2023年4月1日土曜日

オキサイド

 ■調べようと思ったきっかけ
12/22の東スポ記事「レーザーテックと株式持ち合いをしていて、同社向けのレーザ光源を独占供給している。しかも半導体(露光装置)最大手ASMLもオキサイドから納入していて、世界シェアを独占している。ほかにも超高品質なSiCウエハを共同開発する国の補助金事業も有望。半導体の演算処理を電気ではなく光で処理する次世代技術でもキーになる会社で”超”将来性がある」を読んで。

■どんな会社か
光学単結晶やそれを用いたレーザ装置を開発、製造、販売する会社。事業分野は「光計測・新領域事業」「半導体事業」「ヘルスケア事業」の3つ。3月にイスラエルの企業を買収したことにより、新たに「宇宙・防衛事業」「美容事業」「量子暗号事業」「エネルギー事業」が加わった。

オキサイドの主力3事業についてみていく。
<光計測・新領域事業>
研究開発に特化した事業で、すべての事業はここを起点に始まる。売上高は全体の1割程度になるが、研究開発人員の約30%を投入しており、オキサイドのコアの部分になる。研究開発するものは国内外のメーカーや大学から相談を受けた光学単結晶や光の波長変換技術領域のもので、実需があり難易度の高いもののみになる。付加価値の高いものが多く、研究開発の段階ですでに黒字化している。

<半導体事業>
半導体ウエハの検査装置メーカー向けに光学単結晶を販売している。また半導体ウエハ製造企業向けにレーザ検査装置を販売している。半導体向けの深紫外レーザ光学単結晶の世界シェアは約20%、7nm以下の半導体ウエハの深紫外レーザ検査装置は世界シェア約95%になる。オキサイドのレーザ検査装置は信越化学工業、SUMCO、TSMC、サムスン、インテルなどで使われている。

レーザ検査装置で使う光学単結晶は1~2年で寿命がくるため、定期的に光学ユニットの交換が必要になる。このメンテナンス事業ではマーケティング費用が発生せず、受注単価が高いため利益率も高い。収益構造はストック型になる。この事業の半導体事業に占める売上高は現在2割程度になる。レーザー検査装置の販売は始まったばかりなのでこの事業の売上比率は今後上がっていく予定。

<ヘルスケア事業>
ガンや認知症の診断に使われるPET-CT検査装置に搭載されるシンチレータ単結晶を開発、製造、販売している。この分野における世界シェアは20%程度あり、拡大傾向にある。

【オキサイドの強み】
オキサイドの競争力の源泉は高度な単結晶育成技術になる。様々な原料を混ぜ合わせ、それぞれの原子(分子)配列がまったく同一な単結晶の作成は難しいが、オキサイドは欠陥の少ない高品質な単結晶を作ることができる。先端半導体ウエハの検査で使われている紫外レーザーは高いエネルギーを使うため結晶が劣化しやすく、従来の製品では耐久時間が2週間からもって1ヶ月程度だった。オキサイドはそれを1年以上に引き上げた。オキサイドほどの光学単結晶を作れる企業は国内外に存在しないともいわれいてる。Forbes2021/4

【業績】
2019年2月期 売上高26.0億円、営業利益1.0億円
2020年2月期 売上高30.6億円、営業利益1.2億円
2021年2月期 売上高35.7億円、営業利益3.6億円
2022年2月期 売上高47.5億円、営業利益5.9億円
2023年2月期(予) 売上高58.7億円、営業利益5.1億円
*2023年2月期の業績予想は、当初、売上高64億円、営業利益9億円だったが、第3四半期に下方修正した。これはレーザ検査装置の製造で問題が生じたため。

2022年2月期の各事業の売上比率は半導体事業が52%、ヘルスケア事業が36%、光計測・新事業領域が12%になる。海外売上高比率は71%(うち米国が45%)になる。海外への販売はほぼすべて円建てで行っているため為替変動の影響は少ない。

