2025年7月1日火曜日

4~6月の売買

 ■4月
新規買い
・前田工繊
・SBIホールディングス
・メック

4月7日の株式市場がセリング・クライマックスになりそうだったから。
結果的に、4月7日はセリクラ指数(東証プライムの時価総額に対する売買代金の比率)0.87、米VIX47、騰落レシオ86とまずまずの水準だった。4/16日経には、4月8日の米国の「恐怖と貪欲」指数が大底水準とあり、4/9日経には、4月8日の日経平均株価はPBRでも大底水準とあったので、次回からはこれらの指標も参考にしたい。

上記銘柄を選んだ理由は、米関税政策の影響を受けにくく、成長性・割安感があったから。
4月7日の前田工繊のPERは14.7倍、配当利回りは1.3%
SBIホールディングスのPERは6倍、配当利回りは5.0%
メックのPERは9.4倍、配当利回りは3.0%だった。

・プラスアルファ・コンサルティング 半分売却(NISA以外) 損益-39%
計画通りの売却。

■5月
・プラスアルファ・コンサルティング NISA以外全売却 損益-35%
計画通りの売却。今期で利益成長がピークアウトすると思ったから。しかし第2四半期決算でまだ利益成長できそうなことがわかってしまった(笑)。こればかりはしょうがない。

とりあえず新旧NISA分はまだ残っているので、そちらに頑張ってもらいたい。


・大和−iFreeNEXT FANG+インデックス 積立NISAで積立開始

積立NISAは市場が大きく調整したときに始めようと思っていたが、「AI革命」は止まりそうになく、積立NISAは月に10万円までしか投資できないとわかったので、すぐに始めることにした。

当初は、「SBI・インベスコQQQ・NASDAQ100インデックス・ファンド」を買う予定だったが、なぜかSBI証券の積立NISA枠では対象外だった。そこで第2候補の「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Bコース」にしようと思ったが、こちらも対象外だった。

少ない選択肢の中でよさそうに見えた投信は「大和−iFreeNEXT NASDAQ100インデックス」と「大和−iFreeNEXT FANG+インデックス」の2つ。しかし、前者は組み入れ比率のトップがアップル(8%)で、2位がインベスコQQQ(7.8%)という構成で、魅力を感じなかった。

一方、「大和−iFreeNEXT FANG+インデックス」は構成がユニークで、悪くなさそうに見えた。この投信は、NYSE FANG+指数を構成する10銘柄に等金額で投資するタイプになる。この指数の存在は知らなかったが、これはFANG(実際にはFAANMG(Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Microsoft、Google))の6社に、米有力テック企業4社を加えたものになる。

選定基準は、時価総額、流動性、成長性、株価売上高倍率、過去の騰落率、セクター内での影響力などを総合的に評価し、上位10社が選ばれる。評価・選定はニューヨーク証券取引所の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICEデータサービス)が行っており、構成銘柄は四半期ごとに見直される。たとえFAANMGの企業であっても、基準を満たさなければ除外される。

現在の組入銘柄は、組入比率の高い順に、ブロードコム、Netflix、クラウドストライク、サービスナウ、エヌビディア、マイクロソフト、メタ、Amazon、アルファベット、アップルになる。

この投信のリスクは、テクノロジーセクターに集中していること。2022年のようにテック株全体が売られる局面では、大きな値下がりが避けられず、実際この年は約40%下落している。

とはいえ、中長期的に見れば、これらの企業は「AI革命」の中心に位置し、その恩恵を最も享受しやすい存在になる。

組入銘柄の多くは、ネットワーク効果やフィードバックループを通じて、強者がさらに強くなる構造を持っている。たとえば、SNSや検索サービスでは、ユーザー数が多いほど利便性が高まり、さらにユーザーが増えていく。AI分野においては、「データ量」が競争力の源泉となり、膨大なデータで鍛えられたAIがより優れた性能を発揮し、それがさらにユーザーとデータを引き寄せる。この好循環により、ビッグテックは加速度的に成長しやすく、最終的に「一人勝ち」になりやすい。

強くなりすぎると、Googleのように独占禁止法に抵触する可能性も出てくるが、それでもこれらの企業はグローバルな経済構造において中核を担っている。さらに、将来的に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」のような制度が導入された場合、その財源を担う可能性があるのは、これら企業群になる。そう考えると、これらの企業の株主になっておくことは、長期的に見て外せない選択肢のひとつのように感じる。


■6月
・パーク24 新規買い
英国事業の駐車場集計ミスで株価が大きく下落したため。一過性の問題だと思った。
そろそろ株価がボックス圏を抜けそうだと思ったから。


・米マイクロソフトと米アルファベット 新規買い
米国株売買の練習として購入。あっさりと買えた。
この2社を選んだのは、10年後に存在し、成長していそうなテック企業だったから。

購入したときのPERはアルファベットが17.5倍、マイクロソフトが34.7倍だった。アルファベットはバリュー株レベルの水準だが、会社分割リスクや広告事業の減速懸念を踏まえれば、まずまず妥当な評価と思えた。

なお、アルファベット株には議決権のあるA株と、議決権のないC株があるが、今回はA株を買った。議決権を行使する予定はなかったが、買おうと思ったタイミングでA株のほうがなぜか安く、配当利回りもわずかによかったため、こちらを選んだ。

保有株

 保有比率の高い順に見ていく。

■イントラスト
基本シナリオ:「賃貸保証会社」から「多角的な保証プラットフォーマー」へ

前期の売上高成長率は+18%で営業利益成長率は+12%と堅調。今期の会社予想も売上高+13%、営業利益+11%と良好な見通し。ただし、中期経営計画の数値目標はやや未達に終わりそう。

期待の医療費用保証や介護費用保証は順調に拡大中だが、競合のエランがそれを上回るペースで成長していることが分かった。エランはかつてイントラストと提携して医療費保証を提供していたが、現在は独自に保証商品を開発・販売している。エランは提携している約1,800の病院に保証商材の営業をかけているので、今後もハイペースで導入を拡大していきそう。

今回の一番の驚きは、たまたま調べたエランでこのような事実を発見したこと。イントラストを長い間観察してきたが、まったく気づけなかった。改めて株式投資の難しさと分散投資の重要性を痛感した。

イントラストは3月に中古車の割賦販売保証(試験運用)を始めた。これは、従来のオートローンの審査に通りにくかった層をターゲットとした保証サービスで、市場規模は約660億円になる。3/31IR

4月には介護福祉士修学資金の保証サービスを始めた。4/14IR
新しい保証サービスが次々に立ち上がっており、基本シナリオ通りの展開になっている。

今後3年の業績予想は、売上・利益ともに年+10~15%。現在の適正水準と考える時価総額は230億円(株価1000円、PER15倍)。


■プラスアルファ・コンサルティング
基本シナリオ:大企業向けのHRソリューション事業を軸にあと3年成長継続

2Q決算のブログ予想は、売上高は81.5億円、HRソリューション事業の導入企業数は+75で、実際は売上高81.7億円、導入企業数は+66と、ほぼ予想通りの内容だった。この予想は下限値だったため、ポジティブな印象はあまりないが、大企業向けのHRソリューション事業で今後も一定の成長が見込めるとわかったのはポジティブサプライズだった。

決算資料を見ると、HRソリューション事業のスポット売上が2Qに過去最高を更新しており、大企業による新規導入やオプション契約が増えているのがわかる。ここが順調に伸びていれば、今後のリカーリング収益(ストック収益)の拡大が見込める。

一つ誤解していたのは、新規の導入企業数が一見少なく見えても、大きな問題ではないということ。たとえば、従業員3万人の大企業1社の導入は、従業員300人の中小企業100社に相当する。大企業向けは収益性が高いため、同領域で導入が順調に進んでいる限り、新規導入数の減少自体は大きな問題ではないとわかった。

(下の表ではHRソリューション事業のスポット売上が力強く伸びている)

大企業の開拓余地もまだありそうだとわかった。会社説明によると、現状の2倍以上の新規導入余地があるらしく、5/14日経によると、大企業では複数の人事システムを併用するケースが一般的になっているようなので、この領域だけでもうしばらく成長できそうだと思った。

採算の悪い中小企業向けの導入に力を入れなくなったため、今後は利益率の改善も期待できる。

一方で、マーケティング・ソリューション事業のほうは、今期で業績がピークアウトしそう。導入企業数は減少傾向にあり、6/16日経によると、AIエージェントの普及も進んでいるようなので、今後は厳しい展開になりそう。

学生向けダイレクトリクルーティング事業の「キミスカ」も厳しそう。売上高が前期比で大幅に減少しているので、減損は避けられなさそう。

となると、来期以降はHRソリューション事業が唯一の牽引役になる。今後どこまで成長を維持できるかが最大のポイントになるが、マーケティング事業と同様に、いずれ成長がピークアウトする可能性も少なからずある。

中期的には、生成AIの進化によって、ソフトウェアの開発が容易になり、大企業向けでも競争が激化する可能性がある。多くの大企業では社内SEを抱えており、自社開発へのシフトも加速するかもしれない。

6/7日経では、米エニースフィアが開発するプログラミング支援AIツールが、会話ベースの指示でコードを生成でき、創業3年で企業価値1.4兆円に達したと報じられている。こうしたツールの急速な普及により、PACのソリューションの差別化は今後さらに難しくなっていくのではないかと思う。


PACのアップサイド要因とダウンサイド要因を簡単にまとめてみた。

<アップサイド要因>
・大企業向けHRソリューション事業に成長余地がある
・同事業は収益性が高く、利益率改善が期待できる

<ダウンサイド要因>
・マーケティング・ソリューション事業のピークアウト懸念
・生成AIの普及によるソフトウェアやコンサルティングの価値低下
・大企業向け市場でも競争激化の可能性
・中小向けHRソリューション事業は事実上撤退済み。大企業向けはいずれ飽和へ
・自律型AIの進化により、SaaSモデル自体が不要になる可能性
・事業環境の不透明さからM&Aが困難

これらを総合すると、短中期的には一定の業績の伸びは期待できるが、長期では不確実性が高い、という感じになる。

6/5日経には、「日本の少子化が想定以上のペースで進んでいる」とあった。国内の労働力人口は減ってきそうなので、人材管理ソフトの需要は高まりそう。

6/13日経には「国内主戦場のIT銘柄は需要が底堅く、トランプ関税の影響も受けにくいため、消去法的な買いが入りやすい」とあった。グロース市場は地合いもよさそうので、PAC株は堅調に推移しそう。

先日気づいたが、とうとうPACのホームページから文字化けが消えた。以前はスマホやタブレットで見ると、「決議通知」が「反省通知」になるなど、奇妙な誤表示がいくつも見られたが、今回はすべて修正されていた。これまでもPACがデバックに取り組んでいた形跡はあったが、この「反省通知」はなかなか直らなかった。今回はもしかすると、AIにデバックを任せたのかもしれない。もしそうだとしたら「エンジニアがAIに追い抜かれる」時代が到来したことを意味する。今後、IT業界のあらゆる現場で、同じような現象が起きていくのではないかと思う。

PACの3Q決算予想
売上高は125.7億円、営業利益はやや上振れ。

PACの現在の妥当な株価はどのくらいか。今後3年の売上高成長率は年8~20%、営業利益成長率は年12~25%、4年後以降にピークアウトと想定すると、株価1830円、PER20倍くらいが妥当ではないかと思う。


■SBIホールディングス
基本シナリオ:「どんどん巨大化する」「ネットは勝者総取りや」By 北尾CEO(参照

SBIHDは、5月にNTTと提携し(5/30日経5/30日経)、6月に三井住友FGと共同出資会社を作った(6/3日経)。社長の言葉通り、この会社は巨大化の一途をたどっている。今後は、株式手数料無料化の影響が現れて経営体力のない証券会社が淘汰されていきそう。


