2021年10月1日金曜日

新日本科学

■調べようと思った経緯
ペプチドリームのIRを担当していた岩田氏が移籍した会社で興味がわいた。移籍に気づいた時点ですでに株価は上がってしまっていたが、8月の決算で急落し元の水準に戻った。決算短信を読むと伸びしろがありそうだったので調べてみることにした。

■どんな会社か
臨床試験の受託(CRO)など手がける会社。前臨床試験の受託では国内トップ。臨床試験の受託も順調に伸びている。他に点鼻薬の開発や地熱発電なども手がける。

業績は
19年3月期の売上高156億円、経常利益16億円
20年3月期の売上高145億円、経常利益31億円
21年3月期の売上高151億円、経常利益36億円
22年3月期(予)の売上高160億円、経常利益32億円
になる。CRO事業が売上・利益の9割以上を占める。
*臨床試験を手がける新日本科学PPDは持分法適用関連会社になる。業績は「持分法による投資利益」として経常利益に計上される。

■成長ストーリー
「CRO事業拡大で業績2倍、点鼻剤開発の成功で業績4倍」が基本シナリオ。

国内外の製薬会社は創薬業務への集中と、開発の効率化・スピードアップを目的に、創薬以外の業務をCROへ委託する流れになっている。また世界中で創薬ベンチャーが勃興している。これらの流れは今後も続く見通しで、新日本科学はここで発生するCRO需要を取り込んでいくことを基本戦略としている。

新日本科学が受託する前臨床試験の業務量は年率約12%のペース(過去5年平均)で伸びている。中でも海外からの伸びが著しく年率約40%伸びている。海外比率は現在2割程度だが、海外の市場は国内の約14倍あるので、今後はこちらが事業の牽引役になる見込み。国内の方も「包括受託」が増えており、こちらも順調に伸びていきそう。

CROを手がける会社は国内外に数多くあるが、新日本科学ならではの強みが2つある。1つは豊富なノウハウがあること。新日本科学は国内初のCROで、臨床試験の受託に関して豊富な経験と知識がある。最近では業務の効率化・スピードアップに成功しており、顧客の臨床試験の早期開始に貢献している。

もう1つは国内で唯一、自社グループ内で実験動物(霊長類)の繁殖・供給体制を確立していること。現在の創薬形態の中心は抗体医薬や核酸医薬(遺伝子医薬)になるが、これらの治験では実験動物に大型の霊長類を使わなければならないというものが増えている。新日本科学は中国とカンボジアに繁殖施設を持っており、新型コロナの感染拡大で中国が試験用動物の輸出を停止する中、カンボジアから調達して前臨床試験を滞りなく進めている。新日本科学は今後この分野にさらに投資をして供給体制を強化していく方針。

臨床試験を手がける新日本PPDも、2015年の事業開始以来、右肩上がりの成長を続けている。従業員数は300人から700人超へ倍増しており、2020年の売上高は102億円、経常利益は20億円になる(このうち新日本科学の業績に反映される利益は約8億5千万円になる)。

2つ目の成長の柱がトランスレーショナルリサーチ事業になる。この事業は基礎研究を臨床研究へと橋渡しする事業になる。新日本科学はここで見つけた有望なシーズを育てる事業もしている。

新日本科学が注力しているのは鼻粘膜への吸収力を高めた点鼻技術・NDS(Nasal Delivery System)になる。NSDを使って開発する薬は2種類あり、1つはレスキュー投与剤(即効性のある薬)で、もう1つは脳(中枢神経)へ薬剤を届けるものになる。脳の血管内にある血液脳関門を通過する技術は製薬企業の重点開発領域になっており、新日本科学は点鼻剤でこの壁を突破しようとしている。非臨床試験ではNDSを使い薬の高い脳移行性を確認している。ここで使用する薬は既存薬なので、新薬を創製する場合と比べ、開発期間を大幅に短縮することができる。

新日本科学が2016年に設立し、その後スピンオフした米サツマファーマティカルズはNDSを用いた偏頭痛薬の開発を行っている。昨年9月にはフェーズ3の治験で失敗しているが、現在条件を変えて再びフェーズ3治験を行っている。結果は来年の後半頃にわかる予定。この会社はナスダックに上場しており、新日本科学の「重要投資先」になる。
*スピンオフとは子会社や事業部門を親会社と資本関係のない独立した会社にする方法。

2012年には東大とハーバード大の教授らとウェーブ・ライフ・サイエンシズを設立。この会社は核酸医薬を合成する立体制御技術を持っており、その技術で作った多くのパイプラインを有している。現在、武田薬品に複数の医薬品を導出しており、そのいくつかは臨床試験に進んでいる。他にゲノム編集技術「ADAR」という技術も持っている。この会社はシンガポールにありナスダックに上場している。新日本科学はウェーブ社の12%の株式を保有しており、新日本科学の重要投資先となっている(貸借対照表では「その他有価証券」に分類される)。

地熱発電事業も手がける。発電事業では新日本科学が使用する電力の55%に相当する電力を発電しており、今後はカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量を会社全体としてゼロにする)を目指すという。発電した電力を生かしたキノコ栽培やニホンウナギの完全養殖も手がける。ニホンウナギは絶滅危惧種であり国内需要は旺盛なので、完全養殖が軌道に乗れば大きな収益源になる可能性がある。