光学単結晶の原料は基本的に安価なものが多い。オキサイドはそれを結晶にして原価の500~1000倍に高付加価値化しているため、販売が増えると利益率が高まりやすい。

オキサイドが掲げる業績面での経営目標は、売上高成長率20%、営業利益率10%になる。営業利益率10%には研究開発投資を継続する意志が反映されている。

配当はなし。自己資本比率が50%以上、フリーキャッシュフローが安定的になれば配当も考えるとのこと。

設備投資のピークは前期(2023年2月期)になる。


■成長ストーリー
「超高品質単結晶でグローバル・ニッチトップ10個」が基本シナリオ

AIや5G(6G) 、量子コンピューターが普及する21世紀は「光の時代」ともいわれている。そこでは光の波長を調整する光学単結晶やレーザ装置が非常に重要なものになってくる。オキサイドは光学単結晶の分野で世界トップになることを目指している。

主な成長戦略は3つ。既存事業の成長、新領域の事業化、M&Aになる。

<既存事業の成長>
現在の一番の成長ドライバーは半導体事業になる。この事業の売上は年40%超の勢いで伸びており、オキサイドによるとこのペースを維持していくとのこと。半導体ウエハの市況は一部で悪化しているが、7nm以下の先端ウエハの工場建設は旺盛なため、オキサイドの事業への影響は今のところない。現在は生産が追いつかない状況で、生産能力の増強が課題となっている。2023年4月から新工場が稼働するので、生産能力は徐々に高まっていく予定。

2番目の成長ドライバーはヘルスケア事業になる。この事業の売上は年15~25%のペースで伸びている。世界のPET-CT装置の成長率は年5%程度だが、オキサイドが提供する単結晶は競争力が高いので、シェア拡大により現行の成長ペースを維持できそう。

PET-CT装置の市場拡大も期待できる。2023年1月にエーザイと米バイオジェンのアルツハイマー認知症薬の治療薬「レカネマブ」がFDAから迅速承認を受けた。日欧でも近々承認される予定。アルツハイマー認知症の診断には頭部専用PET-CTでの検査が必要になるので、検査装置需要が高まる可能性が高い。なお、2019年の世界のがん患者数は約1400万人になるが、アルツハイマー型認知症は5500万人になる。国際アルツハイマー病協会は2025年にそれが1億5200万人に増加すると予想している。エーザイは2030年にレカネマブの売上高が世界で1兆円規模になると予想している(3/10日経)。頭部PET-CT市場はガンPET-CT市場くらいまで拡大する可能性がある。

<新領域の事業化>
光学単結晶の応用範囲は広く、オキサイドは事業領域の拡大を進めている。5Gや量子コンピューター、固体電池など新しいアプリケーションが出てくると新しい素材ニーズが生まれ、オキサイドはそれらに合わせ研究開発を進めている。顧客は足元で160社・機関を超えており、これらの顧客から最新の技術動向を得ている。

現在取り組んでいるパイプラインは16。この中で事業インパクトが大きくなりそうなものを上から順に5つほどみていく。

・SiC(炭化ケイ素)ウエハ事業
SiCウエハとは、従来のシリコンウエハに炭素を混ぜ合わせたもので、高温下・高電圧下でも安定して作動し、電力損失が少ないウエハになる。このような特性があるため、SiCパワー半導体はEV(電気自動車)向けなどで需要が急拡大している。現在、シリコン製のパワー半導体は送電線や電車などにも使われているが、今後はこれらのパワー半導体もSiCパワー半導体に置き変えられていくとされる。
*パワー半導体とは電力の制御を担う半導体

ただ、現在流通しているSiCウエハは、欠陥密度が高く、製造コストが高いという問題を抱えている。オキサイドは名古屋大発のベンチャーUJ-Crystalと組んで、それらの課題を解消する開発に取り組んでいる。現時点ではまだ研究段階にあるが、AI技術(プロセス・インフォマティクス)の導入などにより、結晶作成は順調に進んでいる。

