2月にOpenAIなどの生成AI企業が高度なリサーチ機能を搭載した「Deep Research」の提供を開始した。これを使うとネット調査が非常に楽になりそうなので、どのようなものか調べてみた。
■Deep Researchとは
AIの「論理思考モデル(推論モデル)」にウェブ検索機能をつけたモデル。ネット調査に特化した、いわばネット調査エージェント。
従来の「大規模言語モデル」は、事前に学習した内容から機械的に即答するタイプなので、複雑な思考(計算)を伴うような課題はうまくこなせなかったが、「論理思考モデル」は人間のように順序を踏んで考えてから結論を導き出すので、複雑な課題をこなすことができる。現時点では東大入試(数学)を突破するくらいの思考力がある(3/11日経)。この「論理思考モデル」にウェブ検索機能をつけたDeep Researchは、ネット上の膨大な情報源から必要な情報を収集・分析し、統合して包括的なレポートを作成することができる。
Deep Researchは、引用元や参照サイトのURLを明示し、レポート作成にかかる時間は3~20分程度、文字数は3000~12000字(文書作成ソフトで2~10ページ相当)になる。現在は公開情報のみにアクセス可能だが、将来的には企業や個人が保有する非公開データにも対応する予定。OpenAIのサム・アルトマンCEOは「博士号を持つ人より優れたAIを目指す」としており、近い将来、あらゆる分野で人間を超える調査レポートを作成できるようになる可能性がある。
■どのようなときに使うか
Deep Researchは科学研究、事業調査、観光スポットや食べ物の情報収集、病気や健康関連の調査、製品比較、時事問題の分析など、幅広い分野の調査で使える。未知の分野でも、適切な指示を与えれば、わかりやすいレポートを作成してくれる。
■使い方
1,Deep Researchモードを起動し、調査課題を与える。
2,AIが追加の質問をしてくるので、それに答える。
3,AIがリサーチを開始し、レポートを作成。
4,レポートを批判的に読みつつ、気になる点があれば質問して掘り下げる。
AIへの指示は具体性があるほど回答の精度が上がるので、詳細な条件設定や指示を行うことが重要。事前にChatGPT-4oなどを使ってプロンプトを精査し、Deep Researchに適した指示を作成してもらうのも有効。
*『メタトレンド投資』の著者であり、テックマニアでもある中島聡さんはメルマガ3/18で「日本語でプロンプトを書くと日本語でウェブ検索を行い、日本語の情報ソースを使ってしまうので、英語圏の調査をする場合は一旦プロンプトを英語に翻訳した方が質の高いレポートをつくってくれる」と言っている。実際に試してみると、確かにPerplexityではそんな感じだった。しかしOpenAIやGoogleのDeep Researchでは日本語で質問しても、状況に応じて英語の情報ソースを使ってくれるように感じた。
■Deep Research比較
Deep Researchは複数の企業が提供しており、それぞれ異なる特徴を持つ。今回は、それぞれに自分がよく知るプラスアルファ・コンサルティングに関するアナリストレポートを作成させ、比較をしてみた。
・Perplexity:調査は4分とスピーディで、内容も3ページくらいで簡潔にまとまっていた。1日5回までの使用なら無料で使える点もいい。しかし、レポートは情報をつぎはぎしただけのような感じで、誤った情報が多く生成された。情報としては使えそうになかった。
・Grok:Perplexityと似たような感じ。文章はより簡潔になっていたが、簡潔すぎて意味が読み取れないところもいくつかあった。
・Gemini:これはDeep Research機能が使えるようになった直後の2月16日頃と、3月の半ば頃に2回同じ指示を出してみた。1回目の調査では誤情報が多く含まれていたが、2回目の調査では精度が著しく向上しており、誤情報は見つからなかった。ただし、会社の問題点の指摘はあいまいで、結論が楽観的すぎるように感じた。
・OpenAI:これが最も優秀に感じた。調査時間は10分くらいかかり、文字数は1万文字くらいあって、読むのは少し大変だったが、内容は詳細・正確で文章もわかりやすかった。ただこの調査でも問題点の認識は甘く、結論も楽観的で、自分の所感とはだいぶ異なっていた。
今回の調査ではこのようになったが、AIは進化が速く、プロンプト次第でアウトプットの質が大きく変わるので、これが結論というわけではない。今後もいろいろ試して、それぞれの特徴や使い方を探っていく必要がありそう。
