■調べようと思った経緯
エンジェル・ジャパンが運用するグローイング・ベンチャー・ファンドに長期で組み入れられている銘柄。久々に四季報で調べてみたら「医療費保証が牽引」とあり興味が湧いた。利益率が高く、業績も順調に伸びているので良さそうだと思った。
■どんな会社か
家賃債務保証を中心に、医療費保証、介護費保証、養育費保証などの保証サービスを手がける会社。保証サービスに付随する業務(審査、督促、法対応支援など)を個別に請け負うソリューション事業(BPO事業)も手がける。事業は国内のみで運営し、全国に8拠点。従業員は約200名(社員約120名、アルバイト約80名)。BPO事業を手がけるプレステージ・インターナショナルの子会社。
業績推移は
2019年3月期が売上高31億円、営業利益8億円
2020年3月期が売上高36億円、営業利益10億円
2021年3月期(予)が売上高42億円、営業利益が12億円
になる。今期予想売上高42億円の内訳は、家賃債務保証が19億円、医療費・介護費・養育費保証が4億円、ソリューション事業が19億円(コンサル&オペレーション・サービス18億円、保険デスクサービス0.8億円、Doc-onサービス0.4億円)になる。ほぼ全ての事業がストック型になる。
■強み
家賃債務保証事業を手がける会社は国内に数百あるが、ここではイントラストならではの強みについてみていく。
・利益率が高い
イントラストの取引先は大手不動産管理会社(大和ハウス、三井ホーム、住友不動産、スターツグループ、パナホームなど)が多い。これらの会社が扱う物件は家賃が高く、入居者が比較的、高所得なため、滞納リスクが低い。ゆえにイントラストの収益率が高くなる。また、現在増えている新規物件の大半はこれら大手不動産会社が供給しているものなので、それらの案件も効率よく取り込むことができる。営業利益率は他社平均(10%程度)より高い25%程度になる。
・ソリューション事業を手がける
大手の不動産管理会社は経営体力があるため、家賃債務保証は自社でやり、保証業務に付随する業務だけを外部委託したいというニーズがある。イントラストは顧客のニーズに合わせて柔軟に付随業務を請け負っている(コンサル&オペレーション・サービス)。他の保証会社でこのようなサービスを提供しているところはない。この事業は保証コストがかからないので、ここでも25%程度の営業利益率をあげることができる。
・家賃債務保証事業以外の保証事業を手がける
イントラストでは家賃債務保証で得た知見を基に、医療費用保証や介護費保証、養育費保証などへ事業を拡張している。他の保証会社でこのような事業を手がけているところはほとんどない。
■成長ストーリー
「保証サービスで未収金撲滅」が基本シナリオ。
日本では月間4000万件程度の未収金が発生しているが、これらの未収金を撲滅していくのがイントラストの基本戦略になる。
イントラストが回収していく順番は今のところ、家賃、医療費、介護費、養育費の順になる。
イントラストの現在の主力事業は家賃債務保証になるが、賃貸住宅における家賃債務保証の付帯率はすでに75%に達しており、伸びしろは少ない。今後は家賃債務保証で培ったノウハウを基に、新たな領域に事業を展開していくという流れになる。
足元で最も注力しているのが医療費用保証事業になる。医療機関では年間約1000億円の未収金が発生しており、それが病院の経営を圧迫している。しかし、医療機関には回収ノウハウがなく、それが経営課題となっている。
また18年4月期決算から大規模病院の外部監査が義務づけられ、未収金管理や債権回収管理のチェックがされるようになっている。加えて、20年4月からは民法改正により、連帯保証の要件が厳格化(個人が連帯保証する場合は交渉人による自発的な意思の確認が必要、保証の限度額明示の義務化など)され、入院時には個人が連帯保証をしにくくなっている。
イントラストが提供する医療費用保証を使えば、これらの問題を解決できるので、医療機関のこの商品への関心は高まっている。
イントラストが提供する医療費保証商品は2種類ある。1つは病院側が保証料を負担し、イントラストが未収金を病院に保証するというもの。これは大手損保会社(東京海上日動と損保ジャパン)と共同開発し、損保会社の販売網を使って販売する。イントラストは主に回収作業を行い、回収できない分は損保会社に保険をかけ、そこから未回収分を弁済してもらう。商品名は「スマホス(スマート・ホスピタルの略)」になる。
もう1つは患者が保証料を負担するもので、未収金が発生した場合はイントラストが患者に代わって代金を病院に弁済する。この商品は入院患者にパジャマや歯ブラシなどのレンタルセットを提供するリネン会社(エランなど2社)が、レンタルサービスとセットで提供する。現在は、地縁・血縁の希薄化や法改正の影響などで保証人をつけられない患者が増えており、一定の需要があるという。商品名は「医療費用保証付き入院セット」になる。
現在の契約病院数はスマホスが53(前期比+36)、医療費用保証付き入院セットが137(前期比+28)の計190になる。
イントラストは早期に市場の10%(契約金100億円、契約病院数1500)を押さえることを目標にしている。ちなみに、2種類ある商品のうちで、イントラストがより注力している商品はスマホスになる。
次に力を入れている事業は介護費用保証になるが、介護費用は基本的に親族が払うので未収金はほとんど発生しない。そのため、この商品に対するニーズはあまり強くない。保証を付けると入所時の費用を下げられたり、入所しやすくなったりといったメリットがあるくらいなので、この商品の成長はあまり期待できない。
