2024年10月1日火曜日

7月~9月の売買

 ■8月
プラスアルファ・コンサルティング 買い増し
8月5日に日本株が大暴落し、そこがセリングクライマックスになると思ったから。

2020年4月3日の当ブログ記事には次のようにある。「セリングクライマックスとは「売りの最終局面」という意味。過去の例では東証一部の時価総額に対する売買代金の比率が1%程度まで高まったときがセリングクライマックスになっている(2020/3/6日経)。3月13日の東証一部の時価総額は482兆円、売買代金は4兆8900億円で、時価総額に対する売買代金の比率は0.98%まで高まっていた」

8月5日の13時頃にその日終値の比率をざっと予想してみると、東証プライム市場の時価総額は800兆円、売買代金は8兆円くらいになりそうだったので、比率は1%程度になりそうだと思った。

結果は、時価総額778兆円、売買代金7.96兆円で、時価総額に対する売買代金の比率は1.02%だった。

なお、その日の騰落レシオは76.75、日経平均VIは70(8/6日経)、米VIXは38.57だった。これらの指標的にも買い場としては悪くなかった。

チャート的にも底打ち型に見えた。

<8月5日の日経平均株価の1年チャート> 下降トレンドで、窓を開けて3本の(大)陰線が出ている。


<8月5日の東証グロース指数の1年チャート> グロース指数もしかり。


<8月5日のプラスアルファ・コンサルティングの1年チャート> プラスアルファ・コンサルティングもしかり。


買う銘柄の選択肢は日経平均株価ETF、プラスアルファ・コンサルティング、イントラストの3つで、その中でプラスアルファ・コンサルティングが一番割安感があり、先の見通しがよかった。

なお、8月5日のプラスアルファ・コンサルティングのPERは19.24倍、時価総額625億円、配当利回り1.08%だった。なかなかの買い場だったように思う。

<現在の日経平均株価の1年チャート>

<現在の東証グロース指数の1年チャート>

<現在のプラスアルファ・コンサルティングの1年チャート>

これらを見ると、足元で「石破ショック」はあるものの、8月5日にとりあえずセリングクライマックスをつけたように見える。上記のセリングクライマックスの分析法は使えそうなことがわかった。

保有株

保有比率の高い順に見ていく。

■プラスアルファ・コンサルティング
基本シナリオ:「タレントパレット」事業を軸に2030年に利益2.5~4.5倍

2Q決算はサプライズ気味の好決算だったが、3Q決算はまた元の勢いのない決算に戻ってしまった。2Q決算がよかったのは単にスポット売上が急増したため。その反動か、3Qのスポット売上は急減してしまった。

この調子で行くと今期業績は4月にブログで予想した数値に近いものになりそう。
4月にブログで予想した数値は以下のようになる。

<今期の売上高予想>
「キミスカ」事業がゼロ成長、「タレントパレット」事業がやや下振れ、それ以外は会社予想通りと仮定すると
第2四半期の売上高予想は32.4億円(累計63.0億円)
第3四半期の売上高予想は34.4億円(累計97.4億円)
第4四半期の売上高予想は36.6億円(累計134.0億円) 通期の成長率20%
通期の純利益の成長率25%
になる。

実際のところは
「キミスカ」事業はほぼゼロ成長(利益はマイナス成長)、それ以外はほぼ会社予想通りで
第1四半期の売上高 30.6億円
第2四半期の売上高 34億円(累計64.6億円)
第3四半期の売上高 34億円(累計98.6億円)
になる。

プラスアルファ・コンサルティング(以下PAC)が予想する今期売上高は138億円で、この数値を達成するには第4四半期の売上高が39.4億円必要になる。これまでのペースから考えると上限は37.5億円くらいになりそう。その場合の今期累計売上高は136.1億円になる。

利益はどうなるか。会社が予想する営業利益は48億円になるが、3Qまでの営業利益は31億円(進捗率64%)なので、達成するにはあと17億円必要になる。過去のパターンでは4Q決算は上振れる傾向にはあるが、それでも17億円の利益を上げるのは難しそう。「キミスカ」事業の営業利益は今期マイナス成長に陥っており、期初予想の額からおそらく3億円くらい下振れそうなので、その分を差し引くと4Qの営業利益は14億円、その場合の累計営業利益は45億円になる。

以上をまとめると、
会社が予想する今期業績予想は売上高138億円(前期比+23.5%)、営業利益48億円(同+29.3%)で
当ブログが予想する今期業績予想は売上高136億円(同+22%)、営業利益45億円(同+21%)
になる。

ここでついでに来期業績も予想しておく。
現在の事業別の売上高比率と営業利益比率は、マーケティング事業が売上高・営業利益ともに28%、HR事業が売上高・営業利益ともに72%になる。

この比率を今期予想業績に当てはめると、今期のマーケティング事業の売上高は38.1億円、営業利益は13.2億円、HR事業の売上高は98.0億円、営業利益は32.4億円になる。

来期のマーケティング事業の予想売上高成長率・利益成長率を+5%、HR事業の予想売上成長率を+28%、予想利益成長率を+33%と仮定すると、来期のマーケティング事業の売上高は40.0億円、営業利益は13.0億円、HR事業の売上高は125.4億円、営業利益は43.1億円になる。

これらを合計すると、来期の予想売上高は165.4億円(前期比+21.5%)、予想営業利益は56.0億円(同+24.5%)になる。
*来期「キミスカ」事業を減損した場合は、純利益が5~10億円下振れする。

なお、現時点でPACが出している来期業績予想は売上高167億円、営業利益64.5億円になる。


「キミスカ」事業の今後について考えてみる。結論をいうと再生は難しそう。まず「キミスカ」と「タレントパレット」の相性は悪そうなので、シナジーは生まれにくい。加えて、競争の激しい市場で、業界無知のツートップが片手間で経営しているので、勝ち残れる可能性はほぼない。

今後は”敗戦処理”がテーマになりそう。「キミスカ」事業を運営するグローアップはPACに買収された後、PAC本社近くに移転したが、8月にPAC本社内に吸収されている。拡大路線はあきらめたように見える。今後は徐々に事業を縮小していくのではないかと思う。PAC社員との交流・協業により生産性を上げられれば、減損を避けられる可能性もある。

「タレントパレット」は「キミスカ」との相性は悪かったが、「ビズリーチ」や「リクルートダイレクトスカウト」など中途採用向けダイレクトリクルーティングとの相性はよさそう。「ビズリーチ」を運営するビジョナルや「リクルートダイレクトスカウト」を運営するリクルート(出資先のカオナビ)とは一部競合する事業もありそうだが、顧客目線で考えれば、それぞれにメリットはありそうなので、提携の道もありそう。少し期待したい。


PACは7月に新潟のテック企業・オーエムネットワークを買収した。この会社は主に大企業向けのシフト管理SaaSや勤怠管理SaaSなどを手がける。PACのHR事業とは補完関係にありそうなので相性はよさそう。オーエムネットワークのシフト管理SaaSは「AIシフト管理」に強みがあり、大企業向けではトップシェアになる(7/31IR)。これを「タレントパレット」と連携させれば、シフト管理の精度をさらに高められそう。今後は両者を連携させた医療・介護向けなどの業界特化型サービスを立ち上げる予定という。

オーエムネットワークの2024年5月期の業績は、売上高約8億円(前期比+13%)、営業利益2.3億円(同+30%)、純利益1.7億円(同+40%)になる。買収金額は17億円なのでPERは10倍になる。純資産8.5億円ある優良成長企業をこの価格で買収しているので、友好的な買収に見える。シナジーを発揮して、両社とも力強く成長してくれればと思う。


PACは7月に三菱総研と人的資本経営支援に関する包括的業務提携の検討を開始した。三菱総研には人材マッチングや、HR領域に特化した AI エンジンを活かしたサービスに強みがあるという。提携がうまくいけば「タレントパレット」がさらにパワーアップしそう。


前回のブログで注目した学生版「タレントパレット」の「ヨリソル」はビジネス的に難しそうなことがわかった。その理由は学校にはお金がないことと(7/26日経7/30日経9/22日経)、学校は営利目的ではないこと。

「タレントパレット」の使用料は高い。導入先が営利活動をする企業の場合は、「タレントパレット」を導入して、そのコスト以上の収益を上げられればビジネスとして成立する。しかし学校の場合は、基本的に金銭的な利潤を追究するところではないので、「ヨリソル」の費用を捻出するのは難しい。加えて学校にはもともと余裕資金がほとんどない。このような状況では「ヨリソル」を導入することはできない。「ヨリソル」を導入できるのは一部のお金のある私立学校や学習塾に限られるのではないかと思う。

9/14日経に「私大の定員割れ、過去最悪の6割」とあった。私大の2割弱が債務超過などで経営が困難な状況にあるという。少子化の影響で今後はさらに厳しい状況になっていくはず(9/22日経)。これではとても「ヨリソル」を導入できそうにはないが、都市部の学生数の多い私大では定員の充足率が高いようなので、この領域をピンポイントで攻めたらうまくいくかもしれない。

8/4日経8/28日経に「教員志望の学生が減少傾向」とあった。志願者数は10年前の3分の2まで減っているという。理由はアナログな職場環境、長時間労働、不登校やいじめ、特別支援・外国人児童・モンスターペアレンツなど複雑化、困難化する課題への対処などなど。「ヨリソル」には業務効率化はもちろんのこと、不登校予兆検知機能(7/26IR)など、これらの課題解決の一助となりそうな機能がそろっているので、導入されたら職場環境は大きく改善しそう。これで学校に導入されないのはもったいないように感じる。

8/8日経に「政府主導で、1人1台配布するタブレット端末を用いた「心の健康観察」の取り組みを全国の学校に広げていく」みたいなことが書いてあった。8/25日経にも似たようなことが書かれており、高知県の小中学校ではすでに端末を用いた「心の健康観察」の取り組みが始まっているという。ここで使われている学習支援プラットフォームは「高知家まなびばこ」という名称で、このプラットフォームは株式会社コンパスが作っている。コンパスはAI学習支援システム「キュビナ」を販売しており、すでに全国2300校以上の小中学校に導入されているという。

8/31ヴェリタスには、上場企業のシステムディが販売する小中高向けの校務支援システム「スクールエンジン」が4100校以上に導入されており、導入率は70%程度、とあった。このシステムは比較的安価で、専門知識がなくても使いこなせるという。小中高向けのシステムではもう勝負はほぼついているのかもしれない。