*テックマニアの中島さんはメルマガ3/4で、「現時点では、Perplexityが、最も便利だと感じて、私は毎日のように使っています。漠然としたイメージですが、OpenAIのDeep Researchは、博士号を持った人を雇ってレポートを書かせるイメージで、PerplexityのDeep Researchは、コンサルタント会社の人を雇ってレポートを書かせるイメージです。通常のビジネス用途であれば、Perplexityのもので十分だと思います」と言っている。
■問題点
・誤情報のリスク
Deep Researchは従来モデルよりハルシネーション(幻影・誤情報)が抑えられているようだが、まったくないわけではない。利用時は引用元の確認が必須になる。
・情報アクセスの制限
Deep Researchはオープンソースの情報しかアクセスできず、有料情報や非公開情報、ログインが必要な情報にはアクセスできない。そしておそらくだが動画情報にはアクセスしていない。これらの情報にアクセスできないと、分析が浅くなる。現時点では、この部分はユーザーが補う必要がありそう。
・高い計算コスト
生成AIは普通の検索の10倍の計算量を必要とするとされ、Deep Researchはその100倍の計算量を必要とするともいわれるので(2/27日経)、その分、利用料金が高くなる。環境負荷も高い。
・人間の分析力の低下
AIが調査や分析をすべてやってくれるので、人間の調査力、分析力、思考力が退化する可能性が高い。そうなると、AIが書いたレポートを読んでも、適切な意志決定ができなくなる。
・人間のアルゴリズム化
AIは自ら決定を下すことのできる史上初のテクノロジーになる。AIの意志決定が人間よりすぐれている場合、人間はAIに依存するようになり、自分では意志決定をしなくなる可能性が高い。今後は仕事や結婚相手など、人生における重要な判断もAIに委ねるようになる可能性がある。そうなると人間は実質的にAIアルゴリズムの一部になる。
・社会的混乱の可能性
「論理思考モデル」のAIは知能そのものをコモディティ化する。そうなると教育や職業のあり方が大きく変わり、社会が大混乱する可能性がある。
■まとめ
現時点でDeep Researchは完璧なAIアナリストとはいえないが、急速に進化しており、完璧になるのは時間の問題になりそう。それまでは、人間がAIのできない部分を補っていく必要がありそう。
Deep Researchの進化が進めば、このブログで行っているような株式投資のリサーチは一瞬で完了し、「株式投資エージェント」がすべてをこなしてくれる未来が訪れるかもしれない。とはいえ、それはもう少し先の話なので、それまではDeep Research機能を使って株式投資を楽しんでいこうと思う。
■後記
ChatGPTが登場してすぐくらいのときに、ブログで「チャットGPTと株式投資」という記事を書いた。そこには『AI 2041』という本を参考に、「2041年にはAIアナリストがあっという間に人間を超える調査レポートを書く」みたいなことを書いたような気がする。
今はまだ2025年。ChatGPTが登場してからまだ2年くらいしか経っていない。現時点ですでにAIアナリストが人間のアナリストを凌駕しつつある。AIの進化が驚くほど速い。速すぎる(笑)。今後さらに進化が加速して人知を超える状況になっていきそう。そうなったとき株式市場はどうなっているのかまったく見当もつかないが、当面はAIを活用しながら適応していくしかなさそう。
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この文章をOpenAIのDeep Reserchに校閲してもらった。プロンプトは「次のレポートの事実確認・論理性チェック・追加情報の提案をしてください。」
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誤りや曖昧な表現の指摘と理由:
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「論理思考モデル」の表現: 現状のAIモデルには論理的推論を強化したものが登場していますが、「論理思考モデル」という言い方は曖昧です。例えばOpenAIは2025年1月末に**推論に特化した新モデル「o3」**を公開し、数学や科学分野の推論性能を大幅に向上させています (「ChatGPTが東大入試解いてみた」驚く結果の中身 新しい「o3」が登場、人間はどう向き合うか | 学校・受験 | 東洋経済オンライン)。記事ではこのことを指していると思われるため、具体的に「推論に強いAIモデル(例:OpenAIのo3)」といった表現にすると読者に伝わりやすくなります。
