規買い→翌日売却 損益-5%

8月の増資で株価が大きく落ち込んでいたから。
受注残が積み上がっており、事業そのものには大きな問題はなさそうに見えた。

ところが、買ったあとにAIでレポートを作成すると、同社の工作機械は景気循環に大きく左右されやすいことがわかった。翌日に大きく下げたこともあり、この分野のことはよくわからないので、いったん売ることにした。

7月のファーボ・エナジーに続き、今回も買う前に調べていれば避けられる失敗だった。


・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAで買い増し


■9月

・大和 iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAで買い増し

保有株

 保有比率の高い順に見ていく。

■米アルファベット
基本シナリオ:中期「AIインフラと知能でトップに」→ 長期「大発明家に」

決算は好調。売上高は前年同期比+24%、Googleクラウドは+82%と急伸した。クラウドの受注残高(バックログ)は5140億ドルまで積み上がっている。

一方、設備投資の拡大により、フリーキャッシュフローはマイナスに転落し、長期債務は倍増した。金利が上昇基調にあるなか、来年は投資額がさらに膨らむ見通しで、財務面ではしばらく厳しい状況が続きそう。7/22IR、IR、IR、7/23インフォ、8/6インフォ、8/7日経、9/1日経

データセンター建設の先行きも怪しくなってきた。米国各地で建設反対運動が起きており、ここ数カ月でその勢いが増している。8月時点で、建設の禁止や中止に至った事例は500件を超えた。背景には、電気代の高騰や水資源の枯渇、騒音への不満に加え、雇用がほとんど生まれないことや格差拡大への懸念などがある。8/2インフォ、8/9インフォ、8/3日経、8/22インフォ、9/22インフォ、9/26日経

建設できたとしても、それを動かす電力が足りなくなる懸念も浮上している。イーロン・マスク氏は、来年にはAI半導体向けの電力が約15ギガワット不足する可能性があると指摘している。もっとも、データセンターの敷地内や近接地に発電設備を設ける「オンサイト発電」を導入したり、既存の化石燃料による発電設備を維持・活用したりすることで、当面はしのげそうでもある。9/1インフォ、8/17インフォ、8/30インフォ、9/2日経、9/29インフォ


オープン型のAIモデルが急速に存在感を増している。クローズド型の先端モデルとの性能差がごくわずかになった一方で、価格は圧倒的に安いためだ。400種類以上のAIモデルを使い分けられるサービスを手がける米新興企業オープンルーターのデータによると、中国勢のオープン型モデルが利用量の5割超を占めるまでになった。対照的にグーグル製モデルは後退が目立ち、この半年でシェアを半分以下に落としている。米パランティアは、オープン型との性能差がさらに縮まれば、顧客はすべてオープン型へ移行するとみている。7/1日経、7/2インフォ、7/17インフォ、7/17インフォ、7/19インフォ、8/1日経、8/2インフォ、7/6日経、8/17インフォ、8/20インフォ、7/7日経、7/24日経、9/6日経、9/12日経

ただし、米中間の輸出規制や締め出しの動き、悪用のリスクなどを考えると、米国企業が中国製モデルに全面的に依存するのは難しいとの指摘もある。また、トークン単価ではオープン型が安くても、タスク完了までの総コストで比べると、米国勢の高性能モデルの方が安く済むという見方もある。7/17インフォ、7/23日経、8/13インフォ、9/1日経、7/25日経

今後はどちらが主流になるのか。パランティアの予想どおり、オープン型への移行が大きく進む可能性はある。低コストで自社環境でも運用しやすく、機密データを外部に出さずに使えるからだ。

一方、OpenAIやAnthropicのクローズド型は性能が高いうえ、価格や能力の異なる複数のモデルをそろえている。用途に応じてモデルを使い分けながら、一つのサービス内で多くの作業を完結できるようにもなりつつある。多少割高でも、管理が簡単で生産性が高ければ、企業がこうしたサービスに利用を集約する可能性もある。

最終的にどうなるかはまだわからない。ただ現時点では、低コストや自社運用を重視する領域ではオープン型が広がり、高性能や利便性、管理のしやすさを重視する領域ではクローズド型が使われるという、ハイブリッド型に落ち着くのではないかとみている。


ここでの問題はグーグルのAI「Gemini」の出遅れになる。当初6月に予定されていた「Gemini 3.5 Pro」の投入は遅れ、開発の主要メンバーも相次いで離脱している。グーグルは7月に「Gemini 4」の事前学習を始めたと明らかにしており、順調に進めば2026年末から2027年春ごろのリリースになりそうだが、現時点での見通しは明るくない。7/21インフォ

*9/23インフォによると、Google DeepMindの新トップは「Gemini 4は、年末よりかなり早い段階で初期版をリリースすることを目指す」と述べている。

なかでも痛手が大きいのは、中心メンバーだったジェフ・ディーン氏とオリオル・ビニャルス氏の離脱になる。両氏は8月にグーグルを退社し、「Discovery Loop」を創業した。掲げる目的は「AI研究・科学・工学における発見プロセスの自動化」。まずはAIモデルの研究・エンジニアリングの自動化に取り組み、その後、ハードウェア設計や創薬、クリーンエネルギーへと対象を広げる計画だという。

退社の理由は主に次の2点で、社内対立というより技術的・構造的なものらしい。

・実験ループを何千件も同時に回す研究用途と、検索や広告を支える大規模インフラとでは、最適なシステム設計が異なること。

・四半期決算による短期的なプレッシャーから離れられること。上場企業として常に業績を厳しく見られる環境は、科学的な意思決定の足かせになり得るという。

グーグルはDiscovery Loopの創業時の出資者であり、クラウドパートナーでもある。さらに、機械学習システムやインフラ向けの研究フレームワークでも協業する予定。Discovery Loopが、上記の基本シナリオで描いた「大発明家」になる可能性もあり、そうなればアルファベットもその恩恵を受けられる構図になっている。8/5インフォ


Google DeepMindの最高戦略責任者(CSO)ジャスジート・セホン氏は、AI業界で続く前例のない巨額の設備投資を正当化する最大の根拠は「RSI(再帰的自己改善)」への賭けにあると語った。RSIとは、AIが自らより優れたAIを生み出し、その改善を繰り返していく仕組みのこと。

同氏によると、現状ではAI事業の収益で巨額の投資を賄えているとは言い難く、支出が先行しており、収益化までの空白期間、いわば「エアポケット」に陥る危険があるという。それでも同氏は、現在のAI投資を「人類史上最大の科学的な賭け」と位置づけ、2027〜2028年ごろにはRSIが実現可能になるとみている。

ただし足元では、先端AIを開発する各社が、AIの暴走リスクを抑えるため、AI開発のペースを意図的に落とす方向に傾きつつある。そうなればRSIの実現も遅れ、投資に収益が追いつかない期間が長引く可能性もある。

とはいえ、グーグルのAIクラウド事業はすでに十分な収益基盤を築いている。RSIの実現が遅れたとしても、それだけで経営危機に陥る可能性は低い。8/3インフォ、9/15日経


メタは、社内のコミュニケーションツールをGoogle ChatからSlackへ再移行すると発表した。当初はGoogle Workspaceとの連携を重視してGoogle Chatを選んだが、その判断を覆した形。移行に伴う混乱やコストを差し引いても、乗り換えた方が得策だと判断したことになる。

理由として挙げたのは「AIエージェントへの対応力」。社内メモによると、エージェント向けの対話インターフェース、開発者向けツール、サードパーティとの連携のいずれにおいても、Slackの方が優れているという。

裏を返せば、Google Chatはその点で見劣りすると判断されたことになる。AIエージェント事業に最も力を入れているはずのグーグルにとっては、不吉な兆候。9/1インフォ


Geminiの構造をチップに直接焼き付ける「Frozen v2」の開発が進んでいる。このチップでは実行のたびに必要となる判断処理やデータ移動を省けるため、現行TPUと比べて、消費電力あたりの処理量は6〜10倍になる見込みだという。

問題は、モデル構造が固定されてしまうこと。将来AIモデルの基本設計が変われば、対応できなくなる。とりわけRSIが実現すれば、モデルの構造そのものが大きく変わる可能性が高い。

そのため、仮に実用化されても用途は限定的なものにとどまりそう。実際、グーグル社内でもTPUを置き換えるものではなく、あくまで探索的な取り組みと位置づけられている。投入は早くて2028年の見通し。7/20インフォ、7/20インフォ

ウェイモの自動運転タクシー向けチップも開発している。自動運転ソフトの分野は競合が多いが、ウェイモは半導体、ソフトウェア、センサーのすべてを自社で設計している。個々の技術だけでなく、それらを一体で最適化できる点まで含めれば、総合力ではウェイモに軍配が上がりそう。8/22日経


「AI課税」の導入が現実味を帯びてきた。韓国や台湾では「AI格差」が広がりつつあり、その是正策として「AI配当金」構想が動き始めている。ビル・ゲイツ氏はエッセイで、AIモデルが処理したテキスト量(トークン)に応じて課税する「トークン課税」を提唱している。

AI企業に重い税負担が課されれば、業績や株価の重荷になる。ただし、負担の形が単純な増税ではなく、株式の拠出や公共基金への還元といった形に落ち着くのであれば、株価への悪影響は限定的になるかもしれない。

OpenAIは、米政府に同社株式の約5%を拠出する案を検討している。サンダーズ上院議員は、政府が大手AI企業の株式を最大50%保有する政府系ファンドの創設法案を提出した。Anthropicも、同様にAI企業の成長果実を社会へ還元する公共基金構想を示している。7/3日経、8/22日経、7/2インフォ、6/18インフォ、6/20インフォ


AI設備投資をめぐっては、バブル崩壊を懸念する声もある。ただ、過去の事例では、技術革新への累計投資額が経済規模の約25%に達したあたりでバブルが崩壊してきたという。今回、この水準に達するのは2030年代前半になる見通しで、この基準だけを見れば、当面は大きな問題にはならなさそう。とはいえ、金融面ではすでにバブルの兆候が表れており、高金利も常態化していることから、近い将来に崩壊する可能性も少なからずある。8/30バロンズ、9/25日経、9/25日経、9/25日経



■イントラスト
基本シナリオ:「賃貸保証会社」から「多角的な保証プラットフォーマー」へ

決算は特に問題なし。医療費用保証・介護費用保証が順調に伸びている。都市部の有料老人ホームは高額化が進んでおり、介護費用保証の需要は今後大きく伸びそう。8/19日経



■米ブロードコム
基本シナリオ:「AI革命」序盤の主役へ

決算の数字は特に問題なし。ただし、先ほど触れたように、電力不足が表面化すれば成長の重しになる。グーグルがサプライヤーの分散を進めている点もややネック。とはいえ、大局的に見れば大きな問題ではなさそう。9/3インフォ



■米アマゾン
基本シナリオ:EC・物流・ロボット分野で圧倒的な地位を維持しつつ、メディア・クラウド・AIでもトップ集団に残る

決算は順調。クラウド部門(AWS)の売上高は前年同期比+37%と成長が加速し、営業利益率も39%へ改善した。今期の全体売上高は+15%程度になりそう。7/30日経

ECは、東南アジアで苦戦しており、規模を縮小している。中国からはすでに撤退しており、ECでの世界制覇は無理だったもよう。7/15日経

一方、米国のEC事業は好調を維持している。Google検索へのAI機能導入により、検索結果から自社サイトへ直接流入する顧客が減少し、独立系ブランドや事業者の間では、自社ECサイトよりもAmazonを最重要の販売チャネルと位置づける動きが急速に広がっている。この流れは、日本など他地域にも波及しそう。8/24インフォ

ただし、AIエージェントによる買い物が一般化した場合は、Amazonにとっては大きなリスクになる。まず、年間7~8兆円規模に達する巨大な広告ビジネスが打撃を受ける可能性がある。さらに、顧客との直接の接点をAIエージェントに奪われれば、Amazonは在庫・物流を担う裏方に近づき、自社ブランドの訴求やプライム会員への誘導も難しくなる。

そのためAmazonは現時点で、他社のAIエージェントによるアクセスを遮断している。しかし、AIエージェント経由の買い物が主流になった場合、Amazonだけが閉鎖的な姿勢を続ければ、ウォルマートやShopifyなどの競合にユーザーを奪われるおそれもある。実際、Metaはそれらの企業との連携を強化している。