8/9日経8/15日経に、官僚の採用難や離職が問題になっている、とあった。官僚職が不人気になっている理由は、自己成長しにくいこと、キャリアアップが展望できないこと、仕事と家庭の両立が難しいこと、法令上、上司の命令に忠実に従う義務がありパワハラが多いこと、などなど。
9/7日経9/7日経には、公務員の採用難や離職が深刻化している、とあった。「タレントパレット」はDXやリスキリング、組織を活性化する機能があり、離職率を下げる効果もあるので、導入したら役に立ちそう。ただ、役所も営利活動をするところではないので、「タレントパレット」の導入は難しそう。

PACは8月に病院・介護版タレントパレットの「HIcare Wellness」を立ち上げた。ただ医療分野も経営が苦しいところが多いので、システムを導入する余裕はあまりなさそう。

競合の「カオナビ」は教育機関や公共機関、医療機関に特別料金でサービスを提供している。PACも似たような感じでやってくれればと思う。

教育機関や医療機関、公共機関では離職率が高いことが共通の問題になっている。PACの離職率は5%(去年は7%)と、カオナビの離職率17%(前年は14%)より低く(カオナビ資料参照)、モチベーション管理の評価ではトップクラスにいるので(6/12ITレビュー)、この点を訴求するなり、この点に特化した安価なシステムを作るなりすれば、導入が増えるのではないかと思う。


競合のカオナビが快走している。1Q決算は売上、利益、導入企業数が順調に伸びている。大企業の「カオナビ」導入数は29社で、累計616社まで増加している。

対して、同期間の「タレントパレット」の大企業導入数は不明だが、スポット売上を見る限り、それほど増えていないように見える(8/20SBIレポート)。「タレントパレット」は2023年の半ば頃までは大企業向けのタレントマネジメントシステムのコンペで勝率が9割近かったようだが(2023/5PAC決算説明)、現在は5割を切っているように見える。カオナビは8月に、三菱UFJ信託銀行(従業員数6283人)と日鉄興和不動産(同1939人)が「カオナビ」を導入したと発表している。これらの会社は本来は「タレントパレット」のコアターゲットになりそうなところになる。「タレントパレット」の牙城が崩れ始めたのかもしれない。

8/5日経に「日本で2番目の社員数を誇る日本郵便が2024年中にタレントマネジメントシステムを導入する」みたいなことが書いてあった。日本郵便はシステムを導入し、国内17万人の正社員の職務スキルや配属希望を一元管理し、最適な人事を実行し、その上で働きがいや帰属意識を数値化したエンゲージメントスコア(満足度)を定期的に把握できるようにする予定という。

これを読んでいる限りでは「タレントパレット」のコアターゲットに見える。ただ、日本郵便は運輸業であり、「タレントパレット」は運輸など比較的単純な業務を行う職種にはあまり強くない。日本郵便が顧客になれば業績的なインパクトは大きくなりそうだが、現時点では導入されるか微妙。日本郵便がどのシステムを導入するかによって、今後の各社の方向性がだいたいわかりそう。

現在、「タレントパレット」は社員数300人以上の会社向けではトップシェアだが、今の調子でいくと(Ishare8/14)、近い将来「カオナビ」に抜かれるかもしれない。

なぜ「カオナビ」の競争力が増しているのか。それは「低価格」だけでなく、使い勝手のよさ(簡便さ)や顧客の育成に強みがあるからではないかと思う。カオナビは以前から主宰している「カオナビユーザー会」に加えて、2月から顧客のタレントマネジメントスキルを評価する資格制度を始めており、顧客のスキル育成に力を入れている。

対して、「タレントパレット」は機能が多く複雑で、若干使いにくそうな印象がある。8/21ITレビューの顧客評価では「開発スピードが速い分、機能説明やサポートが追いついていないと感じることがあります。せっかく良い機能をリリースしてくださっているので、マニュアルやサポート等が一体となった状態で公開した方が利用しやすくなると思い、もったいないと感じています」とある。

複雑で高価なシステムは導入のハードルが高い。このようなところでカオナビに差を付けられている可能性がある。加えて、競争力が落ち始めているところで値上げをしているので、さらに競争力が落ちる可能性がある。

PACもカオナビに倣って、タレントマネジメントスキルを習得する講座なり資格制度なりを作ったほうがよさそう。そのようなものを作るときは、情報を集めてそれらをわかりやすく整理する必要もあるので、それが自社のコンサル育成にも役立つ。なんとか対策を打って競争力を高めてくれればと思う。


PACの各SaaSに生成AIが着々と導入され始めている。社長はAIに通じているので、こういうところには頼もしさを感じる。AI導入に関しては競合から頭1つ抜けている感じがある。

ただ、顧客管理(CRM)SaaSの競合である米セールスフォースは先日、判断を要する一部業務を丸投げできる自律型AI「エージェントフォース」を10月から提供すると発表した。このソフトでは、カスタマーサービスのチャットボットをエージェントフォースに置き換えることで事前にプログラムされたシナリオがなくても幅広いサービスの問題に対応できるという(9/21日経)。この分野ではセールスフォースの方が一歩も二歩も先を行っているように見える。以前から懸念していたとおり、CRM領域での戦いは厳しいものになりそう。

“顧客の声活用プラットフォーム”の「見える化エンジン」がテキストマイニングツール SaaS売上高で 13 年連続国内トップになった(8/29IR)。ここにも生成AIが組み込まれ始めており、「タレントパレット」にもここで培ったテキストマイニング機能が盛り込まれているはずなので、このデータ分析領域での「タレントパレット」の優位性は当分続きそう。

ただ「見える化エンジン」には懸念点が一つある。それは「見える化エンジン」はX(旧Twitter)のテキスト分析に強みがあること。Xはイーロン・マスク氏がCEOになったあたりから、”カオス化”が進んでいる。Xには偽情報や誤情報、インプレゾンビがあふれており、それらが放置されている。Xに広告を出している企業は撤退し始めており(9/7日経)、X利用者数世界4位のブラジルではXの利用が停止されている(9/16日経)。マスク氏は「人間の心」には興味がないようなので(8/30プレジデント)、今後も衰退が続きそう。その場合、「見える化エンジン」の価値も落ちていく。この点が少し心配。


8/2日経で、AI専門家のアンドリュー・ング教授が生成AIの活用により「ソフトウエア開発の文化が変わりつつある」「従来半年かかっていたアプリ開発が1週間でできる」と言ってた。今後は生成AIによりソフトウェアの付加価値が落ちていきそう。PACの強みは、コンサル × システム構築と、様々なノウハウが詰まったシステム(SaaS)提供なので、簡単には真似できないとは思うが、価格低下圧力は避けられなさそう。


Ishare8/14に「タレントマネジメントシステムは既に業界大手2社(*PACとカオナビ)で従業員数1,000人以上の企業の2-3割に導入済み」とあった。大企業向け市場の成長余地は最大で2.5倍くらいになりそう。今後3年間の国内企業の設備投資意欲は旺盛なようなので(8/8ロイター)、少なくとも2027年頃までは高水準な成長が続くのではないかと思う。


8月15日のPAC株暴落では出来高が平常時の8倍以上になっている。今回の暴落で短期目線の投資家が抜けて、長期目線の投資家に切り替わったように見える。もしそうだとしたら、今後の株価推移は比較的堅調なものになりそう。


PACは上場後、毎期3Q決算後(8月半ば頃)に社長が日経CNBCに出演していたが、今年は出演しなかった。その理由は業績や株価がパッとしなかったためかもしれない(笑)。こういうときこそ、こういう場に出て堂々と語ってほしかった。ただ社長はAIに詳しいので、AIによる動画・音声分析で本音が見透かされてしまうのを恐れた可能性もある。


アマゾンでベストセラーになっている投資指南本『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(清原達郎)を読んだ。この本では成長率とPERの関係について書かれたところが参考になった。著者の清原氏によると、例えば「PER40倍」の場合、年20%の売上高成長が5年程度見込まれている数字になるという。その成長率が年15%くらいに下がるとPERは25倍くらいまで下がり、成長率が年10%くらいにまで落ちると、PERは20倍くらいまで下がってしまうという。そのような場合、5年間のリターンは10~30%程度にしかならないとか。

今回のPACへの株式投資はまさにこのパターンで、PERが40倍の時に買い、PERが20倍まで下がってしまった(笑)。業績は右肩上がりではあるのもの、成長期待(PER)は下がり続けている。今回の投資で利益はあまり得られそうにはないが、株式投資への理解は深まったので、収穫はあったように思う。

なお、『わが投資術・・』には、割安小型株の中から成長株を見つけるとPERも徐々に切り上がり、数年で時価総額が10倍以上になる、ともあった。次からはそのような銘柄を探していきたい。


Next SaaS Media代表の早船氏が、Xに純利益とPERの関係について書いていた。日経平均のPERは過去20年にわたっておおよそ15~20倍のレンジで、時価総額1000億円の会社のPERも15~20倍と仮定すると、そのときの純利益は50~66億円になるという。つまり純利益が50~66億円になったときに初めて時価総額が1000億円くらいになるという。PACの純利益が50億円に達するのは2026年9月期あたりになりそうなので、そのころになってやっと時価総額が安定的に1000億円(株価2400円)を上回るのかもしれない。PACのPERはもう少しあってもよさそうだが、目安として、これも一つの参考にしたい。


『わが投資術・・』には「グロース市場はブラックユーモア」ともあった。その理由は、グロース市場のほとんどの会社は国内の客を相手にするが、国内は人口減で将来が暗く、どこかの時点で海外に飛躍しないと成長は止まる。しかし、海外展開できる会社はほぼない。だから今は成長していてもすぐに成長が止まる会社が多い。それなのに、そういう会社の株が成長株であるかのように高いPERになっている、というもの。これもPACに若干当てはまるところがある(笑)。次からはこの点も注意したい。


上記も考慮して、PACの現在の妥当な株価はどのくらいか。当ブログが予想する来期業績は売上高165.4億円(前期比+21.5%)、営業利益56.0億円(同+24.5%)、純利益40億円、今後3年の予想売上高成長率年は13~23%、予想利益成長率年20~30%も併せて考えると、PERは23~33倍くらいになるのではないかと思う。

このPERで計算すると、時価総額は920~1320億円、株価は2200~3100円、PSRは5.5~8倍になる。


■イントラスト
基本シナリオ:家賃債務保証と医療費用保証で2027年3月期に売上高150億円、営業利益30億円

1Q決算では利益が下振れし、未収金リスクが表面化してきた。これは企業倒産増(9/10日経)の影響か、子会社の信用力の低い顧客の影響かは定かでないが、しばらくは利益に下押しの圧力がかかりそう。この会社の最大のリスクは未収金リスクなので、この点は注意して見ていきたい。

イントラストは東京海上日動と『養育費保証 自治体モデル』を共同開発し、サービスの提供を始めた。地方自治体向けのサービスで、基本的なスキームはスマホスのようなものになりそう。今後の普及拡大に期待したい。7/19IR

