2020年1月1日水曜日

市場環境チェック

株式市場への影響が大きい企業業績、金利、金融政策などをチェックしていく。

■ファンダメンタルズ
<EPS成長率>
・世界株式の2019年のEPS増加率は8%、2020年は10%?。
・米国株式の2019年のEPS増加率は3%、2020年は10%。
・欧州株式の2019年のEPS増加率は3%、2020年は5%?。
・日本株式の2019年のEPS増加率は-3%、2020年は5%?。
参照:12/22日経12/31日経など
→問題なし

<経済成長率>
・世界の2019年の成長率は3.0%、2020年は3.4%、2021年は3.0%?。
・米国の2019年の成長率は2.4%、2020年は2.1%、2021年は2.0%?。
・中国の2019年の成長率は6.1%、2020年は5.8%、2021年は5.5%?。
・ユーロ圏の2019年の成長率は1.3%、2020年は1.5%?、2021年は1.3%?。
・日本の2019年の成長率は0.9%、2019年は0.5%、2021年は0.5%?。
*数値はIMF予想。参照:10/16日経など
*IMFは5四半期期連続で下方修正している。
*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただしデジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほどには不況感が強まらない可能性もある。経済成長率を測る指標の一つであるGDPは、1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されているサービスの大半は公共財に近い性質があるため金銭的な数値には反映されにくい。今は若い人ほど幸福度が高いという調査結果が出ているが、これはデジタルサービスの恩恵を最も受けているためともいわれている。
*仏経済学者のジャン・フーラスティエは今から70年くらい前に「農耕社会、工業社会の後にはサービス社会へ移行するが、そこは経済成長のない世界になる」と言っている。11/27日経

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2017年頃から世界同時成長が起きており、このような状態は通常2,3年続くという。ただしこのような世界同時成長は景気サイクルの終盤に見られる特徴的な現象とも言われている。米ピムコは2019年に世界経済の同時減速が始まると予想している。

世界同時成長は海外で6割を稼ぐ日本企業には追い風になるが、その反面、海外の景気後退期は日本企業にとって強い向かい風になる。このような経済構造に円高効果が加わり、日本株は米国株の1.5倍くらい下落する。
→問題なし

<インフレ>
・米国の予想インフレ率は2019年度が1.8%、2020年は2.2%、2021年は2.0%?。
・欧州の予想インフレ率は2019年度が1.2%、2020年は1.5%?、2021年は1.3%?。
・日本の予想インフレ率は2019年度が0.9%、2020年は1.3%、2021年は1.0%?。
*数値はIMF予想。参照:世界経済のネタ帳
*インフレ率が上がらないのもデジタル経済の影響が大きい。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば検索やSNSは無料だし、ネット上では価格比較を簡単にできるので超過収益を得にくくなっている。またスマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、5000万曲をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。他にも複製コストゼロのデジタル商品やシェアリングサービスの普及などもあり、物価はどうしても上がりにくくなっている。『FREE』の著者のクリス・アンダーソンは「モノ中心の経済はインフレ志向になるが、情報中心の経済はデフレ志向になる」と言っている。

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中央銀行の責務の1つは「物価の安定」になるが、中央銀行は経済にとってベストなインフレ率を2%としており、その水準で物価を安定させることを目標にしている。中央銀行が行う金融政策はインフレ率2%を基準に決められており、それより低ければ金融緩和、高ければ金融引き締めを行うことになる。先進国のインフレ率は長期的に低下傾向で、足下では2%を下回りはじめているので、今後長期で金融緩和が続く可能性が高い。
*マクロ環境やデジタル経済の影響を考慮すると、「インフレ率2%」には無理があるように見える。
→問題なし

<金利>
・米国の2年金利は1.58%で10年金利は1.87%。
・日本の2年金利は-0.12%で10年金利は-0.01%。
*米国の2年金利が10年金利を上回ると平均18ヶ月後に景気後退に陥るといわれるが、2019年8月にその2つが逆転した。現在は逆転が解消され金利差は0.29%。
 *ただし今回はFRBが量的緩和で長期国債を大量に買っていて長期金利の水準は元々低かったので従来のパターンはあてはまらないかもしれない。
*実質長期金利(名目長期金利-インフレ率)が-0.13%まで低下しているので、米株には割安感が出ている。
→問題なし

