2020年1月1日水曜日

マクロ系金融資産チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米長期金利 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:1.3%~2.3%の間で推移

長期金利に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・経済成長率+インフレ率↓
米長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になるが、今後は両者とも低下傾向になる。米国の2018年の経済成長率は2.9%、2019年は(予)2.4%、2020年は(予)2.1%で、インフレ率は2018年が2.4%、2019年は(予)1.82%、2020年は(予)2.27%になる。貿易戦争が激化した場合は、経済成長率は下振れし、物価には上昇圧力がかかる。
*数値はIMF予想

・金融政策↑
インフレ率が2%を下回り始めているので、FRBは7月に金融緩和に転じた。現在の政策金利は1.50~1.75%だが、政策金利の先行指標である米2年物国債利回りは1.58%なので、利下げはいったん打ち止めになりそう。今回の利下げは、景気後退に陥ってからの利下げではなく、将来の景気減速に備えた「予防的な利下げ」なので、景気浮揚効果により長期金利には上昇圧力がかかる。

FRBは10月から短期金融市場の資金不足(短期金利の急上昇)を解消するため、短期国債を月6兆5千億円のペースで購入していくことに決めた。これは長期国債などの資産を購入する量的緩和とは異なるが、市場に出回る資金量が増えるため、長期金利にも若干の低下圧力がかかる(景気浮揚効果による上昇圧力もかかる)。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争の休戦と金融緩和によりリスクオンに。

・財政赤字の拡大↑
米政府は財政支出を拡大しており、今後も年金や医療、福祉などの社会保障費が税収の伸びを上回って増加していきそうなので、長期的に財政赤字の拡大は続きそう。2018年の米国の財政赤字額は100兆円を超えており、この水準は当面続く見込み。

・米国債の人気低下↑
米10年国債の利回りは先進国の中では相対的に高いので海外から買われやすいが、足下では為替ヘッジコスト(2.2%?)が米長期金利(1.87%)を上回っているので、海外からの米国債の購入は減少しつつある。双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)の拡大も人気低下の要因になる。
*ヘッジコストとは外貨の短期金利と運用国通貨の短期金利の差から生じるコスト

・資金需要の低下↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要がそれほど多くない。少子高齢化で住宅ローンなどの借り入れも減少している。

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みで潜在成長率が長期的に低下傾向にある。

・トランプ大統領の介入↓
低金利好きのトランプ大統領はFRBへの口先介入のみならず、FRBへ緩和派の人間を送り込むなどして金融緩和圧力をかけ続けている。

投機筋の持ち高
足下では売り越しが横ばい傾向なので、投機筋は長期金利が横ばいで推移するとみている。

・チャート↑
いったん底打ち。上値は2.3%あたりになりそう。


■WTI原油 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:45ドル~70ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・産油国の採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル80ドル、アラブ首長国連邦は60ドル、ロシアは45ドル、米企業の採算ラインは45ドルになる。

・トランプ大統領の介入↓
トランプ大統領は低インフレ(低金利)と株高を切望しているので、原油価格の上がりにくい政策をとる。トランプ大統領の介入ラインはおそらく65ドルあたりになる。

・需要↑
原油の需要予測はIMFの世界経済成長率予想などを基につくられるが、2020年のIMFの予想経済成長率は2019年の3.0%から3.4%に上昇するので需要は持ち直しそう。

中長期的には景気後退や温暖化対策(再生エネルギーへのシフト)、脱プラスチック運動など需要を抑制する要因もあるが、人口増や世界経済の成長に伴い原油消費量は増加基調になる。IEA(国際エネルギー機関)によると石油需要は2040年まで拡大を続ける見通し。
*OPECは2040年の石油需要を現在の12%増の日量1億1060万バレルと見積もっている。
*ただ今後は地球温暖化防止運動が活発化していきそうなので、IEAやOPECのシナリオが崩れる可能性も少なからずある。

・供給→
イランやベネズエラの供給が減り、OPECとロシアが協調減産してるが、OPEC加盟国のイラクやナイジェリアなど順守率が低い国も多く、OPEC非加盟国の米国などの生産は伸び続けているので供給はややだぶつき気味。ただ米国のシェールオイルの優良鉱区はすべて開発し尽くされてしまっているようなので徐々に需給は締まっていきそう。

長期的には原油価格の停滞や脱化石燃料への投資家圧力などにより、新規の油田開発が停滞気味なので、供給不足に陥る可能性がある。
*現在ESG(環境、社会、企業統治)の観点を考慮しない企業は評価しないという流れになってきている。地球温暖化につながる化石燃料は環境リスクが高く、2019年3月には世界最大の政府系ファンド・ノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外すという方針を示している。

