2023年4月1日土曜日

チャットGPTと株式投資

『AI 2041』(カイフー・リー、チェン・チウファン)に「20年後には大半のアナリストよりAIの方が網羅的で説得力のある投資レポートを1000倍超の速さで書けるようになる。データ収集と構造分析のような地道な作業で人間はAIにかなわない」みたいなことが書いてあった。

現在、米Open AIが開発したチャットGPTが話題になっている。3月に発表されたGPT-4は文脈の理解や論理的推論が向上し、人間をしのぐ「賢さ」を獲得。米司法試験で上位10%の成績を収めるほどに成長したという(3/17日経)。『AI 2041』には「20年後のGPT-23くらいになると、人類の書いたものを全て読み、創作した映像を全て見て、独自の世界モデルを構築しているだろう。この全知シーケンス導入モデルは人類の歴史上の叡智がすべてつまっていて適切な質問にはなんでも答えられるようになるだろう」とある。

AIが進化していくと株式投資の仕方も大きく変わりそう。AIによって株式投資がどのように変わるのか、そのときAIをどのように活用したらいいのかについて考えていく。

まずはGTPのような大規模言語モデルについて調べていく。

■GPTとは
GPTとはGenerative Pretrained Transformerの略で、事前学習済みの、生成型の、転移学習型という意味。このタイプのAIにはまず人間がネット上にある文章をうまく選んで大量にコンピューターに入れ、文字の順序を学習させる。そして文章を自動生成するプログラムを作る。このプログラムをさらに人間らしい文章を生成するように訓練する。そうすることでプログラムが人間の論理的思考を模倣するようになる。このような基礎ができたら、詩やプログラムなど様々な分野の言語を学習させていく、という仕組み。

前バージョンのGPT-3は最高のスパコンを使い、45テラバイト超のテキストで訓練されている。このデータセットは人間が読んだら一生の50万倍の時間がかかるほどの量になる。大規模言語モデルはデータ量や計算能力が高まるほどその精度が向上するという特徴がある。データ量と計算能力は今後も毎年倍々ペースで増えていくので、それに伴いGPTの能力も向上していく。

GPTのような大規模言語モデルAIはこれまでの単一領域の専用AIとは全く異なる。GPTは、詩、プレスリリース、マニュアル作成、作家の文体の模倣など様々なタスクをそれなりに上手にこなす。首尾一貫した会話もできる。この多芸AIは1つのタスクを処理する専用AIの能力をそれぞれの分野で上回る。専用AIはそれ用の学習データを大量に用意する必要があるが、多芸AIは基礎がある分、データ量が少なくて済むという特徴もある。

■得意なこと
・知識のインプット
知識の吸収スピードは驚異的で、人間が一生かかって読むほどの分量を数秒で読み込んでいく。AIは忘れることがなく、疲れ知らずで、休むことなく知識を吸収し続けることができる。今後もAIはどんどん博識になっていく。

・知識のアプトプット
現在のGPTは全分野において修士課程の人くらいに詳しくなっており、それらの知識を瞬時にアウトプットすることができる。

・文章に関連したタスク
プログラミング、長文の要約、指定したキーワードによる文章の作成、報告書・プレゼン資料・仕様書・メールの作成、文字起こし、校閲、データ分析などができる。文章の完成度は高く、2020年にはGPT-3が書いた偽記事が米ニュースサイトのランキングで1位を獲得するという現象も起きている。

・人との対話
雑談相手、カウンセラー、子どもたちの先生、採用面接、カスタマーサービスなどに対応できる。もちろん会話型の検索エンジンにもなれる。発想のヒントを得るための相手としても使える。うまく質問や議論をすればフィードバックや参考情報の提供を受けてアイデアのヒントをもらったり、アイデアを洗練させたりすることができる。