<債務>
・米国の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・日本の民間債務残高はGDP比150%で横ばい傾向。
・中国の企業・家計債務残高はGDP比210%まで上昇しており、足下でも微増傾向。日本のバブル期のピークは220%になる。中国の債務拡大ペースはGDP成長率よりも速いので行き詰まるのは時間の問題になる。
・新興国の民間債務残高はGDP比140%で現在も微増傾向。
・過去10年で各国政府は債務を大きく膨らませている。
*GDPは債務返済能力を測る指標になる。
*米企業の債務残高は2011年のGDP比65%から2019年には過去最高の73%まで上昇している。一方で米家計の債務残高は2007年のGDP比97%から76%まで低下している。5/23日経
 *米企業の対GDP債務残高比率は10年移動平均線から3%超乖離しているが、これは直近3回の債務バブルのピーク時とほぼ同じ水準になる。7/19ダイヤモンド
*今は信用力の低い企業の債務が膨張しているが、全体で見ると健全な企業の貯蓄に相殺されている。11/10日経
*今のような低成長、低インフレ、過剰貯蓄の状況では低金利が続きやすく、高債務の状態が維持されやすい(債務バブルが破裂しにくい)。
*先進国では超低金利が続いているので債務拡大はまだ続きそう。
*先進国ではレバレッジド・ローンと呼ばれる高リスクの貸し出しが増えている。
*今のように金利が経済成長率を下回っている状態が続くと企業は財務レバレッジを効かすだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にできるので債務が膨張しやすい。政府債務においては、今のように国債金利が名目GDP成長率を下回っている状態だと、多少の財政赤字を続けても債務残高GDP比を一定の水準に維持できる。日本政府の場合は対GDP比で2.5%程度の赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。10/7日経10/8日経
*企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構図になっている。11/10日経
*中国の企業・家計債務は危険水準に達しているが、2018年に習政権は経済の筆頭課題に金融危機封じ込めを据えていたので(2018年中盤から景気重視に転換)、しばらくは心配しなくてもよさそう。
*中国の企業債務は積み上がっているが、その大半は国営企業によるものなので、計画に沿って徐々に削減していけそう。
*中国は、可処分所得に対する家計債務比率が日本のバブル期並の120%まで上昇しているので、今後深刻な消費不振に陥る可能性が高い(7/28日経)。ただ8月16日に中国政府が「2019年と2020年の個人の可処分所得を押し上げる政策を実施する」といっているので、当面は大丈夫そう。
*新興国は米国の金融引き締めなどで通貨安・高インフレ・高金利になり、債務圧縮局面に入りつつあったが、米国が金融緩和に転じ、新興国のインフレ率は中銀のターゲット内に収まっているので足下では落ち着いている。
→問題あり

<金融政策>
・米国は7月に金融緩和に転じた。
・欧州も9月に金融緩和に転じた。
・新興国も米金融緩和を受け緩和に転じつつある。
・日本は金融緩和を継続しているが限界に近づきつつある。
*金融緩和を長期で続けていくと、従来ならインフレが過熱して、それが金融緩和の歯止めになっていたが今回はそれがない。金融緩和が長期化した場合のメリットは失業率の低下やデフレ阻止になるが、デメリットは債務の増加や産業の新陳代謝の低下になる。
*金融緩和が長期化すると産業の新陳代謝が進まず(ゾンビ企業が存続する)、潜在成長率がさらに落ちていく。潜在成長率が落ちるとインフレがさらに起こりにくくなる。現在中銀がインフレを起こそうと行っている金融緩和は長期的にはインフレが起こりにくい経済構造を作るという一面もある。
*日本はこのまま金融緩和を続けると、金融仲介機能を持つ銀行の収益が落ち、金融政策が円滑に機能しなくなる恐れがある。日銀の責務には「物価の安定」の他に「市場・金融システムの安定」があるが、長期の金融緩和により金融システムが不安定になりつつある。
*スウェーデン中銀はマイナス金利では家計債務の膨張が止まらないなどの理由で2020年1月に政策金利を0%に引き上げることに決めた(12/20日経)。いよいよ金融緩和の限界が近づいてきたように見える。
*日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
 *MMTとは自国通貨で借金をできる国は破産することはなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によれば、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的には国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないとのこと。10/7の日経によると財政出動をして、長期的な収益率が政府の借入金利を上回るようなものに投資すれば、短期的に需要を押し上げるだけでなく、長期的にも財政状態を改善できるという。このような投資に該当するものには出生率向上策や気候変動への取り組みなどがあるという。ただし、今のような完全雇用の状況では労働力不足でこのような需要喚起策は打てない。
 *MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレなどで負担しなければならない。
  *MMTと日本の金融・財政政策は若干異なる。MMTは財政再建をそれほど重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。
*日本や米国は慢性的な財政赤字体質なので、将来的にはMMTのような財政・金融政策に移行せざるを得ないように思う。
*先進国の金融政策はほぼ限界にきているので、次の景気後退時の景気刺激策は財政政策しかなさそう。
→問題なし

