2021年7月1日木曜日

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2020年のEPS増減率は-30~-10%、2021年は35%。
・米国株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は36%。2022年は12%。
・欧州株式の2020年のEPS増減率は-30~-15%、2021年は35%。
・日本株式の2020年のEPS増減率は-8%、2021年は35%。
*参照:3/12日経5/29日経など
*今は金利低下で企業の利払い費が減少しており、経済のデジタル化で設備投資や人件費が減少しているので、企業の利益は増えやすくなっている。

■経済成長率
・世界の2020年の成長率は-3.5%、2021年は6.0%。
・米国の2020年の成長率は-3.4%、2021年は6.4%。
・中国の2020年の成長率は2.3%、2021年は8.4%。
・ユーロ圏の2020年の成長率は-7.2%、2021年は4.4%。
・日本の2020年の成長率は-5.1%、2021年は3.3%。
*数値はIMF予想。1/27日経4/7日経
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標のGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるため、金銭的な数値には反映されにくい。

コロナ禍ではGDPが大幅に落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えたとの試算もある。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えた。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が上がっていれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。5/8日経

*経済の持続的な成長には健全なリスクテイクが必要になるが、今回のコロナのようなテールリスク(確率は低いが起きれば影響が大きいリスク)が実際に起きてしまうと、人々は恐怖を植え付けられ、リスクを取らなくなってしまう。そのため今後の経済は伸び悩む可能性がある(1/5日経)。ただ足元ではコロナ前を上回るほどに起業が増えているようなので、リスクを取らなくなるのは今回被害を受けた一部の業種にとどまるのかもしれない。6/27日経

■インフレ
・米国の予想インフレ率は2020年が1.3%、2021年は2.5~3.5%。
・欧州の予想インフレ率は2020年が0.3%、2021年は1.5~2.5%。
・日本の予想インフレ率は2020年が0.2%、2021年は0.5%。
*参照:4/9日経
*参照:米PCEユーロHICP日本CPI
米10年物価連動債利回りから算出される現在の米国の予想インフレ率は約2.3%になる。
*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので売り手側は超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価は上がりにくくなっている。『FREE』の著者クリス・アンダーソンは「モノ中心の経済はインフレ志向になるが、情報中心の経済はデフレ志向になる」と言っている。*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産のコスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がほぼゼロなので、競争が起こると価格がゼロに近づいていく。
*コロナ禍ではデジタルサービスの普及が加速しているので、インフレが起こりにくい土壌ができつつある。
*経済のデジタルシフトは「人」の代替ともいえるものなので、デジタルシフトが起こると人の賃金が上がりにくくなる。所得の増えない経済では支出が増えず、インフレが起こりにくくなる。なお、米国の2020年の生産性はデジタルシフト(業務自動化)により2.6%成長しているが、雇用は3%超減少している。2/23日経
*先進国では高齢化が進んでおり消費(支出)は減少傾向にある。
*現在のように失業率が高い状況では需要が停滞し、インフレが起こりにくくなる。インフレが本格化するのは雇用が切迫し、賃金に上昇圧力がかかってからになる。
*米国ではイノベーションの恩恵がアイデアや資本の出し手に集中するため、所得配分は富裕層に偏りやすい。富裕層は消費性向が少ないため、総需要は供給量に比べて少なくなる。平均的な労働者の賃金上昇が限られるため、金融緩和を続けてもインフレ率は上昇せず、資産価格ばかりが上昇しやすい。
*インフレは需要が供給を上回るときに起こるが、需要はコロナ以前から全体的に停滞気味。一方で供給基盤は安定しているので需要が供給を上回りにくくなっている。ただ米国においては足元で需要が急激に増加しており、一方で供給基盤が一部破壊されているので、インフレリスクが高まっている 2/27日経
*コロナの影響で企業倒産が相次いだ場合は、コロナ収束後に供給が追いつかず、インフレが発生しやすくなる。

*原油など商品価格の停滞もインフレ停滞の要因になる。かつての景気拡大局面では商品価格も大きく上昇していたが、2020年までの景気拡大局面では成長率が穏やかなため商品価格の上昇も穏やかだった。また経済のサービス化に伴い財への需要が弱くなっており、環境保護や省資源化が求められていたこともあり、それらも価格上昇を抑制していた。ただ、足元ではインフレ対策(金余り対策)などにより商品価格が上昇し始めている

*中央銀行の最大の責務は「物価の安定」になる。中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行う。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性は高い。ただ、今はデジタル経済や商品価格の停滞、少子高齢化、グローバリゼーションなどで構造的にインフレが起こりにくくなっているので、中銀のインフレ目標には無理があるようにも見える。
*FRBはインフレ政策を強化しているが、その副作用で金融バブルが醸成されつつある。今後、金融バブルが崩壊した場合は金融システムや経済が大きなダメージを受け、それがインフレ低下につながる恐れもある。
*コロナ対策で世界中の中銀が通貨を大量に供給しているが、これは通貨価値を下落させるのでインフレ圧力になる。
*社会がデジタル化するとあらゆる動きがデータで把握できるようになり、データに基づいた的確な政策を実施できるようになる。2025~2030年頃にはインフレに代わる新たな”経済の体温計”が生まれるかもしれない。