・画像生成
プロ並みのイラストを瞬時に描ける。2022年には画像生成AIで作成した絵画が米国の美術品評会で1位を獲得している。

・パーソナライズやカスタマイズ
深層学習AIは膨大なデータから微妙なパターンを見つけだすのが得意。例えば保険加入の審査をする場合、人間の審査員では職業、収入、家庭状況、資産などの数項目でしか審査ができないが、AIは数千の変数を考慮できる。医療記録、購買記録、行動履歴、予定履歴、通話履歴、交友関係、投資、チャット、相談などの情報を公開情報やスマホアプリなどから入手し、分析して、ユーザーごとに最適なサービスを提供できる。

学習面においては個人を効率的に教えることができる。人はそれぞれ性格も能力も異なるので最適な教え方も一人ひとり異なる。AIはテストを出し、採点し、結果を分析して、勉強の不十分なところを指摘して、個人の能力を効率よく引き上げることができる。また人の瞳孔や体温をモニターし、教え方の効果、影響を分析することもできる。これらのデータが増えるごとにAIは個人への理解を深めていき、より最適化された学習法を提案できるようになる。

・個人の識別、感情の推測
AIは人間の顔、歩き方、手指、音声、ジェスチャーなどで個人を総合的に判断するので、人間よりはるかに正確に個人を特定・認識することができる。また微表情や声のトーン、呼吸、体表温などで感情も推測できる。犯罪捜査でAI生体認証を使い、AI尋問を行えば事件の解決率は高まり、犯罪発生率は下がる。

■苦手なこと
・不正確な回答をすることがある
生成AIは過去に記録されたテキストを学習して、確率的に起きる可能性の高い文章を表しているに過ぎない。そのため必ずしも回答が正しいとは限らない。また過去から学んでいるため未来や未知のことはわからない。AIは自分が知らないということがわからないため、でたらめな回答をしてしまうことも多い。AIは人間によくあるバイアス、偏見や悪意も吸収してしまっているため、思考や考えが偏りやすいという問題もある。大規模言語モデルはアップデートを頻繁にできないので、情報が古くなりやすいという問題もある。このように回答の精度に問題はあるが、その精度は上昇しており、今後も上昇し続ける。米Open AIは、「GPT-4は事実に基づいて回答する確率が前バージョンから40%上がった」と言っている。

・総合的な分析や戦略決定ができない
現在のAIは複雑に概念が絡み合った中から最適な結論を出すことや、そこに至る道筋を見いだすことができない。特にこれまでなかったような解決策を見いだすことはできない。

・抽象概念の理解や意識的な創造はできない
AIは創造的に見える詩や絵画を作成することはできるが、それは単なる組み合わせであり、意識的な創造ではない。AIは目標を絞って最適化することには長けているが、自ら目標を選んで創造することはできない。

・因果推論が苦手
AIは相関関係を見つけるのは得意だが、その因果関係を説明するのが苦手。AIはデータで訓練され、その意志決定は複雑な数学方程式により下されるので意志決定の過程を説明するのが困難。人間にわかるようにするには極端に単純化しなくてはならない。

・意志や感情がない、共感できない
AIは表面的には感情的な文章を書いたり、共感的な対話をすることはできるが、これらは過去に人間が行ったことの模倣であって、実際にAIが感じているわけでも、思っているわけでもない。今後、AIは生体モニターなどから人間の感情パターンを学習していくことはできるが、現在の学習方法で人間のような意志や感情をもつことはない。

■問題点
・個人を操れる
AIのパーソナライズ機能や生成機能を使えば、個人の行動を意のままに操ることができる。2016年の米大統領選挙ではフェイスブックがケンブリッジ・アナリティカ社にユーザーの情報を提供して、有権者の投票行動に影響を与えたが、同じことをGPTで行えばはるかに危険な影響力を及ぼす。

