2025年4月1日火曜日

市場環境

株式市場への影響が大きい企業業績(EPS)、金利、金融政策などを見ていく。

■EPS成長率
・世界株式の2025年の予想EPS成長率は-5~10%。
・米国株式の2025年の予想EPS成長率は7~15%、2026年は7%。
・中国株式の2025年の予想EPS成長率は0~10%。
・欧州株式の2025年の予想EPS成長率は-10~5%。
・日本株式の2025年の予想EPS成長率は6~10%。


■経済成長率
・世界の2025年の予想GDP成長率は3.0~3.3%、2026年は3.0~3.3%。
・米国の2025年の予想GDP成長率は1.7~2.7%、2026年は1.6~2.1%。
・中国の2025年の予想GDP成長率は4.1~4.8%、2026年は4.4~4.5%。
・ユーロ圏の2025年の予想GDP成長率は1.0~1.7%、2026年は1.2~1.4%。
・日本の2025年の予想GDP成長率は0.8~1.1%、2026年は0.2~0.8%。
・インドの2025年の予想GDP成長率は6.5%、2026年も6.5%。
*数値はIMFとOECDと世界銀行の予想。1/17日経3/18日経など

*世界の経済成長率が3%を下回ると不況感が強まるとされる。ただし、デジタル経済で増している経済厚生(経済的幸福度)は成長率には反映されにくいので、見かけほど不況感は強まらない可能性もある。
*経済規模を示すGDPは1年間で生み出された付加価値額の総和になるが、デジタル経済で生み出されたサービスの大半は公共財に近い性質があるので、金銭的な数値には反映されにくい。

*コロナの影響で2020年の日本のGDPは落ち込んでいるが、消費者のお得感を示す消費者余剰は増えている。野村総研がネットの利用時間などを基に消費者余剰を試算したところ、2020年にデジタルサービスから生まれた消費者余剰の総額は日本全体で200兆円を超えている。16年時点では160兆円程度なので4年で25%ほど増えたことになる。2020年のGDPは16年比で2.4%減っているが、消費者余剰との合計では4%増加した計算が成り立つ。日々の生活の満足度が向上していれば、GDPの落ち込みほど豊かさは失っていないともいえる。

*GDPの算出でデータが生み出す価値を捉える取り組みが始まる。現在は、デジタルを使ったサービスや取引が広がっているにもかかわらず、データが生み出す価値を十分に補足できていない。今後はデータやデータベースの整備が設備投資として計上される。これまでこれらはコストとして処理されてきた。新基準を導入すれば日本の名目GDPは1~2%押し上げられるという試算がある。1/9日経


■インフレ
・米国の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・欧州の2025年の予想インフレ率は1.8~2.6%。
・日本の2025年の予想インフレ率は1.5~2.5%。
*ブレーク・イーブン・インフレ率とは市場参加者のインフレ予想を反映する代表的な指標。通常の国債と物価連動国債の利回り差から算出する。ブレーク・イーブン・インフレ率は実質金利を算出するときなどに使われる。


今後のインフレ動向を、インフレ要因とデフレ要因を一通りあげて考えていく。

<インフレ要因>
・人手不足で賃金が上昇している。米国においては求人件数が700万件程度まで減ると賃金上昇率が3%程度まで落ち、FRBの2%物価目標と整合するとされる。1月の求人件数は774万件とまだ少し多い。3/12日経

*米最大の求人プラットフォームを運営する米Indeedは2024年5月に米国の求人件数について「ここから18カ月、あるいは24カ月程度減少を続けた後で底を打つ可能性が高い」(出木場久征社長)と言っており、2025年2月の決算時でも荒井執行役員が「少なくとも当期はこれまでの見方から変わらない」と言っている。2/13日経

*米国ではフルタイム労働者が減少しており、パートタイム労働者が増加している。過去のケースではこのようにフルタイムが減り、パートタイムが増えた場合は、時間をおいて、雇用者全体の伸びが急減速している。

*米国では移民が急増しており、企業の求人を埋めている。移民は「弱い雇用」と呼ばれるパートタイムの割合が高いとされる。このようなケースでは、雇用が増えても賃金はあまり上がらない。ただし、大量の移民は家賃の上昇圧力にはなる。