・産油国で不測の事態が起こる↑
米国は2019年1月にベネズエラ国営石油会社への制裁を決定した。ベネズエラの産油量は投資不足などもあり著しく低下している。

リビアで内戦が激化している。生産設備の被害や輸送の寸断で一気に生産量が落ちる可能性がある。

米国は2019年5月にイラン産原油を全面禁輸することに決めた。イランは対抗措置として原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡(世界の石油タンカーの2割が通過)を閉鎖すると警告していたが、5月に入りさっそく通過するタンカーなどへの攻撃を開始。その後もゴタゴタが続いており、9月にはサウジのコアな石油処理施設が親イラン武装組織フーシから大規模な攻撃を受けた。今後しばらくは原油価格にリスクプレミアムが上乗せされそう。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。地合いはリスクオンに傾きつつあるが、中東情勢の緊迫がリスクオフ要因になる。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

投機筋の持ち高
買い越しポジションが増加傾向。投機筋は上がるとみている。

・為替↑
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかるが、ドルはほぼ頭打ちの状態なので、今後は原油価格に徐々に上昇圧力が加わってきそう。ドル安になると新興国の輸入が増えやすくなるのでこれもまた上昇圧力になる。
(WTI原油価格連動型上場投信においては、ドル安(円高)が進むと基準価額が下がる)

・船舶の燃料規制↑
2020年から船舶燃料油の硫黄分濃度規制がはじまる。硫黄分の少ないWTI原油や北海ブレントには5ドル程度の価格上昇圧力がかかると言われている。

・チャート↑
中長期の上昇トレンドに入りそう。


■ドル円 (保有資産:なし)
今後1年の予想レンジ:105円~110円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の金融政策↓(↓は円高方向)
ドル円レートの基準値は購買力平価になるが、今は購買力平価(95円)から円安方向に振れている。円安方向に振れている最大の要因は日銀の金融緩和になるが、その緩和が限界に近づきつつある。一方で米国は金融緩和余地があり、足下では金融緩和に転じているので、徐々に円高圧力が高まりそう。

ただドル円相場と相関が高い日米長期金利差は、米国の「予防的利下げ」による景気浮揚効果により米長期金利が上昇し、拡大している(円安要因)。

・リスクオン、オフ↑
米中貿易戦争がいったん停戦し、金融緩和も再開されたのでリスクオンに。

*リスクオフになった場合のドル円の基本的な動きついて。まず条件反射的に円が買われる。そこからさらに不透明感が強まるとキャリー取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こる。本格的なリスクオフまで発展すると対外資産の引き上げ(投資撤退)と、その思惑による円買いが起こる。
 *キャリー取引とは金利差を狙った取引で、市場環境が落ち着くと低利通貨を売り高利通貨を買って金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ足下では円以外のユーロやドルも低金利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。
 *日本が持つ対外純資産は世界最大の340兆円になるが、そのうち資産の引き上げが起こりやすい証券投資の割合は3割(100兆円)程度になる。

・ドル需給→
米長期金利は2018年10月の3.26%から2019年9月に1.42%まで低下し、日米金利差は縮小していたが、にもかかわらず円高はそれほど進まなかった。これはドル資金に対する需要の引き締まりによって起きていた可能性が高い。ドル需要が強かった要因は主に5つ。まず1つ目が金融規制(流動性規制、レバレッジ比率規制、自己勘定取引規制、MMF規制)の強化により米国勢によるドルの供給が絞られたこと。2つ目が2017年10月からFRBが保有資産を縮小し、民間金融機関の準備預金が減少したこと。3つ目が景気減速懸念が投資家のドル資金の出し渋りを招いたこと。4つ目が相対的に高金利を維持しているドル建て資産への証券投資需要が高かったこと。5つ目が米国で新規国債を巨額発行していること(これは基本的にはドル安要因になるが、今回はドル高要因になった)。

ドル不足を受けてFRBは9月に保有資産の拡大に転じ、ドルを大量供給してドル不足を緩和している。年間でドル需要が最も強くなるのは年末で、それ以降は徐々に需給が緩んでいくされる。

・米経済の強さ↑
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などの資産が買われるが、米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。米経済にも減速感は漂い始めたが、デジタル革命の牽引役は米国なので、今後も長期的にドル資産が買われそう。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資は今後も増えていきそう。日本企業の海外M&Aに1年半先行するといわれる世界製造業PMI(購買担当者景気指数)は2017年12月にピークアウトしているが、2019年1月~6月の対外直接投資は13兆6千億円と高水準で推移しており、2019年は過去最高を更新する見込み。なお、米中貿易戦争による貿易環境の不透明感は対外投資減少の要因になる。
*対外直接投資額のうち外貨建て(円売り)は半分程度になる。

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の債券投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、為替差損回避(ヘッジ)付きでも高い運用利回りが見込める海外債権などを買っている。国内の超低金利は当面続きそうなので、今後も対外証券を積み増していく可能性が高い。
*足下では世界的な金利低下により外債の利回りも下がっているので外債購入は鈍りつつある。

日本の対外証券投資は年によってばらつきがあるが、平均すると年10兆円程度の買い越しになる。今後は異次元緩和前の比較的高い利回りで購入した国内債権の償還が始まるが、戻ってきたお金は国内債への再投資ではなく、外債に回る可能性が高い。2019年の償還額は47兆円になる。
*2019年1月~9月の海外証券投資額は18兆円超。
*国内勢が外債を買うときは、円を売って外貨を買い、その外貨で外債を買うわけだが、円を買う側の海外勢はその円で日本国債を買うことが多い。海外勢は1月~8月までの間に12兆円の日本国債を買っている。これは円高圧力になる。
*対外証券投資のうち外貨建て(円売り)は7割程度になる。