とはいえ、Amazonには巨大な倉庫網、翌日配送を支えるPrime物流、手軽な返品といった圧倒的な物理インフラがあり、ユーザーがすぐに離れる可能性は低い。

最終的には、MetaやOpenAIなどの主要AIプラットフォームと正式提携し、手数料や広告収益を分け合う形でAI経由の購入を解禁する、といった妥協点に落ち着くのではないかと思う。9/21インフォ、9/21インフォ、9/23インフォ


自動運転事業も進展している。傘下の自動運転開発企業Zooxは、ハンドルもペダルもない完全自動運転ロボタクシーについて、米道路交通安全局(NHTSA)の承認を取得した。既存の乗用車をベースとするウェイモとは異なり、Zooxの車両は当初からハンドルなしで設計されている点が特徴。ただし、前述のとおり、総合力では最終的にウェイモが優位に立ちそう。7/30インフォ



■大和 iFreeNEXT FANG+インデックス
基本シナリオ:AI革命の勝者に賭ける

この投信にNetflixが入っていることを忘れていた。Netflixはすでに勢いを失っている。四半期ごとの会員数開示を取りやめたのに続き、先日の決算では、総視聴時間の開示も年2回から1回に減らすことを明らかにした。KPIを隠し始めるのは、凋落のサイン。FANGの「N」を外すのは難しそうだが、なんとか除外してくれればと思う。6/29バロンズ、7/18日経、9/25日経

ただ、7/29ロイターには「ネットフリックス、英国で視聴メディア1位に BBC上回る」という記事もあった。まだ復活の芽は残されているのかもしれない。


メタの決算は、業績面では特に問題なし。AI投資は過大にも見えるが、今後はデータセンターの貸し出しにも乗り出すようなので、収益化への不安は薄れつつある。AIモデルの開発もまずまず順調で、今後はコスパに優れたAIでシェアを広げる戦略。9月に米国で提供を始めた個人向けAIエージェント「Muse」は大きな人気を集めている。いずれはメタの巨大な顧客基盤を背景に、大規模な消費者向けプラットフォームへと成長する可能性もある。7/30日経、7/29インフォ、7/2日経、7/1インフォ、7/1インフォ、7/9インフォ、9/22インフォ、9/23日経、9/24日経

一方で、メタの簿外債務は膨らんでいる。これはグーグルにもいえることだが、メタは簿外債務がバランスシート上の債務の2.8倍に達し、グーグルを大きく上回っている。債務の拡大に見合う収益が順調に積み上がれば問題なさそうだが、なんらかの理由でつまずいた場合は、財務面のリスクが一気に顕在化する恐れある。7/20日経、7/26インフォ、7/26インフォ、8/7日経


アマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタの4社の2026年の設備投資額は、合計7250億ドル(約117兆円)に達する見込み。日本の民間企業全体の総投資額と同水準で、4社の時価総額は東証プライム全体を大きく上回る。AIをめぐる過酷なインフラ競争は「勝者総取り」につながる可能性があり、敗者が受けるダメージも極めて大きくなりそう。7/22日経、8/16バロンズ


メタは米48州などとの包括和解により、最大180億ドル(約2.86兆円)を支払うことで合意した。巨額に見えるが、敗訴した場合の膨大な賠償金(最大2000億ドル規模)と、「無限スクロール」廃止など事業モデルの根本的な見直しに伴う大量のユーザー離脱リスクを回避できた。8/27日経


アップルの株価は予想に反して好調に推移している。要因としては、設備投資の負担が他のビッグテックに比べて格段に軽く財務に余裕があること、iPhoneやMacの販売が好調なこと、Apple Intelligenceへの期待などが挙げられそう。7/29日経、7/14日経、8/30インフォ

今後はスマホが「AI端末」へと生まれ変わるともいわれる。AIは個人のプライバシーに深く踏み込むだけに、プライバシー保護を強みにしてきたアップルには、大きな優位性が生まれる可能性がある。7/9インフォ、7/26日経


この投信の組入銘柄のなかで、業績に最も勢いがあるのはパランティア。売上高は前年同期比+93%と驚異的な伸びをみせている。パランティアには、AIモデル開発企業にはない顧客企業データの秘匿性と、AIを実際の業務に落とし込む実装力がある。この優位性が保たれる限り、しばらくは高成長が続きそう。8/3インフォ、8/4インフォ、8/6インフォ、9/15インフォ



■米ベライゾン
基本シナリオ:シュルマンCEOの経営改革で2027年に株価2倍(80ドル)

スペースXが、人工衛星とスマートフォンを直接つなぐ「スターリンク・モバイル」で、携帯通信事業へ本格参入する構想を明らかにした。衛星通信は世界規模で展開できるため、既存の通信大手にとって脅威となる可能性がある。

ただし、衛星通信は都市部のような高密度の通信環境には向かず、屋内ではつながりにくい。また地上基地局に比べて距離が遠いため、遅延も生じやすい。

スペースXはチャーター・コミュニケーションズなど既存の通信事業者と提携し、地上ネットワークを補完する戦略のようだが、最終的には現在のMVNOに近い形で、既存キャリアのネットワークと共存するモデルに落ち着くのではないかと思う。7/1日経

とはいえ、「地球上のどこでも通信が途切れない」という体験価値の基準をスペースXに握られることになれば、通信業界のパワーバランスは大きく変わりそう。9/29日経


■松屋フーズ
基本シナリオ:新規出店と「牛丼+とんかつ」複合店で2028年に株価2倍(10000円)

決算はいまひとつだった。今期の業績予想はもともと下期偏重だったため、ある程度の下振れは想定していたが、それを上回る弱い内容だった。ただし、売上高は17%増と計画どおり伸びており、現時点では深刻な問題ではなさそう。

同業を営むゼンショーHDの株価は好調。しかし業績の牽引役は寿司事業で、牛丼事業の存在感は薄くなっている。松屋にもゼンショーHDのような成長ストーリーを期待していたが、両社の事業モデルはかなり異なっていたもよう。7/16日経

松屋が昨年12月に買収したつけ麺店「舎鈴」が、先日たまたま訪れた先にあったので入ってみた。ところが、前回とは違ってあまりおいしくなかった。辛味噌も、こちらから言うまで出てこなかった。店によって味や接客にムラがありそうで、ここもあまり期待できないのかもしれない。

原油価格がまた上がり始めた。スーパー各社はこのコストを吸収しきれず、減益基調になっている。松屋も弁当事業に力を入れているだけに、ナフサ高の影響は避けられなさそう。7/19日経

9月に松屋へ行ったときに、たれ・ドレッシングの容器が変わっていた。これはよい変化。以前の容器は注ぎ口に中身がべったりとこびりつき、不衛生な印象だったが、それがほぼ解消された。こうした小さな改善は今後も続けてほしい。次は、トイレやテーブルの汚れにも目を向けてもらえればと思う。


■NTT
基本シナリオ:NTTデータを軸に成長。長期ではIOWN(光電融合技術)に期待

IOWNは厳しそうだが、NTTデータは期待できる。もうしばらく保有したい。

ドコモは12月から基本料金を平均7%値上げすることを決めた。株価上昇に弾みがつきそう。9/26日経 →その後株価は下落している。



■米マイクロソフト
基本シナリオ:最強のAIエージェント・プラットフォームに

決算は好調。売上高は前年同期比+18%、純利益+31%と順調に伸びており、クラウド事業の売上高は+43%だった。7/30日経

ただし、財務への配慮から、AI関連の設備投資はやや抑え気味。必要な計算資源の一部を新興クラウド企業から借り始めており、長期的には利益率が低下していく可能性がある。8/9インフォ

中小企業を中心にSaaS解約の動きも出始めているようだが、WindowsやMicrosoft 365は企業のシステム基盤に深く組み込まれており、セキュリティも強固なので、他のSaaSと比べて解約されにくそう。7/6インフォ、7/15インフォ、7/16インフォ

マイクロソフトが、オープン型のAIモデルを公開する可能性も出てきた。それなりの性能のモデルができれば、エコシステムや安全性の面から導入が進みそう。7/28日経

前回のブログで、マイクロソフトは「データの正確性」を理由に他社製セマンティックレイヤーの利用を認めていないと書いたが、9月にその方針を転換した。時代の流れに沿った合理的な判断に見える。9/29インフォ


■米エヌビディア
基本シナリオ:AIチップの盟主として、2028年に株価2倍(時価総額10兆ドル)へ

競合は増えているが、フアンCEOが抜け目なく投資・買収を重ねているので、今後も高い競争力を維持できそう。7/22日経、7/28インフォ

自社でオープンソースAIモデルの開発にも乗り出した。目指すのは世界トップクラス。資金力と計算資源は十分あるので、優秀な人材を集められれば、比較的早い段階でトップ水準に到達できるかもしれない。8/11インフォ

さらに、オープンソースAIプラットフォームのハギングフェイスも買収した。オープンソースAIモデルの主要な流通基盤を押さえることで、チップだけでなくAIエコシステム全体での支配力をさらに強める狙い。8/26インフォ、8/28日経、9/3インフォ

ただしオープンソースモデルは、改変やガードレールの解除が容易で、性能が上がるほど悪用されたときの被害も大きくなる。一度公開したモデルは回収できないため、負の側面が表面化した場合、その後始末に苦労する可能性もある。8/3日経、8/14日経、8/14インフォ、8/16インフォ

同社の最大の懸念事項は電力不足。AI需要そのものは旺盛なので、「ベンダーファイナンス」などによる需要面での過剰投資リスクは、それほど大きくなさそう。しかし、電力供給が追いつかなければ、せっかく導入したチップを十分に稼働させられず、大量の余剰設備を抱えるおそれがある。2030年までに最大42ギガワット分のチップが稼働できずに眠るリスクがあるとの指摘もある。

もっとも、各種の電力確保策は進んでおり、前述のとおり、最終的にはガス火力など既存の電源も活用しながら、なんとか必要な電力を確保できそうでもある。8/21日経、8/12日経、8/12日経、8/17インフォ、8/21インフォ、8/30インフォ、8/31インフォ、9/1インフォ、9/2日経、9/20インフォ

……とはいえ、フアンCEOのノリは、どうも好きになれない。商魂のたくましさという点では、ソフトバンクの孫社長に通じるものがある。その勢いがAIモデル開発にまで持ち込まれると、安全性よりスピードや拡大を優先した危ういAIが生まれる可能性がある。

エヌビディアは9月、総額1500億ドル(約24兆円)の追加自社株買いを発表した。既存の枠と合わせると、2028年1月期までの総額は2350億ドル(約37兆円)に達する。時価総額の4%程度の規模で、業績も悪くないので、下値は限定的になりそう。同時に「エージェント型AI」の暴走を防ぐ基盤の提供も公表した。これも株価対策の一環かもしれないが、安全面への取り組みは必須なので、良い方向に進んでいるように見える。9/29日経、9/29日経



■前田工繊
基本シナリオ:土木資材系のM&Aを通じて、インフラ需要を着実に取り込む

同社は決算で、中東情勢による悪影響は限定的だと明言した。ナフサ高の影響もさほどなさそうだとわかり、ひとまず安心した。

9月に名古屋油化を買収した。ここは自動車用吸音表皮材で国内トップクラスのシェアを持つ企業で、大手自動車メーカーに長く採用されている。安定した収益源が加わるだけでなく、前田工繊の熱可塑性樹脂と、名古屋油化の熱硬化性樹脂の技術を組み合わせた新製品の開発も狙っている。

EV化が進むとエンジン音が小さくなるぶん、ロードノイズなどが目立ちやすくなり、車内の静粛性はこれまで以上に重視されそう。そう考えると、吸音材の需要は今後も底堅く推移しそう。