■前田工繊
基本シナリオ:土木資材系のM&Aでインフラ需要を着実に取り込む

前田工繊の基本戦略は、地方の中小企業をM&Aで取り込み、自社の全国ネットワークを活用して収益力を高めるというもの(4/5日経)。派手さはないが、着実な成長が期待できる。

来期は、今期に買収した三井化学産資に注目したい。過去最大のM&Aであり、前田工繊グループに入ることで利益の大幅な拡大が期待できる。

6/5日経によれば、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進んでおり、修繕需要は少なくとも2040年ごろまで増加傾向が続く見込み。この流れは前田工繊の長期的な追い風になりそう。


■パーク24
基本シナリオ:カーシェアの雄に

株式を買った後に、イスラエルがイランに大規模攻撃を仕掛けてしまった。その影響で原油価格が急騰し、カーシェア需要は減退しそうになってきた。ただ、専門家の見立てでは、「6週間で原油相場は元通り」とのことなので(6/17日経)、影響は一過性で終わるのかもしれない。

仮に長引いたとしても、長期的には自家用車の保有ニーズが下がり、カーシェアに移行する層が増えそう。そのため、いずれのシナリオでもカーシェア需要は比較的堅調に推移するのではないかと思う。将来的に自動運転が普及した場合でも、車両を自動運転車に置き換えればよいので、あまりネガティブな影響はなさそう。

6月23日にイスラエルとイランが停戦で合意した(6/25日経)。原油価格は急落したが、パーク24の株価はたいして反発しなかった。イスラエルとイランが戦争を始めたときにパーク24の株価が下がったのは単なる地合いの影響で、原油価格はあまり関係がなかったのかもしれない。


■メック
基本シナリオ:半導体の先端処理剤で世界標準に

電子基板の表面処理剤を製造する会社。CPUに使う半導体パッケージ基板用の高機能品は世界シェアほぼ100%。研究開発投資に積極的で価格競争力は強く、営業利益率は20%を超える。近年注力しているのが高周波の電気信号のロスを抑える技術。5Gや次世代自動車向けの需要拡大が期待できる。


■大和−iFreeNEXT FANG+インデックス
基本シナリオ:AI革命の勝者に賭ける

この投信にはアップルも含まれているが、同社はAI時代の敗者になる可能性がある。現時点で既にこの投信のお荷物的存在になっているため、近い将来、構成銘柄から外されるかもしれない。


OpenAIの元研究者であるダニエル・ココタイロ氏らが書いた「AI2027」によると、2029年にダウ工業株30種平均は100万ドルを超える可能性があるという。ココタイロ氏はChatGPTが登場する前の2021年に書いた「What 2026 looks like」で、現在の生成AIブームを正確に言い当てているので、この予想も当たる可能性がある。20バガーに期待したい。

もっとも、このシナリオは「AI開発競争が止まらず暴走する未来(レースエンディング)」の一環であり、仮にその通りになれば
「人間は自分たちが経済的に無用の存在であることに気づく。人々はなんらかの仕事をしているように見せかけるか、あるいはベーシックインカム(最低所得保障)を受け取るかの道を選ぶことになる」
「30年半ば、(AIモデルの)Consensus-1は生物兵器や化学兵器を散布し、ほとんどの人間を数時間で殺害する。生き残った人間はドローンで掃討される」という、20バガーを達成しても喜べそうにない未来が待っている(笑)。6/2日経6/2日経2/25LESSWRONG

個人的にはより穏やかな「スローダウンエンディング(穏やかな進化)」シナリオを願いたいところだが、『AI 2027』の解説記事によると、「70%の確率で破滅的結果を迎える可能性がある」とのこと。6/27ロイターによると、米中の「AIレース」はすでに始まっているもよう。


■マイクロソフト
基本シナリオ:最強のAIエージェント・プラットフォームに

6/6東洋経済によると、マイクロソフトはAIエージェントの開発基盤となる「エージェント・ファクトリー」を構築する方針だという。OpenAIとの提携やGitHubの買収も、すべてこの計画の布石だったもよう。今後この戦略が順調にいけば、マイクロソフトは最強のAIエージェント・プラットフォームになりそう。

クラウド事業も好調で、現状の成長ペースを維持すれば、3年後くらいにAmazonを抜いて世界トップに立ちそう(5/20日経)。ただ、クラウド事業が好調なのはOpenAIの尽力が大きく、両社の密月関係は先日終わったようなので(6/21日経)、今後成長が鈍化する可能性もある。

個人的に使用しているMicrosoft 365 Personalの年会費が14900円から21300円に約43%上昇した。理由は生成AI機能導入とのこと。最初のうちは変化をあまり感じられず、ぼったくり感があったが、CopilotはChatGPTとは若干異なる切り口で対応してくれるので、最近はちょくちょく使うようになっている。

欧州では、政府機関などを中心に「脱マイクロソフト」の動きが出始めている。これはデジタル主権確立を目的としたものらしい(6/17ZDNET6/20ZDNET)。今後欧州では似たような動きが広がるかもしれない。


■アルファベット
基本シナリオ:AIインフラと知能でトップを目指す

GoogleのAI「Gemini」は、ChatGPTと比べると使用感は悪いが、ChatGPTにはない鋭い見解を示すことがある。”地頭”はこっちのほうがよいのかもしれない。

AIチップやAIインフラ開発も順調で、「1ドル当たりのインテリジェンス」指標では競合に大きく差を付けている(5/14日経Google I/O 2025 keynote4/10日経)。近い将来、エヌビディアを脅かす存在になるかもしれない。

米ビッグテックでは「AIリストラ」が始まったもよう(6/18日経6/20日経)。将来的にGoogleは人件費が減って、超高収益体質になりそう。
*ただしGoogleは当面は積極採用を続ける見通し。ピチャイCEOは「AIがエンジニアの生産性を劇的に向上させる」と言いながらも人員を増やすようなので、成長の加速が期待できる。

GoogleはAIに株式投資をさせて世界一の金満会社になる可能性もある。現在のAIは、パターン認識に優れ、推論力も高く、何千もの変動要因を同時に処理できるため、株式投資をできないはずがない。ただOpenAIのサム・アルトマン氏は資金調達が必要と言っているので、こういう会社はなんらかの制約により株式投資をしてはいけないのかもしれない。

Googleは米司法省からネット広告に関する独占禁止法違反で訴えられており、米連邦地裁は関連する3サービスのうち2つで独占を認定した。検索ビジネスでも同様に敗訴しており、今後は事業分割を迫られる可能性がある。4/18日経4/18日経

しかし、現在は生成AIの登場により、検索の競争環境が急速に変化している。米ガートナーは、2026年には検索の25%がAIに置き換わると予測している(5/10日経)。旅行予約やメール送信をAIが代行する「AIエージェント」サービスも始まり、将来的には人間がウェブサイトを閲覧すらしない時代が来るとの見方もある(5/22日経5/22日経)。そうなれば、独占構造そのものが代わり、独禁法リスクは和らぐ可能性もある。

問題点はいくつかあるが、Googleでは事業の多角化が進んでおり、AI研究開発力では世界トップクラスなので、AI時代には大活躍できるのではないかと思う。

6月にテスラが自動運転タクシーのサービスを始めた(6/23日経)。テスラのサービスはGoogleのサービスよりも、(一部)先進的なシステムを使い、低コストでもあるようなので競争力は高そう。またGoogleとは異なり、安全性より開発速度を優先し、失敗(事故)から学ぶスタンスのようなので成長速度は速そう。ただし、倫理的にはやや疑問が残る。


■今後の計画
投資スタンスは 「基本静観、チャンスが来たら動く」 のまま。市場が荒れて米VIXが40超、日経平均の騰落レシオが70以下になったら株式などを買っていく。PBR、投資家心理指数、裁定売買残高なども考慮する。1ドル130円くらいになったら海外株を買っていく。

ウォッチリスト

 今後は円安が進みそうなので、円安に強そうなところを優先的に見ていく。

・米国市場に上場している「銅ETF」「銀ETF」「ウランETF」
銅、銀、ウランは「グリーン革命」で需要は右肩上がりだが、優良鉱山の減少や環境規制などで供給不足に陥りつつある。価格の変動がほぼ需給だけで決まるので、わかりやすいのもいい。

・蘭ASML
最強の半導体露光装置メーカー。参入障壁が極めて高く、実質的に競合がいないところがいい。

ただし、中国企業(ファーウェイなど)の猛追には注意が必要。中国は国家主導で半導体開発を推進しており、技術力は着実に向上している。近い将来、追いつかれる可能性がある。5/8日経5/12日経5/25日経5/31日経

・米エヌビディア
現在、「AI革命」の恩恵を最も受けている会社。AI革命はまだ始まったばかりなので、今後も大きく成長していきそう。今後はロボット分野でも膨大なチップ需要が期待できる。問題点があるとしたら、中国やGoogleなど競合の追い上げになる。5/17日経5/23日経5/30日経5/29ロイター

2/6日経によると、米シンクタンクの分析では、米国内の企業や研究機関に所属する優秀なAI研究者の約4割が中国の大学出身者だったという。今後、中国政府や企業が彼らから知財の提供を受けるようになれば、AI開発力が一段と高まる可能性が高い。

・米OpenAI(非上場)
6/15バロンズ・ダイジェストによると、ChatGPTの3月における週間アクティブユーザー数は5億人に達し、昨年12月の3億人から大幅に増加したという。また、OpenAIの月間売上は年換算で100億ドルに達するペースとなっており、これは昨年末時点の55億ドルからほぼ倍増した計算になる。ChatGPTの驚異的な性能を踏まえると、今後も成長の加速が続きそう。

・米アンソロピック(非上場)
エンジニアから高い人気を集める会社。6/18日経によると、「2023〜24年にかけて、AnthropicはOpenAIやGoogleからの人材獲得に成功する割合が高く、社員の定着率でも両社を上回っていた」という。また、「企業としての方向性に一貫性があり、同社のAIモデルが開発者から強い支持を得ている点が強み」との指摘もある。

アンソロピックはAIの安全性を最優先する方針を掲げており、ソフトウェアの性能面でも高く評価されている。最終的にはこうした理念と実力を兼ね備えた企業が生き残るのではないかと思う。

・米XPOロジスティクス、米GXOロジスティクス、米Lineage
物流業界における自動化の先進企業。近年、グローバル物流市場では、テクノロジーを武器にしたこうした新興勢力の存在感が増している。低温物流分野では、米Lineageが急成長している。先進的な物流不動産施設の開発と、高度な物流オペレーションを組み合わせた独自のビジネスモデルにより、設立から10年足らずで、長らく業界をリードしてきた「王者」米アメリコールドを追い抜いている。5/9日経MJ

・米アマゾン
ECやAI、クラウドに加え、革新的な店舗運営システムや物流システム、さらにはデジタルコンテンツ販売の分野でもまだまだ伸びそう。新興国を中心とした「グローバルサウス」での市場拡大も期待できる。


🔼・独SAP
大企業向けのERP(基幹業務システム)を提供する会社。生成AI導入により、クラウドERP事業の力強い伸びが期待できる。

🔼・米セールスフォース
企業向けソフトウェアで世界2位。主力のCRM(顧客管理システム)にAIエージェントを搭載し、今後も堅調な成長が期待できる。

一方、こうした企業の将来性については懐疑的な見方もある。自称”テックオタク”の中島聡さんは週刊 Life is beautiful 4/15で「自然言語を理解できるAIの登場により、SAPやSalesforceのような従来型SaaSは時代遅れになる」と指摘している。