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【SiCウエハの製造について】
オキサイド以外の全メーカーは昇華法という方法でSiC結晶(SiCウエハ)を製造している。SiCは固体から液体にならずに、いきなり気体になるという性質がある。そのため結晶にする場合は気体から固体にして結晶を作る必要がある。気体から固体に結晶化する過程では急激な温度変化が生じて欠陥密度の高い結晶になりやすい。

オキサイドは溶液法という方法でSiC結晶を作る。溶液法ではケイ素の液体の中に炭素を溶かし込んで結晶を成長させていく。温度的にマイルドな環境で結晶を成長させるため欠陥密度が昇華法の300分の1程度と高品質な結晶ができる。また作る手間が減り成長も早いのでコストも下がる。昇華法では難しい厚みのあるインゴット(塊)も作れる。

【SiCウエハにはN型とP型がある】
N型は主にEVなどに使われ、P型は発電インフラ、送電インフラなど、より電圧の高いデバイスに使われるため、P型の方が付加価値が高い。昇華法でP型を作る場合は非常に手間がかかるが、溶液法ではN型と同じようにシンプルな方法で作ることができるため、オキサイドはまずはP型の開発に取り組む。
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開発の大まかな計画は、2023年3月にSiCウエハの工場が完成し、2024年のサンプル出荷を目指す方向。溶液法での巨大SiC単結晶の量産化が成功すれば、世界中の先端素材メーカーから注目が集まり、おそらくオキサイドは世界的なメーカーになる。他のメーカーとライセンス契約する可能性も出てくる。

オキサイドのSiCウエハ事業は国のグリーンイノベーション基金に採用されており、2022年3月から8年間、国の援助が受けられる。最初の2年間は全額分の助成を受けられる見込み。

SiCウエハの市場規模は2022年に約630億円、2024年に約1000億円、2026年に約1500億円になると予想されている。オキサイドはここでシェア10%をとることを当面の目標としている。

・量子暗号通信事業
米中を筆頭に量子コンピューターの研究開発が加速している。量子コンピューターの特徴は処理速度が極めて速いことで、最新スパコンの数万倍のスピードがある。ただ高性能な量子コンピューターが完成した場合、現在使われている通信暗号が破られてしまうという問題がある。安全な通信を行うには量子暗号通信が必要になる。オキサイドは横国大発のスタートアップLQUOM(ルクオム)と提携して、情報を安全に送受信できる量子暗号通信ネットワークの構築を目指している。オキサイドはルーターに使う波長変換素子や量子メモリに使う光学単結晶を提供する予定。

量子技術の市場規模は2025年で3兆円、2050年には約70兆円になると予想されている。なお、2023年3月に買収したライコル社は量子暗号の領域ですでに数億円の売上がある。

・アイソレータ単結晶
これは5G(または6G)で使う単結晶で5Gで安定した通信を確保するために使われる。この分野でオキサイドは最後発のメーカーにはなるが、国内の5G普及は遅れており、参入のタイミングは間に合ったもよう。競合は米コヒレントと国内のグラノプト。通信分野で使う波長は0.8~4ミクロンくらいになるが、オキサイドはそのニッチ領域を攻めている。

・GaN(窒化ガリウム)ウエハ用単結晶「SAM」
GaNウエハは中電圧デバイスに適した素材で、「SAM」はそのウエハの基板となる結晶。オキサイドの結晶を使うと欠陥密度が従来の半分くらいまで減少し、より高性能なGaNパワー半導体を作れるようになるという。2021年にサンプルを集荷し、現在は評価待ち。多数のメーカーから引き合いがあり、今のところ評判は上々とのこと。

・フェムト秒レーザー
フェムトとは10の-12乗という意味で、フェムト秒レーザーとは1兆分の1秒にパルスレーザーが出る装置。このレーザーは熱を出さずに微細加工ができる点が特徴で、有機ELやマイクロLED、医療用ステントなどの製造に使われる。オキサイドはデンマークのNKT Photonics社(現・浜松ホトニクス子会社)と提携し、258nmのフェムト秒レーザーを開発し、サンプル出荷している。今のところ高評価を受けているとのこと。先行メーカー2社は343nmのフェムト秒レーザーになる。現在、あらゆる分野で製品の微細化が進んでいるので、258nmのフェムト秒レーザーの需要が高まる可能性がある。