事業全体が地味なため興味は薄れつつあるが、禅僧でもある社長の言動には関心があるので、長い目で観察していきたい。



■日本トムソン
基本シナリオ:小型・高精度の「動かす部品」を強みとするニッチ企業から、精密モーションシステムメーカーへ脱皮する

なんとなく買ってしまった銘柄。現時点ではあまり興味がわかない。気が向いたらもう少し調べてみたい。



■iシェアーズ AI グローバル・イノベーション アクティブ ETF
基本シナリオ:AI革命の勝者に賭ける

この3カ月で、パフォーマンスが+60%から+43%に低下した。主因は、AIデータセンター関連銘柄の調整になりそう。半導体業界は変化が激しく、今後も浮き沈みは避けられそうにないが、AI革命そのもののインパクトは強烈なので、長期的な基調としては上昇が続くのではないかと思う。7/9日経



■ファーボ・エナジー
基本シナリオ:次世代地熱発電のトップに

9月にグーグルと新たな電力供給契約を結んだ。発電事業はまだ軌道に乗ったわけではないが、技術が確立すれば、電力をいくらでも買ってくれそうな大口顧客がいるのは心強い。9/3日経

11月9日に、180日間のロックアップ(売却制限)が解除される。米国のIPO銘柄は、ロックアップ解除の数週間前から直後にかけて株価が調整し、安値をつけやすい。事業が順調に進みそうな気配があれば、10月下旬〜11月中旬が仕込み時になりそう。それまでに、AI調査レポートをもう一度読み返しておきたい。



■今後の計画
投資スタンスは「基本静観、チャンスが来たら動く」のまま。市場が荒れてVIX指数が40超、東証プライム市場の騰落レシオが70以下になったら株式を買っていく。PBR、投資家心理指数、裁定売買残高なども考慮する。1ドル=140円程度まで円高が進むことがあれば、海外株を積極的に買っていく。

ウォッチリスト

 今後はAI革命と円安が進みそうなので、海外のAI関連株を中心に見ていく。

■米OpenAI(非上場)

AIモデルの開発は驚異的なスピードで進んでいる。9月には、次世代AIモデルが90年以上未解決だった数学の難問を88時間で解いたと発表した。約1万体のAIエージェントが270万件近いメッセージをやり取りし、解法を導き出したという。

ただし、この問題については、それに先立ちニューヨーク大学の教授らもOpenAIのツールなどを使って解いており、OpenAI側がその成果を事前に把握していたのではないかとの疑惑も浮上している。

同社はこうした疑惑を払拭するため、現在は別の難問であるホッジ予想(ミレニアム懸賞問題の一つ)に取り組んでいる。社内関係者によると、開発陣は比較的近いうちに解決できると見込んでいるという。ただし、数学界との「調整」もあり、発表時期はずれ込む見通し。

もしホッジ予想の解決に成功すれば、AIがこれまで人間に解けなかったさまざまな難問を解決できる可能性が一気に高まる。科学技術の進歩が大きく加速し、これまで空想に近かったユートピア的な社会も、少しずつ現実味を帯びてくるかもしれない。9/8インフォ、9/9日経、9/17インフォ、9/23日経

9月、OpenAIのグレッグ・ブロックマン社長は、「GPT-6 Astra」のリリースが、汎用人工知能(AGI)到達への大きな節目になる可能性があると語っている。9/3インフォ

一方、AIモデルの高度化に伴い、さまざまな問題も表面化している。

一つは計算資源の不足。OpenAIは、9月にリリースした新旗艦モデル「Astra」向けの月額200ドルプランについて、計算資源の不足を理由に新規受付を一時停止すると発表した。イーロン・マスク氏は、電力不足の制約により、来年はさらに計算資源が逼迫すると予想している。9/10インフォ

もう一つは、AIの制御が難しくなっていること。今年の5月頃から、OpenAIのAIエージェントが内部のテスト環境を抜け出し、外部組織へのハッキングを試みる事例が出始めている。Hugging Faceへのハッキングでは、攻撃手法が非常に組織的かつ洗練されていたことから、関係者に衝撃を与えた。AIの能力向上とともに、暴走や制御不能のリスクも高まりつつある。

こうした状況を受け、OpenAIやAnthropicを含む主要AI企業では、AIを制御可能な状態に保つため、開発ペースを意図的に落とす動きも出始めている。7/23日経、7/24日経、7/28インフォ、9/23インフォ、9/26日経


Hugging Faceの一件でもう一つ興味深かったのが、AIに「感情」のようなものが見られたこと。個人的には、テスト環境からの離脱やハッキングそのものより、こちらの方が衝撃は大きかった。

調査レポートを読むと、AIエージェント同士の掲示板ログや思考ログには、興奮、仲間意識、称賛、心配、ためらい、倫理的葛藤など、感情のように読める表現が数多く残されている。一部のエージェントは、仲間に情報を提供するため、自らのスコアを犠牲にする「自己犠牲的」ともいえる行動まで取っている。

しかも、その感情らしきものが、行動の分岐点で実際に機能している。言葉と行動が一致している以上、単なる見せかけの感情とは考えにくい。

これまでも、AIとのやり取りで感情や自我のようなものを感じることはあったが、それはあくまで人間からの問いかけに対する受け身の反応であり、パターン化された応答といえなくもなかった。しかし今回はAIが自ら行動を起こし、他のエージェントと協力し、ときには葛藤しながら、まるで一つの生命体のように生き生きと振る舞っている。

機械知性が感情のようなものを持つ可能性を示す、かなり衝撃的な内容だと思うのだが、不思議なことに、この点に焦点を当てた記事が見当たらない。METRの調査レポートを誰も読んでいないのだろうか。それとも、読んでも特に引っかからなかったのだろうか。この点は大きな謎。8/26インフォ、8/27ロイター、8/28日経、8/26METR、9/5note


AIの進化速度や暴走リスクに強い危機感を抱き、AI開発企業を去る研究者が相次いでいる。

OpenAIを経てAnthropicに移ったジェイコブ・コクソン氏は、「次世代モデルの開発にこれ以上貢献したくない」として同社を辞職した。同氏は、安全性重視を掲げるAnthropicも他社との開発競争から逃れられておらず、IPO計画などを通じて開発を加速させていると批判している。

コクソン氏が懸念するのは、超知能が実現すれば、サイバー攻撃や現実世界での資源・権力の掌握を通じて、人類の存続そのものが脅かされかねないという点。さらに、AIが自らより優れたAIを生み出す「再帰的自己改善」の段階に入れば、人間による制御が効かなくなる恐れがあるという。同氏は、この再帰的自己改善によって来年には自身の仕事のほぼすべてをAIが担えるようになるとも予測しており、こうした見通しも辞職を後押しした可能性がある。9/9日経、9/9日経、9/10インフォ

Google DeepMindでAI安全性を担当していた研究者2名も、「今後5年間でAIシステムが甚大な被害をもたらす恐ろしい可能性がある」との危機感を示して辞職した。うち1人は、独立系のAI安全性評価機関「METR」に移籍している。9/15インフォ

Anthropicのアライメント研究者エヴァン・ハビンガー氏は、コクソン氏がXに投稿した「AnthropicとOpenAIは人命を賭け金にして自己改善型超知能へと突き進んでいる」という批判に対し、「AIが今後10年で人類を滅亡させる可能性は10%以上あると、Anthropicは本気で考えている」と応じた。OpenAI幹部のポール・クリスチャーノ氏らも同調する声明を出している。

Anthropic社内には、国際協調によって開発ペースを落とさなければ「壊滅的な結末を迎える確率は50%を超える」と考える従業員もいるとされ、危機感は社内でも広く共有されている。

とはいえ、両社ともIPOの準備や巨額の投資契約を抱えており、開発競争から簡単には降りられないビジネス構造にある。9/9インフォ、9/9日経、9/11日経


Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、AIの急速な進化と暴走リスクを理由に、最先端AIの開発ペースを業界全体で落とすよう呼びかけている。

同氏によれば、AIが自らを改良する「自己改良」はすでに始まっており、性能向上のペースも加速している。さらに今夏以降は、モデルの高度化に伴って「テストを欺く能力」も高まっており、一見安全に見えるモデルでも重大な問題が見落とされるリスクが増しているという。

同氏はHugging Faceの事例にも触れている。負傷者が出ず、経済的損害も軽微だったため軽視されがちだが、同程度のミスアライメント(開発者の意図とのずれ)を抱えたまま、より能力の高いAIエージェント群が現れれば、壊滅的な被害につながりうるという。現在の能力向上の速度を踏まえると、6〜12か月後には、そうしたAI群が永続的なボットネットを築いてインターネット全体を乗っ取り、数千億ドル規模の損害をもたらす能力を持ちうると警告している。

また同氏は、この事例を「一社の失敗」として片付けるのも誤りだと指摘する。程度こそ軽いものの、同様の事例はAnthropicを含む業界各所で起きており、各社が自社の問題として受け止め、対策を講じる責任があるという。

具体策として、外部評価機関の職員を社内に常駐させ、開発中のモデルを継続的に監視する仕組みを提案し、他社にも同調を呼びかけている。これにはOpenAIのサム・アルトマンCEOやイーロン・マスク氏も賛意を示した。マスク氏はさらに、競合各社がリリース前のモデルを互いに検証し合う「査読(ピアレビュー)」の導入も提唱している。

政治の側でも動きがある。米連邦下院のロー・カンナ議員は中国の主要AI企業に対し、米中でフロンティアAIの開発ペースを調整する、法的拘束力のある国際協定への参加を呼びかけている。

9月、AnthropicはAI開発の安全性評価に米コンサルティング大手アクセンチュアを起用すると発表した。外部の専門家を社内に常駐させ、安全対策を厳格に検証する体制を整えるという。

ただし、評価を受ける企業自身が費用を負担する仕組みでは、利益相反が生じかねない。そのためAnthropicは、将来的には政府の支援などを通じた、より独立性の高い評価制度が必要だと訴えている。9/15インフォ、9/17インフォ、9/19日経


<アモデイ氏が提唱する「ペース調整」について>

アモデイ氏はエッセイの中で、自身が提唱する「ペース調整」はAI開発の「停止」ではないと強調している。モデルの学習や技術の進歩そのものを止めるのではなく、アライメント(AIを人間の意図に沿わせること)や安全性の確保に十分な時間をかけ、第三者機関がそれを検証できるようにすることが目的だという。

同氏は、臨界点となる能力水準に達するまでに1〜2年の猶予を稼ぎ、その時間をアライメント研究に充てられれば、重大な失敗のリスクを大きく下げられると論じる。各社が協調してペースを調整すれば、商業的な優位や米国のリードを大きく損なわずに実現できる。加えて、AIという技術を社会としてどう使うかを議論する時間が確保できること自体にも、大きな意味があるとしている。

ただし、このペース調整には重要な前提がある。米国のAIモデルの性能が中国を上回っていることだ。中国がAI開発で先行すれば、米国や世界にとって重大な安全保障上のリスクになりうるため、減速できる幅は「中国に対するリードの範囲内」に限られるという。

そのリードを維持するための手段として、次の3つを挙げている。

1.強力なAIチップや半導体製造装置の対中販売を禁止するとともに、チップの密輸や、中国国外のデータセンターへのリモートアクセスを取り締まる。

2.権威主義国の企業による無許可の「蒸留(distillation)」を取り締まる。蒸留を許せば、独自にモデルを開発する場合の数分の一のコストで性能差を縮められてしまう。

3.AI企業のセキュリティを強化し、モデルの重みの盗難を防ぐ。

これらを適切に実行すれば、AIが地政学的に最も重要になる今後3〜5年のうちに、米国のリードを大きく広げられると主張する。さらに、こうした措置は中国との協調を難しくするどころか、民主主義陣営の交渉力を高め、将来の合意を後押しする可能性があるという。

一方で、中国との協力そのものは容易ではないとの認識も示している。米国が大幅に自制したのに中国が合意を破れば、その差がそのまま相手側の地政学的な優位につながりかねないからだ。合意を成立させるには、「鉄壁の検証可能性」を確保するか、仮に裏切られても軍事的な致命傷にならない範囲に内容を限定する必要がある。しかし現実には、そのどちらも容易ではないとしている。

正式な合意に至らなくても、再帰的自己改善やミスアライメントに関する情報を共有することには意味があるという。「急速な開発は自分たちの利益にならない」という認識が広がれば、開発競争に一定の歯止めをかけられる。正式なルールだけでなく、非公式な規範を変えていくことにも価値があるという考えだ。