中島さんによれば、AIが入力・分析・資料作成・戦略立案に至るまでを担うことで、ソフトウェアのインターフェース自体は極めてシンプルになり、人間は「意思決定」に集中できるようになる。その結果、「人間による入力や分析」を前提に設計された従来のSaaSは、AI時代においては適応しにくくなるという。

こうした変化はすぐには起きないかもしれないが、10年後には現実となっている可能性が高い。今後、SaaS企業はスルーしたほうがよいのかもしれない。

・瑞Spotify
音楽配信市場はレッドオーシャンで差別化を図りづらそうに見えるが、実際に複数のサービスを試してみると、Spotifyは差別化ができているように感じた。音楽・音声配信の世界市場は巨大なので、成長余地は大きい。

Spotifyには、株価が120ドルくらいのときから注目していたが、いつの間にか700ドルを超えていた。ただまだまだ成長しそうなので、大きな押し目がきたら買ってもよいかもしれない。

・メルカドリブレ
ナスダックに上場している南米最大のEC企業。Amazon型のマーケットプレイスに加え、フィンテック事業も展開。南米は銀行口座やクレジットカードを保有していない利用者が多く、銀行口座やクレジットカードを持たない層向けに独自の決済サービスを提供している。ラテンアメリカ市場の出遅れ感から成長余地は大きい。ただし、カントリーリスクには注意が必要。・・この株もいつの間にか大きく上がってしまった。

・リクルート
子会社米Indeedの成長期待が高い。世界一の採用プラットフォームとしての地位を強化しており、近い将来、日本企業として最大の価値を持つ会社になる可能性がある。

・エムスリー
医療DXの潜在市場は大きい。将来的に海外売上高比率を50%以上に引き上げる計画。ただし、一部事業領域では競争が激化している。

5/2日経によると、今期の売上高は前年比26%増の見通しで、成長トレンドが復活しそうな雰囲気になってきた。少し調べてみると、2024年8月に本社で約100億円相当のストックオプションが発行されており、これは間違いなく株価が上がると思った。

しかし、今期の売上成長の半分を担うのが子会社のエランであり、エランを調べると、あまりよい印象的を受けなかったため、厳しそうだと思い始めた。また、コロナ禍で大躍進した米治験事業はその後の競争激化で減損に追いやられてるので、期待はかなりしぼんでしまった。

とはいえ、業態としてはメガトレンドに乗っているので、もう少し観察を続けたい。

・ダイキン
海外売上高比率が8割を超えているので、円安耐性がある。省エネ性能に優れ、環境負荷の少ない空調機器を展開しており、グローバル市場における競争力は高い。今後は、地球温暖化の進行による空調需要の増加に加え、新興国市場の拡大も期待でき、中長期の安定した成長が見込める。4/3日経6/20日経

欧州事業は足元で回復の兆しが見え始めている。6/19日経


🔼・ハーモニック・ドライブシステムズ
週刊 Life is beautiful5/6で、メルマガ読者からの質問として、「Deep Reserchに【ヒューマノイドの関節部の減速機の市場動向を調べてください】と依頼したところ、ハーモニック・ドライブ・システムズ社について、『世界市場で圧倒的なシェアを誇る。小型精密減速機市場ではほぼ100%に近いシェアを持つ。』と出ました。今後、ヒューマノイドのメタトレンドが来るとしたら、ハーモニック・ドライブ・システムズ社を推しても良いかなあと思っています」とあった。

さらに、3/30バロンズ・ダイジェストにも、「(ハーモニックは)ロボットのアクチュエーター用歯車減速機における世界リーダーだ。ヒト型ロボットが登場すれば、ハーモニックは中国企業以外で世界をリードする製品の提供企業となり、人型ロボットのサプライチェーンにおける重要な位置を占めるだろう」とある。

長期チャートでは、底値圏で大量の買いが入っている。
<20年チャート>

これはおもしろそうだと思ったが、6/3日経では、テスラのマスク社長がロボット市場について、「世界シェア首位はテスラで間違いないが、2位から10位までは中国勢が占めるようになるかもしれない」と語っており(笑)、首位はともかくとして、中国勢が市場を席巻しそうなのは確かなので、ハーモニックの存在感は低下していきそうだと思った。

・AREホールディングス
貴金属リサイクルの大手。貴金属の価格は高騰しているため、貴金属のリサイクルはメガトレンドになる。AREは全国に回収ルートを持つのが強みで、新工場稼働により業績の拡大が期待できる。インフレ耐性があり、配当が4%を超えるのもいい。

・中北製作所
5/15東スポで紹介されていた銘柄。記事には「造船業の復活を掲げるトランプ大統領が米企業への技術支援や船の建造を日米交渉でも呼びかけているとみられ、注目されている造船関連。中北製作所は自動調整弁の世界的メーカー。船の安定航行に不可欠で、弁と自動調整するシステムを両方作っているのは日本で唯一。PBRは一倍割れの0.48倍。PERも6倍台で割安で、狙い目」とある。

5/17日経では、日本郵船の会長が「中国が造船業を政府主導で強化し、世界シェアはすでに6~7割に達している。一方で日本の建造量シェアは10%強、新規受注ベースではわずか5%程度。このままでは日本で船が造れなくなる」と強い危機感を示し、「経済安全保障の観点から、日本も自前で造船できる体制を維持すべき」と語っている。また「トランプ米大統領は第2期政権に入り、中国に関連する船の入港規制を表明しており、それは日本の造船業にとって大きなチャンスになる」とも述べている。

5/29日経には「トランプ政権が造船業の復活を掲げ、同盟国である日本や韓国に建造を依頼する可能性が高い」とある。

マクロ的によさそうだと思ったが、様子見している間に株価がスルスルと上がってしまい、やや熱が冷めてしまった。その後、6/21日経に「国立造船所」の建設を政府が検討しているという記事が出ると、株価はさらに上昇してしまった。メガトレンドの観点からまだ買うのは遅くはないとは思うが、どうも興味がわかない。

・REIT(不動産投資信託)
現在、REITのバリュエーションは歴史的な低水準にあり、「REITの黄金期が始まる」との見方が増えている。今後の経済ショックで大きな投資チャンスが訪れる可能性がある。

エラン

 ■調べようと思った経緯
エムスリーの本決算記事(5/2日経)を見たのがきっかけ。エムスリーの今期の売上高は前年比26%増の見通しで、成長トレンドが復活しそうだと思った。SBI証券のサイトでエムスリー株を調べようとしたら、検索結果にエランとシーユーシーが一緒に出てきて、エランが去年エムスリーに買収されたことを思い出した。エランを見てみると、業績は悪くなく、買収巧者のエムスリーに取り込まれたにもかかわらず、株価はTOB価格を大きく下回っていた。これは狙い目かもしれないと思った。

なお、シーユーシーのほうもチラッと見たが、成長ストーリーや財務状態が芳しくなく、エムスリーが子会社をわざわざ上場させたのは資金調達(増資)が目的のように感じたので、スルーすることにした。


■どんな会社か
病院や介護施設向けに、入院レンタルサービス「CSセット(ケアサポートセット)」を提供する会社。この事業が全売上の97%を占める。全国に30拠点を展開し、国内全域でサービスを展開するほか、ベトナムやインドにも進出中。2024年9月に、エムスリーが株式の55%を取得し、同社の子会社となった。


■事業概要
「CSセット」とは、衣類、タオル類のレンタルと歯ブラシなどの日用品提供を組み合わせた定額制サービス。利用者はエランと直接契約を結び、入院、入所に必要な生活必需品を1日単位でレンタルできる。患者は手ぶらで入退院が可能となり、患者・家族や看護スタッフの負担軽減、病院の収益向上という三方よしを実現している。

このサービスは、全国の病院・介護施設2570カ所以上で導入されており、2024年12月期には契約施設数が前年比約10%増と、右肩上がりで成長している。ただし、病院向けリネンサプライ大手などが類似サービスに参入してきており、競争は激化しつつある。

また、エランはCSセットにさまざまなオプションを用意している。入院・介護費用保証が付帯した「CSセットR」や、患者由来の損害事故に備える「CSセットLC」などがその一例。さらに、快適性と高品質を追求したオリジナル患者衣ブランド「lifte(リフテ)」なども展開し、サービスの高付加価値化を進めている。


■業績動向
エランは18期連続で売上高の増収を達成しており、直近5年間も力強い成長をしている。

会計年度   売上高  営業利益  純利益
2019年12月期 215億円  15億円  9.8億円
2020年12月期 260億円  20億円  14.4億円
2021年12月期 316億円  28億円  19億円
2022年12月期 362億円  34億円  20.8億円
2023年12月期 412億円  36億円  25億円
2024年12月期 475億円  35億円  23.5億円

2025年12月期の予想業績は、売上高590億円(前年比+24%)、営業利益47億円(+32%)、純利益30.1億円(+31%)になる。

なお、2024年12月期に売上高が増加した一方で、営業利益は-2.4%とわずかに減少した。これは新患者衣「lifte」導入費用やM&A関連費用、TOBに伴う一時費用などの影響によるものであり、これらを除けば実質的には増益基調を維持している。

財務状態は極めて健全であり、今後はエムスリーグループの支援の下で、さらなる財務指標の改善が期待できる。


■成長ストーリー
基本シナリオ:国内深耕 × サービス拡張 × 海外展開 × エムスリーとの協働

エランは、「CSセット」を軸に中長期的な成長戦略を描いており、以下の5本柱での事業拡大を進めている。

1,国内市場の深耕
主力であるCSセット事業では、未契約の病院・介護施設への営業拡大を継続する。2024年にエムスリー傘下となったことで、同社が持つ約6000病院の顧客基盤へアクセス可能となり、クロスセルにより契約施設数の一段の拡大を狙っている。現在、エランの契約施設のうち50床以上の病院は1566施設であり、単純計算で約2.5倍の拡大余地がある。

2,サービスの高付加価値化
既存施設へのオプションサービス拡販や新サービス投入によるアップセル戦略も推進中。現在は、退院後や在宅療養を支援する「退院・在宅セット」の開発を進めており、入院前から退院後まで一貫して“生活の困りごと”をサポートできる体制を構築している。さらに、オンライン通販での介護用品販売など周辺領域にも進出し、患者・家族の生活全般を支える総合的なサービスを目指している。

3,海外展開の加速
2024年には、ベトナム最大手の病院向けランドリーサービス企業「GREEN社」、およびハノイ市シェア1位の「TMC社」を買収。これにより、東南アジアでの事業基盤を確保し、日本式の入院サポートモデル(CSセット)を現地展開する方針。エムスリーグループが世界17カ国で事業展開しているネットワークを活かし、今後はインドを含む他国への進出も視野に入れている。

4,エムスリーとのシナジー創出
エムスリーが展開する医療従事者向けプラットフォームや患者向けサービスとの連携も検討されている。例えば、CSセットに医療・生活情報を付加するデジタルサービスの開発や、入院時の啓発・案内機能など、デジタルヘルスとの融合が期待される。差別化プロダクトの試作版はすでに完成しており、近日中に実証トライアルを実施する予定。

5,IT内製化とコスト削減
エムスリーの支援によって、業務システムの内製化も進められている。過去のグループ企業では、売上倍増とともにシステムコストを50%以上削減した実績があり、エランでも同様のコスト効率化が見込まれている。加えて、グループの購買力を活かした間接コストの削減も期待される。

こうした取り組みの結果、2025年12月期には売上高590億円(前年比+24.2%)を計画しており、中期的にも2ケタ成長の持続を目指している。エランは単なる「入院セット企業」から、「総合ヘルスケアサポート企業」への進化を目指している。