■問題点
・臨床試験事業は急成長できない
(前)臨床試験の受託は人手や設備が必要なので、たとえ需要が旺盛でも受託を一気に数倍に引き上げることはできない。そのためこの分野の成長は穏やかになる。

・現在の受注増は特需の可能性がある
昨年は海外からの受託が倍増しているがこれは特需の可能性がある。実験動物(霊長類)の最大の供給国は中国になるが、一昨年から中国はコロナ対策として輸出を一時的に止めている。新日本科学の受託が増えたのはその影響を受けた可能性が高い。中国が輸出を再開すれば新日本科学の受託量が落ちる可能性がある。

・受注が限界に達している?
新日本科学は経産省などが選定する「健康経営ホワイト500」に5年連続で選定されているが、就活サイトの口コミを見ると「稼働率アップを目指して土日祝休みをやめた。業務量オーバー。遅延が状態化。明らかに業務全体でトラブルやミスの発生が多くなっている。誰も生き生きとしておらず、ため息と不満と愚痴をもらしながら毎日やっている。このような状態では結婚、子育てといった将来の人生設計は難しい」といったものもある(参照)。これは匿名の、退職した人の一意見であるので、どこまで参考にしてよいのかわからないが、もしこれが事実だとしたら、”臨界点”が近づいていることになる。

新日本科学は「業務プロセスを効率化し、高稼働の状態を維持している」といっているが、この発言の信憑性を見極めるにはしばらく時間がかかりそう。

・点鼻薬の競争力
点鼻薬の技術開発競争はレッドオーシャン化しており、アナログ的な技術でもあるので、たとえ画期的な技術を開発しても、大きな差異化を図り続けるのは難しそう。正直あまり期待できない。

・重要投資先の2社は期待できない
サツマ社は現在、片頭痛薬のフェーズ3に再チャレンジしているが、ここで試している片頭痛薬は片頭痛の第一選択薬ではないエルゴタミン製剤になる。加えて、片頭痛の新薬は次々と出てきているので(9/9日経など)、たとえ治験が成功しても大きな利益は得られなさそう。

ウェーブ社の方は現在、一部のパイプラインが臨床試験に入っているようだが、最新資料を見ると進捗状況がぼやけている。以前はファイザーとも提携していたようだが、現在は資料からその名前が消えている。2019年には筋ジストロフィー薬の治験に失敗しており、全体的にあやしい雰囲気が漂っている。

両社の詳しいファンダメンタルズは知らないが、株価チャートを見ると、すでに盛りを過ぎた企業に見える。もし息を吹き返したら面白そうだが、そうなる可能性は低そう。
<サツマ社の2年チャート>

<ウェーブ社の10年チャート>

・ウナギ事業が業績にインパクトを与えるのは当分先
新日本科学は昨年9月にニホンウナギの完全養殖に成功した。ただ、受精卵からシラスウナギへの生育率は約1%で、もっと高い生育率で成功している研究機関もある。それらの研究機関はコスト面の問題から商用化には進んでいないようだが、大手企業と協業したら手強い競合になる可能性がある。

新日本科学には動物飼育に強みがあり、また発電事業の電力を利用できるので、コスト競争力はありそう。またこの事業はウナギ養殖の盛んな鹿児島で行っているので、その意味でも優位性がありそう。

ただそれでも事業が業績にインパクトを与えるほどに成長するまでは時間がかかりそう。2023年頃には生育率を10%まで高め、ウナギを1万匹出荷する予定とのことだが、1匹2000円で売ったとすると売上は2千万円にしかならない。業績にインパクトが出る100万匹、売上20億円くらいにするには少なくともあと5年はかかりそう。

・動物愛護団体から圧力を受ける可能性がある
大型動物を使った治験が増えているが、一方で社会的に動物愛護の機運も高まっている。一部の動物愛護団体は過激な行動をとることもあるので、そこでなんらかのトラブルが発生する可能性がある。ただ、新日本科学は動物福祉などに配慮しながら前臨床試験を行っているようなので、この点は大きなトラブルに発展する可能性は低そう。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★★
・参入障壁は高いか ★★★★ CRO事業は高い。この事業には高度なノウハウが必要なので簡単には参入できない。ただしWDBホールディングスなど手強い競合はいる。ウナギ事業の参入障壁もそこそこ高そう。それ以外の事業は低い。

・ストック型収益か ★★★☆ アステラス製薬や中外製薬との包括的受託提携はストック型。他の臨床試験受託も年々積み上がっているように見えるのでほぼストック型になりそう。

・成長市場か ★★★★ 製薬会社が創薬以外の業務をCROへ委託するのはメガトレンド。勃興する創薬ベンチャーの受け皿にもなれそう。ただ新日本科学PPDが手がける国内臨床試験の伸びしろはそれほどなさそう。

■チャート
<5年チャート>「岩田相場」はいったん終了した模様。チャートは上昇トレンドを保っており、上値は軽そう。


■まとめ
ナスダックに上場する2社や点鼻剤開発は厳しそうだが、CRO事業はゆっくり成長していけそう。将来的にCRO事業の売上・利益は現在の2.5倍くらいまで成長できる可能性もある。ただそれでも株価3倍を目指せないので投資対象にはならない。とりあえずもう少し観察を続ける。

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