2022年1月1日土曜日

マクロ系金融指標チェック

市場の仕組みを理解しやすい順番で見ていく。

■米10年金利
今後1年の予想レンジ:1.2%~2.0%の間で推移

米長期金利に与える影響が大きい要因順にみていく。
・経済成長率+インフレ率↑
長期金利の基準値は経済成長率+インフレ率になる。2021年の米国の経済成長率は+6.0%、インフレ率は+4.2%になる見込み。2022年は経済成長率+5.2%、インフレ率+2.2~3.2%になる見込み。

・金融政策↓
FRBはインフレ対策として量的緩和を22年3月に終了し、政策金利を22年に3回(0.75%)、23年に3回(0.75%)、24年に2回(0.5%)上げる予定。ただ、この金融引き締め策はインフレの原因になっている供給側には直接作用せず、需要を抑えて間接的にインフレを低下させるものなので、景気(長期金利)には下押し圧力がかかる。

世界の債務は過去最高水準のGDP比350%まで高まっており(12/17日経)、この状態で利上げをすると利払い負担が増すので、それも景気(長期金利)に下押し圧力をかける。

*市場はFRBが金利を1.5%までしか上げられないと予想している。12/18日経

FRBは政策金利の引き上げと同時に資産売却も始める可能性がある(12/18日経12/18ヴェリタス)。その場合、需給面で長期金利には上昇圧力がかかる。ただし、2022年は米財務省の国債発行量が減るので、影響は限定的になりそう。11/10日経

・財政赤字の拡大↑
2018年から米国の財政赤字は年100兆円を超えており、2020年、2021年はコロナの影響で300兆円を超えている(7/2日経)。米国債の供給増や通貨の信認低下により、長期金利には上昇圧力がかかる。2022年の財政赤字は100兆円台に留まりそう。

*財政支出を拡大すると景気刺激の面からも長期金利に上昇圧力がかかる。

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。リスクオフ要因はコロナ拡大、インフレ、金融政策の転換で、リスクオン要因はコロナ沈静化、景気拡大、金余り、になる。

・米国債の人気上昇↓
米長期金利は海外の主要先進国の長期金利より相対的に高いので、海外勢から買われやすい。米長期金利が2%を超えると巨額の買い需要が発生するともいわれる。

・資金需要の低下、金余り↓
第4次産業革命の主役はデジタル企業になるが、デジタル企業は設備投資のための資金需要が少ない。少子高齢化の影響で借り入れなども減っている。

金余りで運用難に陥っている金融機関や企業は多く、そういうところがこぞって米国債を買っている。7/28日経11/22日経

・潜在成長率の低下↓
生産性の伸び悩みなどで潜在成長率は低下傾向にある。

投機筋は米10年債先物を大きく売り越している。投機筋は今後金利が上がるとみている。

・チャート→
<10年チャート> 長期では下降トレンド。紫線(2%)あたりが天井になりそう。

■WTI原油
今後1年の予想レンジ:70ドル~120ドルの間で推移

原油価格に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・需要↑
原油の需要は世界経済成長率にほぼ連動する。2021年の世界経済成長率は+5.9%程度、2022年が+4.9%程度になる。

長期では、温暖化対策や職場・学校のリモート化で石油需要が減る可能性がある。一方で、世界人口は今後も増えていくのでトータルで石油需要が増える可能性もある。米エネルギー情報局(EIA)は50年の石油需要は20年比で4割増えると予想している(10/8日経)。一方、仏トタルや英BPは2030年頃に石油需要はピークアウトすると予想している。11/6ヴェリタス日経

・供給↓
OPECプラスはやや増産し、米国の生産も回復基調にある。春頃には供給過剰になる可能性がある。10/25日経

長期では、石油開発会社が脱炭素の潮流を受けて油田開発投資を大きく減らしており、また再生エネルギーの普及には時間がかかるため、供給不足に陥る可能性が高い。

石油は人間にとっての食料と同じ生活必需品のため、少しでも不足すると価格が跳ね上がる性質がある。

・産油国や再生可能エネルギーの採算ライン→
サウジが財政均衡に必要な水準は1バレル83ドル、アラブ首長国連邦(UAE)は70ドル、イラクは60ドル、ロシアは42ドル、米企業の採算ラインは45~70ドル、再生可能エネルギーは40~100ドルになる。原油価格はこの範囲内で収まる可能性が高い。
*米国の石油企業は株主や金融機関の圧力で採算や環境を重視するようになっており、かつてのように相場が高騰してもすぐ増産という流れにはならない。11/6ヴェリタス

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。
*原油は株式と同じリスク資産になる。

・インフレ対策↑
原油などの商品は最良のインフレヘッジ手段になるが、足元ではインフレ対策の一環としても原油が買われている。

・為替↓
原油はドル建てのためドル高になると原油価格に低下圧力がかかる。足元ではドル高基調になっている。

・産油国で不測の事態が起こる→
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラは米国の制裁や政治の混乱、投資不足などにより産油量が激減している。イランも米国などから制裁を受けており、産油量が減っている。ただ米新政権はイランやベネズエラへの制裁を緩和する方針のようなので、今後原油供給は増えそう。