四季報に「医療・介護費保証は前期にテストしていた営業支援会社の活用を本格展開」とあった。コストはやや上がりそうだが、スマホスも今後の普及拡大に期待したい。

今後3年の予想売上高成長率と利益成長率は共に年10~15%程度。現在の妥当だと思う時価総額は230億円(株価1000円、PER18倍、PSR2.7倍)。2030年の予想売上・利益は現在の2倍くらい。


■今後の計画
PAC株をやや買い過ぎた。PACの業績やガバナンスはそれほど心配していないが、南海トラフ地震の被災リスクなど(8/10日経)、他のリスクもあるので、折を見てポートフォリオを修正していきたい。

投資スタンスは「基本静観、チャンスが来たら動く」のまま。

市場が荒れて米VIXが40超、日経平均の騰落レシオが65以下になったら株式などを買っていく。できたらドル建て資産を買っていく。米景気が後退局面に入った場合は、後退突入後、5〜10ヶ月くらいたったころに株式などを買っていく。

SmartHRはPACの脅威になるか

7月に”競合”のSmartHRが約100億円の資金調達に成功した。SmartHRを簡単に調べてみるとARR(年間経常収益)や従業員数が急拡大しており、それらがすでにPACを超えていることがわかった。

前回のブログではPAC株下落の要因を「地合い」や「M&Aの失敗」と推定しているが、チャートを見ると、SmartHRの躍進が顕在化し始めた頃から(2023/11/21SmartHR2023/11/30SmartHR)、PACと同業のカオナビの株価は右肩下がりになっている。そして上場来安値を更新している。これらの大幅下落は「SmartHRの台頭」が主因になっていた可能性がある。

<7/12のグロース指数の1年チャート> グロース指数は3月頃にいったん上昇している。


<7/12のPACの1年チャート> PAC株とカオナビ株は1月以降、グロース指数と連動せず、一貫して右肩下がりになっている。

<7/12のカオナビの1年チャート> *4月頃に急落しているのは子会社の情報漏洩が発覚したため。


SmartHRがPACの脅威になる可能性も出てきたので、SmartHRについて詳しく調べてみた。

■スマートHRとはどんな会社か
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」などのSaaSを手がける会社。人事労務SaaSでは国内トップシェアで、国内約50%を占める。現在、このSaaSをベースにタレントマネジメントSaaSのクロスセル(併売)を拡大させている。足元では勤怠管理SaaSやID管理SaaSなども立ち上げ、SaaSのマルチプロダクト化を進めている。


■業績
2019年12月期のARR(売上高のようなもの)は約15億円 純利益は-11億円 純利益率-73%
2020年12月期のARRは約32億円 純利益-37億円 純利益率-118%
2021年12月期のARRは約62億円 純利益-49億円 純利益率-79%
2022年12月期のARRは約100億円 純利益-60億円 純利益率-60%
2023年12月期のARRは約150億円 純利益-112億円 純利益率-74%

*ARRは3/11SmartHRを参照。資料では「12月期」ではなく「2月」を区切りにARRを集計しているが、ここでは便宜的に「12月期」としてまとめた。
*純利益は7/17官報ブログ +プラスを参照。
*営業損益は非公表。

■成長戦略
「人事労務SaaSのシェアを拡大させ、そこに他のSaaSを付加していく」が基本戦略

成長戦略はまずは現在の基盤事業である人事労務SaaSのシェアをさらに拡大させていくこと。そしてそこにタレントマネジメントSaaSや勤怠管理SaaS、採用管理SaaS、ID管理SaaSなどを付加していくというものになる。最終的には、総務や経理を含むバックオフィス全体をカバーするマルチプルSaaSを目指す。今回の資金調達はこのプランの達成速度を速めるために行った。

ARR成長率は今後も年30~40%超の水準を目指す。SmartHRの2024年2月期のARRは150億円だが、これを2030~2032年頃までに1000億円に引き上げる計画(8/20日経)。社長は2022年1月のインタビューで「いま頭にあるビジョンが全て達成されたら、1兆円くらいの企業価値にいってもいいくらいのポテンシャルはある」と語っている。


■強み
SmartHRは自社の競合優位性として「シームレスさ」と「マルチプロダクト化」を挙げている。一つのシステム上で様々な機能が使えれば、ユーザーの使い勝手はよくなり、学習コストは下がる。一方で開発者側は新たなプロダクトの作製が容易になり、開発スピードが上がり、開発コストは下がる。複数のプロダクトをクロスセルさせれば、ARRは上がりやすくなる。

他にも7つほど、SmartHRならではの強みがある
1,UI/UXがすぐれている
「SmartHR」は使いやすさに定評がある。人事労務SaaSのレビューはトップ評価。

2,顧客基盤が広い
クラウド人事労務ソフトは規模の大小や業種を問わずに導入できるので、顧客基盤が広い。登録社数は現在6万社以上あり、クラウド人事労務の普及率はまだ10%程度なので、拡大余地は大きい。

3,解約率が低い
クラウド人事労務ソフトの継続利用率は99%超で、安定した事業基盤がある。

4,資金力がある
2023年3月時点で100億円超の手元資金があり(2023/3/15Next SaaS Media Primary)、2024年7月には約100億円の資金調達を行っているので、現在、おそらく150億円くらいの手元資金がある。

*PACの現在の手元資金(現預金)は約97億円。

5,人材が豊富
現時点で従業員が1200人超いる。今後も年200~300人増やしていく予定。
人材が豊富にいるため開発スピードが速い。

*PACの2024年6月末の従業員数は377人。

6,離職率が低い
離職率は4%程度。
離職率が低いため生産性が上がりやすい。

*PACの離職率は5.7%程度。

7,米系ファンドの助言を聞ける
資金調達は主に米系ファンドからしているので、グローバルな知見を経営に生かすことができる。7/2stock journal

----------
<SmartHRの離職率が低い理由>

日本企業の平均離職率は15%程度だが(2024/1Edenred)、SmartHRの離職率は約4%と下限に近い。気になったのでその理由を調べてみた。

1,現社長が組織作りに長けている
現社長は2代目社長になるが、社長に抜擢されたポイントは熱量の高さと組織作りのうまさにあるという。社外取締役によると、現社長は変化に対応することや働きやすい環境を作るのが抜群にうまいという。

2,フルリモート勤務完備・好立地のオフィス
開発陣はフルリモート勤務の仕組みが完備されているため、在宅でも快適に業務をこなすことができる。オフィスは好立地にあるので、出社する場合、通いやすい。

3,カルチャー重視の採用をしている
スキルがあっても会社の文化と合いそうにない人は採用しない方針。
組織文化を維持するために多くの時間を費やしている。

4,内部情報を外部に積極的に発信している
社長や社員が自社の社風やプロダクト情報をSNSなど各種メディアで積極的に発信しているため、入社後のギャップが生じにくい。

5,オープンでフラットな組織体制がある
SmartHRでは会社の資金繰りも隠さず、入社1日目の社員でも会社の預金残高を見られるようにしている。開発会議には誰でも参加可能。意思決定や財務情報をオープンにし、危機感を共有することで意思の方向がそろいやすくなっている。

6,「人事」に関心がある人が多い
SmartHRはクラウド人事労務がコア事業なので、「人事」に関心がある人が多く集まっている。そのため社内の人事制度は改善され、働きやすい環境作りができている。

7,給料がよい
平均年収は同業他社より100万円くらい高い740万円になる(2024/4/25note)。

(8,職場環境が”ぬるい”可能性がある)
SmartHRは赤字企業にもかかわらず、好立地にオフィスを構え、高給で人を大量に雇っている。開発陣はほぼフルリモートなので、会社の目が届きにくい。運転資金はすべて外部に頼っており、利益への執着は若干薄いようにも見える。このような会社は総じて従業員に対する評価が甘くなりがち。「楽で給料がいいから」という理由で離職率が低い場合は、高度なタレントマネジメントをしているとはいえない。

----------


■問題点
・レッドオーシャン領域に参入
今後新たに参入する勤怠管理SaaSや採用管理SaaS、ID管理SaaSは、すでにレッドオーシャンになっている。SmartHRは「使いやすさ」「低価格」「シームレス」を武器に勝負をかけるようだが、今後提供するSaaSは他社のコピー製品になるので、たいした付加価値は生まれない。またAPI連携で他社SaaSでもほぼシームレスに使えるので、「シームレスさ」でもたいした付加価値は生まれない。大金を投じてやる価値があるのか疑問。

・戦略が中途半端
SmartHRはバックオフィス業務全体をカバーするシステムを目指しているが、それならどうしてERP(統合基幹業務システム)を作ろうとしないのか疑問。現在のようなつぎはぎ戦略では、いずれ質の高いERPに乗り換えられる可能性がある。

・「SmartHR Plus」と競合する
「SmartHR」には「SmartHR」上で他社が作った各種SaaSを使える「SmartHR Plus」というサービスがある。ここには勤怠管理SaaSや給与計算SaaSなど現在約30のSaaSがある。SmartHRは自社でも勤怠管理などのSaaSを作ろうとしており、他社が提供するSaaSと競合する。この調子でいくと、他社の開発意欲が低下し、顧客の利便性が低下する可能性がある。


・タレントマネジメント機能は弱い
現在主力のタレントマネジメント機能は「分析レポート」「従業員サーベイ」「人事評価」の3つ(*直近では「キャリア台帳」「HRアナリティクス」「学習管理(LMS)」「採用管理(ATS)」の機能が追加されている)。これらを別々でオプション販売している。「タレントパレット」のような包括的なシステムではなく、断片的なシステムなので、タレントマネジメントシステムの総合力は弱い。

・データ分析は初心者
SmartHRがこれまで作ってきたソフトウェアは業務効率化が目的のDXソフトが中心になる。今後はデータ分析の領域にも進出する必要がありそうだが、データ分析はこれまでのように簡単に真似できるものではないので、競合に追いつくまで時間がかかる。

・高コスト体質
SmartHRは利益が出ていないにもかかわらず、人材を大量に採用し、高給で雇っている。現在の社員数は1200人以上おり、その1200人に平均年収740万円を支払うとそれだけで約88億円になる。オフィスは超一等地にあり、テレビCMなども流しているため、資金の減りは相当早いはず。

*SmartHRの倉橋COOは以前「売上がT2D3に伸びるのであれば、従業員数もT2D3で伸びないと成長にヒトが追い付かない」と言っていたようなので(7/29Next SaaS Media Primary)、採算度外視で人を大量に雇っている可能性がある。
*T2D3とはTriple, Triple, Double, Double, Doubleの略で、サービスをスタートしてからの売上高が、前年を基準に毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と上昇し、「5年で72倍」の売上高になるという意味。

