2021年1月1日金曜日

GMOグローバルサイン

 ■調べようと思った経緯
12/1の日経にGMOグローバルサインが運営する電子契約サービスのアカウント数が前年比16倍の4.8万件に増えたとあった。当初、GMOの電子契約サービスは「当事者型」で、「立会人型」のクラウドサインとは競合しないと思っていたが、GMOは「立会人型」にも力を入れ始めたようなので、クラウドサインの脅威になるのではないかと思った。

■どんな会社か
電子認証事業と(クラウド)サーバー貸出事業が主力の会社。両事業を活用した電子契約事業やシングルサインオン事業などの新規事業も手がける。

業績は
2018年が売上高127億円、営業利益14億円
2019年が売上高131億円、営業利益14億円
2020年が予想売上高136億円、営業利益15億円
になる。売上構成は電子認証事業が約50%、サーバ事業が約40%、新規事業が約10%になる。海外売上高比率は約35%で、利益の7~8割は電子認証事業が稼ぎ出している。

*電子認証とは
ネット上で安全な情報のやりとりをするには、お互いに相手が誰なのか、別人がなりすましていないか、を確認する必要がある。電子認証局がウェブサイトや電子文書、IOT機器などの実在性を証明(認証)することにより、なりすましや情報の改ざんを防ぐことができる。情報を暗号化し保護する機能もある。

電子認証局がウェブサイトの認証をしたものをSSLサーバー証明書といい、この証明書を発行する事業がGMOグローバルサインの主力事業になる。
*ちなみにSSLサーバー証明書のあるウェブサイトはアドレスバーに鍵マークのついたところになる。鍵マークのついてないウェブサイトで情報を入力すると第三者に情報を盗み見られる恐れがある。

■成長ストーリー
「電子認証プラットフォームを軸に成長加速」が基本シナリオ。

GMOグローバルサインの業績は拡大してはいるが、成長率は年5%以下に留まり、成長力に欠けるところがある。今後は国内No.1シェアの電子認証局・グローバルサインを軸に成長を加速させていくのが、この会社の基本戦略になる。

現在、社会のデジタルシフトが加速しており、ウェブサイトだけでなく、オンライン上の電子文書やIOT機器の認証需要が高まっている。

足下で急速に需要が高まっているのが電子契約の認証(電子署名)で、コロナ下では官民共に「脱はんこ」の流れになっており、電子契約が急速に普及している。

GMOグローバルサインはこの流れに乗り、電子契約事業で攻勢をかけ始めている。この事業はGMOグループのトップ・熊谷社長が陣頭指揮をとり、GMOグループの顧客基盤1300万社にアプローチして、(国内)市場を席巻しようとしている。

GMOの電子契約サービス・電子印鑑Agreeの基本戦略は首位クラウドサインを徹底的に模倣して、低価格と「当事者型」のセットで勝負するというもの。GMOは自社で電子認証局を持っており、「当事者型」では国内No.1シェアになる。そして自社でクラウドサーバーも持っているので、それらを活用して、圧倒的な低価格でサービスを提供することができる。

電子印鑑Agreeの月額基本料は「立会人型」「当事者型」のセットで8800円になるが、クラウドサインは「立会人型」のみで月10000円(ベーシックプラン)になる。パッと見、電子印鑑Agreeの方にお得感がある。

電子印鑑Agreeのアカウント数は19年末の3800件から20年11月には約7万件まで急増しており、首位クラウドサインの10万件(20年9月末)を猛追している。
*電子印鑑Agreeではアカウント数をカウントしており、クラウドサインは導入企業数をカウントしている。アカウントは1社で複数作られることもあるので、両者を単純比較するのは適切ではないかもしれない。

