7/26ヴェリタスに「ランサーズの曽根秀晶取締役は「今回のコロナ禍は国内のクラウドソーシング市場の成長を10年早める」とあり、記事で紹介されていたファイバーインターナショナル(ナスダック上場)を調べてみたら株価が上昇していたから。
■どんな会社か
クラウドソーシング・プラットフォーム「ランサーズ」を運営する会社。事業規模は国内2位。
プラットフォーム事業は大別して「オンライン・スタッフィング・プラットフォーム」事業と「クラウドソーシング」事業の2つがある。
「オンライン・スタッフィング・プラットフォーム」事業とは、いわば派遣社員のオンライン版のようなもので、これまで社内で行っていたような事務、システム開発、デザインなどの業務をオンラインで完結させるものになる。業務を請け負うのは実名・写真登録をした、特定のスキルを持つ人材になる。依頼単価は相対的に高く、この事業がランサーズの売上の約9割を占める。
「クラウドソーシング」事業とは、匿名の個人がデータ入力や集計などスキルをそれほど必用としない業務を行うものになる。依頼単価は相対的に安く、ランサーズの売上に占める割合は1割程度で、年々減少傾向にある。
両事業とも企業がフリーランス人材に支払った金額の約20%をランサーズが手数料として受け取る。これがランサーズの収益源になる。
業績は
2019年3月期が売上高25億円、営業損失2億円
2020年3月期が売上高34億円、営業損失3億円
2021年3月期(予)が売上高40億円、予想営業利益0.4億円
になる。業績は順調に拡大しており、今期に黒字転換する予定。
■成長ストーリー
「ある意味、最強のクラウドソーシング・プラットフォームに」が基本シナリオ。
日本は1990年頃まで米欧に追いつけ追い越せで成長してきたが、いざ追いついてしまうと成長が止まってしまった。成長が止まった要因はいくつか挙げられるが、その中の1つに雇用形態の問題がある。
日本の主な雇用形態は終身雇用を前提に、会社の一員となった社員が様々な職責を負う「メンバーシップ型」になる。この雇用形態は職務を限定せず、様々な職務を経験させることで総合的な力を養うところに主眼を置いている。このような雇用形態は優れた製品を大量に作り、安価で世界に販売する工業時代には合っていた。しかしアイデア(ソフトウェア)が価値を生み出す情報時代には合わなくなってきた。
一方、米欧の主な雇用形態は職務内容があらかじめ明確に規定された「ジョブ型」になる。この雇用形態はスキルに応じて人材を配置し、成果によって評価するもので、個人の専門性を高めるところに主眼を置いている。成果を出せない場合や職務が消失した場合は雇用契約を解除されるという欠点はあるものの、適材適所に人材が配置され、専門性の高いプロフェッショナルを生み出すという利点がある。
創造性において競う場合、メンバーシップ型で育成されたゼネラリストは、ジョブ型で育成されたスペシャリストには勝てない。日本が今後「創造性」という土俵で世界と戦っていくためには雇用形態をジョブ型にシフトしていく必用がある。
政府はすでにこの点を認識しており、厚労省は2018年に個人の専門性を高めることを目的に、副業禁止の規定を「原則禁止」から「原則自由」に180度転換した。
企業の意識も変わりつつあり、副業を解禁する東証一部企業は2014年の15%から2019年には50%にまで増加している。
このような下地ができていたところで新型コロナが発生し、ジョブ型雇用への移行が一気に加速し始めた。新型コロナで急増したリモートワークは、職務内容を明確にし、その成果を評価するというジョブ型雇用そのものであり、リモートワークで増えている副業もジョブ型になる。
コロナが収束すれば元の勤務形態に戻る可能性もあるが、ランサーズの調査ではテレワーク経験者の9割が今後もテレワークを継続したいと回答しているので、この流れは継続する可能性が高い。会社側も今回の在宅勤務でリモートワークの利点を知り、会社にいない人材を使うことへの抵抗も薄れてきているので、リモートワークや副業が定着する可能性は高い。
コロナ発生後、ランサーズへの新規登録や企業からの問い合わせは倍増しており、上記を勘案すると、今後もこの勢いが続く可能性は高い。
国内の(広義の)フリーランス人口は現在、労働人口の5分の1(1100万人)程度になるが、米国では労働人口の3分の1(5700万人)程度がフリーランス人材で、それが2027年には2分の1超になるとも言われているので、日本でも今後フリーランス人口が急増していく可能性が高い。
■ランサーズの強み
国内で同業を営む会社は他にもあるが、ここではランサーズならではの強みについて考えていく。