<M&A>
海外の専業メーカーは上場後にM&Aを繰り返しながらどんどん大きくなっている。オキサイドもそれを見習う。そもそもオキサイドはこれまでM&Aをして大きくなってきた。半導体事業はソニーから買収した事業になるし、ヘルスケア事業は日立から買収した事業になる。オキサイドはその買収した企業の生産性を100倍以上に高めて成長してきた。今後もこの必勝パターンを繰り返して大きくなっていく予定。

M&Aの方法は外部の調査機関やコンサルを使わず、日本電産のように自社で調べて交渉するというスタイル。オキサイドは専門家集団(社員の約3割が博士、修士、MBA取得者)で経営されており、中長期のビジョンも共有されているため、意志決定は早いという。投資に対するリスク、メリットがクリアなため、交渉はスムーズに進むことが多いという。

今後は買収だけでなく、スタートアップの支援なども行っていく。オキサイドはもともと国立研究所である材料・物質機構発のスタートアップで、創業してから約20年間、経営のノウハウを蓄えてきた。ディープテック分野では、量産化や安定生産、資金調達など特有の難しさがあり、大学発のスタートアップでは創業者である教授が雑務に忙殺されて研究に専念できないことが多い。オキサイドは経営の基本的な部分を支援し、優秀な研究者が本業に専念できる環境を作っていく。

【3月に買収したライコル社】
オキサイドは2023年3月にイスラエルのRaicol Crystals(ライコル社)を34億円で買収した。この会社はオキサイドと同じ光学単結晶メーカーであるが、オキサイドと被る製品や技術はなく、補完関係にある。

期待できるシナジーは4つ。1つは事業領域の拡大になる。ライコル社は「宇宙・防衛」「美容」「エネルギー」「量子暗号」領域で事業を行っており、買収によりオキサイドはそれらの分野へ進出できる。

2つ目は新素材の開発になる。ライコル社の得意とするフラックス法とオキサイドの単結晶育成技術を融和させることにより新材料を開発することができる。

3月24日にオキサイドは米大学発スタートアップのHT Crystal Solution社と資本業務提携した。IR資料には「HTCS社にて開発された新材料は、ライコル社にて大型化と量産化を進め、オキサイドで製造するレーザ装置に搭載することを見込んでいる」とある。今後はこういったパターンの開発も増えていくのかもしれない。

3つ目はラインナップの拡充になる。製品ラインナップを充実させることで顧客にワンストップで製品を提供できるようになる。量子暗号分野にいたっては、ユーザーが求めるほぼすべての種類の波長変換素子とメモリ用結晶を提供できるようになる。

4つ目は営業面のシナジーになる。ライコル社は欧米、トルコ、中国、シンガポール、韓国、インドに営業所を持ち、オキサイドにもまた別の販路網がある。ライコル社にはオキサイドにはない経験・知見もある。今後はそれらが合わさることにより、両社製品のクロスセルや新規顧客の拡大、世界的な販路網の強化が期待できる。

ライコル社の4事業についてみていく。
<宇宙・防衛分野の事業>
ライコル社の光学単結晶はレーザー高度計やレーザー照準器、対象物との距離を測るレーザーファインダーなどで使われている。レーザーファンダーは年20%程度の成長が見込まれている。ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な動きにより世界の軍事費は増加傾向にあり(1/30日経2/15日経2/16日経)、ビジネスチャンスは大きい。オキサイドは単体では米国の宇宙・防衛分野に入ることはできなかったが、今回の買収で参入のチャンスができた。この分野で求められる品質は高いので技術力の向上も期待できる。