・脱炭素シフトでエネルギー価格や資源価格が上昇している。脱炭素シフトにより2030年まで年0.7~1.0%程度の物価押し上げ効果が見込まれている。
*脱炭素シフトが完了すれば再生可能エネルギーは強力なデフレ圧力になる。

・財政拡張が物価を押し上げている。米国では積極財政が生んだ累積的な「財政ショック」が2023年の米インフレ率を0.5%押し上げたと推計されている。財政要因は直近の数四半期でも0.6~0.7%の押し上げ寄与があると推計されている。
*世界的に選挙が相次ぐ2024年は財政拡張が進みやすくなる。
*政府債務の増加が通貨の価値低下につながっている。米国、ユーロ圏、日本の世界3大基軸通貨国すべてで政府債務が過剰な状態にある。通貨の購買力が落ちている。

・トランプ大統領の関税引き上げ政策もインフレ圧力になる可能性がある。トランプ大統領は中国、カナダ、メキシコに対して関税を大幅に引き上げると公言している。これらが実施されればインフレ率を0.5~1ポイント程度押し上げると試算されている。ただし現実にはこれらの引き上げは一部にとどまる可能性が高い。前トランプ政権時の18年に、米国は中国、欧州連合に対し、関税を引き上げたが、米国のインフレ率は低位で安定していた。今回も関税引き上げ政策は単なる交渉材料になる可能性が高い。
*関税は消費税と同じで、消費者の購買意欲を落とす側面もある。景気抑制的な政策なので、インフレ効果はない可能性もある。

・ウクライナや中東地域の戦争によってエネルギーコストが上昇しているが、足元では落ち着きつつある。

・異常気象や世界人口増、新興国の経済成長、バイオ燃料需要、肥料価格上昇、ウクライナ戦争などにより、食料価格が上昇傾向にある。農作物・肥料価格の先行指標である農業ETFは高値圏で推移している。

・経済の脱グローバル化(グローバル化の再構築)で製造が自国生産にシフトし生産コストが上昇している。

・世界の生産年齢人口が2010年代にピークアウトしている。今後は労働者が減る一方で人口は増えるので供給が追いつかなくなる可能性がある。

・米欧でインフレやAIへの不安などからストライキが頻発している。

・株高による資産効果で消費が落ちにくくなっている。


<デフレ要因>
・これまで世界中の中央銀行が強力な金融引き締めをしていたので、金利は平時と比べまだ高い水準にある。金利高は需要を減らす効果がある。

・経済のデジタルシフトが加速している。デジタル経済で登場している財やサービスは既存のものより便利で安価なものが多い。例えば、検索やSNSは無料で、ネット上では価格比較を簡単にできるため売り手は超過収益を得にくくなっている。スマホが登場してからはカメラやオーディオプレーヤー、電子辞書などが売れなくなっており、1億曲超をいつでも自由に聴けるSpotifyは月980円で利用できる。複製コストゼロのデジタルソフトやシェアリングサービスの普及などもあり、価格は下がりやすくなっている。
*市場競争が起こっている財(商品・サービス)は、差異化が図れない場合、価格が限界費用(追加生産コスト)まで低下する性質がある。デジタル財は限界費用がゼロに近いので、競争が起きると価格がゼロに近づく。

・イノベーション(新結合・技術革新)が加速している。今はインターネットやAIにより、情報や人やモノの「新結合」が起こりやすくなっている。イノベーションも強力なデフレ圧力になる。

・AIやロボットを活用した産業の「自動化」により、生産コストが低下している。

・世界的に経済成長率が鈍化傾向にある。過去40年で米国の潜在成長率は3%前後から2%前後に低下している。

・富の集中が加速している。デジタル経済では資本やアイデアの出し手に富が集中しやすくなっている。富裕層の支出性向(収入に占める支出の割合)は低い。

・世界的に少子高齢化が進んでいる。子どもが減って高齢者が増えると総需要が減る。

・人手不足で成長力が低下している。

・米国やOPECの原油増産により、エネルギー価格が下がり始めている。


以上をまとめると、インフレは落ち着きつつあるが、人手不足や保護主義、環境規制、紛争、財政ショックなど影響で、以前のような超低インフレに戻る可能性は低い。米国のインフレ率は2025年に2.4%くらいになり、その後は1.8~2.8%あたりで推移しそう。