・財務状態が悪い
SmartHRのCFOは7月の資金調達時のインタビューで、「手元資金もまだ十分にあるとともに、キャッシュフローも改善傾向にあることから実際には調達無しに事業継続は可能であるという状況」とは言っているが、高コスト体質なので、実際どの程度資金が残っているのか不明。2023年12月期の決算公告では純資産額が5億2100万円となっている。

CFOは同インタビューで「今年中にはキャッシュフローもブレイクイーブンの目途が立っています」とも言っているが、これまでの純損失率や”低付加価値戦略”を見る限り、キャッシュフローが今年中にブレークイーブンになるのか疑問。外資ファンドがSmartHRを半年くらいかけて精査してから出資しているので(7/2stock journal)、成長確度はそれなりに高そうだが、早々に運転資金がショートする可能性もある。


■PACとSmartHRの業績比較
2023年9月期のPACのARRは112億円。ARR成長率は約40%。純利益は26億円。
2024年2月期のSmartHRのARRは150億円。ARR成長率は約50%。純利益は-112億円。
*参照:7/23Next SaaS Media Primary7/9Next SaaS Media Primary

*SmartHRのARR150億円のうち、タレントマネジメントSaaSがどのくらいの比率を占めるのかは不明。

■まとめ
SmartHRの成長スピードや資金力、従業員数は脅威になりそうだが、タレントマネジメント領域においては事業内容がだいぶ異なるので、直接の競合にはならなさそう。

「タレントパレット」の開発もいつかは頭打ちになり、いずれは機能的に追いつかれる可能性もあるが、そのときにはすでに勝負はついていそうなので、長期的にもあまり脅威にはならなさそう。

とはいえ、タレントマネジメント市場の市場規模には限りがあり、機能面でも若干被るところはあるので、まったく影響を受けないとはいえない。現時点でSmartHRがPACの脅威になるとは思っていないが、無視できる存在でもないので、今後も観察は続けていく。


■調べていて気づいたこと
・クラウド人事領域の高成長は続く
2024年2月27日発刊のミック経済研究所のITリポートに「HRTechクラウド市場は2023~2027年度まで年平均31.8%で成長を続け、2027年度には3,200億円市場と予測」「人事・配置クラウドや育成・定着クラウド市場では、人的資本経営の対応及びタレントマネジメント需要の拡大により、大手企業中心にシステム導入の検討が加速」とある。

「タレントパレット」の成長余地はまだまだありそうなことがわかった。気になるのは「タレントパレット」の成長率が市場成長率を下回りそうなこと。前期の売上高成長率は40%で、今期は31%程度になる。この調子でいくと、来期は市場成長率を下回りそう。やはり競争は激しくなっているのかもしれない。

・SaaS企業のPSR平均値は4.9倍
7/9Next SaaS Media Primaryに、7月時点の日本の上場SaaS企業の平均PSR(売上高株価倍率)は4.9倍とあった。PACのPSRは現在6.8倍くらいなので、上位クラスにいることになる。来期業績換算では5.6倍くらいになる。PACの売上高・利益成長率は20%超あり、利益率は上場SaaS企業の中でとりわけ高い水準にあるので、PSRは8倍くらいはあってもよいのではないかと思う。

・PACの給料はSmartHRより低い
PACは相当な利益を上げているのに、赤字企業のSmartHRより平均年収が低い。PACの平均年収は業界平均と比べて低いわけではなく、去年よりも5%くらい上がっているので(*四季報参照)それほど問題ないとは思うが、赤字企業よりも100万円くらい少ないのは少し違和感がある。

7/10日経に、「高給企業の代表格であるキーエンスは業績を給与に反映させる仕組みを導入しており、それにより社員の経営参加意識が高まり、業績が上がりやすくなっている」みたいなことが書いてあった。PACはキーエンスと似たコンサル・開発型の企業なので、キーエンスのような報酬体系にしてもよさそう。PACは慢性的な人手不足に陥っているが、このような報酬体系にしたらそれもすぐに解消するのではないかと思う。昇給や高給は社員のエンゲージメントを高める最も重要なタレントマネジメントの一つでもあるので、もう一工夫してもよいのかもしれない。

7/26日経には、「米テック大手の「GAFAM」は毎年、発行済みの株式1%前後を役員や社員に付与し、そのオーナーシップを成長の原動力にしている」とある。PACは上場後に1回も株式報酬制度を活用していない。株価が低迷しているときでも全く動かなかった。PACはタレントマネジメントシステムを提供する会社なのだから、こういった施策も活用すべきではないかと思った。

とはいえ、PACの離職率は下限に近く、エンゲージメントスコア(満足度)も高水準にあるので、それほど問題があるようにもみえない。株式報酬制度を多用すると、社員がリスクを取り過ぎたり、長者になった社員のモチベーションが下がったりすることもあるようなので、今の状態が好調なら今のままでもよいのかもしれない。

・橘氏がPeopleXを起業
Next SaaS Media Primaryを読んでいたら、弁護士ドットコムのスーパースター・橘大地氏が4月にPeopleXを創業し、6月に16億円の資金調達をしていたことがわかった(笑)。事業計画と信頼感だけで16億円を調達するところはさすがといった感じ。

この会社もタレントマネジメントなどのHRテックを手がける会社になるが、タレントマネジメント事業では顧客ターゲットや事業コンセプトが従来のものとは少し異なる。現在普及しているシステムは管理者側が主体のユーザーになるが、PeopleXのシステムは従業員側が主体のユーザーになる。

PeopleXが提供するタレントマネジメントSaaS「PeopleWork」のコアコンセプトは「エンプロイー・サクセス(従業員の成功)」。これは従業員を成功させることで、企業を成長に導く、というもの。「大転職時代」を見据えたサービスで、主に中途入社の社員の即戦力化を促すものになる。

転職が当たり前の時代になると、個々の従業員が自身のキャリアパスの見通しのよさを実感できる会社が選ばれ、従業員を単なるコマとして管理する企業は選ばれなくなっていく。1人ひとりがキャリアパスを自由に描くことができる会社であれば、従業員のより本質的で積極的な会社への貢献が生まれ、企業の成功可能性も高まる。企業側は中途採用者の増加や定着、離職に効果的に対応できるようになると、より柔軟に多様な人材を採用し、総合的な競争力を高めることができるようになる。
*中途入社の社員の離職率は高い。ビズリーチの調査(2020)では3年以内の離職率は39%になる。

「エンプロイー・サクセス」という視点は「タレントパレット」には少し欠けている視点。「タレントパレット」は組織管理的なアプローチのSaaSなので、管理者側の評価は高いが(ITレビュー)、一般社員側の評価はあまり芳しくない(ITトレンド)。これでは「大転職時代」にはあまり機能しないシステムになってしまう。

「大転職時代」では「エンプロイー・サクセス」の視点が必要になってくるので、「タレントパレット」にも「PeopleX」のような仕組みがほしい。橘氏は「エンタープライズ向けHR事業に参入する」「既存のHR Techをディスラプトしたり、競合とするのではなく、連携しながら新たな日本の雇用環境に最適解を出していく」(6/3Next SaaS Media Primary)とも語っているので、「タレントパレット」との連携の道もあるかもしれない。少し期待したい。


<「大転職時代」について>
年間採用数に占める中途採用の割合は2010年の10%程度から2024年には40%超まで高まっている(4/8日経)。中途採用が増えている理由は、日本特有の「年功序列」や「終身雇用」などの雇用慣行が崩れつつあることや、人手不足、テクノロジーによる事業環境の急速な変化などのため。この傾向は今後も続きそうなので、中途採用はさらに増えていく可能性が高い。

日本経済を成長軌道に乗せるには成長産業に人材を移す取り組みも必要なので、今後は解雇規制が緩和され、人材の流動性がより高まる可能性もある(9/11日経)。

数年後には「AI・ロボット社会」が本格到来し、(失職と)転職がより一層活発になっていく可能性がある。

ただ、その後は転職を伴わない大失業時代が訪れる可能性がある。

有望株

よく調べないで買った株は失敗することが多いので、これからはネチネチと調べてから買うことにする。

<10倍株候補の条件>
・上場5年以内の会社
・社長が若い
・オーナー企業
・時価総額が300億円以下
・長期的なテーマに合っている
・急成長している
・(IPOから時間が経過し、株価が右肩下がりになっているチャートが狙い目)

<優良企業の条件>
・参入障壁が高い
・ストック型ビジネスを手がける
・時流に乗っている(潜在市場が大きい)
→業績が落ちにくく、利益成長を続けやすいビジネスモデル
(例)マイクロソフトやリクルートなど

■有望株
*今後は円安が進みそうなので、円安耐性があるところを優先的に見ていく。

・米市場に上場している「銅ETF」「銀ETF」「ウランETF」
これらは株式ではないが、銅、銀、ウランは有望。価格の変動がほぼ需給だけで決まるので、わかりやすいのもいい。銅、銀、ウランは「グリーン革命」で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りつつある。

・米アマゾン
ECやAI、クラウドだけでなく、革新的な店舗運営システムや物流システム、デジタルコンテンツ販売でもまだまだ伸びそう。「グローバルサウス」の成長も期待できる(7/5日経)。身近な存在でわかりやすいのもいい。

・独SAP
大企業向けのERPを提供する会社。生成AI導入により、クラウドERP事業の成長はもちろんのこと、ビジネス系ソフトウェアのシェア拡大も期待できる。


・米セールスフォース
企業向けソフトウェア世界2位。AIの活用により今後も順調に伸びていきそう。

・仏エアバス
競合の米ボーイングが”墜落”しそう。ボーイングの受注残は高水準にはあるが(9/21ヴェリタス)、機体自体の問題が多く、”道化たちが設計した飛行機”のため(2020/1/11AFP)、この問題は簡単には解決しそうにない。そのような状況で、大規模なストが起きており、財務の悪化が続いている(9/14日経9/15日経)。ボーイング社が消えることはなさそうだが、いったんは破綻しそう。

・瑞Spotify
音楽配信市場はレッドオーシャンで差異化を図りづらそうにみえるが、音楽配信ソフトをいろいろ使ってみると、Spotifyは差異化ができていて、一強になりそうだと思った。音楽・音声配信市場は巨大なのでまだまだ成長しそう。