ーーーーーーーー
<電子契約の「立会人型」と「当事者型」について>
・立会人型とは
電子契約システムのサービス提供者(立会人)が、オンライン上で契約する当事者双方の意思を確認し、確認した旨を示す電子署名をする方式。契約に要する時間は最短数分で済み、その簡便さから、世界で主流の電子契約になっている。日本ではこれまで法的な証拠能力が曖昧ということから導入をためらう企業が多かったが、5月に「電子署名法に準拠する」との政府見解が出て、日本でも主流になりつつある。

ただ、立会人型では本人確認がメールアドレスだけでもよいため、なりすましや不正ログインのリスクがある。そのため当事者同士が電子署名した「当事者型」に比べ、証拠能力が若干劣るという欠点がある。

*20年9月に、「二要素認証などをすれば電子認証局による本人確認がなくても問題ない」みたいな政府見解が出ている。

・当事者型とは
電子契約システム(電子認証局)のサービス提供者が、契約当事者双方の本人確認の証明書を発行し、それをオンライン上の契約に紐付ける方式。この方式を使えば契約者の真正性は「立会人型」よりも高まるが、企業の照会や本人の在籍確認などに時間を要するため、証明書の発行に1~2日かかるという欠点がある。

両者の使い分けについては、これまで認め印で行っていた契約は「立会人型」、代表社印を用いてきた契約は「当事者型」になっていく、という説もある。
ーーーーーーーー

株式市場の注目は電子契約事業に集まっているが、GMOグローバルサインが本命視しているのはIOT機器とデジタルデータの電子認証市場になる。今後はあらゆる機器がネットに接続され、すべての文書がデジタルデータ化されていくので、そこに巨大な電子認証市場が発生するとGMOは見ている。

IOT機器には乗っ取りやデータ流出のリスクがあるが、GMOはIOT機器に個別で電子証明書を発行し、その機器のライフサイクルを一括管理できる「IOT IDプラットフォーム」を構築して、そのリスクに対処しようとしている。このプラットフォームの販売はすでに始まっており、21年中にも数十万台の機器に電子証明書を搭載したというニュースを発表する予定だという。

日本では23年に適格請求書保存方式(インボイス制度)が開始される予定だが、デジタルデータ化されたインボイスを電子認証して、管理や手間を半減させる事業も始める予定だという。

これらの電子認証の発行単価はSSLサーバ証明書などと比べると格安になるが、発行コストはほぼゼロで、発行枚数は年間数十億枚を超える見込みなので、GMOはここで莫大な利益を上げられると考えている。

■問題点
・電子認証局のシェアが低い
電子認証局・グローバルサインの世界シェアは4位(5位?)になるが、そのシェアは2.4%に過ぎない。しかも微減傾向にある(参照)。このような状況でどこまで競争力を発揮できるのか疑問。

・革新性がない
この会社のもう一つの主力事業は(クラウド)サーバー事業になるが、アマゾンやマイクロソフト、セールスフォースのような革新性がない。現在はこれらのサービスを模倣し始めているようだが、周回遅れなのは否めない。

電子契約事業ではクラウドサインのサービスを忠実にコピーしようとているが、このようなやり方ではクラウドサインが定義した市場で戦うことになり、熊谷社長の目指すNo.1になるのは難しいのではないかと思う。

・電子印鑑Agreeを企業が本格導入するか疑問
電子印鑑Agreeのサービス内容は表面的にはクラウドサインと酷似しているが、急ごしらえ感が強く、ややこしい電子契約システムを企業が本格導入するのか疑問。

就活サイトに投稿された従業員の口コミに「様々な商品を理解不足のまま 体制ができてないまま取りかからせる」「障害や問題がかなり多い(顧客からの直接的なクレームが多い)」とあるが、この投稿は20年9月のものなので、電子契約事業のことを指している可能性がある。たとえそうでなかったとしても、このような体制では企業は導入できないのではないかと思う。

・シングルサインオン事業(トラスト・ログイン)が伸びてない
SaaS全盛の時代には、そのIDを一括管理するシングルサインオン事業(IDaaS)が伸びそうだが、業績面ではそれほど伸びてない。競合企業がGMOを敬遠しているのだろうか。