日本においては、国力の低下から円安は止まりそうになく、円安の影響で2%程度のインフレが持続する可能性が高い。インフレが高進した場合はキャピタルフライトが加速し、さらに円安・インフレが進む可能性もある。とはいえ、日本は少子高齢化社会なので、需要の基調は弱い。インフレが進むとしても比較的穏やかなものになりそう。

超長期で考えると、世界ではエネルギー革命や材料革命、AI・ロボット革命が進み、超デフレ(無料社会)になる可能性がある。


■金利
・米国の政策金利は4.25%で、3ヶ月金利は4.29%、2年金利は4.01%、10年金利は4.33%、30年金利は4.68%になる。
・日本の政策金利は0.50%、2年金利は0.87%、10年金利は1.57%、30年金利は2.56%になる。

*名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は資金の流れを決める最大の材料になる。実質金利がマイナスの状態では、国債を買ったり銀行にお金を預けたりすると実質的に損をするので、株式や不動産、商品などに資金が流れやすくなる。逆に実質金利がプラスの状態では国債などの「無リスク資産」に資金が集まりやすくなる。現在、米国の実質金利はプラス圏にあり、「無リスク資産」に資金が流れやすくなっている。日本の実質金利はいまだマイナス圏にある。

*現在の債券は魅力的な水準まで利回りが高まっている。たとえばリスクのほとんどない米2年債は利回りが4.01%もある。その他の質の高い債権にも魅力的な利回りのものが多くなっている。今後利回りがさらに上がる可能性もあるが、急上昇期はすでに終わった可能性が高いので、株式などのリスク資産より、債券に資金が流れやすくなっている。

*投資家は企業が将来生み出すであろう利益から金利分を割り引いて企業価値を算出する。金利が上がると割り引く分が多くなり、将来の予想利益は減る。将来の利益創出期待が大きいグロース企業ほど割り引く分は多くなり、理論価値が下がりやすくなる。

*銀行は短期金利で資金を調達して、長期金利で企業などに貸し出して利ザヤを得る。しかし長短金利が逆転すると逆ザヤになるので融資が減る。その結果、企業の投資も減り景気が後退しやすくなる。

*景気拡大期の「良い長期金利上昇」では、株価も上昇する傾向がある。過去の例では長期金利上昇よりも政策金利を引き上げたときの方が株式市場へのネガティブな影響が大きい。

*景気拡大期終盤に金利が上昇すると、資金の流れが「借り入れ」から「返済」に転換し、資金の逆回転が起こる。過去のバブル崩壊は全てこの金利上昇がきっかけになっている。

*利上げ局面で中銀が利上げを停止すると市場は急速に利下げを織り込み始め、株高が続くことが多い。警戒が必要なのはその後になる。金利が高い中での株高は危うい株高となり、なにかのきっかけでショックが起こることが多い。過去を振り返っても、利上げ終了後は1年ほど株が上がり、「サブプライムローン」の破綻などがショックの引き金を引くことが多かった。過去の例では、「○○ショック」は懸念された箇所からではなく、疑いもしなかったところから起きていることが多い。今回米中銀は2023年9月頃から利上げを停止している。

・FRBの利上げ局面における株式相場は「1,金融緩和の終了を嫌気した調整」→「2,利上げ中盤にかけての良好なファンダメンタルズを好感した上昇」→「3,利上げ終盤の過度な引き締めを懸念した反落」→「4,利上げの打ち止めを好感した反発」→「5,ファンダメンタルズの悪化を織り込んだ大幅な下落」という経過をたどることが多い。今は4の状態に近い。


■債務
・世界の債務はコロナ禍で急拡大し過去最高水準のGDP比336%に達している。ただし、コロナ禍の経済対策により、家計や企業、金融機関の財務状態はコロナ前よりも健全になっているためデフォルトが急に増える状況ではない。