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のeコマース企業。ビジネスモデルはAmazonのマーケットプレイスに近い。もう一つ手がける事業がフィンテック事業。南米は欧米などと異なり、銀行口座やクレジットカードを保有してない利用者が多い。ラテンアメリカ市場ではオンラインで販売した際に支払処理をどのように行うかが大きな問題となっている。メルカドリブレはそれぞれの国情に併せてQRコードなどを活用した様々な決済サービスを提供している。ラテンアメリカはインターネットの普及自体が遅れているため先進国と比べて出遅れ感があり、その分成長余地が残されている。問題はカントリーリスクになる。サービスを提供している18カ国のうち、アルゼンチン、ベネズエラ、ニカラグアのリスク評価は最低ランクで、最大の売上を稼ぐブラジルも下から3番目の評価になる。ビジネス自体は順調であっても為替レートが大幅に低下すればドル建ての業績は悪化してしまう。

・UBS ETF スイス株 (MSCIスイス20/35)
スイスフラン建てのETF。日本と米国は財政難で今後通貨が弱くなっていく可能性が高い。スイスの財政は健全なので通貨の価値が相対的に高くなっていきそう。このETFにはネスレやロシュなど優良グローバル企業で構成されているので、世界成長も取り込める。

・SBI・インベスコQQQ・NASDAQ100インデックス・ファンド 手数料0.23%
三菱UFJ-eMAXIS Slim 全世界株式 手数料0.05%
三菱UFJ-eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)手数料0.09%
つみたてNISAで使えそうな投信。インベスコQQQは手数料が他よりも少し高いが、成長力を加味すれば大した問題ではなさそう。つみたてNISAは米株が暴落したときに始める予定。

・マニーやナカニシ
医療機器で世界的に高い競争力がある。海外売上高比率が8割を超えているので円安耐性がある。

・リクルート
子会社米Indeedの成長期待が高い。ビジネスモデルが強く、これも円安耐性がある。


・エムスリー
医療DXの潜在市場は大きい。海外売上高比率が近い将来50%以上になる計画。ただ一部事業領域では競争が激化している。


・エス・エム・エス
介護DXの潜在市場も大きい。ただ稼ぎ頭の医療系求人プラットフォーム事業では競争激化の兆しがある。

・国内の再生エネルギー関連株
日本はエネルギー自給率が13%程度であり、今後は円安基調になるので、エネルギーの自給率を上げていく必要がある。今後は化石燃料を使わない国内のエネルギー産業が急成長していく可能性が高い。国の大規模なバックアップも期待できる。

・メック
電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる。

・大阪有機化学工業
半導体の回路を描くための「フォトレジスト(感光材)」向け材料の世界大手。高機能フォトレジスト用のアクリル酸エステルで世界首位。試作段階で1キログラムから請け負うほど多品種少量の生産体制を敷く。近年、開発にリソースを投じるのがEUV(極端紫外線)露光装置向け。回路線幅2ナノ用の半導体製造に使われるため高い技術力が必要になる。今期の減益予想は市況回復を見越した積極的な設備投資に伴い、減価償却の負担が重くなっているため。24年後半には半導体市況は復調し、中長期では市場拡大が続く見込みで、生産体制を整備して旺盛な需要を取り込んでいく方針。

・アサヒホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しており、貴金属のリサイクルはメガトレンドになっている。アサヒは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。インフレ耐性があり、配当が4%を超えるのもいい。

・アレント
ITを使った建設業界向けのコンサルティングやシステム開発を手掛ける。顧客企業と共同でAIなどを駆使した高度なサービスを開発するのが強み。建設業界は他業界に比べてデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れている。職人の高齢化や、残業規制に伴い技術者の人手が足りなくなる「2024年問題」の需要を取り込み、成長につなげる方針。7/20ヴェリタス

マクロ系金融指標

市場の仕組みを理解しやすい順番でみていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:2.5%~4.2%の間で推移

米長期金利に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・経済成長率+インフレ率→
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2024年の予想米GDP成長率は+1.3~2.1%、2025年は1.7~1.8%、2024年の予想インフレ率は+2.2~3.2%、2025年は1.8~2.6%になる。


・金融政策↓
FRBはインフレが落ち着いてきたとして利下げを開始した。2024年は1%程度利下げをし、2025年は1~1.5%程度利下げをする予定。最終的に3%程度まで下げる予定。

*政策金利が中立金利(3.5~4.0%(8/8ロイター))を超えると、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。現在の政策金利は5.00%になる。

FRBは国債などの保有資産を年間7200億ドル(約108兆円)のペースで売却しているが、そろそろやめる予定。


・財政悪化による国債増発↑
米政府の財政はコロナ禍以降、大きく悪化しており、今後も悪化し続ける可能性が高いため(7/18日経7/22日経)、国債の増発は続く。金利が高止まりした状態では公的債務の利払い費も増加し、財政はさらに悪化しやすくなる。


・金余り、資金需要の低下↓
金余りで運用難に陥っている米国の金融機関や保険会社、年金、企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。バフェットさんも買っている。

第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。

少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。


・米国債の人気→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも高いので、海外勢から買われやすい。8/17ヴェリタス

米国債保有世界2位の中国は、米国との対立や人民元安阻止のために米国債を着々と売却している。米国と緊張関係にあるロシアなども米国債を売却している。


・米企業の社債発行増↑
米企業の社債発行が急増している。米国債より投資妙味の大きい高格付け社債の発行増加により、米国債の需要が減っている。


・リスクオン・リスクオフ↑
米景気は比較的堅調で、金利を引き下げ始めたのでリスクオン気味。


・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。


<10年チャート> 天井を打ったように見えるが、長期線同士がゴールデンクロスを形成しそうなので、大きくは下がりにくそう。


■WTI原油
今後1年の予想レンジ:60ドル~110ドルの間で推移

原油価格に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2024年の予想世界GDP成長率は2.8%になる。
世界需要の36%を占める米国と中国の需要は低迷しつつある。9/19日経

長期では、再生可能エネルギーの増加や技術革新、学校・職場のリモート化などにより石油需要が減少していく可能性がある。仏トタルや英BP、国際エネルギー機関(IEA)は2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している。

一方、世界人口増やAIの電力消費、再生エネルギー開発の滞りなどにより、石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している。英シェブロンは2023年から45年にかけて石油需要は約15%増加すると予想している。


・供給↓
OPECプラスは1バレル90ドル前後の水準を維持することを目的に減産に動いているが、OPEC以外の米国やカナダ、ブラジル、ガイアナなどは生産を増やしている。10月以降は供給過剰に転じる見込み。9/19日経9/14ヴェリタス

OPECプラスはシェア低下を恐れ、今後増産にシフトするもよう。9/26日経

脱炭素の潮流を受けて油田開発投資は大きく落ち込んでいたが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにエネルギー不足の懸念が生じ、化石燃料の開発投資が急増している。長期の供給も問題なさそう。


・AIによるコスト削減↓
AIの活用により生産効率が高まっている。米ゴールドマンサックスは中長期の生産コストが1バレルあたり5ドル下がると予想している。9/22日経


・産油国で不測の事態が起こる↑
中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きており、パレスチナでは紛争が起きている。供給網の混乱などにより今後供給が減る可能性がある。米ゴールドマンサックスは「ホルムズ海峡で石油の流れが遮断された場合、原油価格は1カ月で20%上昇する」と予想している。

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。


・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル85ドル、ロシアでは80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は75ドル、米産油企業の採算ラインは50~80ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。


・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時には売られやすい。


・インフレ対策↓
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元でインフレは落ち着きつつある。


・為替↑
原油はドル建てのため、ドル高になると割高感が出て、原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではややドル安基調。


・チャート→
<10年チャート> チャート的には落ち着いた感じ(横ばい傾向)。60ドルを底にボックス圏で推移しそう。



■ドル円
今後1年の予想レンジ:130円~160円の間で推移

為替に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・日米金利差↓(↑は円安方向、↓は円高方向)
<短期金利>
日米の短期金利差は現在約4.5%ある。日本は利上げ傾向、米国は利下げ傾向にあるため、今後金利差はさらに縮まっていく可能性が高い。とはいえ、日本は国内需要が停滞しているため金利を上げづらく、米国は景気が比較的堅調なため利下げは穏やかなペースになりそうなため、金利差縮小のペースも穏やかなものになりそう。


これまで金利差拡大によりキャリー取引が増えていたが、日米の金融政策の転換により、徐々に減少している。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。
*世界で金利が最も低い水準にある日本の円は、キャリー取引の調達通貨として選ばれやすい。対ドル以外でも売られやすくなっている。
*市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

<長期金利>
現在、米長期金利と日本の長期金利の差は3.0%くらいある。今後長期金利差も縮まっていきそうだが、そのペースは穏やかなものになりそう。


・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているため、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている(9/10日経)。個人投資家は成長力の高い海外株を買っている。ここ数年は両者合わせて年10~20兆円の買い越しが続いている。7/9日経

*キャピタルフライト
日本は財政問題や経済低迷、インフレなどの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産にシフトし始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。2024年に始まった新NISAでキャピタルフライトが加速しつつある。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。今年は20兆円を超え、過去最高になる可能性がある。

海外企業の対内直接投資額は1兆円程度になる。9/12ロイター


・日本の貿易収支→
円安や資源高、生産の海外移転、産業競争力の低下などにより、貿易収支は悪化傾向にある。(貿易収支を含む)経常収支は年20兆円程度の黒字の水準にはあるが、そのうち半分くらいは海外での再投資や内部保留などにあてられるので、稼いだ外貨の半分くらいしか日本に戻らない。

*訪日客の増加でサービス収支の旅行収支はかつてない大幅黒字になっているが(8/9日経)、海外テック企業が提供するクラウドサービスなどへの支払いによる「デジタル赤字」がそれを帳消しにしている(8/19日経)。「デジタル赤字」は今後も旅行収支の黒字を上回って増えていく見込み。


・米国の貿易収支↑
米国は経済が強く、国内産業の保護主義政策を推進しているので貿易収支は改善傾向にある。


・日銀の財務状態の悪化↑
日本の長期金利が1%まで上昇した場合、日銀は債務超過に陥る。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるので資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。現在、日本の長期金利は1%近くまで上昇しており、今後さらに上昇する可能性がある。

*日銀は長期金利が1%に上昇した場合、日銀が保有する国債に28兆円の含み損が生じ、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。

*米ゴールドマン・サックスは「2027年に政策金利が1.25~1.5%に到達するまで利上げサイクルが長期間続き、長期金利が26年末に2%に達する」と予想している。
*日銀は民間金融機関が日銀に預けている当座預金への利息を支払っている。利上げが進めば利息負担がかさみ、その負担が日銀が保有する債券の収益を上回ると、赤字に転じる可能性が出てくる。ある試算によると政策金利が0.6%まで引き上げられると経常赤字に転じる。2.8%まで上がれば債務超過に陥る可能性がある。