・米政府の介入→
バイデン政権は脱炭素を公約に掲げているので、原油価格が急落しても市場に介入する可能性は低い。原油価格が高騰した場合は備蓄石油を放出したり、産油国に圧力をかけたりする。ただこれらにたいした効果はない。

・チャート
<10年チャート> 上昇トレンドに転換したように見える。

■ドル円
今後1年の予想レンジ:105円~120円の間で推移

為替に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・日米の長期金利差↑(↓は円高方向)
日米の長期金利差はドル円相場との相関が強いが、現在、金融政策や経済成長力の違いからその金利差が拡大傾向にある。ただ今後はその拡大が止まりそう。

金利差拡大によりキャリー取引が増えている。
*キャリー取引とは金利差を狙った取引。金利差が大きくなると低利通貨を売り、高利通貨を買って、金利差で収益を得る取引が盛んになる。ただ現在は円以外のドルやユーロも低利通貨になりつつあるので、キャリー取引は減少しつつある。

・日米の経済の強さの違い→
資金は経済の強い国へ流れ、その国の株式や不動産などが買われる。デジタル革命を主導する米経済は相対的に強いのでドル資産が買われやすい。

日本の個人投資家は2021年に海外株を7兆円買い越しており、その大半は米国株になる。対して日本株の買越額は350億円になる。12/30日経

・リスクオン、オフ→
ほぼ中立。

・日本企業の対外直接投資↑
国内需要はほぼ頭打ちなので、日本企業の対外直接投資が増えている。ここ数年は年12~22兆円の買い越しが続いている。対外純資産に占める直接投資の比率は増加傾向で、2020年には47%まで高まっている。一方、対外証券投資の比率は減少傾向で足元では28%まで低下している。11/17日経

・国内投資家の対外証券投資↑
日本の機関投資家は国内の超低金利で運用難に陥っているので、高い運用利回りが見込める海外債権や株式などを買っている。個人投資家は成長力のある海外株を積極的に買っている。ここ数年は年10兆円程度の買い越しが続いている。

・日本の経常収支↑
生産拠点の現地化や通信機器や医薬品など輸入の増加(12/12日経)、原油価格の上昇などにより貿易収支は赤字になりつつある。

(貿易収支を含む)経常収支は20兆円程度の黒字を維持しているが、この黒字の大半は過去に行った投資のリターンである所得収支が占めている。所得収支の黒字は貿易黒字と違い、半分程度が現地で再投資されるので円買い需要は半分(10兆円)程度しか生まれない。

・日本政府の過剰債務↑
日本政府の債務は返済不可能な水準まで膨れ上がっているので、どこかで円の大暴落が起きる可能性がある。ただ、これと同じことは米国にも言える。

・日米の財政政策→
巨額の財政出動をすると景気を押し上げ、自国通貨も押し上げる効果があるが、一方で財政赤字の拡大により通貨の信認が低下するといった副作用もある。日米の財政支出は対GDP比で同程度になる。

・ドル需給↓
FRBがドルを大量供給しているので足元ではだぶつき気味。そのさなかに米国では巨額の財政出動をしているのでドル余りが加速している。過去のパターンでは需給が一巡した後にドル安に転じている。参照

・投機筋の持ち高↓(「円 投機的ネットポジション」で検索)
投機筋は3月頃から売り持ちに転じている。投機筋は円安が進むとみている。
*円を買い持ちした場合はスワップポイント(金利収入)がマイナスになるので、買い持ちポジションが長く続くことは少ない。

購買力平価
物価が上がると(インフレが進むと)、物やサービスを買うときにより多くの額のお金が必要になるが(購買力は下がるが)、物価が下がると(デフレが進むと)、物やサービスを買うときにより少ない額のお金しか必用なくなる(購買力は上がる)。この物価変動に着目して二国間の通貨価値をならしたものが購買力平価になる。

日本より米国の方が慢性的にインフレ率が高いので円の購買力平価は長期的な円高傾向にある。ただ米国のインフレ率は年々低下しており日本のインフレ率との差が縮まってきているので、購買力平価の下降曲線はなだらかになってきている。為替相場は長期的にはこの購買力平価に収斂していくとされているので、円の下限は75円、上限は115円くらいになる。

*コロナ禍で日米のインフレ格差が広がっている。この状態が続くと円には強い上昇圧力がかかる。

・日銀が保有するETFの簿価割れ→
日銀の自己資本は約10兆円なのに対し、保有する日本株ETFは簿価で約35兆円ある。日銀の保有するETFの損益分岐点は日経平均株価21000円くらいなので、ここを下回ると自己資本が目減りし通貨の信認が低下する。日経平均株価が15000円台まで下がると日銀は債務超過に転落し、さらに通貨の信認が落ちる(2/5日経)。ただ現状ではそこまで下がる可能性は低い。