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「東大数学レベル」の表現: 最新のAIが東京大学入試の数学問題を解けるレベルに達しているという記述は、現状に即しています。ただし、その意味するところを明確にしましょう。実際、OpenAIの「o3」モデルを用いたChatGPTは、2025年度の東大入試数学で合格ラインを大きく上回る成績を示しました (「ChatGPTが東大入試解いてみた」驚く結果の中身 新しい「o3」が登場、人間はどう向き合うか | 学校・受験 | 東洋経済オンライン)。わずか12分で東大受験生上位1%相当の点数を取ったとの報告もあります (「ChatGPTが東大入試解いてみた」驚く結果の中身 新しい「o3」が登場、人間はどう向き合うか | 学校・受験 | 東洋経済オンライン)。このように「東大入試数学を合格以上の成績で解ける」と具体的に書くと正確です。
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各AIツールのDeep Research機能評価: 記事中のPerplexity・Grok・Gemini・ChatGPTに関する評価が、2025年3月時点の事実とやや異なる可能性があります。それぞれの特徴を最新情報に基づき補足します。ChatGPT(OpenAI)のDeep Researchは、強力な推論モデル(o3)によって最も詳細で論理的なレポートを生成できますが、出力が冗長になりがちとの指摘があります (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)(プロンプト指定によっては13,000字を超える長文回答になることもあるためです)。Gemini(Google)はGoogle検索連携で幅広い情報を集め構造化された回答を返しますが、現状では一部に不確かな情報が混在したりMarkdownの表作成に失敗するケースが報告されています (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)。Perplexityは自動で多数の検索クエリを投げて多面的に情報を分析する点が優れており、表形式で見やすくまとめるなど実用性が高い反面、ごく一部で中国語の文字が混ざる・価格情報が現実と合わないといった不備もみられました (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)。Grok(xAI)はX(旧Twitter)上の投稿まで検索できるユニークさがある一方で、回答内容は簡潔すぎたり事実と異なる創作が混じる傾向が指摘されています (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)。記事では各サービスの強み・弱みを現状に即して記述する必要があります。
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誤情報のリスク: AIによる誤情報生成(ハルシネーション)のリスクについての記事の指摘は妥当です。大規模言語モデルはもっともらしい誤った内容を生成することがあり、Deep Research機能を使ってもこの問題が完全になくなるわけではありません (AIへの過度な依存は「考える力」弱める?最新研究が警鐘 - CNET Japan)。例えば2023年には、ChatGPTがでっち上げた判例を弁護士がそのまま提出してしまい、罰金処分を受けた事例があります (Two US lawyers fined for submitting fake court citations from ChatGPT | ChatGPT | The Guardian)。このようにAIの出力には信ぴょう性の検証が欠かせないことを、具体例とともに補足すると説得力が増します。
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情報アクセスの制限: Deep Research機能でもアクセスできない情報源が存在する点は技術的背景に沿った指摘です。実際、一部の有料記事やログインが必要なコンテンツ、公開されていないデータにはAIも直接アクセスできません。ユーザー報告では、オープンアクセスの論文であってもAIが誤って「ペイウォール(有料壁)のためアクセスできない」と判断するケースもありました (OpenAIのディープリサーチは実際には良いが、Googleのは...|AGIに仕事を奪われたい)。したがって「公開Web上の情報に限りがある」ことや「ペイウォール等で取得不能な場合がある」旨を明記すると現実に即します。また、各サービスとも利用回数や速度に制約(例:ChatGPTはPlusで月10回まで (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)、Perplexityは無料ユーザー5回/日まで (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch))があるため、その点も「アクセス制限」として補足できます。