■成長余地
エランの2024年12月時点での市場浸透率は、50床以上の病院で約20%、介護施設では3%未満と推定されており、国内市場だけでも大きな成長余地が残されている。

高齢化が進む中、政府推計では2040年頃まで医療・介護需要の増加が続く見込み。入院患者やその家族の「手ぶらで入退院したい」「ケアを簡素化したい」というニーズも高まっており、CSセットのようなサービスは今後も一定の需要を見込める。

さらに、エランが注力している退院後・在宅支援領域は、新たな市場フロンティアとなりうる分野。退院直後の生活準備や在宅介護への移行期には大きな負担がかかるため、「退院セット」のような支援サービスは、今後ニーズの顕在化とともに市場成長が期待される。

海外市場にも大きなポテンシャルがある。特に東南アジア諸国では、経済成長とともに医療インフラの整備が進みつつあり、日本型の患者支援モデル導入の下地がある。ベトナムを足がかりに、将来的にはCSセットの提供を通じた新市場の開拓が可能。インドなど人口の多い国では、富裕層・中間層をターゲットとした付加価値サービスのニーズも見込まれる。

総じて、国内の深耕・サービス拡張・海外展開という三位一体の成長戦略により、エランの成長余地は非常に大きいと評価できる。


■問題点・リスク
業界及び企業固有のリスク要因として、いくつかの問題点が挙げられる。

1. 競争激化
エランの成功を受け、病院向けリネンサプライ業者が類似の入院セット事業に参入している。リネン業者にとっては、既存の納品品目に追加する形でサービスを提供できるため、低コストでの展開が可能。病院側にとっても、リネン類の管理が一本化できるメリットがあるため、採用のハードルが低くなる。

入院セットは差別化が難しい商材であるため、価格競争力が成否に直結する可能性がある。

2. 市場の飽和
病院には100%リネン業者がついており、それらの業者が「入院セット」を提供するのは容易なため、全国の病院ほぼすべてに「入院セット」がすでに導入されている可能性が高い。例えば、リネン業界大手のワタキューセイモアは2023年8月時点で1818病院にサービスを提供しており、契約数ではすでにエランを上回っている(同社HP)。今後のエランの拡販は「未導入病院の新規獲得」ではなく「既導入先の他院からの切り替え」になりそう。

介護施設では導入率が3%以下と低水準だが、長期入所が前提のため、日用品レンタルの需要は相対的に少なく、導入促進が難しい。

競争激化と市場の飽和のためか、CSセット導入の勢いは鈍化している。1Qの純増数はわずか19で、前年同期の40から半減している。解約率は過去最高の4%に達しており、その約7割が他社サービスへの乗り換えになる。

3. 医療機関数の減少リスク
国内の少子化・人口減少により、病院数そのものが減っていく見込み。2024年の解約施設100件のうち、19件は閉院や統合が理由だった。こうした動きは今後さらに拡大する可能性が高く、裾野縮小リスクがある。

さらに、今後は医療技術の進化や予防医療の浸透により、入院患者数自体も減少していく可能性がある。

4,エムスリーの買収精度が落ちている
かつて「買収巧者」とされたエムスリーも、近年はM&A後の減損処理が目立ち、買収精度が低下している。エランはエムスリーにとって初の“生活支援型”ビジネスであり、業界特有のノウハウに乏しい。こうした分野でどこまで存在感を出せるかは未知数であり、場合によっては縮小・撤退もありえる。

5,規制リスク
患者負担の軽減や医療費適正化の観点から、行政による指導や規制変更が行われる可能性もある。たとえば、価格設定やレンタル品目の制限などが強化された場合、利幅の縮小や事業モデルの見直しを迫られる可能性がある。


■ビジネスモデルの強度 ★★☆

・参入障壁は高いか:低い(★)
入院セットは差別化が難しく、既存のリネン企業も容易に参入できるため、競争優位性の確保が難しい。

・ストック型ビジネスか:ストック型(★★★☆)
契約施設からの日次レンタル収益が継続的に発生するため、安定したストック収益構造を持つ。

・時流に乗っているか:乗っている(★★★★)
高齢化や医療・介護ニーズの高まりを背景に、時代の流れには合致している。

■チャート分析
・日足チャート(1年チャート)
底打ち後、200日移動平均線を上抜けており、短期的には上昇の勢いが見られる。

・週足チャート(5年チャート)
一方で、長期的には下降トレンドが続いており、売り圧力が強い状況。トレンド転換は難しそう。

■まとめ
主力のCSセット事業が頭打ちに見えるので、パス。ただエムスリーとのシナジーは気になるので、もう少し様子を見てみる。

南海トラフ地震時に何を買うか

 5/13の東スポに、「1999年に出版された漫画『私が見た未来』の表紙に「大災害は2011年3月」と記されたメモがある」「2021年に出版された『完全版』には「本当の大災難は25年7月にやってくる」とある」とあった。興味がわいたので、『完全版』を読んでみた。

漫画の結末は、巨大津波が襲ってくるシーンで終わっていたので、なかなかのインパクトがあった(笑)。普段はこの手の“予知もの”は信じないが、著者の予知夢の的中率は侮れないような気がした。

著者によれば、今年の7月5日に大災害が起こるという。予知夢の解説には、「その津波の高さは東日本大震災の3倍」「日本列島の太平洋側の3〜4分の1が津波に飲み込まれている」とあり(笑)、もし本当にそんなことが起これば、日本は壊滅的な被害を受けることになる。

現実的な見通しも気になる。今年1月、政府の地震調査委員会は、今後30年以内に南海トラフ巨大地震が発生する確率を「70~80%」から「80%程度」に引き上げた(1/16NHK)。近々、南海トラフ地震が起こる確率は高まっているように見える。

ただし、4/23日経には、「南海トラフ巨大地震はおおよそ100〜150年周期。前回は1940年代なので、順当にいけば次は2040〜2090年代になる」とある。もちろん周期がずれる可能性もあるが、今年の7月5日に地震が起こる確率は0.1%以下ではないかと思う。

とはいえ近い将来に起こる可能性は高いので、これを機に「もし本当に巨大地震が起きたら、どんな株式売買をすればよいか」について考えておくことにした。

■想定できるケースは3つ

ケース1:東証もしくは証券会社のサーバーが津波被害を受け、取引不能になる
この場合はもう静観するしかない。こうなることを想定して、早めに海外株を買っておいたほうがよいのかもしれない。

ケース2:自分自身が津波に巻き込まれて取引できなくなる
これは諦めるしかない。ただエンディングノートだけは用意しておいたほうがよさそう。5月31日の日経プラスワンには、本人永眠後に遺族がスマホのロック解除や各種アカウントの管理で苦労するケースが多いとあった(*大金をかけてもロック解除できないケースあり)。事前にネット証券・銀行・サブスクのアカウント情報やパスワードは一覧にしてまとめておいたほうがよさそう。

ケース3:自分も取引インフラも無事で、普通に売買できる
このケースなら、まずは保有株の会社の状態を確認して、問題がなければそのまま放置する。たとえ大幅下落しても売らない。ただし、イントラストのような保証商品を扱う会社は損失が巨額になる可能性が高いので、早めに売却する。

災害時は復興需要が期待されるため、建設、資材、インフラ関連株は上がりやすいようだが、そういった銘柄は短中期的なテーマ株にすぎないことが多く、長期放置には向かないので、基本的には手を出さない。

災害後は海外株を買うのがベストではないかと思っている。その理由は震災直後は円高に振れ、その後は長期で円安が進みそうだから。

為替の流れについて、以下に簡単にまとめてみた。

<円高要因>
・日本は世界2位の対外純資産国(6/27ロイター
日本の企業や個人は多くの外貨建て資産を保有しており、危機時にはそれらを売却して円に戻す動きが出やすくなる。

・国内保険会社による外貨資産の売却・円転リスク
生命保険会社や損保会社などは、米国債など外貨建て資産で運用しているケースが多い。大災害で保険金の支払いが急増した場合、手元資金を確保するために外貨資産を売却して円に換える動きが発生する。

・キャリートレード解消による円買い戻し圧力
キャリートレードとは、低金利の通貨(円など)で資金を借りて、高金利通貨に投資する取引。平時はリスクを取って利ザヤを稼ぐが、危機時には投資家がリスク資産から資金を引き揚げようとし、高金利通貨を売って、円を買い戻す動きが起こる。

・上記要因に対する投資家の思惑が強くなる。

<円安要因>
・財政悪化リスク
大規模災害が発生した場合、政府は復興のために巨額の財政支出を行わざるを得ない。しかし、日本ではすでにGDP比で世界最悪水準の政府債務を抱えており、これ以上の借金をしにくい。投資家が「この国は財政的にもたない」と判断すれば、日本国債や円(資産)は売られる。

・日本が甚大なダメージを受ける
災害によって会社や工場、インフラが破壊されれば、日本の生産能力や経済活動は大きく低下する。国内外の投資家が「日本経済は弱くなった。回復は困難」と判断すれば、円資産は売られる。1923年の関東大震災では、震災後に円が20%以上下落している。

・キャピタルフライト(資本逃避)
大災害により、今後、日本の政治・経済は不安定化すると国内の富裕層や機関投資家が判断すれば、資産を海外に移す動き(キャピタルフライト)が起きる。

・貿易赤字が拡大する
震災後、原発停止などで原油やLNGなどの輸入が増えれば、貿易赤字が拡大し、円安圧力が高まる。東日本大震災以降、日本の貿易収支は慢性的に赤字になり、その後円安圧力は増している。

以上を総合すると、災害直後は<円高要因>の影響が強く出て、その後は<円安要因>の影響が強く出るのではないかと思う。

マクロ系金融指標

 市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:3.0%~4.5%の間で推移

米長期金利に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・経済成長率+インフレ率→
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2025年の予想米GDP成長率は1.4~2.7%、2026年は1.5~2.1%、2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%になる。

・金融政策↓
FRBはインフレが落ち着いてきたとして利下げを開始した。2025年は0.5%利下げをし、2027年に政策金利を3%程度にする予定。

2022年6月から量的引き締めを開始したが足元ではその規模を縮小している。6/18日経

*政策金利が中立金利(3.5~4.0%)を超えると、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。現在の政策金利は4.25~4.5%になる。

・財政悪化による国債増発↑
米政府の財政はコロナ禍以降、大きく悪化しており、今後も悪化を続ける可能性が高い(5/19日経5/31日経)。金利が高止まりした状態では公的債務の利払い費も増加し、財政はさらに悪化しやすくなる。

ただし財務長官のベッセント氏は財政再建に力を入れているので(5/29日経)、財政悪化速度は穏やかになる可能性がある。

・金余り、資金需要の低下↓
金余りで運用難に陥っている米国の金融機関や保険会社、年金、企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。

第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。

少子高齢化の影響で借り入れ需要も減っている。

・米国債の人気→
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利よりも高いので、海外勢から買われやすい。

ただし、米国債保有世界2位の中国は、米国との対立や人民元安阻止のために米国債を淡々と売却している。米国と緊張関係にあるロシアなども米国債を売却している。

・米企業の社債発行増↑
米企業の社債発行が急増している。米国債よりも投資妙味の大きい高格付け社債の発行増加により、米国債の需要が減少している。

・リスクオン・リスクオフ→
”トランプ政策”などの影響で、ややリスクオフ気味だったが、足元ではややリスクオン気味。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

