2023年7月1日土曜日

ハルメクホールディングス

■どんな会社か
「シニア女性を幸せにする」を経営理念に、シニア女性向けの情報コンテンツ事業、物販事業、コミュニティ事業を手がける会社。

情報コンテンツ事業では、雑誌「ハルメク」やネット版「ハルメク365」でシニア女性に役立つ情報を提供している。

「ハルメク」の基本コンセプトは「50代からの暮らしを豊かにする生活実用誌」で、シニア女性の生活の中で出てくる様々なテーマをカバーしている。健康、美容、オシャレ、住まい、学び、レジャー、料理、お金、片付け、生き方、終活などの特集を組み、女性の悩みによりそう紙面で支持を広げている。

読者の平均年齢は65歳で、定期購読・直販のみで販売している。2023年4月の月間販売部数は46万部で、現在日本で一番売れている雑誌になる。

物販事業では、シニア女性の声を元に開発した中高価格帯のオリジナル商品などを自社カタログや自社サイト、自社店舗(百貨店のテナント)で販売している。商品は靴、下着類、コスメ、食品など多岐にわたる。販売方針は「ものは少なく、暮らしは豊かに」をモットーに、闇雲に売ろうとはせず、顧客利益を優先して販売している。

コミュニティ事業では、雑誌「ハルメク」と連動させたイベントを企画・開催している。イベントは講座や旅行などで、体験だけでなくシニア女性のつながりの場も提供している。コロナ禍ではイベントをオンラインに切り替えて多数開催し、顧客の満足度を高水準で維持することに成功している。

これらの事業はすべて連動している。例えば高齢女性に多い悩みである「尿漏れ」の場合、まずは雑誌やネットで尿漏れの原因や対策を紹介し、次に尿漏れ対策の正しい体操を覚えてもらうためにイベントを企画し実行する。と同時に尿漏れ対策ショーツを開発・販売する。このように事業が連動することで、顧客と接する機会が増え、「ハルメク」のファンは増えていく。現在「ハルメク」の読者は46万人いるが、3事業合わせた顧客数は約80万人になる。


■強み
すべての事業の基盤となっているのが2014年に設置した「生きかた上手研究所」というマーケティング部署になる。ここでは毎月送られてくる読者はがき約4000枚や、約4000人の読者モニターへの調査、各種アンケートやインタビュー、座談会、カスタマーセンターへの声、顧客宅訪問調査、試作品のモニターなどを調査・分析して、シニア女性がどんな人で、何を求めているかを調べている。「ハルメク」読者の忠誠心は高く、謝礼が出ないような調査でも「率直な意見を言える」「自身や生活を改めて見つめ直せる」「同年代の人と会える」「商品開発に関われる」などの理由で、積極的に調査に協力してくれることが多いという。

各事業はこの研究所でわかったシニア女性のリアルなニーズを満たすことを目的に運営されている。

雑誌はもともと特定の読者の疑問や悩みに先回りするメディアなので、このようなマーケティング部署は必須であるが、他の出版社でここまで専門的な部署を設けているところはない。このマーケティング部署がハルメクの最大の強みになる。

ハルメクが持つシニア女性のデータは膨大なので、他社からシニア女性ビジネスのコンサルを依頼されることも多い。また大手メガネチェーンや人気服飾ブランドと組んでシニア女性向け商品も開発している。

■業績
2021年3月期 売上高151億円 営業利益6億円
2022年3月期 売上高252億円 営業利益13億円
2023年3月期 売上高287億円 営業利益20億円
2024年3月期(予)  売上高320億円 営業利益22億円

2023年3月期の売上構成は、ハルメク事業76%、物販事業が24%、コミュニティ事業が1%以下になる。利益構成は情報コンテンツ事業が99%、物販事業とコミュニティ事業が合わせて1%程度になる。2024年3月期の業績構成も似たような感じ。

*当ブログの2024年3月期の業績予想は、売上高290億円、営業利益10億円になる。(理由は後述)

■成長ストーリー
基本シナリオ:シニア女性市場を開拓して業績5倍

上記の3つの事業を伸ばしていくのが基本戦略になる。総務省の統計では50代以上の女性は22年10月現在、約3300万人おり、今後もしばらくは穏やかに増加する見込み。この年代の女性は金融資産を豊富に持っているので、潜在市場は大きい。現在、シニア市場といえば、比較的年齢が高く健康状態があまりよくない「ケアシニア市場(介護や老人ホーム、葬式など)」になり、そこには数多くの大企業が参入しているが、ハルメクがターゲットとしているのは年齢が比較的若く、女性で、健康状態のよい人たちになる。現在この分野に進出している企業はほとんどおらず、ほぼ未開拓の市場なので、ハルメクの成長余地は非常に大きい。


