2020年4月3日金曜日

テスラ再考

テスラの時価総額が一時17兆円を突破した(自動車メーカーでは2位)。以前ブログに「テスラの破綻型ビジネスモデル」と書いたが、全く破綻しそうにない(笑)。どこに間違いがあったのかを考えていく。

以前ブログに書いた内容を簡単にまとめると、「参入障壁の低い電気自動車業界ではテスラは差異化を図れない」になる。しかし現時点では、テスラは差異化を図れているように見える。

テスラが差異化を図れた一番大きなところはおそらくCASEに対応していたことになる。CASEとは、Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared (シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語で、今後自動車業界はこのCASEというキーワードを軸に転換していくとされる。テスラはこの中のElectric(電動化)だけでなく、他の要素すべてにも対応していた。テスラ車は常にネットに接続されており、高速道路では自動運転を利用でき、シェアリング構想(車に乗っていない時に自動運転タクシーなどで利用)もあった。

加えて、テスラは車を「モノ」というよりも「利用」の方に重点を置いて開発していたところも差異化を図れていると思った。テスラは「車の利用をいかに快適にするか」という視点で事業を構想しており、例えば電気自動車は充電に時間がかかるが、テスラはスーパーなどの立地の良い場所に専用駐車場を設けて、買い物をしている間に充電できるようにしている。充電する際にも充電ケーブルをつなぐだけで、テスラのアカウントに登録されているクレジットカードに接続され、そこから電気料金が引き落とされる仕組みになっている。

テスラ創業者のイーロン・マスク氏が住むロサンゼルスにおいては渋滞を解消するためにトンネル(ハイパーループ)まで掘り始めている。また電気自動車に給電する電力が化石燃料由来では意味がないということで、太陽光発電や蓄電池を製造する会社を買収して発電事業を始めている。(発電領域でも「革命」を起こしつつあり、いずれは電力会社から電気を買うよりも安い価格で自家発電できるようになりそう。2/18日経

こうした構想力に加えて、中国のEV製造工場を着工からわずか10ヶ月で稼働させるなど実行力にも長けている。テスラは一時、研究開発投資が停滞していたが、こうした構想力や実行力、「環境技術で地球を救う」といった大義などに感銘を受けた優秀な若手が続々と入社し、研究開発投資は再び盛り返しつつある。

今回株価が上昇したのは、黒字転換やESG投資の流れ、金融バブルなども影響しているとは思うが、上記にあげた面も評価されたのではないかと思う。

ただ株価の上昇がこのまま続くのかと考えると、それは難しいようにも感じる。まず前回のブログで触れた参入障壁の低さの問題は依然として残されている。テスラのビジネスモデルは真似しようと思えばできるもので、すでに中国のバイトンなどはテスラと同じくらい高性能でかつ低価格な電気自動車を発売し始めている。またトヨタやフォルクスワーゲンは年1兆円超の研究開発投資をして追い上げてきている。テスラの自動車製造台数は現在、トヨタやフォルクスワーゲンの4%以下にすぎないが、このような状況で両社の販売台数に簡単に追いつけるとも思えない。

電力供給の問題もある。電気自動車2万台を1度に給電するには原発1基分の発電設備が必用ともいわれるが(2017/9/19日経)、もしこの電力を再生エネルギーで賄おうとすれば現在の発電能力の増加ペースでは間に合いそうにない。この電力不足が電気自動車普及の足かせになりそうでもある。

ソフトウェアの問題もある。今後自動車の付加価値は車体からソフトウェアに移っていくとされるが、ソフトウェア(自動運転ソフトやOS)では最終的にはグーグル系のウェイモ、もしくは中国の百度(バイドゥ)あたりが覇権をとりそうな雰囲気がある。もしそうなった場合はテスラ車の価値は激減する。

このように考えていくと、今のテスラの株価は少し過大に評価されているようにもみえる。さすがに今後すぐに破綻するとは思わないが、株価はしばらく上値が重い展開が続くのではないかと思う。

■今はSF的な発想が必用?
テスラ社を創業したマスク氏はテスラの他にスペースX(ロケット開発)、ボーリング社(ハイテク・トンネル開発)、ニューラリンク(脳とコンピューターを直接つなぐ仕組みを開発)などを創業している。また火星移住計画やAI脅威論なども唱えているが、これらはすべてSF小説にもあるアイデアになる。

マスク氏がかつて所属していたペイパルはSFマニア集団だったといわれているが、他のメンバーもペイパル売却後に様々な会社を興している。ティール氏はビッグデータ分析のパランティア、ハーリー氏はYouTube、ホフマン氏はリンクトインを創業している。これらの会社立ち上げにもSF的な発想(素養)が影響していたのではないかと思う。

イノベーションには「新結合」という訳語があるが、ネット時代は情報が集まりやすく、人が繋がりやすいので、この「新結合」が起こりやすい。今は「新結合」が起こる速度が加速しているので、SFのような一見非現実的なアイデアも具現化しやすいのではないかと思う。となると、今は少し突飛と思えるくらいのSF的な発想(ビジョン)があるくらいがちょうどよいのかもしれない。

*このブログを書いていても、情報が以前よりも格段に集めやすくなっているのではないかと感じる。会社を調査する際にも、「ネット以前」ならおそらく1ヶ月かけても集められないような情報を、今なら1日で集めることができる。

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