■金利
・米国の2年金利は0.25%で10年金利は1.45%。30年金利は2.08%。
・日本の2年金利は-0.11%で10年金利は0.06%。

*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスになると銀行などに資金を預けても実質的に目減りするため、株式や商品、不動産などに資金が流れやすくなる。現在、G20の約半分の国で実質長期金利がマイナスになっている。
*投資家は企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー(現金収支)を割り引いて企業価値を算出する。金利が上昇すると割り引く分が多くなり、(将来のキャッシュフローの創出期待が大きい)グロース企業の理論価値は下がりやすくなる。
*米30年物国債の利回りが自然利子率(2.5%)に達すると米株は天井を付ける傾向がある。
*景気拡大期の「良い金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では株式市場への影響は長期金利よりも政策金利の(引き上げの)影響の方が大きい。1/16ヴェリタス
*景気拡大期終盤の金利上昇では、資金の流れが借り入れから返済に転換し、資金の逆回転が起こりやすい。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇を機に起きている。
*低金利が続く環境では企業の資金調達が容易になるので株式上場は減っていく。またM&AやLBOが増えるので上場企業数も減っていく。ロイター

■債務
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向(2019年)。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる(2019年)。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向(2019年)。
 *GDPは債務返済能力の代理変数になる。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
・コロナにより政府債務は急膨張している。IMFは「21年の先進国の政府債務はGDP比125%と過去最大になる。新興国の政府債務も21年にはGDP比で65%と過去最大になる。国別では日本が突出し、19年の238%から21年には264%になる」と言っている。参照参照
・米政府が抱える債務残高は22年度末の32兆ドル強から31年度末には44兆ドル強に膨らみ、対GDP比率は130~140%になる見通し。6/5ヴェリタス

*米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる(2019/7/19ダイヤモンド)。債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回った状態が続くと、どこかで必ず逆回転が起こる。
*米企業はコロナによる経済低迷で借り入れを増やしており、2020年7月には負債総額が過去最高のGDP比83%まで上昇している。一方、企業の債務返済能力は歴史的水準まで低下しており、格付けを下げられる企業が急増している。格付けがジャンク債まで低下するとFRBの支援措置を受けられなくなり、破綻する可能性が高まる。参照参照
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(貯蓄余剰になると、余ったお金で国債を買うか現金のまま持つようになるので金利が上がりにくくなる)。
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*債務の質は劣化しており、2019年には米国の投資適格債の半分以上、欧州では4割が格付けの最も低いトリプルBになっている。*日本には低格付け債市場がない。
*2020年、20221年は低格付け債(ジャンク債)の発行が過去最高ペースになっている。2/21日経4/11日経
*信用格付けの低い企業は米シェール企業などエネルギー企業に多い。米ムーディーズは2020年6月にWTI価格が40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内にデフォルトすると予想していたが(日経)、現在の原油価格は70ドル超で推移しているのでデフォルトは避けられそう。
*米欧の低格付け企業向けの融資「レバレッジドローン」の融資実行額が過去最高水準で推移している。借り手の返済能力は落ちており、今後の金利上昇局面では返済に行き詰まる企業が続出する可能性がある。5/10日経
*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨らみやすい。政府債務においても、今のように国債金利がGDP成長率を下回っている状態では、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できるのでこちらも債務が膨らみやすくなる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。参照
*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている(参照)。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りてない中で財政支出を減らすと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。*財政赤字が拡大すると公共サービスなどの政府機能が落ちていく。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国の可処分所得に対する家計債務比率は日本のバブル期並の120%まで高まっているので、中国は今後深刻な消費不振に陥る可能性がある。参照
*中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費(政府債務)が膨らんでいく可能性が高い。参照
*新興国や資源国の債務も膨張している。このまま景気停滞が続いた場合はデフォルトリスクが高まる(参照)。足元で進んでいるドル高はドル建て債務の返済負担を重くするので、それもまたデフォルトリスクを高める。

■金融政策、財政政策
・コロナ対策で先進国の中銀は金融緩和をしている。一方でメキシコやブラジル、ロシアなどの新興国は経済が疲弊しているにもかかわらず、インフレ対策で金融引き締めに動いている。
・カナダや英国、ノルウェー、ニュージーランド、アイスランドの中銀は景気回復により緩和縮小・利上げに動き始めている。しかし、”世界の中央銀行”である米中銀(FRB)が緩和縮小に動いてないタイミングでそれをやると自国通貨高になるので、縮小ペースは穏やかなものになりそう。5/31日経6/16日経
・日米欧は金融緩和が限界に達しつつある。スウェーデン中銀はマイナス金利だと家計債務の膨張が止まらないなどの理由で2020年1月に政策金利を0%に引き上げている。