・チャート→
<10年チャート> 横ばいトレンド。しばらく4%あたりのボックス圏で推移しそう。



■WTI原油
今後1年の予想レンジ:40ドル~85ドルの間で推移

原油価格に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・需要→
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2025年の予想世界GDP成長率は2.3~3.3%、2026年は3.0~3.3%になる。ただし、世界2位の原油需要国・中国の原油需要は、再生可能エネルギーの拡大などでピークアウトした可能性がある。

長期では、再生可能エネルギーの増加や技術革新、学校・職場のリモート化などにより石油需要が減少していく可能性がある。仏トタルや英BP、国際エネルギー機関(IEA)は2030年頃に石油需要がピークアウトすると予想している。

一方、世界人口増やAIの電力消費、再生エネルギー開発の滞りなどにより、石油需要が増えるという見方もある。米エネルギー情報局(EIA)は2050年の石油需要が2020年比で4割増になると予想している。英シェブロンは2023年から45年にかけて石油需要は約15%増加すると予想している。

・供給↓
OPECプラスは原油価格を維持するために減産に動いていたが、足元では減産幅を縮小している。米国やカナダ、ブラジル、ガイアナなどは生産を増やしている。

・AIによるコスト削減↓
AIの活用により生産効率が高まっている。米ゴールドマンサックスは中長期の生産コストが1バレルあたり5ドル下がると予想している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
中東では石油施設へのテロ攻撃が度々起きており、供給網の混乱などにより今後供給が減る可能性がある。米ゴールドマンサックスは「ホルムズ海峡で石油の流れが遮断された場合、原油価格は1カ月で20%上昇する」と予想している。

6月にはイスラエルや米国がイランの核施設へ空爆し、一時緊張が高まったが、現在は停戦状態になっている。

*石油(エネルギー)は人間にとって食料と同じ生活必需品のため、わずかでも不足が生じると価格が跳ね上がりやすい。

・産油国、産油企業、再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジアラビアで財政均衡に必要な原油価格の水準は1バレル85ドル、ロシアでは80ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は75ドル、米産油企業の採算ラインは40~80ドル、再生可能エネルギーは30~80ドルになる。原油価格はこの範囲内に収まりやすい。

・リスクオン、オフ→
*原油は株式と同じリスク資産なので、リスクオフ時には売られやすい。

・インフレ対策→
原油などの商品はインフレヘッジ手段になる。足元でインフレは落ち着きつつある。

・為替↑
原油はドル建てのため、ドル高になると割高感が出て、原油価格に下押し圧力がかかる。足元ではややドル安基調。

・チャート→
<10年チャート> 下落タイプの三角持ち合い(上値は切り下がり、下値は横ばいの三角持ち合い)を形成。下抜け始めたので、40ドルくらいまで落ちそう。



■ドル円
今後1年の予想レンジ:130円~165円の間で推移

為替に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・日米金利差↓(↑は円安方向、↓は円高方向)
<短期金利>
日米の短期金利差は現在約4%ある。日本は利上げ傾向、米国は利下げ傾向にあるため、今後金利差はさらに縮まっていく可能性が高い。ただし、日本は国内需要が停滞しているため金利を上げづらく、米国は景気が比較的堅調なため利下げは穏やかなペースになりそうなため、金利差縮小のペースも穏やかになりそう。

これまで金利差拡大によりキャリー取引が増えていたが、日米の金融政策の転換により、徐々に減少している。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。短期金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。
*世界で金利が最も低い水準にある日本の円は、キャリー取引の調達通貨として選ばれやすい。ただ現在は円の代わりにスイスフランが調達金利として選ばれ始めている。キャリー取引のスイスフラン・シフトが進めば、円への売り圧力は和らぐ。
*市場が荒れ始めると金利収入以上の為替差損を抱えるリスクが増すので、手仕舞われやすくなる。

*世界的な金融危機、もしくは経済ショックが起きた場合、米国は急激な利下げをし、日本は利下げ余地がほとんどないため、日米の金利差は急速に縮まる可能性が高い。仮に現在4%ある金利差が0%まで縮まった場合、急激な円高が起こりやすくなる。4/17日経

<長期金利>
現在、米長期金利と日本の長期金利の差は3%くらいある。今後長期金利差も縮まっていきそうだが、そのペースは短期金利と同様、穏やかなものになりそう。

*2月に日本の長期金利と中国の長期金利がほぼ同じになった。今後中国金利が日本金利を下回るようになれば、世界のマネーフローが変化し、日本の国債が買われる可能性がある。
*日本の機関投資家は海外債券を売って国内債券を買い始めている。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているため、高い運用利回りが見込める海外債券や株式などを買っている。個人投資家は成長力の高い海外株を買っている。ここ数年は両者合わせて年10~20兆円の買い越しが続いている。

*キャピタルフライト
日本は財政問題や経済低迷、インフレなどの問題を抱えているため、日本人は円資産を海外資産に移し始めている。国内の家計の預貯金は約1100兆円あり、その1%(11兆円)でも海外に向かえば円相場へのインパクトは大きくなる。2024年に始まった新NISAでキャピタルフライトが加速しつつある。

・米国の信頼低下↓
トランプ政権の関税政策などにより、米国への不信感が強まり、世界の投資家は一定程度の米国資産を欧州などにシフトし始めている。世界の投資家によるドル資産離れは、今後も徐々に進んでいく可能性が高い。5/9ロイター6/25日経

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業は海外での直接投資を増やしている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。

対して、海外企業の対日直接投資額は1兆円程度になる。

・日本の貿易収支→
円安や資源高、生産の海外移転、産業競争力の低下などにより、貿易収支は悪化傾向にある。(貿易収支を含む)経常収支は年20兆円程度の黒字ではあるが、そのうち半分くらいは海外での再投資や内部留保などにあてられるので、稼いだ外貨の半分くらいしか円転されない。
*2024年の経常収支は29兆円の黒字。

*訪日客の増加で2024年度のサービス収支の旅行収支は6.6兆円程度の黒字になっており、海外のクラウドサービスなどへの出費の増加に伴う「デジタル赤字」(6.9兆円)を帳消しにする規模にまで拡大している。ただし、この先も同じペースで旅行収支の黒字が拡大するか不透明な面はある。5/13日経

*足元で進む原油安も貿易黒字に寄与する。

・米国の貿易収支↓
米国の貿易赤字は拡大の一途をたどっており、2024年は貿易赤字は過去最大の185兆円になる。

・日銀の財務状態の悪化↑
日本の長期金利が1%まで上昇した場合、日銀は債務超過に陥る。日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、債務超過になっても日銀は自ら通貨を発行できるため資金繰りに行き詰まることはないが、円に対する信用は落ちる。現在、日本の長期金利は1.4%まで上昇しており、今後さらに上昇する可能性がある。

*日銀は、長期金利が1%に上昇した場合、日銀が保有する国債に28兆円の含み損が生じ、5%に上昇した場合は108兆円の含み損が生じると試算している。

*米ゴールドマン・サックスは「2027年に政策金利が1.25~1.5%に到達するまで利上げサイクルが長期間続き、長期金利が26年末に2%に達する」と予想している。
*日銀は民間金融機関が日銀に預けている当座預金への利息を支払っている。利上げが進めば利息負担がかさみ、その負担が日銀が保有する債券の収益を上回ると、赤字に転じる可能性がある。ある試算によると政策金利が0.6%まで引き上げられると経常赤字に転じる。2.8%まで上がれば債務超過に陥る可能性がある。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっており、2030年頃には臨界点に達し円の暴落が起きる可能性がある。日本は自然災害が多く、突然の大地震が起こったときに多額の国債発行が必要になるので、大規模な自然災害が起きれば臨界点が早まる可能性もある。米国政府の債務も返済不可能な水準まで積み上がっているが経済が強く、ドルは基軸通貨なのでドルの暴落は起きにくい。

・リスクオン、オフ→

・海外投資家の国内証券投資↓
円調達時の上乗せ金利(ベーシススワップ)は低く、日本国債の金利は比較的安定しているため、ここ数年、海外投資家は日本国債を年10兆円程度のペースで買い越している。

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は円を大きく買い越している。円高が進むとみている。
*ドルを売り持ちした場合はスワップポイント(金利差分)を支払わなければならないので、ドル売りが長く続くことは少ない。
*スワップポイントはドル買い時よりもドル売り時の方が高く設定される傾向がある。例えば、日米短期金利差が約3%あった2022年9月にドルを1万ドル買った場合、1日の金利差収入は92円くらいになるが、ドル売った場合は金利差損失が1日159円くらいになる。

・個人投資家の売買動向 ー
日本の個人投資家によるFX取引が為替市場の約2割を占めており、相場を動かす原動力になりつつある。ただ足元の売買動向は不明。

・ドル需給↑
FRBがドルを大量供給しているのでドルはだぶつき気味だったが、米長期金利の上昇や、ロシアやアルゼンチンの通貨不安、中国経済の先行き懸念などにより、ドルの需要が高まっている。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はロシアやイラン、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、今回のロシアへの制裁(ロシア中銀が保有するドル資産凍結)をきっかけに、ドル離れが加速する可能性がある。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

インフレ率は日本より米国の方が慢性的に高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

現在の購買力平価(消費者物価)は108円になる。為替相場は長期的にはこの値に収斂していくとされるが、近年では投機取引の拡大や資本の自由化などから購買力平価の影響力は弱まっている。

*購買力平価仮説が成り立つ前提は、貿易における実需取引が為替レートを決める主因であるというもの。日本の製造業は海外に拠点を移し、輸出が増えなくなっているため、購買力平価と市場レートは開きやすくなっている。また現実の為替市場では金融取引が圧倒的なボリュームを占めているため、貿易の実需取引の影響は小さくなっている。

*購買力平価とは、世界のどこでも同じモノは同じ価格という条件が成り立つ為替レートを意味する。米国で1ドルの商品が日本で150円なら購買力平価は1ドル=150円とする考え方。現在の購買力平価(消費者物価)は108円で、実勢為替レートは1ドル150円なので、この基準で照らせば、円は将来上昇すると考えられる。ただし、貿易可能な「財」とそれ以外の「サービス」に分けて購買力平価を算出すると、財の購買力平価は1ドル155円で、サービスの購買力平価は1ドル87円になる。財の購買力平価と円の実勢レートはほぼ一致している。これは国内の生産拠点が減り、安くものを作ることが難しくなったため。

・為替介入→
政府が保有する外貨準備は日本の外国為替取引額の3営業日分くらいしかないのでたいした影響はない。

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいであり、日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落する。しかし現時点でそこまで下がる可能性は低い。

・<10年チャート> これまで米長期金利と似たようなチャートだったが、足元ではそれが乖離し始めている。これは円高が進む前兆とも言われている。5/23トウシル



■日経平均
今後1年の予想レンジ:30000~43000円で推移

日経平均に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・金融政策↑
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している。2025年は世界的に金融緩和の年になりそうなので、中銀の総資産は増加しそう。

・金利→
金利が上がると、株式から債券へ資金が流れやすくなる。大多数の国の金利はピークアウトしている。ただし日本は例外で穏やかな上昇基調にある。

・為替→
円安が進むと海外勢から見た日本株は割安感が出る。現在は若干円高傾向にある。
*ドル高・円安が1%進むと東証株価指数(TOPIX)は0.5%上昇するという試算もある。

・需給→
主な投資主体の売買動向
2025年も事業法人の自社株買いが旺盛で、1~5月は過去最高で12兆円に達している(6/11日経)。海外投資家も足元では買い越しが続いているもよう(6/19日経6/28日経)。個人や金融機関の売買動向は不明。

・EPS(1株利益)↓
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益) × PER(期待度・人気度)で決まる。2025年の予想EPSは-7~5%くらいになる。
ーーーーー
EPSに影響を与える外部要因を見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響を大きく受ける。今はやや円高傾向なので利益が下振れやすくなる。