・経常収支↑
まずは貿易収支について
中期的には、輸入額の4分の1(20兆円)を占める原油・天然ガス価格がやや高止まりしているので貿易収支が徐々に悪化していきそう。長期的にも、スマホや医薬品などの輸入が増加傾向で、生産の海外移転などにより輸出の伸びが鈍化傾向なので貿易収支は悪化していきそう。2018年の貿易黒字額は1兆円になる。
*貿易ではドル決済が圧倒的に多いため、実需では年間7兆円くらいのドル不足が発生すると言われている(7兆円くらいの円売り圧力が発生する)。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が円に換えず現地で再投資されるため円買いフローは半分(10兆円)程度しか発生しない。

・投機筋の持ち高→(「円 投機的ネットポジション」で検索)
売り持ちが増加傾向。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合、スワップポイント(金利差収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションは短命で終わることが多い。

購買力平価
ドル円の購買力平価は95円程度なので、円の下限は75円、上限は115円程度になる。米国の方が慢性的にインフレ率が高いので、購買力平価は長期的な円高傾向にあるが、米国のインフレ率は年々低下して日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。

・米財政赤字の拡大↓
米国の財政赤字は年100兆円を超え始めており、この水準は今後もしばらく続きそう。近い将来、米国債を消化するために大量のドルが発行される可能性が高い。

・米経常赤字の拡大↓
米国では経常赤字が10年ぶりの水準まで悪化しており、貿易赤字を解消するため、または不足する資金を海外から調達するために、プラザ合意のようなドル高是正策を実施する可能性がある。

・日本の財政赤字の拡大↑
日本の累積財政赤字はGDP比200%程度あり、今後も社会保障費の増大により財政赤字は拡大していく可能性が高いので、円離れがすすみそう。日本も米国同様、日本国債を消化するために大量の円が発行される可能性が高い。

・チャート→
大きな三角持ち合いを形成している。中長期で大きく下振れしそう。


■日経平均 (保有資産:日経レバETF)
今後1年の予想レンジ:21000~26000円で推移
日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需給↑
日銀が日本株を買いまくっているので日本株は下がりにくい。日銀の買越額は年間6兆円規模になるが、他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(海外投資家のアベノミクス後の買越額は8兆円まで縮小)、残りの売り玉はすべて日銀が吸収してくれそう。

 <2019年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行、金融政策により3~6兆円の買い越し。現状は4兆3千億円の買い越し。
 事業法人、自社株買いにより3~4兆円の買い越し。現状は4兆2千億円の買い越し。
 海外投資家、世界景気後退懸念により2~4兆円の売り越し。現状は8千億円の売り越し。
 個人投資家、相続に伴う換金売りで1~3兆円の売り越し。現状は4兆2千億円の売り越し。

・金融政策↑
金融緩和で市場に資金が供給されると資産価格(株価)は押し上げられるが、今は金余りの状態でさらに金融緩和をしているので株価は上がりやすい。11/30の日経によると「21年末までに世界の中銀による資産買い入れ額は増加し、20年前半まで、世界の政策金利の平均は低下し、過去10年でもっとも緩和的だった状態に戻る」とのこと。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度)で決まるが、2018年のEPSは-3%、2019年も(予)-3%、2020年は(予)5%になる。
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EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替↓
今後為替は中長期的に円高に振れていきそうなので、海外で6割を稼ぐ日本企業の利益は下振れしていきそう。

・海外景気↑
日本企業は海外で6割を稼いでいるので海外景気の影響を大きく受けるが、2020年は世界景気がやや持ち直すので日本企業はその恩恵を受けられそう。

・失業率↓
失業率が最低水準まで低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫され、労働量力不足で成長が頭打ちになるが、現在の失業率は最低水準(2.4%)にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
景気拡大期の終盤は減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇して利益が圧迫される。

・金融政策→
景気拡大期の終盤は上昇した金利により企業の利益や資金調達環境は悪化するが、今回は金融緩和が続いているのでほとんど影響なさそう。
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・PER(人気度、リスク選好度)→
日経平均のPERは基本的に11~16くらいの間で推移するが、現在のPERは14.30。リスクオンや世界経済の回復、来期EPSの不透明感などを考慮すると、このくらいの水準が妥当なのかもしれない。

・利回り↑
日本株式の益回りは8%超で配当利回りは2%超と、日本国債の利回り0%より高いので、株式に資金が流れやすい。

投機筋の持ち高
売り越しはほぼ横ばい。投機筋は今後日本株が横ばいで推移するとみている。

裁定売り残高の方は、9/6の2兆円から7300億円まで減少している。一方で買い残高は8700億円まで増えている。投機筋は日本株が若干上がるとみている。
*裁定残高について。平時は売り残高よりも買い残高が多いのが普通。裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」の水準になる。

・チャート↑
上昇トレンド。ただし24000円台を突破できなければ不吉な三尊天井(トリプルトップ)を形成する。

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