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高い計算コスト: AIによる自動大規模調査には非常に高い計算リソースが必要である点もその通りです。ChatGPTのDeep Researchは完了まで5~30分程度かかる場合もあり (〖徹底比較〗5つの「Deep Research」を比べてみた!|ChatGPT研究所)、OpenAIでは大量の調査実行には高額の料金プランが設定されています (ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grokの「ディープリサーチ」を比較してみた - Impress Watch)。これは裏を返せば計算資源=コストが大きい証拠です。記事でも「処理時間が長く(=計算資源を大量消費し)、提供側のコストも高い」ことに触れておくと、読者がサービスの価格や利用条件を理解しやすくなるでしょう。加えて、この計算コストの高さは消費電力など環境負荷にもつながるため、効率化が今後の課題である点も補足し得ます。
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人間の分析力の低下: AIに依存しすぎることで人間の批判的思考や分析スキルが衰える恐れがあるという指摘も論理的かつ社会的に重要な観点です。実際の研究でも、生成AIに情報集約を任せきりにすると人間の批判的思考力発揮の機会が減る可能性が示唆されています (AIへの過度な依存は「考える力」弱める?最新研究が警鐘 - CNET Japan) (AIへの過度な依存は「考える力」弱める?最新研究が警鐘 - CNET Japan)。ただし因果関係はまだ断定されていません (AIへの過度な依存は「考える力」弱める?最新研究が警鐘 - CNET Japan)。記事では「便利さと引き換えに、自分で考察する機会を奪われるリスク」がある旨を述べ、最新の研究知見 (AIへの過度な依存は「考える力」弱める?最新研究が警鐘 - CNET Japan)を引用して裏付けると、主張に信ぴょう性が増します。
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AI依存のリスク: AIへの過度な依存は個人や社会にさまざまなリスクをもたらし得ます。この点も記事で言及されていれば妥当です。例えば、先述の法律事例のように専門家がAIを鵜呑みにして誤った判断を下すケース (Two US lawyers fined for submitting fake court citations from ChatGPT | ChatGPT | The Guardian)や、AI無しでは意思決定できなくなる事態も考えられます。また、AIシステムが故障・停止したときに業務が立ち行かなくなるリスクや、AIのバイアスに気付かず偏った結論を採用してしまう危険もあります。これら技術的・社会的背景を踏まえ、「AIをツールとして適切に位置付け、人間の最終的な判断や専門知識と併用すべき」といったバランス感覚を促す一文を加えることを提案します。
全文修正案:
以下、オリジナルのブログ記事「AIアナリスト Deep Research」の文章に対し、専門的な観点から修正提案を埋め込んでいます。
AIアナリスト「Deep Research」が拓く新時代
昨今、AIの発展には目を見張るものがあります。特に注目すべきは、人間のアナリスト並み、あるいはそれ以上の調査力を持つとされる新機能「Deep Research」の登場です 。これは一度の指示でAI自らがインターネット上の情報収集から分析・レポート作成までを行うもので、ビジネスインテリジェンスの在り方を変える可能性があります。
論理思考モデルの搭載で飛躍的進化
最新のAIでは、より高度な論理思考モデルが搭載され、複雑な問題にも一貫した推論ができるようになっています。例えば、このモデルにより難解な数学問題や科学的課題への対応力が向上し、AIが東大数学レベルの問題にも取り組めるようになりました。2025年度東大入試の数学では、ChatGPT(o3モデル搭載版)が150分の試験を12分で解き、上位1%相当の得点を記録したとの報告があります 。つまり、AIが高度な数理的推論や論証を行える土台が整いつつあるのです。
さらに、これらのAIは情報収集と統合の能力も備えています。インターネット上に公開された膨大なテキスト・データを横断的に検索し、関連情報を取捨選択して統合的な知見を引き出すことが可能です。ただし取得できるのは公開情報のみで、ペイウォール付き記事などは参照できません。これにより、AI自らがエビデンスに基づいたレポートをまとめ、人間はその結果をレビューするだけで済む未来が現実味を帯びています。