・銀行の財務状態は比較的良好だが、銀行に比べて規制・監督体制の緩い「シャドーバンク(ノンバンク)」の債務は急拡大している。世界のファンドや年金基金、保険会社などノンバンクの金融資産は21年に239兆ドル(3京6000兆円)と07年比で2.4倍に増え、銀行を大きく上回っている。ノンバンクは信用力の低い企業へ融資することが多く、今後も融資は拡大していく見通し。ノンバンクによる企業向け融資(プライベートクレジット)は金融規制の対象外にあるためデフォルトリスクを把握しづらい。金利が高止まりし景気後退に陥ればデフォルト率が7%くらいまで上昇する可能性がある。
*プライベートクレジット事業者は2008年の金融危機後に設立されたところが多いため、デフォルトの影響は未知な部分が多い。
*銀行は預金者のお金を貸し出しているため、その資本は損失に備えて厳しい監視下に置かれている。一方、プライベート資産を運用するプライベート・デッド・ファンド(以下PD)は機関投資家から調達した資本そのものを貸し出しているので、規制は銀行に比べて緩い。銀行が破綻すれば預金者は保護されるが、PDが破綻しても機関投資家は保護されない。

*米国の金利の高止まりは、ノンバンク業界を直撃する。ノンバンクは通常、リスクの高い借り手に高い金利で貸し付ける。金利高止まりの影響で借り手の返済能力は落ち不良債権が増えている一方で、貸し手の資金調達コストは上がっている。ノンバンクでは時価会計を行っていない運用会社が多いため、問題があっても資金繰りが苦しくなるまでそれが表面化しないことが多い。商業用不動産市場では価格が半分になったものも珍しくない。高金利の下で経済に内在する不安定要素は増している。

・プライベートエクイティ(未公開株)ファンドでは投資回収が難しくなっている。PEファンドが抱える未売却企業は約2万8000社、3兆2000億ドル(約500兆円)相当に及ぶ。

・米金融市場では商業用不動産が大きな”爆弾”になっている。商業用不動産の10年間の価格上昇率は日本が20%なのに対し、米国は50%になっている。米国の商業用不動産向け貸出額は2010年から2023年まで約2倍に膨らんでいる(日本は同期間に3割増)。一方で、リモートワークの浸透や金融引き締めによるオフィス需要の低下によりオフィスの空室率は20%に迫っている。金利上昇により商業用不動産向けの融資基準は厳格になるなか、2024年に80兆円規模の償還期限が到来する。そこで借り換えができない場合、物件は市場で売却されるため、市場価格の調整圧力はかなり大きくなる。米欧ではGDPに占める商業用不動産の割合が1~2割に高まっているため、不動産バブルが崩壊すれば米経済は大きく下押しされる。米不動産ファンドは世界中に分散投資しているため、ファンドのリバランスで世界中の商用不動産に売りの連鎖が波及する恐れがある。
*2024年はそつなく借り換えが進んだもよう。次の山場は2026年以降になる。

足元で米商業用不動産を取り巻く環境はじわじわと悪化している。商業用不動産の中でもとりわけ深刻なのはオフィスビル。23年後半から融資のリスクが急激に顕在化し、30日以上返済延滞している案件の割合は過去10年で最悪となっている。商業用物件の取引数は、過去最低レベルで低空飛行中であり、今年後半以降に増加するローンの満期に耐えられるかどうか懸念されている。ただ、商業用不動産の貸し手は比較的小規模な銀行が多く、銀行の健全性は以前より格段に高まっているため、デフォルト率がある程度高まっても、銀行システム全体の危機に発展する可能性は低い。

住宅用不動産も”爆弾”になりつつある。金利の上昇に加え、保険料など維持費も上昇しており、空室率は高止まりしている。マンション向け融資残高は23年末に約2兆2000億ドル(約345兆円)と、焦げ付きが顕在化しつつある商業用不動産向け融資の6割に達している。マンション向け融資の延滞率は2024年1月に0.44%となり、リーマン危機の水準を上回り過去最高を更新している。リーマン危機の際には、延滞がピークに達してから貸し手の損失がピークに達するまでに約2年を要している。24年と25年には5000億ドル(71兆円)の融資が返済期限を迎える。借り換えに失敗すれば割安な価格で不動産を手放さざるを得ず、価格下落に拍車がかかる恐れがある。

・米政府の公的債務のGDP比率は07年の35%から22年には97%まで高まっており、53年には181%まで上昇する見込み。

*金利が経済成長率を下回っている状態では、企業は財務レバレッジを効かせるだけで(低金利で社債を発行して自社株買いをするなど)で利益を手にすることができるので債務が膨らみやすくなる。政府も多少の財政赤字を続けていても債務残高のGDP比を一定の水準に維持できるので債務が膨らみやすくなる。