コンテンツ事業では雑誌「ハルメク」の読者数を伸ばしていく。そしてネット版「ハルメク365」に大きく投資して大きく伸ばしていく。ネット事業は始めたばかりなので伸びしろは大きい。「ハルメク365」では、動画を中心に、ECやイベントなどを連携させ、加えて、外部の美容院やホテルのオンライン予約などのサービスも連携させて、シニア女性向けの一大プラットフォームを作っていく予定。

物販事業でも自社で商品を開発するだけでなく、他社と連携して様々な商品開発をしていく。競争力の高い自社商品(靴や下着類)は単独事業として立ち上げ、それも伸ばしていく。断捨離世代のシニア女性に向けて洋服のシェアなどのシェアリングサービス(リユース事業)も始める予定。

コミュニティ事業では顧客が顧客を呼んできてくれるような自己増殖する仕組みを用意し、サービス利用者を倍増させていく。現在各種イベントを年2万人が利用しているが、それを一桁増やすことを目指す。

4つ目の事業としてサービス事業も始める。自宅検査キットの販売などのヘルスケア分野のサービスや、住宅選びの相談など終活分野のサービスなどを提供していく。これらのサービスも外部の優良企業と連携して行っていく。

これまでの事業で得たノウハウを活用し、アジアなど海外に進出する計画もある。

株価対策としては「シニア女性が喜ぶ特徴ある株主優待」を検討している。「ハルメク」読者にはお金に余裕があり、「ハルメク」へのロイヤリティーが高い人が多いので、ハルメク株をたくさん買って安定株主になってくれる可能性がある。

■問題点
・ターゲットが狭い
ハルメクではシニア女性を7つのタイプに分類しており、そのうち2タイプ「アクティブで社交的な女性」「知的で品格重視な女性」を「ハルメク」のターゲットに設定している(残り5タイプの詳細は不明)。日本の50代以上の女性は約3300万人いるが、この2タイプに限定すると、おそらく全体の2割程度、660万人くらいになる。そのうち「ハルメク」の主要ターゲットとなる55~75歳に絞ると500万人くらいになりそう。

「ハルメク」の主な読者獲得手段は新聞広告になる。この500万人のうち新聞を購読している人はおそらくその5~7割くらいなので、正味のターゲット数は250~350万くらいになりそう。現在の「ハルメク」読者数は約46万なので、伸びしろは最大で7倍くらいになりそう。

・新聞広告だけでは厳しい
「ハルメク」の顧客獲得手段は主に新聞広告になるが、新聞の購読者は減少傾向で、その購読者も電子版に徐々に移行しているので、新聞広告だけで読者を増やしていくのは今後難しくなる。
*電子版をタブレットで読む場合、記事をすぐに拡大表示してしまうので下部の広告を見ることはない。

ただターゲットの属性は明確になっているので、ネット上の広告枠を探せば比較的簡単に最適な枠を見つけられそう。うまいことやれば新聞広告より多くの潜在顧客に接触できるかもしれない。

・現在の40代は将来「ハルメク」を読まない可能性がある
「ハルメク」では主に読者のニーズ(疑問や悩み)にピンポイントで答えるコンテンツを提供している。しかし、今の40代はわからないことがあればまずネットを検索し、そこで一定の答えを得てしまう。グーグルやチャットGPTはかなり優秀なので、「ハルメク」が提供する情報が不要になる可能性がある。

ただネットには情報があふれており、AIには真の共感力はないので、その道のプロがキュレートした情報には一定の需要が残りそう。またシニア世代の生き方や考え方などの「生きるヒント」を知りたいときは、直接取材した生の、今の、声が必要になるので、「ハルメク」のような雑誌の存在価値は残りそう。逆に情報が増えれば増えるほど、「ハルメク」のような質の高い雑誌の価値は高まる可能性がある。

・購読者数がピークアウトした可能性がある
「ハルメク」の購読者数推移は以下のようになる。

2019年1月 27万人
2020年1月 34万人
2021年1月 37万人
2022年1月 40万人
2022年6月 44万人
20229月 47万人
202212月 50万人
20233月 47万人
20234月 46万人

