11/21日経によると、日本の長期金利は一時1.835%と、約17年半ぶりの高水準を記録した。一方で、金利が上昇しているにもかかわらず、円が売られているとも報じられている。
日本の財政危機は「金利上昇」から始まると考えていたので、いよいよ「日本売り」が始まったのではないかと思った。
そこで今回は、なぜ今金利が上昇しているのか、この金利上昇は日本の財政危機につながるのか、について考えてみた。
■金利が上昇している主な要因
1.インフレの定着
日本ではインフレが進行しており、ここ3年ほどは概ね3%前後の水準が続いている。
世界的にはインフレは一服しつつあるものの、やや高止まりしている。
輸入物価には海外のインフレ分が上乗せされるうえ、日本は円安基調にあるため、コストプッシュ型のインフレが起きやすい状況にある。
金利は基本的に「経済成長率+インフレ率+信用力(リスクプレミアム)」によって決まる。これらを踏まえると、長期金利1.8%という水準は、なお低水準といえる。
2.極端に低い実質金利
実質金利(名目金利-インフレ率)で見ると、日本の実質長期金利は約-1%、実質政策金利は-2%程度と、世界で最低水準にある。
国際金融市場では、資金は金利の低い国から高い国へと移動するため、日本国債や円は売られやすい状況にある。
3.世界的に金利は上昇傾向
世界的にインフレは一服してはいるものの、再燃への警戒感は根強い。
他国の長期金利も上昇基調にあり、オーストラリアの上昇率は日本を上回っている。12/23日経
欧米では金融政策が「利下げ」から「利下げ停止・利上げ」へと転換しつつあり、方向転換が起きれば日銀の利上げペースを容易に追い越す可能性が高い。その場合、円安圧力は一段と強まる。12/23日経、12/8日経
4.日銀の国債買い入れ余地の消失
日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)によって国債を買い入れ、金利を抑えてきたが、すでに国債保有残高は発行残高の50%を超えている。
テクニカル面でも財務面でも、これ以上の大規模な買い入れは困難であり、金利抑制の余地は乏しい。
5.積極財政への転換
新たに就任した高市首相は積極財政派であり、財政支出拡大を志向している。
公的債務のGDP比率を、「成長」と「インフレ」で引き下げようとしている節があり、結果としてインフレ圧力が高まりやすい。
なお、現時点で歳出削減を正面から掲げる政党は存在しない。
6.日本の信用力低下(リスクプレミアムの上昇)
長期金利が2026年に2%を超えれば、国の利払い費は年10兆円超に達する。さらに2~2.5%の水準が続けば、2030年頃には20兆円超に膨らむ見通し。
金利上昇は日銀の財務にも影響する。政策金利を1.2%まで引き上げた場合、年間約5兆円のコストが発生し、この状態が2年続けば債務超過に陥る可能性がある。
政府・日銀の財務悪化が顕在化すれば、通貨への信認が低下し、金利上昇をさらに招く悪循環に陥りやすい。
7.利上げによるインフレ抑制効果の低下
利上げは必ずしも景気抑制的に働くとは限らない。金利上昇により政府の利払いは増えるが、その支払い先である民間の所得も増加する。
政府債務が巨額な現在では、総需要を押し上げる効果が以前より大きく、利上げをしてもインフレを抑えられない可能性がある。
8.キャピタルフライトの加速
円安とインフレが進めば、国内資本の海外流出が加速し、さらなる円安とインフレを招く。
9.自然災害リスク
大規模な自然災害が発生すれば、国債増発観測から金利が急騰しやすい。
10.「日本国債売り」を仕掛けやすい
以上の状況を踏まえると、海外投機筋にとって「日本国債売り」を仕掛けやすい環境が整いつつある。
■金利の低下要因
1.金利上昇は需要を抑制する
金利上昇により景気が鈍化し、金利は下がりやすくなる。
2.金利上昇が財政規律を呼び起こす
金利や為替の変動に対し、政府は神経質になっている。「ばらまき政策」や「リフレ政策」を実行しにくくなっている。
3.海外景気の減速
海外景気はやや停滞気味。海外経済が減速すれば、日本経済も連動して減速しやすく、金利に低下圧力がかかる。
4.構造的な低成長
日本は少子高齢化社会であり、需要の基調は弱い。潜在成長率は0.5%程度にとどまるため、デマンドプル型のインフレは起こりにくい。
■その他メモ
1.市場はデフォルトを織り込んでいない
長期金利は上昇しているものの、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドには大きな変化が見られない。市場は日本国債のデフォルト確率を高く見ていない。
2.「全面的な日本売り」ではない
国債と円は売られている一方で、日本株は買われている。また国債はインフレ率やリスクプレミアムを踏まえると、なお割高と見る余地があり、極端に売られているわけではない。
3.超長期債の金利上昇は構造問題
30年債金利は3.4%・40年債金利は3.6%と高水準だが、これらはもともと需要が薄く、発行量が多すぎたという構造的要因が大きい。
■まとめ
以上を整理すると、
円が売られている主因は「実質金利の低さ」で、国債が売られている主因は「インフレと日銀の買い入れ余地の消失」あたりになりそう。現時点では、必ずしも「日本売り」「財政危機」と言える状況ではないように見える。
ただし、円安がさらに進めば、インフレ → 円安 → インフレという悪循環に陥るリスクは残る。
日銀は円安を止めるために政策金利の引き上げを検討するだろうが、利上げは必ずしも円安の歯止めにならず、日銀のバランスシートを傷めるという副作用も大きい。円安が止まらなければ、危機は一気に現実味を帯びてくる。
危機時のことも一応考えておく。
■財政がパンクした場合、何が起きるか
通貨急落、利上げ制約、資本流出が三つ巴となり、負のスパイラルに陥れば、資本移動規制と厳格な財政再建以外に選択肢はなくなる。
財政運営が行き詰まれば新規国債発行は事実上困難となり、政府は資金繰りに屈する。不足分は民間の金融資産(約2200兆円)から調達せざるを得ず、その結果、資金の海外流出を防ぐために資本移動規制が導入される。
日本もギリシャ、キプロス、アイスランドと同様、資本移動規制による事実上の「鎖国状態」を余儀なくされる。預金封鎖、急激な増税、インフレ税、資産課税など、大規模な国内債務調整が避けられなくなる。
■その前に打てる対策は
キャピタルフライト、もしくは不動産など国内実物資産の購入くらいしかない。
『持続不可能な財政 再建のための選択肢』の著者・河村小百合氏は、キャピタルフライトに対して批判的で、著書の中で次のように述べている。
「負担から逃げる富裕層や企業が続出するなら、それはその程度の国だったということだ。これだけ放漫な財政運営や無謀な金融政策運営を長年にわたって展開してきながら、そのつけを国内に残らざるを得ない経済的・社会的な弱者や後の世代に押しつけて、自分たちだけ負担から逃れようとする国民や企業しかいなかった、自分の懐だけが大事な輩しかいなかったということでしょう。」
ただし、こうした発言ができるのは、財政・金融の全体像を把握している専門家だからこそだとも言える。専門家以外の多くの人々は、このように複雑な制度や因果関係を十分に理解しているわけではない。批判を向ける前に、まずはわかりやすい言葉での説明や啓発が不可欠ではないかと思う。
個人的には、すでにキャピタルフライト的な行動を取っている。資産運用では大きな資金の流れに乗ることが基本だと考えているので、今後も淡々と運用を続けていくつもり。
参考:
『持続不可能な財政 再建のための選択肢』 (河村 小百合 , 藤井 亮二 )
『日本銀行 我が国に迫る危機』 (河村 小百合 )
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