*今は企業がお金を借りて経済を牽引しなくなった分、政府がお金を借りて経済を下支えする構造になっている。政府がお金を借りて経済を下支えすると財政赤字は膨らむが、民間需要が足りていない中でそれをしないと、景気悪化を招き、財政赤字がさらに膨らみやすくなる。

*債務拡大ペースがGDPの成長速度を上回る状態が続くと、どこかで必ず資金の逆回転が起こる。債務拡大ペースはここ10年以上、毎年GDPの成長速度を上回っている。

・中国は2013年に労働人口がピークアウトしているので、今後は経済成長減速と同時に社会保障費が増加し、政府債務が膨張しやすくなる。2023年は過去最大の財政赤字(約74兆円、GDP比3%)を計上する見通し。
・22年6月の中国の非金融部門の債務残高はGDP比295%に達し、98年3月末の日本の296%と肩を並べている。

・中国は前例のない投資主導経済を20年にわたって続けている。過去40年間に消費のGDP比は53%から38%へ低下し、消費が投資を下回り続けている。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造になる。多くの資産が健全資産とはいえず、不良資産が積み上がっている。
*一方、米国では労働者に購買力を与え、生活水準を向上させることで需要を創造してきた。過去40年間に米国の消費のGDP比は60%から68%に上昇している。

・新興国のドル建て債務の増加も著しく、10年前の約2倍(約500兆円)まで増えている。足元ではドル高が続いており実質的な返済負担が増している。一部の国ではデフォルト懸念が高まっており、デフォルトがいったん起きればドル高が一段と進み、デフォルトが連鎖しやすくなる。

・新興国の債務残高は22年3月に1京3000兆円とリーマン危機直後の4倍まで増えている。債務破綻の危機に直面する新興国が増えている。


<バブルについて>
バブルとは投資家が借金をして資産を買いまくることにより起こる現象。現在バブルは発生しているが、その投資主体は民間から政府(中央銀行)にシフトしているので(2/26日経)、バブルは破裂しにくい。政府が資産を売却すればバブルは破裂するが、政府債務は実質的に返済不要なので資産を大きく売却する可能性は低い。足元で一部中銀はインフレ対策として資産の売却を進めてはいるが、インフレが落ち着けば売却をやめるので、”中銀バブル”が完全崩壊する可能性は低い。
*”究極の安全資産”とされる米国債は、米政府の債務膨張によりその安全性が下がっている。今は高格付け企業の社債のほうが安全性が高いと評価されている。2/14日経


■金融政策、財政政策
・世界の大部分の中央銀行は金融緩和に転じている。

*米ゴールドマン・サックスは、景気後退を予防する目的の利下げや、インフレが落ち着いた後に行う利下げでは株高が発生し、景気後退を伴う利下げでは株安が発生すると分析している。今回の利下げは前者のタイプなので株高が発生しやすい利下げになる。米JPモルガンも似たようなことを言っている。

・日本の中央銀行は世界の大多数の中央銀行とは対照的にインフレ対策として金融引き締めをしている。ただ国内需要は弱く、世界中の中銀は金融緩和に動いているので、金融引き締めは非常に穏やか。日銀のバランスシート膨張や政府債務の拡大も金融引き締めをしにくくしている。

*米国や日本は現在、財政赤字拡大を容認する現代貨幣理論(MMT)のような金融・財政政策をしているが、歴史的には中銀の貨幣発行によって財政赤字の穴埋めをしてきた国は、インフレを制御できなくなり、投資や成長が著しく落ち込むという結果に終わっている。
*MMTとは自国通貨で借金ができる国は破産することがなく、高インフレを招かない限りは財政支出のしすぎを心配しなくてよいという政策。提唱者のケルトン教授によると、財政支出を拡大してインフラや教育、研究開発に投資すれば長期的に国の潜在成長率を高めることができ、財政赤字を縮小できるという。高インフレ問題についてはインフレ防止条項(増税など)を入れておけば問題ないという。
*MMTで潜在成長率を高められなかった場合は、膨張した政府債務を国民が増税や高インフレで負担しなければならない。
*MMTで高インフレになった場合、中銀は金利をあまり引き上げられない。中銀のバランスシートの質はすでに劣化しており、そこで金利を上げたら自己資本がさらに劣化し、さらに金利が上昇するという悪循環に陥ってしまう。日銀は政策金利を1%まで上げると2年程度で債務超過に陥るとされる。FRBは政策金利を3.0~3.8%まで上げると金利収支が「逆ざや」に転じるとされる。ECBも金利引き上げにより財務状態が危機的な水準に陥る可能性が高い。
*MMTは日本が行っている金融・財政政策とは若干異なる。MMTは財政再建を重視せず、中央銀行を政府の支配下に置くが、日本の政策の場合は、政府は一応は財政再建を目指し、中央銀行は政府から独立している。