この数字を見ると、購読者数は2022年12月にピークアウトしたように見える。
なぜ減っているのか。思いついた理由は3つ。

1つ目は、2022年に購読を始めた読者の属性が「ハルメク」のターゲットとは合わなかったため。2022年に年間で10万人増えているが、増えた要因はおそらく「ハルメク」編集長が2022年1月にNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出たことと、6月にTBSの「日曜日の初耳学」に出演したことと、8月に「ハルメク365」をローンチしたことになる。これらをきっかけに流入した読者は、「ハルメク」がターゲットとする属性とはズレていた可能性がある。

2つ目は、「ハルメク」の質が落ちたため。「ハルメク」の敏腕編集長は2022年の半ば頃からウェブ版「ハルメク365」に本腰を入れ始めているので(文藝春秋9/11)、「ハルメク」の質が落ちた可能性がある。

3つ目は、「ハルメク」の内容に飽きたため。雑誌はどうしても同じような内容が繰り返されてしまうので、読者が飽きた可能性がある。

おそらく、購読者数が減った主因は1つ目の理由になる。そうだとすると、これは一過性の問題なので、長期ではあまり問題なさそう。ただ2つ目の理由が原因の場合は少し厄介になる。一般に、トップが抜けると2番手の力は急進するが、センス・洞察が問題になる場合は追いつくのが難しい。ただ敏腕編集長はまだ「ハルメク」の編集長なので、現時点ではこれはそれほど問題にはならなさそう。3つ目の理由は特に考える必要もなさそう。高齢者は同じような内容がそれほど嫌いではないから。

以上をまとめると、「ハルメク」の購読者数はピークアウトしたわけではなく、今後も年3~5万人くらいのペースで増えていきそう。2023年12月の購読者数は45~46万人程度になるのではないかと思う。

問題は業績になる。今期の業績予想は購読者の順調な増加を前提に立てているので、購読者が減った場合は大きな影響を受ける。今期は投資額を去年よりも積み増しているので、今の調子でいくと、今期業績は売上290億円、営業利益10億円くらいになるのではないかと思う。

・「ハルメク365」が軌道に乗るのはしばらく先
電子版「ハルメク365」を購読してみようと思い、概要を紹介するページを見ると、「ハルメク」の最新号が読めず、1年単位でしか購入ができないことがわかった。なぜこんなことをするのか。

編集長は「ハルメク365」を紙版と差別化するために動画版「ハルメク」を作ろうとしているという。しかし、この会社のコアコンテンツは間違いなく「ハルメク」になる。それ以外の散発的な動画にそれほど価値があるとは思えない。まずは「ハルメク」の最新刊をアップして、そこを起点に動画なりコンテンツなりを作っていくのが正攻法ではないかと思う。

年間契約については、編集長は「1年を通して関係を築くため」といっているが、月単位では関係を築けないのだろうか。いきなり年間で縛るのはかなり強引な印象を受ける。途中解約はできるが、その場合、なぜかコールセンターを通さないといけない。なぜネットで契約できて、ネットから解約できないのだろうか。これは今問題になっているダークパターンの一種ではないだろうか。ハルメクは顧客本位の運営をしているといっているが、少なくともこの点に関してはそうは見えない。

「ハルメク」では「片付け」や「断捨離」の特集が人気だという。「ハルメク」の読者が電子版の「ハルメク」に移行すれば片付けや断捨離の一助になる。また電子版では拡大表示をできるので視力の衰えたシニアは助かりそう。お金も節約できる。「ハルメク365」はまずは「ハルメク」の最新号をアップするところから始めた方がよさそう。

編集長はセンスのある人なので、いずれは軌道修正するとは思うが、「ハルメク365」を開始して約1年たってこの状態なので、少し先を見通しにくいところがある。

・・紙版「ハルメク」を読んでみたら動画を紹介するページがあった。「ハルメク」と動画は一応リンクしていることがわかった。それとハルメクは「ハルメク」と「ハルメク365」で二重に料金を取ろうとしていることもわかった。この方法では短中期的に利益が増えるかもしれないが、「ハルメク365」単体で新規客の獲得は見込めない。ネット時代に適応するのが目的なら新規客獲得に照準を定めた方がよいのではないだろうか。