<政治>
・日本は安定。10月の消費税引き上げは政府の大盤振る舞い(支援給付金、軽減税率、教育無償化、補正予算)や携帯料金引き下げなどで「無風」で通過すると思っていたが、10月の消費支出は前回増税時(4.6%減)以上の5.1%減と予想以上の落ち込み。これは台風の影響もあるようだがそれでも落ちすぎのようみえる。今後は前回増税時に起きたようなデフレ傾向が強まっていくのかもしれない。政府はここらへんを意識してか(もしくはただの日銀の財政ファイナンス要請か)、12月5日に13兆円規模の大型経済対策(補正予算)を閣議決定した。SMBC日興証券の牧野氏によると、この政策により2020年度の上場企業の営業利益は1.2%程度押し上げられるという。12/12日経
・海外は不安定。米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に今後長期にわたり続きそう。足下では一時休戦に。
 *米中貿易戦争が激化・長期化すると、貿易環境に強い不透明感が生じ世界的に投資が落ち込んでいく。米中貿易摩擦の最大の敗者は、貿易依存度が高い日本やアジア、ユーロ圏とも言われている。
・香港ではデモが続いているが、これはもしかすると中国民主化への序章になるかもしれない。ウイグル自治区では中国の思想を植え付ける100万人規模の再教育施設があるようだし、中国の監視・信用格付け社会では社会的弱者の不満が高まっているようなので、中国に経済ショックのような大きな打撃が加われば、一気に民主化の機運が高まっていく可能性がある。11月の香港区議会選挙では民主派が議席の85%(選挙前は約3割)を押さえた。
・英国のEU離脱問題は1月に「合意ありの離脱」で片がつきそう。ただしこれから始まるEUとの通商交渉は不透明感が強い。
・英国のグダグダ感が効いてか、EU域内のEU離脱派・懐疑派の勢いは当初よりも弱まっているもよう。しかし失業率・成長率の悪化や所得格差の拡大、価値観の分断を背景にしたポピュリズムは今後も長期にわたり続きそう。
→問題あり

<その他の景気後退シグナル>
・米景気の先行指標である米住宅着工件数は上昇トレンドが続いている。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は48.1と4ヶ月連続の50割れ。(同指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増える可能性が高まる)。一方で今の経済成長の牽引役である米ISM非製造業指数は53.9と堅調。
・失業率が最低水準まで低下すると企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになるが、米国の失業率は歴史的に低い水準(3.5%)にある。米国では失業率が前四半期と比べて0.25%上がると景気後退に陥ると言われているが、現在はまだ低下している。
・景気拡大期の終盤は、金余りと鈍化した成長率を引き上げるため巨大M&Aが盛んになるが、今がまさにその状態。*高値で行われたM&Aは景気後退期にのれんで巨額の減損が発生しやすい。
・世界景気の先行指標である銅価格は景気がピークアウトするかどうかの分岐点にあったが足下では反発している。
・世界景気を半年先取りするOECD景気先行指数は底打ちしつつある。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIも50を超え底打ちしつつある。とはいえ中国製造業PMIは10月まで6ヶ月連続で50割れしていたので、デフォルトが増えつつある。11/29の日経
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは「問題なし」の水準で落ち着いている。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るといわれるが、今はまだ「長短金利の逆転」だけ。
・起こり得ない衝撃的な事象の発生を織り込むSKEW指数(ブラックスワン指数)は133とやや高水準で推移している。
・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多いが、今は「4,利上げ打ち止めを好感した反発」局面に入りつつあるので、いったん上がりそう。
→問題なし

■テクニカル
・チャート
中国と韓国以外は上昇トレンド。
→問題なし

・ディストリビューション・デー(機関投資家の売り抜け日)
(問題なさそうなのでカウントせず)
→問題なし

・騰落レシオ
日経平均 100
NYダウ 133
ナスダック ?
→問題なし

・信用評価損益率
ー11.70 %
→問題なし

■まとめ
株式市場は金融相場(業績停滞 × 金融緩和)がしばらく続きそう。

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1年以内に中国の債務バブルが破裂する確率:10%
中国の企業債務はデフォルトモードに入りつつあるが、中国の企業債務は実質的には政府債務のようなものなのでソフトランディングできそう。ただ2021年と22年に社債の償還がピークを迎えるようなので(12/27日経)、この時期のマクロ環境次第ではバブルがはじける可能性もある。

1年以内に米国が景気後退に陥る確率:45%
製造業は危険な状態に見えるが、経済の牽引役である非製造業が堅調で、中銀のバックアップもあるのでもうしばらくは景気を維持できそう。景気後退のきっかけは外部要因(中国の景気失速あたり)になりそう。
*景気後退とはGDPが2四半期連続でマイナス成長になること。

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