・プラットフォームの質が高い
オンライン業務では職務の成果が如実に表れるので、質の高い人材の確保が不可欠になる。ランサーズでは登録する際に実名や写真登録はもちろん、簡易テストなどを実施して他社よりも”敷居の高い”登録制にしている。また職務完了後に顧客のフィードバックや業務態度などを「能力ランク」に反映していくので、人材の評価・ステータスが一目でわかるようになっている。
企業側の認証・ランク付けも行っており、ランサーズのプラットフォームは質の高い人材と質の高い企業をマッチングさせる仕組みになっている。
・フリーランス人材のサポートを強化している
登録する人材の生産性を高めるためには長く働いてもらうことが重要になるが、フリーランス人材は社会的な信用が一般の会社員よりも低く、十分な社会保障を受けにくいという問題があり、定着率はそれほど高くない。そこでランサーズはフリーランス人材に会社員と同じようなサポートを受けられるようなサービスを提供して、安心して長く働けるような環境作りをしている。
ランサーズでは外部企業と連携して各種サポートを行う「Freelance Basics」というサービスを提供しており、このサービスを使えば健康診断や契約書のレビューなど普通の会社で受けられるようなサポートを受けられる。また収入証明などを元に与信を得られ、家賃保証を受けられたり、クレジットカードを発行したりできる。各種スキルを高める講習も受けられる。
・適応力・開発力が高い
ランサーズはコロナ発生後に、企業の要望に応じて即座にオンラインのBPOセンターを立ち上げている。
*BPOとは、Business Process Outsourcingの略で、企業がコアビジネス以外の業務を外部企業に委託すること。
それ以外にも、大企業がランサーズに登録する人材を社内人材のように使える「Lancers Enterprise」というサービスの提供も始めている。このサービスを使えばクラウド上でチームを迅速に編成でき、数日で仕事を発注できるようになる。企業はオフィスなどの固定費を負担する必要がないというメリットもある。
■問題点
・参入障壁が低い
当初、クラウドソーシング市場は、クラウドワークス、未来ワークス、うるるなど数社の寡占体制になると思っていたが、コロナを機に大手派遣会社が続々と参入してきた(8/19日経)。おそらく中小の派遣会社もすでに参入していると思うので、クラウドシーシング市場はレッドオーシャン化しつつある。
それ以外にも、大企業がランサーズに登録する人材を社内人材のように使える「Lancers Enterprise」というサービスの提供も始めている。このサービスを使えばクラウド上でチームを迅速に編成でき、数日で仕事を発注できるようになる。企業はオフィスなどの固定費を負担する必要がないというメリットもある。
■問題点
・参入障壁が低い
当初、クラウドソーシング市場は、クラウドワークス、未来ワークス、うるるなど数社の寡占体制になると思っていたが、コロナを機に大手派遣会社が続々と参入してきた(8/19日経)。おそらく中小の派遣会社もすでに参入していると思うので、クラウドシーシング市場はレッドオーシャン化しつつある。
・収益力が弱い
今期に黒字転換しそうだが、今期は広告宣伝費を丸々カットしているので、安定軌道に乗ったとは言いがたい。このような状態で競争激化の雰囲気が漂い始めたので、今後、再び赤字に転落する可能性もある。
・増資を頻発しそう
収益基盤が盤石ではなく、社長は「まだまだ資金が必要」と言っているので、今後増資を頻発する可能性がある。
■チャート
<8月7日のチャート>
移動平均線が収斂して力をため込んでいる状態。決算で上下どちらかに大きく振れそう。
<現在のチャート>
1000円台の「壁」を突破し青天井モードに入った模様。・・いやこれは三尊天井か?
*ランサーズ株は「壁」を突破した直後に売ってしまった。
■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★★
・参入障壁は高いか。★☆。低い。派遣会社が続々と参入してきている。
・ストック型ビジネスか。★★☆。現時点では企業のリピート率が8割程度なのでストック型にはなるが、競争激化で下振れしていく可能性がある。
・時流に乗っているか。★★★★★。ジョブ型雇用やリモートワークはメガトレンド。
■まとめ
■まとめ
そこそこ有望な成長ストーリーが描けていたが、それも日経の記事で台無しにされてしまった(笑)。社長や社風が良さそうな会社だっただけに残念。
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