■政治
・日本の政治は比較的安定しているが、財政収支は悪化の一途なので、長期の見通しは悪い。
・海外の政治は不安定。ただウクライナや中東地域の紛争は次第に落ち着いていきそう。ただトランプ大統領はロシア寄りで、欧州との亀裂が広がっている。3/8ヴェリタス
・米国はトランプ大統領の”ディール”外交やマスク氏の政府リストラなどでやや混乱気味。事業環境の不透明感から投資が落ち込む可能性がある。ただ、短期決戦で終わらせるようなことも言っているので、じきに不透明感はなくなるのかもしれない。
・米国と中国の覇権争いは、ハイテク・軍事分野を中心に長期にわたり続きそう。
・米国では資本主義と自己責任社会の帰結として、格差拡大が続いており、民主主義が機能不全に陥りつつある。近い将来、大規模な政治的分断が起こる可能性が高い。
・米国は典型的な衰退期に入ったという見方もある。マクロ分析の専門家であるレイ・ダリオ氏は、国家のサイクルは「新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ」「平和と繁栄を迎え支出と債務が過剰になるステージ」「財政状況が悪化し内戦、革命に向かうステージ」の3つのステージに分けられ、現在の米国は衰退期に属する3つ目のステージに入ったと言っている。

・中国は政府が「共同富裕」のスローガンを掲げ規制を強化しているので、民間の活力がそがれつつある。国外からの投資も、各種規制やスパイ法などの影響で著しく減っている。この調子でいくと中長期でも経済成長が減速していく可能性が高い。中国共産党が一党支配を最優先する限り、この傾向は続き、最終的に中国はロシアのような国になる可能性がある。
*23年の海外勢の対中直接投資額は21年の51兆円の1割程度まで落ち込んでいる。
*中国共産党の一党体制はますます強化されている。

・中国経済がかつての日本のようなデフレに陥りつつあるという見方が強まっている。日本は1990年代から不良債権、雇用、設備の3つの過剰に悩まされた。中国も今同じ3つの過剰に悩まされている。当時の日本は欧米市場へのアクセスが確保され、海外に活路を求められた。しかし今の中国は米国と対立し、欧州でも中国製EVを締め出す動きが広がっている。米欧の半導体輸出規制により先端半導体の調達にも支障をきたしており、技術的にも追い詰められつつある。
・レイ・ダリオ氏は「中国は今後100年間続く嵐に突入しつつある。バブルが崩壊し、試練が続くだろう」と言っている。

