2019年8月2日金曜日

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■ファンダメンタルズ
<EPS成長率>
・世界株式の2018年のEPS増加率は15%、2019年は8%。
・米国株式の2018年のEPS増加率は22%、2019年は4%。
・欧州株式の2018年のEPS増加率は5%、2019年は7%。
・日本株式の2018年のEPS増加率は-3%、2019年は0%。
参照:2019/5/18日経など
→問題なし

<経済成長率>
・世界の2018年の成長率は3.7%、2019年は3.2%、2020年は3.5%。
・米国の2018年の成長率は2.9%、2019年は2.6%、2020年は1.9%。
・中国の2018年の成長率は6.6%、2019年は6.2%、2020年は6.0%。
・ユーロ圏の2018年の成長率は2.2%、2019年は1.3%、2020年は1.6%。
・日本の2018年の成長率は1.1%、2019年は0.9%、2020年は0.4%。
*IMFの予想。参照:2019/07/24日経
*IMFは4期連続で下方修正している。
*IMFは「貿易政策が解決しなければさらに下振れする」と言っている。
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。

2017年あたりから世界同時成長が起きており、このような状態は通常2,3年続くという。ただしこのような世界同時成長は景気サイクルの終盤に見られる特徴的な現象とも言われている。米ピムコは2019年に世界経済の同時減速が始まると予想している。

世界同時成長は海外で6割を稼ぐ日本企業には追い風になる。しかしその反面、海外の景気後退期は日本企業にとって強い向かい風になる。このような経済構造に円高効果が加わり、日本株は米国株の1.5倍くらい下落する。
→問題なし

<インフレ>
・米国の予想インフレ率は2018年度が2.4%、2019年は2.00%、2020年は2.73%
・欧州の予想インフレ率は2018年度が1.5%、2019年は1.5%?、2020年は1.8%?
・日本の予想インフレ率は2018年度が0.98%、2019年は1.07%、2020年は1.54%
*IMFの予想。参照:世界経済のネタ帳

中央銀行に課せられた最大の任務は「物価に安定」になるが、中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和政策、高ければ金融引き締め政策を行うことになる。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性が高い。
→問題なし

<金利>
・米国の2年金利は1.72%で10年金利は1.90%。
・日本の2年金利は-0.20%で10年金利は-0.16%。
*米国の短期金利が長期金利を上回ると景気後退に陥るといわれるが、現在の長短金利差は0.18%。
*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)が-0.1%まで低下しているので、米株には割安感が出ている。
→問題なし

<債務>
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
*米企業の債務残高は2011年のGDP比65%から過去最高の73%まで上昇している。一方で米家計の債務残高は2007年のGDP比97%から76%まで低下している。2019/05/23日経
  *今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かすだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。
 *先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*米企業の対GDP債務残高比率は増加比率の移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる。参照
*中国の企業・家計債務は危険水準に達しているが、2018年に習政権は経済の筆頭課題に金融危機封じ込めを据えていたので(現在は景気重視に転換)、しばらくは心配しなくてもよさそう。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は可処分所得に対する家計債務の比率が日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、今後深刻な消費不振に陥る可能性が高い。2019/07/28日経
*新興国は米金融引き締めなどで通貨安・高インフレ・高金利になり、債務圧縮局面に入りつつあったが、米国が金融緩和に転じ、インフレ率は中銀のターゲット内に収まっているので落ち着きつつある。
→問題あり

<金融政策>
・米国は7月に金融緩和に転じた。
・日本は金融緩和を継続しているが限界に近づきつつある。日銀によると2020年4月頃までは現状の緩和水準を維持し、その後も長期で緩和を続けるとのこと。
・欧州も9月に金融緩和に転じそう。
・新興国も米金融緩和を受け緩和に転じつつある。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和(景気刺激策)が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率がさらに落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作るという一面もある。
*米国ではトランプ大統領がFRBに金融緩和圧力をかけているが、これを続けているとジョンソン大統領やレーガン大統領のときの二の舞になる可能性がある。ジョンソン大統領のときはニクソンショック、レーガン大統領のときはプラザ合意というドルショックが起きている。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項を入れておけば問題ないとのこと。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような金融・財政政策に移行せざるを得ないように思う。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかなさそう。この財政支出を中銀がファイナンスする形になるのかもしれない。
→問題なし

<政治>
・日本は安定。19年の消費税引き上げは株式市場の鬼門になると思っていたが、政府の大盤振る舞い(支援給付金、軽減税率、教育無償化、補正予算)や携帯料金引き下げなどにより、消費増税の負担を相殺・超過しそうなので問題なさそう。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が長期化・激化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・英国のEU離脱の条件は、EUが新たな離脱国が出てくるのをけん制するため、英国にとって厳しいものになりそう。英国は国民投票を実施し、EU残留という形になるのかもしれない。ただ英国首相に強行離脱派のジョンソン氏が就いてしまったので、不透明感が強まりはじめた。・・しかしまたコメディアン風の政治家がトップに就いてしまったが、ポピュリズムにはこういう空気を読むのがうまい場当たり的な人が向いているのだろうか。
・英国のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっているという。しかし失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
→問題あり

<その他の景気後退シグナル>
・過去の景気後退期はすべて米国の需給ギャップがプラスに転じた後に始まっているが、足下ではすでにプラスに転じている。
・米景気の先行指標である米住宅着工件数は今のところまだ辛うじて上昇トレンドを保っている。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は51.2と適温圏内(50~55)で落ち着いている。
・失業率が最低水準まで低下すると企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになるが、米国の失業率は歴史的に低い水準(3.7%)にある。米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われているが、現在はまだ低下している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、今がまさにその状態。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は景気がピークアウトするかどうかの分岐点にある。
・世界景気を半年先取りするOECD景気先行指数は低下が続いており、節目の100を下回っているが、この指数よりさらに先行性のあるOECD中国景気先行指数や中国製造業PMI、バルチック海運指数は底入れしつつある。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは「問題なし」の水準で落ち着いている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「インフレ高進」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれるが、今はまだ「長短金利の逆転」だけ。
・起こり得ない衝撃的な事象の発生を織り込むSKEW指数(ブラックスワン指数)は現在117と低位で推移している。
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多いが、今は「4,利上げ打ち止めを好感した反発」局面に入りつつあるので、いったん上がりそう。
→問題なし

■テクニカル
・チャート
日経平均株価の出来高が徐々に減少している。これは「先高感がない」というのが主な理由だとは思うが、日銀がファンダメンタルズを無視して買いまくっている(個人の買い場を奪っている)ことも影響しているように思う。出来高は市場の「エネルギー」を表すというが、この調子でいくと東証には「死」が訪れるのかもしれない。
<日経平均の10年チャート>

日本と似た産業構造で先高感もそれほどないドイツ市場は出来高が落ちてない。
<独DAX30指数>
→問題なし

・ディストリビューション・デー(機関投資家の売り抜け日)
日経平均 8日
NYダウ 5日
ナスダック 5日
→問題あり

・騰落レシオ
日経平均 97
NYダウ 116
ナスダック ?
→問題なし

・信用評価損益率
ー14.41 %
→問題なし。

■まとめ
問題なし9件、問題あり3件、中期的な危険度:40%、1年以内に米国が景気後退に陥る確率:45%、投資判断:様子見

基本的には金融相場(業績停滞×金融緩和)が続くとは思うが、米中貿易摩擦再燃によりやや不安定な展開になりそう。

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