・子会社の独立性がない
電子契約事業は親会社の社長が指揮を取っているが、ここまでがっつり経営に介入するなら子会社を上場する意味があるのかと思う。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★☆
・参入障壁は高いか。★★。電子認証やクラウドサーバーの参入障壁はそれほど高くない。
・ストック型ビジネスか。★★★☆。ほぼ全ての事業がストック型(継続課金型)。ただ電子認証(SSLサーバー証明書)は無料のところが勢力を増しているので、今後、価格下落圧力がかかる可能性がある。
・時流に乗っているか。★★★★★。電子文書やIOT機器の電子認証はメガトレンド。クラウドサーバー事業もメガトレンド。

■チャート
<2年チャート>特に問題なさそうな上昇トレンド。今の株価水準がボトムに見える。

■まとめ
この会社のビジネスモデルはそこそこ強そうだが、圧倒的な強みがなさそうなのが問題。会社が思い描くような急成長はしていけないのかもしれない。しばらく様子を見ようと思う。


■クラウドサインは優位性を維持できるか
・シェア低下について
電子契約のようなネットワーク事業は、チャットアプリ・LINEのように、周りが使えば使うほど利便性(価値)が高まっていくが、電子署名は参入障壁が低いので今後クラウドサインの電子署名シェアは落ちていく可能性がある。

ただ電子契約においては、他社の電子署名を使った契約書でも、標準的な仕様で作られた契約書であれば、おそらくどの電子契約管理システムでも使えるはずなので、LINEのような「勝者総取り」構造にはならない可能性が高い。となると、今後は電子契約の管理システムの方に重点が移っていくのではないかと思う。そうなった場合はクラウドサインに分がありそう。

・価格競争に突入するか
GMOグローバルサインの青山社長は11月9日の動画で、電子印鑑Agreeは来期にも黒字化できると言っており、電子契約事業を率いる熊谷社長は電子契約でトップシェアを目指しているようなので、今後は黒字化を後回しにして、さらに価格を下げてくる可能性がある。もし月額基本料を5000円まで下げてきたら、10000円のクラウドサインには割高感が出る可能性がある。

ただこの点に関しても、重要なのは電子契約を管理するシステムだと思うので、電子署名の利用料を下げてもあまり意味がないのではないかと思う。今後は電子契約システムの導入のしやすさ(既存システムや他のビジネスソフトとの連携のしやすさ)、使い勝手、サポート体制が重要になってきそうなので、そこで明確に差異化を図れているクラウドサインには分がありそう。

・「当事者型」がないことについて
クラウドサインには「当事者型」のサービスがないが、「当事者型」にも一定の需要はありそうなので、これがネックなる可能性がある。米ドキュサインは日本で「当事者型」サービスを提供するためか、GMOグローバルサインと技術提携している。ただ、クラウドサインでは「高度な認証機能」を使うことにより「当事者型」に匹敵する本人確認ができるようなので(参照)、「当事者型」がなくても特に問題はないかもしれない。手間の多い「当事者型」は今後廃れていく可能性もある。

上記を勘案するとクラウドサインは優位性を保てそう。ただ、まだ理解不足のところもあり、熊谷社長はヤリ手経営者なので楽観するのはまだ早そう。今後も調査は続けていこうと思う。

■補記
今回の調査で思わぬ収穫が2つあった。1つはクラウドサインについて高度に解説したブログを見つけたこと。今回のレポート作成ではこのブログから多大な影響を受けた(ほぼ受け売り(笑))。エムスリーやGMOペイメントのホルダーはやっぱり違うなと思った。

もう1つは熊谷社長の著作『一冊の手帳で夢は必ずかなう』を読んだこと。熊谷社長は”自己啓発オタク”であり、そっち系の本にはあまり興味がなかったのだが、いざ読んでみると生活習慣が一変してしまった(笑)。85歳までの「未来年表」を作ってみたら、俄然やる気が湧いてきた。

0 件のコメント:

コメントを投稿