2025年7月1日火曜日

エラン

 ■調べようと思った経緯
エムスリーの本決算記事(5/2日経)を見たのがきっかけ。エムスリーの今期の売上高は前年比26%増の見通しで、成長トレンドが復活しそうだと思った。SBI証券のサイトでエムスリー株を調べようとしたら、検索結果にエランとシーユーシーが一緒に出てきて、エランが去年エムスリーに買収されたことを思い出した。エランを見てみると、業績は悪くなく、買収巧者のエムスリーに取り込まれたにもかかわらず、株価はTOB価格を大きく下回っていた。これは狙い目かもしれないと思った。

なお、シーユーシーのほうもチラッと見たが、成長ストーリーや財務状態が芳しくなく、エムスリーが子会社をわざわざ上場させたのは資金調達(増資)が目的のように感じたので、スルーすることにした。


■どんな会社か
病院や介護施設向けに、入院レンタルサービス「CSセット(ケアサポートセット)」を提供する会社。この事業が全売上の97%を占める。全国に30拠点を展開し、国内全域でサービスを展開するほか、ベトナムやインドにも進出中。2024年9月に、エムスリーが株式の55%を取得し、同社の子会社となった。


■事業概要
「CSセット」とは、衣類、タオル類のレンタルと歯ブラシなどの日用品提供を組み合わせた定額制サービス。利用者はエランと直接契約を結び、入院、入所に必要な生活必需品を1日単位でレンタルできる。患者は手ぶらで入退院が可能となり、患者・家族や看護スタッフの負担軽減、病院の収益向上という三方よしを実現している。

このサービスは、全国の病院・介護施設2570カ所以上で導入されており、2024年12月期には契約施設数が前年比約10%増と、右肩上がりで成長している。ただし、病院向けリネンサプライ大手などが類似サービスに参入してきており、競争は激化しつつある。

また、エランはCSセットにさまざまなオプションを用意している。入院・介護費用保証が付帯した「CSセットR」や、患者由来の損害事故に備える「CSセットLC」などがその一例。さらに、快適性と高品質を追求したオリジナル患者衣ブランド「lifte(リフテ)」なども展開し、サービスの高付加価値化を進めている。


■業績動向
エランは18期連続で売上高の増収を達成しており、直近5年間も力強い成長をしている。

会計年度   売上高  営業利益  純利益
2019年12月期 215億円  15億円  9.8億円
2020年12月期 260億円  20億円  14.4億円
2021年12月期 316億円  28億円  19億円
2022年12月期 362億円  34億円  20.8億円
2023年12月期 412億円  36億円  25億円
2024年12月期 475億円  35億円  23.5億円

2025年12月期の予想業績は、売上高590億円(前年比+24%)、営業利益47億円(+32%)、純利益30.1億円(+31%)になる。

なお、2024年12月期に売上高が増加した一方で、営業利益は-2.4%とわずかに減少した。これは新患者衣「lifte」導入費用やM&A関連費用、TOBに伴う一時費用などの影響によるものであり、これらを除けば実質的には増益基調を維持している。

財務状態は極めて健全であり、今後はエムスリーグループの支援の下で、さらなる財務指標の改善が期待できる。


■成長ストーリー
基本シナリオ:国内深耕 × サービス拡張 × 海外展開 × エムスリーとの協働

エランは、「CSセット」を軸に中長期的な成長戦略を描いており、以下の5本柱での事業拡大を進めている。

1,国内市場の深耕
主力であるCSセット事業では、未契約の病院・介護施設への営業拡大を継続する。2024年にエムスリー傘下となったことで、同社が持つ約6000病院の顧客基盤へアクセス可能となり、クロスセルにより契約施設数の一段の拡大を狙っている。現在、エランの契約施設のうち50床以上の病院は1566施設であり、単純計算で約2.5倍の拡大余地がある。

2,サービスの高付加価値化
既存施設へのオプションサービス拡販や新サービス投入によるアップセル戦略も推進中。現在は、退院後や在宅療養を支援する「退院・在宅セット」の開発を進めており、入院前から退院後まで一貫して“生活の困りごと”をサポートできる体制を構築している。さらに、オンライン通販での介護用品販売など周辺領域にも進出し、患者・家族の生活全般を支える総合的なサービスを目指している。

3,海外展開の加速
2024年には、ベトナム最大手の病院向けランドリーサービス企業「GREEN社」、およびハノイ市シェア1位の「TMC社」を買収。これにより、東南アジアでの事業基盤を確保し、日本式の入院サポートモデル(CSセット)を現地展開する方針。エムスリーグループが世界17カ国で事業展開しているネットワークを活かし、今後はインドを含む他国への進出も視野に入れている。

4,エムスリーとのシナジー創出
エムスリーが展開する医療従事者向けプラットフォームや患者向けサービスとの連携も検討されている。例えば、CSセットに医療・生活情報を付加するデジタルサービスの開発や、入院時の啓発・案内機能など、デジタルヘルスとの融合が期待される。差別化プロダクトの試作版はすでに完成しており、近日中に実証トライアルを実施する予定。