<美容分野の事業>
ライコル社の単結晶はレーザー脱毛やタトゥー除去、シミ・ソバカス除去などで使われるパルスレーザーの波長変換素子や高速光スイッチなどで使われている。販売先は韓国、フランス、米国になる。近年、美意識の高まりから世界的に美容レーザー市場が拡大しており、2030年まで年18%程度成長すると見込まれている。

<エネルギー分野の事業>
ライコル社の単結晶はスマートグリッドの電界センサーとして使われている。販売先は米国になる。スマートグリッドとは電力の流れを供給側と需要側の両方から制御し、最適化する送電網のこと。近年急速に普及している。
*従来の電力網は発電所からユーザーへの一方向の電力供給だったが、現在は太陽光発電などいろいろなところで発電があり、双方向の電力の流れが生まれている。そのため電力網を双方向にする必要があり、スマートグリッドが生まれている。スマートグリッドでは送電線の電圧や電力などをモニターするセンサーが必要になり、そのセンサーにライコル社の結晶が使われている。米国のスマートグリッド市場は2027年まで年18%の成長が見込まれている。スマートグリッドは米国だけでなく、今後世界中で必要になってくる技術なので、この分野の事業は大きなビジネスになる可能性がある。

<量子分野の事業>
量子もつれ光を発生する単結晶と素子を製造し、米国、カナダ、ドイツ、韓国などの研究機関や企業に販売している。この分野はまだ研究開発の段階にあるが、ライコル社はすで数十社、数十機関とのビジネスがあり、数億円の売上がある。オキサイドも量子分野の研究を始めており、2社でやれば量子分野の一部の領域ではシェアをほぼ全てとれる見込み。オキサイドはこの分野の売上が3億、5億と伸びていくと予想している。

【ライコル社の業績】
2019年12月期 売上高11億円、営業利益0.5億円
2020年12月期 売上高10億円、営業利益1億円
2021年12月期 売上高11億円、営業利益0.9億円
2022年12月期(予)売上高16億円、営業利益?億円

2022年12月期の各事業の売上高比率は、宇宙・防衛が41%、量子分野が22%、美容分野が19%、その他が8%になる。エネルギー分野は2023年12月期からで8%程度になる見込み。オキサイドとの連結決算は2024年2月期の第2四半期からになる。

■問題点
・競合の参入
半導体分野の266nm紫外レーザー単結晶ではオキサイドが市場を独占しているが、355nm紫外レーザー単結晶の市場を独占していた米コヒレントがこのまま黙って見過ごすとは思えない。参入してきたらオキサイドの脅威になる。

ただオキサイドが作る単結晶は欠陥がほとんどないため、それ以上の品質の結晶を作るのは難しそう。またオキサイドは競争力の高い競合品が開発されることを念頭に研究開発を進めているので、結晶の長寿命化や製造コスト削減の追求に余念がない。コヒレントが参入してきたとしてもシェアを大きく奪われる可能性は低そう。

とはいえ、米国勢はAIやロボットを使った研究の自動化(ラボラトリーオートメーション)に長けていそうなので、早々に追いつかれる可能性もある。この点は注視していきたい。

ヘルスケア分野の競合は米クリスタル・フォトニクス社になる。オキサイドは毎年クリスタル社のシェアを侵食していっているので、クリスタル社がいつ反撃に出てもおかしくはない。ただ結晶の品質を高めるには製法を抜本的に変える必要がありそうなので、反撃はできなさそうでもある。この点も注視していきたい。

なおシンチレータ単結晶はもう一社作っているところがあるが、その会社はPET-CT装置を作っている会社なので競合にはならない。

・市況の影響を受けやすい
半導体分野の紫外レーザ単結晶やレーザー検査装置の需要は半導体メーカーの設備投資需要と連動するので、市況が悪化するとオキサイドの業績も悪化しやすい。現在は「シリコンサイクル」で需要が停滞期にきているので、半導体設備投資需要は弱含んでいる。ただ、オキサイドが手がける製品は需要が旺盛な先端もののみなので今のところ影響はない。先端ものに特化していけば、今後も市況の影響をあまり受けずに済みそう。