・日銀が保有する日本国債の値下がり→
日銀は日本国債を500兆円超保有している。金利が2%まで上昇すると、当座預金への利払い負担が国債の運用利回りを上回る「逆ざや」が生じ、債務超過に陥る可能性がある(10/1日経)。ただ現時点ではそうなる可能性は低い。

・米制裁によるドル離れ↓
米国は対立する国に「ドル取引の制限や禁止」といった金融制裁を課すことがある。現時点で米国はイランやロシア、トルコ、中国などに金融制裁を課しており、これらの国々は米国債の保有を大きく減らしている。今のところドル離れは一部に留まっているが、「ドルを極力持たない、使わない」という動きが広がれば、ドルに低下圧力がかかる。

・チャート
<10年チャート> ゴールデンクロスを形成して上振れそうな雰囲気がある。

■日経平均
今後1年の予想レンジ:27000~34000円で推移

日経平均に与える影響が大きい要因順に見ていく。
・金融政策→
世界の中銀の総資産と世界の株価指数はほぼ連動している(日経)。世界の中銀の総資産は2022年は横ばいになる見通し。

・米長期金利金利→
長期金利が上昇すると株式から債権へ資金がシフトする。今後の長期金利は横ばい圏で推移しそう。

・為替→
円安が進むと海外勢は日本株を買いやすくなる。今後の為替は横ばい圏で推移しそう。

・利回り↑
日本株式の益回りは約6.52%、配当利回りは約1.96%と、日本長期国債の利回り0.069%より高いので、株式に資金が流れやすい。

・需給↑
大きく下げたとき日銀が買い支えてくれるので日本株は下がりにくい。他の投資主体の売り玉はつきつつあるので(アベノミクス後の海外投資家の買越額は6兆円まで縮小)日本株の下げ余地は小さい。

 <2022年の主な投資主体の予想売買動向>
 日本銀行:4000億円の買い越し。
 事業法人:2兆円の買い越し。
 海外投資家:1兆円の買い越し。
 個人投資家:5000億円の買い越し。
 投資信託:2千億円の売り越し。

・EPS(1株利益)↑
日経平均株価は基本的にはEPS(1株利益)× PER(人気度・期待度)で決まる。2022年の予想EPSは+10%超になる。
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EPSに影響を与える外部要因についても見ていく。
・為替→
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので為替相場の影響が大きい。今後の為替は横ばい圏で推移しそう。

*これまでは円安の方が日本企業にとって有利とみられていたが、現状では生産拠点の現地化などにより円安の恩恵を受けにくくなっている。円高の方が日本企業にとってプラスという見方もある。8/4日経

・海外景気↑
日本企業は海外で収益の6割を稼ぐので海外景気の影響を大きく受ける。2022年はコロナが収束し世界景気が回復しそう。

・失業率↑
失業率が低下すると賃金が上昇して企業収益が圧迫される。また労働量力不足で成長が頭打ちになる。現在の失業率はコロナの影響でやや高い水準にある。

・減価償却費や資源価格(原材料費)↓
減価償却費や資源価格(原材料費)が上昇すると利益が圧迫される。足元では減価償却費は横ばいだが、資源価格は上昇傾向にある。コスト上昇分を価格転嫁できれば問題ないが、日本企業はそれをできないことが多い。

・金融政策↓
金融引き締めで金利が上昇すると企業の利益や資金調達環境が悪化する。FRBが金融引き締めに転換したので、企業収益にも影響が出そう。ただペースは穏やかになりそうなので、影響は軽微なものになりそう。
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・PER(人気度、リスク選好度)↑
日経平均の過去のPERは11~17くらいだが、現在のPERは13.80とやや低め。PERは景気が上向くと上昇しやすくなる。

投機筋の持ち高
買い残は2951億円で、裁定売り残高は1561億なので、投機筋は日本株が横ばいになるとみている。
*一般に、裁定買い残高が3000~6000億円まで減少すると「売られすぎ」、3.5兆~4兆まで増加すると「買われすぎ」とされる。今は売られすぎの水準なのかもしれない。

・個人投資家の流入↑
コロナ禍の「巣ごもり」や「老後2000万円問題」などの影響で株式市場に個人投資家が流入している。米株式市場においては個人の売買シェアがコロナ前の10%から足下では25%にまで高まっている。日経

・パッシブ運用の膨張↑
パッシブ運用にはストック効果(積み上げ効果)があるので、この運用が増えれば株価は下がりにくくなる。現在、投信やETFでパッシブ運用の比率が高まっており、世界では44%、日本では73%まで高まっている。ただパッシブ運用が増えると流動性が低下し、値動きが激しくなりやすいという問題がある。7/18日経10/20日経

・チャート↑
<10年チャート> 青天モードに入っているので上値は軽そう。

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