主要サービスのDeep Research機能比較
現在、「Deep Research」機能は複数のAIサービスで提供され始めています。代表的なChatGPT(OpenAI), Gemini(Google), Perplexity, **Grok(xAI)**の4つについて、その特徴を見てみましょう。
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ChatGPT (OpenAI) – OpenAIが提供するChatGPTでは、2025年2月にDeep Research機能が追加されました。これは月額有料プラン(Plus)のユーザーが利用でき、AIエージェントが数十件以上のウェブ検索を自動で行い、詳細なレポートを返してくれます。背後には高度な推論モデル「o3」が使われており、論理的一貫性と問題解決能力に優れた回答が得られる点が売りです。一方で、内容が冗長になりすぎて読みにくいとの指摘もあります。「○○ページ程度で」と指示するなどの工夫が必要でしょう。処理時間は課題で、1回のDeep Research完了まで5~30分程度かかる場合があります。これは人間の分析に匹敵するプロセスを踏んでいるためで、計算コストの高さを物語っています。
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Gemini (Google) – Googleが開発中の大規模言語モデルGeminiにもDeep Research相当の機能が搭載されています。GeminiはGoogleの強力な検索インフラと直結しており、学術論文やニュース記事など信頼性の高い情報源も積極的に参照できるとされています。他方、一部に曖昧な情報が混じるケースが確認されています。例えば最新テストでは、生成された表に誤った形式の部分がありました。
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Perplexity – 新興のAI検索サービスPerplexityも、Deep Research機能で頭角を現しています。ユーザーの質問に対し、関連するキーワードで自動的に何百もの検索を実行し、見つかった複数の情報源を読み込んで統合した回答を提示します。特徴は、その回答に出典(参考リンク)を明示してくれる点で、ユーザー自身が元情報を検証しやすい設計になっていることです。実際、ある比較調査では用途に応じたおすすめ提案まで含められており「1つの読み物として楽しめる、勉強になる」と評されました。フォーマット面でも、美しい表組みで各項目を比較するなど視覚的にわかりやすい回答を生成しました。ただ、テスト時には文章中になぜか中国語らしき文字が紛れ込む、小売価格の表示が実勢とかけ離れて低すぎるなど細かな誤りも散見されました。元ネタを省略しすぎて背景知識がないと理解しづらい部分もあったとの指摘もあります。全体的には非常に有用ですが、提示された情報の検証や不足部分の補完はユーザー側で行う必要があります。
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Grok (XAI) – 2023年末にイーロン・マスク氏が立ち上げたxAIが提供するGrokも、Deep Researchに類似した「Deep Search」機能を持っています。リアルタイムのトレンド分析やSNS上の声を調査レポートに取り込める可能性があります。一方で、現時点のGrokの回答精度には課題があります。さらに一部には事実と異なる架空のジョークのような記述も見られ、情報の信ぴょう性にやや欠ける結果となりました。価格や重量の表示も米国式(ポンド・ドル表記)で日本人には馴染みにくい面があるなど、ローカライズや精度の改善が望まれます。とはいえ、今後のアップデートでモデル自体の性能向上が図られれば、他に追随できるポテンシャルを秘めています。現在は無料でも試用可能なため、限定的な用途であれば試してみる価値はあるでしょう。
Deep Research活用における課題とリスク
強力なAIリサーチャーとも言えるDeep Research機能ですが、その活用にあたって留意すべき課題やリスクも指摘されています。
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誤情報(ハルシネーション)のリスク: どれほど高性能なモデルでも、事実と異なる回答をそれらしく生成してしまうリスクはゼロではありません。例えば、ChatGPTはありもしない学術論文の内容や架空の法律判例をでっち上げて回答してしまうことがあります。実際に2023年には、ニューヨークの弁護士がChatGPTの提示した架空の判例を本物と信じて裁判所に提出してしまい、罰金を科される事件が起きています。このケースでは、AIの回答がもっともらしかったために人間が検証を怠り、結果として重大なミスとなりました。