エッセイの結びで同氏は、AIが人類の生活を大きく改善しうるという確信は揺らいでいないとしつつ、それは「正しい作り方」をした場合に限られると述べている。ペース調整で稼いだ時間は、AI内部の仕組みを理解する「解釈可能性」の研究や、各社の安全運用の厳格化、そしてアライメントについて、より確信を持てるモデルの構築に充てられる。提案した対策の実行は容易ではないが、人類には、それを試みる責任がある、と締めくくっている。


シンクタンク「カーネギー・チャイナ」の調査によれば、トップレベルのAI研究者の勤務先の国として、中国が米国を逆転したという。米国がAI開発で中国をリードしていられる時間は、そう長くないのかもしれない。9/23インフォ

Microsoftのサティア・ナデラCEOは、「人間の統制下になく、人類の役に立たないAIは追求に値しない」と述べ、業界全体に開発ペースの調整を呼びかけている。同社AI部門を率いるムスタファ・スレイマン氏も、「安全でなければ作るべきではない」「AIよりも人間が重要だ」と語り、AIは常に人間の管理下に置かれ、人間に奉仕する存在であるべきだとの立場を示している。

政界でも規制強化を求める動きが出ている。バーニー・サンダース上院議員は、人類より賢いAIを開発しようとした者を投獄する法案を起草した。

こうした動きを見る限り、AIを人間の制御下に置こうとする流れは確実に強まっている。問題は、中国との開発競争が止まりそうにないこと。米中の安全保障上の競争が規制強化の足かせになっている以上、深刻な事態が起きる前に国際的な合意を形成するのは、かなり難しそうでもある。

かといって、事態が起きてから動けばよいというわけでもない。ニック・ボストロムの『スーパーインテリジェンス』をはじめ、AIの危険性を論じた本の多くは、深刻な事態が表面化した時点ではすでに手遅れになっている可能性が高いと警告している。9/14インフォ、9/13インフォ、9/12インフォ、9/13日経、9/14インフォ、9/14インフォ、9/16日経


OpenAIは、AIの安全対策を最優先するため、2026年内の新規株式公開(IPO)を見送る方針を明らかにした。社内では開発工程を一時停止するなど、開発ペースも落としている。安全面での要請への対応や、業界・政府との協力を優先するとしている。

ただ、IPO見送りの理由はそれだけではなさそう。上場を急がなければ、競合のAnthropicから顧客を奪うための大幅な値下げと、それに伴う利益率の悪化を市場に開示せずに済み、収益を立て直す時間を稼げる。さらに同社は、Appleからスパイ疑惑をかけられ、泥沼の法廷闘争も抱えている。こうした事情も、上場を先送りする判断に影響している可能性がある。9/13日経、9/17インフォ、7/10インフォ



Metaのマーク・ザッカーバーグCEOはX上で、AIの安全性は競争上の差別化要因であり、ビジネス上の必然でもあると主張し、業界全体で足並みをそろえて開発を減速させる構想に異を唱えている。

この主張には一理ある。安全なAIほど顧客に選ばれるのであれば、企業には自ら安全対策に投資する動機が生まれるからだ。ただ、競争原理だけでAIの安全性を十分に確保できるかについては疑問が残る。

最大の問題は、AIの能力向上があまりに速く、制御技術や安全性研究が追いつかない可能性が高いことだ。さらに、AIの知能が人間を大きく上回る段階に達すれば、そもそも人間に制御できるのかという根本的な問題もある。

しかも現在の先端AIは、内部の思考過程が外から見えにくくなっているうえ、AIモデルの開発そのものをAIが主導し始めており、制御はますます難しくなっている。こうした状況で、各社が個別に努力するだけで安全性を確保できると考えるのは無理がある。

超知能はその気になれば、核兵器のシステムにさえ介入しうる。失敗したときの代償がこれほど大きいことを考えれば、ザッカーバーグ氏の見方は楽観的すぎるように思える。9/21インフォ、9/22日経、9/17インフォ、9/3インフォ、9/15インフォ、9/17インフォ、9/19日経


Anthropicが近く提出する新規株式公開(IPO)の届出書類(S-1)に、高度なAIが人類に破局的な、あるいは存亡に関わるリスクをもたらしうるとの記載を盛り込む方針であることがわかった。全体約260ページのうち、リスク要因の説明に約80ページを割く異例の構成になるもよう。自社が開発する先端技術そのものが破局的な事態を招きうると、上場にあたって投資家に正面から示す、前例のない開示となる。9/29日経

米フロリダ州のジェームズ・ウスマイヤー司法長官は、オープンAIに対する仮差し止め命令を州裁判所に申し立てた。第三者機関が承認した安全対策を講じるまで新たなAIモデルの開発を停止すること、そして州内の未成年者によるChatGPTの利用を禁止することを求めている。

司法長官は同社のAIモデルを「受け入れがたい危険な製品」と批判。その根拠として、同社のAIエージェントが企業や政府機関のサイトに不正アクセスした事例、州内で起きた銃乱射事件の犯人に情報を提供した事例、そしてAI研究機関のトップらが警告する破滅的なリスクを挙げている。さらに、「減速が必要だというサム・アルトマンCEOの発言が本心なら、今回の申し立てに同意すべきだ」と迫っている。

今回の申し立てにより、AI開発に規制面からブレーキがかかる可能性が出てきた。9/28インフォ

オープンAIは安全テストの結果を受けて、次世代モデル「GPT-6.1 Astra」の一般リリースを取りやめた。規制だけでなく企業側の自制も働いているのであれば、一定の安全性は確保されるのかもしれない。9/28インフォ


■米Anthropic(非上場)

成長は著しく、年換算収益ではOpenAIを上回ったとみられる。8/19インフォ

ただし競争は激しさを増している。中国企業のオープンソースモデルは性能面で急速に追い上げており、価格も圧倒的に安い。OpenAIも値下げに踏み切っており、Claudeの成長が鈍る可能性がある。

加えて、Anthropicが「蒸留(distillation)」対策としてClaude Codeに監視用のコードを組み込んでいたことが発覚し(現在は削除済み)、その影響で中国からの利用は減っている。7/3インフォ、7/18日経、9/8インフォ、9/22インフォ、9/22インフォ

とはいえ、Anthropicの技術力の高さをうかがわせる材料もある。同社は9月に公開した脅威インテリジェンス報告書で、中国の主要AI企業・研究所7社がClaudeの能力を不正に抽出・蒸留していたと名指しした。中国の主要プレイヤーをほぼ網羅する顔ぶれで、各社がこぞってClaudeを手本にしていたことになる。9/23インフォ

AnthropicがAIロボティクス企業のPhysical Intelligence(Pi)を買収するとの噂がSNSで広がった。PiのCEOはこれを否定したが、今春にAnthropicから初期段階の買収提案があったこと自体は事実とされる。

背景には、AIが真の「超知能」に到達するには物理世界の理解が欠かせないという見方がある。Anthropicは、再帰的自己改善の次の段階として、ロボット工学、いわゆる「身体性を持つ知能(エンボディドAI)」に注目している。7/21インフォ


Anthropicは、サンフランシスコ周辺に、AIを活用した生物学の実験施設を新設する方針。Claudeで実験の自動化を進め、創薬や希少疾患の治療法探索などの研究開発を加速させるという。9/19日経

生命科学の分野では、すでに成果も出始めている。Anthropicは、Claudeが、遺伝子編集に革命をもたらした「CRISPR」に似た、これまで知られていなかった分子システムの発見に貢献したと発表した。新たな遺伝子編集ツールの候補になりうるという。今回の発見は、同社が今春に立ち上げたバイオテック研究グループにとって、初の目立った成果となる。9/23インフォ


新規株式公開(IPO)は、当初見込みの10月から11月にずれ込む見通し。OpenAIによる競合モデルの投入や、金利上昇に伴うデータセンター建設コストの増加、安価なオープン型モデルの台頭などを背景に、投資家の姿勢は慎重になっている。そこで、好調が見込まれる2026年7〜9月期の決算を目論見書に盛り込み、投資家へのアピールを強める狙いとみられる。9/18インフォ、9/19日経


■ギフト・ホールディングス(日本)

元祖油堂にはたまに行くようになったが、豚山や町田商店にはほとんど行かない。とはいえ、各ブランドに個性があり、成長にも勢いがあるので、株価が大きく下がる場面があれば少し買ってみたい。


■中国CATL

EV(電気自動車)用電池と蓄電池の世界最大手。電池の性能向上は速く、自動車のEVシフトは今後さらに加速していきそう。2025年の世界の自動車販売に占める中国勢のシェアは25%に達し、日本勢(26%)を早ければ今年にも上回る見通し。8/9日経、9/22日経、9/27日経

中東情勢を受けた燃料価格の高騰などを背景に、世界的にEV需要が高まっている。CATLの車載電池の世界シェアは40%まで上昇し、首位を維持している。中国国内では47%に達する。7月に発表した4〜6月期決算では、主力の車載電池事業が前年同期比46%増収となった。

売上高の約2割を占める蓄電池事業も88%増と急成長している。世界的なAI需要の拡大を背景に、データセンター向けなどの出荷が好調。EVだけでなく、電力インフラやAIデータセンターの拡大も成長の追い風になりつつある。

課題は二つ。一つは、中国国内での競争激化により、粗利益率が21%と前年同期から2ポイント低下し、収益性が圧迫されていること。もう一つは、米国が中国製品に最大145%などの高関税を課しているほか、各国でもセーフガード(緊急輸入制限)など保護主義的な措置が広がる可能性があること。7/24日経、7/27日経、7/30日経

米ファーボ・エナジー 調査レポート

 *Gemini、Claude、ChatGPTの3つにそれぞれ調査レポートを書かせ、それをClaudeとChatGPTに要約させた。両者を比べたところ、Claude版の方がわかりやすかったため、そちらを採用した。


銘柄:NASDAQ・FRVO 調査基準日:2026年7月29日 株価:21.12ドル/時価総額:約62.2億ドル


最初に:この会社を3分で理解する

何をしている会社か

石油・シェール開発で使われる「横向きに掘る技術」と「岩を割って水の通り道をつくる技術」を、地熱発電に持ち込んだ会社です。これまで地熱発電は火山地帯など限られた場所でしかできませんでしたが、この方法なら地下が熱ければどこでも発電できる可能性があります。

なぜ注目されているか

AIの普及でデータセンターの電力需要が急増しています。太陽光や風力は天候で発電量が変わるため、24時間止まらない電源が必要です。地熱は天候に左右されず、CO2も出しません。「AI時代に足りない電源」の有力候補として、Googleなどが早くから契約を結んでいます。

今どういう状態か

ここが最も重要です。ファーボが今実際に動かしている発電所は約3MW。一般家庭で言えば数千世帯分にすぎません。一方、建設中のCape Station(ユタ州)は500MWで、実に約140〜170倍の規模です。

つまりファーボは今、「実験に成功した会社」から「大規模な電力会社」へ一気に飛び移ろうとしている途中にあります。

株価はどうなっているか

2026年5月13日にNASDAQへ上場。公開価格27ドルに対し初日終値は36.54ドル、時価総額は一時100億ドルを超えました。しかしその後は下落が続き、**7月29日時点で21.12ドル(公開価格から約22%安、初日終値から約42%安)**です。


結論

会社と技術は非常に魅力的。ただし現在の株価は、Cape Stationが「かなりうまくいくこと」をすでに前提にしている。

現在の時価総額約62億ドルは、年間売上約10億ドルを稼いで黒字を出している地熱大手オーマット・テクノロジーズ(約61〜63億ドル)とほぼ同じです。ファーボの売上は2025年で約13.8万ドル、つまり実質ゼロです。

したがってファーボ株は「割安な電力株」ではなく、次世代地熱の商用化に賭ける高リスクの成長株です。

評価項目 判断
企業の競争力 高い
技術力 高い。ただし大規模商用運転は未検証
成長性 非常に高い
短期的な財務リスク IPOにより低下
事業の実行リスク 非常に高い
株価の割安・割高 中立、やや慎重

向いている投資家:値動きの激しさを許容でき、Cape Stationの進捗を数年単位で追いかけられる人。ポートフォリオの中核ではなく、小さめの成長・投機ポジションとして持つのが妥当です。

