2022年10月1日土曜日

スマレジ

■調べようと思った経緯
クラウド型POS(販売時点管理情報)レジの主要プレーヤーは3社程度に絞られてきており、そのうちの1社であるスマレジは大きく成長できそうだと思った。足元(7月)で株価は大きく下げており、自社株買いも入ったので調べるタイミングとしてはよさそうだと思った。

■どんな会社か
クラウド型POSレジ「スマレジ」を開発・提供する会社。「スマレジ」は中規模な小売店や飲食店を中心に導入が拡大している。主な収入源は「スマレジ」のサブスク売上と「スマレジ」周辺機器の販売になる。

<「スマレジ」とは>
iPhoneやiPadにインストールして使うクラウド型POSレジアプリ。従来型のPOSレジと比べ導入費用を8割ほど抑えることができ、ソフトのアップデートや機能の追加を低コストかつ迅速に行うことができる。「スマレジ」にはレジ機能の他、在庫管理、顧客管理、シフト管理など一連の業務システムも備えており、これ1台あれば店舗運営をすることができる。

業績推移は
2020年4月期 売上32.5億円、営業利益7.5億円
2021年4月期 売上33.2億円、営業利益8.4億円
2022年4月期 売上42.9億円(前期比+29%)、営業利益6.3億円(前期比-25%)
2023年4月期(予) 売上55.9億円(前期比+30%)、営業利益6.5億円(同+2%)
になる。2022年4月期の売上の内訳は、サブスク売上が56%、周辺機器販売等が44%になる。

今期も売上は大きく伸びる予定だが、利益の方は、広告宣伝費、買収した会社の赤字分、決済端末の安価提供キャンペーン、社員増加(2022年期に123人→210人)などにより横ばいになる予定。

■成長ストーリー
「2031年にPOSレジ市場で国内シェア14%獲得」が基本シナリオ。

これまでPOSレジ市場では東芝テックや富士通などの大手が市場を独占してきた。ただ導入費用やシステム変更費用が高いため大手企業しか導入できなかった。クラウド型POSレジはそれらの課題を解消し、小型店でも導入できるようになった。足元では人手不足やキャッシュレス決済の普及、軽減税率への対応などが追い風になり中小型店での導入が急速に拡大している。スマレジはこの流れに乗って「スマレジ」を普及させていくことを基本戦略としている。

国内でレジを使う店舗は約211万店あり、スマレジは2031年にこのうちの30万店舗(国内シェア14%)に「スマレジ」を導入する計画。現在、スマレジを導入しているアクティブ店舗(直近1ヶ月でレジ機能を使った店舗)は約3.2万店(国内シェア1.5%)あり、あと約10倍の規模拡大を計画している。

導入を増やすための戦略は5つ。1つ目が決済サービスと「スマレジ」とのセット販売になる。スマレジは昨年12月に大和ハウスから電子決済サービス会社・ロイヤルゲートを買収。ロイヤルゲートはクレジットカード、電子マネー、QR決済などのあらゆるキャッシュレス決済を1台の端末で処理できる「ペイゲート」を開発・提供している。この会社の買収によりスマレジは顧客に「スマレジ」と決済システムをセットで提供できるようになった。両者はセットで使うものなので相乗効果が期待できる。スマレジは2024年4月期の目標ARR(サブスク売上高)を50億円としており、うち決済サービスのARRを10億円としている。
*現在のARRは31億円(「スマレジ」のARR24億円、決済サービスのARR4億円、HR事業のARR3億円)になる。

2つ目が「積極的なプロモーションの継続」になる。スマレジは前期から年8億円程度の広告宣伝費を投入しており、今期、来季も同水準の広告宣伝費を投入する計画。宣伝効果により顧客獲得ペースは上向いており、今後も順調な獲得が期待できる。

3つ目がレジアプリマーケットの拡充。「スマレジ」の導入企業数は10万社を超えており、顧客のニーズは増加している。しかし、スマレジ一社ではそられらの要望にすべて応えることはできない。そこで「スマレジ」の仕様を外部に公開し、アプリ開発会社に「スマレジ」の追加機能を開発してもらっている。それらのソフトは「スマレジ・アプリマーケット」で販売しており、現在、開発パートナーは法人(576社)・個人(319人)合わせて約900、販売中のアプリは79個になる。長期的にアプリ数は300程度まで増やす計画。スマレジは販売金額の3割を手数料として受け取る。この事業の現在の月収は100万円以下になるが、長期的には収益の柱になる可能性がある。

4つ目がHR(人材管理)事業の拡大になる。スマレジはクラウド勤怠管理サービス「スマレジ・タイムカード」を提供しており、22年4月期の登録事業所数は11万5千社(前期比15%増)、ARRは3億円(同25%増)になる。今後はこの事業を人材開発の領域まで広げ、「スマレジ」とのクロスセルの拡大を目指す。

5つ目がM&Aやコーポレートベンチャーキャピタルによる投資になる。スマレジは豊富な手元資金(32億円)を活用して、2021年にベンチャーキャピタルを設立。自社に関連したスタートアップに投資して、自社サービスとの連携・強化、エコシステムの育成、投資収益拡大を目指す。今後はM&Aも活用して業容の拡大、スピードアップを目指す。