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情報アクセスの制限: Deep Researchは「インターネット上のあらゆる情報」にアクセスできるように思えますが、現実にはアクセス可能な範囲に限りがあります。まず、前述の通り有料記事や非公開データには基本的にアクセスできません。たとえ論文がオープンアクセスで公開されていても、AIがそれを正しく認識できずアクセスを断念してしまう例も報告されています。また、サービス利用上の制約として、一度に取得できる情報量や実行回数にも上限があります。先述したようにChatGPTやGeminiは利用回数に制限があり、Perplexity無料版も1日5回までと定められています。このような技術的・利用規約的な制限が存在する点にも留意が必要です。
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計算コストの高さ: AIが人間顔負けの深掘り調査を行う裏側では、莫大な計算リソースが消費されています。、これは裏を返せばその間GPUサーバがフル稼働していることを意味します。提供企業にとっても計算コスト=サーバ費用が非常に高く、だからこそ高度な調査機能は有料プランで提供される場合が多いのです。実際、ChatGPT EnterpriseではDeep Researchを月100回利用するのに月200ドル程の料金設定となっています。ユーザーとしては、一見無料や定額で使えてもその裏の計算資源には限りがあることを理解し、本当に必要な場面で賢く使うことが求められます。
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人間の分析力低下: 手軽に高度な分析結果が得られる一方で、人間側の分析・思考力が低下する懸念も指摘されています。AIに頼りきりになると、自分で情報を調べ咀嚼する機会が減り、長期的には批判的思考力や問題解決力が錆び付いてしまう恐れがあります 。特にAIの回答を無批判に信頼する人ほど、「考える労力が省けた」と感じやすい一方で、自分の専門知識に自信がある人ほどAI回答の検証に時間を割いていました。これは、AIを使うほど効率は上がるが確認作業に時間を割かなければ誤情報を掴むリスクがあることも意味します。したがって、AI活用と人間の思考力維持とのバランスを取ることが今後ますます重要になるでしょう。教育現場でも「AI時代に人間が鍛えるべきはどのような力か」という議論が始まっています。
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AI依存のリスク: 上記とも関連しますが、AIへの過度な依存そのものがリスクです。個人レベルでは、AI無しでは調査・分析ができなくなったり、自分の判断に自信を持てなくなったりする可能性があります。組織レベルでも、AIシステムに依存しすぎると、もしそのAIサービスが停止した場合に業務が滞るリスクや、AI特有のバイアスに気付かず意思決定を誤るリスクがあります。実際、「AIがそう言うから」という理由で人間の専門家の判断を覆した結果、問題が生じた例も報告されています。このように、人間の「最終チェック」を省いてしまうことがAI依存の最大のリスクと言えます。したがって、「AIアナリスト」はあくまで優秀な補佐役と位置付け、人間は最終的な判断者であり続ける姿勢が求められます。
おわりに:AI時代のリサーチとの向き合い方
AIのDeep Research機能は、適切に使えば信頼できる情報に瞬時にアクセスし、分析業務を飛躍的に効率化する力強いパートナーとなります。一方で、その能力を過信すれば思わぬ落とし穴に陥る可能性もあることを私たちは知っておかねばなりません。誤情報のチェック、ツールの制約の理解、人間の思考力の維持――これらを怠らずにAIアナリストと協働していくことで、初めて真価を発揮できるでしょう。
私たち人間の役割は、AIがもたらす知見を批判的に検討し創造的に活用することです。Deep Researchが普及する今こそ、「何をAIに任せ、何を自分で考えるか」を見極める力が問われています。AIと人間、それぞれの強みを生かした新しいリサーチの在り方を模索し、未来の知的生産性を高めていきましょう。
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