2021年7月1日木曜日

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:1.5%~2.5%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↑
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今年の経済成長率は去年からの反動に加え、ワクチン普及による景気回復や大型経済対策などにより+6.0~7.5%(3/7日経)、インフレ率は+2.0~3.0%に上振れする見込み。ただ、来期以降はそれらも落ち着きそう。

・金融政策→
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げており、それを2023年末まで続ける予定だったが、6月の会議(FOMC)でそれを前倒しする可能性を示唆した。「すべてはデータ次第」ということだが、経済は順調に回復していきそうなので、利上げは22年頃から始まるかもしれない。ただし、そのペースは非常に穏やかなものになりそう。

*市場はFRBの緩和縮小により長期のインフレや経済成長が抑制されると考え、FOMC後に長期金利は下落している。

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020年はコロナの影響によりそれが330兆円まで拡大している(日経)。今年はトリプルブルー(青色をシンボルカラーとする民主党が、大統領、上下両院で多数を占める)により民主党の大規模な財政政策が議会を通りやすくなっており、財政赤字は400兆円規模になる見込み。米国債の供給過剰や通貨の信認低下により、長期金利には強い上昇圧力がかかる。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ↑
ワクチン摂取がそこそこ順調に進んでおり、政府・中銀が大規模な経済対策をしているので全体的にリスクオン気味。

・利回り上昇による米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高くなっており、一方で、米国のゼロ金利政策による米短期金利の低下でドルの為替ヘッジコストが大幅に下がっているので、米国債は海外勢の投資需要が強くなっている。金余りで運用難に陥っている日欧の年金基金や生保などは多く、米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するといわれている。

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化の影響で住宅ローンなどの借り入れなども減っている。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は長期的な低下傾向にある。

米10年債先物は(やや)売り越しに転換。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート→
<10年チャート>
長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。


■WTI原油 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:50ドル~90ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動するが、今年の成長率は+5.5%程度なので、原油も同程度増える見込み。

ただ長期では、コロナで職場や学校のリモート化が進んだので、コロナ前の需要が完全に戻ることはなさそう。

また地球温暖化への懸念から、環境リスクの高い石油は今後敬遠される可能性が高い。英BPは新興国、途上国の成長などを考慮した「標準シナリオ」では2030年頃まで石油需要は増加を続けるとしているが、コロナや温暖化対策を考慮した「急速シナリオ」では「すでにピークを打った可能性がある」としている。日経

・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる(参照参照)。原油価格はこの範囲内で納まる可能性が高い。

・供給↑
OPECプラスは協調減産を解除しつつあるが需要増に対応しきれておらず供給は締まりつつある。米シェールオイルの生産回復も鈍いまま。米企業は脱炭素の潮流を受けて油田開発をしにくくなっている。

長期では石油開発停滞により供給が不足する可能性が高い。再生エネルギーは成長途上のため、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が順調に進まない可能性が高い。油田開発停止に伴う需給切迫が続けば原油価格が100ドルを超える可能性もある。

・リスクオン、オフ↑
全体的にリスクオン気味。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環として原油に資金が流れている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

ただ、6月18日のイラン大統領選で反米保守強硬派のライシ氏が勝利した。核合意の再建交渉はいったん休止するようなので、原油の禁輸措置が早期に解除される可能性は低そう。

・米政府の介入→
米石油産業は1000万人の雇用を生む巨大産業だが、バイデン新大統領は連邦政府所有地での新規採掘・フラッキングの禁止、米国沖合の新たな油ガス田開発禁止、化石燃料に対する補助金廃止、燃費基準の再強化などの公約を掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。

・チャート
<10年チャート>
上昇トレンドに転換したように見える。


■ドル円 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:100円~115円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(92円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では最大限の緩和をしている。

FRBの総資産は2019年末には400兆円程度だったが、それが21年末には955兆円に増える見込み。一方、日銀の総資産は2019年末の610兆円程度から、21年末には780兆円と小幅な伸びに留まる見通し(3/20日経)。総資産の対GDP比の拡大幅は米国の方が大きいので、その分、米ドルの減価率が高くなる。