・海外景気→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。足元の世界景気はまだら模様。

・自社株買い↑
自己株式はEPSを計算する際に分母の株式数から除かれるため、自社株買いにはEPSを押し上げる効果がある。日本企業は自社株買いに積極的で、2025年の自社株の取得実績は12兆超になる。
日経には「自社株買いをしても、その分株数も減り、時価総額も同じ割合で減るので理論的には自社株買いをしても株価は不変」とあるが、自社株買いにより需給が改善したり、ROEが上がったり、企業の「自社株は安い」というアナウンスメント効果があったりするので、株価は上がりやすくなる。
*日本では2019年から大規模な自社株買いにより、株数が減少する時代に突入している。需給が引き締まって株価が上昇しやすくなる。5/10日経

・失業率↓
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益を圧迫する。労働量力不足で成長が頭打ちになりやすい。現在の失業率は最低水準にある。

・減価償却費や資源価格↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばい傾向で、資源価格は円安により上昇傾向にある。

・金融政策→
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境は悪化する。日本では金利が上昇基調にあるが、そのペースは非常に穏やか。
ーーーーー

・PER(期待度、リスク選好度)↓
日経平均の過去のPERは11~17倍くらいで、現在のPERは16倍とやや高い位置にいる。今期のEPSは-7~5%なので、現在の株価水準はやや高い水準になる。

・PBR(株価純資産倍率)→
PBRの分母になる純資産は比較的変動しにくく、下値を探る物差しとして使いやすい。日経平均のPBRの下値目処は1.15倍とされる(4/9日経4/12日経)。現在のPBRは1.45倍になる。

・リスクオン、リスクオフ→

・株式利回り↑
東証プライムの益回りは約6.38%、配当利回りは約2.63%と、日本の10年国債の利回り1.42%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・中国株からのシフト↑
中国の景気停滞リスクや地政学リスクから、中国投資離れが拡大している。その代替投資先の1つとして日本株が選ばれている。

投機筋の持ち高
買い残は約1.7兆円で、売り残は約1800億となっている。投機筋は日本株が上がるとみている。

買い残高が多いと株価は中期的に上がりにくくなり、少ないと上がりやすくなる(3/22ヴェリタス)。現在の裁定取引残高は売りが5600万枚で、買いが7億3600万枚と買いが多い状態。

・個人投資家の流入↑
日本の家計が抱える預金・現金は約1100兆円あり、コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。2024年に始まった新NISAで2024年上半期に約3兆円が日本の個別株に流入している。

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えると株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。

・チャート↑
<10年チャート> 出来高を増やして新高値を突破しているので基調は強い。ただし、40000万円あたりに天井がある。


■東証グロース250指数
今後1年の予想レンジ:600~900の間で推移

東証グロース指数に影響を与える要因を、影響の大きい順に見ていく。

・金融政策↑
東証グロース指数は米金利の影響を強く受けるので、米国の利上げ時は真っ先に売られやすい。現在は利下げ基調なので、買われやすくなっている。

*小型グロース企業には赤字で借り入れ依存度が高いところが多い。金利上昇時には借金の金利負担が重くなり財務状態が悪化する。また成長資金を調達しにくくなる。
*金利上昇時は将来の成長期対で買われている小型グロース株はバリュエーションが低下しやすくなる(詳細は後述)。
*金利が上昇すると国内需要が弱含み、国内事業が中心の小型グロース企業は業績が伸び悩みやすくなる。
*米金利が上昇すると、円安が進み、円安の恩恵を受ける国内の大型株が選好されやすくなる。

・需給↑
グロース市場は日銀の買い支えがなく、自社株買いもあまり期待できないため、相場下落時は下げ止まりにくい。ただ海外投資家は売り尽くした感があるので、売り圧力はそれほど強くなさそう。個人投資家の含み損は減少傾向にあるので、そろそろ個人が動き出してもよさそう。
*東証グロース市場の海外投資家の売買シェアは約4割になる。

・EPS(1株利益)成長率 ー
不明。

<グロース市場の反転シグナル>
信用評価損益率の急激な悪化は一つの反転シグナルになる。信用評価損益率が急激に悪化して、追い証回避の投げ売りが殺到すると、信用取引での買い持ちが急減して需給が軽くなる。過去の例では、そのタイミングで海外投資家が買いに転じるパターンが多い。

2007~2009年の金融危機では、2007年12月に信用評価損益率が-30%を超え、そこから約1年5ヶ月にわたってマイナス幅が30を超えている。この間にマザーズ指数は900台から300近くまで落ちている。当時も今も金融引き締めなど、似たような状況であり、このような前例を踏まえると、2年の停滞が続いた東証グロース指数は今後反発する可能性がある。・・現在、反発局面に入っている。

<グロース250の10年チャート> 底打ちしたが、目先分厚い雲があり、850あたりが天井になりそう。

市場環境

 株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2025年の予想EPS成長率は-5~10%。
・米国株式の2025年の予想EPS成長率は-4~15%、2026年は7~13.4%。
・中国株式の2025年の予想EPS成長率は-10~10%。
・欧州株式の2025年の予想EPS成長率は-10~5%。
・日本株式の2025年の予想EPS成長率は-7~5%。


■経済成長率
・世界の2025年の予想GDP成長率は2.3~3.3%、2026年は3.0~3.3%。
・米国の2025年の予想GDP成長率は1.4~2.7%、2026年は1.5~2.1%。
・中国の2025年の予想GDP成長率は4.0~4.8%、2026年は4.0~4.5%。
・ユーロ圏の2025年の予想GDP成長率は0.7~1.7%、2026年は1.2~1.4%。
・日本の2025年の予想GDP成長率は0.6~1.1%、2026年は0.4~0.8%。
・インドの2025年の予想GDP成長率は6.5%、2026年も6.5%。
*数値はIMFとOECDと世界銀行の予想。4/23日経6/4日経6/11日経6/11ロイターなど

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。

*GDPの算出でデータが生み出す価値を捉える取り組みが始まる。現在は、デジタルを使ったサービスや取引が広がっているにもかかわらず、データが生み出す価値を十分に補足できていない。今後はデータやデータベースの整備が設備投資として計上される。新基準を導入すれば日本の名目GDPは1~2%押し上げられるという試算がある。


■インフレ
・米国の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・欧州の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・日本の2025年の予想インフレ率は1.5~2.5%。
*ブレーク・イーブン・インフレ率とは市場参加者のインフレ予想を反映する代表的な指標。通常の国債と物価連動国債の利回り差から算出する。ブレーク・イーブン・インフレ率は実質金利を算出するときなどに使われる。


今後のインフレ動向を、インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて考えていく。

<インフレ要因>
・人手不足で賃金が上昇している。米国においては求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされる。4月の求人件数は739万件とまだ少し多い。6/4ロイター

*米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは2024年5月に米国の求人件数について「ここから18カ月、あるいは24カ月程度減少を続けた後で底を打つ可能性が高い」(出木場久征社長)と言っており、2025年2月の決算時でも荒井執行役員が「少なくとも当期はこれまでの見方から変わらない」と言っている。5月9日の決算説明では、出木場CEOが「米国市場では3~4月に中小企業の求人意欲が減退している。今期は米国の求人需要がさらに10%減る想定」「27年3月期か28年3月期に求人需要が高まるサイクルが必ず来る」と言っている。5/10日経

*米国ではフルタイム労働者が減少しており、パートタイム労働者が増加している。過去のケースではこのようにフルタイムが減り、パートタイムが増えた場合は、時間をおいて、雇用者全体の伸びが急減速している。

*米国では移民が急増しており、企業の求人を埋めている。移民は「弱い雇用」と呼ばれるパートタイムの割合が高いとされる。このようなケースでは、雇用が増えても賃金はあまり上がらない。ただし、大量の移民は家賃の上昇圧力にはなる。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・財政拡張が物価を押し上げている。米国では積極財政が生んだ累積的な「財政ショック」が2023年の米インフレ率を0.5%押し上げたと推計されている。財政要因は直近の数四半期でも0.6~0.7%の押し上げ寄与があると推計されている。
*政府債務の増加が通貨の価値低下につながっている。

・トランプ大統領の関税引き上げ政策もインフレ圧力になる可能性がある。米国の平均関税率が10%上昇すると、米国のインフレ率は25年に0.6%、26年に0.2%上昇するといった試算もある。5/1日経
*関税は消費税と同じで、消費者の購買意欲を削ぐ面もある。景気抑制的な政策なので、インフレ効果はないとの見方もある。

・ウクライナや中東地域の戦争によってエネルギーコストが上昇しているが、足元では落ち着きつつある。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ戦争などにより、食料価格が上昇傾向にある。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。

・米欧でインフレやAIへの不安などからストライキが頻発している。

・株高による資産効果で消費が落ちにくくなっている。

・通貨の減価が続いている。対ゴールドでみたドルの評価は1971年のニクソンショックから下がり続け50年あまりで100分の1に落ち込んでいる。ドルの供給量が膨らんだほか、基軸通貨に対する信頼が低下したことが根底にある。企業や家計が持つ現金など、すぐに使えるマネーを示す通貨供給量「M1」は同期間に80倍超に膨らんでいる。4/27日経


<デフレ要因>
・世界各国の金利は平時と比べまだ高い水準にある。金利高は需要を減らす効果がある。

・経済のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば、検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、1億曲超をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産コスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がゼロに近いので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報や人やモノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・AIやロボットを活用した産業の「自動化」により、生産コストが低下している。

・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。

・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。

・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。

・人手不足で成長力が低下している。

・米国やOPECの原油増産により、エネルギー価格が下がり始めている。


以上をまとめると、インフレは落ち着きつつあるが、人手不足や保護主義、環境規制、紛争、財政ショックなど影響で、以前のような超低インフレに戻る可能性は低い。米国のインフレ率は2025年に2.4%くらいになり、その後は2~3%で推移しそう。

日本においては、国力の低下から円安は止まりそうになく、円安の影響で2%程度のインフレが持続する可能性が高い。インフレが高進した場合はキャピタルフライトが加速し、さらに円安・インフレが進む可能性もある。とはいえ、日本は少子高齢化社会なので、需要の基調は弱い。インフレが進むとしても比較的穏やかなものになりそう。

超長期で考えると、世界ではエネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命が進み、超デフレ(無料社会)になる可能性がある。


■金利
・米国の政策金利は4.25%で、3ヶ月金利は4.31%、2年金利は3.79%、10年金利は4.29%、30年金利は4.82%になる。
・日本の政策金利は0.50%、2年金利は0.71%、10年金利は1.41%、30年金利は2.89%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。

*現在の債券は魅力的な水準まで利回りが高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが3.79%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし長短金利が逆転すると逆ザヤになるので融資が減る。その結果、企業の投資も減り景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。過去の例では、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起きている。今回米中銀は2023年9月頃から利上げを停止している。

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は4の状態。


■債務
・世界の債務はコロナ禍で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している。ただし、コロナ禍の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク(ノンバンク)」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドル(3京6000兆円)と07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。ノンバンクは信用力の低い企業へ融資することが多く、今後も融資は拡大していく見通し。ノンバンクによる企業向け融資(プライベートクレジット)は金融規制の対象外にあるためデフォルトリスクを把握しづらい。金利が高止まりし景気後退に陥ればデフォルト率が7%くらいまで上昇する可能性がある。