・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。日本は自然災害が多く、突然の大地震が起こったときに多額の国債発行が必要になるので、それによって臨界点が早まる可能性もある。米国政府の債務も返済不可能な水準まで積み上がっているが経済が強く、ドルは基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。


・リスクオン、オフ↑
ややリスクオン気味。


・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)が低く、日本国債の金利は安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している。

*海外勢は2023年半ば頃から日本株を大きく買い越しているが、これは先物の円売りを合わせて投資していることが多いので、円高要因にはなりにくい。


・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は8月以降、円の買い越し(ドルの売り持ち)に転じている。円が上昇するとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。


・個人投資家の売買動向 ー
日本の個人投資家によるFX取引が為替市場の約2割を占めており、相場を動かす原動力になりつつある。ただ足元の売買動向は不明。


・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、米長期金利の上昇や、ロシアやアルゼンチンの通貨不安、中国経済の先行き懸念などにより、ドルの需要が高まっている。


・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。


購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値を計算したものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

現在の購買力平価(企業物価)は92円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくとされるが、近年では投機取引の拡大や資本の自由化などから購買力平価の影響力は弱まっている。

*購買力平価仮説が成り立つ前提は、貿易における実需取引が為替レートを決める主因であるというもの。日本の製造業は海外に拠点を移し、輸出が増えなくなっているため、購買力平価と市場レートは開きやすくなっている。また現実の為替市場では金融取引が圧倒的なボリュームを占めているため、貿易の実需取引の影響は小さくなっている。


・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する。しかし現時点でそこまで下がる可能性は低い。


・<10年チャート> 長期では上昇基調だが、いったん天井を打ったように見える。



■日経平均
今後1年の予想レンジ:30000~43500円で推移

日経平均に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している。2023年まで世界中の中銀は金融引き締めをしていたが総資産はほとんど減っていない。2024年は金融緩和に転じ始めているので、中銀の総資産は増加、もしくは高水準で維持されそう。


・金利↑
金利が上がると、株式から債権へ資金が流れやすくなる。足元で金利はピークアウトしつつある。ただし日本は例外で穏やかな上昇基調にある。


・為替↑
円安が進むと海外勢から見た日本株は割安感が出る。現在は円高傾向にあるため、海外投資家による日本株への売り圧力が強まっている。9/14日経

*ドル高・円安が1%進むと東証株価指数(TOPIX)は0.5%上昇するという試算もある。9/21ヴェリタス


・需給↑
主な投資主体の売買動向

<2024年の予想>
日本銀行:政策保有株の売却で3000億円の売り越し。 現状は2000億円くらいの売り越し。
事業法人:自社株買いで15兆円の買い越し。 現状は5.3兆円超の買い越し。
海外投資家:日本企業への期待と世界経済のソフトランディング期待から3.2兆円の買い越し。 現状は4000億円の買い越し。
*海外勢の買い越し額が7月の4.2兆円から4000億円に急減しているが、これは配当への二重課税対策のため。実需の売りではない。9/28日経
信託銀行:ポートフォリオのリバランスで3兆円の売り越し。 現状は4.6兆円の売り越し。
*「信託銀行」は主に年金勢の動きを映す。米金利が下がる局面では日本株にリバランスの買いが入りやすくなる。8/20日経
金融機関:政策保有株の売却で?4兆円の売り越し。 現状は6.5兆円の売り越し。
個人投資家:新NISAや順張り投資で1兆円の買い越し。 現状は3000億円の買い越し。

*各投資主体の売買動向を俯瞰できるグラフは8/29日経


・EPS(1株利益)→
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益) × PER(期待度・人気度)で決まる。2024年の予想EPSは-5~+9%、2025年は+7%くらいになる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因をみていく。
・為替↓
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響を大きく受ける。今は円高傾向なので利益が目減りする可能性が高い。

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。足元の世界景気はそこそこ堅調。

・自社株買い↑
自己株式はEPSを計算する際に分母の株式数から除かれるため、自社株買いにはEPSを押し上げる効果がある。日本企業は自社株買いに積極的で、2023年の自社株の取得実績は約8兆2000億円になる。2024年はそれを上回る規模になる見込み。
日経には「自社株買いをしても、その分株数も減り、時価総額も同じ割合で減るので理論的には自社株買いをしても株価は不変」とあるが、自社株買いにより需給が改善したり、ROEが上がったり、企業の「自社株は安い」というアナウンスメント効果があったりするので、株価は上がりやすくなる。

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益を圧迫する。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばい傾向で、資源価格は円安により上昇傾向にある。

・金融政策→
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。日本では金利が上昇基調にあるが、そのペースは非常に穏やか。
ーーーーー


・PER(期待度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいで、現在のPERは15.3倍とやや高い位置にいる。今期の業績予想は-5~+9%くらい、来期は+7%くらいになりそうなので、現在の株価水準はほぼ妥当な水準なのかもしれない。


・リスクオン、リスクオフ↑
ややリスクオン気味。


・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約6.37%、配当利回りは約2.36%と、日本の10年国債の利回り0.85%より高いので、株式に資金が流れやすい。


・中国株からのシフト↑
中国の景気停滞リスクや地政学リスクから、中国投資離れが拡大している。その代替投資先の1つとして日本株が選ばれている。


投機筋の持ち高
買い残は1兆8100億円で、裁定売り残高は1500億となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。


・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。2024年に始まった新NISAで2024年上半期に約3兆円が日本の個別株に流入している。7/30日経


・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えると株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。


・チャート↑
<10年チャート> 出来高を増やして新高値を突破しているので基調は強い。ただMACDは天井を打っている。


■東証グロース250指数
今後1年の予想レンジ:600~900の間で推移

東証グロース指数に影響を与える要因を、影響の大きい順にみていく。

・金融政策↑
東証グロース指数は米金利の影響を強く受けるので、米国の利上げ時は真っ先に売られやすい。現在は利下げに転換したので、買われやすくなっている。

*小型グロース企業には赤字で借り入れ依存度が高いところが多い。金利上昇時には借金の金利負担が重くなり財務状態が悪化する。また成長資金を調達しにくくなる。
*金利上昇時は将来の成長期対で買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。
*金利が上昇すると国内需要が弱含み、国内事業が中心の小型グロース企業は業績が伸び悩みやすくなる。
*米金利が上昇すると、円安が進み、円安の恩恵を受ける国内の大型株が選好されやすくなる。


・需給↑
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので、売り圧力はそれほど強くなさそう。個人投資家の含み損は減少傾向にあるので、そろそろ個人が動き出してもよさそう。
*東証グロース市場の海外投資家の売買シェアは約4割になる。8/27日経


・EPS(1株利益)成長率 ー
不明。

*株価は基本的にEPS × PERで決まる。グロース市場全体のEPSがマイナスの場合、そこにPERをかけても株価を算出できない。株価を決定する代表的な指標である純利益が赤字の場合は、株価が市場のセンチメントに翻弄されやすくなる。


<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えている。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような状況であり、このような前例を踏まえると、2年の停滞が続いた東証グロース指数は今後反発するかもしれない。

<グロース250の10年チャート> 底値感はあるが基調は弱い。

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などをみていく。

■EPS成長率
・世界株式の2024年の予想EPS成長率は-5~10%。
・米国株式の2024年の予想EPS成長率は0~15%。
・中国株式の2024年の予想EPS成長率は0~10%。
・欧州株式の2024年の予想EPS成長率は-5~8%。
・日本株式の2024年の予想EPS成長率は-5~9%、2025年は7%。


■経済成長率
・世界の2024年の予想GDP成長率は2.6~3.2%、2025年は3.0~3.3%。
・米国の2024年の予想GDP成長率は1.3~2.6%、2025年は1.7~1.9%。
・中国の2024年の予想GDP成長率は4.2~5.0%、2025年は4.1~4.5%。
・ユーロ圏の2024年の予想GDP成長率は0.6~1.3%、2025年は1.3~1.7%。
・日本の2024年の予想GDP成長率は0.5~1.0%、2025年は0.8~1.1%。
・インドの2024年の予想GDP成長率は4.5~7.0、2025年は6.5%。
*数値はIMFとOECDと世界銀行の予想。7/16日経など

世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。


■インフレ
・米国の2024年の予想インフレ率は2.2~3.2%、2025年は1.8~2.6%。
・欧州の2024年の予想インフレ率は2.2~3.5%、2025年は1.8~2.6%。
・日本の2024年の予想インフレ率は1.5~2.5%、2025年は1.5~2.4%。
*参照:1/23日経など
*ブレーク・イーブン・インフレ率とは市場参加者のインフレ予想を反映する代表的な指標。通常の国債と物価連動国債の利回り差から算出する。ブレーク・イーブン・インフレ率は実質金利を算出するときなどに使われる。


今後のインフレ動向を、インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて考えていく。

<インフレ要因>
・人手不足で賃金が上昇している。米国においては求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされる。7月の求人件数は767万件とまだ少し多い。9/5日経

*米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは5月に「米国の景気と求人数が悪化し続けるのは確実。底打ちまでに18~24カ月ほどかかる」と言っている。

*米国ではフルタイム労働者が減少しており、パートタイム労働者が増加している。過去のケースではこのようにフルタイムが減り、パートタイムが増えた場合は、時間をおいて、雇用者全体の伸びが急減速している。

*米国では移民が急増しており、企業の求人を埋めている。移民は「弱い雇用」と呼ばれるパートタイムの割合が高いとされる。こうのようなケースでは、雇用が増えても賃金はあまり上がらない。ただ、大量の移民は家賃の上昇圧力にはなる。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・財政拡張が物価を押し上げている。米国では積極財政が生んだ累積的な「財政ショック」が2023年の米インフレ率を0.5%押し上げたと推計されている。財政要因は直近の数四半期でも0.6~0.7%の押し上げ寄与があると推計されている。
*世界的に選挙が相次ぐ2024年は財政拡張が進みやすくなる。
*債務増加が通貨の価値低下につながっている。米国、ユーロ圏、日本の世界3大基軸通貨国すべてで債務が過剰な状態にある。通貨の購買力が落ちている。

・ウクライナや中東地域の戦争によってエネルギーコストが上昇している。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ戦争などにより、食料価格が上昇傾向にある。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。

・米欧でインフレやAIへの不安などからストライキが頻発している。

・株高による資産効果で消費が落ちにくくなっている。


<デフレ要因>
・これまで世界中の中央銀行が強力な金融引き締めをしていたので、金利は平時と比べまだ高い水準にある。金利高は需要を減らす効果がある。

・経済のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば、検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、1億曲超をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産コスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がゼロに近いので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報や人やモノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・産業の「自動化」により、生産コストが低下している。