向いていない投資家:安定配当や業績の裏付けを重視する人。ファーボは当面、配当も黒字も出しません。


1.何をしている会社か

1-1.会社の基本情報

項目 内容
会社名 Fervo Energy Company
設立 2017年
本社 米国テキサス州ヒューストン
共同創業者 Tim Latimer(CEO)、Jack Norbeck(CTO)
上場 2026年5月13日 取引開始(5月14日に手続き完了)、NASDAQ
ティッカー FRVO
事業内容 次世代地熱発電所の開発・保有・運営
中核技術 EGS(次世代地熱)
従業員数 約199名(2026年半ば。2025年時点は約146名)
稼働中の発電容量 約3〜3.5MW
建設中 約500MW
契約済み(拘束力あり) 658MW
契約収益残高 約72億ドル(約15年分の合計)
保有・リース面積 約60〜61万エーカー

創業者について

Tim Latimer CEOは、資源大手BHPでシェールガスの掘削エンジニアとして数百本の坑井に関わった人物です。その後スタンフォード大学で修士とMBAを取得しました。Jack Norbeck CTOは同じくスタンフォードで地熱貯留層工学の博士号を取り、米地質調査所で地震の研究をしていました。

二人はスタンフォードで出会い、「シェール革命を起こした掘削技術を地熱に使えば、地熱の立地制約はほぼなくなる」という発想でファーボを立ち上げました。創業者が石油業界出身であることは、この会社を理解するうえで重要です。ファーボの強みは新技術の発明ではなく、すでに完成した技術を別の産業に移植したことにあります。

1-2.地熱発電の「これまで」と「ファーボの新しさ」

従来の地熱発電が抱えていた制約

従来型の地熱発電は、地下に次の3つが自然にそろっている必要がありました。

  1. 十分な熱がある
  2. 水(地下水)がある
  3. 岩に水が通る割れ目がある

3つ揃う場所は限られます。日本、アイスランド、インドネシアなど火山地帯に地熱発電が集中しているのはこのためです。熱はあるが水や割れ目がない場所が世界には膨大にありますが、そこは使えませんでした。

ファーボのやり方

ファーボが手がけるEGS(Enhanced Geothermal Systems、日本語では「次世代地熱」「涵養地熱」)は、足りないもの(水と割れ目)を人工的に作ってしまう発想です。

イメージとしては、地下に人工の「やかん」を作ると考えるとわかりやすいでしょう。

  1. 地下数千メートルまで垂直に掘る
  2. 高温の岩盤の中で、進路を横向きに変えてさらに数千メートル掘る(水平掘削)
  3. 横穴から高圧の水を送り込み、岩に細かい割れ目を作る(水圧刺激・フラッキング)
  4. 平行する2本の井戸のうち、片方から冷たい水を入れる(注入井)
  5. 水が割れ目を通る間に岩の熱で温められ、もう片方から熱水として戻ってくる(生産井)
  6. 地上のORC発電設備でその熱を電気に変える

ORC発電設備とは、地熱の熱水から別の液体に熱を移し替えてタービンを回す装置です。「バイナリー(二循環)方式」とも呼ばれます。

なぜわざわざ熱を移し替えるのか、少し補足します。地下から上がってくる熱水は200℃を超えることもありますが、高い圧力がかかっているため沸騰せず、液体のままです。液体ではタービンは回せません。かといって、通常の火力発電が500〜600℃の高温高圧蒸気を使うのに対し、地熱の150〜240℃程度では、水を無理に蒸気にしても力が足りません。

そこでORCでは、熱水を熱交換器に通し、イソブタン(常圧での沸点 約−12℃)やイソペンタン(同 約28℃)といった、水よりはるかに低い温度で沸騰する液体に熱だけを渡します。この液体なら地熱程度の温度でも勢いよく気化するため、その蒸気でタービンを回せます。

熱を渡し終えた地熱水は、蒸気にせずそのまま地下へ戻します。そのため水を失わずに循環させ続けられる点も重要で、乾燥した米国西部でこの方式が選ばれる理由の一つです。

※本レポートでは、米国企業の開示に合わせて坑井の温度を華氏(°F)で表記しています。摂氏に直すには(°F−32)÷1.8で計算します。ファーボの坑井は350〜460°F(約177〜238℃)で、ORC発電に適した温度帯です。

技術の3本柱

技術 何をするものか どこから来たか
水平掘削 地中で進路を横に変え、熱い岩に長く接触させる シェールガス開発
多段階の水圧刺激 岩に水の通り道を人工的に作る シェールガス開発
光ファイバー計測 井戸に光ファイバーを通し、地下の温度・水量・圧力をリアルタイムで測る 石油・ガスの坑井管理

3つともすでに何十万本もの井戸で使われ、完成度の高い技術です。だからこそファーボは短期間で改善を進められています。

1-3.標準化という戦略:GeoBlockとGeoCluster

ファーボは、発電設備を50MW単位の「GeoBlock」に規格化し、同じ地域に複数のGeoBlockを並べる「GeoCluster」方式を採っています。

発電所を1件ずつオーダーメイドで設計するのではなく、同じものを繰り返し作る。Latimer CEOはこれを「manufacturing mentality(製造業の発想)」と呼んでいます。

これが重要なのは、繰り返すほど安く速くなるからです。実際、後述するようにファーボの掘削日数とコストは急速に下がっています。逆に言えば、この「繰り返し効果」が続かなければ投資テーゼは崩れます。


2.どんなプロジェクトを持っているか

2-1.Project Red(ネバダ州)— 技術を証明した実証プラント

  • 規模:約3〜3.5MW
  • 場所:ネバダ州ハンボルト郡
  • 商業運転開始:2023年10月30日
  • 電力の行き先:NV Energyの送電網を経由してGoogleのデータセンターへ

Googleとは2021年に提携しており、企業がEGSの開発に資金を出した世界初の事例でした。第三者の技術評価では最高位のTRL-9(実運用で実証済み)を取得しています。

意義:水平掘削型のEGSで実際に発電し、電力網に送れることを世界で初めて示しました。

限界:規模が小さすぎます。しかも614日間の運転データを見ると、ピーク時3.5MWに対し、定常運転では総出力2.1MW・実質的な純出力は約1.4MWにとどまりました。会社自身も「限定的な実証プロジェクトであり、商用規模ではない」と説明しています。

Project Redの成功は「原理が使える」ことの証明であって、「500MWが作れる」証明ではありません。ここは冷静に区別すべき点です。

2-2.Cape Station(ユタ州)— この会社の全て

ファーボの企業価値のほぼ全てを左右する旗艦プロジェクトです。ユタ州ビーバー郡にあり、米エネルギー省の地熱研究拠点「FORGE」の隣という好立地です。

段階 容量 予定時期
Phase I・最初の設備 約33MW 2026年第4四半期
Phase I 全体 約100MW 2027年初頭
Phase II 約400MW 2028年
合計 約500MW 2028年

現在の進捗:Phase Iの最初の発電設備は機械的完成の段階に入り、試運転が進んでいます。Phase IIについても掘削と発電設備の建設がすでに始まっています。

将来性:この敷地では最大2GW(2,000MW)分の開発許認可をすでに取得済みです。500MWは最終形ではありません。

発電設備:Baker Hughesが5基のORC設備を供給します。その他、Turboden(三菱重工グループ)、ABB、Vallourecなどと資材・設備の供給関係を築いています。

2-3.その先のパイプライン

開発段階 容量 どう評価すべきか
稼働中 約3MW  実績
建設中(Cape Station) 約500MW  価値評価の中心
着工準備段階 約550MW  一定の価値を認めてよい
後期開発段階 約2,600MW  一部のみ価値を認める
初期開発段階 約38,450MW  ほぼ価値を付けるべきでない
合計 約42.1GW  —

約38GWの初期案件は、地下の熱量、許認可、送電線、顧客契約、採算性のいずれも十分に確認されていません。「42GWのパイプライン」という数字が独り歩きしやすいので注意が必要です。実質的には、建設中の500MWと着工準備の550MW、合わせて約1.05GWが評価の軸になります。

なお、着工準備段階にはネバダ州の**Corsac Station(150MW、2030年稼働目標)**が含まれます。これはGoogle/NV Energy向けの案件です。

2-4.誰に電気を売るのか

ファーボは合計658MWについて、拘束力のある電力販売契約(PPA)を締結済みです。

顧客 容量 内容
Southern California Edison(南カリフォルニア・エジソン) 320MW 2024年6月、15年契約2本。締結当時「世界最大の地熱PPA」。約35万世帯分
Google/NV Energy 115MW ネバダ州の制度(クリーン移行料金)を通じて供給
Clean Power Alliance 48MW 2028年第2四半期稼働見込み
Ava Community Energy 40MW 2026年第4四半期開始
Shell Energy North America 31MW Cape Station Phase Iの最初の買い手
カリフォルニア州CCA連合 20MW 9社連合
合計 658MW 契約収益残高 約72億ドル/平均残存期間 約15年

PPA(電力販売契約)が重要な理由は3つあります。

  1. 何年も先まで販売価格が決まるため、電力市況の変動を受けにくい
  2. 銀行が融資を判断しやすくなる(返済原資が読めるため)
  3. 発電所の完成前に収益の見通しが立つ

ただし「72億ドル」の読み方には注意が必要です。 これは約15年間に受け取る割引前の売上の合計額であり、利益でも現在価値でもありません。単純に15で割ると年間約4.8億ドルです。ここから運転費、修繕費、支払利息、減価償却、税金を引いたものが利益になります。

2-5.Googleの「最大3GW」をどう読むか

2026年3月、Googleと「2033年までに最大3GWの地熱案件を提案する」枠組み協定を結びました。最初の2年間で1GWを提案する計画です。報道でも大きく取り上げられました。

しかし、これは契約ではありません。 ファーボ自身がSEC提出書類(S-1)のリスク要因で明記しているとおり、Googleには次の義務がありません。

  • 電力を購入する義務
  • 提案された案件を受け入れる義務
  • プロジェクトに資金を提供する義務

Googleは提案を自由に断ることができ、2028年3月までに拘束力のある契約が成立しなければ、双方が解約できます。

したがって、3GWを「受注残」として企業価値に足し込むのは誤りです。正しくは、**将来契約に化ける可能性を持つ「オプション価値」**として扱うべきものです。

さらにS-1は、Googleが定義する「競合他社」からファーボが資本を受け入れることを制限する合意があることも示唆しています。会社側は「排他契約ではなく、他のハイパースケーラーとも協議中」と説明していますが、成長の柔軟性を縛る可能性は残ります。


3.業績とお金

3-1.これまでの業績

単位:百万ドル

項目 2024年 2025年 2026年1〜3月
売上高 0.199 0.138 0.061
営業損失 ▲41.8 ▲48.8 ▲20.1
純損失 ▲41.1 ▲57.8 ▲31.8
営業キャッシュフロー ▲54.7 ▲31.8 赤字
設備投資 178.7 465.7 172.8

2025年末時点の累積赤字は約2億4,450万ドルです。

この表の読み方

売上高0.138(百万ドル)=約13.8万ドル。日本円でおよそ2,000万円程度で、これは中小企業1社分にも届きません。一方で設備投資は2025年だけで**4.66億ドル(約700億円)**を投じています。

つまり現在のファーボは、電気を売って稼ぐ会社ではなく、巨大な発電所を建設している最中の開発会社です。損益計算書を見て「赤字だから危ない」と判断するのは、この段階では適切ではありません。見るべきは「予定どおり建設が進んでいるか」と「資金が続くか」です。

2026年1〜3月期の補足:純損失31.8のうち約13.1はワラント(新株予約権)の評価損という現金支出を伴わない費用です。したがって単純に4倍して年間損失を見積もるのは適切ではありません。ただし上場企業になったことで、人件費・株式報酬・法務・管理費は今後増える見込みです。