*プライベートクレジット事業者は2008年の金融危機後に設立されたところが多いため、デフォルトの影響は未知な部分が多い。
*銀行は預金者のお金を貸し出しているため、その資本は損失に備えて厳しい監視下に置かれている。一方、プライベート資産を運用するプライベート・デッド・ファンド(以下PD)は機関投資家から調達した資本そのものを貸し出しているので、規制は銀行に比べて緩い。銀行が破綻すれば預金者は保護されるが、PDが破綻しても機関投資家は保護されない。

*膨張するプライベートクレジットが将来の金融危機の火種になりかねないと、米証券取引委員会(SEC)など米国の金融当局者や著名エコノミストが警鐘を鳴らしている。2008年の金融危機以降に強化された銀行資本規制により、銀行発の金融危機再来のリスクは相対的に低下しており、システム全体にショックを波及させる潜在的な感染源はノンバンク融資にあるという。6/4日経

*米国の金利の高止まりは、ノンバンク業界を直撃する。ノンバンクは通常、リスクの高い借り手に高い金利で貸し付ける。金利高止まりの影響で借り手の返済能力は落ち不良債権が増えている一方で、貸し手の資金調達コストは上がっている。ノンバンクでは時価会計を行っていない運用会社が多いため、問題があっても資金繰りが苦しくなるまでそれが表面化しないことが多い。商業用不動産市場では価格が半分になったものも珍しくない。高金利の下で経済に内在する不安定要素は増している。

・プライベートエクイティ(未公開株)ファンドでは投資回収が難しくなっている。PEファンドが抱える未売却企業は約2万8000社、3兆2000億ドル(約500兆円)相当に及ぶ。

・米金融市場では商業用不動産が大きな”爆弾”になっている。商業用不動産の10年間の価格上昇率は日本が20%なのに対し、米国は50%になっている。米国の商業用不動産向け貸出額は2010年から2023年まで約2倍に膨らんでいる(日本は同期間に3割増)。一方で、リモートワークの浸透や金融引き締めによるオフィス需要の低下によりオフィスの空室率は20%に迫っている。金利上昇により商業用不動産向けの融資基準は厳格になるなか、2024年に80兆円規模の償還期限が到来する。そこで借り換えができない場合、物件は市場で売却されるため、市場価格の調整圧力はかなり大きくなる。米欧ではGDPに占める商業用不動産の割合が1~2割に高まっているため、不動産バブルが崩壊すれば米経済は大きく下押しされる。米不動産ファンドは世界中に分散投資しているため、ファンドのリバランスで世界中の商用不動産に売りの連鎖が波及する恐れがある。
*2024年はそつなく借り換えが進んだもよう。次の山場は2026年以降になる。

足元で米商業用不動産を取り巻く環境はじわじわと悪化している。商業用不動産の中でもとりわけ深刻なのはオフィスビル。23年後半から融資のリスクが急激に顕在化し、30日以上返済延滞している案件の割合は過去10年で最悪となっている。商業用物件の取引数は、過去最低レベルで低空飛行中であり、今年後半以降に増加するローンの満期に耐えられるかどうか懸念されている。ただ、商業用不動産の貸し手は比較的小規模な銀行が多く、銀行の健全性は以前より格段に高まっているため、デフォルト率がある程度高まっても、銀行システム全体の危機に発展する可能性は低い。

住宅用不動産も”爆弾”になりつつある。金利の上昇に加え、保険料など維持費も上昇しており、空室率は高止まりしている。マンション向け融資残高は23年末に約2兆2000億ドル(約345兆円)と、焦げ付きが顕在化しつつある商業用不動産向け融資の6割に達している。マンション向け融資の延滞率は2024年1月に0.44%となり、リーマン危機の水準を上回り過去最高を更新している。リーマン危機の際には、延滞がピークに達してから貸し手の損失がピークに達するまでに約2年を要している。24年と25年には5000億ドル(71兆円)の融資が返済期限を迎える。借り換えに失敗すれば割安な価格で不動産を手放さざるを得ず、価格下落に拍車がかかる恐れがある。

・米政府の公的債務のGDP比率は07年の35%から22年には97%まで高まっており、53年には181%まで上昇する見込み。

・日本の超長期債の金利上昇が止まらない。財政膨張に歯止めがかからなくなるとの懸念があるため。英国のようにちょっとしたショックで金利上昇が加速し金融市場が混乱する可能性もある。5/21日経

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。
・22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。

・中国は前例のない投資主導経済を20年にわたって続けている。過去40年間に消費のGDP比は53%から38%へ低下し、消費が投資を下回り続けている。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造になる。多くの資産が健全資産とはいえず、不良資産が積み上がっている。
*一方、米国では労働者に購買力を与え、生活水準を向上させることで需要を創造してきた。過去40年間に米国の消費のGDP比は60%から68%に上昇している。

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。

・新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。


<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより起こる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元で一部中銀はインフレ対策として資産の売却を進めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、”中銀バブル”が完全崩壊する可能性は低い。


■金融政策、財政政策
・世界の大部分の中央銀行は金融緩和に転じている。

*景気後退を予防する目的の利下げや、インフレが落ち着いた後に行う利下げでは株高が発生し、景気後退を伴う利下げでは株安が発生しやすくなる。

・日本の中央銀行は世界の大多数の中央銀行とは対照的にインフレ対策として金融引き締めをしている。ただし、国内需要は弱く、世界中の中銀は金融緩和に動いているので、金融引き締めは非常に穏やか。日銀のバランスシート膨張や政府債務の拡大も金融引き締めをしにくくしている。

・無借金経営企業が増え、家計の金融資産も増えているため、利上げの効果は一昔前とは変質している。金利が上がっても企業の利払いは昔ほど増えず、一方で家計の利子所得は増える。場合によっては、利上げがむしろ景気刺激的に働くこともある。民間の資産が大きいということは、それと表裏をなす政府の債務が大きいということになる。金利が上昇すれば政府の利払いが増え、その分だけ財政赤字は拡大するが、一方で、政府から民間にお金が渡ればその分だけ人びとの所得は増える。利上げにはこのような景気や物価を刺激する側面もある。それでも利上げの波及経路には為替や株価などもあるため、全体として利上げは物価抑制効果を持つと考えられている。しかし、政府債務が巨額になった分、今は昔よりずっと総需要押し上げ効果は大きいと考えられる。米国では0%から5%超まで利上げをしても経済はさほど減速していないが、その一因は政府の利払いにあった可能性がある。日本の政府債務はGDP比で米国の倍近くあるので、日銀が利上げを進めたとき、十分な物価抑制効果が得られない可能性がある。利上げの効きが悪ければさらに利上げをしなければならないという悪循環のリスクがある。巨額の政府債務が当たり前となった現代において、利上げがインフレ抑制に効かなくなりつつある。4/18日経

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金ができる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建を重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定しているが、財政収支は悪化の一途なので、長期の見通しは悪い。
・海外の政治は不安定。ただウクライナや中東地域の紛争は次第に落ち着きつつある。
・米国では資本主義と自己責任社会の帰結として、格差拡大が続いており、民主主義が機能不全に陥りつつある。トランプ氏の二度目の大統領当選はその象徴ともいえ、今後社会的混乱はさらに悪化しそう。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
・米国は典型的な衰退期に入ったという見方もある。マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は、国家のサイクルは「新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ」「平和と繁栄を迎え支出と債務が過剰になるステージ」「財政状況が悪化し内戦、革命に向かうステージ」の3つのステージに分けられ、現在の米国は衰退期に属する3つ目のステージに入ったと言っている。

・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。国外からの投資も、各種規制やスパイ法などの影響で著しく減っている。この調子でいくと中長期でも経済成長が減速していく可能性が高い。中国共産党が一党支配を最優先する限り、この傾向は続き、最終的に中国はロシアのような国になる可能性がある。
*23年の海外勢の対中直接投資額は21年の51兆円の1割程度まで落ち込んでいる。
*中国共産党の一党体制はますます強化されている。

・中国経済がかつての日本のようなデフレに陥りつつあるという見方が強まっている。日本は1990年代から不良債権、雇用、設備の3つの過剰に悩まされた。中国も今同じ3つの過剰に悩まされている。当時の日本は欧米市場へのアクセスが確保され、海外に活路を求められた。しかし今の中国は米国と対立し、欧州でも中国製EVを締め出す動きが広がっている。米欧の半導体輸出規制により先端半導体の調達にも支障をきたしており、技術的にも追い詰められつつある。
・レイ・ダリオ氏は「中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。バブルが崩壊し、試練が続くだろう」と言っている。

・EUは域内で財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ戦争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は93とまあまあ堅調な水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
*米GDPの約7割は個人消費が占める。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で48.5と中立よりやや低い水準。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は49.9とほぼ中立な水準。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは49。好不況の分かれ目である50を2年以上下回っている。ただ足元では復調気味。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは49.5とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格は高値圏にある。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)は底打ちしてまた盛り返してきている。
米国の失業率は低位で推移しており現在4.2%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥りやすくなる。5月の失業率は前年同月を0.2%上回っている。
*米国では直近3ヶ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退に陥りやすくなる。現在は0.2ポイント上回っている。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは底打ちして持ち直しつつある。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。つい最近まで3つ起きていた。現在は2つ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい。現在は「中立」の水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は-8%とほぼ「中立」の水準。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすい。現在は57で「GREED(やや貪欲)」の水準。

・米機関投資家の株式持ち高比率を示すNAAIM Exposure Indexも先行指標になる。この値が80を超えると過度の楽観、20を下回ると過度の悲観になる。現在は94と過度の楽観水準になる。

・機関投資家の運用資産に占める現金比率も株価の先行指標になる。この比率が4%を下回ると「株売りシグナル」になる。現在の現金比率は不明。

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後なんらかのショックで株価が急落することが多い。現在のVIX指数は17とやや低い水準にある。

スキュー指数も株価の先行指標になる。この指数は、S&P500種株価指数のオプション市場で、株価の上昇を見込むコール(買う権利)に対して下落に備えるプット(売る権利)の需要が高まると上昇する。これは市場で将来の大きな価格変動に備える取引が増えていることを意味する。2月18日には183と過去最高値を付けた。2021年のパターンでは、半年ほど後にS&P500指数は下落に転じ、1年半ほど調整している(1/7日経)。現在のスキュー指数は154とやや高い水準。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わることが多い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは116とやや加熱の水準。
・日本株の信用評価損益率は-7.82%とやや過熱の水準。
・先進国の株価チャートは、軒並み最高値を突破しており基調は強い。

長期計画

 「平時にじっくり考えて決めておいたことは、後悔する判断にはなりにくい」といわれているので、今のうちから長期的な計画を考えていく。

■今後の景気について
景気循環的にそろそろ景気後退に陥りそう。ただ家計や企業、金融機関の財務状態は比較的良好なので深刻な景気後退に陥る可能性は低い。

*景気循環(債務循環)の基本的なパターンは、不景気 →金融緩和 →景気拡大(債務拡大) →景気過熱・インフレ過熱 →金融引き締め →景気後退(債務圧縮) →不景気 の流れになる。

米バンク・オブ・アメリカ(BofA)が2月に公表した2月の機関投資家調査によると、今後12カ月の世界経済の見通しについて、52%が世界経済はソフトランディング(軟着陸)になると予想し、36%は景気後退を経験しない「ノーランディング」になると予想している。