・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。

・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。

・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。

・人手不足で成長力が低下している。

以上をまとめると、インフレは落ち着きつつあるが、人手不足や保護主義、環境規制、紛争、財政ショックなどの構造要因は残るので、以前のような超低インフレに戻る可能性は低い。米国では2025年頃にインフレ率が2%くらいになり、その後は1.5~3%あたりで推移しそう。

日本においては、国力の低下から円安は止まりそうになく、円安を起点にインフレに転換する可能性が高い。インフレが高進した場合はキャピタルフライトが加速し、さらに円安・インフレが進む可能性がある。とはいえ、日本は少子高齢化社会なので、需要の基調は弱い。インフレが進むとしても比較的穏やかなものになりそう。


超長期で考えると、世界ではエネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命が進み、超デフレ(無料社会)になる可能性がある。


■金利
・米国の政策金利は5.00%で、3ヶ月金利は4.66%、2年金利は3.63%、10年金利は3.80%、30年金利は4.12%になる。
・日本の政策金利は0.25%、2年金利は0.37%、10年金利は0.85%、30年金利は2.10%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。

*現在の債券は魅力的な水準まで利回りが高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが4.20%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*米30年物国債の利回りが自然利子率(3.5~4.0%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。しかし今回は30年債が自然利子率を長期間上回っているにもかかわらず、米株は天井を付けていない。

*米10年金利が米2年金利を下回ると、その1年~1年半後に景気後退に陥ることが多い。米国では2022年7月から10年金利が2年金利を下回っており、2年経った現在もその状態が続いている。しかし現在、景気後退は起きていない。

*短期金利が長期金利を下回る逆イールドは、景気後退の直前に解消することが多い(7/22日経)。9月に逆イールドは解消しているが(9/13日経)、現段階で景気後退を見込むエコノミストは少ない。今後2年は景気拡大が続くとの見方が多い。7/30ロイター

*米10年金利が米3ヶ月金利を下回ると、その後、比較的すぐに景気後退する傾向がある。2022年10月からこの逆イールドが発生している。この逆イールドはいまだ解消されていない。

*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし長短金利が逆転すると逆ザヤになるので融資が減る。その結果、企業の投資も減り景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。過去の例では、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起こることが多い。今回米中銀は2023年9月頃から利上げを停止している。

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は4の段階になる。


■債務
・世界の債務はコロナ過で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している。ただ、コロナ過の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク(ノンバンク)」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドル(3京6000兆円)と07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。ノンバンクは信用力の低い企業へ融資することが多く、今後も拡大していく見通し。ノンバンクによる企業向け融資(プライベートクレジット)は金融規制の対象外にあるためデフォルトリスクを把握しづらい。金利が高止まりし景気後退に陥ればデフォルト率が7%くらいまで上昇する可能性がある。
*プライベートクレジット事業者は2008年の金融危機後に設立されたところが多いため、デフォルトの影響は未知な部分が多い。

*米国の金利の高止まりは、ノンバンク業界を直撃する。ノンバンクは通常、リスクの高い借り手に高い金利で貸し付ける。金利高止まりの影響で借り手の返済能力が落ち不良債権が増えている一方で、貸し手の資金調達コストは上がっている。ノンバンクでは時価会計を行っていない運用会社が多いため、問題があっても資金繰りが苦しくなるまでそれが表面化しないことが多い。商業用不動産市場では価格が半分になったものも珍しくない。高金利の下で経済に内在する不安定要素は増している。

・プライベートエクイティ(未公開株)ファンドでは投資回収が難しくなっている。PEファンドが抱える未売却企業は約2万8000社、3兆2000億ドル(約500兆円)相当に及ぶ。

・米金融市場では商業用不動産が大きな”爆弾”になっている。商業用不動産の10年間の価格上昇率は日本が20%なのに対し、米国は50%になっている。米国の商業用不動産向け貸出額は2010年から2023年まで約2倍に膨らんでいる(日本は同期間に3割増)。リモートワークの浸透や金融引き締めによるオフィス需要の低下によりオフィスの空室率は20%に迫っている。金利上昇により商業用不動産向けの融資基準は厳格になるなか、2024年に80兆円規模の償還期限が到来する。そこで借り換えができない場合、物件は市場で売却されるため、市場価格の調整圧力はかなり大きくなる。米欧ではGDPに占める商業用不動産の割合が1~2割に高まっているため、不動産バブルが崩壊すれば米経済は大きく下押しされる。米不動産ファンドは世界中に分散投資しているため、ファンドのリバランスで世界中の商用不動産に売りの連鎖が波及する恐れがある。

足元で米商業用不動産を取り巻く環境はじわじわと悪化している。商業用不動産の中でもとりわけ深刻なのはオフィスビル。23年後半から融資のリスクが急激に顕在化し、30日以上返済延滞している案件の割合は過去10年で最悪となっている。商業用物件の取引数は、過去最低レベルで低空飛行中であり、今年後半以降に増加するローンの満期に耐えられるかどうか懸念されている。ただ、商業用不動産の貸し手は比較的小規模な銀行が多く、銀行の健全性は以前より格段に高まっているので、デフォルト率がある程度高まっても、銀行システム全体の危機に発展する可能性は低い。8/10ヴェリタス

金利引き上げの影響は企業が借金を借り換えるタイミングで最も大きくなる。2022年3月のゼロ金利解除から1年4ヶ月で5%超に及んだ今回の急速利上げで2024年は企業の利払い負担が一気に増す。そのタイミングでデフォルトが続出する可能性がある。・・2024年はうまく借り換えが進んだもよう。次の山場は2026年以降になる。

住宅用不動産も”爆弾”になりつつある。金利の上昇に加え、保険料など維持費も上昇しており、空室率は高止まりしている。マンション向け融資残高は23年末に約2兆2000億ドル(約345兆円)と、焦げ付きが顕在化しつつある商業用不動産向け融資の6割に達している。マンション向け融資の延滞率は1月に0.44%となり、リーマン危機の水準を上回り過去最高を更新している。リーマン危機の際には、延滞がピークに達してから貸し手の損失がピークに達するまでに約2年を要している。24年と25年には5000億ドル(71兆円)の融資が返済期限を迎える。借り換えに失敗すれば割安な価格で不動産を手放さざるを得ず、価格下落に拍車がかかる恐れがある。

・米政府の公的債務のGDP比率は07年の35%から22年には97%まで高まっており、53年には181%まで上昇する見込み。

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。
・22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。

・中国は前例のない投資主導経済を20年にわたって続けている。過去40年間に消費のGDP比は53%から38%へ低下し、消費が投資を下回り続けている。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造になる。多くの資産が健全資産とはいえず、不良資産が積み上がっている。
*一方、米国では労働者に購買力を与え、生活水準を向上させることで需要を創造してきた。過去40年間に米国の消費のGDP比は60%から68%に上昇している。

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。

・新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。

・世界で過剰債務企業が増えている。本業の利益が借金の利払いより少ない”ゾンビ”企業が全上場企業(2万4500社)に占める比率は2021年度に16%になっている。直近ではこうした企業が破綻に追い込まれる事例が相次いでおり、仏アリアンツは23年に世界の企業の倒産が21年比で26%増えると予想している。 

・米ムーディーズは今後の世界の社債について、最も悲観的なシナリオだとデフォルト率が14.5%になると予想している。これは1933年の世界大恐慌の最中の15.8%以来の水準になる。リーマン・ショック時のデフォルト率は12.1%になる。

<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより生じる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元で一部中銀はインフレ対策として資産の売却を進めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、”中銀バブル”が完全崩壊する可能性は低い。


■金融政策、財政政策
・2023年は世界中の中銀がインフレ対策で金融引き締めを行っていたが、2024年は金融緩和に転じている(9/13日経)。米バンク・オブ・アメリカは2024年に世界の中央銀行が年間で152回の利下げに踏み切ると予想している。

*米ゴールドマン・サックスは、景気後退を予防する目的の利下げや、インフレが落ち着いた後に行う利下げでは株高が発生し、景気後退を伴う利下げでは株安が発生すると分析している。今回の利下げは前者のタイプなので株高が発生しやすい利下げになる(9/21日経)。米JPモルガンも似たようなことを言っている。9/21ヴェリタス

・中国中銀は需要不足・デフレ対策として、9月に追加の金融緩和を行うと発表した。9/25日経

・日本は大多数の中銀とは対照的に金融引き締めに動いている。ただ国内需要は弱く、世界中の中銀は金融緩和に動いているので、金融引き締めを進めにくい。日銀のバランスシート膨張や政府債務の拡大も金融引き締めを進めにくくしている。日銀の金融引き締めは穏やかなものになりそう。8/1日経8/2日経

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定しているが、財政収支の悪化は続きそうなので、長期の見通しはあまりよくない。
・自民党総裁に石破さんが選ばれた。財政健全化にはベストっぽい人材になるが、株式市場にはワーストな人材になる(笑)。日本が財政健全化をするまで、もしくは石破さんが引退するまで国内株式市場は暗黒の時代になるかもしれない。
*ただ財政を健全化するには経済が好調である必要があり、解散総選挙で議席数を取るには株式市場が好調である必要があるため、法人増税や金融所得課税などの”石破政策”は軌道修正される可能性がある。

・海外の政治は不安定。ウクライナ戦争により、ロシアと西側の関係は当分冷え込みそう。
・パレスチナではイスラエル(ネタニヤフ首相)の計画通り戦争が始まった。足元では戦闘が激化している。中東地域はしばらく不安定な状態が続きそう。

・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
*米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込む。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。

・米国では資本主義と自己責任社会の帰結として、格差拡大が続いており、民主主義が機能不全に陥りつつある。近い将来、大規模な政治的分断が起こる可能性が高い。

・米国は典型的な衰退期に入ったという見方もある。マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は、国家のサイクルは「新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ」「平和と繁栄を迎え支出と債務が過剰になるステージ」「財政状況が悪化し内戦、革命に向かうステージ」の3つのステージに分けられ、現在の米国は衰退期に属する3つ目のステージに入ったと言っている。

・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。国外からの投資も、各種規制やスパイ法(7/1日経)などの影響で著しく減っている(8/9日経)。この調子でいくと中長期でも経済成長が減速していく可能性が高い。中国共産党が一党支配を最優先する限り、この傾向は続き、最終的に中国はロシアのような国になる可能性がある。
*23年の対中国直接投資額は21年の51兆円の1割程度まで落ち込んでいる。
*中国共産党の一党体制はますます強化されている。7/18日経