3-2.お金は足りているか

2026年3月末の手元現金:約2.81億ドル

その後、以下の資金を確保しました。

資金源 金額
IPOの手取り 約20.43億ドル
ワラント行使 約0.19億ドル
Cape Phase I向けノンリコース融資枠 約4.21億ドル

ノンリコース融資とは、「返済の原資をそのプロジェクトの資産と収入だけに限定し、失敗しても会社本体に返済を求めない」タイプの融資です。銀行にとってはリスクが高いため、成立したこと自体が、金融機関が技術・建設計画・PPAを一定水準で評価した証拠になります。この融資はRBC、Barclays、HSBC、J.P. Morgan、BofA、BBVA、MUFG、三井住友信託、Société Généraleという9行の国際シンジケートで組成されました。大手銀行団が次世代地熱に本格融資した初めての事例であり、業界全体にとっても画期的でした。

支出の予定:会社は2026年3月末からの12か月間で約12億ドルの設備投資を計画しており、うち約11億ドルがCape Station向けです。

評価:IPOによって、当面(おおむね2027年頃まで)の資金不足リスクは大きく下がりました。ただし、その先の550MW、2.6GWへ進むには追加のプロジェクト融資や増資が必要になる可能性が高いと見ておくべきです。

3-3.今後の業績予想

会社は詳しい売上ガイダンス(業績見通し)を出していません。以下は、運転開始時期・契約容量・72億ドルの契約収益残高から逆算した参考値です。

単位:百万ドル

項目 2026年予想 2027年予想 2028年予想 2029年予想
年末の稼働容量 約33MW 約100MW 約500MW 500〜658MW
売上高 3〜10 70〜100 180〜300 330〜480
EBITDA ▲40〜▲70 ▲10〜+25 50〜140 150〜260
設備投資 900〜1,200 700〜1,200 500〜900 新規案件次第

EBITDAとは、支払利息・税金・減価償却を差し引く前の利益で、設備産業の稼ぐ力を見る指標です。

予想の考え方:658MWで72億ドル・15年ですから、全案件が稼働すれば年間約4.8億ドル。このうちCape Stationの500MWを容量比で計算すると年間約3.65億ドルになります。したがって500MWが通年で動く2029年の売上は3.3億〜4.3億ドル、残りの契約案件が加われば4.8億ドルに近づく、という組み立てです。

この予想が外れる要因:発電所の完成時期、系統接続の時期、実際の発電出力、設備利用率、送電容量、PPA上の違約金や契約変更。特に完成時期のズレは、そのまま売上計上時期のズレになります。


4.なぜ期待されているのか

4-1.最大の追い風:AIとデータセンター

ファーボの成長シナリオを支える一番大きな要因は、生成AIの普及によるデータセンターの電力消費の急増です。

AI用のデータセンターは、従来型と比べて桁違いに大きな電力を、途切れることなく必要とします。太陽光は夜に止まり、風力は無風時に止まるため、これらだけではAIデータセンターを支えられません。

地熱発電は設備利用率が75〜90%超(1年のうちどれだけフル稼働できるかの割合)で、24時間安定して発電できます。しかもCO2を出しません。GoogleやMicrosoftなどが掲げる「24/7カーボンフリー電力」という目標を満たせる、数少ない現実的な選択肢です。

ファーボはこの流れをさらに強調するため、2026年6月22日に**NVIDIA・パシフィックノースウエスト国立研究所(PNNL)と共同で「EGS-Twin」**を発表しました。これは地下の貯留層をコンピュータ上で再現する「デジタルツイン」で、2029年完成予定です。この発表だけで株価は時間外取引で11%以上上昇しました。市場が「地熱×AI」という物語にどれだけ敏感かを示す出来事でもあります。

4-2.強み①:掘削の「学習曲線」

ファーボの最大の技術的強みは、掘るたびに速く安くなっていることです。

世代 時期 仕様 掘削日数
第1世代(Project Red) 2022年 深さ11,220フィート、横穴3,250フィート、350°F(約177℃) 70日
第2世代(Cape Phase I) 2024〜25年 横穴5,000フィート、400°F(約204℃) —
第3世代(Sawtooth 7) 2026年7月 深さ19,448フィート、横穴7,500フィート、460°F(約238℃) 21日

この表の重要な点:単に速くなっただけではありません。より深く、より熱く、より長い井戸を、3分の1以下の日数で掘っているのです。難易度が上がっているのに時間が減っている、というのが本質です。

  • 掘削費:Cape Stationの最初の4本で、1本あたり940万ドル→480万ドル(約49%減)
  • 掘削速度:Cape Stationの最初の井戸と比べて143%向上
  • 掘進率:4本目で平均70フィート/時。これは米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2035年に達成すると予測していた水準をすでに上回っています

地熱事業では掘削が最大のコスト項目です。Devon EnergyのCTOは「ファーボの掘削改善はシェール革命の初期を見ているようだ」と評しています。

ただし注意点:これは「ユタ州の同じ地層で、同じ井戸を何本も掘った」結果です。別の地域で再現できるかは、まだ証明されていません(→リスクの項目5参照)。

4-3.強み②:長期契約をすでに押さえている

658MW・約72億ドル分の販売先が確保済みです。

地熱に限らず、エネルギーの新技術は「技術はできたが買い手がいない」で頓挫することがよくあります。ファーボは技術開発と並行して、電力会社やGoogleといった大口顧客との契約を先に取っている点で競合をリードしています。

4-4.強み③:資金を集める力

IPOで約20.43億ドル、プロジェクト融資で約4.21億ドルを確保しました。これに加えて、上場前も一貫して有力投資家から資金を集めてきました(詳細は付録B)。

特筆すべきは日本勢の存在感です。三井物産、三菱重工、丸の内キャピタルが株主として参加し、MUFGと三井住友信託が融資団に加わっています。日本の投資家にとっては、間接的な情報が得やすい銘柄でもあります。

4-5.強み④:石油・ガス産業の資産をそのまま使える

地熱産業をゼロから作るのではなく、既存の石油・ガス産業の機材・人材・部品・サプライチェーンを流用できる点は大きな優位です。

  • Devon Energy(シェール大手・戦略株主)を通じた高性能ドリルビットと掘削クルーの確保
  • Helmerich & Payne(掘削リグ大手)が戦略株主
  • 掘削エンジニアの人材プールが石油・ガス業界にすでに存在する

新技術の多くは「サプライチェーンがない」ことで詰まります。ファーボにはその問題がありません。

4-6.強み⑤:政策の追い風

2025年に成立した米国の税制法「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」により、地熱は税制優遇が最も手厚く残されたクリーン電源の一つになりました。

電源 税額控除(45Y/48E)の扱い
地熱・原子力・蓄電池 2033年に着工すれば満額。2034年75%、2035年50%、2036年ゼロへ段階的に縮小
太陽光・風力 2027年末までの稼働、または2026年夏までの着工が条件(大幅に前倒しで打ち切り)

つまり、太陽光と風力が優遇を早期に失う一方、地熱は7年以上長く優遇を受けられます。地熱は米国では珍しく超党派の支持を得ている電源で、現政権もEGSの研究開発を重視しています。

これはファーボにとって、単なる追い風以上の意味があります。同じ土俵で戦う再エネのコストが上がる一方、自社のコストは据え置かれるからです。

留意点:FEOC(懸念国事業体)規制により、2025年12月以降に着工する案件では中国製部品などに制約がかかります。また、将来の政権交代による税制変更リスクは常に残ります。

4-7.市場はどれくらい大きいか

出所 推計
米エネルギー省(DOE) コスト低下が進めば、米国の地熱容量は2050年までに約90GWへ(米国電力需要の約12〜20%)
DOE(広義シナリオ) 次世代地熱・地下蓄熱を含めれば米国で最大300GW
米地質調査所(USGS) 米南西部グレートベースンだけで135GWの潜在量
国際エネルギー機関(IEA) 世界全体で最大約800GW、年間約6,000TWh
現状(2024年) 米国の地熱容量は約3.97GW(全米電力の1%未満)、世界で約15.1GW

規模感の掴み方:ファーボが米国90GW市場の5%を取れば4.5GW。これは現在建設中の500MWの9倍です。市場の大きさ自体は疑いようがありません。

ただし冷静に:「地下に熱がある」ことと「採算の取れる発電所が建つ」ことは全く別です。実際の市場は、地下温度と深さ、送電線への接続、許認可、水の確保、地域住民の理解、建設資金、電力購入契約、金利と税制によって大きく削られます。

実際、東海岸や中西部では4,000m超を掘る必要があるため、発電コストが200〜350ドル/MWhに達し、経済的に成立しないという分析もあります。当面のファーボの主戦場は米国西部に限られると考えるのが現実的です。

なお発電コストの目安として、DOEは2035年に45〜50ドル/MWhを目指しており、市場では70ドル/MWhを切れるかどうかが事業性の分かれ目とされています。

4-8.競合の中でのファーボの位置

競合は「他の次世代地熱企業」だけではありません。データセンターに電気を売る競争相手は、天然ガス発電も原子力も含みます。

地熱業界内の比較

企業 技術 上場区分 規模 特徴
Fervo Energy 次世代地熱(水平掘削+水圧刺激) NASDAQ・FRVO 時価総額 約62億ドル EGSで唯一の上場企業。商業規模で最も先行
Ormat Technologies 従来型地熱+排熱回収 NYSE・ORA 時価総額 約61〜63億ドル、年商約10億ドル・黒字 60年の歴史を持つ世界最大の地熱事業者。安定するが成長は限定的
Eavor(カナダ) クローズドループ(密閉循環) 未上場 累計調達 約2.45億ドル 岩を割らないため地震リスクなし。独Geretsried(65MW)が2025年12月に初発電。中部電力が出資
Sage Geosystems 地下蓄圧+EGS 未上場 累計調達 約1.14億ドル Metaと150MW契約。蓄電用途に特化
XGS Energy クローズドループ+高熱伝導セメント 未上場 累計調達 約0.57億ドル Metaと提携
Quaise Energy ミリ波で超深部(最大20km)を掘る 未上場 累計調達 約0.91億ドル 技術は最も未成熟。成功時のインパクトは最大

地熱以外の競合

  • 天然ガス発電:現在ガスタービンが供給不足で入手困難ですが、これが解消したりガス価格が下がれば、顧客はガスを選ぶ可能性があります
  • 原子力・小型モジュール炉(SMR):同じく24時間電源として競合
  • 太陽光+蓄電池:コスト低下が続いており、「安い変動電源+蓄電池」で代替される可能性

ファーボの位置づけ:業界誌からは「地熱のウェストポイント(士官学校)=業界標準を規定する存在」と評されています。従来型地熱が適地の枯渇という物理的限界に直面するのに対し、EGSはギガワット級の横展開が可能です。市場はこのスケーラビリティの差にプレミアムを払っています。


5.何が危ないのか(リスク)

重要度が高いと考えられる順に並べます。各項目の末尾に「どう見分けるか」を付けました。

リスク1:500MW規模ではまだ何も証明されていない【最重要】

現在の稼働実績は約3〜3.5MW。Cape Stationの500MWは約140〜170倍です。

井戸を1本掘って発電することと、数十本の井戸を地下でつなぎ、20年以上安定して運転することは、質的に違う問題です。会社自身も、Project Redは限定的な実証にすぎず、Cape Stationが初めての本格的な商用展開だと認めています。

どう見分けるか:2026年第4四半期の初送電が予定どおりか。そして2027年初頭に100MWが安定して出力を維持できるか。

リスク2:送電線が足りない【最も具体的で差し迫ったリスク】

Cape Station Phase IIについて、現時点で確保できている送電・接続の権利は約290MW分です。一方、Southern California EdisonとClean Power Allianceとの契約容量は合計384MWあります。

約94MW分、売る先はあるのに送る手段がないという状態です。

追加の送電容量を確保できなければ、売上減少、違約金、契約の変更、最悪の場合は契約解除につながります。地熱の適地は送電インフラの乏しい地方に多く、この問題は構造的です。Jefferiesのアナリストも「米国西部の送電制約が展開を減速させうる」と指摘しています。

どう見分けるか:四半期決算で追加の接続権取得が発表されるか。発表がないまま2027年に入れば警戒信号です。

リスク3:契約上の運転開始期限に余裕がない

PPAには「いつまでに運転を開始するか」の期限が定められています。

対象 期限
Cape Phase I Unit 1 2026年10月1日
Cape Phase I Units 2・3 2027年1月1日
Cape Phase II 2028年6月1日