・EUは域内で財務格差が広がりつつあるが、コロナ危機やウクライナ戦争などの危機でEU加盟国の結束は強まっており、政治は比較的安定している。


■その他の景気後退シグナル
・米景気の先行指標である米住宅着工件数はピークアウトしているが依然高水準にある。
*景気拡大期の終盤に入ると、消費者はまず住宅や自動車などの大型耐久消費財の購入を手控えるようになる。
・米個人消費の先行指標である9月の消費者信頼感指数は92とまあまあ堅調な水準にある。同指数が80を下回ると景気後退のリスクが高まる。
*米GDPの約7割は個人消費が占める。
・米景気の先行指標である米ISM製造業景況指数は低下傾向で50とほぼ中立の水準。米経済の牽引役である米ISM非製造業指数は53と堅調な水準。
*ISM指数やPMI指数が45を下回るか、50割れの期間が半年を超えるとデフォルトが増えやすくなる。
ユーロ圏のPMIは47。好不況の分かれ目である50を2年以上下回っている。
・世界景気の先行指標である中国製造業PMIは50とほぼ中立な水準。基調としては横ばい傾向。
・世界景気の先行指標である銅価格は足元で最高値を突破している。
・世界景気の先行指標である半導体指数(SOX指数)はピークアウトしたように見える。
米国の失業率は低位で推移しており現在4.1%。ほぼ「完全雇用」の水準(3.5%)にある。
*米国では失業率が前年同月と比べて0.25%上がると景気後退に陥りやすくなる。2月の失業率は前年同月を0.2%上回っている。
*米国では直近3ヶ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退に陥りやすくなる。現在は0.3ポイント上回っている。
*米失業率が「完全雇用」の水準まで下がると賃金上昇により企業収益が圧迫され、労働力不足で経済成長は頭打ちになる。
*米株が安定的な回復基調になるのは失業率がピークを打って低下し始めた後になる。
・米景気の先行指標であるダウ輸送株ラッセル2000は高値圏で推移している。
・経済危機をいち早く察知する米低格付け債の利回りは底打ちして持ち直しつつある。
・米国で「長短金利の逆転」「社債スプレッド(社債利回りと国債利回りとの差)の拡大」「物価上昇」のうち、2つが起きたら景気後退に陥るとされる。つい最近まで3つ起きていた。現在は2つ。
*社債スプレッドが1%増加すると株式を7%下落させる効果があるとされる。


■その他の株式シグナル
米個人投資家の心理は株価の先行指標になる。個人投資家の心理は株式市場の「逆指標」になるとされ、「悲観」の場合は大底、「楽観」の場合は天井を示唆することが多い。この指標が「異常な弱気」を付けた後の6~12ヶ月は平均以上の株価上昇になりやすい。現在は「弱気」の水準。

ブルベア指数も米個人投資家の心理を示し、株価の先行指標になる。現在は-24%と「弱気」の水準。

投資家の強欲と恐怖指数も株価の先行指標になる。この指標が「Extreme Fear(極度の恐怖)」となっている場合は、すでに株価にほぼすべての悪材料が織り込まれていることが多く、株価は好材料に反発しやすい。現在は21で「Extreme Fear(恐怖)」の水準。

・米機関投資家の株式持ち高比率を示すNAAIM Exposure Indexも先行指標になる。この値が80を超えると過度の楽観、20を下回ると過度の悲観になる。現在は57と中立水準になる。

・機関投資家の運用資産に占める現金比率も株価の先行指標になる。この比率が4%を下回ると「株売りシグナル」になる。2月の現金比率は3.5%になる。2/19日経

米VIX指数(変動率指数、別名「恐怖指数」)も株価の先行指標になる。この指標が低位にある場合は「楽観」を意味し、株価が上昇しやすくなる。しかし、低位の状態が続くと投機的売買が盛んになり、その後なんらかのショックで株価が急落することが多い。現在のVIX指数は22とやや高い水準にある。

スキュー指数も株価の先行指標になる。この指数は、S&P500種株価指数のオプション市場で、株価の上昇を見込むコール(買う権利)に対して下落に備えるプット(売る権利)の需要が高まると上昇する。これは市場で将来の大きな価格変動に備える取引が増えていることを意味する。2月18日には183と過去最高値を付けた。2021年のパターンでは、半年ほど後にS&P500指数は下落に転じ、1年半ほど調整している(1/7日経)。現在のスキュー指数は148とやや高い水準。

・1871年以降の米国の平均的な景気後退期間は16.7ヶ月になる。株式は景気に6ヶ月先行するので、景気後退が始まって10ヶ月くらいたった頃が仕込み時になる。

・景気後退入りすると最初の数ヶ月間に株価が大きく下落する傾向がある。景気後退入りして最初の4ヶ月間のどこかで株式を買った場合、その後6ヶ月間のリターンはマイナスに終わることが多い。景気後退入りから5~14ヶ月の間に株式を買った場合は、その後6ヶ月の投資リターンはプラスになりやすい。


■その他の指標
・日経平均の騰落レシオは110と中立の水準。
・日本株の信用評価損益率は-5.46%と過熱の水準。
・先進国の株価チャートは、軒並み最高値を突破しており基調は強いが、米株はMACD的にピークアウトしそうな気配。
<S&P500の10年チャート>

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