足元でFRBは緩和縮小に軸足を移し始めている。これは通貨価値の下落を抑制する作用があるが、金利上昇を促す側面もある。

・日米の長期金利差↑
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差が拡大傾向にある。米長期金利の上昇は今後も続く見込みで、米ドルの上昇圧力は増していきそう。足元ではキャリー取引も増えているもよう。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
日本と米国はコロナ対策でともに巨額の財政出動をしているが、米ドルは基軸通貨なので、今後、より思い切った財政政策をとることができる。IMFの試算では、今年の米国の財政出動は名目GDPの28%程度、日本は15.6%程度になる。3/12日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われるが、デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすくなっている。

・リスクオン、オフ↑
リスクオン気味。

・ドル需給↓
コロナショックにより、一時期ドル需要が急激に高まったが、FRBがドルを大量供給して、現在では落ち着いている。現在、世の中に出回るドルの量は歴史的な水準まで膨れ上がっており、そのさなかに米国は巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後は大幅なドル安になっている。参照

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。2020年の買越額は20兆円になる。日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。
*国内勢が外債を買うとき、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い(円高圧力)。海外勢は2019年1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている。ただ足元ではFRBのゼロ金利政策で日米金利差が縮小し、海外投資家が円を買う際に受け取れる上乗せ金利(ベーシススワップ)が減少しているので、日本国債への投資は減っている。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は増えている。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、2020年はコロナ禍で対外直接投資は例年の半分以下まで減っている。日経
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・米経常赤字の拡大→
経常赤字の拡大は外貨の需要を高めるので強力なドル安圧力になる。米経常赤字はコロナ禍で急拡大している。6/24日経

ただ、中長期では民間部門の貯蓄が増加傾向であり、コロナが落ち着けば貿易収支も均衡していきそうなので、経常赤字の拡大は一時的なものになりそう。日経

*米国の政府債務や経常赤字の状況から算出する4月時点の理論上の為替レートは1ドル94円になる。4/18日経

・日本の経常収支→
まずは貿易収支について。
輸入額の4分の1を占める石油・天然ガスの価格が上昇しており、生産の現地化や電子機器(スマホなど)・医薬品の輸入が増加しているので、貿易黒字は減少傾向にある。資源価格は”スーパーサイクル”に入り今後上昇していくという見方もあるので、貿易収支は赤字に転落する可能性もある。2019年の貿易黒字は5000億円、2020年は6700億円になる。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるので円買いは半分(10兆円)程度しか発生しない。
*ただし景気後退期では企業は手元資金を確保するため再投資を減らし本国に送金するので円高圧力が若干増す。過去の例ではだいたい3~4兆円の送金需要が発生している。ロイター
*2020年の経常収支は17兆7千億円(前年比14%減)になる。2/9日経

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低そう。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただこれと同じことは米国にも言える。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月の終わり頃から売り持ちに転換。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

・チャート
横ばい気味。ボックス圏で推移しそう。
<10年チャート>


■日経平均 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(2/16日経)、日本株もその例にもれない。中銀の総資産の増加は今年いっぱい続く見通し。来年以降はそれほど増えることもなさそうだが、減ることもなさそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約4.7%、配当利回りは約1.8%と、日本長期国債の利回り0.06%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
下がったときは日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2020年の主な投資主体の予想売買動向と現状>
 日本銀行(予)金融政策により0~2兆円の買い越し。現状は8000億円の買い越し。
 事業法人(予)自社株買いにより0~1兆円の買い越し。現状はプラマイゼロ。
 海外投資家(予)景気回復・経済対策期待で2~3兆円の買い越し。現状は1兆5千億円の買い越し。
 個人投資家(予)相続に伴う換金売りと個人投資家の流入で0~1兆円の買い越し。現状は6000億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2021年の予想EPSは+20~30%になる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は狭いレンジ内で動きそうなので大きな影響はなさそう。

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。2021年は世界景気が回復しそうなので企業業績も上向きそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響で上昇傾向にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫されやすくなる。足元では減価償却費はほぼ横ばい。資源価格は上昇している。

・金融政策↑
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化するが、現在は金融緩和をしているのでほとんど影響ない。
ーーーーー

・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは14倍程度。標準値に収まっている。

投機筋の持ち高
買い残は7800億円で、裁定売り残高は2100億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。12/30日経

・チャート↑
青天モードに入っているので上値は軽そう。
<10年チャート>

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