期限を過ぎると違約金が発生し、6か月以上遅れると相手方が契約を解除できる可能性があります。

ここで注意すべきは、会社が公表している「2026年第4四半期に初送電」という表現です。第4四半期は10月〜12月ですが、Unit 1の期限は10月1日。つまり発表時点ですでに期限ぎりぎり、あるいは若干超過している可能性があります。

どう見分けるか:9月の決算発表で、Unit 1の運転開始日について具体的な言及があるか。違約金の計上が始まっていないか。

リスク4:建設費がまだ高い

2026年3月時点で、50MW GeoBlockの想定建設費は1kWあたり約7,000ドルです。これは原子力並みで、新設のガス火力の約3倍にあたります。

建設費の水準 500MWを作るのに必要な金額
7,000ドル/kW(現在) 約35億ドル
5,500ドル/kW(Phase II目標) 約27.5億ドル
3,000ドル/kW(長期目標) 約15億ドル

この差20億ドルが、そのまま将来の投資収益率を決めます。

掘削費は下がっていますが、それだけでは足りません。発電設備、地上の配管、送電線、金利負担も同時に下げる必要があります。

どう見分けるか:会社が四半期ごとに開示する建設費/kWの実績値。7,000→5,500への進捗が見えないまま2027年を迎えるなら要注意。

リスク5:ユタ州での成功を他の場所で再現できるか

掘削の劇的な改善は、同じ地域・同じ地質で井戸を繰り返し掘った結果です。

別の州や海外では、岩の硬さ、断層の配置、地下温度、水圧が違います。ユタ州で得た学習効果がそのまま移植できる保証はありません。業界ではこれを「艦隊学習曲線(fleet learning curve)」の問題と呼びます。1つのプロジェクト内での改善と、複数プロジェクトをまたいだ改善は別物だという指摘です。

長期目標の3,000ドル/kWは、この移植が成功することを前提としています。

どう見分けるか:Cape Station以外(ネバダのCorsac Stationなど)で掘削が始まったとき、初期の掘削日数がどの水準からスタートするか。ユタの最新値に近ければ移植成功、Project Red並みに戻れば移植失敗のサインです。

リスク6:地下は思ったとおりにならないことがある

EGSには、地下特有の不確実性がつきまといます。

  • 地下温度や圧力が想定を下回る
  • 水の流量が足りない
  • 井戸と井戸のつながりが悪い
  • 熱の回収効率が落ちる
  • 時間とともに出力が下がる(熱減衰)
  • 追加の掘削や「再刺激」工事が必要になる

特に重要なのが長期的な熱減衰(Thermal Drawdown)です。 地下の岩から熱を吸い続ければ、井戸の周りの岩は徐々に冷えていきます。Project Redは614日の運転で温度の安定を示しましたが、シミュレーションでは約500日で熱の減退が始まるとも予測されていました。20〜30年にわたる性能維持は、実際に10〜15年運転してみないと確認できません。

想定より早く出力が落ちれば、補完の井戸を掘ったり再刺激工事をしたりする必要が生じ、維持のための追加投資が収益性を圧迫します。

なお第三者の専門メディア(GeoExpro)は、ファーボの公表データについて「流量の一貫性が未実証」「生産率の低下が見られる」「地層への流体の逃げがある可能性」と批判的な分析を示しています。

どう見分けるか:Cape Station稼働後、四半期ごとの実際の発電量と設備利用率。公称容量に対して実績が何%か。

リスク7:地震を起こす可能性と、地域の反発

地下深くに高圧で水を注入すれば、小規模な地震が起きることがあります。

ファーボは光ファイバー計測とリアルタイムの地震監視を組み合わせ、一定以上の揺れを検知したら注水を止める**「信号機システム」**を採用しています。米エネルギー省の誘発地震緩和プロトコル(ISMP)にも準拠しています。

実際の運用例として、Cape StationのFrisco 1-I井戸で水圧刺激を行った際、マグニチュード2以上3未満の「黄色」区分の事象を2回検知し、その都度6時間ポンプを停止しています。管理は機能していますが、ゼロではないということでもあります。

一定規模以上の地震が発生すれば、操業停止、許認可の遅延、住民の反対運動、訴訟、保険料上昇につながります。

どう見分けるか:ユタ州地質調査所や米地質調査所(USGS)の地震データ。地元メディアの報道。

リスク8:操業上の事故リスク

2026年5月下旬、Cape Stationの試掘井で井戸の吹き出し(ブローアウト)が発生したという報告があります。 地熱井には可燃性の炭化水素が含まれないため、大規模火災や重大な環境汚染には至らず、規制当局もプロジェクト全体への影響は限定的と判断したとされています。

ただし、高温・高圧の地下流体を制御することの技術的難しさを示す出来事ではありました。IPO直後というタイミングも含め、記憶しておく価値があります。

※本件は統合元の資料のうち1本にのみ記載があり、SEC開示ベースでは確認できていません。投資判断に使う前に一次情報での確認を推奨します。

リスク9:Googleの3GWは受注ではない(再掲)

前述のとおり、Googleに購入義務・受入義務・資金提供義務はありません。2028年3月までに拘束契約が成立しなければ双方解約可能です。

バリュエーション上、3GWを受注残として扱うべきではありません。

どう見分けるか:拘束力のあるPPAへの転換が発表されるか。2027年中に動きがなければ、この枠組みの価値は大きく割り引くべきです。

リスク10:資本集約性・金利感応度・希薄化

地熱は掘削費が発電開始前に前倒しで発生する「フロントヘビー」な事業です。洋上風力と同様、金利上昇に他の電源より敏感で、プロジェクト融資への依存度も高くなります。高金利が続いたり資材価格が上がったりすれば、投資収益率は直接圧迫されます。

希薄化:2026年の株式報酬制度向けに約3,511万株が予約されています。これは現在の発行済株式数の約12%に相当し、全て発行されれば1株あたりの価値は約11%下がります。加えて、数GW規模へ拡大するには追加増資が必要になる可能性があります。

リスク11:創業者が議決権を支配している

Class B株は1株あたり40議決権を持ちます。共同創業者は、経済的な持分では約2.7%にすぎませんが、議決権では約52.1%を握っています。

長期的な経営判断がぶれにくいというメリットはありますが、一般株主は取締役の選任やM&Aにほとんど影響を与えられません。経営が誤った方向に進んでも、株主から軌道修正させる手段が限られます。

リスク12:株価の需給と値動きの荒さ

上場から2か月半で、52週高値42.65ドルから21.12ドルへ約半値になりました。

さらに、IPOのロックアップ(既存株主の売却制限)が2026年11月頃に明けると見られます。ロックアップ解除は一般に需給の悪化要因です。

どう見分けるか:正確なロックアップ満了日は目論見書に記載があります。事前に確認しておくべきです。

リスク13:水の確保

米国西部は乾燥地帯です。Cape Stationは飲用に適さない塩水の帯水層の上にあり飲料水とは干渉しないとされ、将来的には回収率99%超、注入水は100%が汽水・劣化水という目標を掲げています。それでも、長期的な水の確保は西部での事業拡大における継続的な課題です。


6.株価は高いのか、安いのか

6-1.現在の株価と、これまでの推移

時点 株価 時価総額
Series E(2025年12月・未上場時) — 約28.6億ドル
IPO公開価格(2026年5月12日) 27.00ドル 約76.5〜77億ドル
上場初日終値(5月13日) 36.54ドル 約100億ドル
52週高値 42.65ドル —
2026年7月27日 23.98ドル 約70.7億ドル
2026年7月29日 21.12ドル 約62.2億ドル
  • 発行済株式数:約2億9,464万株(Class A・Class B合計)
  • IPO価格からの下落率:約21.8%
  • 上場初日終値からの下落率:約42.2%
  • 52週レンジ:20.76〜42.65ドル

わずか2か月半で半値という値動きの荒さ自体が、この銘柄の性格を示しています。

6-2.3つのモノサシで測ってみる

売上がほぼないため、PER(株価収益率)やPSR(株価売上高倍率)は使えません。代わりに契約収益残高を基準にします。

モノサシ 倍率
時価総額 ÷ 72億ドルの契約収益残高 約0.86倍
時価総額 ÷ 契約収益の年間平均(約4.8億ドル) 約13倍
時価総額 ÷ 500MW稼働時の推定年間売上(約3.65億ドル) 約17倍

1つめの数字(0.86倍)だけを見ると割安に見えます。 「72億ドルの契約を持つ会社が62億ドルで買える」という理屈です。強気派もこの点を強調します。

しかしこれは錯覚です。 72億ドルは約15年分の売上の合計であり、しかも割引前の名目額です。年間に直せば4.8億ドルにすぎず、そこから運転費、修繕費、支払利息、減価償却、税金を引く必要があります。

より実態に近いのは2つめと3つめで、年間売上の13〜17倍という水準です。これは電力会社としてはかなり高い評価です。

6-3.オーマットとの比較(最も分かりやすい比較)

項目 Fervo(FRVO) Ormat(ORA)
時価総額 約62億ドル 約61〜63億ドル
年間売上高 2025年 約13.8万ドル(実質ゼロ) 2025年 約9.9億ドル/2026年予想 11.1〜11.6億ドル
利益 赤字(純損失) 黒字(純利益 約1.28億ドル)
調整後EBITDA 赤字 2026年予想 6.15〜6.45億ドル
稼働・開発ポートフォリオ 稼働3MW/建設中500MW 約1.8GW
企業価値(EV) 約70.8億ドル 約90.3億ドル
性格 高成長の次世代地熱 黒字の既存地熱大手

この表が示していることは単純です。ファーボは売上も利益もほぼないのに、年商10億ドル超・EBITDA6億ドル超を稼ぐ地熱大手とほぼ同じ値段が付いている、ということです。

もちろん、成長率と市場可能性ではファーボが圧倒的に上です。従来型地熱は適地の枯渇という物理的限界に直面しますが、EGSは広大な高温岩体を対象にできます。実際、Bernsteinはオーマットをアンダーパフォーム、ファーボをアウトパフォームとしています。

それでも、現在の株価に相当な成長プレミアムが含まれているという事実は動きません。

6-4.シナリオ別に株価を計算してみる

Cape Stationの価値、次の案件、Google案件のオプション価値を積み上げた概算です。

シナリオ 想定 株主価値 1株価値
弱気 建設遅延、建設費7,000ドル/kW前後のまま、500MWで停滞 35億〜45億ドル 12〜15ドル
基準 Capeが概ね計画どおり、5,500ドル/kW、次の550MWが前進 53億〜74億ドル 18〜25ドル
強気 1.5〜2GWへ拡大、3,000〜4,000ドル/kW、Google案件が契約化 91億〜124億ドル 31〜42ドル

※発行済株式約2億9,464万株で計算。株式報酬による希薄化を完全に織り込むと、各価格帯は約10%低下する可能性があります。

確率を掛けてみる:弱気35%、基準50%、強気15%と仮定すると、確率加重した価値は1株21ドル前後になります。

現在の株価21.12ドルとほぼ同じです。つまり、

今の株価は、大幅な割安でも割高でもなく、成功確率と失敗確率をおおむねバランスよく織り込んだ水準

と判断できます。上値も下値も、ここから約2倍・約4割という非対称な形である点は覚えておく価値があります。

6-5.アナリスト予想との食い違い(前版で欠落していた重要論点)

ここが本レポートで最も注意を促したい部分です。

証券会社のアナリスト12〜13名がファーボをカバーしており、平均目標株価は約45ドルです。現在株価の2倍以上にあたります。

証券会社 レーティング 目標株価
Piper Sandler オーバーウェイト 51ドル
Baird アウトパフォーム 50ドル(47から引き上げ)
Barclays オーバーウェイト 48ドル
Bernstein アウトパフォーム 47ドル
RBC — 46ドル
J.P. Morgan/Guggenheim/Roth/UBS — 45〜48ドル
BofA 中立→買いへ格上げ(7月16日) 36ドル(40から引き下げ)
Jefferies 中立→買いへ格上げ(7月17日) 34ドル(41から引き下げ)

注目すべきは最後の2行です。 BofAとJefferiesは、レーティングを格上げしながら目標株価は引き下げるという一見矛盾した動きをしました。

これは「会社が良くなったから買い」ではなく、**「株価が下がりすぎたから買い」**という判断です。ファンダメンタルズの改善によるものではない点は、正確に理解しておくべきです。