ヘルスケア分野のシンチレータ単結晶の需要もPET-CT装置メーカーの需要動向に左右されるが、医療機器産業は安定成長しやすいなので特に問題なさそう。

・米中対立の影響を受ける可能性が高い
米国は2022年10月から中国への先端半導体の輸出を制限している。その規制は足元で強化されており、同盟国である日本もその規制に追随する方針(3/17日経産業)。10~12月期の中国向けの半導体装置輸出額は日本が前年同期比16%減、米国が50%減、オランダが44%減とすでに規制の影響が出始めている(3/29日経)。オキサイドが手がける紫外レーザー単結晶やレーザ検査装置は先端向けの半導体に使われるのでこの規制の影響を受ける可能性が高い。オキサイドの取引先であるKLAなどはすでに一部製品の中国への販売を停止している(2/15日経)。オキサイドの半導体事業の中国向け売上高は10%程度ありそうなので(要調査)、その分業績が下押しされそう。

・SiCウエハ市場はレッドオーシャン
SiCウエハ市場は巨大なので競合が山ほどいる。世界シェアの6割を握る米ウルフスピードは約8500億円の増産計画を推進中で、今後10年で生産能力を10倍に増やす方針。中国では国を挙げて半導体事業をバックアップしており、SiC関連の企業が続々と誕生している(2/9日経産業)。三菱電機も1000億円を投じ、SiCウエハーの生産能力を5倍に増やす計画(3/14日経)。オキサイドが作るSiCウエハのコスト競争力は高いようだが、大量生産されたSiCウエハには価格で太刀打ちできない可能性がある。ただ品質は差別化できているので、総合的に見ると活路はありそう。

・ライコル社の強みが見えない
ライコル社にはオキサイドのように市場を独占している結晶がない。パワー不足の会社の場合、オキサイドとのシナジーはあまり期待できない。ただ目利き力のあるオキサイド経営陣が過去最大の資金を投じて買収した会社なので、この点はそれほど問題ないのかもしれない。

・一部新事業が停滞しているようにみえる
GaNウエハ基板用「SAM」やアイソレータ単結晶はサンプル出荷を始めてから2年くらいたつが、その進捗がほとんどないように見える。もしかすると需要がほとんどないのかもしれない。ただオキサイドはサンプル出荷時に「サンプル出荷が今後3年間に業績に与える影響は軽微」といっているので、この業界ではこのくらいのペースが普通なのかもしれない。

・量子暗号通信の実用化は当分先
楽観的な予測では、量子コンピューターは今後5~10年で実用に耐えるものが開発されるとも言われている。しかし量子は極めて繊細なもので、ほんのささいな振動や電気的干渉、温度変化、磁場変化などに弱い。そのため実用的な量子コンピューターには高真空、超伝導材料、超低温環境などのまったく新しい技術開発をする必要がある。また量子コンピューターの実用運用に成功したとしても、これまでの二進法ビットで動くコンピューターとはまったく異なるプログラム(量子ビット)で動くのでアルゴリズムを1から開発しなければならない。これらの問題を考慮すると量子コンピューターの実現には10~30年程度かかりそう(参考『AI 2041』)。オキサイドが量子暗号通信分野で収益を拡大させるのは当分先になるかもしれない。

・レーザ検査装置の生産で問題が発生している
前第3四半期にレーザー検査装置の生産で問題が発生した。海外から調達する一部部材で不具合が多発したのが原因という。1月時点では不具合の原因が根本的にはわかっていないようなので、今後また同じ問題が発生する可能性がある。ただ、オキサイドは相手企業と製造プロセスの検証、管理を進めており、「長期にわたって影響が継続することはない」といっているので、長期的には問題なさそう。

・シンチレータ単結晶の採算が悪化する可能性がある
シンチレータ単結晶の一部部材はレアアースを使っており、そのレアアースは価格変動が大きい。価格が高騰した場合、価格転嫁しきれず採算が悪化する可能性がある。ただ今のところは製品の競争力が高いため原料価格の上昇があった場合は価格に転嫁できているという。