・偽記事や偽動画を作成できる
生成AIを使えば人間には見分けのつかないような偽記事や偽動画を簡単に作れる。それらの情報が大量に作られたら社会は混乱する。

・プライバシーがなくなる、精神状態が悪化する
AIを使えばユーザーのことを、当の本人以上に詳しく知ることができる。ユーザーの好みを知れば類似の情報をいくらでも提供でき、情報中毒に陥らせることも可能。ユーザーは視野が狭くなり、精神状態が悪化する。社会の分極化も進みやすくなる。

・自律兵器を作成できる

・・高度なAIの出現で人類が文明を制御できなくなる恐れがあるとして、3月に米国で高度なAIの開発の一時停止を求める署名活動が始まった。起業家のイーロン・マスク氏も賛同している(3/30日経)。ちなみに米Open AIは、もともとはマスク氏らがシンギュラリティー(AIの人間知能超え)に向けて「AIが悪さをしないようにする」という目的で作られた非営利団体になる。Open AIが営利企業に移行する過程でマスク氏は離脱している。

・著作権に触れる
生成AIは現存するテキストや画像を元にして文章や画像を生成するので、著作権に触れる可能性がある。米国では著作権絡みの訴訟も起きている。

・AIソフトの寡占化
大規模言語モデルは学習に投入する計算リソースやモデルのサイズ、学習データ量が大きくなればなるほど性能が向上するという「スケーリング則」が働くとされる。運用には膨大な電力を必要とし、最先端の巨大コンピューターも必要になる。実質的にこれらを用意できるのは(西側では)米巨大テックのみになる。今後米巨大テックがAIのコア技術を抑える可能性が高い。

GPTのような優れたAIが作られると、「GPTプラットフォーム」も作られ、そこから数千のGPTアプリが作られる。GPTはそれらアプリからデータを吸収し、能力がますます高まっていく。この段階に入るともう後発組は追いつけなくなる。このようなコア技術を海外企業に抑えられた場合、それを止められるとすべての業務が立ちゆかなくなってしまう。安全保障の面でも問題が生じる。

・大量の失業が生まれる、社会が混乱する
AIは多くの業務を人間よりうまくこなせる。しかも24時間年中無休で働き、学習し、改善し続ける。コストはゼロに近い。今後人間がやっていた仕事は容赦なくAIに取って代わられていく。レジ係、裁縫業、工場労働者、ドライバー、カスタマーサポート、翻訳、会計士、税理士、弁護士、放射線科医、保険査定人、ローン審査人、プログラマーなどが消えていく。この事実は莫大な経済的利益を生むが、同時に前例のない失業を生む。

長時間労働が不要になったとき人は空いた時間をどのように使えばいいのか。産業革命以降に生まれた労働倫理は人びとの観念に深くしみついており、キャリアこそ人生と多くの人が思っている。人生を賭けて習得してきた技能をAIやロボットがやすやすと上回っていく様をこれから見ることになる。人生の意義を失う人が増えていく。喪失感と無力感に打ちひしがれた先には薬物やアルコール、うつ病、自殺の増加が待っている。こんな不安な時代には抗議のデモや暴力的な衝突も起きやすくなる。ベーシックインカムも導入されるだろうが、それも絶望を長引かせるだけで真の解決策にはならない。新型コロナウイルスによる社会や政治の混乱はAI経済と比べれば子どもの遊び程度になる可能性が高い。

ではどうするか。時間はかかるが社会を再構築していくしかない。AIは人びとを単純作業から解放し、飢えや貧困を消滅させ、自由に生きられるようにもする。皆が基本的欲求を満たされ、生活の苦労から解放されて、誰もが高次の目標に向けて生きられるユートピアが近づいたともいえる。人間とはなにか、人生の意義とはなにかを深く考える機会にもなる。社会の倫理、企業の責任、政府の役割を再定義し、人間性が輝く経済に作り替えていく必要がある。