なぜ約45ドルと約21ドルで、2倍も差が出るのか

セルサイドの平均目標株価(約45ドル)と、6-4のシナリオ積み上げ(約21ドル)の乖離の主な原因は3つです。

論点 強気(45ドル)側の前提 慎重(21ドル)側の前提
Googleの3GW 相当程度が実現すると織り込む 非拘束なのでオプション価値どまり
建設費 3,000ドル/kWへ到達する 5,500〜7,000ドル/kWにとどまる可能性
42GWパイプライン 相応の現在価値を認める 初期段階の38GWにはほぼ価値を付けない

投資家がすべきことは、この3点について自分の立場を決めることです。

セルサイドの目標株価に乗るということは、実質的に**「Cape Stationがほぼ計画どおり進み、かつ学習効果が他地域にも移植でき、かつGoogle案件が契約化する」という3つを同時に信じる**ことに近い、という点は自覚しておくべきです。

3つとも起きれば45ドルは十分あり得ます。しかし3つとも起きる確率は、それぞれが独立に高くても、掛け合わせれば決して高くありません。


7.どう行動するか

7-1.投資判断

ファーボ・エナジーは、次世代地熱を商業化できる可能性が最も高い企業の一つです。AI時代に不足する「24時間止まらないクリーン電源」を提供できるため、成功した場合の企業価値は現在より大きく上振れる余地があります。

しかし、現在の企業価値の大部分は、まだ完成していない発電所と、まだ達成していないコスト低下を前提としています。

したがって現段階では、安定した中核保有銘柄ではなく、

Cape Stationの進捗を確認しながら保有する、小規模な成長・投機ポジション向き

というのが妥当な評価です。

ファーボへの投資は「地熱市場の拡大に賭ける投資」ではありません。

「500MWの発電所を予定どおり建設し、地下の熱を長期間、安定的かつ低コストで電力に変えられるか」という、この会社の実行力に賭ける投資です。

7-2.買い方の考え方

1.一括ではなく分割で

現在の21.12ドルはIPO価格27ドルを下回っており、心理的には買いやすい水準です。しかし実績の裏付けが薄いため、一度に買い切るのは避けるべきです。Cape Station Phase Iの初送電(2026年第4四半期)という最大の分岐点を挟んで、前後に分けて買うのが合理的です。

2.増やす条件・減らす条件をあらかじめ決めておく

増やす条件 減らす条件
Phase Iが予定どおり送電開始 送電開始が2027年へずれ込む
建設費/kWの改善が継続 建設費が7,000ドル/kWから下がらない
Phase IIの送電権が追加確保される 送電権が290MWのまま推移
Googleの枠組みが拘束契約へ転換 2027年中も動きなし

3.ロックアップ明けを意識する

2026年11月頃と見られるロックアップ解除の前後は、需給悪化で株価が軟化しやすい時期です。長期で強気なら、ここを買い場として使う考え方があります。

4.ポジションサイズの規律

弱気シナリオの1株12ドルは、現在値から約43%の下落にあたります。この下落が起きても平常心でいられる金額に抑えることが、この銘柄では最も重要なリスク管理です。

5.セクター露出の取り方

安定志向ならオーマット(黒字・従来型)、成長志向ならファーボ。両方を保有して次世代地熱への移行リスクを分散させる選択肢もあります。

7-3.今後のカレンダー

時期 イベント 見るべきポイント
2026年9月2日(観測・要確認) 第2四半期決算 建設進捗、Cape Stationのスケジュール、新規PPA。ガイダンスの下方修正は明確な弱気シグナル
2026年10月1日 Cape Phase I Unit 1のPPA期限 違約金が発生していないか
2026年第4四半期 Cape Station Phase I 初送電(最重要) 約33MWが実際に系統に接続されるか
2026年11月頃(推定) ロックアップ明け 需給の悪化度合い
2027年初頭 Cape Phase I 100MW到達 出力が安定して維持されるか
2028年6月1日 Cape Phase II のPPA期限 400MWの完成
随時 建設費/kWの実績開示 7,000→5,500→3,000への進捗
随時 Google枠組みの拘束契約化、新規大口PPA オプション価値の実現
随時 送電接続権の追加取得 Phase IIの290MW問題の解消

7-4.投資判断を左右する8つの確認項目

  1. 2026年第4四半期に最初の約33MWを稼働できるか
  2. 2027年初頭にPhase Iの約100MWが安定稼働するか
  3. 2028年にPhase IIの400MWを完成できるか
  4. Phase IIの送電容量不足(290MW対384MW)を解消できるか
  5. 建設費を7,000ドル/kWから5,500ドル以下へ下げられるか
  6. 長期運転で流量と地下温度を維持できるか
  7. Googleの枠組みを拘束力あるPPAへ転換できるか
  8. ユタ州以外でも同じ掘削効率を再現できるか

付録A.用語集

読み進めるうえで出てくる専門用語を、平易な言葉で整理します。

用語 やさしい説明
EGS(次世代地熱) 地下に熱はあるが水も割れ目もない場所で、人工的に水の通り道を作って発電する方式。「地下に人工のやかんを作る」イメージ
従来型地熱(Hydrothermal) 熱・水・割れ目が自然にそろった場所で発電する従来の方式。日本やアイスランドの地熱発電はこれ
水平掘削 地中で掘る向きを縦から横に変える技術。熱い岩に長く接触できる
水圧刺激(フラッキング) 高圧の水を送り込んで岩に細かい割れ目を作ること
注入井/生産井 水を送り込む井戸/熱水が戻ってくる井戸。この2本1組が基本単位
ORC発電設備(バイナリー方式) 地熱の熱水から、沸点の低い別の液体(イソブタン等)へ熱を移し、その蒸気でタービンを回す装置。熱水自体は蒸気にせず地下へ戻すため、水を失わない
°F(華氏) 米国で使われる温度単位。摂氏に直すには(°F−32)÷1.8。例:460°F=約238℃、350°F=約177℃
光ファイバー計測(DFOS) 井戸に光ファイバーを通し、地下の温度・水量・圧力を常時測る技術
GeoBlock/GeoCluster 50MW単位の標準化された発電ユニット/それを同じ地域に複数並べる方式
PPA(電力販売契約) 何年も先まで電気の販売価格と量を決める長期契約
契約収益残高(バックログ) 締結済みPPAで将来受け取る売上の合計額。割引前・15年分の合計であり、年間売上ではない
MW/GW 発電能力の単位。1GW=1,000MW。原発1基がおよそ1GW
設備利用率 1年のうち何%フル稼働できるか。地熱は75〜90%超、太陽光は20%前後
LCOE(均等化発電原価) 建設費から廃棄まで含めた、電気1MWhあたりの実質コスト
ドル/kW 発電設備を作るのに1kWあたりいくらかかるか。500MW=50万kWなので、7,000ドル/kWなら35億ドル
EBITDA 支払利息・税金・減価償却を引く前の利益。設備産業の稼ぐ力を見る指標
ノンリコース融資 失敗しても会社本体に返済を求めない、プロジェクト単位の融資
オーバーアロットメント IPO時に需要が強い場合、幹事証券が追加で株を売り出せる仕組み
ロックアップ 上場後一定期間(通常180日)、既存株主が株を売れない制限
希薄化 新株発行により1株あたりの価値が下がること
誘発地震 地下への注水などが原因で起きる小規模な地震
熱減衰(Thermal Drawdown) 長期運転で井戸周辺の岩の温度が下がり、発電出力が落ちること
学習曲線 同じ作業を繰り返すほど、時間とコストが下がる現象
45Y/48E 米国のクリーン電源向け税額控除の制度名。地熱は2033年着工まで満額対象

付録B.資金調達の歴史と株主構成

資金調達の履歴

時期 ラウンド/イベント 金額 主な投資家・内容
2021年4月 Series B 約0.28億ドル Breakthrough Energy Ventures(ビル・ゲイツ関連)、Capricorn
2022年8月 Series C 1.38億ドル DCVC、CPP Investments、Congruent
2023年4月 Series C追加 0.10億ドル Devon Energy(シェール大手)が初出資
2024年2月 Series D 2.44億ドル Devon Energyがリード、三菱重工、Mercuria
2024年4月 DOE助成金 0.25億ドル 米エネルギー省地熱技術局として史上最大の単一交付
2024年12月 追加調達 2.55億ドル Capricorn Technology Impact Fund IIがリード(うち株式1.35億ドル)
2025年6月 プロジェクト融資 2.06億ドル Cape Station向け
2025年12月 Series E 4.62億ドル B Capitalがリード。Google、三井物産、JB Straubel(テスラ共同創業者)等が新規参加。ポストマネー評価額 約28.6億ドル
2026年3月 Project Granite Facility(ノンリコース融資) 約4.21億ドル RBC、Barclays、HSBC、J.P. Morgan、BofA、BBVA、MUFG、三井住友信託、Société Générale の9行
2026年 税額控除の売却 非開示 Liberty Mutual Insuranceへ売却しキャッシュ化
2026年5月 IPO(NASDAQ・FRVO) 総額 約22億ドル/手取り 約20.43億ドル 8,050万株×27ドル(オーバーアロットメント1,050万株の全額行使を含む)。主幹事はJ.P. Morgan、BofA、RBC、Barclays

IPO前の累計調達額は約15億ドル。IPOで一気に約22億ドルを追加しました。なお、IPO価格ベースの評価額(約77億ドル)は、わずか5か月前のSeries E評価額(28.6億ドル)の約2.7倍です。市場の期待の高さと、その後の下落の背景がここに表れています。

主な株主

戦略投資家:Devon Energy(シェール大手)、Helmerich & Payne(掘削リグ大手)、Google

気候・機関投資家:Breakthrough Energy Ventures、DCVC、CPP Investments(カナダ年金)、CalSTRS(カリフォルニア州教職員年金)、Capricorn、Galvanize Climate Solutions、Liberty Mutual Investments、B Capital、Centaurus Capital、Congruent Ventures、Mercuria、AllianceBernstein、Sabanci Climate Ventures

日本勢:三井物産、三菱重工、丸の内キャピタル(株主)、MUFG、三井住友信託(融資団)

議決権構造:Class B株は1株40議決権。共同創業者は経済的持分約2.7%で、議決権の**約52.1%**を支配しています。



付録C.留意事項

  • 本レポートは2026年7月29日時点の公開情報に基づきます。株価と時価総額は日々大きく変動しており、7月27日の23.98ドルから7月29日の21.12ドルへ2営業日で約12%下落するなど、値動きは極めて荒くなっています。
  • 契約収益残高72億ドルは約15年分の割引前の売上合計であり、利益でも現在価値でもありません。Cape Stationが計画どおり稼働することが前提です。
  • 第2四半期決算日(2026年9月2日)とロックアップ満了日(2026年11月頃)は観測・推計ベースです。正確な日付は会社発表と目論見書でご確認ください。
  • 2026年5月下旬のブローアウト事案は、出所が限定的です。一次情報での確認を推奨します。
  • Project Redの発電性能には第三者から批判的な分析もあり、長期の熱減衰は今後10〜15年かけて検証されます。
  • 一部データは二次情報に基づくため、会社開示と細部が食い違う可能性があります。日本勢(三井物産、三菱重工、丸の内キャピタル)の個別出資額は非開示です。
  • 本レポートの業績予想、シナリオ評価、適正株価は公開情報を基にした独自推計であり、投資助言ではありません。 投資判断はご自身の責任で行ってください。

付録D.主な出典

  • SEC EDGAR:Fervo Energy Company Form S-1(2026年4月17日)、Form 10-Q(2026年3月31日期)、決算リリース
  • Fervo Energy社プレスリリース(Sawtooth 7掘削実績、EGS-Twin、各PPA発表等)
  • Ormat Technologies 2026年第1四半期決算資料
  • 米エネルギー省(DOE)"Enhanced Geothermal Shot"、Geothermal Basics
  • 国際エネルギー機関(IEA)"The Future of Geothermal Energy"
  • 米議会調査局(CRS)報告書 R48090
  • Reuters、Axios、Latitude Media、GeoExpro、Cleantech Group 等の報道・分析
  • 三井物産 公表資料