5,IT内製化とコスト削減
エムスリーの支援によって、業務システムの内製化も進められている。過去のグループ企業では、売上倍増とともにシステムコストを50%以上削減した実績があり、エランでも同様のコスト効率化が見込まれている。加えて、グループの購買力を活かした間接コストの削減も期待される。

こうした取り組みの結果、2025年12月期には売上高590億円(前年比+24.2%)を計画しており、中期的にも2ケタ成長の持続を目指している。エランは単なる「入院セット企業」から、「総合ヘルスケアサポート企業」への進化を目指している。


■成長余地
エランの2024年12月時点での市場浸透率は、50床以上の病院で約20%、介護施設では3%未満と推定されており、国内市場だけでも大きな成長余地が残されている。

高齢化が進む中、政府推計では2040年頃まで医療・介護需要の増加が続く見込み。入院患者やその家族の「手ぶらで入退院したい」「ケアを簡素化したい」というニーズも高まっており、CSセットのようなサービスは今後も一定の需要を見込める。

さらに、エランが注力している退院後・在宅支援領域は、新たな市場フロンティアとなりうる分野。退院直後の生活準備や在宅介護への移行期には大きな負担がかかるため、「退院セット」のような支援サービスは、今後ニーズの顕在化とともに市場成長が期待される。

海外市場にも大きなポテンシャルがある。特に東南アジア諸国では、経済成長とともに医療インフラの整備が進みつつあり、日本型の患者支援モデル導入の下地がある。ベトナムを足がかりに、将来的にはCSセットの提供を通じた新市場の開拓が可能。インドなど人口の多い国では、富裕層・中間層をターゲットとした付加価値サービスのニーズも見込まれる。

総じて、国内の深耕・サービス拡張・海外展開という三位一体の成長戦略により、エランの成長余地は非常に大きいと評価できる。


■問題点・リスク
業界及び企業固有のリスク要因として、いくつかの問題点が挙げられる。

1. 競争激化
エランの成功を受け、病院向けリネンサプライ業者が類似の入院セット事業に参入している。リネン業者にとっては、既存の納品品目に追加する形でサービスを提供できるため、低コストでの展開が可能。病院側にとっても、リネン類の管理が一本化できるメリットがあるため、採用のハードルが低くなる。

入院セットは差別化が難しい商材であるため、価格競争力が成否に直結する可能性がある。

2. 市場の飽和
病院には100%リネン業者がついており、それらの業者が「入院セット」を提供するのは容易なため、全国の病院ほぼすべてに「入院セット」がすでに導入されている可能性が高い。例えば、リネン業界大手のワタキューセイモアは2023年8月時点で1818病院にサービスを提供しており、契約数ではすでにエランを上回っている(同社HP)。今後のエランの拡販は「未導入病院の新規獲得」ではなく「既導入先の他院からの切り替え」になりそう。

介護施設では導入率が3%以下と低水準だが、長期入所が前提のため、日用品レンタルの需要は相対的に少なく、導入促進が難しい。

競争激化と市場の飽和のためか、CSセット導入の勢いは鈍化している。1Qの純増数はわずか19で、前年同期の40から半減している。解約率は過去最高の4%に達しており、その約7割が他社サービスへの乗り換えになる。

3. 医療機関数の減少リスク
国内の少子化・人口減少により、病院数そのものが減っていく見込み。2024年の解約施設100件のうち、19件は閉院や統合が理由だった。こうした動きは今後さらに拡大する可能性が高く、裾野縮小リスクがある。

さらに、今後は医療技術の進化や予防医療の浸透により、入院患者数自体も減少していく可能性がある。

4,エムスリーの買収精度が落ちている
かつて「買収巧者」とされたエムスリーも、近年はM&A後の減損処理が目立ち、買収精度が低下している。エランはエムスリーにとって初の“生活支援型”ビジネスであり、業界特有のノウハウに乏しい。こうした分野でどこまで存在感を出せるかは未知数であり、場合によっては縮小・撤退もありえる。

5,規制リスク
患者負担の軽減や医療費適正化の観点から、行政による指導や規制変更が行われる可能性もある。たとえば、価格設定やレンタル品目の制限などが強化された場合、利幅の縮小や事業モデルの見直しを迫られる可能性がある。


■ビジネスモデルの強度 ★★☆

・参入障壁は高いか:低い(★)
入院セットは差別化が難しく、既存のリネン企業も容易に参入できるため、競争優位性の確保が難しい。

・ストック型ビジネスか:ストック型(★★★☆)
契約施設からの日次レンタル収益が継続的に発生するため、安定したストック収益構造を持つ。

・時流に乗っているか:乗っている(★★★★)
高齢化や医療・介護ニーズの高まりを背景に、時代の流れには合致している。

■チャート分析
・日足チャート(1年チャート)
底打ち後、200日移動平均線を上抜けており、短期的には上昇の勢いが見られる。

・週足チャート(5年チャート)
一方で、長期的には下降トレンドが続いており、売り圧力が強い状況。トレンド転換は難しそう。

■まとめ
主力のCSセット事業が頭打ちに見えるので、パス。ただエムスリーとのシナジーは気になるので、もう少し様子を見てみる。

0 件のコメント:

コメントを投稿