■問題点
・競争優位性があるのか疑問
社長は「小売業の人が本気でシステムを入れたいと思ったら、うち一択になってくる」とは言っているが、リクルートが提供するシステム「Airシリーズ」に対する優位性が見えない。Airシリーズはレジ機能、決済機能、勤怠管理、シフト管理、顧客管理、業務データ分析、受発注、会計システムとの連携、など、「スマレジ」以上に店舗運営に必要な業務システムを備えているようにみえる。さらにAirシリーズを運営するリクルートは「Indeed」などの求人支援、販促支援、金融支援などもしているので、総合力では「スマレジ」を圧倒しているようにみえる。価格に関してはレジ機能だけなら無料など、「スマレジ」の0~12000円よりも安い。「スマレジ」の新規導入も年1万2000~1万4000店くらいあるのでなんらかの優位性はありそうだが、現時点では分が悪いようにみえる。(要調査)

・アクティブ店舗数30万店(市場占有率14%)は厳しそう
「スマレジ」の2021年4月期のアクティブ店舗の増加数は約5100店、2022年4月期は約5500店で、現在のアクティブ店舗数はトータルで約3万300店になる。2031年4月期に30万店まで増やすとすると、あと約27万店増やす必要があるが、その場合、年間3万店ずつ増やしていく必要がある。上記の成長戦略によりアクティブ店舗数の普及ペースのスピードアップは期待できるが、5000店から3万店までは少し距離があるようにみえる。うまくいっても年1万店くらいが上限ではないかと思う。その場合、2031年のアクティブ店舗数は12万店程度になる。

*2022年6月の「スマレジ」の登録店舗数は11万3千店あり、このうちアクティブ店舗数は約3万店になる。登録店舗数に占めるアクティブ店舗数の割合は3割程度になる。仮にこの割合で登録店舗数を増やしていくとすると、アクティブ店舗数を30万店にするには登録店舗数を90万店まで増やす必用がある。国内のレジ市場は約211万店舗であり、「Airレジ」はすでに約64万店舗に導入されていて、さらに「スマレジ」の4倍超のペースで登録数を増やしているので、「スマレジ」が90万店舗まで登録数を増やすのは難しいのではないかと思う。

・開発力が弱い可能性がある
App Storeのレビューを見ると「システムの不具合が多い」との評価が多く、評価点は2.7点と低い(対して「Airレジ」は4.5点と高い)。就活サイトの元従業員の口コミには「コードが古い」「改善の提案が受け入れてもらえない」「システムを客観的に見て顧客にお勧めできない」「広告やウェブページには機能に関する過大な謳い文句が書かれている」「仕様を知っているのは一人いるかいないかということもある」「その場しのぎであれこれ機能を追加して、開発がメテオフォール型になっている」などとある。こうした評価を話半分程度に参考にしても、開発力はそれほど高くなさそうな雰囲気がある。ソフトウェアを開発する会社では、「ちゃんと動く」ソフトが肝になるので、ここが弱いと致命的になる。

・レジが減る可能性がある
買い物がネットにシフトしているのでリアル店舗での買い物が減っている(7/18日経)。またリアル店舗でも無人店舗やテーブルでスマホ決済ができる飲食店が増えているので(8/13日経)、POSレジ自体が不要になる可能性もある。

・電子決済サービス市場はレッドオーシャン
電子決済サービスではGMOフィナンシャルゲートやリクルート、SMBC、米ブロック、米ストライプなどの競合がゴロゴロいる。この分野は薄利多売なので規模の大きさが重要になるが、スマレジの規模感では決済事業の黒字化は難しそう。
*買収した決済サービス会社・ロイヤルゲートの2021年3月期の業績は売上7億円、赤字6億円になる。

・アプリマーケットの元気のなさ
スマレジのアプリマーケットでは現在79のアプリが販売されいてるが、スマレジに入ってくる手数料は月100万円以下なので活況とはいえない。「スマレジ」市場はアクティブ店舗が約3万店とそれほど大きくなく、また販売手数料が3割と割高感があるので、アプリ開発会社にとっては開発するインセンティブがあまりないのかもしれない。ここが活発にならないと「スマレジ」を導入している企業の満足度は高まらないので、他に乗り換えられる可能性がある。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★
・参入障壁は高いか★★。低い。ただしクラウド型POSレジの競合はそれほど多くはない。

・ストック型収益か★★★☆。「スマレジ」の解約率は0.6%程度で、収益の約半分がサブスク収入なので収益の半分がストック型といえる。ただそのストック型ビジネスも競争激化により単価が落ちていく可能性はある。

・潜在市場は大きいか★★★。クラウド型POSレジは成長市場ではあるが、「スマレジ」は国内向けなので成長余地は限られる。レジが不要になる可能性もある。市場はあと3倍くらいで頭打ちになりそう。

■チャート
短期では底打ちの気配。しかし長期では1400~2000円の間に分厚い壁があるので上値は重そう。


■まとめ
競合や潜在市場、開発力などを考慮すると、スマレジが長期で力強く成長していくのは難しそう。ただ、まだ「スマレジ」についてわかっていないこともあるので、もう少し観察・調査する必要はありそう。

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