・中国経済がかつての日本のようなデフレに陥りつつあるという見方が強まっている。日本は1990年代から不良債権、雇用、設備の3つの過剰に悩まされた。中国も今同じ3つの過剰に悩まされている。当時の日本は欧米市場へのアクセスが確保され、海外に活路を求められた。しかし今の中国は米国と対立し、欧州でも中国製EVを締め出す動きが広がっている。米欧の半導体輸出規制により先端半導体の調達にも支障をきたしており、技術的にも追い詰められつつある。
・マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は「中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。バブルが崩壊し、試練が続くだろう」と言っている。

・EUは域内で財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ戦争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトはしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は98とほぼ中立の水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
*米GDPの約7割は個人消費が占める。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で47.2と中立よりやや低い水準。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は51.5と堅調な水準。ただ穏やかな下降トレンドになっている。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは44.8。好不況の分かれ目である50を2年以上下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは49.1とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格は高水準で推移している。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)は7月に最高値を更新したが、足元ではやや調整している。
米国の失業率は低位で推移しており現在4.2%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥りやすくなる。8月の失業率は前年同月を0.4%上回っている。
*米国では直近3ヶ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退に陥りやすくなる(7/9日経)。9月時点ではちょうど0.5ポイント上回っている。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは底打ちし上昇基調にある。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。つい最近まで3つ起きていた。現在は1つ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい。現在は「楽観(強気)」の水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は+25%と「強気」の水準。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすい。現在は68で「Greed(貪欲)」の水準。

・米機関投資家の株式持ち高比率を示すNAAIM Exposure Indexも先行指標になる。この値が80を超えると過度の楽観、20を下回ると過度の悲観になる。現在は86と過度の楽観になる。

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後なんらかのショックで株価が急落することが多い。現在のVIX指数は17と低位な水準にある。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わることが多い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは105と中立の水準。
・日本株の信用評価損益率は-9.37%と中立の水準。
・先進国の株価チャートは、軒並み最高値を突破しており基調は強い。

長期計画

 「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
景気循環的にそろそろ景気後退に陥りそう。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は比較的良好なため深刻な景気後退に陥る可能性は低い。

*景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大) →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮) →不景気 の流れになる。

9月にバンク・オブ・アメリカが実施した機関投資家調査では世界経済がソフトランディングするとみる割合は79%に上昇しており、解答者の52%が今後1年半で米経済が景気後退に陥らないと予想している(9/21日経)。本当にそんなことが可能なのか。景気後退要因と景気浮揚要因を列記して考えてみる。


<景気後退要因>
・企業債務はGDP比で過去最高水準まで高まっており、金利も2008年の金融危機前と同水準まで高まっている。いつ資金の逆回転が起きてもおかしくない。
・米欧などの先進国中銀はこの2年で政策金利を急激に引き上げている。金利高の影響は1年くらいの時差をもって経済に反映される。2024年はその影響が表れる年になる。
・過去のパターンでは米利上げ停止後1年くらいに「○○ショック」が起こり景気後退に陥っている。今回FRBは2023年9月頃から利上げを停止しているので、今年の9月頃に「○○ショック」が起こる可能性がある。・・今のところ起きていない。
・過去のパターンでは逆イールド発生後、1~2年くらいたったころに景気後退が起きている。米国では2022年7月に逆イールドが発生しており、現在2年が経過している。
・逆イールドが発生している影響で、融資・投資が減っている。銀行の融資態度は景気との相関が強く、過去、融資基準の厳格化が進んだ時期には景気後退が発生している。
・米家計のコロナ貯蓄はほぼゼロになっている。2023年10月からは学生ローンの返済が再開されている。クレジットカード債務や自動車ローンの延滞率は足元で13年ぶりの高さになっている。
・米経済の牽引役である個人消費は長引くインフレや金利高で節約志向が高まっており、低調気味になっている。
・今後米国の失業率が上昇していく可能性が高い。米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは5月に「米国の景気と求人数が悪化し続けるのは確実。底打ちまでに18~24カ月ほどかかる」と言っている。
・株式市場の牽引役になっている「生成AIブーム」が”幻滅期”に入り、いったんしぼむ可能性が高い(9/10ガートナー)。現在、生成AIのインフラ投資は活発だが、生成AIの利用企業数はピーク時の半分以下になっている。株式市場が停滞すると逆資産効果が生じる。
・2008年に起きた金融危機では、中国の大型投資により世界経済は救われたが、今回はそのような支え手がいない。
・過去の例では日銀の政策金利の引き上げは米景気後退の直前にすることが多い。過去のパターン通りいくとしたら(8/1日経)、あと6ヶ月以内に景気後退に突入する。


<景気浮揚要因>
・失業率が低い。米GDPの約7割は個人消費が占めるが、失業率が低水準の状態で維持されると、所得が維持され、消費が落ち込みにくくなる。1960年代以降に8回あった景気後退局面では、失業率が平均で3%強上昇しているが、今後想定される失業率の上昇幅はその半分にも満たない。
・移民が流入している。移民流入により労働供給が増え、成長の原動力になっている。一方で、移民は「弱い雇用」に就くので、賃金の伸び鈍化にも役立っている。
・米国では移民の流入やテクノロジーの普及、サプライチェーンの強靱化などにより潜在成長率が2%台に上昇している。
・米国の生産性は上昇している。生産性は2023年に年率で4%程度伸びている。生産性が上がった主因は雇用流動性の高さになる。米国ではコロナ過の初期に2200万人超の一時解雇が発生したが、その後、労働者はより成長力のある企業に転職した。最も雇用が増えたのはIT関連になり、起業数はコロナ過前の2倍になった。これらが米国の技術革新を加速させた。
・デジタル化が米国経済を強靱化している。デジタルエコノミーの伸び率は平均年7%超あり、それが米経済を下支えしている。
・現在はサービス業が経済成長を主導しているので、景気が落ち込みにくい。サービス業は投資資金を製造業ほど必要とせず、イノベーションが起こりやすいので、成長力が落ちにくい。
・AIが普及期に入りつつある。英調査会社はその普及率に応じて2027年の米GDPを0.7~2.5%、2032年時点で1.8~4.0%押し上げると予想している。
・米国では家計債務の約7割を住宅ローンが占めるが、コロナ過の低金利時代に多くの世帯が住宅ローンを借り換えているので、債務返済コストが低くなっている。住宅価格は高騰しており、その含み益を借り換えで現金化する手法も活発になっており、約60兆円の余剰資産が生じたという試算もある。
・米家計は金融資産の5割を株式や投資信託などで運用しているので、株高により、家計は潤っている。この20年の株価上昇の結果、家計の金融資産の増加は個人所得の増加の6倍になっている。住宅価格は3倍に上昇している。2024年第1四半期の米家計資産は過去最高の160兆ドル(2京5000兆円)に達している。家計純資産は過去10年間でほぼ2倍になっている。
・米国の家計の金融所得が過去最高に膨らんでいる。株式や債券など金融資産の生み出す所得は2024年4~6月期に年率換算で過去最高の3.7兆ドル(約540兆円)に達した。ダウ工業株30種平均が再び最高値に接近するなど米市場は堅調で、今後も金融所得が米個人消費を支える構図が続く可能性がある。8/23日経
・景気サイクルの終盤にもかかわらず、米家計のバランスシートは健全。家計の可処分所得に占める元利払いの返済負担比率は低下している。
・クレジットカード支払いの延滞率が上昇しているという指摘は多いが、延滞が生じているのは低所得者層で、全体に占める割合は10~15%程度に過ぎない。金利水準は高いが、米国では固定金利で住宅ローンを組む人が全体の8割と多く、22年以降の金利上昇の影響は限定的になっている。9/14ヴェリタス
・現在、過去のリセッション局面の前段階で必ず見られていた「民間債務の急速な拡大」は起きていない。
・米長期金利は高止まりしているが企業の金利耐性は上がっている。2022年以降の米企業部門の受取利息の伸びは支払利息よりも大きい。大企業は低金利時に固定金利で資金を調達している一方、米アップルのように手元資金が潤沢な企業は高利回りの運用資産を保有している。
・インフレが鈍化している。コロナ禍で深刻になっていた移民減少や半導体不足などの供給制約が解消されている。インフレ指数の約3割を占める賃料も落ち着き始めている。
・インフレ要因となっていた、ウクライナ戦争の供給ショックが落ち着きつつある。
・インフレが落ち着いてきており、主要中銀は政策金利を引き下げ始めている。
・米国では半導体産業や環境産業(EVなど)、インフラ産業などの巨大産業を政府が支援しているので、景気が落ち込みにくい。
・世界的に積極的な財政政策が採られているので、当面の間、力強い経済成長が続く可能性が高い。9/14ヴェリタス
・インドなどの新興国経済が好調。中国はいろいろと問題を指摘されているが、それでも4%超の成長をできる見通し。
・過剰流動性(金余り)が維持されている。コロナ禍で政府がばらまいた資金が市場にまだ高水準で残っている。マネーストック(民間に流通しているお金の総量)は長期的に右肩上がりで増え続けている。世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は2024年4月にリーマン・ショック前の約4倍にあたる8兆7300億ドル(1360兆円)に拡大している。
・FRBなどの主要中銀は過去の金融危機の経験を踏まえ、制度変更や規制に加え、バックストップ(安全策)機能を整備している。
・長期の米景気を俯瞰すると、現在の景気は拡大局面が長く、後退局面が短くなっている。その要因は、製造業からサービス業への重心移動、生産・在庫管理の進化、機動的な金融・財政政策などになる。


<まとめ>
こう見ていくと、景気浮揚要因が多いので、景気後退に陥るとしても軽いもので済みそう。



■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務は積み上がっており、GDP比220%に達している。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

・・中国政府がとれる政策が限られてきた。政府や民間企業の債務残高の合計はGDP比で約300%に膨らんでおり、大規模な財政支出はしにくい。一方で、人民元安が進んでおり、中国中銀は大幅な利下げをしにくくなっている。


景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が2024年頃に武力で台湾を併合するとの予想がある。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。戦争を仕掛けるとしたら米国側からになる。

とはいえ、中国は米国債を売り続けており、「安全資産」である金の保有を増やしている。台湾に侵攻する可能性も少しはあるのかもしれない。

中国が5月23~24日に実施した台湾を包囲する形での軍事演習について、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は「(侵攻に向けた)リハーサルのようだった」と話している。


景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられなくなる。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのではないかと思う。

2022年、2023年は世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生した。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測している。経済システム転換の機運は早々に訪れるのかもしれない。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので、人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている。AIやロボット、教育などの影響を考えると、今後もピーク時期の前倒しが続く可能性が高い。


景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や戦争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので、景気後退もしくは財政破綻する可能性がある。


■今後の計画
景気が停滞し、円が130~135円くらいまで上昇したら、3倍以上の値上がりが見込める海外資産を買っていく。