*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止、資産価格の上昇になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率が落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレ率も落ちていく。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい土壌を作っていることになる。
*金融緩和が長引くほどリスク投資は膨らみ、金融正常化の際に市場の混乱が大きくなる。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*主要中銀の量的緩和(資産購入)は2019年は40兆円ほどだったが、2020年はコロナショックにより1000兆円まで拡大している(12/31日経)。大規模な資産購入は今年いっぱい続く見込み。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。2019/10/7の日経には財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できる、とある。このような投資に該当するものは出生率向上策や気候変動への取り組みなどになる。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
 *MMTで高インフレになった場合、中銀は金利を引き上げることができない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上がる、という悪循環に陥ってしまう。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ない。
*先進国の金融政策はほぼ限界に達しているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかない。
*今回のコロナを機に先進国はMMTのような政策に移行したように見える。
*現在行っているMMTのような政策はインフレが生じる前にコロナを制圧できるかが重要になる。それができない場合は深刻な景気後退が避けられなくなる。
*コロナの影響で企業が破綻し生産基盤がなくなってしまうと、コロナが収束した後の景気回復が弱いものになってしまう。それを避けるには政府や中銀が大規模な支援をすることが必要になる。支援規模はGDPの落ち込みと同程度のものが必要で、これを実行すると財政赤字は莫大なものになる。しかし、これをしなければ恒久的な経済的損害が生じ、より莫大な財政赤字が発生する確率が高まる。参照

■政治
・日本の政治は比較的安定。ただコロナ対策で国民の支持を得られず内閣支持率は低迷気味。足元ではワクチン接種が順調に進んでいるようなので今後支持率は回復していくかもしれない。
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏ともいわれる。
・中国では独裁体制や監視体制が強化されつつあるが、この調子でいくと小説『1984』の世界が現実のものとなるかもしれない。
・英国はEUから「合意ありの離脱」をしたが、EUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のEU離脱時のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは弱まっている。ただ失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
・EUの対コロナの財政政策では、北欧の財政健全国と南欧の重債務国が対立している。財務状態の異なる国々が単一の財政政策をすることにもともと無理があるので、今回のコロナを機にEU解体機運が高まる可能性がある。
*コロナ危機は、コロナ前からくすぶってきた格差問題をさらに悪化させる可能性が高い。今回のコロナショックは中小企業や非正規労働者などの「経済弱者」を直撃しているが、一方で、大規模な金融緩和による資産価格の上昇で株式などの資産を保有する「経済強者」は富を一段と拡大させている。格差問題が深刻化すると、国民の不満がつもり、政治の分断が起きて、社会が不安定になりやすくなる。
*富裕層の支出性向は低く、富が循環しないため、格差が拡大すると経済の潜在成長率が押し下げられる。加えて、オートメーション化で中間層が消失すると、金融緩和、財政拡大、イノベーションが続いても、経済は上向かず物価も上がらなくなる。
*現在、政府や家計の債務は富裕層の貯蓄で手当されている。その債務は膨らみ続けており、それに伴い富裕層の貯蓄も膨らみ続けている。格差の拡大はこのような経路でも起きている。この流れを止める唯一の方法は、政府が富裕層から巨額の税金を徴収して、それを一般市民に再分配することになる。日経

■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はコロナにより一時大きく落ち込んだが、足下ではコロナ前を大きく上回っている。
・世界景気の先行指標である世界新車販売台数は2018年、2019年と2年連続で減少していたが、足元ではやや回復しているもよう。*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数もコロナにより一時大きく落ち込んだが、その後、急回復している。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数もしかり。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える)。
米国の失業率はコロナショックで4月に戦後最悪レベルの14.7%まで上昇していたが、足下では5.8%まで改善している。ただこの失業率には「理由不明の休職者」は含まれていない。実際の失業率は8%前後に達するともいわれている。3/4ダイヤモンド6/15日経
*米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥るといわれる。
*失業率が最低水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。日経
・米景気の先行指標になるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、2018年、2019年はまさにその状態だった。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は最高値圏で推移している。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは一時大きく落ち込んだが、現在は節目の50を超えて安定的に推移している。*PMIは生産や受注が前月と比べて増えたかどうかを調べるものなので、節目の50を超えたからといって必ずしも経済が全面的に回復したということを意味しない。
・マクロ経済の不透明感を表す経済政策不確実性指数は一時急上昇していたが、現在では落ち着いている。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りはコロナショックで一時大きく下落したが、FRBが低格付け債を買い入れることを決めてから持ち直している。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれる。現在は「物価上昇」のみ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるといわれる。参照
・米株式市場の証拠金債務(信用取引の買い残高)は米GDP比4%(90兆円超)と過去最高水準にある。過去1年では7割増加している。1930年以降は増加率が6割を超えたところから株式相場が調整することが多かった。今後、金利上昇を起点に逆回転が始まる可能性がある。5/1日経
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は2の段階。

■その他指標
・日米の騰落レシオは98、115と問題のない水準。
・日本株の信用評価損益率は8.19%と問題のない水準。
・チャート 全体的に上昇チャート

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