どのように経済を変えていくか。これまでの経済システムは「欠乏」を前提として作られてきた。希少な資源をどのように生産、分配、消費に回せば効率的になるのかを追究して経済が作られてきた。「欠乏」がなくなった未来には現在の経済システムは無効になる。欠乏がなくなれば売買や交換という仕組みは必要なくなり、貨幣そのものも必要なくなるかもしれない。もしそうなれば市場も消える。労働、貨幣、理想といった概念を再定義し、多くの人が自己実現に向けて生き始められるような経済に変えていく必要がある。

AIと人間の思考法は本質的に異なるので、人間にしかできない部分はまだまだ残る。また今後AIに刺激されて人間自身も進化する。まずAIと人間の共生関係を作ることが重要になる。かつてヨーロッパでは余暇と自由な時間が増えたときに、人びとが情熱と創造性を発揮してルネサンスが起きた。AI時代でも適切な制度設計があれば、人間の創造性を開花させるルネサンスを起こせるかもしれない。

・無用者階級が生まれる可能性がある
今後人間は生成AIより、より生成的な存在に進化していく必要がある。ただこれには向き不向きがあり、みなが芸術家や研究者、冒険家などの創造的な存在になれるわけではない。一定数の「落ちこぼれ」が生まれるのは避けられそうにない。もしかすると、ユヴァル・ノア・ハラリ氏がいうような数十億人規模の無用者階級が誕生する可能性もある。ただ人間は人間に都合のよいような制度設計ができ、また適応力もあるので、それほどおかしな方向には進まないのではないかと思う。

■2040年以降について
・万能AIはできるか
米Open AIの最終目標は人間のように多様な知的作業をこなす汎用AI(AGI)の実現になる。GPTはこのまま進化してAGIになれるだろうか。結論をいえばAGIの誕生は当分先になる。なぜなら人間の認識プロセスでわかっていないことが多いから。「意識」を例にとってみても、人間の意識を形作る生理的メカニズムさえまだ理解できていない。意識や感情、共感、信頼、戦略的思考などはどうやってモデル化するか。これらの解決には深層学習のようなブレークスルーが10回以上必要だとされている。過去60年で大きなブレークスルーは深層学習の1回のみなので、AGIの誕生はしばらく先になる。

・無料社会はどのようにして誕生するか
エネルギー革命、材料革命、AI・ロボット革命が起これば、必然的に無料社会が実現する。まず現在進行中のクリーンエネルギー革命は、気候変動の危機に対応するとともに、世界のエネルギーコストを劇的に下げる。2040年頃には先進国と一部の発展途上国の主力電源は太陽光と風力発電になっている可能性が高い。これらのコストは過去10年で55~85%下がっているので(3/21日経)、2040年にはもっと下がっている可能性が高い。電力コストの劇的な低下はこれまでできなかった新しい発明や応用を開拓する。肉は動物由来の細胞から室内で合成されるようになり、分子レベルから操作することで新規の食材、材料も作れるようになる。合成生物学は新しいゴム、化粧品、香水、服、プラスチックを作り出す。生産は有限の資源や毒性のある原料を使わず、自然界に豊富にある安価な基礎的物質を使う方向に移行する。そしてAIとロボットによる生産により人件費は大幅に減少する。この先に見えてくるのは衣食住などの基本的な生活コストがほぼ無料の世界。無料のものは食品、衣服、電力、住居といった必需品から始まり、交通、通信、医療、教育、娯楽と広がっていき、あらゆるものが無料になる社会が誕生する。

■まとめ
前置きが長くなったが、AI時代の株式投資はどうなるのか。株式市場は最終的にはなくなりそうだが、しばらくは存在しそう。なくなるまでは情報を集めるのにAIを使っていくのがよさそう。競合企業を調べるのは大変なので、同業他社と比較するときには重宝しそう。AIは総合判断や未来のことを考えるのは苦手なようなので、そこはこちらでやっていきたい。AIは校閲もできるようなので、このブログの校閲にも使っていきたい。

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