2021年10月1日金曜日

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:1.4%~2.4%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↑
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2021年の経済成長率は+5.5~6.5%、インフレ率は+4.2%になる見込み。2022年は経済成長率は約3.5~4.5%、インフレ率は約2.2~3.2%になる見込み。

・金融政策→
FRBは政策金利を下限(0~0.25%)まで下げており、この水準を2021年いっぱいは続ける予定。利上げは2022年後半から開始して、23年末には1.00~1.25%、24年には1.80%程度になる予定(9/23ロイター)。ただ世界の政府・民間債務は3京円を超えているので、利上げは1.5%程度が限界になるかもしれない。

FRBのテーパリング(資産購入の縮小)は11月あたりから始まりそう。テーパリングによりインフレや経済成長は抑制されるので、長期金利には下押し圧力がかかる。テーパリング完了後、FRBは約1000兆円のバランスシートをしばらく維持する予定なので、ここで償還債券再投資の巨大需要が生まれる。これもまた長期金利の上昇を抑制する。

*2022年半ば頃にはFRBの国債購入がゼロになる予定だが、FRBの購入分(月8兆円)以上に国債発行量が減るので(月9兆円)、需給的にはバランスがとれるとされる。8/28日経8/30ロイター

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えはじめており、2020年、2021年はコロナの影響で300兆円を超える(7/2日経)。米国債の供給過剰や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかる。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
リスクオン要因は金余りとコロナの沈静化。
リスクオフ要因は経済成長の鈍化と金融政策の転換。

・利回り上昇による米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも相対的に高いので、海外勢から買われやすくなっている。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれる。

・金余り↓
金余りで運用難に陥っている金融機関や企業は多い。そういうところがこぞって米国債を買っている。7/28日経

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れなども減っている。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は長期的な低下傾向にある。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・米国債のデフォルトリスク↑
米議会で債務上限の引き上げが難航しており、米国債がデフォルトする可能性がある。ただ過去の例では、デフォルトは土壇場で回避されている。

・チャート→
<10年チャート>
長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。

■WTI原油 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:50ドル~90ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2021年の世界経済成長率は+5.5%程度、2022年が+4%程度になる。

ただ長期では、職場や学校のリモート化などにより、需要がコロナ前の水準に戻ることはなさそう。また温暖化対策で石油需要は減っていきそう。とはいえ、世界人口は2060年頃まで増える見込みなので、石油需要が激減する可能性は低そう。

・産油国や再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45ドル、再生可能エネルギーは40~100ドルになる。原油価格はこの範囲内で収まる可能性が高い。

・供給↑
OPECプラスは供給をやや絞っている。米シェールオイルの生産は鈍いまま。

長期では、欧米メジャーが脱炭素の潮流を受けて油田、ガス田への投資を大きく減らしており、一方需要は微増になると予想されているので、供給不足に陥る可能性が高い。9/19日経

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環として原油が買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

・米政府の介入→
バイデン政権は脱炭素を公約に掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。

・チャート
<10年チャート>
上昇トレンドに転換したように見える。

■ドル円 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:100円~115円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策→(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、現在は購買力平価(92円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では大規模な緩和をしている。ただ、その緩和ももうじき終わりそう。

・日米の長期金利差↑
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在その金利差が拡大傾向にある。今後も拡大する見込み。拡大により足元ではキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。市場環境が落ち着くと低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の財政政策↓
日本と米国はコロナ対策でともに巨額の財政出動をしているが、米ドルは基軸通貨なので、今後、より思い切った財政政策をとることができる。IMFの試算では、2021年の米国の財政出動は名目GDPの28%程度、日本は15.6%程度になる。3/12日経

・日米の経済の強さの違い↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。

・ドル需給↓
FRBがドルを大量供給しているので足元ではだぶつき気味。そのさなかに米国では巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後は大幅なドル安になっている。参照

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式を買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。2020年の買越額は20兆円になる。日経
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資が増えている。2019年の対外直接投資は22兆8千億円と過去最大を記録している。ただ、2020年はコロナの影響で対外直接投資は例年の半分以下まで減っている。日経
*対外直接投資額のうち外貨建ては半分程度になる。

・米経常赤字の拡大→
米経常赤字はコロナ禍で急拡大している。米経常赤字の拡大は外貨の需要を高めるのでドル安圧力になる(6/24日経)。ただしこれは一過性になりそう。

・日本の経常収支↑
生産の現地化や輸入品の増加により貿易黒字は減少傾向にある。2019年の貿易黒字は5000億円、2020年は6700億円になる。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるので円買い需要は半分(10兆円)程度しか生まれない。
*2020年の経常収支は17兆7千億円になる。

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は8兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低い。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただ、これと同じことは米国にも言える。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月頃から売り持ちに転じている。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなるので購買力は上がる。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本円を米ドルと比較した場合、米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

*コロナ禍で日米のインフレ格差が広がっている。この状態はあと2,3年は続きそうなので、円には強い円高圧力がかかりそう。

・チャート
横ばい気味。ボックス圏で推移しそう。
<10年チャート>

■日経平均 (保有資産なし)
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動しており(2/16日経)、中銀の総資産の増加は2021年いっぱいは続く見通し。2022年は微増で、それ以降は横ばいになりそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約6.2%、配当利回りは約1.9%と、日本長期国債の利回り0.07%より高いので、株式に資金が流れやすくなっている。

・需給↑
下がったときは日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2020年の主な投資主体の売買動向>
 日本銀行:8000億円の買い越し。
 事業法人:5000億円の買い越し。
 海外投資家:1兆4千億円の買い越し。
 個人投資家:400億円の買い越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まる。2021年の予想EPSは+20~30%になる。
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EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は狭いレンジ内に留まりそうなので大きな影響はなさそう。

*これまでは円安の方が日本企業にとって有利とみられていたが、現状では生産拠点の現地化などにより円安の恩恵を受けにくくなっている。円高の方が日本企業にとってプラスという試算もある。8/4日経

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。来年以降はコロナが収束し世界景気が回復しそうなので企業業績も上向きそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響でやや高水準で推移している。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費はほぼ横ばいだが、資源価格は上昇している。

・金融政策↑
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境が悪化する。現在は金融緩和をしているので金融環境は良好。
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・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均の過去のPERは11~16くらいだが、現在のPERは14倍程度。

投機筋の持ち高
買い残は1兆2000億円で、裁定売り残高は1100億なので、投機筋は日本株が上がるとみている。
*裁定残高は通常、売り残高よりも買い残高の方が多い。一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」になる。

・個人投資家の流入↑
コロナによる「巣ごもり」や「老後2000万円問題」の影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。日経

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価が下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで上昇している。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなるという欠点がある。7/18日経

・チャート↑
青天モードに入っているので上値は軽そう。
<10年チャート>

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