2020年10月2日金曜日

NexTone

■どんな会社か
音楽著作権を管理する会社。他に、管理する楽曲をプロモートする「キャスティング事業」も手がける。国内で音楽著作権を管理する会社はNexToneとJASRACのみ。

2020年3月期の売上高の内訳は著作権管理事業が87%、キャスティング事業が11%、その他が2%になる。

業績は
2019年3月期が売上高32億円、営業利益1.8億円
2020年3月期が売上高43億円、営業利益3億円
2021年3月期(予)が売上高56億円、営業利益3.8億円
になる。売上高は年約30%の勢いで伸びている。

■成長ストーリー
「打倒JASRAC」が基本シナリオ。

国内の音楽著作権管理ではJASRACが市場をほぼ独占(占有率約96%)しているが、このJASRACの牙城を切り崩していくのがNexToneの基本戦略になる。

切り崩すポイントは4つ。
1つ目が「著作権利者の権利拡張」になる。JASRACとの信託委譲契約では著作権をJASRACに移管するので、著作権者は使用料率を自由に変更できないという問題と、自作曲をコンサートなどで演奏するときに著作権料を支払わなければならないという問題がある。一方、NexToneとの管理委託契約では著作権が著作権者に残るのでこのような問題は発生しない。

2つ目が「デジタルに特化」になる。JASRACは著作権のデジタル管理が遅れているため、楽曲使用料の分配が不透明という問題がある。JASRACはライブハウスやスナックなどから床面積や客席数に応じて一律に楽曲使用料を徴収しているが、ライブハウスを経営するミュージシャンからは著作権料が全く支払われてない、などの訴えを起こされている。一方、NexToneはデジタル管理システムを完備しているので、透明性の高い楽曲使用料の分配ができる。加えて、配信された楽曲がどこで、どのくらい使われたのかを正確に把握することもできるので、権利者は楽曲利用データを創作活動やマーケティング活用に活かすこともできる。

3つ目が「管理手数料の安さ」になる。NexToneはデジタル管理のみなので、運営コストがほとんどかからない。すべての楽曲利用区分においてJASRACよりも安い手数料になっている。

4つ目が「楽曲のプロモーション」になる。NexToneでは管理している楽曲(やそのアーティスト)をプロモートする事業も行っているが、JASRACではこのような事業は行っていない。

日本の音楽著作権管理市場は1200億円くらいで頭打ちになっているが、NexToneが得意とするデジタル配信はその中で順調にシェアを拡大している。社長は現在3.7%の著作権管理シェアを早期に10%(徴収額300億円)まで高めると言っている。

■問題点
・市場を独占している非営利団体には勝てない
現在、JASRACは市場の約96%を占有しているが、プラットフォームはユーザーにとっては一つの方が利便性が高いので、一度市場が独占されたら後から参入するのは非常に困難になる。独占企業には価格支配力が高まるという問題が付随するが、JASRACは非営利団体の社団法人なので闇雲に手数料を引き上げるという展開は考えにくい。

JASRACの管理手数料はNexToneに比べて割高に設定されているが、これはアナログ管理も行っているためになる。足下ではデジタルシフトを着実に進めているので、その進捗に従い今後、管理手数料を下げてくる可能性が高い。そうなるとNexToneには付け入る隙がなくなる。

・著作権使用の監視、法的対処ができない
JASRACとの契約では、著作権(財産権)をJASRACに移管するので、JASRACは著作権使用の監視や法的対処の義務を負う。一方、NexToneでは著作権がNexToneに移動しないので、管理作品が第三者に無断で使用された場合は著作権者が法的措置をとらなければならない。音楽出版社(や一般人)が著作権使用の監視や法的対処をすることは非常に困難なので、NexToneに著作権を委ねる音楽出版社は限られるのではないかと思う。
*NexToneとの契約は音楽出版社しかできない。JASRACは個人でも契約が可能。

・CISAC(著作権協会国際連合)に加盟できない
海外での著作権管理では、各国の著作権管理団体と連携して使用料を徴収・分配する必用があるが、CISACには営利団体(NexTone)は加盟できない(JASRACは加盟)。NexToneは一部の国の管理団体と契約をしているが、それ以外の国で著作権管理をする場合は、都度、その国の管理事業社と提携していかなければならない。

・演奏権を管理してない
演奏権の管理事業は著作権管理市場の約20%(240億円)を占めているが、NexToneはまだ参入できていない。今後は参入していくようだが、扱う楽曲数が極小なので、カラオケを配信する会社などからは面倒くさがられそう。
*演奏権とはカラオケ、コンサート、BGM、音楽教室などで楽曲を使用する権利のこと。

・コロナの影響を受ける
中期的には巣ごもりなどの影響で音楽配信は伸びていきそうだが、コロナが長期で続いた場合は、アーティストの創作活動や興業活動が停滞し、音楽産業全体が停滞する可能性がある。

■チャート
典型的な上昇チャートにみえる。

■利益成長を続けやすいビジネスモデルか ★★☆
・参入障壁は高いか。★☆。新規参入はなさそうだが、JASRACが築いた参入障壁が非常に高い。
・ストック型か。★★。基本的にはストック型だが、JASRACのデジタル化が進んだら管理手数料が落ちていきそう。
・時流に乗っているか。★★★★。著作権管理のデジタル化はメガトレンド。ただ国内音楽市場の成長は頭打ち。

■まとめ
JASRACの独占支配を切り崩そうとするNexToneには存在意義があるとは思うが、NexToneにもいろいろ問題があるので、大きく切り崩すのは難しそう。それ以前の問題として、頭打ちの市場でシェア争いをするという構図にいまいち興味が持てないので、この会社はパスしようと思う。

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