・設備投資が重い
オキサイドはコテコテの製造業なので設備投資費が重い。IT企業のように少ない設備投資費で業績を急拡大していく展開は期待できない。現金もそれほどないので、今後はコンスタントに増資をする可能性がある。

・円建て取引
オキサイドは海外企業とのほぼすべての取引を円建てで行っている。円建て取引は為替変動の影響を受けにくいという利点はあるが、今後は長期で円安が進んでいきそうなのでドル建て取引に変えたほうが利益が増えそう。また海外との取引では価格競争力が高まりそう。ドル建て取引にしたほうがよさそう。

・社長がやや高齢
社長は現在64歳とやや高齢。社長は技術と経営に通じており、英語も話せる。この手の人材はなかなかいないので、大半の事業が軌道に乗る前に社長が何らかの理由で抜けた場合、ピンチに陥りそう。

・会社が山梨の奥地にある
オキサイドが山梨で創業したのは、結晶産業が盛んな山梨から依頼を受けてのことになる。山梨県からの支援や山梨大学のクリスタル科学研究センターから人材の供給は期待できるが、立地的な魅力が薄いため都市部から優秀な人材が集まりにくいという問題がある。ただ上場後は優秀な人材が集まってきているようなので、それほど問題はないのかもしれない。

・大株主がオキサイド株を売る可能性がある
2021年6月に東証が施行した改訂コーポレートガバナンス・コードにより、株主持ち合いに対する市場の見方が厳しくなっている。2022年6月には大株主の1社である日立ハイテクがオキサイド株を全株売却した。NTTアドバンスやKLA、ニコン、レーザーテックなどの大株主もオキサイド株を売却する可能性がある。それら企業の持ち株を合計すると全株式の20%くらいあるので、売るとなったらそこそこの売り圧力になりそう。

・空売りが多い
機関投資家5社が空売りしており、合計空売り比率は約4%ある。これは単なる割高感からの空売りだとは思うが、なにか他に問題がある可能性がある。今後も調査を続けていきたい。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか 強度:★★★★
・参入障壁は高いか ★★★★ 超高品質な光学単結晶の作成は難しいので参入障壁は高い。またニッチ分野なので参入は少ない。ただSiCウエハは参入障壁の低いレッドオーシャンになる。

・ストック型収益か ★★★☆ 景気や顧客の設備投資の動向に業績が左右されるので基本的にはフロー型になる。ただ現在の事業分野での需要は安定的にあり、市場をほぼ独占しているので実質的にはほぼストック型になる。

・潜在市場は大きいか ★★★★★ デジタル社会や脱炭素社会では光学単結晶やレーザーの需要は尽きることがなさそう。

■今期の業績予想と妥当な時価総額
【2024年2月期の業績予想】
売上高は91億円、営業利益は9億円
この内訳は
半導体事業 売上高42億円(前期比35%増)
ヘルスケア事業 売上高22億円(前期比15%増)
光計測・新領域事業 売上高8.5億円(前期比15%増) 
ライコル社の事業 売上高18.5億円(前期比15%増)

【妥当な株価・時価総額】
考慮するポイントは
・業績:24年2月期の売上高93億円、営業利益9億円
・今後3年の売上高成長率:年20~30%
・今後3年の営業利益率:8~15%
・財務状態:自己資本比率約40%、流動資産約70億円、現金約20億円、流動負債約35億円
・ビジネスモデルの強度:★★★★
・現在の不透明感:★★★

これらを勘案すると、PSR(売上高・時価総額倍率)は4~5倍くらいになりそう。
現在の妥当だと思う時価総額は364~455億円、株価は3650~4550円くらいになる。

■チャート
4500~4750円くらいが当面の天井になりそう。底は3000円くらいになりそう。

■まとめ
ニッチ市場で競争力があり、新規事業も有望なので長期で大きく成長できそう。今のところ大きな問題は見当たらないので株価が大きく下げることがあれば買い増したい。

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