本当にそんなことが可能なのか。景気後退要因と景気浮揚要因を列記して考えてみる。

<景気後退要因>
・企業債務はGDP比で過去最高水準まで高まっており、金利も2008年の金融危機前と同水準まで高まっている。いつ資金の逆回転が起きてもおかしくない。
・米欧などの先進国中銀はこの2年で政策金利を急激に引き上げている。金利高の影響は1年くらいの時差をもって経済に反映される。2025年はその影響が表れる年になる。
・過去のパターンでは米利上げ停止後1年くらいに「○○ショック」が起こり景気後退に陥っている。今回FRBは2023年9月頃から利上げを停止しているので、もうそろそろ「○○ショック」が起こってもおかしくない。
・逆イールドが発生している影響で、銀行の融資が減っている。銀行の融資態度は景気との相関が強く、過去、融資基準の厳格化が進んだ時期には景気後退が発生している。
・米家計のコロナ貯蓄はほぼゼロになっている。2023年10月からは学生ローンの返済が再開されている。クレジットカード債務や自動車ローンの延滞率は足元で13年ぶりの高さになっている。
・米経済の牽引役である個人消費は長引くインフレや金利高で節約志向が高まっており、低調気味になっている。
・今後米国の失業率が上昇していく可能性がある。米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは2024年5月に「米国の景気と求人数が悪化し続けるのは確実。底打ちまでに18~24カ月ほどかかる」と言っており、2025年2月の決算でもこの見方に変わりはないと言っている。
・2008年に起きた金融危機では、中国の大型投資により世界経済は救われたが、今回はそのような支え手がいない。
・過去の例では、日銀の政策金利の引き上げは米景気後退の直前に開始されることが多い。過去のパターン通りいくとしたら、あと3ヶ月くらいで景気後退に突入する。
・3月の調査では米CFOの6割が今年後半に景気後退が起きると言っている。
・トランプ大統領の関税政策により、事業環境が不透明になり、投資が大幅に落ち込む可能性がある。しばらくは世界的な経済活動の鈍化は避けられない。また不確実性が高いときは、財政政策の効果が大幅に縮小するので政府による景気下支えが難しくなる。5/30日経


<景気浮揚要因>
・失業率が低い。米GDPの約7割は個人消費が占めるが、失業率が低水準の状態で維持されると、所得が維持され、消費が落ち込みにくくなる。1960年代以降に8回あった景気後退局面では、失業率が平均で3%強上昇しているが、今後想定される失業率の上昇幅はその半分にも満たない。
・移民が流入している。移民流入により労働供給が増え、成長の原動力になっている。一方で、移民は「弱い雇用」に就くので、賃金の伸び鈍化にも役立っている。
・米国では移民の流入やテクノロジーの普及、サプライチェーンの強靱化などにより潜在成長率が2%台に上昇している。
・米国の生産性は上昇している。生産性は2023年に年率で4%程伸びている。生産性が上がった主因は雇用流動性の高さになる。米国ではコロナ禍の初期に2200万人超の一時解雇が発生したが、その後、労働者はより成長力のある企業に転職した。最も雇用が増えたのはIT関連になり、起業数はコロナ禍前の2倍になった。これらが米国の技術革新を加速させている。
・デジタル化が米国経済を強靱化している。デジタルエコノミーの伸び率は平均年7%超あり、それが米経済を下支えしている。
・現在はサービス業が経済成長を主導しているので、景気が落ち込みにくい。サービス業は投資資金を製造業ほど必要とせず、イノベーションが起こりやすいので、成長力が落ちにくい。
・AIが普及期に入りつつある。英調査会社はその普及率に応じて2027年の米GDPを0.7~2.5%、2032年時点で1.8~4.0%押し上げると予想している。
・現在世界的なAIブームが起きている。AIの成長は加速しているので、このブームはまだまだ終わりそうにない。
・米国では家計債務の約7割を住宅ローンが占めるが、コロナ禍の低金利時代に多くの世帯が住宅ローンを借り換えを行ったため、現在の債務返済コストは抑えられている。住宅価格は高騰しており、その含み益を借り換えで現金化する手法も活発になっており、約60兆円の余剰資産が生じたという試算もある。
・米家計は金融資産の5割を株式や投資信託などで運用しているので、株高により、家計は潤っている。この20年の株価上昇の結果、家計の金融資産の増加は個人所得の増加の6倍になっている。住宅価格は3倍に上昇している。2024年第1四半期の米家計資産は過去最高の160兆ドル(2京5000兆円)に達している。家計純資産は過去10年間で約2倍になっている。
・景気サイクルの終盤にもかかわらず、米家計のバランスシートは良好で、家計の可処分所得に占める元利払いの返済負担比率は低下している。
・クレジットカード支払いの延滞率が上昇しているとの指摘は多いが、延滞が生じているのは低所得者層であり、全体に占める割合は10~15%程度にとどまる。金利水準は高いが、米国では固定金利で住宅ローンを組む人が全体の8割と多く、22年以降の金利上昇の影響は限定的になっている。
・現在、過去のリセッション局面の前段階で必ず見られていた「民間債務の急速な拡大」は起きていない。
・米長期金利は高止まりしているが、企業の金利耐性は向上している。2022年以降の米企業部門の受取利息の伸びは支払利息よりも大きい。大企業は低金利時に固定金利で資金を調達している一方、米アップルのように手元資金が潤沢な企業は高利回りの運用資産を保有している。
・インフレが鈍化している。コロナ禍で深刻になっていた移民減少や半導体不足などの供給制約が解消されている。インフレ指数の約3割を占める賃料も落ち着き始めている。
・インフレ要因となっていた、ウクライナ戦争の供給ショックが落ち着きつつある。
・インフレが落ち着いてきており、主要中銀は政策金利を引き下げ始めている。
・米国では半導体産業や環境産業(EVなど)、インフラ産業などの巨大産業を政府が支援しているので、景気が落ち込みにくい。
・世界的に積極的な財政政策が採られているので、当面の間、力強い経済成長が続く可能性が高い。
・インドなどの新興国経済が好調。中国はいろいろと問題を指摘されているが、それでも4%超の成長をできる見通し。
・過剰流動性(金余り)が維持されている。コロナ禍で政府がばらまいた資金が市場にまだ高水準で残っている。マネーストック(民間に流通しているお金の総量)は長期的に右肩上がりで増え続けている。世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は2024年4月にリーマン・ショック前の約4倍にあたる8兆7300億ドル(1360兆円)に拡大している。
・FRBなどの主要中銀は過去の金融危機の経験を踏まえ、制度変更や規制に加え、バックストップ(安全策)機能を整備している。
・長期の米景気を俯瞰すると、現在の景気は拡大局面が長く、後退局面が短くなっている。その要因は、製造業からサービス業への重心移動、生産・在庫管理の進化、機動的な金融・財政政策などになる。
・米トランプ大統領は2024年12月に「投資家の皆さんにはこれから素晴らしい日々が待っている」「常々言ってきたことだが私にとって株式市場はすべてだ」と言っているので、なんだかんだで最終的には景気が浮揚するような政策をとる可能性がある。

<まとめ>
こう見ていくと、景気を押し上げる要素の方が多いので、比較的堅調な景気を保ちそう。景気後退に陥るとしても軽いもので済むのではないかと思う。


■他の景気後退シナリオ
景気後退シナリオ1:中国のバブル崩壊で景気後退
中国の民間債務は積み上がっており、GDP比220%に達している。景気下振れなどによりいったんデフォルトが起こると、急激な資金の引き上げが発生して連鎖的なデフォルトが起こる可能性が高い。バブルが崩壊すれば独裁政権に責任が集中し、政権が転覆する可能性もある。そうなれば政治的混乱も相まって不況が深刻化していく。経済大国・中国の不況が世界に連鎖していく。ただ中国政府には財政・金融政策をする余地があるのでバブルが崩壊する可能性は低い。

・・中国政府がとれる政策が限られてきた。政府や民間企業の債務残高の合計はGDP比で約300%に膨らんでおり、大規模な財政支出はしにくい。一方で、人民元安が進んでおり、中国中銀は大幅な利下げをしにくくなっている。


景気後退シナリオ2:中国が武力で台湾を併合し、米中戦争が激化して景気後退
中国が武力で台湾を併合するとの見方がある。実際にそれが起これば米中戦争が激化し、世界景気には強い下押し圧力がかかる。ただ中国は西側から制裁を受けると食糧危機に陥るリスクが高いので、中国が台湾に侵攻する可能性は低い。

とはいえ、中国は米国債を売り続けており、「安全資産」である金の保有を増やしているので、台湾に侵攻する可能性も少しはありそう。

中国が2024年5月23~24日に実施した台湾を包囲する形での軍事演習について、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は「(侵攻に向けた)リハーサルのようだった」と話している。


景気後退シナリオ3:「脱成長」経済システムに転換して景気後退
COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)は「産業革命以前から21世紀末までの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指して、努力を追求することを決意」することで合意したが、現在その実現は絶望的な状況にある。各国の2030年時点での目標がすべて達成されても21世紀末までの気温上昇は2.4度になるとされる。そうなれば海面上昇で沈む島国が出て、山火事や巨大台風などの自然災害が多発し、水不足、食糧危機、感染症のリスクなどが増大する。このような未来が科学的に予測されている現状で対策を取らないという選択肢はない。問題の根幹は現在の「成長型」経済システムにあるので、「脱成長」の経済システムに転換する必要がある。ただ、現在の状況で「脱成長」の経済システムに転換すれば景気後退は避けられない。

深刻な景気後退に陥ると、財政問題や福祉問題など目先の深刻な問題が噴出するようになり、それらの問題に対処せざるを得なくなる。そのため経済システムの転換はしばらく先になりそう。環境危機が目先の大問題に発展したときに初めて転換の機運が生まれるのかもしれない。

2022年、2023年、2024年は世界各地で記録的な熱波や干ばつが発生した。英保険仲介大手のエーオンによると22年の気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に達するという。IPCCは「産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達する」と予測している。2024年の平均気温は+1.6度になった。IPCCの数値目標が守られているかは、1年間の値だけではなく複数年の平均で判断するので、気温の上昇幅が単年で1.5度を超えてもただちに目標未達とはならないが、地球温暖化の深刻さは増している。

もしくはAI・ロボット社会が温暖化問題の打開策になる可能性もある。温暖化の最大の要因は「人の活動」になるが、AIやロボットが進化・普及すれば、数十億人の「無用者階級」が生まれるともいわれているので、長期的には出生率の低下により人が減っていく可能性がある。そうなれば環境負荷の低い社会が実現する。

国連が2022年7月に発表した世界人口推計では「2086年に104億人で人口はピークを迎える」と予測しているが、この数値は2019年の予測「2100年に109億人でピークを迎える」からピーク時期が前倒しされている。AIやロボット、教育などの影響を考えると、今後もピーク時期の前倒しが続く可能性が高い。


景気後退シナリオ4:災害や紛争で景気後退?
大災害や戦争が起こると景気には強い下押し圧力がかかる。しかし、こうしたことが起こると必ず政府が大規模な支援策を講じるので景気は反発しやすくなる。また一過性の問題が過ぎ去されば景気はV字回復することが多い。一般に、災害や戦争は押し目買いのチャンスといわれている。今回のような新型コロナウイルスのパンデミックも株式市場には追い風で、社会・経済構造の転換や金融緩和などにより、株高が発生しやすくなる。

ただし、日本で南海トラフ地震と首都圏直下型地震が同時に起きた場合は1000兆円規模の損失が発生するようなので、景気後退もしくは財政破綻する可能性がある。

南海トラフ地震が単独で起きた場合は、200兆円程度の損失が発生すると試算されている。このような災害の発生時には、大規模な財政支出が必要になるが、すでに国債金利は上がり始めているため、これまでのように日銀頼みの国債発行をできない可能性が高い。仮に国債を大量増発した場合、財政破綻もしくはハイパーインフレが起こる可能性がある。


■今後の計画
景気が停滞し、円が130円くらいまで上昇したら、海外資産を買っていく。