最後が養育費保証になる。養育費を受け取れないひとり親世帯は、ひとり親世帯の約75%、全国に50万世帯以上あるので、保証サービスへのニーズは強い。イントラストは地方自治体と連携したり、オウンドメディア「SiN」を立ち上げたりして、養育費保証の認知・普及に力を注いでいる。2月からは損保ジャパンと「ひとり親家庭支援に関するサービス」の共同開発を始めている。イントラストの調べでは市場規模は250~300億円あるという。実際にサービスを利用した利用者へのアンケート調査では、70%が10点満点中10点という高い評価をつけているという。
保証サービスは未収金が発生する分野なら基本的にはどこでも展開できるので、今後も新たな分野を開拓していくという。未払い金のほとんどは「うっかり滞納」であり、一度督促すれば90%超の人が払うので、きちんとした回収ノウハウさえあれば新規分野への参入はそれほど難しくないという。
■問題点
・コロナの影響を受ける
家賃債務保証事業においては、イントラストの顧客属性は高く、国からの家賃補助政策(住居確保給付金)もあるので、コロナの影響はほぼ受けない。しかし、それ以外の事業ではそこそこの影響を受ける。
ソリューション事業では新規開拓がしにくいので成長が期初の想定よりも2%ほど伸び悩んでいる。
医療費用保証事業では、病院の患者数が激減しているので保証サービスへのニーズが弱くなっている。イントラストの最大の成長ドライバーは医療費保証品(「スマホス」)であり、これが伸び悩むと成長が期待できなくなる。コロナが長引いた場合は解約が相次ぎ、業績が下振れする恐れもある。ただ、2月8日のIR資料によると、病院との契約をつなぎ止めるため、医療機関に対して保証料の優遇措置をとっている。また、病院がスマホスを導入すると、入院時の前払い金が必要なくなるので、いったんこの仕組みが組み込まれた病院は簡単には解約しなさそうでもある。
・コロナが長引くと医療費用保証市場がレッドオーシャン化する可能性がある
イントラストはスタートダッシュで一気に顧客を囲い込む戦略だったが、コロナでその計画が頓挫してしまった。コロナが終息するころには競合であふれかえっている可能性もある。ただ医療費用保証はリスクの高そうなイメージがあるので参入は少なそうでもある。
・医療費用保証商品は未回収リスクがある
医療費保証は家賃債務保証と違い、支払いをする人の属性がわからない。入院する人の多くは高齢者で病人でもあるので、収入に限りがある人が多そう。また入院は「予定外」で「高額出費」になることもあるため、医療費を払えない人が通常のケースより増える可能性が高い。
また病み上がりでお金のない人に督促すると、それがストレスになり病気が再発する可能性もある。イントラストはコンプライアンス(法令遵守)を最重視した回収作業を行っているとはいうが、医療費においては普通の状況とはやや異なるので、ここで何らかのトラブルが発生する可能性もある。
ただ「スマホス」に関して言えば、リスク分析のプロである大手損保会社と共同開発してつくっているので、未回収リスクに関してはそれほど心配しなくてもよさそうではある。「医療費用保証付き入院セット」においては契約時の審査がそこそこ厳しいようなのでこれも大丈夫そうではある。加えて、社長は保証事業を営む上で最も重要なことは、「会社に弁済能力があること(財務状態がよいこと)」「悪いリスクをとらないこと(良いリスクを多く集めること)」と言っているので、その意味でも特に問題ないのかなと思う。
・養育費保証事業が軌道に乗るか不透明
養育費保証でも、養育費を支払う人の支払い能力を事前に審査しにくいので、回収がスムーズにいかない可能性がある。20年5月には国会で改正民事執行法が成立し、裁判所を通して支払い義務者の銀行口座や勤務先の情報が入手できるようにはなったが、手続きの手間(コスト)や心理的なハードルがあり、この制度の活用は進まない可能性もある。
*養育費の支払いは月平均3~5万円になる。
欧米の一部地域では養育費の不払いがあった場合は公費で補填した上で、行政機関や裁判所が強制的に支払い義務者から徴収する仕組みがあるが、日本でもゆくゆくはこういう仕組みになっていく可能性がある。もしそうなった場合は養育費保証の存在意義がなくなる。
■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★4/5
・参入障壁は高いか。★3.5。ノウハウが確立されている家賃債務保証の参入障壁は低いが、医療費保証などの新領域ではノウハウが確立されてないので参入は難しそう。
・ストック型ビジネスモデルか。★4.5。ほぼ全てがストック型になる。ただし、コロナの影響で「スマホス」は解約が相次ぐ可能性がある。
・時流に乗っているか。★4。連帯保証が個人から機関にシフトするというのは今後のトレンド。医療費の費用保証は社会に根付きそう。ただコロナの影響でしばらくは伸び悩みそう。
■チャート
上値は重そうだが下値も限定的になりそう。
<5年チャート>
■まとめ
医療費保証事業は長期では成長しそうだが、中期ではコロナの影響で伸び悩みそう。イントラストの成長は病院経営が落ち着いてからになりそうだが、そうなるのは2023年頃になりそう(2/21日経)。スマホスの販売が軌道に乗れば業績3倍(株価3倍)は目指せそうなので、今後も観察を続けていく。
*スマホスの保証料は病院のベッド数と前年の滞納額をベースに決めるが、コロナ下では見積もりを出しにくくなる。
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