・サイトに怪しい広告を載せている
「ハルメク」の電子版を購読してみようと思い、手続きを進めていくと、「実績利回り7.0%の投資」を紹介する広告が出てきた。

日本の長期金利が0%に貼り付いている需要不足のこの時代に、7%の利回りには無理があると感じ、この広告元の会社を調べてみると、危険度MAXの怪しい会社であることがわかった。「ハルメク」のようなキュレーションメディアは信頼性が肝になるが、このような広告を載せると信頼がなくなってしまうのではないだろうか。

「ハルメク365」の人気記事ランキングでは投資に関する記事がトップになっており、シニア女性が投資に高い関心を寄せていることがわかる。また記事のタイトルからは投資の素人であることもわかる。
これが普通のメディアに掲載されている場合はそれほど問題にはならないと思うが、「ハルメク365」の場合は事情が少し異なる。ハルメクではファンを増やすことに注力しており、「ハルメク365」にアクセスする人は「ハルメク」のファンである可能性が高い。「ハルメク」編集長はファンの定義について、「ハルメクをとても信頼してくださって、ハルメクで紹介されているものだから大丈夫と思ってくださるとか・・」(GLOBIS知見録)などと語っている。一部のファンは「ハルメク365」で広告している投資商品も大丈夫と思ってしまうのではないだろうか。

金融機関側からすると、お金を持っていて、金融リテラシーがなく、お金を増やしたいという欲のある、元気なシニアは最高のカモになるという。「ハルメク365」が怪しい投資会社の格好の猟場にならないことを祈る。

一応、この広告と「ハルメク365」の問題点はIRに指摘しておいた。

・・ハルメクを調べ始めた時は気持ちが高揚していたが、この広告元を調べているうちに熱が冷めてしまった。

・株式需給が悪い
上場間もない会社なので上場時の信用買いがまだたくさん残っている。日々の出来高は5万株程度なのに対し、信用買い残は55万株もある。3月の終わり頃に上場したので、これらが整理されるのは9月の終わり頃になる。そのころには大株主のロックアップも外れるので、買うのはその後にしたほうが無難そう。

・競合の存在
現在の競合誌は「クロワッサン」「暮らしの手帖」「婦人公論」「素敵なあの人」あたりになる。発行部数はそれぞれ5~8万部。シニア女性市場が有望とわかれば、他社はもっと力を入れてきそうだが、ハルメクが設置しているようなシンクタンクを設けない限りは、あまり脅威にはならなさそう。

・債務が多い
流動比率が100%をわずかに下回っている。ハルメクは前身の会社が経営危機の時にLBO(借り入れで資金を増やした買収)を繰り返したため、債務が多い。上場で得た資金の半分を債務返済に充てているが、それでもまだ債務はたくさん残っている。現在は財務体質の改善中で、余裕のある財務状態になるまではもう少しかかる。

・社長が高齢
社長が67歳とやや高齢。シニア向けビジネスでは当事者世代なので事業構想は描きやすそうだが、年齢的な不安がある。ただ社長は社内の仕組み作りに力を入れており、足元ではボトムアップ型の仕組みがうまく機能し始めているようなので、社長が抜けてもしばらくはなんとかなりそう。ただ長期の成長力が落ちるのは避けられなさそう。

■チャート
<半年チャート>
下げ止まって反発が始まった感じ。ただ出来高が少ないので勢いは弱そう。
一目均衡表では「ゴールデンクロス」を形成している。ただ先には厚い雲がある。



■成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★☆
参入障壁は高いか:★★★☆。情報コンテンツ事業はそこそこ高い。物販事業は低い。
ストック型収益か:★★★。情報コンテンツ事業はまあまあストック型。
潜在市場は大きいか:★★★★☆。アクティブシニア女性市場はほぼ未開拓で巨大。


■まとめ
ビジネスモデルやスタッフはおもしろそうで、「ハルメク365」が軌道に乗ったら株価は大爆発しそう。ただそれにはもう少し時間がかかりそうで、今期に関しては業績が下振れそうなので、株式を買うのは少し早そう。しばらく様子を見たい。

今後3年の予想売上高成長率は年0~25%、営業利益率は3~15%。10年後の予想売上高・利益は現在の2~5倍。現在の妥当だと思う時価総額は200億円(株価1850円、PSR0.7倍)。

0 件のコメント:

コメントを投稿